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奄美の明日を考える
ヒトとネコ、そして自然との共生を目指して
鹿児島県立大島高等学校
生物部
久
保
駿太郎
もくじ
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・
・
・
はじめに…………………………………………………P2
奄美群島の成立と固有種………………………………P3
ネコは、どのような生き物なのか……………………P5
ネコの問題………………………………………………P7
住民への意識調査………………………………………P9
これまでのネコ問題への対策(活動)………………P11
TNRについて…………………………………………P12
ネコの管理に成功している地域………………………P13
これから求められる取組………………………………P14
奄美猫部の紹介…………………………………………P15
まとめ……………………………………………………P16
大島高校の生物部と総合的な学習の時間での取組…P17
あとがき…………………………………………………P18
1
1
はじめに
奄美群島に住んでいる、多くの方が「ア
マミノクロウギ」や「アマミイシカワガエ
ル」、「アマミヤマシギ」、「ルリカケス」な
どの生き物の名前を耳にしたことがある
と思います。これらの生き物たちは、奄美
群島にのみ生息しているため、奄美が世界
自然遺産に登録される大きな理由の1つ
として、世界中から注目されています。し
かし、この生き物たちを捕食し、個体数の
減少の原因の1つとされている生き物が
います。「ネコ」です。
そこで、大島高校生物部ではネコ問題に
ついてまとめてみました。この冊子を各学
校や家庭での学習、奄美の自然や野生生物
への関心向上に活用していただければと
思っています。
2
2
「ネコ」の前に
奄美群島の成立と固有種
奄美群島に生息する生き物は、大昔に大陸から渡って来たとされ、多くの固有種が奄美群島にの
み生息しています。では、なぜ奄美群島には、このような貴重な生き物たちが数多く生息している
のでしょうか。
今から約 1000 万年前、
奄美群島は大陸と陸続きになっていたと考えられています。そのころに、
アマミノクロウサギをはじめとする、現在奄美群島に生息する生き物たちの祖先は、大陸から渡っ
てきました。その後、大陸とつながったり離れたりを何度か繰り返し、約 100 万年前に現在のよ
うな島の形になったとされています。そのなかでも、奄美大島と徳之島に固有種が多く生息してい
るのは、奄美大島と徳之島には比較的標高の高い山があったため、海水面が上昇しても多くの固有
種が生き残ることができたと考えられています。また、喜界島、沖永良部島、与論島は標高が低い
ことから海に沈み、その後珊瑚礁が発達し、現在のかたちが形成されたと言われています。
この章では、今まで大島高校生物部で撮影してきた写真を用いて、奄美群島に生息する素晴らし
い生き物たちを少し紹介したいと思います。
ハブ
オットンガエル
Protobothrops flavoviridis
Babina subaspera
アマミイシカワガエル
アマミハナサキガエル
Odorrana splendida
Odorrana amamiensis
3
ヤクシマツチトリモチ
アカウミガメ
Balanophora yakushimensis
Caretta caretta
アカヒゲ
Erithacus komadori
アマミデンダ
リュウキュウアユ
Polystichum obae
Plecoglossus altivelis ryukyuensis
4
ネコとは、どのような生き物なのか
ポイント
ネコとは、どのような生き物で、住んでいる場所や生活条件
などによって、どのように区別されているのか考えよう。
分類(生物学的な位置づけ)
ネコ目ネコ科
・ 和名(日本語の名前)
イエネコ
・ 英名(英語の名前)
Cat(キャット)
・ 学名(世界共通の名前)
Felis silvestris catus
(フェリス
スィルブェスティルス カトゥス)
ネコとヒトとの関わり
イエネコの祖先は、中東の砂漠などに生息していたリビアヤマネコであるといわれています。
農耕が開始され、集落が出現した時期の中東周辺に生息していたネコが、ネズミが数多く集まる
穀物の貯蔵場所に棲みついたのが始まりと考えられています。穀物には手を出さず、それを食べ
るネズミなどの害獣を捕食することから、穀物を守る益獣として大切にされるようになり、やが
て家畜化に繋がったとされています。
また、知能が高く、人間とのコミュニケーションもとれることが、愛玩動物としての地位を獲
得した要因となっています。
5
ネコの体の特徴
・
・
・
・
体長:50~75cm
体重:2.5~7.5kg
寿命:約 15 年(飼育下)
鋭い爪を持ち、自由に出し入れできるため、足音が小
さい。
・ 野生のネコは母系社会で、オスが広範囲を徘徊する。
・ イヌと異なり野性の本能を多く残しているが、
約 6000 年前に家畜化された動物である。
→ ネコ=家畜…人が飼うべき動物。
・ 環境への適応性が高く、体つきがしなやかで、跳躍や木登りが得意で、森林などの立体的な構
造の環境を十分に利用できる。
・ 栄養状態が良いと年に3~4回出産する。1回に3~6頭産み、これまでに 20 頭産んだ例も
ある。交尾により排卵が起こるため、受精率が高い。性成熟は通常1年で、早ければ4~5か月
で子ネコを産むことができる。
→ 計算上では1組のペアから、1年間でほぼ 100 頭にまで増えることが可能である。
飼いネコ、ノラネコ、ノネコの違い
イエネコは以下の三つに分けることができます。
・ 飼いネコ…基本的に室内でヒトに飼われていて、食べ
物をすべてヒトに依存(たよっている)するネコ。特
定の飼い主により管理されています。
・ ノラネコ…基本的に野外(町や里山)で生活し、食べ
物のほとんどをヒトに依存するネコ。一部の地域では
TNRなどで管理されています。
※
TNRについては、P12で説明します。
・ ノネコ…ヒトの手があまり行き届かない奥山で生活し、
奥山に生息する生き物を食べて生活するネコ。ヒトに全
く依存していない。奄美大島では特に管理はされていま
写真 郊外で見かけたイエネコ
せん。
一見しただけでは、飼いネコ、ノ
ラネコ、ノネコの区別は難しい。
キーポイント
特に、ノラネコとノネコの違いについて理解しよう。
6
ネコの問題
ポイント
ネコは奄美で生活する野生生物やヒトにどのような影
響を与え、どのような事が問題となっているのだろうか。
野生生物への影響
1.希少種の捕食による問題
奄美群島にのみ生息するアマミノクロウサ
ギなどの固有種を含め、奄美群島の在来種が
ノネコやノラネコにより捕食され、これらの
在来種の個体数減少の大きな原因とされてい
ます。
※ アマミノクロウサギなどの在来種はノネ
コやノラネコによる捕食行動だけではなく、
わたしたち人間による交通事故でも命を落
としています。特に交通量が多くスピード
も出しやすい国道や県道での交通事故が多
発しているのが現状です。
写真 アマミノクロウサギ
動きがゆっくりで、捕食者に狙われやすい。
2.病原菌の感染による問題
ネコ
トキソプラズマなどの病原菌を奄美大島に生息
する動物たちに広げる原因になっています。トキ
ソプラズマは、人間を含む様々な恒温動物に感染
する可能性のある寄生虫で、ネコ科の動物を介し
感染を広げていきます。ネコはネズミや鳥などを
捕食することでトキソプラズマに感染し、糞を通
ネズミ
鳥
糞
ヒト
じてトキソプラズマを環境中に排出します。ネコ
が一旦感染してしまうと、その後最長 2 週間にわ
たり、何億ものトキソプラズマを糞の中に排出し
ていきます。
捕食者
図
家畜
トキソプラズマの感染経路
ネコの糞を介して様々な恒温動物に感染する。
7
人間生活への影響
1.鳴き声による問題
よく夜に聞こえてきて、赤ちゃんが泣いている声に似
ています。また、この声は、発情期の鳴き声です。
2.糞尿による問題
公園や個人の敷地内に糞や尿をして、異臭の原因とな
るほか、トキソプラズマの感染源ともなります。
3.死骸による問題
ノラネコやノネコが交通事故にあったり、病死したり
して、多くのネコが命を落としています。
写真
大島高校校舎内に入り込んだ
ノラネコ。ゴミ捨て場をあさ
り、問題となっている。
4.ゴミによる問題
ゴミ置き場のゴミを荒らしたりして、異臭の原因になっています。
※ 上記の2、3、4は公衆衛生上でも問題となっています。
殺処分されるネコの問題
平成 25 年度に殺処分されたネコはどのくらいいるのだろうか
全
国 → 99,671頭
鹿児島県 →
奄美大島
2,667頭
→
253頭
全国では、平成 25 年度には 10 万頭近くのネコが殺処分されています。奄美大島では 253 頭と
少ないように感じるかもしれませんが、人口当たりの殺処分数は全国や鹿児島県の4倍以上となっ
ています。こうした殺処分を何故行わなければならないのでしょうか?そして、処分数を減らすた
めに私たちにできることがあるとすれば、それは一体どのようなことなのでしょうか?
ネコの殺処分が減らないのは、ネコを捨てる飼い主がいることと、不妊手術をしていないノラネ
コにエサを与えるヒトがいることが大きな原因だと考えられます。このような現状を改善していく
ためには、まずは完全室内飼いにすること、そしてマイクロチップをした上でネコの逃亡を予防す
ることが必要です。また、不妊手術を受けさせ、必要以上に繁殖させないことも必要です。
8
住民への意識調査
ポイント
奄美で生活する人は、ネコ問題に対してどのように考
えているのか。
2015 年 9 月から 11 月に、北海道大学農学部の豆野皓太さんが卒業論文で取り組んだ、奄美大島
で生活している 83 名の一般の方への聞き取り調査と、大島高校の生徒 690 名へのアンケート調査
について紹介します。一般の方への聞き取り調査は、私も調査員として参加しました。ここでは、
高校生の結果をグラフに示し、一般の方との比較を交えながら私の考えを述べたいと思います。
ネコの存在に対する許容度(市街地、郊外・集落、奥山)
一般の人はどの場所においても存在が望ましくない
という傾向が見られましたが(50%以上)、高校生は、
どちらとも言えないという回答が多かったです(35%以
上)。また、望ましい、とても望ましいと、望ましくな
い、全く望ましくないとでは明瞭な差は見られませんで
した。このことから、高校生はネコに対して関心が薄く、
問題意識を持っていないと考えられます。
図 1 高校生のネコの存在に対する許容度
縦軸は回答した割合を示す。
ネコの条例認知度
一般の人は、67%の方が知っていたものの、高校生で
はほとんどの生徒が知らなかった、または分からないと
回答し(82%)、知っていたと答えた生徒は 18%しかい
ませんでした。このことは、行政に対する関心不足も考
えられますが、ネコの飼育に関して責任を負っていない
ことが大きな要因だと考えられます。
図 2 高校生のネコの条例認知度
ネコの条例の餌付け禁止規定の許容度
一般の方は望ましいという意見が半数以上いましたが
(64%)、高校生では半数以上がどちらともいえないと解
答しました(54%)。飢えているネコに餌を与えるのか、
ネコの増加を防ぐために与えないのか、ネコの愛好家の
中でも意見が分かれるところであり、はっきりとした意
見を持っていない生徒が多い結果となりました。
9
図 3 高校生の餌付け禁止規定に対する許容度
ネコ問題の解決策としては、ネコの室内飼育の徹底やマイクロチップ装着による管理、TNR、
飼い主探しなどがあげられます。奄美大島で生活している一般の方と高校生は、TNR と飼い主探
しのどちらが,ネコ問題の解決策として望ましいと考えているのでしょうか。
TNR
一般の方は支持する、支持しないとで、はっきりとし
た差は見られませんでしたが、高校生は望ましくないと
回答した生徒が多く見られました(41%)
。なるべく傷
をつけないような方法がよいと考えている生徒が多いと
考えられます。また、不妊手術自体にあまり良いイメー
ジが無いと考えられます。
図 4 高校生の TNR に対する許容度
飼い主探し
一般の人、高校生共に半数近くが支持しており、TN
Rよりも支持率が高かったです。ネコを傷つけず、ネコ
にとって最も幸せな選択肢と言えます。しかし、奄美大
島に生息している全てのノラネコ・ノネコの飼い主を見
つけることは非常に困難です。
図 5 高校生の飼い主探しに対する許容度
まとめ
今回の調査で感じたことは、高校生は「ネコ問題」について、ほとんど知らないと言うことでし
た。どのようなことが問題になっているのか、正しい知識と理解が必要だと思いました。アンケー
トの結果では、飼い主探しが望ましいと回答していますが、実際には簡単に飼い主は見つかりませ
ん。このままネコが増え続けると殺処分するしかないという現実を、皆さんに知ってほしいと思い
ました。
*
聞き取り調査およびアンケート調査は、豆野皓太(北海道大学農学部)・鈴木真理子(鹿児島大学国際
島嶼教育センター)
・久保雄広(国立環境研究所)が行いました。ここに示したグラフは北海道大学農学
部卒業論文ほか未発表データを含みます。引用は冊子の裏面に記載してありますので参照してください。
10
これまでのネコ問題への対策(活動)
ポイント
これまでの間、行政や民間団体は奄美大島におけるネ
コ問題に対してどのような対策(活動)をしてきたのか。
行政の対策
→ 現在の行政の取り組みとして奄美大島や徳之島などで「飼い猫
の適正な飼育及び管理に関する条例」を定めています。
→ 環境省が毎年 200 個のマイクロチップを無償で提供し、動物病
院と協力して、飼い主が希望する飼いネコに対して無料で装着し
ました。
→
奄美大島と徳之島のノラネコにTNRを行っています。
※マイクロチップ…大きさ約8~12mmで首の後ろの皮下に装
着します。15桁の数字が記録されており、
専用のリーダーで読み取ることが出来ます。
電池は不要で半永久的に使うことが出来ます。
動物病院で希望する飼い主のネコに対して装
着することが出来ます。首輪などよりもペッ
トの確実な身分証明になるため、普及が進め
写真 マイクロチップ
られています。
民間団体の対策
→
民間団体では、奄美猫部などがネコ問題のPR活動やTNRの普及啓発・行政への要望、適正
飼育に関する啓発活動を行っています。
※
奄美猫部については、P15で説明します。
キーポイント
行政と民間団体が積極的に協力して活動することが大切。
11
TNRについて
ポイント
TNRとは、どのような活動なのか理解しよう。
TNRとは、Trap(捕獲)・Neuter(去勢)・
Return(戻す)の略で、ノラネコを捕獲して不妊手術
を行い、もとの生活環境に戻すことです。ノラネコがノネコ
になる供給源を絶つための方法でノラネコにのみ行われて
います。
平成 27 年度は、奄美市と大和村で行政が中心となって行
い、平成 28 年度からは奄美大島の全ての 5 市町村で行う予
定です。不妊手術をした証拠として、オスは右耳、メスは左
耳の先をカットします。
写真 不妊手術の様子
TNRの手順
野外に生息するネコの捕獲
マイクロチップの確認(飼いネコかどうか)
麻酔・聴診など健康状態のチェック
カット→
不妊手術・耳カット
写真提供:伊藤圭子氏
個体ごとに記録(特徴・年齢・産歴・胎子数・採血・計測・写真)
1~2日間様子を見て放獣
12
ネコの管理に成功している地域
現在、絶滅の危機にある生き物がネコによる悪影響を受けている島は天売島(北海道)、小笠原
諸島(東京都)、対馬(長崎県)、奄美大島・徳之島(鹿児島県)、ヤンバル・西表島(沖縄県)の
七島があります。日本でネコ問題が完全に解決した例はありませんが、小笠原ではノネコ・ノラネ
コの完全排除寸前まで来ています。また、海外では、1925 年にニュージーランドのスティフェン
ス島(1.5k㎡)で世界初のネコの完全排除が成功しており、現在までに 101 の島と地域で成功し
ています。この中で最大の島は南アフリカのマリオン島(293k㎡)です。奄美大島は面積が 712k
㎡であるため、仮にノネコ・ノラネコが完全にいなくなると奄美大島が世界最大となり、世界自然
遺産登録への大きなアピールにもなります。
日本でネコ問題を抱えている島等と、ネコにより悪影響を受けている生物
・ 天売島
ウトウ
天売島
ウミスズメ
・ 小笠原諸島
アカガシラカラスバト
オガサワラオオコウモリ
・ 対馬
対馬
ツシマヤマネコ
・ 奄美大島・徳之島
アマミノクロウサギ
徳之島
ケナガネズミ
奄美
・ヤンバル
ヤンバルクイナ
ヤンバル
西表島
・ 西表島
小笠原諸島
13
イリオモテヤマネコ
これから求められる取組
ポイント
ネコ問題に対して、これから私たちはどのような取組が
できるのだろうか。
行政の取組
→
・ 行政が中心となった、TNRやマイクロチップ装着支援などの取組の継続
・ 今定められている「飼い猫の適正な飼育及び管理に関する条例」を、奄美大島や徳之島の
現状にあった条例へ改良
・ 地域住民への理解を深めるための啓発活動
・ 住民や活動団体との協力
民間団体の取組
→
・
・
・
奄美群島で生活する人に、奄美の自然やネコ問題について知ってもらうための啓発活動
ネコ問題に取り組んでいる、他団体との情報交換
住民や行政との協力
一人一人の取組
→
・
ネコ問題や、それを取り巻く奄美大島の現状の理解
・
・
・
・
・
最後まで責任を持った終生飼養
首輪やマイクロチップなどによる所有者明示
室内飼育および避妊去勢措置
無責任な餌やりの自粛
ネコ問題解決に向けた活動へのサポート
キーポイント
他人に任せず一人一人ができることからはじめよう。
14
奄美猫部の紹介
ポイント
奄美猫部は、ネコ問題に対してどのような活動をして
いるのか。
奄美猫部について
→ 奄美大島における様々なネコ問題を解決しようと、猫好きが集まり 2014 年 7 月に発足したボ
ランティア団体です。無責任な捨て猫やノラネコへの安易な餌やり、糞尿等の住民トラブル、ネコ
の交通事故死、衛生問題などを憂い、「奄美が人も猫も野生動物も住みよい島になってほしい」と
の願いから様々な活動を行っています。
<主な活動>
・ 島内啓発活動の街頭キャンペーン
・ 定期的なイベント
・ 新しい飼い主の募集代行(サポート)
・ 飼育相談
・ その他、新聞などの連載
※
奄美猫部はネコを引き取る団体
ではありません。
写真 奄美猫部発行のパンフレット
15
まとめ
1.奄美群島の貴重な生態系を脅かしている大きな問題として、
「ネコ問題」があり、
その解決に向けた取組が求められています。
2.イエネコは、住んでいる場所やヒトとの関わり度合いにより、飼いネコ、ノラ
ネコ、ノネコの三つに分けることができます。
3.ノネコは主に捕食による固有種の個体数減少や病原菌の媒介など、野生生物に
大きな影響を与えています。また、ノラネコは、主に鳴き声や異臭問題などで、
奄美大島で生活するヒトに影響を与えています。
4.ネコ問題の解決策のうち、飼い主探しを支持する意見が多かったですが、奄美
大島に数千頭は生息していると言われる、ノネコ・ノラネコの全ての飼い主を探
すことは極めて難しいと考えられます。
5.TNRはTrap・Neuter・Returnの略で、
「ノラネコを捕まえ不
妊手術を行い、もとの生活環境に戻す」という意味であり、不妊にすることでノ
ネコやノラネコの新たな増加を防ぐことが狙いです。
6.ネコ問題を解決した島も海外にはあることから、地域住民の意識が変わること
や、民間団体と行政とで一致団結することができれば、奄美大島のネコ問題も解
決できると思います。
7.奄美群島には、ネコやマングースの他にもノイヌやノヤギ・ニホンイタチ・シ
ロアゴガエルなどの野生生物や環境に影響を与える動物がいますが、これらの問
題についても奄美群島の全ての住民が真剣に考え、向き合っていくことで解決へ
の道が見えてくると思います。
16
大島高校の生物部と総合的な学習の時間での取組
今回冊子を作成するきっかけとなった、大島高校生物部の活動と総合的な学習の時間(ST)で
の取組について紹介します。
生物部
大島高校生物部は、1959年に発足し、今年度(平成27年度)で56年になる歴史ある部活
動です。1959年から1975年までの17年間、大島高校生物部ではオリエンスという冊子も
発行しており、昔は全国の研究者たちの情報収集源にもなっ
ていました。ここ数年間は部員が集まらず休部状態でしたが、
今年度から活動を再開し、現在は部員2名で活動しています。
部員は少ないですが、奄美シダ研究会や鹿児島大学国際島嶼
教育研究センター奄美分室で開かれる勉強会など、これまで
様々な観察会や勉強会に参加してきました。また、11月に
は鹿児島で行われた生徒理科研究発表大会において、2月に
は沖縄大学地域研究所で開かれたジュニア研究支援発表会
写真 鹿児島県高校生徒理科研究発
において、それぞれ発表することができました。今後は今年
表大会での発表の様子
度以上に深く広い研究ができるように活動していきたいと
思っています。
<奄美国際ノネコ・シンポジウムへの参加>
大島高校生物部の代表として、12月6日に開催された
「奄美国際ノネコ・シンポジウム」に、パネリストとして
参加しました。思い返せば5ヶ月前、鹿児島大学国際島嶼
教育センター奄美分室の鈴木真理子さんから「ノネコ・シン
ポジウムに参加しませんか。」と言われ、あまり深く考えな
いままノネコ・シンポジウムへ参加することを決めました。
今回、ノネコ・シンポジウムに向けてミーティングをし
たり、講話を聞いたり、まとめや調べ物などの準備をした
りすることで、今まで苦手としていたネコと一緒に暮らし
たいとまで思えるようになりました。
僕は、当日までネコについて勉強していたものの、ノネ
コ・シンポジウムが始まるまでとても緊張した日々を送っ
ていました。いざノネコ・シンポジウムが始まり、コーデ
ィネーターの鹿児島大学鹿児島環境学研究会の星野一昭さ
んと、他のパネリスト 4 名の方のやりとりを聞いていると、
今まで以上にネコ問題を解決しなければならないと思いま
写真
奄美国際ノネコ・シンポジウム
のポスター
した。一つ一つの質問に対してよく考えて発言し、環境省
をはじめとする行政の方々に自分の意見を伝えることができたと思います。十年後、二十年後の奄
美が、人と在来種、そしてネコと幸せに暮らせるような島になるよう協力していきたいと強く思い
ました。
17
総合的な学習の時間(ST)
大島高校では、総合的な学習の時間を「Success Time」(ST)と名付け、各教科の専門の先生
方が専門性をいかした講座を開講し、講座別の課題研究を行っています。その中の一つに「奄美大
島の固有種と外来種」という講座があり、平成 27 年度は 35 名(1、2 年生)が奄美大島の希少種や
外来種問題について学んでいます。また、週替わりで奄美の自然に関する研究などを行っている講
師を招き、講話をしていただいています。この冊子をまとめる時に大変参考になりました。
以下にこれまでに講話をしていただいた先生がたと講座内容を紹介します。
鹿児島大学国際島嶼教育研究センター奄美分室
「奄美の自然~陸の哺乳類とその希少性~」
鹿児島大学国際島嶼教育研究センター奄美分室
「奄美の海洋生物多様性」
奄美自然保護官事務所
「世界自然遺産と奄美大島のネコ問題」
獣医師
「猫と人と野生生物が幸せに暮らすために」
東京大学医科学研究所奄美病害動物研究施設
「奄美の両生爬虫類と移入生物」
九州両生爬虫類研究会員
「奄美の生き物について」
鹿児島大学共同獣医学部
「自然保護とエコツーリズム」
奄美海洋生物研究会
「奄美の外来水生生物」
鈴木
真理子先生
藤井
琢磨
先生
岩本
千鶴
先生
伊藤
圭子
先生
服部
正策
先生
西
真弘
先生
藤田
志歩
先生
写真
與
克樹
先生
與先生による講
義風景
あとがき
「奄美の明日を考える ヒトとネコ、そして自然との共生を目指して」を最後まで読んでいた
だきありがとうございます。
今回、大島高校生物部でこのネコ問題に関する冊子を制作することができてよかったと思い
ます。制作するにあたって、なんども考えなおしたり、書き直したりすることによって今後生
物に関する研究をまとめるための基本的なことを学べる良い機会になったと思います。この冊
子を読んで一人でも多くの方が奄美大島の自然やネコ問題に関心をもっていただければ嬉しい
です。最後に、大島高校生物部に良い学びの機会を与えてくださった鹿児島大学鹿児島環境学
研究会、鹿児島大学国際島嶼教育研究センター奄美分室の方々に心から感謝いたします。
この冊子は、鹿児島県立大島高等学校生物部の生徒が部活動や総合的な学習の時間などを通して
ネコ問題について学んだ成果を、広く一般にも普及啓発するために取りまとめたものである。
18
発行
編集
執筆
協力
環境省那覇自然環境事務所
鹿児島大学鹿児島環境学研究会
鹿児島県立大島高等学校生物部 久保駿太郎
伊藤圭子 岩本千鶴 與克樹 小栗有子 久保雄広
西真弘 服部正策 藤井琢磨 藤田志歩 星野一昭
大島高校 ST「奄美大島の固有種と外来種」
ノネコ班:前田隼人 池﨑祐人 太倉成貴
小松風太 森山拓真
教
諭:岡野智和 小川聖太郎
久野優子 鈴木真理子
豆野皓太(50 音順)
吉田拓磨
田畑満大
久保賢太郎
引用
豆野・鈴木・久保(2015)「野生生物と社会学会」第 21 回大会発表より
鈴木・豆野・久保(2015)「奄美国際ノネコ・シンポジウム」報告より
豆野皓太(2016)「ネコによる希少種捕食に対する住民認識の解明:奄美の森でネコ排除は受け
入れられるのか?」北海道大学農学部卒業論文
問い合わせ先
環境省奄美野生生物保護センター
鹿児島県大島郡大和村思勝腰ノ畑 551
発行 2016 年 3 月
℡
0997-55-8620