平成27年度 MIPペーパー 大学の休眠特許の発生原因と利活用に関する 一考察 東京理科大学 専門職大学院 イノベーション研究科 知的財産戦略専攻 学籍番号 M314038 氏名 前川春華 指導教員 生越由美 平成28年1月19日 目次 【序章】 ................................................................................................................................. 1 (1)研究の背景 ............................................................................................................... 1 (2)問題意識 ................................................................................................................... 1 (3)研究の手法 ............................................................................................................... 1 【第1章:概要】 ................................................................................................................... 3 (1)大学特許を取り巻く環境 ......................................................................................... 3 (2)休眠特許の定義 ........................................................................................................ 5 【第2章:仮説】 ................................................................................................................... 7 (1)仮説1:なぜ大学が特許を取得するのか? ............................................................ 7 (2)仮説2:なぜ大学特許は休眠するのか? .............................................................. 15 【第3章:検証】 ................................................................................................................. 43 (1)アンケートの内容・発送先.................................................................................... 43 (2)集計結果と仮説へのあてはめ ................................................................................ 44 【第4章:事例分析】.......................................................................................................... 54 (1)成功事例1:イベルメクチン(大村智教授/北里大学、メルク株式会社), ...... 54 ( 2 ) 成 功 事 例 2 : 青 色 発 光 ダ イ オ ー ド ( 赤 崎 勇 教 授 / 名 古 屋 大 学 ( 当 時 )、 豊田合成株式会社、新技術開発事業団(当時))...................... 57 (3)成功事例3:IGZO(細野秀雄教授/東京工業大学、サムソン他、 科学技術振興機構) ................................................................... 60 (4)成功事例の総合評価............................................................................................... 64 【第5章:呈言】 ................................................................................................................. 66 (1)現在休眠している大学特許について ..................................................................... 66 (2)これからの大学特許について ................................................................................ 68 【結論】 ............................................................................................................................... 79 【謝辞】 ............................................................................................................................... 81 アンケート関係 資料.......................................................................................................... 82 アンケートご回答者一覧 .................................................................................................... 129 【序章】 (1)研究の背景 筆者は大学時代法学部法学科にて知的財産法の判例研究を行っていた。過去 の判例・学説の調査・理解を進める内に、現在や将来の知的財産法・知的財産 の利用に関心を持ち始め、丁度その頃報道で目にしたのが「休眠特許」という 言葉であった。学部の講義では、特許は利用されることが大前提であり、「特 許が眠る」という現実に強く興味を引かれた。 大学院入学後は、企業の休眠特許について調査していたが、企業の休眠特許 については論文や雑誌記事での考察も多く、企業の休眠特許の中には、単なる 「死蔵」のものだけではなく、周辺特許・ダミー特許といった、企業戦略の結 果としての特許が含まれていること、そして、企業は利潤を上げるために各々 試行錯誤を重ねていることが分った。一方大学については、大学特許そのもの に関する先行研究が企業の休眠特許に関する文献よりも少ないが、特許行政年 次報告書における未利用特許の割合が企業よりも高い数値で推移しており、企 業と比して改善の余地が大きいのではないかと考え、大学特許について調査す ることを決めた。 (2)問題意識 大学特許に関する先行研究は、大学特許の利活用に対する提言として、大学 に対する補助金の支給や大学特許に関わる人材の育成、大学特許は単体ではビ ジネス上利用出来ないので群として管理すべき、という結論に落着するものが 大半であり、これらも一定の説得力を持つものではある。しかし、「補助金を 受け取って出願件数を増やせば大学特許の活用は進むのか」「どのような人材 を如何に育てるのか」「単体で使途の見出せない特許を集めて、本当にビジネ ス上の価値の有る特許群を構成出来るのか」という疑問を抱き、大学休眠特許 についてより仔細な検討を行いたいと考えた。 (3)研究の手法 大学の休眠特許について検討を行うに際し、大きく分けて2つの手法が考え 得る。1つは「このような理由が有るために休眠する」という、問題点の指摘 を通して解決策の提案に繋げる方法。もう1つは「このような工夫を行ったの で休眠しなかった」という、成功事例の分析によって休眠特許の利活用に対す る呈言を行う方法である。そしてそれぞれの手法について、先行研究や公開公 報等の過去の資料を用いて調査する方法と、アンケートやヒアリング等によっ て今現在の情報を収集する方法が考えられる。成功事例を列挙し、付随的に大 1 学特許の問題点を指摘する研究や、問題点のみを列挙して改善策を提案する研 究は存在するが、問題点の観点から成功事例を分析する研究は管見の限り無 い。大学特許には種々の課題が有ることは指摘されているが、それらの問題点 には重要度に差が有る筈であり、少なくともその重要な問題点を克服した特許 が実用化されていると考えるのが妥当である。 本プロジェクト研究は既述の手法を用いて、成功例と問題点の両面から、大 学の休眠特許の発生原因と利活用に関する考察を行うことを目的とする。 2 【第1章:概要】 (1)大学特許を取り巻く環境 大学・TLO(技術移転機関:Technology Licensing Organization)の特許 出願件数は以下の通りである。 図1-1 図1-1は、行政年次報告書(2015 年度)中のグラフである1。2007 年をピ ークに出願件数は減少傾向だが、尚 6000 件を超える出願がなされており、海 外への出願の比率は漸増傾向にある。そして大学・TLO特許出願の登録査定 率は以下の通りである。 図1-2 特許行政年次報告書 2015 年版 第4章「大学における知的財産活動」中の「大学等か らの特許出願件数及びグローバル出願率の推移」p74 1 3 図1-2は過去の特許行政年次報告書を基に作成したものである2。破線が、 全出願の平均登録査定率、実線が大学・TLOの平均登録率である。グラフか ら明らかなように、大学・TLO出願は全体平均を上回る登録査定率を記録し ている。また、2003 年から 2005 年の、特許出願件数上位 101 社の平均特許査 定率は約 61%であった3。この数字と比較すると大学特許の登録査定率は若干 低いが、産業界の特許出願上位企業の特許査定率とほぼ同水準である。先行研 究を用いて詳しく後述するが、登録査定率の高さは、「権利として認められ易 い」ということを示すものであり、大学特許の権利範囲の狭さを示唆するとも 考えられる。 そして、教育・TLO・公的研究機関・公務の特許の過去十年間の未利用率は 以下の通りである。 図1-3 図1-3は、特許庁の「知的財産活動調査結果の概要」4と、特許庁行政年次 報告書 2014 年版、2015 年版を基に作成したものである。上記未利用率は、 「教育・TLO・公的研究機関・公務」による出願を基礎として算出されたも のであり、大学とTLOの出願のみについての調査結果ではないが、この4機 関の出願に占める公的研究機関出願の割合は、2000 年代の前半に3割を超え た以外は2割前後で推移している。 特許行政年次報告書 2007-2014 年版 第 1 章「我が国における出願と審査・審判の動 向」の中の「特許審査の現状」 3 特許庁『特許戦略指標上位企業(業種別) 』平成 18 年4月 4 知的財産活動調査結果の概要 2005 年~2013 年 2 4 そのため、図1-3は概ね大学・TLOの出願に関する状況と一致するもの と考えた。(J-PlatPat5の概念検索において、「日本原子力研究開発機 構、宇宙航空研究開発機構、産業技術総合研究所、理化学研究所、農業・食品 産業技術総合研究機構、海洋研究開発機構、情報通信研究機構、大学、TL O」を出願人とし6、1991 年から 2013 年までの各年について出願件数を調べ た後、「大学、TLO」を除いた研究機関のみの出願件数を明らかにして、後 者を前者で除して割合を求めた。) 大学特許の未利用率は7割から8割で推移している。教育・TLO・公的研 究機関・公務はいずれも、基本的には企業のように特許を実施する機関ではな いため、未利用率が高いことが直ちに懸案事項となるものではないが、これら の機関が何らかの目的が有って出願していると考えられる以上、その目的が果 たされていない、或は果たされた上で尚それを凌ぐ負荷が有るのであれば、現 状を打開する方策を検討する価値が有るものと考えられる。 (2)休眠特許の定義 特許庁が毎年発行する行政年次報告書においては、 「我が国における知的財産 活動の実態」の章の中に、 「国内における特許権所有件数及びその利用率の推移 (全体推計値)」という棒グラフが掲出されている。各年度の特許権所有件数が、 大きく「利用件数」と「未利用件数」とに分けられ、 「未利用件数」の中に「防 衛目的件数」というものが一定割合存在している。 「利用件数」 、「未利用件数」、「防衛目的件数」のそれぞれの定義は、 「利用件数」が「権利所有件数のうち『自社実施件数』及び、 『他社への実施許 諾件数』のいわゆる積極的な利用件数の合計」、 「未利用件数」が「自社実施も他社への実施許諾も行っていない権利であり、防 衛目的権利及び開放可能な権利(相手先企業を問わず、ライセンス契約により他 社へ実施許諾が可能な権利)を含む」、 「防衛目的件数」が「自社実施も他社への実施許諾も行っていない権利であって、 自社事業を防衛するために他社に実施させないことを目的として所有している 権利」 と規定されている(斜体は特許行政年次報告書 2014 年版 p48 脚注からの引 2015 年 3 月 23 日から、特許庁は「特許電子図書館」を刷新し、新たな特許情報提供サ ービス「特許情報プラットフォーム(英語名:Japan Platform for Patent Information、 略称:J-PlatPat) 」を提供している。 6 経済産業省. 第 27 回研究開発小委員会資料5-1『公的研究機関のあり方について』 http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g90427b05j.pdf 中の、予算規模の上位団体 (2016 年1月 12 日 最終アクセス) 5 5 用) 。 企業が保有する特許に対しては、特許行政年次報告書の区分に倣い、防衛目的 の特許権を含めて、未利用特許、未活用特許、或は休眠特許という呼び方をする 場合もあれば、防衛目的で取得する特許は、確かに外形上は利用されていないも のの、権利者のビジネス上その他の戦略に基づいて取得され維持されていると して、未利用特許に含めるべきではないというもの、また、より細分化して未利 用特許を画定するものなど、定義は論者によって様々である7,8。これに対して大 学が保有する特許については、基本となる技術の周辺となる技術に関する特許 や、公報を見た第三者に知財戦略を推測されないように目眩ましのために取得 する特許を取得することは考えにくい。大学で行われる研究とその成果は概ね 科学的な発見であり基礎的なものであって、権利が付与されれば基本特許とな り得るが、大学は企業のように事業活動を営む団体ではないため(私立学校法 26 条1項、国立大学法人法 22 条1項、2項)、基本特許を周辺特許やダミー特 許で防衛する必要が無いためと考えられる。故にそれらが特許の利用・未利用の 定義に影響するとは考え辛い。先行研究の中にも、大学にとっての未利用特許の 定義を仔細に検討するものは管見の限り無い。 そのため本稿においても特許行政年次報告書に倣い、大学における「休眠特許」 の定義を、 「大学が保有する特許権の内、自己実施も他者への実施許諾も行って いない権利であり開放可能な権利(相手先企業を問わず、ライセンス契約により 他社へ実施許諾が可能な権利)を含むもの」とする。 南部朋子「過去を見直して新たな収益源に! 休眠特許の活用」ビジネス法務 2014 年 6 月号 p111 8 松村修治「未使用特許権の流通について」パテント 2009 vol62 No.5 p17-18 7 6 【第2章:仮説】 (1)仮説1:なぜ大学が特許を取得するのか? さて、大学の休眠特許について論じるより先に、そもそもなぜ大学が特許権 を取得するのかという理由を明らかにする必要が有る。なぜならば、大学が特 許権を取得する理由が、取得した特許権の利用に関する意思決定に影響し、ひ いては特許が休眠するか否かに関係すると考えられるからである。 大学が特許権を取得する理由に関しては、中山一郎『特許の経営・経済分 析』において次のような指摘がなされている9。以下は要約である。 【特許の機能に関する伝統的理解には、インセンティブ論と公開代償説が有 る。これらの伝統的理解に則れば、大学教員は特許によるインセンティブ(第 三者によるフリーライドの防止や、名声の獲得)が無ければ発明を生み出さな い、或は、排他的権利を与えられなければ発明を公開しないという帰結になる が、実際には、大学による出願が盛んになる前から大学教員は自らの研究成果 を論文等で発表して来ており、インセンティブ論と公開代償説によっては大学 の特許取得行動が説明出来ない。そこで、これらの伝統的学説に代わって大学 の特許取得を説明すると考えられるのがプロスペクト論である。 (” The Nature and Function of The Patent System” EDMUND. W KITCH 1977 年 p276)これは特許権を、発明の実用化以前の段階において prospect (見込み、将来性)として付与されるもの、詰り、発明の実用化のための追加 投資に対するインセンティブと捉える考え方である。これは、発明者が現に創 作した発明(特許請求の範囲)を超えて特許権が及ぶ場合があることや、早期 の出願が促され、出願時点では発明が商業的に利用されている必要が無いこ と、そして発明から実用化までの間にタイムラグが存在することを根拠として いる。プロスペクト論に対しては、基本発明の特許を広く解する方向に働き易 く、イノベーションを阻害するのではないか、改良発明に対して特許が付与さ れるというインセンティブが有るのだから、基本的には、最初の発明に権利が 付与されなければ追加投資が誘引されないという訳ではないのではないか、等 の批判がある。】 また、以下のような指摘がなされることもある。 大学特許に関する三菱総合研究所のリサーチにおいて、大学が特許権を取得 する目的として「実用化を促す」、「共同研究の呼び水にする」というヒアリン 中山一郎「特許の経営・経済分析」第 12 章「大学特許の意義の再検討と研究コモンズ」 知的財産研究所編 雄松堂, 2007 年 7 月 25 日 p303-343 9 7 グ結果が出ている10。大学が、自らの研究成果を用いて産官学連携を行うこと には、 「1 研究者が自らと異なる目的意識や価値観に触れることにより、革新的な 技術開発につながる独創的コンセプトが生まれる。 2 社会的ニーズが刺激となって従来の学術研究では考えられなかったような 新しい研究の萌芽、新たなシーズの発見がなされる。 3 大学等の研究に民間の経営の発想が組み込まれて、社会との連携が一層進 展することが期待できる。」 というメリットが有り11、この産学連携を行うに当っては特許権が必要となる のである。加えて、 「大学の先生方の優れた研究成果というのは、それを使う側にとっては知的 財産権という権利化がされていないと安心できないということがあります。」 という事情も考えられる12。 企業としては、大学が保有している技術が他社の権利を侵害していないかど うか、市場ニーズに応えられるだけの新規性を持っているかどうか、発明者や 出願人は誰なのかが明確でないと、活動できないと考えられる。しかし、バイ オ(特に遺伝子)の分野に関しては、特許権が follow-on innovation への投資 を促進するかは定かでないという見解もあり13、実用化のための特許権の存在 という考え方には検討の余地が有る。 上記の他にも、第三者に特許を取得されることを防ぐ(国益保護)、教育手 段、競争的資金等の審査で自校を有利にする14、学生や企業の注目を集めるこ 10 株式会社三菱総合研究所 先進ビジネス推進センター 技術マネジメントグループ 研 究員 瀬川友史 平成 20 年度大学知財研究推進事業ー大学における研究成果と特許の質の 関係に関する研究ー. 平成 21 年5月 21 日 p19 11 文部科学省ホームページ. 『産学官連携の意義~「知」の時代における大学等と社会の発 展のための産学官連携』 (3)大学等から見た産学官連携の意義 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu8/toushin/attach/1332039.htm (2016 年1月 12 日 最終アクセス) 12 高橋富男「国立大学法人化後の大学の産学連携推進体制ー東北大学の場合ー」 JST 産学官連携ジャーナル 2006 年 12 月 13 Williams Sampat / Heidi L.Bhaven. How do patents affect follow-on innovation ? Evidence from the human genome. 平成 27 年2月 12 日 http://economics.mit.edu/files/9778(2016 年1月 12 日 最終アクセス) 14 脚注 10 に同じ。p19 8 とで受験料・授業料・共同研究に伴う民間資金の獲得を目指す15という目的も 有り得る。 大学の特許取得一般行動について、学説上・書籍上は上記のような説明がなさ れるが、以下、日本の大学における過去 20 年程の特許出願は何に起因して行わ れているのかという個別具体的な検討を行う。 学説でも述べられていた通り、大学は教育機関であり、研究者も学会や論文で 研究成果を発表することが基本的な使命であるため、本来であれば特許を出願 する必要は無い筈である。しかし約 20 年前から、大学における知的財産の強化 が国の施策として謳われるようになった。一覧にすると以下のようになる。 1995 年 11 月施行 科学技術基本法 1996 年 第1期科学技術基本計画(~2000 年度) 1998 年8月施行 大学等技術移転促進法(通称、TLO法) 1999 年 10 月施行 産業活力再生特別措置法(通称、日本版バイ・ドール条 項) 2000 年4月施行 産業技術力強化法(日本版バイ・ドール条項はこちらへ 移行) 2001 年 第2期科学技術基本計画(~2005 年度) 2002 年7月 知的財産戦略大綱 2003 年3月施行 知的財産基本法 2003 年7月 大学知的財産本部整備事業 2003 年 10 月施行 国立大学法人法(国立大学法人への移行は翌年4月か ら) 2004 年 この年から毎年、知的財産推進計画が策定されている 2006 年 第3期科学技術基本計画(~2010 年度) 2006 年 12 月施行 教育基本法改正 大学の役割として社会貢献を明文化 2011 年 第4期科学技術基本計画(~2015 年度) 表2-1 そして、この各施策と、大学・TLOによる特許出願件数とを重ね合わせて INPIT 「2008 年度版 大学における知的財産管理体制構築マニュアル」第Ⅰ部 体制 構築編 p52 15 9 みると次のようなグラフになる。大学・TLOの出願件数は、特許庁のJ-P latPatを用い、ある年の1月1日から 12 月 31 日までの1年間につい て、大学またはTLOを出願人とする出願を出願公開件数レベルで調査したも のである。特許庁が発表している、「知的財産活動調査」や「特許行政年次報 告書」では、2004 年以前の、大学・TLOの出願件数の数値が統計資料によ って異なり、グラフの作成が困難であった為、J-PlatPatで簡易的に 出願動向を把握することとした。出願公開の件数を調査しており、2014 年の 件数が極端に少なくなるためグラフでは割愛しているが、前掲の「我が国の大 学等からの特許出願件数及びグローバル出願率の推移」のグラフと比較して も、2002 年以降の出願傾向は概ね一致しているため、図2-1のグラフを、 仮説の前提として用いることとする。左軸は全体の出願件数を、右軸は大学・ TLOの出願件数を示している。 10 11 図2-1 図2-1から明らかなように、企業・大学・研究機関・個人を合わせた特許の 総出願件数は、漸減しながらもほぼ横ばいであるのに対し、大学・TLOのみを 抜き出してみると、2004 年頃から急激に出願件数が増加している。2004 年に国 の施策として何が行われたかを、より仔細に検討して行くこととする。 2004 年の主な出来事は、国立大学の法人化開始と、知的財産推進計画である。 JSTへのヒアリングにおいても、国立大学法人化が、大学の特許出願が増加し た契機であるという指摘が有った。確かに、国立大学の法人化によって、従来の 国立大学は経済的にも学内制度的にも自律自治を求められるようになった16。国 立大学運営交付金が年々減額され、代わりに競争的資金が増額されて来ている というのが現状である17。この状況に在って、大学は競争的資金や、民間企業か らの共同・受託研究に係る資金投入、或は学生から払われる受験料や授業料等の 獲得に注力することが考えられる。しかし、ただ単に「大学が自律的に経営をし なければならなくなったため、資金確保に傾注する」のであれば、特許出願以外 にも方法は有る筈である。例えば、新聞や看板、テレビコマーシャル等で大学名 を広告すれば、広告を全く行わない場合と比べて受験者数は増加するであろう し、企業との共同研究や企業からの受託研究を受けるにしても、科研費の申請を するにしても、大学の研究者が学会発表や論文発表で功績を上げていれば、それ が呼び水となることは想定される。では何故、国立大学法人化と期を同じくして 大学の特許出願が増加しているのであろうか。その謎を解く鍵が、同年に公表さ れた知的財産推進計画に有ると考えられるので、以下、知的財産推進計画 2004 についての検討を行う。 知的財産推進計画 2004(2) 「研究開発評価において知的財産を活用する」に おいては18、 「1) 知的財産に関する総合的な評価指標を用いる 2004 年度以降、知的財産に関する指標を評価、研究費配分その他の研究資源 の配分に活用するに際しては、特許等の(出願)件数を参考としつつも、ライセ ンス実績(件数、収入)、特許出願書類等における特許・論文の被引用度といっ た質的な側面、さらには共同研究実績、起業実績、コンサルティング件数といっ た点を重視した「総合的な評価指標」を用いる。 2) 社会貢献が研究者の責務であることを明確化し、業績評価において知的財産 16 国立大学協会「国立大学法人化最前線」JANU Winter2004 創刊号 p1 17 独立行政法人国立大学財務・経営センター「高等教育機関における授業料の国際比較研 究」第 12 章 外部資金と大学経営-法人化による影響- 2010 年 4 月 27 日 p171 18 知的財産推進計画 2004 第2章「大学等における知的財産の創造を推進する」 12 を重視する i) 国立大学法人の業務の一つとして「国立大学における研究の成果を普及し、 及びその活用を促進すること」が明確に位置付けられたことなどを踏まえ、2004 年度以降、大学等は、知的財産の創造が想定される分野においては、研究者の業 績評価として研究論文等と並んで知的財産を重視する。その際、 「総合的な評価 指標」を用いる。」 という記載が有る。 (3)「研究者に多様なインセンティブを付与する」においては、 「2) 知的財産への取組状況を研究資源の配分に反映させる 2004 年度以降、知的財産の創造を奨励する一環として、研究資源の配分に当 たり、その一部に、知的財産に関する取組状況を反映させる仕組みを設ける。そ の際、「総合的な評価指標」を用いる。」 という記載が有る。 (4) 「知的財産権の取得・管理といった知的財産関連活動に関する費用を充実 する」においては、 「iii) 大学等に対する運営交付金の算定において特許収入等分を別枠扱いに するなど、知的財産関連活動へのインセンティブを減じないよう配慮する措置 が講じられたところであり、2004 年度中に、これを積極的に周知する。」 という記載が有る。端的に言えば、研究者の研究費獲得に際して特許出願件数 が考慮されるようになったということである。大学組織に対しても、知的財産活 動を積極的に行うことが推奨されている。 研究者にとっては、研究費獲得の可否・研究費の多寡は研究活動に直結する問 題であり、特許出願が研究費の獲得に有利に働くのであれば出願したいと考え る筈である。国立大学法人化前は研究者個人や共同研究する企業が出願してい たが、法人化後は、研究者の発明は大学が出願するケースが圧倒的多数である (その理由としては、個人が特許権を有していると大学としての対応が出来な い、個人が年金負担をしなければならない、ライセンスを申し込む者が誰を相手 方として申し込めば良いか分らない、等がある19)。このことから、2004 年を機 に大学・TLOを出願人とする特許出願が増加したと考えられる。 尚、研究費獲得に知的財産活動の状況が考慮される、或は、知的財産活動を積 19 下田隆二「国立大学法人の知的財産管理-機関帰属原則への転換と課題」日本知財学会 誌 2004 Vol1 No1 p48 13 極的に行う研究者や大学・TLOを国が支援するという内容は、表現方法の違い は有るが 2008 年の知的財産推進計画まで続いている20。独立行政法人日本学術 振興会が公表している、 「科学研究費補助金実績報告書(研究実績報告書)作成 要領」の中にも、工業所有権の有無・内容を記入する旨の指示が有る21。 2006 年頃から大学・TLOの出願件数が小康・減少状態になっているが、こ の原因は主として2点有ると考えられる。 一点目は、承認TLOへの補助金が打ち切られたことである。文部科学大臣及 び経済産業大臣から承認を受けたTLO(承認TLO)に対しては、補助金交付 決定から最長5年間、一年当り上限 3000 万円の補助金が支給された22。補助対 象は、技術シーズの収集や評価、海外出願、技術指導等である。承認TLOの新 規設立数がピークを迎えるのが 2001 年であるので23、設立と同時に補助金の交 付申請をしたと単純に考えれば、2006 年は多くのTLOの補助金が打ち切られ た年となる。補助金の打ち切りによってTLOの活動が鈍化すれば、TLOの出 願は停滞・減少することになる。 二点目は、大学が知財「戦略」を求められるようになったことである。毎年策 定される「知的財産推進計画」が発表されるようになる前から、 「科学技術基本 計画」という5ヶ年計画が内閣府から公表されていた。2006 年は丁度第3期科 学技術基本計画が始動した年に当たる。第3期科学技術基本計画の基本方針の ひとつに、 「第2期基本計画で進めた研究分野の重点化にとどまらず、分野内の 重点化も進め選択と集中による戦略性の強化を図る」が有る24。知的財産推進計 画を見ても、 2006 年知的財産推進計画25において 「i) 2006 年度から、モデルとなる大学知財本部に対し、国際的な知財専門人材 20 知的財産推進計画 2004~2008 21 独立行政法人日本学術振興会「科学研究費補助金実績報告書(研究実績報告書)作成要 領」https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/06_jsps_info/g_031222/pdf/04.pdf(2016 年1月 12 日 最終アクセス) 22 経済産業省「大学等技術移転促進費補助金交付要綱」 23 内閣府資料 www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/seisaku/haihu04/sanko1-3.pdf(2016 年1 月 12 日 最終アクセス)p22 24 第3期科学技術基本計画 第2章冒頭 25 2006 年知的財産推進計画 第1章「知的財産の創造」第1節「大学等における知的財 産の創造を推進する」 (1) 「大学知的財産本部・TLOの一本化や連携強化を進める」② 「大学の知的財産本部を強化する」 14 の育成・確保などの国際機能の強化を図り、知財の戦略的な権利取得・活用に必 要な取組を推進する」 とある。 2007 年知財推進計画26において、 「i) 大学知的財産本部による国際的な基本特許の権利取得、技術移転、共同研 究契約、事業化支援、知財人材の育成等の広範な活動を促進し、」 とある。 2008 年知的財産推進計画27において、 「i) …国際的な産学官連携体制の強化や特定分野の課題に対応した知的財産の 管理など、大学等の主体的かつ多様な特色ある取組を重点的に支援する」 とある。知的財産活動において選択と集中が求められた大学は、特許出願を厳 選するようになることが予想される。 上記の総てから考えられることは、研究者にせよ大学にせよTLOにせよ、そ の知的財産活動(とりわけ特許出願行動)は国の政策に大きく影響されていると いうことである。研究者等が特許権を取得する本質的な目的が、研究費の獲得や 国からの支援獲得など、実用化とは異なる部分に在るのであれば、それが大学特 許の休眠メカニズムに寄与している可能性は高い。 続いては、大学特許が休眠する原因についての検討を行う。 (2)仮説2:なぜ大学特許は休眠するのか? 本章では、大学特許が休眠するメカニズムについて、立体図形を用いた仮説を 立てた。休眠、即ち、未利用という言葉は、自らの特許を自らも実施せず、他者 に使用許諾もしていない状態を指す(本論1(2)参照)。 「大学」は基本的に特 許を実施する主体ではないため、休眠状態について考えるに当っては、特許を使 用する「企業」とのつながりを考えなければならない。また、特許の元となるの 2007 年知財推進計画 第1章「知的財産の創造」第1節「大学等やTLOの知的財産 関連活動を強化する」 (1) 「大学等やTLOの体制整備を促進する」①「戦略的な知的財 産活動に取り組む大学等やTLOへの支援を行う」 27 2008 年知的財産推進計画 第1章「知的財産の創造」第2節「大学、研究機関におけ る知的財産戦略を強化する」 (3) 「大学等やTLOの体制整備を促進する」②「戦略的な 知的財産活動に取り組む大学等への支援を行う」 26 15 は「研究者」の発明であるため、研究者も、仮説におけるメインプレイヤーとな る。まずは、大学特許の休眠メカニズムにおけるこの三者各々の役割を述べ、最 後に、三者を繋ぐコーディネーターの役割を述べることとする。 尚、体系化の手法は、先行研究の中から、大学特許の問題点を指摘しているも ののみを収集し、問題点を抽出し、その問題点同士の連関を検討するというもの である。問題点同士が、お互いに原因となり結果となっているため、必ずしも整 然とした順序で文章化出来るものではないが、全体を四部に分けて検討を行う。 下掲図が、上記仮説2を立体で表現したものである。立方体の図は、研究者・ 大学知財部・企業知財部の3者の関係を示したもの、三角の図は、コーディネー ターと、前記3者の関係を示したものである。 図2-2 16 図2-2の、 (a―4/b-4) ・ (a―13/c-13) ・ (b-13/c-4) の3点を通る三角形で立方体を切断したときの切り口が図2-3である。 図2-3 《A. 研究者の面》 a-1 休眠 大学特許が休眠する理由として以下の2点が考えられる。 1. 権利範囲が狭い(a-2) 大学特許について最も多くの文献で述べられていたのが、その質、言い換えれ ば、特許権の排他性に関する問題点、即ち、権利範囲が狭いということである。 ある発明に関してその上位概念が有るにも拘わらず、下位概念で出願している 28、特許請求の範囲の記載に対して実施例が少ない、物質特許でなく用途特許、 化合物ではなく天然物で出願する、明確性要件やサポート要件を欠くなどの記 28 西村由季子「大学における技術移転・産学連携活動の動向~基礎的情報と知財権活用に 向けた課題の整理~」JST 産学官連携ジャーナル 2011 年 1 月 17 載不備がある29,30,31,32、シーズ志向が強く数値例が実用に耐えない33,34,35,36、周辺 特許の無い単発の出願である37,38,39,40といったことが例として挙げられる。また、 山中伸弥教授の iPS 細胞のように、まずマウスの実験結果で特許出願をして、 改めてヒトの実施例を追加するという場合もあり、所謂バイオ分野では実用化 に際し、実施例の数の他に質を求められることがある。 更には、産業界と比べて特許法 30 条(新規性喪失の例外規定)を利用する割 合が高く、他社に先に権利を取られる危険性を孕んだ出願が見受けられる41,42,43。 本論1(1)において、大学特許の登録査定率が企業と遜色ないと述べたが、 登録査定になった特許について、登録査定までの拒絶理由通知が0回だったも のが、企業出願のそれよりも多いという調査結果が有る44。他の特許権や、現在 一般的に使用されている技術と抵触する部分が少なければ少ない程、登録査定 がなされる確率は高くなるため、大学特許の権利範囲の狭さはこのデータから も示唆されるところである。 脚注 10 に同じ。p24-28 田中秀穂、青野友親「国立大学法人から出願される医薬関連特許の排他性に関する研究」 平成 20 年 6 月 p262 29 30 31 早乙女周子、寺西豊「大学発特許の保護に関する現状と課題-ライフサイエンス分野を 中心に-」 特許研究 No.48 平成 21 年 9 月 p41 32 JSTへのヒアリング(2015 年3月 25 日 11 時~12 時 東京本部会議室にて) 33 脚注 10 に同じ。p31 34 産業技術環境局大学連携推進課「シーズ発掘・橋渡し研究事業の概要について」平成 26 年 2 月 14 日 p10 35 三菱化学テクノサーチ「平成 25 年度特許庁大学知財研究推進事業 知的財産活用に資す る大学の組織的取組に関する研究報告書」平成 26 年 2 月 p16 36 笹月俊郎「特許群・特許のパッケージ化による大学発特許の活用促進」JST 産学官 連携ジャーナル 平成 23 年 1 月 37 脚注 35 に同じ。p16 38 藤本隆「複数大学の連携による”知財群”の活用に関する取り組みについて」JST 産 学官連携ジャーナル 平成 23 年 1 月 39 三菱化学テクノリサーチ「平成 20 年度 大学保有知的財産の群管理による活用支援に関 する調査報告書」平成 21 年 3 月 p5 40 科学技術・学術審議会 産業連携・地域支援部会 大学等知財検討作業部会「イノベー ション創出に向けた大学等の知的財産の活用方策」平成 26 年 3 月 5 日 p2 41 脚注 30 に同じ。p261-262 42 脚注 32 に同じ。 43 東北大学産学連携推進本部知的財産部部長 塩谷克彦「東北大学における新規性喪失の 例外規定を適用した特許出願の状況」平成 26 年 7 月 10 日 p9 44 脚注 10 に同じ。p35 18 2. シーズ・ニーズマッチング困難(a-5) 企業や社会のニーズと、研究成果たるシーズのマッチングは往々にして困難 になり勝ちである。基盤技術の用途を限定して特定の製品に結び付ける、そして その製品を更に企業の戦略にも合致させるというだけでも困難であり45、海外企 業の方が日本企業よりも先に大学シーズに目を付けるケースも有るため46、国内 企業と大学との間でシーズ・ニーズマッチングが活発に行われていないことが 考えられる。 a-2 権利範囲が狭い 大学特許の権利範囲が狭い理由として以下の2点が考えられる。 1. 技術の言語化困難(a-3) 大学発明の特徴として、最先端技術であるが故に文章化し辛いという事が有 る47。仮に、技術を説明すること自体の困難が無かったとしても、技術を特許請 求の範囲や明細書の記載に仕立てるためには相応の訓練が必要となる。また、大 学の研究成果は基礎的、学術的なものであり、見方によって様々な活用法が考え られる。換言すれば、今後どのような製品やサービスに化けるか、或は化けない かが不確実なものなのである。将来のビジネスを見据えて明細書等を作成する のは容易ではない。 2. 知財マインドが低い(a-6) 特許の実施例の少なさや明細書の記載不備、特許法 30 条適用が何に由来する かと考えたとき、その原因は幾つか存在するが、知的財産に対する研究者の意識 の欠如が直接的な原因であると考えられる48,49,50。 知的財産の知識が不足しているために、研究者が研究途中で出たネガティヴ データを開示しない51、実施例を増やそうとしない等が考えられる。 45 国立大学法人広島大学「平成 19 年度 特許庁大学知財研究推進事業 特許情報を用いた 大学技術移転のシーズ・ニーズマッチングについての研究報告書」 平成 20 年 3 月 p2 46 脚注 32 に同じ。 47 脚注 32 に同じ。 48 脚注 30 に同じ。p263 49 脚注 31 に同じ。p41 50 脚注 35 に同じ。p19 51 平成 22 年度 バイオ・ライフサイエンス委員会第5部会 山口健次郎、大平和幸、金丸 清隆、星野宏和「大学発バイオ関連発明の保護における問題点」パテント vol64 平成 23 年 9 月 p55 19 a-3 技術の言語化困難 大学発発明の言語化が困難である理由として以下の2点が考えられる。 1. 連携不足(手続面)(a-4) 大学知的財産部の職員と研究者とが普段から研究内容に関する議論を行って いれば必ず適切に特許明細書を作成出来るという訳ではない(何故ならば技術 の言語化の困難には他にも原因が有るため)が、両者間での議論が行われていれ ば、言語化の問題を緩和することは可能であると考えられる。 上記に加え、地理的な問題で研究者と弁理士とのコミュニケーションの手段 や機会が制限され、意思疎通が不足することも考えられる52。 2. 特許取得に貪欲でない(a-7) 研究者が、ビジネスに役立つような特許権の取得に貪欲ではないため53、明細 書を作り込むことに意義を見出さないことが現実に起こり得る54。「出願を担当 する弁理士との馴れ合いが起こり、仮出願類似の出願がなされる」ことや55、大 学知的財産部への情報(ネガティヴデータ)開示が不十分になる事56、クリアラ ンス調査による研究成果の客観化が不十分になること57,58が考えられる。特許を 取得する際にはネガティヴデータも重要な資料となるが、研究者から開示され ない内は知的財産部には伝達されない。また、研究者は高度な知識を有している ため、特許法の世界における「当業者」が理解出来ないような専門知識を明細書 中に含んでおり、特許庁の審査官には「説明不足である」と映ることも想定され る59。尤も、研究者本人が特許出願の書類作成にどこまで関与するかはケース・ バイ・ケースである。 a-4 連携不足(手続面) 大学研究者と大学知財部との連携が不足している理由としては以下の点が考 えられる。 ・学術的意義のあるデータを集める(a-8) 研究者の中には、自らの研究内容について良いデータを集めることに主眼を置 52 53 54 55 56 57 58 59 脚注 51 に同じ。p55 脚注 10 に同じ。p38 脚注 31 に同じ。p41 脚注 32 に同じ。 脚注 51 に同じ。p55 脚注 15 に同じ。p36 脚注 51 に同じ。p55 脚注 10 に同じ。p31 20 く者も居り60,61、一般論としても、論文や学会で評価されるようなデータを重視 する傾向にある62。そのために研究や実験に時間を割き、知的財産部とのコミュ ニケーションを取る余裕が無いという事情が存在すると考えられる。 a-5 シーズ・ニーズマッチング困難 シーズ・ニーズマッチングが困難である理由として以下の2点が考えられ る。 1. 知財マインドが低い(a-6) 研究者が、特許の活用に関する高い知識や意欲を持っていれば、特許の権利範 囲の問題と関係なく自らの発明したシーズを世の中のニーズに適合させる方法 を知得出来る筈である。 2. 意思疎通困難(a-9) 産業界に対して実用化を見据えた分り易い情報発信が疎かになることで 63,64、 企業と研究者の間で意思疎通が図れないことが考えられる。 a-6 知財マインドが低い 研究者が知的財産法の知識等に乏しい理由として以下の2点が考えられる。 1. 権利取得に貪欲でない(a-7) 研究者の有する知識が、特許法上の「当業者」が有する知識よりも高度である ため、論文の文章を書くように特許明細書を書いたり、学会で発表するように企 業の知財部や大学の知財部職員に研究内容を説明したりすると、研究内容は特 許になりにくいと考えられる。研究者に、特許法に関する知識や特許活用の意欲 が有れば、この事態は緩和される可能性が高い。 2. 課題を放置(a-10) 研究結果から生じる新たな課題への対応が不十分となるケースがある65,66。詰 り、研究者が企業や社会のニーズに関する情報収集を行わない、或は、研究成果 の実用化に際しての課題に研究者の協力が得られないということである。具体 60 石田秋生「”青色LED実用化プロジェクトの仕掛人”石田秋生<ノーベル物理学賞> 赤崎勇博士×豊田合成 連携誕生のとき」JST 産学官連携ジャーナル 平成 24 年 12 月 61 大内権一郎「出口の事業化まで面倒を見るのが使命」JST 産学官連携ジャーナル 平成 25 年 10 月 62 脚注 31 に同じ。p42 63 脚注 10 に同じ。p38 64 脚注 32 に同じ。 65 脚注 32 に同じ。 66 脚注 51 に同じ。p55 21 例としては、米ウッズホール海洋生物学研究所・元上席研究員の下村脩氏等が発 見した緑色蛍光タンパク質(GFP)である。この物質は「魔法のマーカー」と 呼ばれ、今でこそ医療現場で活用されているが、物質を発見した当初、下村氏自 身はGFPの利用法を見出しておらず、GFPの化学構造を解明した時点で化 学者としての仕事は終わりであると思っていた67,68。青色発光ダイオードの発明 で脚光を浴びた赤崎勇教授も、豊田合成等から研究成果の実用化を持ち掛けら れた当初は、教授自らの研究に専念したいという思いが有ったという69。 a-7 権利取得に貪欲でない 研究者が特許権の取得に貪欲でない理由として以下の2点が考えられる。 1. 学術的意義のあるデータを集める(a-8) 研究者が学術研究に傾倒するのは前述の通り(a-4)だが、研究に時間を割か なければならない上、学生の指導や校務分掌の仕事も有るため、特許明細書作成 や中間応答に注力しない、或は注力出来ない70と考えられる。 2. Publish or Perish(a-11) 研究者にとっては研究成果の論文発表や学会発表が最優先事項である71,72。こ の背景には、ひとつには、 「Publish or Perish」という言葉に代表されるように、 研究者は自身の研究成果を公表することがその使命だということがある73。山崎 茂明『パブリッシュ・オア・ペリッシュ:科学者の発表倫理』p11 ℓ12-17)には、 ヨーロッパ科学編集協会長の言を引用して次のように書かれている。 「現在の科学コミュニケーションの危機は、 『発表するか、それとも死か』 (パ 67 47NEWS. ノーベル化学賞に下村脩氏 クラゲの蛍光タンパク発見 http://www.47news.jp/feature/topics/2008/10/post_20.html 平成 20 年 10 月 8 日(2016 年1月 12 日 最終アクセス) 68 AFP BB NEWS. 医療現場で役立つオワンクラゲの「GFP」 、ノーベル化学賞. http://www.afpbb.com/articles/-/2526504 平成 20 年 10 月 9 日(2016 年1月 12 日 最終 アクセス) 69 赤崎勇「青色LED実現への道 未踏の領域『われ一人荒野を行く』JST 産学官連 携ジャーナル 平成 23 年 4 月 70 脚注 31 に同じ。p42 71 脚注 31 に同じ。p46 72 文部科学省. 不正行為が起こる背景 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu12/houkoku/attach/1334663.htm (2016 年1月 12 日 最終アクセス) 73 山崎茂明「パブリッシュ・オア・ペリッシュ:科学者の発表倫理」 みすず書房 平成 19 年 11 月 19 日 p11 22 ブリッシュ・オア・ペリッシュ症候群)という言葉に表現されているような過度 な業績主義がはびこり、研究者は発表しなければ生き残れないため、・・・昇進 やよりよいポスト、そして研究助成金の獲得のため、研究者は数多くの論文を発 表し業績を増やさなければならない。」 「Publish or Perish」という思想は元々アメリカで発生したものであるが、学 会発表や論文発表によって、学会内でのポジションや研究費の多寡が変動する という環境は日本も同じであるため74、日本の大学研究者にも当てはまる性質で あると考えられる。アメリカでは、歴史的背景から定着した思想であるが、日本 の場合には、国から大学へ供給される競争的資金(「資源配分主体が広く研究開 発課題等を募り、提案された課題の中から、専門家を含む 複数の者による科学 的・技術的な観点を中心とした評価に基づいて実施すべき課題を採択し、研究者 等に配分する研究開発資金」75)が増額傾向にあるという事情が背景に有る76,77。 他の研究者よりも早く、他の研究者よりも優れた研究成果を発表することに 主眼を置くという研究者の性質が、先述の、研究者から大学知財部への情報開示 不足に繋がっている。 a-8 学術的意義のあるデータを集める 研究者が学術的意義の有るデータを集めることに集中する理由として以下の 点が考えられる。 ・研究費・ポストが欲しい(a-12) 第二期科学技術基本計画が策定されて後競争的資金が増額され、研究の世界 では競争激化と成果主義が蔓延している78。競争とは、ポスト獲得競争であり、 研究者が任期付きで流動的に異動するようになったため、優れた成果による安 定した地位を求める研究者が増えたと言える79。 脚注 72 に同じ。 内閣府「競争的資金制度について」http://www8.cao.go.jp/cstp/compefund/ (2016 年 1月 12 日 最終アクセス) 76 脚注 72 に同じ。 77 科学技術基本計画第1期~第5期 74 75 78 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 科学技術・学術基盤調査研究所「大学の基礎 研究の状況をどう考えるか、これからどうすべきか? 定点調査ワークショップ(2013 年 3月) 」平成 25 年 7 月 p25 79 脚注 72 に同じ。 23 a-9 意思疎通困難 研究者と企業との意思疎通が困難である理由として以下の2点が考えられ る。 1. 課題を放置(a-10) 既述の通り(a-6 の2)、研究者が研究成果の実用化に係る課題を放置する場 合が有る。学術的な成果としては十分な実験データであっても、その研究成果を 製品やサービスに用いるにはデータが不足しているというような場合である80。 この状態が継続すると、企業と研究者の間で、課題解決に向けた建設的な議論を 行うことは困難になると考えられる。 2. 企業と研究者の接触が少ない(a-13) 国立大学が法人化される前は、研究者個人と企業との繋がりが強く、企業側と しては、特許を受ける権利や特許権の帰属主体である研究者個人から発明や特 許を譲り受ける方が手続的に簡便であった81,82。未だ、学会等での個人的な出会 いが産学連携の契機になっている面が有ることは否定できないが83,84、国立大学 法人化によって、企業と研究者個人の繋がりよりも、企業と大学機関という繋が りが強くなったのではないかと考えられる。 a-10 課題を放置 研究者が実用化のための課題を放置する理由として以下の2点が考えられ る。 1. 専門外の事柄に興味を持たない(a-14) 研究者には、自らの研究分野以外の事柄に興味を示さないという傾向がある 85。既述のGFPの事例(a-6 の2)にも有る通り、現象のメカニズムを解明し た時点で研究者としての仕事を終えると、実用化のための課題の解決が後回し になる可能性が高くなる。 2. Publish or Perish(a-11) 新たな研究成果を生んだ研究者は、他の研究者よりも早く、その成果を発表す る筈であり、なぜならば、学会発表や論文発表が、学会内や学内での昇進や、研 究助成金の獲得にあるのだとすれば、他の研究者が先行して発表した研究成果 と同一・類似の内容を発表しても、目的を達成出来ないためである。学会や論文 81 脚注 32 に同じ。 脚注 19 に同じ。p46 82 金間大介「大学発特許から見た産学連携(前編)大学発特許の「出願人」の実態」JST 80 産学官連携ジャーナル 平成 20 年 9 月 83 脚注 35 に同じ。p21 84 脚注 39 に同じ。p59 85 脚注 15 に同じ。P36 24 という形ならば迅速に発表できるところ、研究成果の権利化や商品化となると、 研究成果が社会に発表され還元されるまでに期間を要する。そのため、研究者は 実用化を見据えるよりも学会発表や論文発表に時間と労力を傾けると考えられ る。 a-11 Publish or Perish 研究者が研究成果の発表を優先させる理由として以下の2点が考えられる。 1. 研究費・ポストが欲しい(a-12) 研究者は、学会や論文の成果によって、獲得する研究費の多寡や教授のポスト を獲得出来るかどうかが変る。研究活動を行うに当っては、多くの研究費や高い 地位を獲得することはひとつの重要な要素であるため、研究者は研究成果の発 表を優先させると考えられる。 2. 名誉欲・満足(a-15) 研究者が学会・論文発表を行う背景には、研究者としての使命感や意欲、名誉 もあり86、規則遵守やリスクマネジメントといった束縛が研究活動の妨げになる と捉える研究者も存在する87。知的財産の活用ありきで国や大学の施策が進めら れることへの違和感がある88ということが基底にあると考えられる。 a-12 研究費・ポストが欲しい 研究者が研究費や地位を求める理由として以下の点が考えられる。 ・真理の探究(a-16) 研究者には本来、真理を探究するという使命感が備わっており89、より早く、 より精度高く真理を探究するために、多くの研究費や高い地位による充実した 研究環境を欲するものと考えられる。 a-13 企業と研究者の接触が少ない 企業と研究者の接触が少ない理由として以下の点が考えられる。 ・専門外の事柄に興味を持たない(a-14) 研究者が、自らの研究成果の先に有る事柄(製品・サービスへの応用)に興味 を示さなければ、興味を示す場合よりも企業との接触機会は少なくなると考え られる。仮に、学会等で企業と出会うことが有ったとしても、研究者が研究のみ に集中したいと思えば、企業との連携は希薄になる90。 86 87 88 89 90 脚注 72 に同じ。 脚注 15 に同じ。p36 脚注 15 に同じ。p36 脚注 72 に同じ。 脚注 69 に同じ。 25 a-14 専門外の事柄に興味を持たない 研究者が自らの専門外の事柄に興味を持たない理由として以下の点が考えら れる。 ・名誉欲・満足(a-15) 研究者は、自らの研究内容に関して学会や論文で高い評価を得られることを ひとつの使命としており91、自分の専門以外の領域や自らの研究成果の実用化に 関する勉強をするインセンティヴは無いのではないかと考えられる。 a-15 名誉欲・満足 研究者が、研究成果の公表による名誉欲や満足に終始する理由として以下の 点が考えられる。 ・真理の探究(a-16) 世界の誰も成し得なかった研究を成し遂げたという誇りや満足感は、真理の 探究を続けて来たことの結果でもあり、更なる研究活動の原動力となると考え られる。 《B.大学知的財産部(産学連携本部)の面》 b-1 休眠 大学特許が休眠する理由として以下の2点が考えられる。 1. 権利範囲が狭い(b-2) Aの a-1 の1に同じ。 2. 産学連携の経験に乏しい(b-5) 企業から大学への民間資金提供額は増加しては居るものの、産学の共同研究 案件の約半数は少額の契約となっており92、押並べて小規模で短期の共同研究が 多い93。また、中小企業やベンチャー企業との連携が少ない傾向にある 32。産学 連携が、マテリアルトランスファーや論文の遅滞ない出版を阻害している可能 性も指摘されている94。 91 脚注 72 に同じ。 科学技術・学術審議会 産業連携・地域支援課 大学技術移転推進課「平成 25 年度 大学等における産学連携等実施状況について」 平成 26 年 11 月 28 日 p4 93 科学技術・学術審議会 産業連携・地域支援部会 産学官連携推進委員会「産学官連携 92 によるイノベーション・エコシステムの推進について(とりまとめ) 」平成 24 年 12 月 10 日 p2 94 柴山創太郎、阪彩香「大学における産学連携施策の影響の検討」文部科学省 科学技術 政策研究所 科学技術基盤調査研究室, 平成 22 年 8 月 S-3 26 b-2 権利範囲が狭い 大学特許の権利範囲が狭い理由として以下の2点が考えられる。 1. 技術の言語化困難(b-3) Aの a-2 の1に同じ。 2. 知財活用戦略が不十分(b-6) 大学として知的財産活動の位置付けが不明確であったり、大学としての戦略 が不明確であったりし95、大学と企業のように立場の異なる者が出口(製品化) 戦略を共有しながら実用化まで進むことが出来ないということがある96,97,98。具 体的には、知的財産権の放棄に際して共同出願人の意向や研究の進捗を重視し、 市場動向を重視しないというのが一例である99。 b-3 技術の言語化困難 大学発発明の言語化が困難である理由として以下の2点が考えられる。 1. 連携不足(手続面)(b-4) Aの a-3 の1に同じ。 2. 人材不足(b-7) 大学組織が抱えるもうひとつの問題としては、知的財産に関わる人材の不足 96 脚注 10 に同じ。p30 脚注 51 に同じ。p52 97 科学技術・学術審議会 産業連携・地域支援部会 イノベーション創出機能強化作業部会 95 「産学官連携によるイノベーション創出を目指す大学等の機能強化について~オープンイ ノベーション推進拠点の整備、イノベーション促進人材の活用~イノベーション創出機能 強化作業部会中間取りまとめ」平成 25 年 10 月 29 日 p3 98 科学技術・学術審議会 技術・研究基盤部会 産学官連携推進委員会「イノベーション 促進のための産学官連携基本戦略~イノベーション・エコシステムの確立に向けて~」平成 22 年 9 月 7 日 p6,14 99 脚注 35 に同じ。p28 27 がある100,101,102,103,104,105,106,107,108,109。 人材不足とは、ここでは質量双方の不足を意味している。量的には、研究成果 を明細書に仕立てたときに実施例を追加するため等のマンパワーが不足してい るということである。質的には、特許法の知識や特許明細書の書き方に関する知 識を有する人材が不足しており(特許流通アドバイザーが廃止されるなど)、技 術を特許に仕立てることが困難になるということである。 b-4 連携不足(手続面) 研究者と大学知財部の連携が不足している理由として以下の点が考えられ る。 ・知財マインドが低い(b-8) 大学知財部が、経験値の高くない弁理士に出願業務を依頼したり110,111、弁理 士の詳細な専門分野が把握できないまま出願業務を依頼したりすることがある 112。知財部職員の、知的財産に対する知識や意欲が不足している状況では、知的 財産に関して研究者に働き掛けを行うことは考え辛い。 b-5 産学連携の経験に乏しい 大学が産学連携の経験に乏しい理由として以下の2点が考えられる。 1. 知財活用戦略が不十分(b-6) Bの b-2 の2に同じ。 発明の創造は大学内で行えるが、保護に関しては前述の通り権利範囲の点か 100 101 102 103 104 105 106 107 脚注 10 に同じ。p39 脚注 15 に同じ。p32 脚注 31 に同じ。p42 脚注 32 に同じ。 脚注 35 に同じ。p16 脚注 36 に同じ。 脚注 51 に同じ。p54 財団法人知的財産研究所「特許流通促進事業のこれまでの事業成果等に関する調査研究 報告書」平成 22 年 3 月 p135 108 有限責任中間法人大学技術移転協議会「大学技術移転サーベイ 大学知的財産年報」平 成 17 年~平成 26 年の中の「TLO及び大学知的財産本部の体制」の章の「弁理士資格を 有するスタッフ数」のグラフを参照した。0人や1人という回答が大半を占める年が続いて いる。 109 経済産業省「経済産業省所管独立行政法人の改革について」平成 22 年 4 月 19 日 110 脚注 30 に同じ。p262 111 脚注 51 に同じ。p54 112 脚注 51 に同じ。p53 28 ら問題が有り、活用に関しても課題が有る。このような状況では、産学連携が大 規模に、或は多数回行われることは考えにくい。 2. 契約上の問題(b-9) 不実施補償料を含め、産学連携における初期費用・手続費用の高さ等、契約面 で問題となる条件を提示されることが、産学連携を阻害する要因となっている 113,114,115,116,117。また、産学連携に関して大学側のルール整備が追い付いていな いということも指摘されている118。 契約上の別の問題として、企業や大学の努力では解消し難いものもある。先行 研究の中で屡々言われるのは、特許法上の共願制度に関する規定である119,120,121。 特許法 73 条には、1項で「特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有 者の同意を得なければ、その持分を譲渡し、又はその持分を目的として質権を設 定することができない。」、3項で「特許権が共有に係るときは、各共有者は、他 の共有者の同意を得なければ、その特許権について専用実施権を設定し、又は他 人に通常実施権を許諾することができない。」と定められており、ひとつの特許 が一旦共有に係ると、実施に際してお互いに制約が掛るのである。これが、産学 共願の特許の使い辛さとなり、ひいては企業と大学が共同で特許権を取得する という行為の妨げとなっている可能性があると言える。 b-6 知財活用戦略が不十分 大学知財部の知財活用戦略が不十分である理由として以下の2点が考えられ る。 1. 人材不足(b-7) Bの b-3 の2に同じ。 特許の経済的価値の判断や特許法に関する知識、特許の活用に関する意欲を 持つ人材が不足していることは、大学知的財産部として大学特許の活用を考え にくくなることの一因となり得る。 113 114 115 116 脚注 12 に同じ。 脚注 15 に同じ。p9 脚注 39 に同じ。p60 青木潤「日本の大学へ望むもの 中国、米国の大学との産学連携と比較して」JST 産 学官連携ジャーナル 平成 20 年 10 月 117 元橋一之「中小企業の産学連携と研究開発ネットワーク:変革期にある日本のイノベー ションシステムにおける位置づけ」独立行政法人経済産業研究所 118 脚注 92 に同じ。p16 119 脚注 31 に同じ。p46-47 120 脚注 39 に同じ。p70 121 脚注 98 に同じ。p14 平成 17 年 1 月 p8 29 2. 収入が少ない(b-10) 大学が企業から受け取るライセンス料が少額になり勝ちであるという事情が ある122,123,124。少額というのは相対的な問題であり、ここでの比較対象は2つ有 る。ひとつは米国における大学のライセンス収入額、いまひとつは日本国内で技 術移転に掛かるコストである。産学連携や技術移転に関しては米国の方が日本 よりも歴史が古く、目立つ成功事例も有るため、この分野では日米が比較される ことが少なくない。ライセンス収入という点では、2005 年から 2013 年までを 見ても、米国が日本の 100 倍から 200 倍の金額である。同じ9年間の研究費も、 米国は毎年 20 億ドルから 60 億ドルずつ増加しているのに対し、日本は約 3500 億円でほぼ横ばいである。また、日本国内だけで見ても、例えば大学の知的財産 部・TLOが手にする収入の約3分の1の金額は、出願や中間応答、係争解決費 用などの知財支出に費やされている125。 また、大学(とりわけ大学知財部)の資金不足が挙げられる126,127,128,129。大学 全体に対しては国から運営交付金が支給され、国立大学財務・経営センターから 交付金や長期借入金を得ることができる。運営交付金とは、国立大学法人が安定 的・持続的に教育研究活動を行って行くために必要な基盤的経費である。実態と しては、運営交付金の殆どが大学職員の人件費に充てられ、大学改革等に用いる ことが困難となっている130。私立大学の場合は、少子化に伴って受験生や学生 の数自体が減少し、受験料や学費の納付が減ると共に、国からの助成金も減額さ れる131。国からの運営交付金が減額される代わりに、競争的資金は増額されて いるが、競争的資金は研究者個人に支払われるため研究者の所属機関は潤わず、 研究設備には資金を充て辛いという事情が有る132。大学知的財産部に限定すれ ば、収入源は企業からのライセンス収入、国から支給される整備事業費、地方自 治体からの自治体補助金、大学の内部資金等である133。政府による研究費負担 129 知的財産推進計画 2014「産学官連携機能の強化」p24 脚注 39 に同じ。p4 脚注 98 に同じ。p14 脚注 108 に同じ。 「収入と支出」 「研究費の現状」 「ライセンス等の業務実績」の章。 脚注 31 に同じ。p42 脚注 35 に同じ。p16 脚注 60 に同じ。 脚注 98 に同じ。p13 130 橋本和仁「成長戦略 次のテーマは国立大学改革」JST 産学官連携ジャーナル 122 123 124 125 126 127 128 平成 27 年 3 月 131 脚注 15 に同じ。p52 132 脚注 130 に同じ。 133 脚注 108 に同じ。 「収入と支出」の章。 30 割合は諸外国と比べて低く134、また、大学知的財産部はコストセンターである という理由で、予算配分の際減額のターゲットにされやすいという事情もある 135。 大学全体としての資金不足が叫ばれる中で、知財部が特許出願等に費用を遣 い、尚且産学連携による収入も少ないということになれば、大学として知財戦略 を重視するということが難しくなることが考えられる。更に、大学全体の資金不 足は、知財戦略を立てるための人材雇用も困難にする虞がある。 b-7 人材不足 大学知財部内で知財に関する人材が不足している具体例として以下の2点が 考えられる。 1. 知財マインドが低い(b-8) 大学知財部の職員には、特許請求の範囲の減縮に抵抗が無い136等、知的財産 に関する知識や意欲が弱い傾向が有る。大学知財部の中に弁理士資格を保有す るものが少ない137、平成 22 年に、大学への特許流通アドバイザーの派遣が廃止 された138といったことが最も分り易い例である。 2. 特許を評価できない(b-11) 出願前の特許の価値判断を行える人材が不足している139。大学職員の職務内 容は元々行政職か教育職を主としており、特許の評価を行う人材が育つ環境に なっていないこと140、そもそも特許というものが評価に馴染まないという事情 も存在する141,142,143。学術論文であればインパクトファクターによって、社会へ の影響力をある程度推測することができるが、事業化されていない特許が、事業 にいくらの利益をもたらすのかということを計算することは困難である。加え て、ひとつの大学が扱う学問分野は多岐に亘る144。特許の評価が困難を極める ことは想像に難くない。 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 脚注 98 に同じ。p2 脚注 15 に同じ。p33 脚注 10 に同じ。p34 脚注 108 に同じ。 脚注 109 に同じ。 脚注 35 に同じ。p16 脚注 51 に同じ。p56 脚注 30 に同じ。p256 脚注 32 に同じ。 脚注 35 に同じ。p16 脚注 51 に同じ。p55 31 b-8 知財マインドが低い 大学知財部員の知財マインドが低い理由として以下の点が考えられる。 ・人事異動(b-12) もうひとつには、学内の人事異動によって数年置きに職員が入れ替わるため 145,146,147,148、知的財産部に長年所属して知財管理のノウハウを継承する者が育 ちにくいということである。大学、とりわけ国立大学では、技術職員の業務が特 定の部署に固定される一方で、事務職員は数年毎に部署間を異動するため、部署 間の相互理解が難しいのである149。加えて、平成 22 年に特許流通アドバイザー の派遣が廃止されたことで、大学において知的財産に明るい人材を確保するこ とが困難になったという事情もある150。 この人事システムは、法律で定められたものではなく、大学職員が事実上公務 員に準じるものと見做されていることに依る151。公務員の世界は、幅広い部門 を経験するジェネラリスト養成に力を入れるという慣習が有り152、それをその まま引き継いでいるものと考えられる。 b-9 契約上の問題 大学と企業の間で契約上の問題が発生する理由として以下の2点が考えられ る。 1. 収入が少ない(b-10) Bの b-6 の2に同じ。 大学知的財産部が獲得する、特許権のライセンス/譲渡収入が少ない状態で あると、知財部としては極力多くの収入を得たいと考えるため、過去に特許出願 145 脚注 15 に同じ。p49 146 足立和成「輸出管理における大学固有の問題と学内部署間の連携」 CISTEC JOURNAL No145 平成 25 年5月 p57 147 大阪大学 http://www.osakau.ac.jp/ja/news/saiyou/files/H23%20807754e163a17528.pdf (2016 年1月 12 日 最終アクセス)3年程度での人事異動が紹介されているためここで 例として挙げた。 148 北海道大学 http://www.hokudai.ac.jp/jimuk/soumubu/jinjika/saiyo/03_labor%20conditions/0302.ht ml (2016 年1月 12 日 最終アクセス)3年程度での人事異動が紹介されているためこ こで例として挙げた。 149 脚注 146 に同じ。 150 脚注 109 に同じ。 151 丸山文裕(国立大学財務・経営センター) 「第3章 国立大学法人の人事管理」p52 152 新井一郎、澤村明「地方公務員の人事異動と昇進構造の分析」新潟大学経済論集 第 85 号 2008-I p149-177 32 等に要した費用を一回で払い切られる譲渡契約よりも、今後も継続して収入を 得ることが出来るライセンス契約を希望すると考えられる。 2. 情報の発信・収集不足(b-13) 大学から社会(とりわけ産業界)へ向けた情報発信が不十分である153、また、 情報発信とは逆に、大学側の企業・社会ニーズの収集に不足が有るということが 考えられる154。特許の金銭的評価には、事例の蓄積が書かせないが、その事例が 大学知財部内に蓄積しないと、企業と大学の合意が得られる金額でのライセン ス/譲渡契約を締結することは困難となる。 b-10 収入が少ない 大学知財部の収入が少ない理由として以下の2点が考えられる。 1. 特許を評価できない(b-11) Bの b-7 の2に同じ。 知財部員として特許を評価できないため、無償や、安過ぎる価格で特許権がラ イセンス/譲渡される事例も有る155。 2. ビジネスの度外視(b-14) 大学は、他大学との横並び意識で知財戦略を策定する傾向にある156。自校が 最も利益を上げるためにはどのシーズをどのような製品/サービスにすべきか という経営的な視点が不足しているために、ライセンス/譲渡収入が少なくな るのではないかと考えられる。 b-11 特許を評価できない 大学知財部員が特許を評価できない理由として以下の2点が考えられる。 1. 人事異動(b-12) Bの b-8 に同じ。 元々大学では教育職と行政職がその主軸であるところ、定期的な人事異動に よって、技術を評価できる人材が育たないのである157。 2. 国の施策への依存(b-15) 日本版バイ・ドール条項が出来る前は、国からの資金提供を受けてなされた発 明に基づく特許は自動的に国有特許になっていたため、大学が特許の評価を行 って活用する必要性に乏しかった158。また現在も、仮説1において検討した通 153 154 155 156 157 158 脚注 39 に同じ。p59 脚注 35 に同じ。p16 脚注 39 に同じ。p5 脚注 15 に同じ。p32 脚注 51 に同じ。p56 脚注 19 に同じ。p46 33 り、大学の知的財産活動は国の施策に大きく影響されている可能性が高く、特許 を評価して活用する(成果が出るのは数年、数十年先となる場合が多い)ことよ りも、成果が目に見える特許出願を行うことに力点が置かれていることが考え られる159。 b-12 人事異動 大学内の人事異動の理由として以下の点が考えられる。 ・知財の管理(b-16) 仮説1で述べた通り、大学知財部は知的財産の創出・管理・活用を命題として 掲げられ誕生したものだが、創出は研究者、活用は企業が行うものであるので、 大学知財部は知財の管理を行うことが主になっているのではないか、またそれ 故に、技術的な知識やビジネスセンスも相対的に求められず、人事異動によって 専門性が育たなくなっても構わないと思われている、或は国の施策に影響され 易い(b-14 参照)のではないかと考えられる。 b-13 情報の発信・収集不足 大学知財部が知財に関する情報の発信・収集が不足している理由として以下 の点が考えられる。 ・ビジネスの度外視(b-14) Bの b-10 の2に同じ。 特許を用いて利益を上げるという意識が不足しているために、自校のシーズ に関する情報発信や、他校・企業の特許に関する情報収集が行われにくい状況に なっているのではないかと考えられる。一例を挙げると、大学のホームページに は「企業の皆様へ」というページが有り、産学連携に関する情報が集約されてい ることが多いが、その大学が保有している特許なり研究成果なりのデータベー スを見ると、論文の要約のような難解な説明がなされていることが少なくない。 企業にとっては、ある研究成果がどのような学術的意義を有しているかという ことよりも、どのような製品やサービスになり得るのかという点が重要なので あって160、産学連携を望むのであれば、具体的な製品イメージに繋がる宣伝が 行われなければならない。企業が求めるもの、ビジネスにおいて必要な視点が不 足していることが、このような現象を引き起こしているのではないかと考えら れる。 159 160 脚注 32 に同じ。 ダイヤモンド社「日本では特許の 7 割が"休眠"通産省主導で活用の動きも 特集 休眠 特許を宝の山にする法」週刊ダイヤモンド 1999 年7月 24 日 p84-90 34 b-14 ビジネスの度外視 大学知財部がビジネスを然程考慮しない理由として以下の点が考えられる。 ・国の施策への依存(b-15) 出願件数のグラフを見ても、景気変動には殆ど左右されないのに対し、国の施 策には大きく影響されている。今でこそ大学には自律自治が求められ、競争的資 金や補助金獲得のために大学が知的財産戦略を立てなければならない状況にな っているが、嘗ては大学自らがビジネスに精通している必要性が高くなかった のである161。 b-15 国の施策への依存 大学知財部が国の施策へ依存する理由として以下の点が考えられる。 ・知財の管理(b-16) b-12 参照 《C.企業の面》 c-1 休眠 大学特許が休眠する理由として以下の2点が考えられる。 1. 産学連携の経験に乏しい(c-2) Bの b-1 の2に同じ。 2. シーズ・ニーズマッチング困難(c-5) Aの a-1 の2に同じ。 c-2 産学連携の経験が乏しい 企業が産学連携の経験に乏しい理由として以下の2点が考えられる。 1. 契約上の問題(c-3) 産学連携時の契約では、大学と企業の利害対立から、種々の問題が生じる。典 型的には、大学が企業に対して不実施補償を求め、企業が補償料を払うのを嫌う、 事務手続きが煩雑で契約締結が困難であるといった事である162,163,164,165,166。こ れらの問題が、産学連携に対する敷居を高くし、企業をして産学連携に消極的に 天野郁夫(国立大学財務・経営センター) 「第 11 章 184 162 脚注 15 に同じ。p9 163 脚注 31 に同じ。p46 164 脚注 39 に同じ。p60 165 脚注 116 に同じ。 166 脚注 117 に同じ。p8 161 法人化前の財政と財務」p161- 35 せしめる要因となっていると考えられる。 2. リスク回避(c-6) 国内企業が大きなリスクを負いたがらず産学連携に繋がらないという事情が 有る167,168,169。敢えて「国内企業」という書き方をしたのは、後述する成功事例 分析との関係で、海外企業と比較した場合の、リスクに対する国内企業の考え方 が、産学連携の阻害に繋がっていると考えられるためである。後述するが、東京 工業大学の細野秀雄教授等が発明したIGZOは、特許を取得した段階では国 内企業が実用化を断っており、最初に実用化に踏み切ったのは韓国企業のサム ソンであった。 国内で優秀な研究成果が発表され特許となっても、国内企業がそれを看過し、 海外企業に先に実用化されるということもある(上述のIGZOの事例)。世界 的に見れば、優れた技術がいち早く社会に還元されるのは望ましいことではあ るが、日本経済や日本国内の企業の利益を考えるのであれば、国内企業が率先し て実用化に踏み切る機を逃していると捉えることも出来る。 c-3 契約上の問題 産学間で契約上の問題が発生する理由として以下の2点が考えられる。 1. 情報の発信・収集不足(c-4) ある大学とある企業の間でどのような特許が幾らでライセンスされたかとい う情報は超機密事項であり、社会に対しては開示されない。また、企業が自社内 で特許をどのように評価しているかという指標も、開示すべきではないかとい う指摘をされるに留まっている170。評価額が開示され、情報として蓄積されな ければ、特許を金銭的に評価する作業は進まず、ライセンス料率や譲渡金額の交 渉において産学両者が合意に至らないということになる。 2. 経費節減(c-7) 大学特許を企業が実用化する際に、ライセンス契約ではなく権利の譲渡契約 を望む企業が多いのではないかと推測される。企業が大学特許を譲り受ける場 合、譲渡金額は、権利取得までに掛った費用が相場となるため、過去に大学が負 担して来た金額を支払えば済むのであるが、ライセンス契約の場合、企業がライ センスを受けている期間中は、大学に対し継続してライセンス料を支払わねば 167 168 脚注 32 に同じ。 JST編集部「海外の製薬会社が日本のシーズに注目」JST 産学官ジャーナル 平 成 25 年 11 月 169 田中義敏「未利用特許の発生原因に関する研究」平成 20 年9月 30 日 p71 渡部俊也「特許の質の評価 誰のために、何に使うのか」 情報管理 2009 vol52 No5, 平成 21 年 8 月 p306 170 36 ならず、また、幾ら支払わなければならないかは製品やサービスが販売されてみ なければ分らない。この点は、営利機関である企業にとっては好ましからざる状 況である。 また、企業同士で特許権のライセンスや譲渡契約を締結する場合と異なり、産 学連携の場合には産と学の間に TLO 等のコーディネーターが存在する場合が多 いので、そのような機関や個人に対する報酬が上乗せされる分、企業が産学連携 に遣う金額は嵩むことになる。 このような状況が、産学連携の契約締結時の問題を生じさせていると考えられ る。 c-4 情報の発信・収集不足 企業による、知財関係の情報の発信や収集に不足が生じる理由として以下の 点が考えられる。 ・特許評価結果の公表に重きを置かない(c-8) 特許に限らず知的財産の評価は、評価事例が公表され蓄積されないことには その精度は向上しないが、ある企業がある特許を幾らで譲り受けたか、或はライ センスを受けたかということは営業秘密であることは言うまでもない。また、企 業内で特許をどのような基準で金銭的に評価するかという評価指標にしても、 それを公表したところで自社のブランド形成に繋がるとは考えにくい。これら の事情から現在は、特許の評価手法や評価指標に関する情報公開が進まないの ではないかと考えられる。 情報収集に関しても、他企業は上記の理由から情報発信をしたがらず、大学も 大学で情報の公開に不足が有るので、企業が産学連携の事例や特許の評価額に 関する情報を収集する際には工夫が必要になる。 c-5 シーズ・ニーズマッチング困難 シーズ・ニーズマッチングが困難である理由として以下の2点が考えられる。 1. リスク回避(c-6) Cの c-2 の2に同じ。 2. 意思疎通困難(c-9) Cの c-5 の2に同じ。 c-6 リスク回避 企業がリスクを回避する具体例として以下の2点が考えられる。 1. 経費節減(c-7) 企業がリスクを回避する当然の理由として、事業の失敗による損失を被りた 37 くないという事が有る。 大学の研究成果は実用化が難しく、適時に適当な形で上市出来るかも分らな いため171、事業を慎重に遂行したい企業としては、大学シーズを用いての事業 は避け勝ちになると考えられる。 2. 市場・顧客優先(c-10) 企業は製品やサービスを顧客に購入してもらわなければならない。購入して もらえないリスクを避ける為には、市場の動向や顧客のニーズを注視する必要 がある172。 c-7 経費節減 企業が経費を節減する具体例や理由として以下の2点が考えられる。 1. (具体例)特許評価結果の公表に重きを置かない(c-8) 企業は必要最低限の支出しか行いたくないと考えられるため、技術という不 確実なものを換価するために人員と予算を遣うことが出来るのかということに は疑問が残る。自社の特許に関しては、事業に直結するものは外部に鑑定を依頼 する等して評価していることは想定されるが、大学の特許に関する評価や評価 した結果を公表することは単なる「コスト」となり兼ねない。 2. 競争=利益創出(c-11) 企業は、反復継続して営利活動を行う団体である。その当然の帰結として、他 社との競争に勝ち、利益を創出し続けなければならない。故に、利益を減じさせ る支出は必要最小限に留める必要が有る。 c-8 特許評価結果の公表に重きを置かない 企業が特許の評価結果の公表に重きを置かない理由として以下の点が考えら れる。 ・ブランドで差異化(c-12) ある企業がある特許を幾らで譲り受けたか、或はライセンスを受けたかとい うことは営業秘密であることは言うまでもない。営業秘密の漏洩は企業の信用 失墜に繋がり兼ねないため、特許の評価額は公開することができない。また、企 業内で特許をどのような基準で金銭的に評価するかという評価指標にしても、 それを公表したところで自社のブランド形成に繋がるとは考えにくい。 c-9 意思疎通困難 企業と研究者の間で意思の疎通が困難になる理由として以下の2点が考えら 171 172 脚注 40 に同じ。p3 大学技術移転協議会「産学連携とTLOの必要性」http://unitt.jp/tlo/need 38 れる。 1. 市場・顧客優先(c-10) 研究者は、自らの研究内容に関する事柄を注視し勝ちである一方、企業が常に 注視しているのは、自らの属する市場がどのような状況か、自らの顧客は何を求 めているのかということである。注目する点が異なれば、企業と研究者の意思の 疎通が取り辛くなることが考えられる。 2. 企業と研究者の接触が少ない(c-13) A の a-9 の2に同じ。 c-10 市場・顧客優先 企業が市場動向を重視する理由や具体例として以下の2点が考えられる。 1. 競争=利益創出(c-11) C の c-7 の2に同じ。 他社との競争の中で生き残って行く為には、市場のニーズに有った製品・サー ビスを適時に上市することが求められる。 2. (具体例)自社内応用研究開発(c-14) 大学の研究成果は基礎的であり、上市するには時間が掛かると言われること が多い173。市況やニーズは刻々と変化するため、大学の研究成果を用いた事業 を行うよりも、自社の中で応用研究を進め、製品化が直ちに行える状を整備して おくことは、企業が市場や顧客の動きを注視していることの一例と言える 174,175,176。 c-11 競争=利益創出 企業が競争を通じて利益創出をする具体例として以下の2点が考えられる。 1. 技術で差異化(c-15) 2. ブランドで差異化(c-12) 企業は他社と自社の差異化を図るに当って、製品やサービスそれ自体の技術 を向上させる方法と、製品の精度の高さや CSR 活動等を通して企業のブランド を形成する方法とを取り得る。 173 174 175 176 脚注 40 に同じ。p3-4 脚注 60 に同じ。 脚注 117 に同じ。p2 清松久典「休眠特許の社外活用の実務」技術情報協会 平成 20 年 10 月 p43 39 c-12 ブランドで差異化 企業がブランドによって他社との差異化を図る理由として以下の点が考えら れる。 ・営利活動(c-16) 商標法が商標権を実質的に半永久的に保護していることからも明らかなよう に、企業のブランドは、営業活動を継続する上で重要なものである。今後も事業 活動を継続するのであれば、ブランドによって自社と他社とを区別し、それによ って利益を創出することがひとつの戦法となる。 c-13 企業と研究者の接触が少ない 企業と研究者の接触が少ない理由として以下の点が考えられる。 ・自社内応用研究開発(c-14) 企業が自社内での研究開発に傾注するようになると、大学や大学研究者と接 触する機会は減少すると考えられる。無論、学会や論文を通して大学の研究成果 を調査することは有るかも知れないが、その研究成果に基づいて大学や研究者 に産学連携を持ち掛けることは考えにくい。 c-14 自社内応用研究開発 企業が自社内での応用研究開発に注力する理由として以下の点が考えられる。 ・技術で差異化(c-15) 企業が自社内での応用研究開発に注力する理由は、技術革新によって他社の 製品・サービスと自社の製品・サービスとを差別化するためと考えられる。 c-15 技術で差異化 企業が技術によって他社と差別化を図る理由として以下の点が考えられる。 ・営利活動(c-16) 世の中のニーズが高度化すれば、企業はそれに応じた製品・サービスを顧客に 提供しなければならない。高性能、高品質な製品・サービスを提供できない企業 は自然淘汰されていくため、今後も事業活動を行うためには技術革新による他 社との差別化を図ることが求められる。 《D.コーディネーターの面》 (1)研究者との関係 ・研究者を企業に紹介できていない JSTの新技術説明会について、平成 18 年から 24 年までの平均マッチング 40 率は 29.4%、平均個別相談数は 2.4 件と書かれており177、確かに一定の成果は 存在する。しかし、マッチング契約の内容を見ると技術指導とサンプル提供で約 半分を占めており、継続的・大規模な共同研究等には繋がっていないのではない かと考えられる。 ・足繁く研究室に通わない178 ・技術の目利きができない 技術の不確実性故に、シーズ・ニーズマッチングは産学間コーディネーターの ような人物の経験と勘に頼らざるを得ない状況ともなっているが179、コーディ ネーターの経験不足が尚課題として存在する180。 ・大学知的財産部と研究者の間を取り持てない 国内に、産学連携に関する支援やファンディングを行う機関は幾つか存在す る。研究者個人に対する支援や企業に対する支援の種類は豊富だが、大学知財部 職員に対しては、知的財産法に関する研修会を行う等その支援には限りが有る。 研究者と大学知財部それぞれから出た情報をコーディネーターが集約すること は可能かも知れないが、大学職員と研究者が情報交換をし易い仕組み作りに関 する支援事業は管見の限り無い。 (2)大学知的財産部との関係 ・大学知的財産部と研究者の間を取り持てない (1)に同じ。 ・窓口が分りにくい 大学知的財産部にせよ、コーディネーターの属するファンディング機関にせ よ、主にホームページ上の相談窓口が明確でないという課題が有る。大学に関し ては、知的財産部と産学連携本部の業務内容が区別し辛かったり、TLOと産学 連携本部の関係が明確でなかったりする場合が多く、連絡先も、何度もリンクを 経由しなければ辿り着かない大学が少なくない。支援機関に関しては、支援内容 は豊富に有るが、類似した名前の事業が多く、どの支援が最も自校に適している のかを判断するのが難しいという特徴が有る181。 ・大学職員への教育が定着しない 先述の、大学内での人事異動という事情から、大学職員に知的財産法の研修を 177 JST 新技術説明会ホームページ http://shingi.jst.go.jp/outline2.html (2016 年 1月 12 日 最終アクセス) 178 脚注 32 に同じ。 179 脚注 45 に同じ。p3 180 脚注 35 に同じ。p20 181 脚注 32 に同じ。 41 行ったとしてもその知識が継承されて行かないという難点が有る。 ・大学を企業に紹介できていない (3)企業との関係 ・企業を大学に紹介できていない(前述) ・市況の変化が早く、ニーズの把握が困難である ・大規模な実用化ができない(少額のライセンスが多く、加えてライセンスより 譲渡が好まれる)182,183 ・企業を研究者に紹介できていない(前述) この仮説2では、研究者・大学・企業の三者の関係に主眼を置き、仮説2中で 挙がっている各課題に基づいてアンケート調査を行うこととする(次章参照)。 予想としては、仮説2の立体図形の外側へ向かう程様々な問題の根本原因とな るので、その分多くの人が問題意識を持っており、意見数が増えて行くのではな いかというものである。また、事例分析を行う際にも、図形の外延部分を解消し た結果成功事例となったのではないかと考えられる。最終的には、仮説2の外延 部分に対する解決策を提案したいと考えている。 182 183 脚注 108 に同じ。 大学等における産学連携等実施状況について(平成 24 年度~平成 26 年度) 42 【第3章:検証】 (1)アンケートの内容・発送先 仮説の立証のため、学外へのアンケート調査を実施した。実施概要は以下の通 りである。 アンケート発送先: 「JST技術移転事業 50 年史」 (データ編)184の「技術移転 (委託開発)」 「技術移転(委託開発以外)」 「産学共同シーズ イノベーション化事業(育成ステージ)」 「新技術コンセプト・ モデル化推進事業」、JSTの「成果集 2015」、JSTのホ ームページ上で成功事例として紹介されている事例に名前 が有り、尚且現住所・役職を特定出来る研究者 311 名、大学 96 校(知的財産部/産学連携本部)、企業 51 社(知的財産 部/法務部)。 アンケート概要:研究者・大学・企業それぞれに、産学連携時のお互いの関わり 方や、お互いに対する印象、大学特許に対する意識等を問うた。 アンケート原本:アンケート関係資料として論文末尾に添付している。 アンケート回収期間:2015 年9月1日~2015 年 10 月 15 日 回収件数(回収率):182 通(39.7%) 大学については、特許に関わる部門別に校数を集計したところ以下の通りになった。 図3-1 184 独立行政法人科学技術振興機構技術移転事業 50 年史編集委員会編「JST技術移転事 業 50 年史(データ編) 」平成 20 年 11 月 14 日 43 (2)集計結果と仮説へのあてはめ ここからは、アンケートの集計結果を仮説1・2のそれぞれに当てはめると共 に、仮説外の分析も行い、最終的な呈言の礎とする。 A.仮説1への当て嵌め 仮説1は、大学と研究者が、何を目的として研究成果を特許化するのかという 問いに対し、国策に基づいて研究費獲得のために特許出願をしているのではな いか、という考えであった。実際のアンケート結果(複数回答可)は以下の通り である。 ・研究者が研究成果を特許化する理由 図3-2 図3-3(色が濃い程出願件数が多い) 44 図3-4(色が濃い程出願件数が多い) ・大学が研究成果を特許化する理由 図3-5 研究者も大学も、研究成果を実用化する(企業との共同研究も、最終的なゴー ルの一つとして実用化を含んでいると考えられる)ためのツールとして特許を 認識していることが窺える。特に、出願件数が 100 件以上の研究者の特許化理 由は極めて産業寄りである。しかし大学の回答を見ると、 「国策に基づいて」と いう回答が、 「実用化」 「共同研究の呼び水」という目的と肩を並べている。尚、 45 大学の「その他」の回答の中に、 「競争的資金の獲得」という回答が一定数有る。 競争的資金の獲得に知的財産権の保有に関する活動状況が加味されるようにな った契機は、知的財産推進計画という国策であるので、 「国策に基づいて」とい う回答に、 「競争的資金の獲得」という回答はある程度包含されていると考えら れる。 研究者、大学双方の回答に、 「企業との共同研究の契機にしたい」というもの が有るが、では何故そのように考えるのかという理由を問うた結果(複数回答可) が次のグラフである。 ・研究者が産学連携に参加する理由 図3-6 ・大学が産学連携に参加する理由 図3-7 46 研究者の回答には、 「研究成果を実用化したい」 「新たな研究テーマの糸口とし たい」という、自らの研究内容そのものに着目したものが多く、次いで、 「研究 費の獲得」という目的が有る。これは、前述の知的財産推進計画の中に、知財活 動の活発さが研究費配分に影響するという内容が含まれているためと考えられ る。大学側の回答を見ると、 「研究者や学生への刺激になると考えたため」とい う回答が最も多いが、それと肩を並べるように、 「企業からのライセンス・譲渡 収入を得たい」という回答が有った。 「国策に基づいて」と「外部資金獲得」の 関係は前述の通りである。 これらを併せ考えると、研究者が研究成果を特許化する目的は主として自ら の研究成果の実用化であり、国策に基づいた研究費の獲得という目的は、 「一定 の割合で存在する」と言えるに留まった。 大学に関しては、研究成果を特許化する直接の目的は研究者と同様であるが、 その背景(産学連携を行う理由)にまで踏み込んで考えると、国からの科研費配 分に限らず、金銭収入を得たいという目的が目立った。この意味で、仮説1は、 科研費獲得という部分に限っては正しいと言える。 研究者と大学とで、特許に対する姿勢に若干の違いが見られたところで、次に 産学連携の相手方である企業も含めて、産学連携の目的を三者横断的に比較す る(詳細はアンケート資料編 p108-109 参照)。 研究者 大学 企業 概算 1、実用化 2、新テーマの 糸口 1、教員や学生への刺 激 2、収入獲得 1、研究者の知見が欲 しい 2、新規事業を始めた い 出願件 数別 4件以上で、研 究費獲得は一定 の大きさを持 つ。 件数が増えると、収入 獲得という動機は増 え、国の政策という動 機は減る。 件数が増えると、新規 事業を始めたいという 動機が減る。 産学連 携件数 別 相関なし 表3-1 47 表3-1を見る限り、産学連携に参加する目的として、研究者の目的と企業の 目的は概ねその利害関係が一致しているように思えるが、大学の目的は、少なく とも企業の目的とは相容れないようである。仮説2の部分で詳しく後述するが、 ここでは、大学と企業の、産学連携に対する姿勢の不一致が、大学特許実用化の ひとつの阻害要因になっているのではないかという記述に留めることとする。 ここで、改めて、大学・研究者が研究成果を特許化する目的を総括すると、第 一義的には、 「研究成果の実用化」であるが、その背景にある目的は、研究者と 大学とで異なっている。 特許を取得する目的が、研究成果の実用化にあるのであれば、大学特許は実用 化に資する(企業にとって魅力の有る)ものでなければならない筈である。アン ケート自由記入においても、JSTへのヒアリングにおいても、 「大学は企業と 異なり、ビジネスをする主体ではないので、特許の利用率が低いということを、 企業のそれと同様に嘆くのは性急である」というご指摘を賜った。確かに、御説 の通りである。然し、大学特許の存在意義の大半を実用化が占めていると判った 今、ビジネスを行うために有用な武器となる特許を取得することは、大学知財部 乃至研究者の重要な命題であると考えられる。 また、特許取得の目的が科学研究費の獲得であるという回答も一定数存在し た。研究費の配分に特許取得件数のみが考慮されるのであれば、必ずしも有用性 の有る特許を取得する必要は無いかも知れないが、国策では、ライセンス活動に ついても考慮されるとしている。この点を考えれば、やはり実用性の有る特許を 取得することが求められる可能性が高いと言える。 さて、アンケートを出す前の仮説1では、大学特許の存在意義を研究費の獲得 に絞っていたため、大学特許の実用性に難が有るという現状を比較的説明し易 かったが、多くの大学関係者の意識が実用化に向いているというアンケート結 果を見るに、大学特許が休眠する理由を考え直さねばならないようだ。 B.仮説2への当て嵌め アンケート結果に基づいて、仮説2の図形を組み直すこととした。旧仮説2 (立方体)では、各面に 16 個の交点が有り、そのそれぞれに各者の課題をプロ ットしていた。旧仮説2は、研究者・大学・企業三者の関係や、各課題の因果関 係を説明することには適しているが、研究者・大学・企業・コーディネーターの 四者の関係は一覧で見ることが出来ず、時間の経過も追うことが出来ないとい うのが欠点であった。 アンケート結果を旧仮説2に当て嵌めた結果、以下のような結果が出た。 48 ・アンケート結果を各交点に落とし込んだ結果、当初の予測から外れ、意見数 の多さに規則性が見られなかった(下図参照。アンケートのQ7中「その他」 と自由記入の意見の中から、各課題に当て嵌まる意見を抽出した。元々の課題 設定が曖昧であったことも有り、下図に数字が書かれているのはまさしくその 課題に対する意見であると分るもののみである。その他の課題については、全 く意見が無かったか、若しくは、当て嵌めるには課題か回答のいずれかが曖昧 であった)。 図3-8(図2-2再掲) ・アンケートの回答内容を読むことで、各課題の中で「絶対に仮説から外しては いけないもの」と、「他の課題に統合しても良いもの」が明確になった。 アンケートとヒアリングを通して、旧仮説2の欠点部分が、事例分析や呈言を 行う際に重要であることを認識したため、旧仮説2で挙がっている課題を基礎 にし、アンケート内容を加味して、最も重要な課題を抽出したもの、そしてそれ らに、前記四者と時系列の要素を加えたものが新仮説2である。 まず、アンケート集計結果を当て嵌める前に、新仮説2の枠組みだけを先に説 明する。 49 図3-9 縦軸は、上から下へ向かうにつれ、研究成果の誕生から実用化へと段階が進む ようになっている。①から⑨まで、旧仮説2で挙げられた課題の中から、アンケ ートの中で意見数が多かったものを中心に選定し時系列に並べた。そして各課 題の背景に有る問題を左側に付記した。時系列は飽くまで一例であるが、いかな るストーリーに基づいた時系列かを説明する。 まず研究者が、使命感や義務感に基づいて研究成果を生み出すが、真理の探究 に留まっているために実用化に必要な実験結果等を伴っていない。或は大学と しても、研究成果を製品やサービスとして売り出して金銭収入を行うのは好ま しくない、大学は真理を追究しその成果を広く社会に還元することが本分であ るという観念を持っている場合が有る(①)。そのため、研究者も論文や学会で の研究成果の発表を優先し、それにより得られる名声や満足感、研究費の獲得を 目的とする傾向に有る。これは、特許法 30 条適用との関係で特許権の権利成立 に大きく影響する(②)。論文や学会による発表を優先するか否かに関わらず、 生まれた研究成果を特許出願する場合には、知財法の知識は勿論のこと、 「どの タイミングでどのような特許を出願するか」という戦略も求められるが、研究者 は研究活動や論文執筆、校務分掌で多忙であり、大学知財部は定期的に人事異動 が有るケースが多いため知財戦略に長けた人材を育成することが難しく、コー ディネーターにしても、自分の専門外の法律に関する知識は不足している場合 が有る(③)。それに加えて、主として大学知財部やコーディネーターの問題で あるが、特許の管理に重きを置き、出願に係る手続が煩雑であって研究者との連 携が円滑に行われないという現実が有る。これは、今までのやり方で当該部署が 50 業務を行って来たという歴史と、今後も同じ方法で部署の業務を継続遂行して 行こうという、組織側の意思の表れではないかと考えられる(④)。このような 状況を前提として、いざ特許出願を行おうというときに、研究成果のどの部分を 権利範囲の中に入れて良いか分らない、また、社会のニーズ(顧客)に対して手 元のシーズがどのように役立つのかが分らないため特許群の構築が出来ないと いう問題が想定される。これは、主に大学知財部やコーディネーターが、自らの 専門とする分野(薬学、生命科学、といった技術分野。大学知財部においては、 そもそも技術系職員が常駐していない場合も有る)の範疇では自らの力量を発 揮するが、その専門を外れるとシーズやニーズの見極めが行いにくいという事 情に依る(⑤)。⑤の事情に加えて、特に大学知財部では長年資金不足が叫ばれ ており、十分な特許網を構築出来るだけの余裕が無いため、結果的に特許の権利 範囲が狭小になり、企業にとって魅力的に映らなくなる(⑥)。そして、企業へ 技術や特許を売り込もうと言う段になって、特に大学知財部は技術に対する理 解が不十分になり易く、技術移転先を探すことにも(研究者から見ると)不慣れ であるため、画期的な研究成果であって特許出願も行っている、更には大学ホー ムページでシーズ集を公開しているにも関わらず、特許のライセンスや譲渡、或 は共同研究に応じてくれる企業が見付からないという事態に陥る(⑦)。⑦まで の問題を解消して、パートナーとなる企業が見付かったとしても、契約上の問題 が発生することが多々有る。典型的には不実施補償に関する条項に対する産学 の意見の不一致である。大学側は、研究者に対する補償を行わなければならない、 或は部門の活動費を確保しなければならない等の理由から不実施補償を要求す ることが多いようだが、企業側から見れば、特許出願等の費用や研究に係る費用 を企業が負担している状況で、更に不実施補償を要求するという行動はビジネ ス常識に欠けると映っている。その他にも、特許の出願・維持に係る費用負担の 割合や研究者への還元の割合等、主に金銭面でのトラブルが絶えないようであ る(⑧)。そして契約の問題をクリアしても尚、していない状態なら尚のこと、 企業は大学の研究成果を実際の製品やサービスに活かさない、或はそのための 金銭的投資を行わない場合が有る。大学の研究成果が基礎研究に傾いており実 用化まで相当の時間や費用が掛る、他社に特許権を取られる位であれば自社で 権利を保有(実施許諾を受けることも含む)していた方が良いという防衛の観点、 公的資金を投入する研究であれば、一定の成果を出さなければ国民への説明責 任を果せないので見通しのつき易い研究への投資が優先される等の理由が考え られる(⑨)。 以上が、新仮説2のストーリーである。 横軸は、左から右へ向かうにつれ、産学連携の歴史から鑑みて参加するプレイ ヤーが増えたことを表している(研究者が自らベンチャー企業を起していた時 51 代→研究者個人と企業の二者間関係だった時代→JSTなどのコーディネータ ーが出て来た時代→大学知財部も関わるようになった時代)。 この土台にアンケート結果を当て嵌めると、以下のような結果になる。当て嵌 めたのは、アンケート中のQ7(研究者、大学知財部、企業、コーディネーター、 現行特許制度それぞれへの要望を訊いた問)への回答結果と自由記入の意見で ある。本来はQ7と自由記入を分けた状態で仮説への当て嵌めを行いたいが、自 由記入の意見であってもQ7の内容に近いものが有り、またQ7で問うている ような「要望」と、自由記入で回答の多かった「課題の指摘」は表裏一体である ため両者を分かち難かったことに依る。 尚、Q7の選択肢の内、以下のものは新仮説2の番号に読み替えた。 ・大学への要望:特許出願の手続負担を軽減してほしい、産学連携の窓口をわか りやすくしてほしい→④ 技術移転先を探してほしい→⑦ 契約時の手続を簡便にしてほしい→④、⑧ ・研究者への要望:論文・学会発表の前に特許を取得/出願してほしい、論文・ 学会発表の前に技術移転の相談をしてほしい→② ・企業への要望:特許出願の手続負担を軽減してほしい→④ 特許権の譲渡よりもライセンスに応じてほしい→⑧ ・コーディネーターへの要望:産学連携活動時の打合せの負担を軽減してほし い、産学連携の窓口をわかりやすくしてほしい、産学 連携の支援制度をわかりやすく説明してほしい→④ 研究内容について、より深い理解をしてほしい→⑤ 技術移転先を探してほしい、企業・研究者・大学のお 互いが接触する機会を多く設けてほしい→⑦ ・現行特許制度への要望:論文形式のまま出願できる制度(仮出願制度)が ほしい→② 共有特許を企業/大学として単独で利用しやすい制度 がほしい→⑧ また、自由記入の意見の中に、主語が不明瞭であったり新仮説2のプレイヤー でなかったりし、新仮説2に当て嵌めるためには若干の解釈を必要としたもの が含まれている。例えば「大学特許は」が主語になっている意見が多かったが、 それは、 「研究者」と「大学」への指摘としてカウントした。また、 「大学が研究 成果の公表を使命としている」という意見も多かったが、実際に研究成果を公表 するのは主として研究者であるため、「研究者」への指摘としてカウントした。 一つの意見の中に複数の要素が含まれている場合はその要素のそれぞれに対し 52 1件としてカウントしている。実データは分量が多く、巻末に纏めて紹介せざる を得ないため、そちらを参照されたい。 図3-10(丸の左側が意見数) この時点でアンケートの意見数が0件の部分は、基本的に事例を当て嵌める 場合にも考慮する必要は無いと考えられる。何故ならば、アンケートの意見数が 0件であるということは、縦軸に取ってある課題が各プレイヤーに当て嵌まら ない(例:企業の①が存在することは考えにくい)か、若しくは誰も問題視して いない、気付いていない課題であると考えられるためである。誰も問題視してい ない課題を軽視して良いという訳ではないが、特殊事情は事例分析や解決策提 案の際に考慮すれば良く、差し当たってはアンケート回答者の関心が有る問題 と、事例が解消した問題との関係の分析を行うことで、解決策の骨組みを作るこ とを目標としているため、アンケート回答者の関心が全く無い問題は度外視し ておく。 新仮説2に基づく予想は次の通りである。 ①成功事例は、旧仮説2で「元凶」という扱いであった(最も根本原因であった)、 研究者の「真理の探究(①)」、大学知財部の「知財の管理(④)」、企業の「営 利目的(⑨)」を克服しているだろう。 ②成功事例は、アンケートで意見数の多かった問題点を克服しているだろう。 そして、この予想が正しければ、旧仮説2ないしアンケートで重要とされた課 題と、成功事例が克服した課題とが重なっている部分にのみ解決策を講じれば よいことになる。 次章では、実際に3つの成功事例を新仮説2に当て嵌め、仮説の検証を行う。 53 【第4章:事例分析】 本章では、第2・3章で検討した仮説2に、現実の成功事例を当てはめ、仮説 2の中で、成功のために重要な要素はどれなのかということを明らかにする。こ れによって、今後大学特許を実用化した成功例が生まれ易くなるために、何を重 点的に改善しなければならないのかということを明確にし、自説の展開に繋げ たいと考えている。 (1)成功事例1:イベルメクチン(大村智教授/北里大学、メル ク株式会社)185,186 A. 事例の概要 大村智氏が技術補として北里研究所に入所するのは 1965 年のことである。大 村氏はそこで微生物に関する研究を行っていたが、北里研究所に入る前は東京 理科大学大学院で有機化合物の化学構造決定をなっていたので、北里研究所で も微生物が生産する有機化合物(セルレニン)の構造決定を行い、この研究が後 の留学先での共同研究に繋がることになる。 1971 年、アメリカ・コネチカット州のウェスレーヤン大学に留学をし、大村 教授は身分も研究費も不自由無い環境で研究活動を行っていた。ハーバード大 学のコンラッド・ブロック氏と相対した際、セルレニンの話をし、脂肪酸の生合 成を阻害する物質としては世界初だと思うと話したところ、ブロック氏が3ヶ 月で作用機序を調べ、共同で論文を発表した。 予定よりも早く北里研究所からの帰国指示が有ったが、日本では十分な研究 費が確保出来ないと考えた大村教授は、帰国間際に米国企業に共同研究を呼び 掛けて回った。その時に提案した内容が、後に「大村方式」と呼ばれるようにな るものである。要約すると: ①企業から大村教授へ資金を提供する(共同研究)。 ②大村教授が創薬に繋がる物質を見付けて特許を取得する。 ③特許の専用実施権は企業に与える。 ④見付けた物質と研究成果は企業に提供し、企業はそれを基にビジネスを行う。 ⑤ビジネスになったら企業は大村教授にロイヤリティを支払う。 185 馬場錬成「大村智-2億人を病魔から守った化学者」中央公論新社 平成 24 年 3 月 20 日 186 「新しい微生物創薬の世界を切り開く」生命誌ジャーナル Scientist Library Special ver. http://brh.co.jp/s_library/interview/84/ (2016 年1月 12 日 最終アクセス) 54 ⑥企業は、特許が不要になったら大村教授に返還する。 この条件で複数の企業を回った結果、共同研究先となったのがメルク株式会社 である。 その後日本に戻った大村教授は、1974 年、静岡県の土から分離した放線菌が 産生する化学物質が、動物に寄生する寄生虫を退治してくれる物質であること を発見し、エバーメクチンと名付けた。メルク社と大村教授とで共同研究を進め、 動物・人間双方に棲みつく寄生虫に効く化学物質を開発し、イベルメクチンと名 付けた。このとき、メルク社は動物実験や化学合成のための人員を提供したそう である。 メルク社は、大村教授の発見した放線菌の菌株と3億円の一時金で買い取ろ うとしたが、大村教授は、今後応用範囲が広がると見込んで、売上に応じたロイ ヤリティを要求した。その後のロイヤリティを総計すると約 250 億円になると 言う。イベルメクチンについては 1979 年に学会発表がされている。イベルメク チンは線虫性感染症の薬として利用され、アフリカ等の熱帯地方で多くの感染 症患者の治療に用いられている。大村教授は 2015 年のノーベル生理学・医学賞 を受賞している。 図4-1(事例の整理) 55 B. 仮説への当て嵌め 第3章で作成した新仮説2に、イベルメクチンの事例を当て嵌めると以下の ようになる。丸で塗りつぶしてあるのは、 「満たしている」の意味である。✓マ ークは、アンケート集計結果において意見数の多かった(20 以上)部分である。 尚、第3章で挙げた新仮説2は問題点を収集したものであったため、課題の語尾 が「~なかった」の形になっているが、成功事例の分析をする際に同じ図でその 表現を用いると混乱するため、表現を全て裏返しにし、 「~できた」の形にして ある。成功事例2・3においても同様である。 また、以下研究者(Researcher)をR、企業(Company)をC、コーディネ ーター(Coordinator)をD、大学(University)をUと略記する。 図4-2 大村教授は、研究における独創性を重視すると共に、ビニール袋とスプーンを 持ち歩き様々な場所の土を採取するという地道さを持って研究活動に当ってい たが、一方で、エバーメクチンの発見に対し「この発見は応用が利く」と見込ん でメルク社との交渉を行っている(R①、R⑤)。大村教授自身には、研究成果 を論文や学会で発表することでアカデミックな世界での実績を重ねることへの 拘りは有ったようだが、実際にJ-PlatPatで検索したところ(発明者: 大村智、出願人:北里研究所、要約・請求の範囲:エバーメクチン の公開・登 録公報)、特許法 30 条適用になっているものが 115 件中1件(特公平 06-030567) 見付かったが、エバーメクチン自体ではなく、抗生物質生産用培地の特許であり、 抗生物質の生産量を増加させるためのものであるので、周辺特許という扱いで 良いと考えられ、主要な特許について 30 条適用を行わなかったという点では、 研究成果の公表を優先しなかったと言えるであろう(R②)。また、大村教授自 身が特許出願・取得を行ったという書きぶりから察するに、書類上の出願人は北 56 里研究所であるが、大村教授自身にも知的財産法の知識は有ったと推定される (R③)。研究実績もさることながら、 「大村方式」と呼ばれる産学連携モデルは、 研究者にとっても企業にとってもメリットの有るものであり、契約交渉が円滑 に進んだのではないかと考えられる(R⑧、C⑧)。また、このモデルを携えて、 研究者である大村教授自身が企業への売込みを行っている(R⑦)。 一方のメルク社も、動物実験等のための人員を提供し、大村教授の負担軽減を 行っている(C④)。大村教授のそれまでの実績も無論であろうが、メルク社が 菌株を3億円で買い取ろうとした時に、メクルの中興の祖ティシュラー氏によ る「Make Satoshi Happy.」の一言でライセンス契約に切り替わったところをみ るに、企業の中にシーズを目利き出来る人が居、その目利きに基づいて投資を行 ったということなのだろうと考えられる(C⑤、C⑨)。 また、直接①~⑨の課題には当て嵌まらないが、その背景に有る事柄としては、 大村教授は幼少期に農作業の手伝いを行っており、農作業に必要な「将来を見越 して計画を立て、臨機応変に変更して行く」という資質が備わっていたことや、 1970 年当時は日本に比べて米国には潤沢な研究費が有り、研究者の姿勢も、日 本ではあてがわれた資金の中での研究を行うのに対し、米国では貪欲に資金集 めが行われていたといった事情が有ったようである。 (2)成功事例2:青色発光ダイオード(赤崎勇教授/名古屋大学(当時)、豊 田合成株式会社、新技術開発事業団(当時))187,188,189 A. 事例の概要 1980 年代初頭、名古屋大学の赤崎勇教授は高品質単結晶(窒化ガリウムの結 晶)の作製に成功した。しかし、赤崎教授自身が目標としていたpn接合の研究 にはこれから着手するという段階であった。赤崎教授が窒化ガリウムに拘った のは、「コンシューマー・プロダクトはどのような使い方をされるか分らない」 という意識が有ったからだという(赤崎先生ご講演 2015 年 12 月 11 日 15 時 ~16 時 東京大学安田講堂にて)。松下技研株式会社半導体部長であった時、部 長研修でそのような話を聞かされたそうだ。その自体に青色発光の分野で花形 であったのはセレン化合物というものであったが、セレン化合物は軟らかい物 質であり、コンシューマー・プロダクトには向かないと考えていた。より硬い物 187 188 189 脚注 60 に同じ。 脚注 69 に同じ。 独立行政法人科学技術振興機構 「委託開発の成果『青色発光ダイオード』の経済波及効 果について(調査結果の公表) 」 57 質である窒化ガリウムに赤崎教授が拘ったのはそのためである。 赤崎教授が単結晶作製に成功したのと時をほぼ同じくして、新技術開発事業 団:JRDC(現JST)の職員であった石田秋生氏が赤崎教授の研究成果を目 にし、1985 年 11 月2日、赤崎教授を訪問して研究成果の特許出願を依頼した (同月 17 日に出願がなされている)。 1985 年 11 月 11 日、赤崎教授がとある講演会の中で窒化ガリウムの結晶の話 をしたところ、複数の企業が興味を示したが、その後も継続的に実用化を申し入 れていたのは豊田合成株式会社であった。赤崎教授には、自身の研究に専念した いという思いが有ったものの、半年以上に亘って豊田合成と石田氏から実用化 の申込みを受け、1987 年から、JRDCの委託開発(独創的シーズ展開事業) という支援制度を用いて青色LEDの実用化に向けた取組みが開始することに なった。 豊田合成はゴムや樹脂製品が主力の企業であって半導体は専門外という状態 だったため、赤崎教授が豊田合成を訪問して技術者の指導を行った。高輝度青色 LEDが発売されたのは、1995 年のことであった。これより前から、名古屋大 学長又は豊田合成株式会社の名前で、窒化ガリウム系化合物半導体に係る特許 は数十件出願されている。JSTの調査によれば、青色発光ダイオードの実用化 によって、1997 年から 2005 年までの9年間で、国家に約 46 億円の実施料収入 をもたらし、約3兆 6000 億円の応用製品の売上にも寄与した。直接的には、国 内産業において 3500 億円弱の付加価値が新たに生み出され、約 3.2 万人の雇用 が新規創出された。 図4-3(事例の整理) 58 B. 仮説へのあてはめ 成功事例1と同様に、成功事例2も新仮説2に当て嵌めて分析を行う。 図4-4 赤崎教授は、初めの内こそ、自身の研究目標(pn接合)を達成するために企 業やコーディネーターからの誘いに難色を示していたが、最終的には豊田合成 と石田氏の熱意に折れ、豊田合成への技術指導を行うようになった(R①)。ま た、窒化ガリウムに拘って研究を続けていたのも、最終的な消費者製品を想定し てのことである(R①、R⑤)。研究成果の公表と特許との関係についても、成 功事例1と同様にJ-PlatPatで検索したところ(発明者:赤崎勇、出願 人:名古屋大学 の公開・登録公報)、63 件中特許法 30 条適用をしているもの が1件発見された(特公平 08-009518)。これは化合物半導体結晶の作製方法に 関する特許であり、学会発表から2ヶ月で出願して登録になっているとは言え、 主要特許の取得に際して危険を冒したことは否めないであろう。 豊田合成に視点を移すと、当時は半導体の黄金期であり、社長自らが赤崎教授 を訪ねる等の熱意を示していたことを見るに、これから青色LEDは伸びて行 く技術分野だと見込んでのことと考えられる(C⑤)。しかし、豊田合成は元々 半導体の会社ではなく、後述するコーディネーターの石田氏共々、 「専門外だか らこその挑戦」を行ったということなので、その意味ではリスクを取って実用化 に踏み切ったと言える(C⑨)。 コーディネーターの石田秋生氏はまさに「目利き」であり、赤崎教授の研究成 果を目にした時に、将来の応用を見込んだという(D⑤)。石田氏の所属機関で あるJRDCの中でも、本命はセレンであり、窒化ガリウムでの青色発光は手に 余るという見方が有ったようだが、最終的には実用化のために支援制度に採択 している(D⑨) 59 (3)成功事例3:IGZO(細野秀雄教授/東京工業大学、サム ソン他、科学技術振興機構)190,191,192,193 A. 事例の概要 1993 年、東京工業大学の細野秀雄助教授は、ユビキタス元素で出来た酸化物 に光や電気を通す研究を始めた。当時酸化物は絶縁体と見做されていたため、 1995 年に第 16 回アモルファス半導体国際会議でTAOS( Transparent Amorphous Oxide Semiconductor=透明アモルファス酸化物半導体)について の設計指針を発表した時も学会メンバーの反応は鈍かった。国際会議の翌年に IGZO(インジウム・ガリウム・亜鉛・酸素により構成される化合物)に関す る研究成果を発表し、1999 年から科学技術振興事業団(現JST)のERAT O(2004 年以降はSORSTに引き継がれる)という支援制度を用いて「細野 透明電子活性プロジェクト」が始動した。細野秀雄教授自身がERATO代表者 となっていた。 細野教授は 2002 年に、SCIENCE誌にTAOSのポテンシャルについて の決定的論文を掲載し、薄膜トランジスタに関しては 2004 年3月に特許出願を 行った。2004 年 11 月にはNATURE誌において、IGZOを材料とした薄 膜トランジスタの試作品が成功したと発表した。翌 2005 年に細野教授が基調講 演を務めた会議は、10 年前にTAOSの研究成果について参加者が殆ど関心を 示さなかった、アモルファス半導体国際会議(第 21 回)であった。2007 年に国 際情報ディスプレイ学会において、TAOS-TFTを用いたディスプレイの 試作品を展示し、国内では当該技術に関する関心が高まっていたが、2009 年5 月に、基本特許について韓国特許庁で拒絶査定が下り、細野教授自らが拒絶決定 不服の場に立った。 2011 年7月にJSTがプレス発表を行い、細野教授らが発明したTFT関連 の特許をサムスン電子へライセンスした。その後も日本国内メーカーへのライ センスが進み、実装化が行われている。 190 細野秀雄「材料科学の”新大陸”を発見 研究にオール・オア・ナッシングはあり得な い」JST 産学官連携ジャーナル 平成 21 年 6 月 191 丸山正明「酸化物半導体の基本特許を出願して、さまざまなことを体験しました」日経 テクノロジーon line イノベーター ひとづくり考 平成 24 年 2 月 22 日 192 「Close up 透明アモルファス酸化物半導体(TAOS)が実用化へ!」JST News April 2010 P6-9 193 「高性能の薄膜トランジスターに関する特許のライセンス契約をサムスン電子と締結」 JST プレスリリース 平成 23 年 7 月 20 日 60 A’ 事例の詳細(東京工業大学 元素戦略研究センター 特任教授 雲見日出也 先生へのヒアリング;2015 年 11 月 18 日 10 時~12 時 元素戦略研究セン ター5階会議室にて) 2004 年 3 月 12 日に、細野教授を発明者に含む、アモルファス酸化物に関す る特許出願がなされた。当時、東京工業大学にはTLOが有り、細野教授は、当 時のTLO理事長である清水勇氏に、特許出願したその技術を企業へリエゾン してほしいと相談し、清水氏からキヤノン株式会社の小松利行取締役(現職はキ ヤノンコンポーネンツ株式会社取締役)に電話でその話が持ち掛けられ、電話を 受けたその日に雲見氏を含むキヤノン社員が細野教授を訪ねた。これが 2004 年 5月のことである。その時には、後にNatureに掲載されることになるIG ZO・TFTの実験データが開示され、雲見氏は「これは良い製品に繋がる」と 確信したと言う。 しかし、実際にキヤノンと東京工業大学で共同研究が開始されたのは 2004 年 の9月である。5月からの4ヶ月は、共同研究契約の内容を詰める時間であった。 2004 年は、国立大学が法人化を始めた年であり、契約書の雛形には不実施補償 が入っていたため、産学が折り合うのに時間が掛ったとのことである。 共同研究が開始されてから約2ヶ月の間で、キヤノンと東京工業大学との共 願で、基本特許群を形成し、2004 年 11 月 10 日付で8件の特許を出願した。 2004 年3月 12 日の特許の国内優先権を主張した出願であり、元々のその特許 に比べて組成を拡げた形で基本特許群を出願した。因みに、2004 年6月の時点 で細野教授はNatureにIGZOに関する論文を投稿していたが、論文が 査読から戻って来ても、特許出願が完了するまでは編集者に返送しないように と、歯止めが掛っていた。Natureに細野教授の論文が掲載されるのは 2004 年 11 月 25 日であったため、特許法 30 条適用を使うことなく特許出願を行った ことになる。その後も、競合他社の動きを睨みつつ、製品化の充実を企図して特 許網が構築されて行った。 以後、IGZO関係の特許(東京工業大学や、企業、JSTが出願人となって いるもの)はJSTがパッケージとして管理することになった。JSTのプレス リリースで公式に発表されたライセンシーはサムスン電子株式会社とシャープ 株式会社の2社だが、JSTの尾崎勝 氏(知的財産戦略センター 保護・活用 グループ 産学連携アドバイザー:平成 27 年3月時点)が積極的な売込み活動 を行い、今や多くの企業がIGZOに関する特許のライセンスを受けており、I GZOの技術はテレビ等のディスプレイの高画質化に大きく貢献している。 61 図4-5(事例の整理) B. 仮説へのあてはめ これまでと同様に、新仮説2に事例を当て嵌めた結果は以下の通りである。 図4-6 62 細野教授は、 「物質は使われてこそ材料」との信念の下、IGZOの研究を続 けており(R①)、実用化へ向かうにつれて周辺特許や応用特許の重要性を認識 したと語っている(R③)。東京工業大学TLOの清水氏が迅速に企業への売込 みを行い(U⑦)、最初の研究成果が出た時は、雲見氏の指示によって論文発表 が抑えられていた(R②)。共同研究契約の段になって不実施補償の問題が発生 し、キヤノン社員が初めてIGZOの成果を目にしてから共同研究が開始され るまでに時間を要している。この時、コーディネーターの雲見氏の説得によって、 キヤノン側もIGZOの素晴しさを認識し(C⑤、D⑤)、契約上の問題も解消 されて(C⑧、D⑧、U⑧)実用化に進むことになった(C⑨)。尚、IGZO のプロジェクトに関しては、JSTからも巨額の予算が出ている(D⑨)。 コーディネーターの雲見氏に注目すると、雲見氏自身がシリコン半導体の研 究を行っていたにも関わらず、酸化物半導体であるIGZOを見て将来を確信 し、酸化物半導体への「改宗」 (雲見氏談)を行うとともにその信者を増やすた めの活動を継続したという「目利き力」が最初に目につく(D⑤)。そして、特 許群を展開する段階においても、 「マルチシナリオ」 (雲見氏談)を想定し、長期 的なプランを立てて基本/周辺特許群を形成している(C⑥、D⑥)。因みに、 アンケート結果ではこの点は意見数ゼロになっている。雲見氏が国内優先の基 礎とした出願は、JSTが出願人になっているものであったので、コーディネー ターによる出願が改良されたという意味で、この点を新仮説2の表の中に含め ている。 もう一人のコーディネーターである尾崎氏は、IGZOのライセンス先を探 して様々な企業に売込みを行っている(D⑦)。 63 (4)成功事例の総合評価 以上の3つの成功事例を全て1枚のチャートに纏めたものが以下の図である。 図4-7 当初は、事例は元凶(R①、U④、C⑨)を克服しており、且、アンケートで 意見数の多かったところを克服しているだろうと予測していたが、実際に事例 を当て嵌めてみたところ、次の5つの領域に分かれることが分った。 図4-8 64 新仮説2の用語に置き換えると、 ア:R-1 研究者が真理の探究に留まらなかった C-9 企業が実用化のためのリスクを取った イ:U-4 大学の手続が煩雑だった ウ:R-2 研究者が研究成果の公表を優先しなかった C-4 企業側の手続が煩雑でなかった C-8 企業が契約上の問題を解消した D-5 コーディネーターが NEEDS-SEEDS の目利きを行った D-7 コーディネーターが企業への売込みを行った U-7 大学が企業への売込みを行った U-8 大学が契約上の問題を解消した エ:R-3 研究者に知財戦略が有った R-5 研究者が NEEDS-SEEDS の目利きを行った R-7 研究者が企業への売込みを行った R-8 研究者が契約上の問題を解消した C-5 企業が NEEDS-SEEDS の目利きを行った C-6 企業が特許の権利範囲を広くした D-3 コーディネーターに知財戦略が有った D-6 コーディネーターが特許の権利範囲を広くした D-8 コーディネーターが契約上の問題を解消した D-9 コーディネーターが実用化のためのリスクを取った オ:R-6 研究者が特許の権利範囲を狭くしている D-4 コーディネーター側の手続が煩雑 U-6 大学が特許の権利範囲を狭くしている となる。アとウは予想通りであり、ここで挙げられている問題点を重視して解 決策を呈示する必要が有ると考えられる。イとオは、3つの事例が成功するに際 して必要ではなかった、或はそもそも課題自体が存在しない時期だったという ことであるので、ここで挙げられている課題は、積極的に解決策を打ち出すとい うよりも、既存の枠組みを縮小することで問題の解消を図るべきものと考えら れる。エは、アンケートでの関心は高くないが事例の成功には必要であった、詰 り潜在的な課題を克服した部分とも言えるため、解決策を呈示する際に大いに 参考になると考えられる。 次章では、これまでの仮説、ヒアリング、アンケート結果を踏まえて解決策の 呈言を行う。 65 【第5章:呈言】 現行特許法が、大学の特許取得と活用を想定した規定を備えていないにも拘 らず、知財推進計画で大学の知財活動を推進したこと、そして、大学にとって 資金の獲得が重要な課題であることが凡そ自明であるにも拘らず、資金獲得の ため、制度をよく理解していない内に特許出願を行って来たことが、大学特許 が休眠していることの発端であると考えられる。つまり、入口と出口が繋がっ ていないのである。 その根底には、「知財=特許権=資金獲得のためのツール」のような考え方 が有るように思われるが、それを改める必要が有る一方で、研究成果を特許に した事例の中に、研究者にとっても社会にとっても大きな経済的利益をもたら したものが有ることもまた見過ごすことの出来ない事実である。 大学・研究者の「知財戦略」形成の足掛りとするため、課題の把握と、実用 化成功例の成功要因明確化がやはり必要であると考えている。以下、本論第4 章までの内容を踏まえて、顕在/潜在的な休眠特許の利活用に関する方策を提 言する。 (1)現在休眠している大学特許について まず、現時点で休眠している大学特許については、大きく分けて次の3種類の 活用・処分方法が有ると考えられる。これらは、アンケートの自由記入欄で意見 数の多かったものである。 A. 群管理 大学が保有している特許を、単体ではなく技術分野ごとのグループにして管 理することである。JSTの重要知財集約活用制度を活用すべきという声も有 る一方、それでは未だ不十分であるので、特許を集約して、少額で誰でも利用出 来るような仕組みを拡充すべきという意見も有った。また、大学の未利用特許を 公的なデータベースによって整理・公開するべきではないか(会員企業から秘密 保持契約下でニーズ提供もしてもらうなど)という指摘も有った。 群管理は、大学単独で行えるものではなく、JST等の公的機関の制度整備・ 拡充を待つ必要も有るため解決策としては受け身である。また、大学特許は一件 一件の権利範囲が狭いという指摘も有るため、権利範囲が狭い特許をパッケー ジにしてビジネスに繋げることが出来るのかという点には疑問も残る。しかし、 アンケートの回答にも有ったように、大学に在る知財は特許だけではなく、論文 の成果やノウハウ等も組み合せることで大学特許活用の途は広がる可能性が有 る。 66 B. 開放 大学からの回答で目立った回答の2つ目としては、期間やライセンス対象企 業に関する条件付で大学特許を無償開放するというものである。また、一旦は共 同研究等で企業と連携し、大学特許を相手企業にライセンスしたものの、結局製 品化しなかった場合は、その特許を誰でも使える状態にするという案も有った。 大学研究者や大学知財部からの回答に多かったのは、大学の使命は社会貢献 であり、研究成果を広く世の中に広めることにこそ存在意義が有るという意見 であった。特許開放は、その理念に即したものと考えられる。企業側から見ても、 大学の研究成果はどのような製品・サービスになるのかがみえにくい場合が多 いという意見が有るため、端からロイヤリティが発生する契約を結ぶよりも、技 術の導入期は無償ないし安価でのライセンスを受けることが出来れば望ましい と考えられる。現実に、山口大学では自校の保有特許を条件付で無償開放する取 り組みを行っており、注目を集めた194,195。 C. 棚卸し 特許を出願・取得してから何年も産学連携の相手企業が付いていない特許は、 審査請求時や年金の値上がり時などいずれかの段階で放棄する、或は企業に譲 渡する等して、有用な特許に人員と資金を充てられるようにするべきという意 見も目立った。棚卸しの判断基準として、社会への影響度によるランキングや、 特許オークションを挙げる声も有った。 特許を放棄するにせよ譲渡するにせよ、有用な特許か否かを判断するのは容 易ではない。現時点での或る特許の権利範囲が狭いとしても、最初の出願から 12 ヶ月以内で国内優先出願等による改良を加えれば有用になる場合も想定され る。しかし、その判断を研究者や大学のみで行うのは困難な場合が多く、改良を 加えるにも時間的、金銭的な制約が存在する。そのため、後述する解決策を採っ ても尚連携先企業が定まらない場合は、特許の棚卸しを行うより他無いと考え られる。 日本経済新聞 「特許の利用 無料に」平成 27 年7月 17 日 金曜日 山口大学特許の無料開放について(プレスリリース)平成 27 年7月 16 日 http://kenkyu.yamaguchi-u.ac.jp/chizai/data/information/151001_02.pdf (2016 年1月 12 日最終アクセス) 194 195 67 (2)これからの大学特許について 以下では、今後生まれる大学特許が休眠しないためにどのようにすべきかと いう解決策の提案を行う。 図5-1 1. モデルの説明 【段階0:人脈作り】 上記モデルの根底に在るのは、産学連携のプレイヤー、特にコーディネーター の NEEDS-SEEDS 目利き力である。 雲見氏のように、研究者の視点も有り、企業の視点も有り、知財戦略にも長け ているコーディネーターが望ましくはあるが、休眠特許の保有が大学の財政を 圧迫しているのであれば、特許の棚卸しを進めると同時に、即戦力になる人材に よって産学連携を上手く進めて行くことが喫緊の課題であると予想される。で は、技術に理解も有り、ある程度社会のニーズも把握していて、尚且特許を介す る産学連携に向いていそうな人物は誰かと考えると、最も近いのは企業内研究 者(産学連携の経験者であれば尚良し)である。これが、 「第1のコーディネー ター」となる。米国においても、企業から見て技術移転の一番のきっかけは大学 研究者と企業研究者の個人的な交流であるとされている196。まずは、この人物 と大学研究者の接点を作ることが重要であると考えられる。理由は段階4の部 分で説明する。 この方法が一般化出来るのかという疑問は当然有るが、研究者や大学等の各 プレイヤー間の意思疎通の取り易さという点では、研究者の性格や大学の知財 関係部門等による顕著な差は見られなかった(p100 以降参照)ため、どのよう なポリシーを持っている研究者であっても、どのような組織を有している大学 であってもコーディネーターとの関係構築は可能であることが、少なくともア ンケート結果からは示唆されている。 196 宮田由起夫「アメリカの産学連携」東洋経済新報社 平成 14 年5月7日 p135 68 【段階1:発明誕生】 研究者が発明を行う段階で、普段から特許公報や特許出願に慣れ親しんでお くことが重要と考える。 そもそも大学の研究成果が基礎的過ぎる為に、実用化に年数を要する上、要し たところで成功する保証も無いという現実が有る。前段は致し方ないにしても、 成功の見通しを付けることは(特に工学部であれば)可能なのではないか。 特許の願書を書く作業、中間応答での審査官との応酬は、アカデミアに無い/ 不足している視点を提供してくれるものである。研究者がこの作業を普段から 行っていれば、出願が煩雑だという印象も薄れ、特許に親しむことが出来るので はないか(出願件数の多い研究者ほど、煩雑さを感じない傾向にある)。出願に 慣れれば、発明から出願までのタイムラグが短くなり、特許としても強いものに なると同時に、発明の方にも産業の視点が入り、研究成果が充実するのではない かと考えられる。 アンケート集計の結果、研究者の産学連携に対する意識や、研究の目的、人と 話すのが好きか否かといった志向性と、出願件数との間には相関が見られなか った(資料参照)ため、裏を返せばいかなる研究者にも特許に慣れ親しむことは 可能だと言える。 図5-2 但、論文・学会発表が好きか否かという研究者の志向と、出願件数とをクロス 集計した結果、論文・学会発表が好きな研究者程出願件数が多いことが分った (出願件数 100 件以上の研究者に顕著である)。自らの研究成果を何らかの形で 世に発表したいという意思が強い研究者程、論文・学会発表も特許出願も多くな るものと考えられる。また、これは研究者の志向の問題であり論文数と特許出願 数での集計ではないが、特許出願を行うことによって研究活動においても新た 69 な視点がもたらされ、結果としてアカデミアでの発表内容も充実したものにな るのではないかと推測される。 図5-3 図5-4 また、別の考え方として、研究者が自ら特許公報を探しに行くのではなく、研 究者の下に特許情報が配信されるシステムの構築が考えられる。例えば、インタ ーネットショッピングや動画サイトの「関連商品」 「関連コンテンツ」の要領で、 ある研究者の専門分野に近い分野での産学連携成功事例を分り易く解説したも のを研究者のメールアドレスに配信したり、クリッピングサービスの要領で、研 究者が指定したキーワードに関係する情報を幅広く研究者に届けたりするとい うものである。産学連携の成功事例を一覧にした冊子等は、それ単体で十分価値 の有るものであるが、自分の興味関心に合った記事、好奇心を刺激するニュース 70 のみが選び抜かれて目の前に有るという状況を作るのも、研究者に産学連携へ の関心を持ってもらうためのひとつの方法だと考えられる。 【段階2:発明届の提出】 発明届を最初に受理するのは大学知財部や産学連携本部である。発明の初期 に「第1のコーディネーター」に技術の見立てをしてもらい、この人を中心にし て出願の決定を行う。この時点で早期に、この企業研究者が属する企業やその関 連会社、或は関係の有る特許事務所等が介入出来れば望ましいが、それが叶わな かったとしても出願だけは大学で行える。 【段階3:特許出願】 日本の現行特許法上、論文の体裁で出願出来る仮出願制度は無い(制度への要 望としては最も多い)。まず、特許出願の体裁を整えて出願日を確保するという ことをしなければ、優先出願すら不可能になる。コーディネーターや企業がクレ ームドラフティングをすることが望ましくはあるが、出願日を確保するための 出願であると割り切って、知財の専門家でない人間が明細書を作成することに も寛容にならざるを得ないであろう。しかしこの局面で、研究者が普段から特許 明細書の書式に親しんでいれば、明細書に書くべき内容を理解しているので、大 学知財部に対する説明もし易くなると考えられる。 図5-5 71 図5-6 【段階4:企業探し】 出願を終えたら直ぐに、産学連携の相手先企業やコーディネーターを探す必 要が有る。研究の萌芽期から企業等が関わっていれば特許の質は高くなるが、研 究成果がどのように実用化出来るのかの見通しが立たない段階では企業も関与 を渋る傾向に有るので、この段階での企業探しが現実的であると考えられる。こ のことは、産学連携の開始時期を問うたアンケートの回答結果とも符合する。 図5-7 何らの人脈も無いところから実用化のパートナー企業を探す方法としては、 技術移転のマッチングイベントに参加することが考えられる。実際に、例えばJ STの新技術説明会では毎年、共同研究等に繋がるマッチングの成果が上がっ ている。しかし、段階0(人脈作り)のところで企業研究者と関わりを持ってい れば、その研究者の属する企業か、その関連の会社等の繋がりを利用して、より 効率的にパートナー企業を探すことが出来ると考えられる。 企業探しという観点で言えば、最初の出願から一定期間を超えても未だ連携 72 先企業が見付かっていない特許は本章(1)に有るように棚卸しの対象にする、 或は、最初の出願後早期に相手企業を見付けられた場合は、そのために尽力した 人に対して大学から褒賞金が出るなどの工夫も必要であると考えられる。 産学連携の成功事例として著名な、コーエン・ボイヤーの遺伝子組み換え特許 の事例では、学側が特許のライセンスを受け付けることを公表してから約4ヶ 月でライセンス契約の申込みを締め切り、企業に判断を急がせた結果、多くの企 業からのライセンス申込みを獲得したという経緯が有る。正確には、申込み受付 期間内のより早い段階で申込みをした企業にはライセンス料のディスカウント 等の優遇措置が有ったが、期間後の契約条件については一切開示されていなか ったのである。4ヶ月という期間で、期間経過後の状況が分らない中で企業は急 いでライセンスの申込みをしたことになる197。 期限を決めるということは、大学側にとって特許の保有・放棄を決める基準の ひとつになると共に、もしも実用化に成功した場合早期に市場に投入できるの で、企業にとってもメリットの有ることである。 【段階5:追加実験】 追加実験は企業が主導して行い、必要な人員は企業が提供する。実験経験の豊 富な学生であっても就職等で大学に残らない場合が多い上、大学自体にも実験 のための人員を確保する資金的な余裕が無いためである。その代り、後述するよ うに企業にとってはメリットの有る契約内容とする。段階6以降で、資金その他 の理由で第三者の支援が必要となる場合は、その者の支援を受ける(典型的には JSTの支援制度)。このときに登場する第三者が「第2のコーディネーター」 となる。第1のコーディネーターの見立てが良ければ、実用化のための投資は企 業からも第2のコーディネーターからも行われる筈である。技術の目利きを行 うのは容易ではないため、企業研究者であってもその他のコーディネーターで あっても一定の経験と学習が必要であり、実用化の肝である「見立て」はコーデ ィネーター一人に任せきりにするのではなく、研究者は技術の専門家として、企 業は市場動向に関する情報収集のプロとして、コーディネーターを補佐すべき であると考えられる。 【段階6:国内優先出願】 段階3の最初の出願から 12 ヶ月以内に、企業やコーディネーターの手で国内 優先出願を行う。このときには、基本特許群と周辺特許を含んだ特許網を構築す る。雲見氏へのヒアリングでも、アンケートの自由記入欄においても、周辺特許 197 渡部俊也、隅藏康一「TLOとライセンス・アソシエイト」 株式会社ビーケイシー 平成 14 年4月2日 p1-21 73 は企業でないと作れない、大学だけに特許ポートフォリオを作らせるのは無理 であるという指摘が有った。 段階3から段階6までの期間は 12 ヶ月である。大学ごとに、また技術分野ご とに、これまでの経験を踏まえて 12 ヶ月の使い方を決める必要がある。 【段階7:論文・学会発表】 実用化を望むのであれば、特許出願より前に論文・学会発表をしてはならない。 特許法 30 条(新規性喪失の例外規定)を適用して出願を行うと、自らの論文・ 学会発表によっては拒絶されないが、その発表を目にした他者の出願によって 拒絶される可能性が有るからである。尤もこの場合、この他者の出願も新規性無 しとして拒絶されるので共倒れとなり、研究成果はパブリック・ドメインとなる。 【段階8:実用化】 特許網が構築出来、知財的な手当てがなされれば、実用化へ進むことになる。 クレームドラフティングの段階で関与する企業は1社の場合が多いと想定され るが、実用化の段階では、IGZOのように複数の企業が関与する場合も有る。 段階6と同様、見立て次第ではこの段階でもコーディネーターからの支援が期 待出来る。 【段階9:利益配分】 実用化した結果利益が出た場合は、実用化した企業で一定割合の利益を確保 しなければならないことは自明として、次に先ず研究者へ還元し、余剰分を大学 へ還元する仕組みとする。加えて、このような成功した案件については、学内で 研究者(発明者)を表彰することで非金銭的な研究・出願インセンティヴを確保 すれば、次なる研究活動へ繋がって行くものと考えられる。 尚、契約の段階で問題が発生した場合、或はすることが予想される場合は、第 1乃至第2のコーディネーターが産学の間に入ることが望ましい(成功事例3: IGZO参照)。 2. 利点 上記モデルを採用することで次のような効果が有ると考えられる。 ・研究者にアカデミア以外の視点を持ってもらうことで、研究内容の充実と、特 許出願の手続の煩雑さ軽減を同時に実現できる。 ・大学のみで周辺特許まで構築する人的・金銭的負担を軽減できる。 ・早期から企業が介入することで特許に顧客満足の視点(雲見氏談)が入り、ビ ジネスに使える特許になり易い。 74 3. 各論 本節では、既述のモデルの中で特に留意すべき点についてQ&A形式で詳説 する。 Q1:どのように学内 SEEDS を売り込むか(段階0と段階4)? A1: ・マッチングイベント 現在、産学のマッチングイベントとしては、JSTが開催している「新技術説 明会」や「イノベーションジャパン(大学見本市)」等が有る。新技術説明会は 大学からのニーズも高く(3月のヒアリングより)、年々充実が図られているよ うだが、新技術説明会は飽くまでも産学連携を想定した説明会であり、出願済未 公開特許を中心とした講演となる。その意味で、出願してしまった特許の実用化 パートナーを探すマッチングイベントとしては新技術説明会が有効となる。 イノベーションジャパン(大学見本市)は年一回行われる、大学シーズの展示 会である。平成 23 年までは新技術説明会と同時開催だったが、ここ3年は新技 術説明会とは独立し、代わりに、 「JSTショートプレゼン」が実施されるよう になった。過去約十年間の開催報告書を見ると198、来場者の4割前後が企業研 究者、2割前後が企画・マーケティング部員で、役職は部長・課長クラスである。 JSTへのメールによる問合せの結果(2016 年1月 12 日回答受領)、両イベ ントの来場者属性は似通っており、研究者が自ら直接研究成果のプレゼンテー ションを行うか否かの違いこそあれ、大学等の公的研究機関が主体となった特 許等の研究成果の実用化・技術移転の促進が目的とされているとのことであっ た。 これを前提とすると、研究者が積極的に発表を行う新技術説明会を分野別(学 会等のアカデミア内の発表会や、産側の各業界団体が定期的に開催している展 示会等と同時など)に開催してより回数を増やせば、研究の初期段階で大学研究 者と企業研究者が出会う接点が増えるのではないかと考えられる。即ち、発明よ りも前の段階でのマッチングである。加えて、現在新技術説明会では出願後公開 前の特許を中心としたプレゼンテーションが行われているが(既述の問合せの 結果、出願後の経過期間については傾向が無くまちまちであることが分った)、 出願後 11 ヶ月の特許を企業が気に入ったとしても国内優先出願が間に合わない ことが想定されるので、出願後1~2ヶ月の「生れ立て」の出願を毎月/隔月、 秘密保持契約の下公表するようにすれば、国内優先出願まで時間的にも余裕が 有り、企業にも、その特許を「育てる」意識を芽生えさせることが出来るのでは ないかと考えられる。 普段はJSTの施策に関心が無い大学研究者(例えば、理学寄りの研究者)に 198 JST イノベーションジャパン 開催結果報告書 平成 16 年度~平成 26 年度 75 とっても、産学連携に興味を持つきっかけになるかも知れない。 アンケートの中にも、テーマ別の新技術説明会を所望する声が有った(これは 既にJSTが行っているようである)ため、それとも整合的である。学会発表は、 確かに産学連携を想定したものではなく、「真理の探究」が主となる場である。 JSTの新技術説明会のように、実用化への展望を分り易く発表するという場 が必要であることは当然のことながら、産学の出会いの場はより間口を広くす べきではないかと考えられる。青色発光ダイオードの事例でも、赤崎教授は実用 化よりも自身の研究に主眼を置いて講演活動等を行っていたが、企業やコーデ ィネーターの中に目利きが居れば、研究者や大学への接触は行われる筈であり、 例え学会発表した研究成果が実用化まで到達しなかったとしても、次の研究成 果を実用化する際の人脈構築は出来る可能性は高い。 また、補足的になるが、JSTが行っている「産から学へのプレゼンテーショ ン」のように、ニーズ発のマッチングイベントの拡充も図られると、より産学の 交流が活発になると考えられる。 ・発明届受理後ないし出願後すぐにコーディネーターに連絡 大学知財部が技術や特許の売込先企業を知らないのであれば、最低限売込先 を知っている人を知っていれば良いのであって、電話一本でコーディネーター を呼ぶことが出来る状態が望ましくはある。しかし、コーディネーター側でも窓 口を分り易くしておかなければならない。また、大学の側でも、J-PlatP atでIPCやキーワード検索を行えば関連技術分野の筆頭出願人のリストは 作成出来る筈なので、ある程度技術の応用形と売込先の目途は付けておく必要 は有る。 ・総研等の評価書 企業へ技術を売り込むにしても特許の価値に関する第三者機関の評価書が付 いている場合とそうでない場合とでは、売り込みのし易さにも差が出て来るこ とが考えられる。外部に特許評価を依頼して特許自体に箔を付けるというのも、 売り込みのひとつの手法である。しかしこの場合は、評価をされる時点で特許が ビジネス向きになっていることが必要となる。 ・学生の活用 アンケートの中にも、社会人ドクターや半企業人等の活用で技術の売込みを すべきではないかという声が有ったが、既存のプレイヤーに囚われずに、売り込 みに適していると思われる人を選ぶことも必要である。 76 Q2:費用負担はどのようにするか? A2: 最初の出願については大学が負担し、企業の手が入ったものは企業に負担し てもらう。但、年金額が低額な内は大学が負担し、値上がりするにつれて企業の 負担を増やして行くなど、工夫の余地は有る。年金を払い続けるということは、 企業にとってもその特許の利用価値が有るということなので、企業の負担が増 えて行ったとしても不合理とは言えないと考えられる。その代り、大学から企業 への不実施補償は要求しない、要求する場合も安価にするという契約条件にす る。また、企業が大学特許を保持し続けることをやめる場合には、他のライセン シーや譲渡先を探すために大学がその特許を自由に使うことが出来る旨の特約 を盛り込んでおくことも、大学特許の活用という観点からは必要であると考え られる。 Q3:大学知財部はどのように生き残るのか? A3: 呈言が機能すれば、長い目でみれば産学連携は活発化する筈である。資金不足 の叫びは切実であるが、今日明日巨額の研究費やロイヤリティが舞い込んで来 るような即効性のある解決策は、現時点では提案できない。 ひとつの案として、クラウドファンディングを利用する方法が考えられる。ク ラウドファンディングは多くの人から少額を集める方法であり、個々の投資者 のリスクを減らして最終的に大きなお金を集める方法ではある199。しかし、プ ロジェクトが失敗すると投資者に返金出来ないことが問題になる場合も有り200、 その失敗が大々的に知れ渡るので、次に同じ方法で資金調達をすることが困難 になる場合も有るなどのデメリットも有る。 金銭的な観点で言えば、職務発明規定や不実施補償の問題は尚残る。この点に 関しては、 「特許=独占排他権、金銭収入を得るための道具」という刷り込みが 産学連携を阻害している可能性がある。大学特許の目的が、研究成果の実用化や 社会貢献(仮説1参照)に有るのであれば、それに即した用い方をすべきであり、 大学や研究者のそのような姿勢が、廻り廻って企業との繋がりを生むことにな ると考えられる。 199 山本純子「入門クラウドファンディング―スタートアップ、新規プロジェクト実現の ための資金調達法」 平成 26 年3月1日 株式会社日本実業出版 p19 200 脚注 201 に同じ。p168-169 77 最後に、整理のため、事例分析の結果と解決策とを対照させる。アイウエオは、 解決すべき重要度の高い順番に並んでいる。 区分 ア ウ イ 課題 解消方法 R-1 公報や新聞等文字で特許情報に触れる(段階1)。マッチングイ ベントに参加して文字以外で産業界のアイデアにふれる。 C-9 モデルが機能すれば、長期的には解消される。 R-2 出願してから論文・学会発表を行う(段階7)。 C-4 追加実験の負担は企業が負う(段階5)。 C-8 不実施補償は要求しない。出願維持の費用は産学で分担をす る。利益が出た場合のみ研究者・大学に還元(段階9)。 D-5 企業研究者を用いる(段階0)。 D-7 マッチングイベント(段階0/4) U-7 マッチングイベントや(段階0/4)、学生等の活用。 U-8 不実施補償は要求しない。出願維持の費用は産学で分担をす る。利益が出た場合のみアカデミアに還元(段階9)。 U-4 大学知財部は特許の出願維持等の事務手続を主として行い、企 業への売り込みはコーディネーターに、クレームドラフティン グは主として企業に任せる。 オ エ R-6 特許網の形成は企業やコーディネーターに任せる(段階3/ 6)。 D-4 コーディネーターは窓口を一本化する。 U-6 特許網の形成は企業やコーディネーターに任せる(段階3/ 6)。 R-3 コーディネーターの補佐。 R-5 コーディネーターの補佐。 R-7 現在は売り込みを専門とする橋渡し機関も有るため、その機関 の活用によって実用化の可能性は広がると考えられる。 R-8 研究者個人と企業とが契約を行うよりも、大学という機関を通 して契約を行う方が法的なトラブルは発生しにくいと考えら れる。 C-5 コーディネーターの補佐。 D-3 学習と経験。 D-6 クレームドラフティング(段階2/6) D-8 産学間で問題が発生した場合は間を取り持つ。 D-9 目利きによる投資(段階6/9)。 表5-1 78 【結論】 特許は使用を前提として取得するもの。大学の知的財産法の講義では斯く習 う。しかし現実には、企業においても大学においても、 「休眠特許」という、利 用されない特許が存在している。企業のそれは二昔前に比べて劇的に解消され たが、大学の休眠特許は尚保有特許の7割前後という状況が続いている。そもそ も、ビジネスを行わない大学が何故特許権を保有しているのかという疑問から 出発し、取得した特許が何故未利用状態であるのかという点へと思考は進む。先 行文献や、大学特許に関する年次データは有るものの、情報が古いものが多く、 また、 「大学特許を活用するためには人材育成や補助金の支出が望まれる」とい う結論に至るものが多かったが、その点に留まっているが為に大学特許は休眠 しているのではないかと考えるようになった。 そこで、現在、大学特許の利用に関して日々試行錯誤をなさっている方々に対 して、実務的にはどのような問題が有り、どのような解決策が望まれるのかを調 査することとした。 大学研究者や大学が特許権を取得する理由は概ね、研究成果の実用化や、教 員・学生への刺激のためというものであったが、そうであるならば、特許を企業 に実用化してもらえるような状態にしておくべきとも言える。そこで、現在大学 特許が休眠するメカニズム(問題点の集積)を、先行研究とアンケート結果を基 に作成し、その仮説に実際の成功事例を当て嵌めることで、事例が克服した問題 点を明らかにし、その問題点を中心にして、大学特許が未利用である現状への解 決策を提案することとした。 アンケートの回答内容には、研究者・大学・企業というグループごとに一定の 傾向が見られた。研究者全体としてみると、大学特許が休眠している原因につい て、研究者自身・大学・企業・特許制度の各者に対する指摘を行っていた。大学 からは、企業と特許制度に対する要望が多く出され、特に特許制度に対する要望 は多岐に亘っていた。企業は、大学に対する、主として契約面やシーズの売込み に関する指摘を行っていた。 また、雲見教授へのヒアリングでは、IGZOの技術が実用化されて世に出る までの間に、緻密な知財戦略が思考され、実行されていたことが明らかとなった。 これらの調査を踏まえた結論の骨子としては、大学は基本特許に係る出願日 だけを確保しておき、出願から1~2ヶ月の「生れ立て」の特許を企業に紹介す ることとし、最初の出願から 12 ヶ月以内、可及的速やかに、企業等の助力の下 国内優先権を使い、その後日本国内への出願かPCT出願を行うことでビジネ ス上魅力有る特許網を形成するというものである。そして大学特許が実用化さ 79 れ利益が生じた場合は、企業から研究者や大学への還元を行う。産と学を繋げる コーディネーターとして、第1に企業研究者を、第2にJST等の外部機関を想 定する2段構えとした。このモデルには、大学単独で特許網を構築する負担を軽 減するとともに、早期から企業の手が入ることで特許に商業性が加わるという 利点が有る一方、大学シーズをどのように売り込むのか、費用負担はどのように 行うのか、大学知財部は如何にして収入を確保するのかという疑問も湧く。出会 いの場に関しては、従来から行われているマッチングイベントの拡充等が考え られる。費用負担と大学知財部の収入源に関して、今日明日巨額の研究費や間接 経費が舞い込むような解決策は提案出来ないが、モデルが機能すれば長期的に は産学連携は活発化することが予測されるため、企業にとって実用化を行い易 い契約内容とすることを提案する。 2015 年3月のJSTへのヒアリングにおいて、「成功した事例を見ると熱意 が有ったというだけで、熱意が有ったからと言って成功するとは限らない」とい う指摘がなされた。第5章で述べたモデルは、将来の産学連携が活発化するため の、飽くまでも最低限の枠組みに過ぎず、即効性の有るものでも無ければ、産学 連携当事者の人々の熱意を保証するものでもない。しかし、アンケート・ヒアリ ング調査や事例分析等を通じて導出した結論であり、近年の産学連携、そして大 学特許の実情が反映されていることは確かである。 80 【謝辞】 本研究を行うに当り、ヒアリング調査とアンケート調査を実施致しました。ヒ アリング調査にご協力下さいました、 国立研究開発法人(ヒアリング当時は独立行政法人)科学技術振興機構 鈴木 雅博 様(知的財産戦略センター 大学支援グループ 主査) 沖代 美保 様(知的財産戦略センター 保護・活用グループ 副調査役) 伊藤 博和 様(知的財産戦略センター 保護・活用グループ 主査) (ご所属・役職はいずれもヒアリング当時) そして、 国立大学法人東京工業大学 元素戦略研究センター特任教授 雲見 日出也 先生 に、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。 また、アンケート調査にご協力下さいました、102 名の大学研究者の皆様、60 校の大学知的財産部/産学連携本部の皆様、20 社の企業知的財産部の皆様にも、 深く感謝申し上げます。 そして、一年間ご指導下さいました生越由美教授、アンケートの発送に当りご 指導下さいました、生越研究室2期生の滝田由布子様にも御礼申し上げます。 アンケート票にご記入頂いた内容は、開示が許された範囲内で、 「アンケート 関係 資料」編に掲載しておりますので、ご活用頂けますと幸いです。 改めまして、皆々様に厚く御礼申し上げます。 81 アンケート関係 資料 1、アンケート質問票原本(大学用、研究者用、企業用)…p83-93 2、集計結果グラフ…p94-110 3、自由記入欄への回答…p111-128 4、アンケートご回答者一覧…p129-137 82 2015年9月1日 研究者各位 産学連携に関するアンケート調査ご協力のお願い 拝啓 時下益々ご隆昌のこととお慶び申し上げます。 東京理科大学専門職大学院イノベーション研究科知的財産戦略専攻修士二年の前川 春華と申します。唐突にお手紙を差し上げるご無礼をお許しください。現在大学院に おいて、大学発特許の実用化に関する研究を行っており、すでに産学連携に成功され た研究者・大学・企業の皆様にアンケートをお願いしている次第です。 研究の目的 本研究の目的は、産学連携の成功事例を分析することを通して、大学が特許を取得 することの意義を明らかにするとともに、大学が保有する未利用特許の有効な活用方 策を提案することです。 出所 本アンケートは、 『JST技術移転事業50年史』(2008年 国立研究開発法人 科学技術振興機構 発行)の中に成功事例として記載された研究者・大学・企業の方 にお送りしております。 ご回答期限 お忙しいところ、大変恐縮ではございますが、9月中にアンケート結果を集計する 必要がございますため、別紙「研究概要書」をご参照の上、 9月25日 金曜日 までに、同封の返信封筒にてアンケートをご返送頂けますと幸いです。 ご回答内容は学術的な目的のためにのみ使用致します。なお、アンケートにご回答 頂いた際には論文にお名前とご所属を記載し、完成した論文をお送りします。ご多用 中恐れ入りますが、何卒宜しくお願い申し上げます。 敬具 ※本調査に関するご質問等がございましたら、お手数をお掛け致しますが、下記宛に ご連絡ください。 東京理科大学専門職大学院イノベーション研究科知的財産戦略専攻 住所 生越由美研究室 :〒102-0072 東京都千代田区飯田橋 4-25-1-12 セントラルプラザ 2 階 電話番号 :03-5227-6260(事務室) メールアドレス:[email protected](修士二年 前川春華) 83 研究概要書 『大学の休眠特許の発生原因と利活用に関する考察』 1995 年の科学技術基本法に始まり、国が大学の知的財産活動を推奨する施策が毎年 のように策定されております。それに伴い、大学・TLOの特許出願件数は一定の水 準まで増加しました(グラフ実線・右軸。破線は企業、大学、個人等を総合した全出 願件数)。 また近時は、iPS 細胞、IGZO、青色発光ダイオードなど、大学発の研究成果が大き な話題となっております。 しかし、日本全体という枠組みで見ると、企業における特許の未利用率(製品・サ ービス等に反映されていない、あるいは、他社にライセンスされていない割合)が 20%前後であるのに対して、大学の特許の未利用率は高止まりしています。 そこで、すでに成功している産学連携の事例を分析することにより、未利用特許の 有効な活用方策を提案したいと考えております。 分析に用いている仮説(模式図) 東京理科大学専門職大学院イノベーション研究科知的財産戦略専攻 生越由美研究室 修士二年 前川春華 84 アンケート(大学用) 当てはまるものの番号に○を付けてご回答ください。「その他」という選択肢を選ん だ場合には括弧内に具体例や理由をお書きください。 JST技術移転施策を利用しての産学連携のご経験をご記憶であればその際の事 を、ご記憶でなければ産学連携に関する現在の貴校のお考えを、可能な範囲でお答え ください。 Q1 昨年1年間の特許出願件数を教えてください。 1~10 件 11 件~50 件 51 件~99 件 100 件~499 件 500 件以上( 件) Q2 産学連携(大学の研究成果や特許を実用化する活動全般)に際して、研究成果 の特許化に関わる機関ないし部署名をお答えください(複数回答可)。 1 学内の産学連携本部または知的財産本部 2 自校と関連のあるTLO 3 JSTなどの学外の技術移転機関 4 その他( ) Q3 産学連携時の特許出願に関して、大学研究者・企業・産学連携コーディネータ ー(コーディネーターがいた場合)には相談し易かった(易い)ですか? 直 感的にお答えください。 大学研究者 :1(相談しやすい)――2――3――4――5(相談しにくい) 企業 :1(相談しやすい)――2――3――4――5(相談しにくい) コーディネーター:1(相談しやすい)――2――3――4――5(相談しにくい) Q4 研究成果を特許化する理由を教えてください(複数回答可) 。 1 研究成果の実用化を促す 2 研究成果の利用をコントロールする 3 将来の共同研究の呼び水にする 4 広告宣伝手段として用い、受験者を増やす 5 国の政策に基づいて 6 その他( ) 裏面へ続きます⇒ 85 Q5 産学連携の活動に参加する理由を教えてください(複数回答可)? 1 企業からのライセンス料・譲渡収入を得たい 2 企業との繋がりを持つことで、研究者や学生に良い刺激があると考えた 3 知的財産推進計画などの、国の施策に基づいて 4 産学連携の成功事例の報道に触発されて 5 その他( ) Q6 『JST技術移転事業50年史』に掲載された案件は、大学の研究がどの段階 にあるときに産学連携が開始したかを教えてください。 1(萌芽期)――――2―――――3(成熟期)――――4―――――5(実用化直前) Q7 大学研究者、企業、コーディネーター及び現行特許制度への要望等を 教えてください(複数回答可)。 大学研究者への要望: 1 研究内容を平易に説明してほしい 2 論文・学会発表の前に特許を取得してほしい 3 論文・学会発表の前に技術移転の相談をしてほしい 4 ネガティヴデータを含めた研究成果を開示してほしい 5 特にない 6 その他( ) 企業への要望: 1 特許権の譲渡よりもライセンスに応じてほしい 2 大学特許の実用化の成功事例を積極的に公開して(させて)ほしい 3 特にない 4 その他( ) コーディネーターへの要望: 1 産学連携の窓口をわかりやすくしてほしい 2 企業との出会いの場をより多く設けてほしい 3 産学連携の支援制度をわかりやすく説明してほしい 4 特にない 5 その他( ) 現行特許制度への要望: 1 論文形式のまま出願できる制度(仮出願制度)がほしい 2 共有特許を大学単独で利用しやすい制度がほしい 3 特にない 4 その他( ) 次頁へ続きます⇒ 86 自由記入欄 大学の未利用特許の活用方法について、よいお考えがありましたら是非教えてくださ い。 アンケートご回答者の所属、連絡先、氏名をご記入ください。 所属 : 連絡先: 氏名 : 質問項目は以上です。お忙しい中、アンケートにご協力いただきまして、誠にあり がとうございました。 東京理科大学専門職大学院イノベーション研究科知的財産戦略専攻 修士二年 前川春華 87 アンケート(研究者用) 当てはまるものの番号に○を付けてご回答ください。「その他」という選択肢を選ん だ場合には括弧内に具体例や理由をお書きください。 JST技術移転施策を利用しての産学連携(大学の研究成果や特許を実用化する活 動全般)のご経験をご記憶であればその際の事を、ご記憶でなければ産学連携に関す る現在のお考えを、可能な範囲でお答えください。 Q1 これまでのご自身の特許出願件数を教えてください。 1~3件 4~10 件 11~20 件 21~50 件 51 件以上( 件) Q2 ご自身の研究成果を特許化する理由を教えてください(複数回答可)。 1 2 3 4 5 6 7 8 研究成果の実用化を促す 研究成果の利用をコントロールする 将来の企業との共同研究の呼び水にする 教育手段として用いる より多くの研究費を獲得する 名誉に感じる 大学知的財産部など他者に促されて その他( ) Q3 ご自身のお考えに最も近いものを教えてください。 研究の目的 :1(真理の探究) ――2――3――4(研究成果の実用化) 特許出願に対する印象:1(簡単である) ――2――3――4(大変である) 人と話すのが好き :1(好きなほうだ)――2――3――4(好きなほうではない) 論文・学会発表が好き:1(好きなほうだ)――2――3――4(好きなほうではない) 産学連携は必要である:1(そう思う) ――2――3――4(そうは思わない) Q4 産学連携の活動に参加する理由を教えてください(複数回答可)。 1 2 3 4 5 6 自らの研究成果を実用化したい 研究費の配分に知的財産活動が考慮される 大学知的財産部など他者に促されて 新たな研究の糸口としたい 人脈構築のため その他( ) 裏面へ続きます⇒ 88 Q5 特許取得に関して、大学知的財産部・企業・産学連携コーディネーター (コーディネーターがいた場合)には相談し易かった(易い)ですか? 直感的にお答えください。 大学知的財産部 :1(相談しやすい)――2――3――4――5(相談しにくい) 企業 :1(相談しやすい)――2――3――4――5(相談しにくい) コーディネーター:1(相談しやすい)――2――3――4――5(相談しにくい) Q6 『JST技術移転事業50年史』に掲載された案件は、大学の研究がどの段階 にあるときに産学連携が開始したかを教えてください。 1(萌芽期)――――2―――――3(成熟期)――――4―――――5(実用化直前) Q7 大学知的財産部、企業、コーディネーター及び現行特許制度への要望等 を教えてください(複数回答可)。 大学知的財産部への要望: 1 先行技術調査を行ってほしい 2 実験以外の事柄をサポートしてくれる職員がほしい 3 技術移転先を探してほしい 4 追加実験の負担を軽減してほしい 5 特許出願の手続負担を軽減してほしい 6 特にない 7 その他( ) 企業への要望: 1 追加実験の負担を軽減してほしい 2 特許出願の手続負担を軽減してほしい 3 特にない 4 その他( ) コーディネーターへの要望: 1 研究内容について、より深い理解をしてほしい 2 産学連携活動時の打合せの負担を軽減してほしい 3 技術移転先を探してほしい 4 特にない 5 その他( ) 現行特許制度への要望: 1 論文形式のまま出願できる制度(仮出願制度)がほしい 2 共有特許を大学として単独で利用しやすい制度がほしい 3 特にない 4 その他( ) 次頁へ続きます⇒ 89 自由記入欄 大学特許が休眠しがちである現状について、お考えのことを教えてください。 ご回答者様の氏名をご記入ください。 氏名: 質問項目は以上です。お忙しい中、アンケートにご協力いただきまして、誠にあり がとうございました。 東京理科大学専門職大学院イノベーション研究科知的財産戦略専攻 修士二年 前川春華 90 アンケート(企業用) 当てはまるものの番号に○を付けてご回答ください。「その他」という選択肢を選ん だ場合には括弧内に具体例や理由をお書きください。 JST技術移転施策を利用しての産学連携のご経験をご記憶であればその際の事 を、ご記憶でなければ産学連携に関する現在の御社のお考えを、可能な範囲でお答え ください。 Q1 産学連携(大学の研究成果や特許を実用化する活動全般)への参加状況を教え てください。 1 『JST技術移転事業50年史』(2008 年)に掲載された活動以降はあまり産学連携 を行っていない。 → Q3以降へお進みください。 2 2008 年以降も産学連携を行った。 → Q2以降へお進みください。 Q2 Q1において 2 を選択した場合は、2005 年から現在までの約 10 年間に産 学連携に参加した件数を教えてください。 1~3件 4~10 件 11~20 件 21~50 件 51 件以上( 件) Q3 昨年1年間の特許出願件数を教えてください。 1~9 件 ( 10~99 件 100 件~999 件 1000 件~9999 件 10000 件以上 件) Q4 産学連携時の特許出願に関して、大学知的財産部・大学研究者・産学連携コー ディネーター(コーディネーターがいた場合)には相談し易かった(易い)で すか? 直感的にお答えください。 大学知的財産部 :1(相談しやすい)――2――3――4――5(相談しにくい) 大学研究者 :1(相談しやすい)――2――3――4――5(相談しにくい) コーディネーター:1(相談しやすい)――2――3――4――5(相談しにくい) Q5 『JST技術移転事業50年史』に掲載された案件は、大学の研究がどの段階 にあるときに産学連携が開始したかを教えてください。 1(萌芽期)――――2―――――3(成熟期)――――4―――――5(実用化直前) 裏面へ続きます⇒ 91 Q6 産学連携を始めた理由について教えてください(複数回答可)。 1 大学の研究成果を自社の製品に取り入れたかったから 2 大学研究者の知見を自社の研究開発に取り入れたかったから 3 新規事業を展開したかったから 4 その他( ) Q7 大学知的財産部、大学研究者、コーディネーター及び現行特許制度への要望等 を教えてください(複数回答可)。 大学知的財産部への要望: 1 産学連携の窓口をわかりやすくしてほしい 2 契約時の手続を簡便にしてほしい 3 不実施補償のルールを明確にしてほしい 4 大学の研究成果をわかりやすく発信してほしい 5 特にない 6 その他( ) 大学研究者への要望: 1 研究内容を平易に説明してほしい 2 論文・学会発表の前に特許を取得してほしい 3 論文・学会発表の前に技術移転の相談をしてほしい 4 ネガティヴデータを含めた研究成果を開示してほしい 5 特にない 6 その他( ) コーディネーターへの要望: 1 産学連携の窓口をわかりやすくしてほしい 2 研究者や大学と接触する機会を多く設けてほしい 3 産学連携の支援制度をわかりやすく説明してほしい 4 特にない 5 その他( ) 現行特許制度への要望: 1 論文形式のまま出願できる制度(仮出願制度)がほしい 2 共有特許を企業単独で利用しやすい制度がほしい 3 特にない 4 その他( ) 次頁へ続きます⇒ 92 自由記入欄 大学の未利用特許の活用方法について、よいお考えがありましたら是非教えてくださ い。 アンケートご回答者の所属、連絡先、氏名をご記入ください。 所属 : 連絡先: 氏名 : 質問項目は以上です。お忙しい中、アンケートにご協力いただきまして、誠にあり がとうございました。 東京理科大学専門職大学院イノベーション研究科知的財産戦略専攻 修士二年 前川春華 93 以下では、分量の関係で本論中に掲載出来なかったアンケート集計結果を呈示 する。 【本アンケートのQ7(研究者、大学知財部、企業、コーディネーター、現行特 許制度それぞれへの要望を訊いた問)の回答結果】 グラフ中の数字は回答数である。複数回答可の質問であり、無回答も含むため、 総計は回答者数と必ずしも一致していない。また、 「その他」欄内の自由記入で あっても、内容的に既出の選択肢(例:研究者から大学への要望であれば「その 他」以外の6つの選択肢のいずれか)と同一または実質的に同一のものは、既出 の選択肢への回答としてカウントした。 <研究者からの要望> 図―資1 ○その他の内訳 ・査定後の年金を全額負担すべき(職務発明規定(程)がある以上)。 ・大学単願枠拡充/国際特許出願活性化。 ・現在の大学の知財は、2~3年ですぐに企業がつかなければ不要特許としてボ ツにする。特許化を業務にしているというより、必死に特許をつぶすことを考 えており、特許化する意欲が損なわれる。 ・自ら主体的に新たなニーズ・シーズ発掘にとり組んで欲しい ・費用負担を軽減してほしい。 ・TLO と連携して TLO にまかせたほうがよい。 ・学内手続きの簡素化。 ・個人の利益につながらなくても良いので、国あるいは組織として特許をプール し、有効活用して欲しい。 94 ・多くの場合知財部は一般的知識しか持っていないため、余程の素人研究者でな い限り相談しても意味はない。 ・弁理士を採用してほしい。 ・良い戦略的弁理士を。 図―資2 ○その他の内訳 ・チャレンジして欲しい。 ・塩漬けするために大学を利用しないでほしい。 ・会社の研究者とは良い連携ができるが、特許の話になって特許部が出てくる と、連携が難しくなる。もっと柔軟な対応がお互いにできると良い。 ・互いに誠意を持って付き合えなければ、実用化までは到達しない。 ・産学連携を積極的に行う ・製品化をしっかりやる ・大学の知財を無視しないてほしい ・費用負担(応分の)。 図―資3 95 ○その他の内訳 ・余程近い分野のコーディネータでないと頼りにならない。 ・自ら主体的に新たなニーズ・シーズ発掘にとり組んで欲しい・ ・コーディネーターは、優秀な人が多く要望はありません。しかし知財に関する 法律の知識に欠けます。 ・企業との連携や外部資金の獲得など、研究者と社会とのつながりを win-win の関係ができるようにうまくつなげられると良い。 ・今まで、役に立ったことがない 図―資4 ○その他の内訳 ・現在の大学特許制度、特許支援制度は十分に機能しているとは思えない。 ・特 35 条は、法改正前の方がよいと思います。 ・実データ提示されたものを重視すべき(裏付けデータのない単なる思いつきで も特許になるのは不合理)。 <大学からの要望> 図―資5 96 ○その他の内訳 ・工学部・医学部等の研究であれば、最終的な利用を想定した研究をして欲しい。 ・企業との共願案件は事前に通知して欲しい。 ・自己の研究が社会に役立つことを認識していただきたい。 ・制度を勉強して欲しい。 ・特許の意義をもっと認識して欲しい。 ・より技術移転の視点を持って研究に取り組んでほしい。 ・情報交換の機会増加。 ・知財担当者を介して共同出願の内容・条件を企業と決めてほしい(研究者と企 業のみで出願の契約内 容を決めてしまうことが多々あります)。 図―資6 ※「その他」の意見の中で、 「不実施補償への同意」 「活用してほしい」 「金銭的 負担」は意見数が多かったため、「その他」の外に括り出した。 ○その他の内訳 ・共同出願契約の遵守。 ・大学の使命である研究成果の公表については極力協力して欲しい ・企業ニーズの情報を提供して欲しい ・譲渡とライセンスの両方に応じてほしい 97 図―資7 ○その他の内訳 ・知財や契約、外為、生物多様性等の勉強をやってほしい。 ・企業と条件面をキッチリとつめてほしい。 ・企業との共同研究を確実にするため、企業と一緒にマイルストーンでの実績検 証と次年度計画立案を励行する。 ・知財の理解と学習 図―資8 ※「その他」の意見の中で、 「アカデミックディスカウントの充実」は意見数が 多かったため、「その他」の外に括り出した。 ○その他の内訳 ・大学を移籍しても使える国内優先制度の運用を。 ・大学内での研究に対して 69 条を適用できるような運用を。 98 ・現行の PCT 出願の採択には、JST の独自判断ではなく特許庁の審査判断の活 用で、経費の節減を図ってほしい。 ・共有特許について大学が共有企業に対価を希望しやすい制度が欲しい(ただ し、産学連携にマイナスになる可能性もある)。 ・国際的な新規性喪失の例外規定の拡張。 ・手続きの細かい規則について、平易にし、わかりやすくしてほしい。 ・近年の制度改革の動きを今後も継続させていってほしい。 ・米国特許制度のようなインターフェアレンスを導入してほしい。30 条適用が 多すぎる。 <企業からの要望> 図―資9 ○その他の内訳 ・契約内容の変更・修正等に柔軟に応じてほしい。 ・企業が諸費用を負担しているので不実施補償については柔軟に考えてほしい。 ・シーズ探索をしやすくしてほしい。 ・共同出願契約書の古いひな形を使うのは止めて欲しい。 ・持分に応じた費用負担をしてほしい。 99 図―資10 ○その他の内訳 ・もう少し制度を理解してほしい。 ・産学連携開始時の取り決めを守ってほしい。 図―資11 ○その他の内訳 ・企業側の事情も考慮してほしい。 100 図―資12 ○その他の内訳 ・特許要件・明細書記載要件の国際的な統一。 【意思疎通の取り易さに関して】 ○○に対して 研究者 大学 企業 ⇒ コーディネー ター 研究者 相関なし (出願件数) 相関なし 相関なし (4-20 件位が最 適値) 大学 件数が増える 件数が増える程 件数が増える (出願件数) 程相談し易い 相談し易い 程相談し易い 大学(部門) 相関なし 相関なし 内部 TLO が 相談し易い 企業 100-999 件の 件数が増える 1000-9999 件 (出願件数) 間は相談し易 程相談しにく は相談しにく い い い 企業 件数が増える 相関なし 件数が増える (産学連携件 程相談し易い 程相談しにく 数) い 表―資1 意思疎通に関する総括表は上掲の通りであるが、以下、個別の集計結果を示す。 「1」が相談し易い、 「5」が相談しにくい、を示している。縦軸が数字の場合 は全て、出願件数や産学連携件数等の件数を表している。 101 ○研究者から見た、各者への意思疎通の取り易さ 図―資13 図―資14 図―資15 102 図―資16 図―資17 図―資18 103 ○大学から見た、各者への意思疎通の取り易さ 図―資19 図―資20 図―資21 104 図―資22 図―資23 図―資24 105 ○企業から見た、各者への意思疎通の取り易さ 図―資25 図―資26 図―資27 106 図―資28 図―資29 図―資30 107 【産学連携に対する意識】 図―資31 図―資32 図―資33 108 図―資34 図―資35 図―資36 109 【研究者の志向と出願動向の関係】 図―資37 図―資38 110 以下では、アンケートの自由記入欄(大学特許が休眠しがちであることについ ての意見を問うたもの)に記述された意見を引用する。尚、この論文での公表を 希望しないという意思表示の有った意見については掲載せず、個人や学校、企業 を特定出来るような情報は削除した。また、明らかな誤字や脱字は訂正し、便宜 的に小分類に分けてあるが、記述された内容はほぼそのまま記載している。 自由記入の内容の中に、前述のQ7の内容と重複または近接するものが有る が、研究者/大学/企業/コーディネーター/現行特許制度のいずれへの要望 なのかが明確でない、或は要望とも課題の指摘とも読める意見が有るという理 由から、集計の正確性を確保するため、自由記入の内容はQ7の集計には使用し ていない。 <研究者からの意見> 1、大学特許の権利範囲・内容について ・バイオ系の特許は、米国で成立しないと意味がないことが多い(特に医薬関 係)。大学には日本の特許だけで精一杯なところがあり、ライフイノベで大学 研究者が頑張っても、良くて日本特許留まりで実用化に必須な米国特許化で きない点が大問題である。これでは日本の国の研究書は知財化されないので、 論文になるだけでそれ以上の社会還元が出来ない(税金の無駄遣いが現実に 進行している)。 ・萌芽期から産学連携(共同研究)を実施していないので(そのような状況で特 許取得したものが多い)、実用性に難がある可能性があるのではないか。 ・実際に具体的な実用化についての検討が不十分なまま特許申請している例が 多いと思う。一方、製品化されているものが特許侵害している場合も気づかず みすごされているものもあると思われる。 ・研究者の意識として良い研究成果=実用化との考えが強いが、実用化に至る経 緯を理解すると、いかに学術と離れた作業が不可欠であるかが認識できる。す なわち、大学の特許は不完全であり、出願のみならば良いとなっても、応用さ れるまでの道程も考慮されるべきである。 ・本当にすぐもうかる特許は、企業が出す。大学の特許は目先の利益でなく、長 期的な視野で出すもの。産学連携には、それぞれの役割があるはず。大学の教 育・研究を産業(ビジネス)に直結するものにする現在の流れは問題。 ・特許なんて実用確率がもともと低いものだから、休眠が多くても仕方がない。 工学の特許は、薬学とちがっていくらでも逃げられるからやはり休眠が多く なるのは仕方がない。保険のつもりで出しておけば、実用化するとき企業が安 心できる。実用化の前に、企業に売ってしまった方がもっと安心するはず。使 わなかったら買い戻せる条項をつけておけばよい。 111 ・特許にも基本的特許と応用的特許があるが、私の場合は前者に重点を置いてい る。それは材料の場合にとくに重要と考える。そして応用特許は企業が行うよ うにしている。この場合、多くの企業は研究室に研究員を派遣してくれるので、 応用特許が出し易くなる利点がある。大学特許が休眠が多いのは、特許性が薄 いか、内容が充実していないためと思う。優れた良い特許であれば企業がほっ ておくわけが無い。今の大学特許の質が余りにも悪いのが多いと思う。特許が 多い最大の理由は外国からの技術に対する防衛のためであり、極めて有効で あった。大学特許の役割がここにあると考えるべきで、休眠特許が無意味とは 限らない。 ・実用化の場合周辺技術関連特許が重要である。この特許増出への協力・援助が ほしい。 ・国際的にみて高いレベルの特許内容でない場合もある。国際的な学術論文で知 られている技術等が特許化されていることがある。企業にとっては魅力がな い。大学人が実用化を目指すときのサポート体制が貧弱である。 ・事業化のビジョンが無い。実用化と遠い立場での出願であれば確率が低いのは ある程度仕方ない。周辺特許までおさえる余ゆうが無い。 ・近年、独創的な研究あるいは技術の創出過程は従来と比較して大きく変ぼうし てきている。従来は、1つの学問領域を深く探索することによって新らしい発 見、発明が創出されてきた。しかし更に深く探索しようとすると、地面に掘っ た穴の場合と同様、穴を深く掘ろうとすると地面に出ている穴の大きさを拡 げる必要がある。即ち、特定の領域とは全く関係のない、即ち今まで融合した ことのない領域まで一緒に掘る必要がある。大学の研究は前者が多く、企業の 研究は後者である。当然のことながら、大学の特許の価値は減じてしまう。 ・特許が先端技術の場合、実用化まで長年の研究が必要となることが原因の一つ と考えます。最近では実施予定の企業が決まっているものについてのみ、TL Oが出願、審査請求を認める場合が増えており、出願しにくくなっています。 ・ビジネスにつながらない特許は無意味。市場調査は必要だが、大学ではそんな ことまでやっていられない。企業のニーズと大学のシーズのギャップが生ず る1つの原因かと思う。 ・実用化のために必要なほんとうのニーズに合っていない特許(権利化はできた が現実に合っていない内容)が多いのではないかと思います。また、企業(特 に大企業)では複数の特許を包括的に他企業とやりとりすること(クロスライ センス)が多く、これに対し大学のような個人出願に近いものでは、よほど筋 の良い特許でないと単独では利用されにくい点があるのではないかと思いま す。 ・特許は、物品の発明、物質(化学物質等) ・医薬・植物(バイオ) ・コンピュー 112 タプログラム等の物の発明、物の生産方法の発明、方法(測定方法等)の発明 また、コンピュータ・インターネットを利用しているビジネス方法の発明を保 護します。これら発明は、基礎科学という川上の原理に基づいて作り出され、 最も川下の利益を生みだす最終物に至るには、いろいろな道程がある。もちろ ん発明が直ちに最終物に繋がる場合もある。企業内発明の多くはそうである。 しかし、大学の研究者が関わる発明は主に川上に近い領域であるため、市場に 受け入れられる最終物の性能を実現するまで長い時間を必要としたり、他の 発明が現れるのを待つ必要があったり、競合する発明が生まれたりとなかな か実施に至らない場合が多い。これが、大学特許が休眠している要因であると 考える。休眠している特許を大学が全て維持するのは経費的に困難であるの で、実現された場合の社会への影響度という視点でランク付けをし、維持年限 を定めようにすべきである。もちろん、維持している間は活用先の探索・支援 が行える手立ての仕組みをつくる必要がある。多くの大学の知財部は、すでに 維持年限を定めて管理していると思うが、活用先の探索・支援という点では、 人手と経費の不足から十分に行われているとは言えないのが現状であろう。 ・大学の研究者は実用化を重視してなくて、学問としての価値を重視している場 合が多い。このため大学研究者の特許は実用品になりにくく、休眠しがちであ る。実用化を目標にした大学特許は売れるが、数は少ない。もう一つの理由は、 企業から見て、大学特許の請求項目の「あまさ」がある。このため、企業は「す りぬける」方策を考えるので、買ってまで実施することが少ない。 ・大学の研究が必らずしも実用化のみを考えていないので、ある意味当然と思 う。まあよい道をつくるためには日の目を見ない石ころが土台になってない とできないことなのでしかたないと思う。 ・「大学特許が休眠しがち」の意味が不明であるが、特許にしても誰も(会社) 使ってくれない、の意味に解釈すると、理由は次の2つ ①その特許そのもの の価値が低い。 ②互いに関係のある特許をたくさん作ると1つ1つは価値 が低くても、まとめて価値が出てくる。要するに、大学の特許は単発でかつ価 値が低いのが多いのではないか。 ・大学特許は企業の場合と比較して、現在の技術の改善であるよりも、基本的な ものが多いと思います。こうした特許は実施までにさらなる開発が必要な場 合や実用化に適さないケースが多く、そのため休眠する傾向にあるのではな いでしょうか。しかし、企業ではできない発想に基いたものもありそうで、実 施までこぎつければ、大きな成果をもたらすものと思います。 ・企業で欲しい技術とマッチしていない。大学教員の基礎研究を実用化する考え が不十分。何でも実用化できると思っている。甘い。 ・維持する予算がない。成果として評価されるのか。特許のための特許が多い。 113 大学の財産としてふさわしいと考えられる特許に関しては申請費維持費全て 大学で負担すべき。見極めができる専門性と投資する覚悟をもつべき。大学で はチャンピオンデーターで論文を書く傾向が強い。開発においては、再現性、 厳密性がしっかりしていないと途中でつぶれてしまう。 ・ある意味当然のこと。大学特許の大部分は先行文献の調査もせず成立を前提と して書かれていない。 ・現在では「産学連携」という言い方が一般的になっていますが、私の場合は、 官(JST)が重要な役割を担っており、「産学官連携」が重要である、という 感覚です。そして、 「産学連携に参加する」という感覚は全くなく、 「産学官連 携は、大学の強力な独創的発明(基本特許)を核に、産学官それぞれのキーパ ーソンの人間的共鳴が生じて、自然発生的に出現する実用化エネルギー系」と いう感覚です。大学の発明が強力なエネルギーを持っていれば、産学官連携は 20 年―30 年と持続的に発展を続け、大学の発明が小粒(エネルギーが小さい) であれば、産学官連携の機運は弱く、スタートしたとしても、短期間で消滅す る、と思っています。 ・2004 年度からの国立大学法人化と知財センターの大学配置以降、大学の研究 の特許申請は質的に低下しているように見える。すぐに技術移転できる(と思 われる)小粒の研究成果の特許化が早いので、独創的研究の特許申請が後回し になっているようである。国立大学法人の「研究力の低下」の一因と見られる。 ・企業が特許を利用して商売を行うに当たっては、特許は一つの商売戦略の道具 であり、防御特許や相殺特許など、様々に使われる。本来の特許の主旨は始め に考えた人の努力に対する初期アドバンテージあるはずであるが、現実はそ のようになっているのみではない。特許以外にも実用新案や意匠などもあり、 特許ほど難しくない。共同研究を基にした企業との共願特許であっても眠る 場合がある。ましてや大学による単願となるともっと眠るとなる。大学の役割 として、基礎学問の解明と、応用学問の開発とがあり、今までわからなかった ことがわかることと、今までできなかったことができるようになることであ る。開発や発明は理論的裏付けがなくてもできることから、必ずしも大学で行 う必要があるわけでない。ましてや企業の出先機関でもない。大学が独立法人 化することにより、経営概念が入り、より企業的な論理が、教授会から理事会 への権力移行を始め、導入されたことから、特許の扱いが法人化の当初に重視 されていた。しかし、特許も出願だけなら費用もかからないが、取得するとそ の維持費がかかり、特許による収入に見合わない特許を保持すると大学の経 費を圧迫することとなる。そのことから大学は特許の取得量で張り合うこと をやめた。取得した特許を企業に払い下げして負担を少なくすることなども 考えているようだ。特許にも抜け道があるので、範囲の広い特許は有用である 114 が、狭い特許は企業にとっても魅力がない。眠っている特許が多いのは企業に とって役に立たないからであると思う。 ・大学は、基礎研究を重点的にすべきであり、産業との結びつきを考えた応用研 究は、本筋ではないと思います。産業に係る研究は、企業がすべきことだと思 います。大学は、企業ではないので、いわゆるお金儲けにつながる発明→特許 権の取得→企業への実施権の許諾等→実施料収入という流れは、なじまない と思います。 ・大学や JST に休眠している特許の大部分は、企業にとって興味が無いからと 思います。 大学発の特許は特許の有効期限が切れる 20 年内に、それも早期に実用化され る見込みあるものは少なく、企業にとっては即戦力なる特許が欲しいのです。 また、そのような特許が眼に留まった場合、単独の特許として成立していたと しても、その特許を避けて通れるか考えます。一般に、企業が出す特許は、周 辺を固めて、侵害されないよう精一杯努力します。しかし、大学や独法の場合、 特許予算が企業と比べ圧倒的に少なく、単独出願がほとんどです。従って、単 独でも全く基本的なもの以外は、工業所有権の価値としては低いと言わざるを 得ません。基本的なものでも、大きな利益を期待できなければ無視されます。 ・大学特許に関して次の点を分析する必要があります。 (1)特許の内容が大学からの特許として充実したものか。学術的にも新規性が あり、合理的なものか。 (2)企業から観て、魅力ある内容を含んでいるか。 上の点がいずれも OK であるのなら、利用率を向上のためには、企業に特許内 容を知ってもらう努力をすべきです。大学が保有する特許を大学のホームペー ジ等で公開することも(法的に許されるなら)、利用率の向上に役立つかも知 れません。また、NO であれば、研究が進展し、成果内容の輪郭が明らかにな った段階で、研究者と特許の専門家が特許の内容を充実させるための討議をす べきです。 ・ 「休眠しがち」とは、 「特許をとっても、社会的に利用されない」ということで しょうか? であれば、 ○大学人、研究者が科学的工学的原理の新規性のみを求めた結果、応用性に欠 ける特許内容となる傾向はないか? ○社会的要請、技術的限界を良くリサーチした後の特許であれば、利用対象者 (企業)を、特許取得後にさがす必要は少ないはず。 ○共出者に関連企業を入れる場合と、研究者(室)のみで申請する場合では、 課題発掘→特許→応用までの全ステージが異なる。知財はこのバリアーを下 げるメディエータ機能が求められる(Setting から follow-up までのコーデ 115 ィネート能力と業務範囲が、各々の組織で明確化されているかの調査の方が 有効なのでは? ・大学では特許ではなく、真理探究とか研究課題の体系化を目指すのが、本来で あり、特許を取得するのは、課題の達成度の目安(それも大学研究ではかなり 高度の)になるであろう。特許は目標、ましてや目的、ではなくて結果である。 2、解決策の提案 ・知財のさらに積極的活動により、技術移転先を探す努力を実行することが重 要。 ・カタログ化すると共に、単独特許としてではなく、関連特許・周辺特許も整理 して、学外へ特許戦略が見えるように示すことが重要。 ・1、特許そのものが、利用価値があるかどうかの判断をどの様にするかが主要 であり、その意味でオークション形式の積極的な利用が肝要ではないか。 2、企業との共同出願の場合、その実施に際し単独でもできる、規則改正が必 要ではないか。 ・不動産業者と同様に、大学特許を売る信頼のおける複数の業者と契約して売り 上げの 3%を業者の取り分にするようにすれば、自然と大学特許が流通するよ うになる。 ・大学側も個別の特許を売るのでなく、組み合わせで有用な特許グループを作っ て、売るように工夫する必要がある。 ・大学の特許を使ったイノベーションプラットフォームを作り、テーマパーク的 に特許パークを作り、外部からその特許パークに入れるようなシステムを作 ると良い。 ・産学連携事業で関連した知財担当者に特許の”目利き”とも称される特許内容 と研究者の動向、企業開発の方向などに通じた人材の育成が望まれる。大学特 許の中に”目利き者”が価値のある特許を見い出せるかが休眠特許を甦させる ことに道を拓く可能性が高い つまり研究者と対等に意見交換ができ、かつ 事業化に関しては研究者を指導できる人材の育成が望まれる。 ・有限責任事業組合制度は新技術の社会移転に大変役立っている。 ・企業との橋渡を積極的に行なってくれる機関がないからだと思います。渉外に ついて充実したサービスを提供してくれる機関があるともっと特許も有効に 活用されるのではないでしょうか。 ・国家として、又は大学として、特許が有用なものかどうか、申請時およびその 後を含めて常にチェックして、申請や維持を取下げなければ、黒字どころか、 赤字を増大させるだけである。外国出願は費用が増えるのでほとんど出願さ れず、登録されると外国では自由に使用でき、日本国民に特許料の負担を強い 116 るものとなっている。したがって、かなり難しいことだが、外国出願に値する ものだけ、国有特許とし、それに値しないものは発明者の自主判断まかせ、個 人又は企業で申請管理をまかせればよい。 一つの案として、大学教官の特許は、個人が生み出した所有物と考え、発明者 個人にまかせ、それによる特許料収入があった場合には、国の報告義務を課し、 例えば特許料の1/2を国又は大学に収めることにし、さらに多額の特許料が 入った場合には表賞する制度は一つの案として良いのではと思う。 ・従来、大学の特許は研究者が記述し、それを大学事務局が外部の特許専門家 (例えば特許事務所)に提出し、それを修正、補筆の上、特許願いとして特許 庁に提出するのが通例であったと思います。しかし、今後、研究成果を国際的 にも有効な特許とするために、大学も、企業の特許部に類した部門を持つ、或 いは外部の特許事務所と連携することによって、研究者と特許専門家とが意 見交換しながら、特許を共同で作製する体制をつくる必要があると思います。 研究者は特許専門家に研究内容をよく知ってもらう努力も必要です。 3、大学について ・大学のライセンスのあり方を再考し、より柔軟に対応できる様にして欲しい。 実用化を第一とした契約内容を検討して欲しい。 ・特許の休眠は、恐らく担当者がオールラウンドでないことに原因があるのだろ う。 ・特許の休眠は、特許を機関有とした事が原因である。国立大学では、10数年 前から教員の発明が機関有となった。この変化の前と後では大学知財は大き く異なる。 ・大学側の特許に対する理解不足。大学側の自己資金獲得への努力不足。一般に 大学人の産学連携への理解不足。特許料に関し発明者に還付される割合が低 い。 ・1、大学自身が待ちの姿勢を改め、自ら営業活動にのりださなければ特許・研 究の実用化はない。研究者を束ねて産学連携事業を作ることを行わねば ならない。 2、特許が手段ではなく目的化している。結果、利用価値の高い特許は生まれ ていない。 3、大学が短期で利益を得ることに拘わりすぎる。長期視点に立って投資せね ば、実用化に結びつかない。出願費用を全額企業にださせて半分の権利を 要求するなどおよそ社会の通常経済活動と相容れないことをしている以 上、真の産学連携は行えない。 ・大学の産学連携担当者は総論的な意見をいうのみで、各論、実務能力低い。日 117 本には実力のある産学連携コーディネータがいない。 ・特許を実用化する迄の費用、時間がない。特に大学では、研究を主体的に進め た学生は 2~5 年程度で別企業に入ってしまうため、実用化を進める人材確保 が困難である。 ・大学知財部が必ずしも特許内容を熟知している訳ではないので、発明者からあ る程度の情報を与えても企業側への売り込みが不十分になってしまう。Seeds と needs を matching させるシステムがあれば有用であろう。 ・知財部のトップは、判例は全く知っていません。意匠、商標、国際条約、著作 権、不正競争防止法については、何の知識もないと思います。実用新案法の特 徴も知らないでしょう。法改正など全く注意していないと思います。 ・大学の知財部なんて、素人集団で実情は、機能している所は少ないのではない かと想像します。大学自体が弁理士を複数人雇用し、どう活用するかというこ とを考えない限り、中途半端な知財部に過ぎないように思います。あるいは、 特許事務所との密接な連携です。 4、企業について ・10 年先に世界をリードできる技術を世界に先がけて実用化する余力が日本の 企業に無いのが原因です。余力とは技術力と経営力の総称です。 ・企業へ技術移転しようにも以下のような問題があると考えられる(独断と偏 見!) : ―企業内に”目利き”不在 ―市場規模至上主義で、新技術を待っている人々のことが頭にない(企業の社 会的役割って何なんでしょう??) ―基本的に大企業ほど、大学を”お付き合い”の相手くらいにしか認識してい ない… ・”他者に使わせなければ良い”的発想がはびこっている… 以 上。 ・企業との共同研究として、特許を出願しているため、企業の合意を得て、製品 開発を行うことの許可を得られにくい。他方、自分だけで開発するには資金が 不十分で、独立して企業化することが困難である。 5、研究者について ・大学教官の特許に関する考えが甘い、又、知財戦略が不充分である。しかし、 それが、大学教官である。休眠を防ぐためには、大学教官に対する教育が必要 である。しかし、それは学問力の低下につながる可能性もある。大学教官に特 許を期待するのは無理である。 ・実用とか事業化への認識が浅かった。 118 ・研究者は研究に集中したいし、すべきである。アメリカでは研究室を訪ねて成 果を特許化するプロがいる。 ・せっかく物理研究・基礎研究の能力があるのに、研究費がほしいからという理 由で特許指向の研究のみを目指しているのを見ながら、将来の日本の科学レ ベルの低下を懸念していました。 ・特許明細書を書く作業は、 「右脳の活動(特許請求範囲の想像や研究の位置づ けの総括など)」、研究論文を書く作業は「左脳の活動(論理作業)」と考えら れ、大学教授は、右脳と左脳の両方を鍛えることによって研究マインド(独創 性)を深めることができると考えている。 ・大学教員は、弁理士に対して横柄な者も少なからずいます。弁理士は、権利化 後のことも考えて明細書等を作成していますし、PCT では、例えば米国の法 律に沿って英文で書類を作成しています。しかし、単に英訳をしているだけだ ろうと思っている教員は、多いです。もっと言いますと、特 30 条すら知らな い教員が多いし、知財部でも特 72 条について理解していない者が多くいます。 個人的には、知財部のトップは、素人さんに見えます。青本や改正本など全く 読んだことないのだろうと思います。 ・1980 年代、大学は、基礎研究をすべきであって、研究でお金儲けを考えるの は、品性に欠けるという戦前生まれの先生方が多くいました。大学の研究は、 広く開放することで、社会に貢献するという考え方でした。確かに時代の流れ と共に考え方は変わってきましたが、大学が特許で社会に貢献するのは、社会 における大学の役目ではないように思います。大学は、企業ができない基礎研 究を行い、広く社会に開放することで、産業の発展に寄与する。その結果、特 許法第1条の法目的も達せられるのではと思います。 ・日本の大学人の特許マインドは極めて低く、見方を変えれば有用な特許になる 研究成果やアイデアに対して特許化できるかを絶えず考える人は少ないです。 大学に在学中に、どのように特許にできるのかの教育が必要です。その教育を できる人が学内におられたら良いのですが、おられない時には、特許考案の達 人をお呼びすべきです。昔、東北大学におられた西沢潤一先生の研究室では学 生に特許化を考える環境が作られていました。そこの学生は、企業に入っても 多くの有力な特許を出し続けていました。フラッシュメモリを発明した舛岡 さんもその一人です。 ・独創的研究による基本特許は、新発見の研究成果としては顕著であるが、実用 化への段階としては、 「アナログ的段階」に留まっている。大学教授は、この 研究者としての成功(相継ぐ国際会議の招待講演や招待論文の執筆など)に満 足してしまう場合が多い。研究成果の実用化のためには、新技術の発明(ディ ジタル的段階)へと進む必要がある。このように、画期的な研究成果は、雪崩 119 的に特許が生まれていくという特徴がある。 6、その他 ・出願する組織はあるが大学特許を積極的に活用する働きかけをする人がいな い(研究者に要求するのは無理)。TLO は機能していない。 ・売れるもの、使えるものを作り出すことはむつかしい。 ・1、特許そのもの:実用性の乏しい「研究のための研究」の結果が多いから。 2、制度:形式が非常にわずらわしく、使いにくい 実際に活用されて利益を生むまでのプロセスが見えにくい。 ・論文、外部資金に比較し評価が低い。 ・ベンチャーファンドが極めて貧弱 + 大学のシーズを直接投資家(ベンチャ ーファンド等)に結びつけるプロのコーディネーターがほとんどいない。日本 と米国との差は上記2点につきると考えます。この改善がない限り、このまま の状態は永遠に解消されないと思います。 ・昔から、特許は 100 のうち一つあたればましと言われる。 ・特許には、研究の純粋さが失われるという欠点と、成果を上げれば自らの研究 環境(設備や人材)を向上させることができるという二面性がある。 ・特許の歴史的意義を意識する。ワットの蒸気機関(の改良)の発明特許は、そ れまでの王侯貴族のための科学技術を民主化(民需品の工業生産化)する意義 を示した。 ・確かにコーディネータは、企業出身者が多く、どのように申請書を書けば、外 部資金の採択につながるかをよく知っています。この点では、私も随分と助か りました。しかし、大学教員はもとより、知財部においても産業財産権に関す る法律にあまりにも無知だと感じます。だから、特定企業に通常実施権を許諾 しても、当該企業が平気で信義則に反することができるような内容の契約を 交わしています。愚かです。 ・特許制度は経済行為であることを忘れてはならない。申請、審査、維持、販売 など多大な経費が費やされていることを忘れてはならない。実際には極く少 数の実用化例を除いては、大学特許は研究費申請で有利とはなっても大きな 赤字を生んでいるだけである。米国でも IT とバイオのブームが過ぎて赤字と なりつつあると聞いている。それでも産学連携を進めるには、特許申請は必修 のことである。 ・分野によって特許の性格が違います。応用に近い分野では、多様な特許を組み 合わせて使い、クロスライセンスなども行われます。このため特許で利益を得 ようとして権利を主張し過ぎると、企業の製品化はやり難くなります。我々は 世に製品を出しやすくなるように、企業を支援するという立場を取っていま 120 す。特許で利益を得ずに、企業の相談に乗ったり、講習会を開いたりして、企 業との共同研究が始まるようにしています。共同研究などによる成果は、企業 負担で特許化し占有実施権を差し上げていますが、製品化しないときはオー プンにしてもらってきました。 ・共通性の高い特許は大学で持ってほしい(そうしないと他の企業が使えないで 不利益)との要望があり、 「パテントバスケット」という仕組みを作って、共 通性の高いものは大学(企業との権利化も含む)で取り、個別的な特許は従来 からのやり方でというようにしています。 ・休眠特許や大学や公的研究機関の産業への寄与が少ないのは、縦割りで連携せ ずそれぞれが局所最適化していることや、論文が研究目標になって完成度を 上げてないことなどにあると思っています。企業は国内の研究機関をあまり あてにしないで、社内留保した資金で外国の企業と M&A で生き延びようと しているように思われます。 ・大学の研究成果のオリジナリティの保証と公報での公開。特許庁特許審査官と の技術論争の楽しみ。 ・特許取得から実用化・製品化までに多くの壁(いわゆる「死の谷」)があるこ と。例えば、 ―製品化のためのマーケッティグは誰がするのか、その費用は誰が出すのか ―試作器から製品に至るまでの改良研究の費用をどうするか(業績になりにく いので大学ではやりにくい)。 ―製品化する企業の業績に左右されやすく、企業の不振によって中止になる可 能性が大きい。 ・コーディネータの活躍を期待しております。 ・大学だけでなく大企業でも同様である。日本固有の問題の一つである。 ・我々は自分達の大学での研究成果を企業を通じて特許化し、いろいろなことを 経験しながら、自立ベンチャーを設立したものです。特許に関しては、中小企 業にとっては、出願も、また維持も金銭的に負担が大きく、軽々しく出願はで きにくい状況です。公的資金を利用すると、手続、説明等がこれまた負担とな ります。また、産学連携と一口に言っても、様々で同一案件でも変化いたしま す。工学の研究は、論文、特許はもちろん重要ですし、出口の重要なものに商 品化による普及がありますが、大学の研究は現実から離れているために、休眠 することが多いのではないか。 ・1、技術移転先がないから(移転先を探すこと)。 2、”事業化”に耐えうる特許でないから。 ・ニーズがあっても特許だと思う。 ・まず、研究者の活動目的の一つに、新技術開発や、問題を整理し見つかった未 121 解明部分の探究(純粋研究)があげられています。いずれも、アウトプットが 必要で、高い質のアウトプットは、JCRのデータベースを構成している雑誌 (Q1等)への掲載、が重要な指標です。ここで、今後新技術につながる成果 があった場合は、純粋研究であれ、基礎的技術開発であれ、特許を先行させて おかないと、その後の展開が難しい場合が出てきます。このように具体的な展 開が見えていない段階でも、特許を出す必要があるため、新テーマで新知見が えられた場合は出さざるを得ないのが現状です。大学の産学連携等の部門に いる要員は、籍だけ大学においている関係者がほとんどで、教員サイドの目線 で特許出願時に必要な書類作成や企業等の折衝に役立ったことは一度もあり ません。この2つの点から、特許に関する事項を前に進めるには、研究者自身 がそのエンジンにならざるを得ないと考えています。しかし、学務行政・研究・ 教育と、欧米の大学と比較してかなり忙しい大学教員には、時間的な限界が存 在している、というのが実感です。特許自体が休眠化している、というよりは、 むしろPRするための作戦を限られた時間の中でいかに確保するか、が問題 だと考えています。 ・大学等で特許を取得する目的が何かということであるが、特許の実施料収入を 得ることとするならば、多くの場合は、弁理士費用や特許取得、特許維持費用 などの出費の方が高額となってペイしない。特に大学の研究は基礎的、基本的 なものであるため、実用化には一般に 10~20 年を要し、それまで持ちこたえ るのは容易ではない。また、特許は基本特許だけでなく、多くの周辺特許をも しっかりと押さえておかなければ、抜け道があったり、他者に周辺特許を取得 されて肝心な部分を押さえ込まれてしまう場合も少なくない。一方、日本の企 業における特許については、いまだ防衛特許の考え方が強い。したがって、で きるだけ社外の特許を使わないで済む方向を選択することが多い(特に企業 の特許部はそれを主たる業務としている)。このため、基本特許を売り込もう としても、企業の志向する方向とよほどマッチングしていない限り、採用され ることは極めて少ない。 以上のような背景のもと、改めて大学の特許取得の目的は何かであるが、これ については以下のように考えている。 (1)国レベルで先端技術を防衛するために、大学も基本特許を取得することは 重要である。 (2)最近では、大型公的研究費を申請する場合、特許を申請あるいは取得して いることが必要条件に近くなっている。 (3)大学の研究成果を基に実用化を目指して企業と共同研究を行っていく場 合、成功した際に企業の生産活動を守るためには大学がその基本特許を 取得していることが重要である。 122 (4)上記のような連携企業と共同研究を進めていく過程で、されに相手企業の 協力を得ながら周辺特許を次々と申請して行けば、成果を知財化してい くことができる。また、企業にとっても特許による防衛が可能となって、 互いに win-win の関係を構築することができる。 以上のように、大学としての特許の生かし方は企業とかなり異なっていると考 えられる。また、特許の評価も、その実施料を得たかどうかではなく、研究費 を獲得するのに特許が役立ったかどうかという観点で考えるべきである。 これに関連したことで、大学の基礎研究を考えてみれば、それが実用化につな がる確率は極めて低い。だから大学の研究は意味のないものかといえば、そう ではない。大学の研究がその分野の基礎を作り、それをもとに多くの研究者が 新たな研究や開発に挑戦して、それらの成果が積み重なって最後は大きな実用 製品に結びつく場合は少なくない。同様に、基礎研究に基づく基本特許が実用 に結びつく確率は高くない。このため、休眠特許がたくさん出ることも不思議 ではない。しかし、大学における特許については、上記のような形で特許を生 かしながら、それを次の新たな研究開発につなげていくことが重要であると考 えている。 ・大学発特許数が伸び悩んでいる理由として、以下のことが考えられます。 (1)大学院博士前期課程時代にあまりにも講義数が多く実質的な実験遂行時 間が少ない。しかも就活に時間が割かれ、まともに実験する時間が前期課 程の半分以下である。ましてや、就職が決まれば院生自身の気のゆるみが ある。このような未熟な院生を修了させてしまう大学教員にも責任があ ると考えられる。就活そのものについても問題があるので、非常に難解で ある。このような状況では大学発特許取得は容易くないと考えられる。 (2)大学院博士後期課程に進学する学生が極端に少なくなり、博士前期課程で 芽生えた研究成果を後期課程で完成できず、後輩に引き継ぐことになっ てしまう現状があります。 (3)若手の教員が自分で実験を遂行し first author として論文を仕上げる機会 が少なくなった。大学院生は教員の切磋琢磨を目の当たりにして、実験に 夢中になる。このような環境づくりに取り組まない限り特許取得までの 研究成果は上がらない。 (4)遺伝子操作等の仕事に重きが置かれ、いわゆるムスケルアルバイトで物取 りをする習慣が少なくなった傾向があるのではないか。物取りから特許 の発想が生まれる。 123 <大学からの意見> 1、公開・開放について ・ 「活用」を大目的とするのなら、 「条件付き」等で「無償開放」しても良いので は? ・大学単位のイベント(新技術説明会 etc)よりも、テーマや分野に限って開催 するのがよい。なぜなら、シーズを探しに出向く企業担当者は、特定の技術を 探すとき、まとめて情報を得ることができるから。大学単位のイベントでは、 何度も足を運べないから、情報入手に漏れが生じやすい。マッチングの確率が 上がらない。HPに掲載して開示するのみでは、十分理解が得られ難いため、 上記のようなイベントを開催するとマッチングの確率も上がると思われる。 ・各大学未利用特許を用途別カテゴリに整理し公開、対応窓口を公的機関に常 設。併せて登録企業のニーズも公開し、橋渡しを行う(企業名は非開示)。参 加機関すべてに NDA を課す。企業には若干の登録料および成立時の対価を支 払ってもらい、運営費用の一部とする。《ポイント》国の財政、人的支援 ・特定技術分野を選定し、各大学間の協定による一定期間の包括的無償ライセン ス。 ・シンポジウムや大学見本市(イノベーションジャパン)等での積極的な外部へ の公開だけでなく、例えば、地元企業への無償実施(但し、期間限定)を認め るといった新たな取組みや、TLO の積極的な活用等が考えられる。 ・技術シーズ発表会等への参加(すでに行ってはいますが)。 ・本学でも悩んでおります。開放特許等に登録しても、企業側から連絡がくるこ とはありません。実績のある TLO 等に移転業務を委託するくらいしか方策が ないのでは? 米国のように、NPE に譲渡することは、わが国では倫理的に 認められにくく、対価を得る(金銭的な収入)ことを目的とした活動には限界 があると考えます。 ・技術発表会等において積極的な説明等。 2、群管理について ・JST の重要知財集約活用制度を利用する。 ・全国の大学で死蔵している未活用の特許を関連技術でまとめ、群として企業等 にライセンスできる仕組みの構築(JSTの重要知財集約制度は充分に機能 していない)。 ・全国の大学特許を収集し、活用を図る公的機関が必要であると考える。JST が、買取を始めたが、まだ体制が充分でないように思われる。 ・JST の重要知財集約活用制度、知的財産戦略ネットワーク(株)の LSIP ファ ンド運営受託と言った外部機関の活用が未利用率の減少につながると考える。 124 そのためには、政府の出資を増やし、上記外部機関での採用数を増加させる施 策を推進することが重要ではないかと考える。 ・複数大学の未利用特許について、まとめて活用を図るような組織、仕組み、人 材が必要。JST でも一定のとりくみがなされているが、不十分。 ・全ての大学が放棄する前に、集約する機関に集めて、誰でも少額で自由に使え るようなしくみを作れば社会貢献にもなるし、オープンイノベーションが促 進されるのではないかと思う。 3、棚卸しについて ・産業界で活用可能な特許を目利きして、真に有用なものに技術移転のリソース を集中すべき。 ・企業等への譲渡・売却により、大学が探し切れていない用途への活用を期待し たい。 ・未利用”率”の低下という面では多くの大学(国立は維持年金がかからない時 代の特許があるので別ですが)では棚下しにより未利用の特許の放棄を進め ていると考えています。一方、活用という面では大学の特許の5-7割は共同 研究先の企業との共願・共有であり、この共願特許の多くが活用されていない ということが課題の1つとなると考えています。大学が企業に活用をはたら きかける、支援することが必要と思われます。 ・長期間実用化の目途が立たない特許・特許出願は、審査請求期限の到来や拒絶 査定の送達、特許料の値上がり年次などのタイミングで放棄とし、他者にその 実施の自由を認めて発明利用の促進を図ることも一つの方法と考えます。 ・法人化前の特許は、技術移転を考慮せず優遇処置のため出願特許化されたもの が多い。今後、特許の棚卸しが進めば、未利用特許も減っていくであろう。 4、その他 ・大学単願、企業との共願、プロジェクトの成果等の各案件に応じた適切な活用 形態を整理してそれに応じた技術移転の進め方を検討すべき。 ・ライセンスのみが知財活用形態ではなく、共同研究やプロジェクト等での研究 進展への功献も評価すべき。 ・特許単独ではなく、ノウハウ等との統合、インキュベーションによる活用可能 性の拡大等に工夫が必要。 ・地域中小企業への技術移転紹介の仲介は地域金融機関を活用する予定。 ・市場ニーズ、特許の目利き人材の確保。 ・現在試行錯誤にて活用を実践中です。基本は意味のある特許と無い特許を如何 に判別するかですが、基準は時代と共に変わるので難しい所です。 125 ・公的な総合DBの構築と専門分析官の配置。 ・大学の知財管理に要する費用の多くは(特に外国出願費用)、JST の支援によ るものです。大学のみならず、JST 等の支援制度も踏まえ、本研究の検討が行 われると、新しい知見が得られると考えます。 ・一般的に、大学の研究は基礎研究であり、活用されるためには、さらなる研究 活動と資金が必要となるといわれております。ある大学では実用化に向けて さらなる資金の配分を研究者に行っていると伺いました。また、近年では国の 橋渡し研究機関事業という施策がありまして、中小企業に技術移転をするた めに一定の資金が配分されております。そういった意味では、実用化と研究費 にある程度の相関があるかと思われます。 ・大学の先生は、知財に関する知識が乏しい。知財に明かるい人(コーディネー タ)が先生とよく相談して出願すれば、活用可能な特許が増えると思われる。 ・共同研究へのきっかけとして活用する。 ・成果の実施機関となることのできる大学(自己資本を有するような)は少いこ とから未利用に見えるのであって、企業における未利用とは異なる性質のも の。 「産業財産権」として一くくりにして考えては解析を誤るものと思われま す。制度と知財の具体的内容を見て考える必要がある。 ・大学が特許を使用して製品化することは困難なので、技術のコントロールをし ながら企業に活用してもらうことになります。しかし、製品化が近づくにつれ て、開発・研究が詳細になり、大学の手に余るようになってきます。学外から も、大学は基本特許だけを維持して製品化に必要な周辺特許は共同開発企業 に有償譲渡してはどうかという声が出ています。今後、知財集約活用制度の利 用を含めて、検討課題ととらえています。このように実施許諾=技術移転のよ うに見える成果だけではなく、見えない(見えにくい)成果があります。特許 があることによる共同研究、補助金等の獲得が、これにあたります。多くの大 学で、見える成果よりも見えない(見えにくい)成果の方が、大きいものにな っています。これらの成果を、どのようにして見える化をするかが、課題にな っています。 126 <企業からの意見> 1、大学について ・ライセンスや譲渡可能な出願・特許リストを予め作成しておいていただき、秘 密保持契約を結んだら、すぐに開示してもらえるとよい。 (出願公開や特許公 報でどのような技術を保有しているかは調べられるので、その情報から接触 できるが、企業が利用できるかは明確ではない。企業としては独占的な利用を 希望したい場面が多いと思われる。) ・大学での成果を事業化するには、企業側には多額の投資と時間が必要。一方大 学側は、事業化後の不実施補償ばかり権利主張されるので、企業側の投資意欲 を減じる事になる場合もある。 ・大学の研究室の姿勢と知財担当者との考え方のスタンスに乖離を感じる場合 がある。研究開発の更なる発展を考える研究者と、知財権の強い主張を主眼と される知財担当者との間で、企業側としては困惑する場合もある。 ・実施料や実施権(独占等)について、もっと活用しやすさを考えた方がよいと 思います。 ・そもそも大学が保有している特許について企業はあまり把握できていないと 思う。Web等で公開している場合もあるかもしれないが、それでは伝わらな いと思う。大学の側からアプローチしたい企業の事業を調べこの特許が役に 立つと思うというような提案して初めて活用されるのではないかと感じる。 ・色々考えてみましたが、難しいです。未利用特許に係る製品の販売計画、経営 戦略まで提供されるのでしたら活用できるのかも知れませんが、そこまでで きれば、既に活用されている。製造設備を持たない大学が、製造設備を持つ企 業に売り込むのでしたら、その製造設備の活用を促進できる特許であること が必要かと考えます。 ・未利用特許が役立つ製品を明確にして、その分野の企業に相談を重ね、関係す る企業へ PR するのが良いと思います。 ・契約条件の見直し。 ・大学がビジネスパートナーとして魅力的にならなければ、大学の特許を利用で きない。たとえば、共有特許やライセンスしている特許が侵害された場合、共 有者やライセンサーとして応分の負担をして権利行使を行うことは当然の責 務であるはずだが、日本の大学でそれをやっているところはない。それでは、 企業は共有者やライセンシーとして費用等の負担をしても得られる利益が限 られるので、それに見合った程度しか大学とはつき合えない。 127 2、その他 ・製品化への道筋のフローが必要と考えます。企業の未利用特許の活用も同様で すが。 ・大学の未利用特許や、特許制度について論じるよりも、文部科学省が推進して きた大学側の制度について、考察することが必要ではないでしょうか。国立大 学法人化と相前後して、大学の出願等費用を適切に予算化出来ていないにも 拘らず特許で収入を得ることを指向し、不実施補償の概念の提示、知財本部や TLOの整備、などが進められてきたと認識しています(私立大学も出来上が った制度等を利用します)。これらは、 「大学には知の力があるから、次から次 へと大当たりする特許が出てくる」ことが仮定されているように思われます が、如何でしょうか。 ・特許を出す前に関係する企業へ事前に相談して欲しい。 ・事後の未利用特許では企業から見てもれ、抜け等があり、周辺特許による補足 等が必要となり扱いにくい。 ・一般的には INPIT の PLID を利用することですが、すでに利用しているよう なので、又聞きになりますが、中国では自治体が流通フェアを開催し、企業や 大学が参加するわけですが、そのアピールの際、この特許を使えばこんなこと ができますというサンプルを用意して、実施してくれる相手(ベンチャーなど) を探すそうです。中国人はこのアピールが上手いそうです。ご参考まで。 以上。 128 アンケートご回答者一覧 本研究のために実施したアンケート調査(2015 年9月1日~2015 年 10 月 15 日)にご協力くださった方々のお名前をここに記し、改めて深く御礼申し上げま す。掲載順序はアンケート番号に拠ります。 【大学研究者】 株式会社創晶大学 代 表 取 締 安達宏昭 様 役社長 大阪大学 井口征士 様 木田勝之 様 大阪大学産業科学研 生体分子反応科学研究分野 客員教授 究所 黒田俊一 様 大阪大学 大学院工学研究科地球総合 准教授 工学専攻 桑原進 大阪大学大学院 工学研究科 電気電子情報 特任教授 佐々木孝友 工学専攻 様 富山大学 大阪大学大学院 名誉教授 工学部 機械知能システム 教授 工学科 医学系研究科 寄附講座 教授 菅野伸彦 様 荘村泰治 様 常務理事 中塚正大 様 教授 真嶋哲朗 様 名誉所長 松原謙一 様 教授 宮崎文夫 様 (旧所属:大阪大学大 学院) 財団法人レーザー技 術総合研究所 大阪大学 産業科学研究所 DNA チップ研究所 様 大阪大学大学院 基礎工学研究科 大阪大学大学院 工学研究科 電気電子情報 教授 工学専攻 森勇介 様 国立研究開発法人産 バイオメディカル研究部門 業技術総合研究所 弓場俊輔 武庫川女子大学 蓬田健太郎 様 生活環境学部食物栄養学科 教授 ファインテック株式 会社 東京大学大学院 代 表 取 締 中川威雄 役会長 工学系研究科精密工学専攻 教授 樋口俊郎 様 様 様 精密機械システム工学講座 129 総合研究大学院大学 東北大学 理事 原子分子材料科学高等研究 特任教授 機構 永山國昭 様 塚田捷 様 学長 藤嶋昭 様 東京大学大学院 理学系研究科地球惑星科学 教授 専攻 地球惑星システム科 学講座 茅根創 様 東京大学大学院 工学系研究科機械工学専攻 特任教授 草加浩平 様 東京大学 物性研究所附属極限コヒー 准教授 レント光科学研究センター 秋山英文 様 東京大学 大学院 工学系研究科マテリアル工 教授 学専攻マテリアルプロセス 講座 石原一彦 様 東京大学 大気海洋研究所附属国際連 教授 携研究センター 植松光夫 様 東京理科大学 国立研究開発法人情 社会還元促進部門 報通信研究機構 産推進室 知的財 マ ネ ー ジ 滝澤修 様 ャー (坂内正夫様 の代理) 東京大学大学院 東京大学 高齢社会 総合研究機構 工学系研究科機械工学専攻 教授 設計生産工学講座 名誉教授 中尾政之 様 伊福部達 様 東京大学 生産技術研究所基礎系部門 教授 酒井研究室 酒井啓司 様 東北大学 原子分子材料科学高等研究 教授 機構 江刺正喜 様 仙台高等専門学校 校長 内田龍男 様 公益財団法人電磁材 料研究所 理事長 増本健 城西国際大学 東北大学 東北大学 大学院 様 環境社会学部環境社会学科 招聘教授 井上明久 様 名誉教授 伊藤弘昌 様 高井俊行 様 医学系研究科・医学部医科 教授 学専攻 130 地方独立行政法人宮 発がん制御研究部 城県立病院機構 宮 城県立がんセンター 研究所 特任部長 菅村和夫 様 公益財団法人野田産 業科学研究所 理事 神尾好是 様 東北文化学園大学 科学技術学部知能情報シス 教授 テム学科 和田仁 様 名古屋大学 工学研究科 機械理工学専 教授 攻 機械科学分野・機械情 報システム工学分野 梅原徳次 様 ㈱福田結晶技術研究 代 表 取 締 福田承生 様 所 役 東北大学大学院 医工学研究科 医工学専攻 教授 生体機械システム医工学講 座 生体機能創成学分野 厨川常元 様 京都大学大学院 工学研究科工学研究科附属 准教授 松尾二郎 様 量子理工学教育研究センタ ー 一般財団法人 生産 開発科学研究所 森本琢郎 様 (山室隆夫様 の代理) (旧所属:中部大学) 東京大学 教授 小久保正 様 井上雅文 様 教授 坂口志文 様 医学部附属病院医療情報企 教授 画部 黒田知宏 様 代 表 取 締 橋本壽正 役 様 アジア生物資源環境研究セ 准教授 ンター 環境材料設計学研 究室 大阪大学 免疫学フ ロンティア研究セン ター 京都大学 株式会社アイフェイ ズ 東京大学大学院 工学系研究科 専攻 電気系工学 教授 大津元一 様 大津研究室 131 東京工業大学大学院 総合理工学研究科 東京工業大学 大学 総合理工学研究科 院 子化学専攻 特 任 ・ 名 小杉幸夫 誉教授 様 物質電 教授 大坂武男 様 東京工業大学 大学 総合理工学研究科 創造エ 教授 院 ネルギー専攻 堀田研究室 堀田栄喜 様 東京工業大学 大学 理工学研究科 院 ステム専攻 広瀬茂男 様 山下成治 様 北海道大学 大学院 機械宇宙シ 名誉教授 水産科学研究院 海洋生物 准教授 資源科学部門 海洋共生学 分野 財団法人名古屋産業 研究部 科学研究所 上席研究 毛 利 佳 年 雄 員 様 財団法人名古屋産業 研究部 科学研究所 上 席 研 究 八田一郎 員 様 京都大学 大学院 教授 様 工学研究科 材料工学専攻 メビオール株式会社 杉村博之 代 表 取 締 森有一 様 役 東京大学 大学院 薬学系研究科 生体分析化 教授 学教室 船津高志 様 早稲田大学 先進理工学部電気・情報生 教授 命工学科 光物性工学研究 室 宗田孝之 様 慶應義塾大学 医学部 耳鼻咽喉科学教室 教授 國弘幸伸 様 慶應義塾大学 理工学部 物理情報工学科 教授 伊藤公平 様 フェロー 星野力 筑波大学計算科学研 様 究センター 筑波大学 大学院 数理物質科学研究科 教授 鈴木博章 様 筑波大学 システム情報工学研究科 教授 安永守利 様 取 締 役 技 大嶋建一 術顧問 様 メタル・アンド・テク ノロジー株式会社 大阪府立大学 工 学 研 究 科 機 械 系 専 攻 教授 高機能機械システム講座 機械計測工学研究室 菊田久雄 大阪工業大学 電子情報通信工学科 大松繁 教授 様 様 132 厚生労働省所管 四 国職業能力開発大学 校 校長 中山喜萬 様 大阪府立大学 大学 生命環境科学研究科 生物 准教授 院 情報工学講座 西浦芳史 様 大阪府立大学 高等教育推進機構 教授 梅澤憲司 様 東京農工大学 農学研究院 部門 動物生命科学 教授 松田浩珍 様 東京農工大学 工学研究院 名誉教授 亀山秀雄 様 広島大学 大学院 先端物質科学研究科 名誉教授 西尾尚道 様 技術顧問 吉里勝利 様 二川浩樹 様 理事長 茂里一紘 様 レジエンス株式会社 広島大学 大学院 医歯薬保健学研究院 医歯 教授 薬学総合研究科 国立研究開発法人 海上技術安全研究所 広島大学 大学院 工学研究院 特任教授 金子新 様 広島大学 大学院 工学研究科 教授 藤本由紀夫 様 東洋大学 理工学部応用化学科 教授 吉田泰彦 様 筑波大学 数理物質系 特命教授 堀池靖浩 様 九州工業大学 大学 生命体工学研究科生体機能 教授 院 応用工学専攻 白井義人 様 九州大学 農学研究院 生命機能科学 教授 部門 バイオプロセスデザ イン 白石文秀 様 九州大学 シ ス テ ム 情 報 科 学 研 究 院 教授 都甲潔 様 情報エレクトロニクス部門 電子デバイス工学 公益財団法人北九州 産業学術推進機構 理事長 國武豊喜 様 様 九州大学 生体防御医学研究所 細胞 教授 機能制御学部門 中山敬一 京都工芸繊維大学 京都工芸繊維大学 電子シ 教授 ステム工学専攻 電子物性 工学研究室 林康明 様 133 国立研究開発法人産 バイオメディカル研究部門 研 究 部 門 近 江 谷 克 裕 業技術総合研究所 長 様 株式会社SPD研究 所 代 表 取 締 金子正治 役 静岡大学 大学院 工学研究科 物質工学専攻 准教授 静岡大学 工学部電気電子工学科 株式会社イデアルス ター 松田智 様 様 教授 桑原義彦 様 顧問 大東弘二 様 山形大学 大学院 理工学研究科機能高分子工 教授 学専攻 栗山卓 山形大学 大学院 理工学研究科応用生命シス 教授 テム工学科 湯浅哲也 様 信州大学 繊維学部 特任教授 白井汪芳 様 副学長 武田三男 様 名誉教授 谷口彬雄 様 信州大学 信州大学 繊維学部 信州大学 先鋭領域融合研究群 オメディカル研究所 バイ 教授 先端 様 谷口俊一郎 様 疾患予防学部門 信州建築構造協会 文京学院大学大学院 保健医療科学研究科 東京工業大学応用セ フロンティア研究機構 ラミックス研究所 顧問 笹川明 様 名誉教授 芝紀代子 様 教授 細野秀雄 様 【大学知的財産部/産学連携本部】 東北大学 産学連携機構 知的財産部 御中 京都大学 産官学連携本部 北海道大学 産学・地域協働推進機構 名古屋大学 学術研究・産学官連携推進本部 御中 早稲田大学 産学官研究推進センター 大阪府立大学 地域連携研究機構 広島大学 産学・地域連携センター 知的財産部門 九州工業大学 イノベーション推進機構 産部門 御中 産学連携・URA領域 知財・ライセンス化部門 産学推進本部 御中 御中 知財・技術移転グループ 御中 御中 御中 知的財 134 大阪市立大学 研究支援課 御中 京都工芸繊維大 研究推進課 産学連携推進室 知的財産係 学 静岡大学 学術情報部産学連携支援課 御中 信州大学 産学官・社会連携推進機構 御中 東京理科大学 研究戦略・産学連携センター 中 新潟大学 産学地域連携推進機構 日本大学 研究推進部 知財課 福井大学 知的財産部 御中 金沢大学 先端科学・イノベーション推進機構 進グループ 御中 佐賀大学 学術研究協力部 豊橋技術科学大 研究支援課 学 御中 研究・産学連携支援部門 知的財産創成センター 御 御中 御中 研究協力課 産学官連携・知財推 御中 御中 長崎大学 産学官連携戦略本部 知的財産部門 岡山大学 研究推進産学官連携機構 知的財産本部 御中 岐阜大学 研究推進・社会連携機構 知的財産部門 御中 群馬大学 TLO御中 神戸大学 研究推進部連携推進課 知財グループ 兵庫県立大学 産学連携・研究支援課 御中 宇都宮大学 地域共生研究開発センター 中 鹿児島大学 研究国際部 関西大学 社会連携グループ 御中 順天堂大学 研究推進センター 御中 千葉工業大学 研究支援部 社会連携課 御中 産学連携・知的財産部門 知的財産係 産官学融合課 長岡技術科学大 産学・地域連携課 学 御中 知的財産本部 三重大学 社会連携研究センター 山口大学 知的財産センター 御中 龍谷大学 知的財産センター 事務部 秋田大学 学術研究課 帯広畜産大学 地域連携推進センター 御中 御中 知的財産係 弘前大学 御 御中 御中 知的財産統括室 御中 御中 御中 産学官連携・知財活用室 御中 135 静岡理工科大学 社会連携課 御中 島根大学 研究機構 上智大学 学術情報局・研究推進センター 中部大学 研究推進事務部 産学連携センター 研究支援課 東京女子医科大 先端生命医科学研究所 学 奈良先端科学技 研究国際部 術大学院大学 御中 御中 御中 研究協力課 産官学推進係 新潟工科大学 キャリア・産学交流推進課 岩手医科大学 企画部リエゾンセンター事務室 大分大学 産学官連携推進機構 大阪産業大学 産業研究所事務室 金沢工業大学 産学連携機構事務局 工学院大学 総合研究所 電気通信大学 産学官連携センター 東京医科大学 産学連携研究センター 東京工芸大学 教育研究支援課 東京電機大学 研究推進社会連携センター 東北工業大学 地域連携センター 富山大学 産学連携推進センター 浜松医科大学 知財活用推進本部 御中 福山大学 社会連携センター 御中 名城大学 学術研究支援センター 立命館大学 BKCリサーチオフィス 御中 御中 御中 知的財産部門 御中 御中 研究支援部 研究推進課 研究推進課 御中 御中 知的財産部門 御中 御中 御中 産官学交流センター 御中 知財・リエゾンオフィス 御中 御中 御中 御中 【企業知的財産部】 JNC株式会社 知的財産室 御中 日清紡ホールディングス株式 知的財産グループ 会社 住友大阪セメント株式会社 知的財産部 御中 ユニチカ株式会社 知的財産部 御中 三菱ガス化学株式会社 コーポレート部門 ループ 御中 御中 研究推進部 研究推進グ 136 Legal Solution CBCイングス株式会社 コーポレートディビジョン Group 御中 株式会社タムラ製作所 法務知財管理室 住友重機械工業株式会社 知的財産統括グループ 豊田合成株式会社 知的財産部 御中 株式会社村田製作所 知的財産部 管理課 三井造船株式会社 技術開発本部 株式会社カネカ 知的財産部 企画管理グループ デンカ株式会社 知的財産部 御中 株式会社荏原製作所 知的財産統括部 株式会社日立製作所 知的財産本部 株式会社ジェイテクト 産学連携推進グループ スズキ株式会社 知的財産部 御中 田辺三菱製薬株式会社 法務知財部 御中 帝人株式会社 知的財産部 御中 日本ゼオン株式会社 知的財産部 御中 御中 御中 御中 知的財産部 御中 御中 知財管理・商標室 戦略企画室 御中 御中 137
© Copyright 2025 Paperzz