第1回 PID 制御の原理的限界と FF 制御

日本工業出版㈱ web 講座
ゼロから学ぶ PID 制御(④ FF / FB 制御)コース
第1回 PID 制御の原理的限界と FF 制御
1.基本コンセプトと位置付け
外乱D
筆者は「広義の PID 制御を駆使すれば『他の制御技
目標値 +
SV −
PV
術は不要である』と言っても過言ではない」という経
験的持論を持っている。言い換えれば、PID 制御を制御
PIDコントローラ
e
G(
C s)
G(s)
D
制御対象
G(s)
P
−
+
FB制御の基本:偏差eが発生して、
はじめて修正制御→後追い制御
対象特性や運転上のニーズ・制約条件に適合するように
使いこなせば、高性能プラント制御システムを実現でき
外乱の影響を受け、
偏差eが変化してから修正制御
るということを意味している。この考え方による高性能
FB制御は外乱に弱い
制御システムの制御機能構成を第 1.1 図に示す。これま
では「ゼロから学ぶ PID 制御」と題して、PID 制御その
←FB制御の原理的限界
第 1.2 図 FB(Feed Back)制御の原理的限界
ものについて、その生い立ち、実用形態や調整法などを
説明した基礎編、連続系からのディジタル化方法やディ
きく受ける、つまり「外乱に弱い」という原理的限界を
ジタル化に伴う諸問題とその対応を説明したディジタル
持っている。この原因は FB 制御では外乱 D の影響を受
編および PID 制御の基本機能を高度化した2自由度 PID
けて偏差eが発生してから、この偏差eをゼロにしよう
制御、制御対象特性に適合するように工夫・改良したむ
として、はじめて制御動作を開始するためである。つま
だ時間補償制御、非線形 PID 制御、非干渉制御などに
り、FB 制御の基本は外乱 D が発生すると、その外乱 D
ついて説明したアドバンスト PID 編を 51 回わたり説明
の影響を受けて偏差eが生じてから修正制御する「後追
してきた。
い制御:結果駆動形制御」であるために、外乱 D の影
響を避けることができない。戦法に例えると、敵(外乱 D)
制御システム
P
I
D
組
合
せ
応
用
個
別
P
I
D
PID制御の限界を
打破する技術
⑥PID制御応用3
(総合編)
④PID制御応用1
(FF/FB制御)
に攻め込まれて、被害(偏差e)が出てから、初めて防
エネルギー多消費型
産業を支える基盤
プロセス制御
戦する専守防衛型戦法に当たる。この戦法では、敵に国
境を越えて攻め込まれて、必ず被害が出ることになって
⑤PID制御応用2
(燃焼制御)
しまう。
3.外乱の影響を抑制するには?
①ゼロから学ぶPID制御 ②ゼロから学ぶPID制御 ③ゼロから学ぶPID制御
(ディジタル編) (アドバンストPID編)
(基礎編)
この FB 制御が持っている原理的限界をブレークス
原料
プラント
ルーするには、専守防衛型戦法に敵(外乱 D)の情報収
製品
集をして敵の戦力に対応した戦力を準備し、先回りして
第 1.1 図 PID 制御による高性能制御システムの構成
国境で迎え撃つ「敵情報活用待ち伏せ型戦法」を組み合
今回から単一 PID 制御を用いたフィードバック FB
せる必要がある。この「敵情報活用待ち伏せ型戦法」が
(Feed Back:FB)制御系が持っている外乱の影響を大
FF 制御に当たるものである。
きく受けるという原理的限界をブレークスルーする FF
第 1.3 図に示すように、外乱 D を検知して、外乱 D
(Feed Forward)/ FB 制御について、基礎から先端ま
がプロセス値 PV に影響を与える前に、先回りして外乱
でとその応用について説明する。
D の影響を打ち消す先回り制御のことを FF 制御(予測
先行制御あるいは原因駆動形制御)と呼んでいる。この
2.PID 制御の原理的限界とは?
FF 制御は外乱 D の変化の大きさから、操作信号 MV を
PID 制御はシンプルな構成であるにもかかわらず、多
いくらにすれば、外乱の影響を抑制できるかを予測演算
くの制御対象に対してすぐれた制御性能を発揮する制御
して制御出力を出す機能のみで、偏差eをゼロにする機
方式である。しかし、第 1.2 図に示す単一の PID 制御
能を持っていないため、通常 FB 制御とお互いの長所を
を用いた FB 制御系は外乱 D(Disturbance)の影響を大
活かすように協調的に組み合せて「FF / FB 制御」を構
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調節弁 CV に印加するように構成されている。
外乱Dがプロセス値PVに影響を与える前に、先回りして、
外乱Dの影響を打ち消す先行予測制御機能、つまりFF(Feed
Forward)制御を付加する
当然のことながら、FF 制御においては、「量」のみを
合せても、その投入のタイミングが早過ぎたり遅過ぎた
FB制御の:原理的限界
目標値
SV
りすると、タイミングのズレに起因する影響が現れる。
FB制御
負荷変化などの外乱に弱い
結果を見ての修正制御
FF制御
外乱D
したがって、FF 制御の効果を有効に発揮させるには、
+
外乱 D を抑制させるために必要な「量」と「投入タイ
+
ミング」を合せなければならない。
「量」と「投入タイ
外乱に強くなる
MV
FB制御とFF制御の組合せ
先行予測制御
ミング」を正確にすれば、するほど、外乱の影響を限り
第 1.3 図 外乱 D の影響を抑制するには?
なくゼロに近づけることができる。
成して対応することになる。
FF 制御と FB 制御が協調し合って制御目的を達成する
ことは、人工物においても生物おいても戦争においても
4.FF / FB 制御の基本構成
共通した基本的な制御の枠組みとなっている。
以上、FF 制御の必要性と FF / FB 制御の構成につい
て説明した。ここではもう少しマクロな視点から、第 1.4
5.FF / FB 制御の位置付け
図および第 1.5 図を参照しながら FB 制御系の基本構成
一般に、FF / FB 制御は狭義の PID 制御とは区別さ
と FF / FB 制御系の基本構成の特徴を眺めてみる。第 1.4
れており、産業界では最も多用され、最も効果が大きい
図は単一の PID 制御を用いた FB 制御系の基本構成を示
「アドバンスト(Advanced:先進的)制御」と位置付け
す。FB 制御は外部から取り込んでいる情報は制御した
られている。しかし、FF / FB 制御は狭義の PID 制御
結果であるプロセス値 PV の出口温度のみである。つま
に予測先行制御機能を付加して、狭義の PID 制御が外
り、原料流量などのプロセス値 PV に影響与える外乱 D
乱に弱いという原理的限界を打破したものなので、この
に関する情報は全く取り込んでいないために、外乱 D
コースでは第 1.6 図に示すように PID 制御応用形態の
を抑制する対応は全くできないことになる。これに対
1つとしてとらえて「PID 制御の仲間」
、つまり「広義
して、第 1.5 図に示す FF / FB 制御系の基本構成では、
の PID 制御」と分類し、取り扱うことにする。
外乱である原料流量を測定して、原料流量が変化したと
分
野
きに燃料流量をいくら変化させると出口温度を目標値に
維持できるかの「燃料量とその投入タイミング」を予測
鉄
鋼
石
油
化
学
紙
パ
食
品
原 電
子 力
力
薬 水上 環
品 道下 境
+ 新しいアプローチ(GA、
カオス、
ホロニックなど)
+ 知識制御
(AI、
ファジィ、
ニューラルネットワーク)
演算して FF 制御信号として出力する機能が付加されて
制
御
シ
ス
テ
ム
いる。この FF 制御出力信号と偏差eをゼロにする機能
を持っている FB 制御出力信号は双方の長所を活かすよ
うに協調的に合成され、操作信号 MV として燃料流量
+ 現代制御(H∞制御、
適応制御、
最適レギュレータなど)
+ その他の古典制御
+ 複合制御
NO.
3 ファンダメンタル:燃焼制御(PID制御の応用)
NO.
2 ファンダメンタル:FF/FB制御(PID制御の応用)
原料
加熱炉
燃料
結果
NO.1 ファンダメンタル:PID制御
出口温度
原料
CV
(燃料流量調節弁) PV
フィードバック制御
(FB 制御)
目標値
(結果駆動形制御)
メガトレンドの中で、省エネルギーや環境汚染防止を
図りながら、需要変動に対応するフレキシブルプロダク
第 1.4 図 FB 制御系の基本構成
被処理量
加熱炉
フィードフォワード制御
(FF制御)
(原因駆動形制御)
[敵情報活用待ち伏せ型
ション(変量・変質・変種生産)の限界を追求する Key
Control Technology の1つとして、今後ますます重要視
結果
されて行くものと予測される。
出口温度
燃料
製品
FF / FB 制御は生産量の規制緩和や製品在庫量圧縮の
SV
FB制御
原因
プラント
第 1.6 図 制御システムの制御機能構成
MV
原料
ボ
イ
ラ
CV
(燃料流量調節弁) PV
MV
協調
戦法
<参考文献>
フィードバック制御
(FB制御)
SV
⑴ 広井:
『実用アドバンスト制御とその応用』,工業技術社(2000)
目標値
⑵ 広井:「プロセス制御を解剖する」(第 18 回),計装,Vol.42,
(結果駆動形制御)
専守防衛型]
工業技術社(1999.12)
⑶ 広井・宮田:『シミュレーションで学ぶ自動制御技術入門』,
FF/FB制御
第 1.5 図 FF / FB 制御系の基本構成
CQ 出版社(2005.3)
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