平成 27 年度 「関東地区会」研修会報告 関東地区会会長 佐藤 啓子 文責:杉本 太平 平成 27 年度の関東地区会研修会は年間テーマを「人間関係の難しさと対応」-様々な場 における関係と心理を探る-として研修実践を展開した。本報告では、各研修会の内容を (1)テーマ (2)展開技法(研修方法) (3)研修内容(要約) (4)キーワード に整理して、 全体の学びの分析・考察をする。 1. 第 18 回研修会概要 (5 月 9 日/江東区豊洲区民館/佐藤啓子:資格講座 B-2/話題提 供:杉本龍子) (1)テーマ 「人間関係における仲違い」 (2) 展開技法 講義・心理劇「若いカップルの結婚選択」「看護場面の葛藤」・シェアリング (3) 研修内容 私たちは、他の人(々)と親密で豊かな人間関係を築いていきたい、と願っていることが多い。 しかし、現実には難しいことも多い。ここでは、日常生活において、人間関係が難しい・うまく いっていないと感じる具体的な諸場面を述べ合い、ロールプレイ・心理劇を通して、何故なの か・どうしたらよいか等について、原理や理論的背景を学習する。 ① 青木仁志氏紹介によるウィリアム・グラッサー氏の「選択理論」 ②松村康平氏による「関係理論」 人間関係における「仲違い」とは選択理論からは「外的コントロール」と「内的コントロール」 の衝突と捉えられ、関係理論からは「外接的かかわり」の継続が「外在的かかわり」への変化 を意味し、「接在的かかわり」が展開していない関係状況、と捉えることも可能である。したが って、仲違い」からの脱却には、選択理論から考えると親しい関係には「外的コントロール」は 問題にならなくなる。関係理論から考えると「外接的かかわり」 を中心とせず、「内接」「接在」 的かかわりが求められる、ともいえる。 ③杉本龍子氏の話題提供 患者の精神面の能力(自己を客観視する力)を配慮しつつ、複数の医療機関や家族を含 めた統合的で具体的な看護援助方法を導き出すことが課題となる。両親・姉妹・夫婦・こども との関係と仲介者としての看護婦長の役割や家族と病院の関係を切らずに繋げていくことが 求められている。 (4)キーワード 選択理論「内的コントロール」「外的コントロール」の関係性理解/セルフコントロール/ 関係理論「外接的かかわり」から「内接」・「接在」的かかわりの展開/統合的で仲介的な 専門職者としての役割/組織的な連携と役割分担/事実を共有するプロセス/「素直」 に表現しあうことの大切さ/外的コントロール(居丈高・権威的・断定的)ではなく寄り添う (内接的)かかわり/相手やその家族の存在を大切にする在り方 2.第 19 回研修会概要 (7 月 4 日/江東区豊洲区民館/矢吹知永) (1)テーマ 「関係的育ちを促すアプローチを考える」子どもの人間関係力:教育問題 (2)展開技法 講義・心理劇「何やってるの」「ごんぎつね」・シェアリング (3) 研修内容 様々な社会情勢のなかで、今、学校現場においても、これからの社会の中で生きていく子 ども達にとって必要な力として、「人間関係を築く力」を高める指導が求められるようになって きた。前半で、行政では教育で具体的にどのような力を身につけさせようとしているのかを資 料を用いて学んだ後、後半にて実際に子ども達の人間関係力を高めるような働きかけとはど のようなものかを授業場面の心理劇・ロールプレイを通して考察する。 ① 平成 26 年度東京都教職員研修センター「新たな学びを支える教科等指導の工夫」 ② 第 4 学年「ごんぎつね」の解説と振り返りシートの説明 第 4 学年の「ごんぎつね」の具体的な展開例を「心理劇」的に実践し、研修方式で体験学 習をすることを通して、このような授業展開が子どもの人間関係力の何が育つのか。 ③ 課題を深めるフリートーク:現代の子ども (4) キーワード 子ども達の「人間関係力」を育てるための教育の在り方/多面的な子ども理解と教育の 見直し/自己を適切に主張すると共に他者を理解し、受け入れることのできる力の養成 /子どものモデルとなる大人の「人間関係力」と態度を示すことが課題 3.第 20 回研修会 (9 月 5 日/江東区豊洲区民館/杉本太平:資格講座C-1) (1)テーマ 人間関係と心理を探る心理劇・ロールプレイ -人間関係の行為・情緒・認識・洞察(1)- (2)展開技法 講義・ウォーミングアップ・セッション・心理劇「関係の変化」「ワンマンな人(上 司)との関係」・理論・原理からの整理(関係学理論)・シェアリング (3)研修内容 今回の研修では関東地区会で展開されている「ヒューマンリレーション・スキルトレーニング(Human Relation Skills Training)=HRST」としての心理劇・ロールプレイの研修における学習モデルを 提示したい。 筆者は関係学理論に基づいた「関係状況療法」と しての「関係心理劇」を実践する立場にある者である が、その心理劇体験によってどのように学習プロセ スや成果が達成できるのかを示した学習モデルが図 1 である。今回は、年間テーマである「人間関係の難 しさと対応」-様々な場における関係と心理を探す- とつなげて、様々な場における人間関係の課題解決 的心理劇(教育的な意図をもった心理劇)「関係心理 劇」の研修を通して、行為・情緒・認識・洞察の学習 図 1 HRST による心理劇(行為法)を用いた学習モデル プロセスを明確に体験できるようにしたい。 【心理劇からの洞察】 ① 第三段階(内在型):内在型(自分だけが正しくて、自分以外の考えや関係を受け入 れられない)のリーダーがいる場合には、他者との関係の取り方は偏りがちで強固で ある。なぜ内在型になってしまうのかという原因に目を向ける。 ② 第二段階(内接型):リーダーとしての方向性や求めるものはあっても、他者のかか わりによって自分の心は受けとめながら動いている場合がある。人間関係的に良好 な関係を構築しつつ、あきらめずにかかわっていけば変化が訪れるかもしれない。 ③ 第一段階(外接型):自分の考えがあり、それを押し通そうとしながらも、他者の言う ことを受け入れないまでも理解はしている。この場合は、情緒的な対応を避けて相手 が納得する理屈や筋道をきちんと説明していくとそれを感じ取れる余地がある。 (4)キーワード 関係認識の「ズレ」の認識 /相手の心理や相手との関係状況を理解し洞察する力/ 内在的(自己中心的)関係とパーソナリティ/関係学的なリーダー役割の機能と分化/ 自分自身の感情の変化や対人関係の創り方を理解し洞察する力/行為・情緒・認識・ 洞察の学習プロセス 4.第 21 回研修会 (11 月 21 日/ほっと越谷/杉本太平:資格講座C-1) (1)テーマ 人間関係と心理を探る心理劇・ロールプレイ -人間関係の行為・情緒・認識・洞察(2)- (2)展開技法 講義・ウォーミングアップ・セッション・心理劇「ズレのある課題場面(夫婦関 係・介護場面」・理論・原理からの整理(関係学理論)・シェアリング (3)研修内容 「ヒューマンリレーション・スキルトレーニング(Human Relation Skills Training)=HRST」としての心理劇・ロ ールプレイの研修における学習モデルに沿った研修会。「人間関係のズレ」について、二者 関係から集団関係(三角関係・小グループ内の対人葛藤やいじめ等)に焦点を当て、関係の 修復や回復がどのように実現できるかを検討する。 ○コミュニケーションの「ズレ」の原因となるもの(コミュニケーション心理学)について講話。 ○「人間関係」の困難な体験について語り合い、心理劇の課題を見出す。 【心理劇からの洞察】 ① 人間のコミュニケーションにズレが生じるのは当然のことで、人は完全にはわかりあえな い事実から始める。その上で、わかりあうためのプロセスを作ることが大切なのだろう。 自分自身の表現を豊かにし自分を大切にすること、相手の意図の推論を言語・非言語の コミュニケーションの手段を意識して丁寧に理解しようとすること、相互理解は双方に責 任があり自分を責めたり相手に転嫁したりしないこと、脳や感性の違いを受容すること、 「ありがとう」などの一言がコミュニケーションを円滑にするので言葉を大切にする。 (4)キーワード 男女間のコミュニケーションのズレ「男性脳・女性脳」などの脳機能による認識の仕方/ 日本語の構造とコミュニケーションの特徴/日常場面の縮図としての関係の構造化と学 習としての深化(心理劇の効果)/夫婦関係や親子関係における「ことば(ひとこと)」の 重要性/相手を認め関係を俯瞰する力 ・コミュニケーションにおける「推論」力/自分 の考えや想いを適切に表現するコミュニケーション力と自己コントロール/対面的コミュ ニケーションの減少が掲示板上の誤った情報や不信増大 5.第 22 回研修会 (1 月 23 日/ポラス中央グリーン開発 A 会議室/岡田昌子:資格講座B-1/ 話題提供:杉本龍子) (1)テーマ 乳幼児期から老年期の人間関係 -家族の変容と老人の孤独から人々を支えるスキルを学ぶ- (2)展開技法 講義・集団討議 (3)研修内容 心の発達上最も重要視される乳幼児期から、老年期までの家族について、人間関係の根 幹である親子関係の大事さを再確認するとともに、現在の高齢者の在り方に焦点を当てなが ら、ライフステージ上において、親密さがもたらす家族間のプラス・マイナス要因の変化を社 会の様々な問題や課題に照らし合わせながら語り合い、外部の人間関係へと繋いでいく為の 支援について、ロールプレイを通して人間関係士の役割を考え学習する。 ○乳幼児期から老年期までの精神発達の確認(岡田昌子) 「E・H・エリクソンのライフサイクル論」の概論と各期の発達課題と具体的な問題を考える。 ○中年期以降の危機的状況:家族と改めて向き合うべき重要な時期 ○高齢者の家族や社会環境の課題 ○杉本龍子氏の話題提供 看護職として働いていた時期、看護学校(大学)・千葉県看護協会に勤務していた時期を含 めて実感した高齢者問題の状況 ・事例紹介 毎日新聞: 『身じまいのおと』 の記事 結論として、私たちは如何に元気なうちに自分自身の家族や死後と向き合う準備をするの かということが必要とされる。薄井担子(「何がなぜ看護の情報なのか」)が人生を 3 つのライ フサイクル「第 1 の人生:生まれてから大人になるまで」「第 2 の人生:社会的自立と役割増 大」「第 3 の人生:現役交替以降」に分けて看護の立場で家族を含めて個人の情報を把握す る重要性を論じている。特に、第 2 の人生のその人の生き方が次のステージに繋がっており、 第 3 の人生をどう生きるかが人にとっても大事な課題となることを付加する。 (4)キーワード ライフサイクルと発達課題/中年期以降の危機的状況を解決するためは「家族と向き 合う」ことが重要/高齢者の生きる選択肢を広げるための社会環境/介護者・看護者 の専門性「家族との縁を切らない」ための支援/介護者・医療従事者への心理支援の 重要性/元気でいるうちにこそ家族や死後と向き合うことが重要 6.分析・考察 本報告では、キーワード分析から「人間関係の難しさと対応」-様々な場における関係と 心理を探る-とした今年度の研修実践における学びを考察する。 (1)研修で取り上げられた人間関係における「困難性」と課題解決について 対人関係における「仲違い」やコミュニケーションの「ズレ」はなぜ起こるのか、「選択理論」 や「関係理論」などの人間関係学の知見や「男性脳・女性脳」といった脳科学の知見、日本語 の言語構造や特色、ライフサイクル論などの人間生涯を俯瞰した発達理論などの諸側面から 学習を深めた。対人関係において「困難性」が認められるときには、関与する当事者同士の 認識の仕方や関係状況、かかわり方、社会的役割やライフステージの違いなど、当事者個々 の背景とする諸要素が異なり、そのことが理解・共有されないことにより生じるストレスや葛藤 が起きているということがいえる。それをより良く解決するために、「困難性」の背景にある要 因を理解した適切な関与が求められる。今年度の研修では、個々の日常生活におけるより良 い人間関係の形成に資する学びが認められる内容であったと考える。 (2)人間関係士としての「専門性」と学習効果について 今年度の研修では特に、関東地区会の「ヒューマンリレーション・スキルトレーニング(Human Relation Skills Training)=HRST」としての心理劇・ロールプレイの研修における学習モデルを提示し、 その手法を確立したことに意義が認められる。また、全体を通して人間関係士の「専門性」を 高める上で、日常生活(地域)や教育、心理・臨床、医療・看護、介護・福祉などの多領域にわ たる専門的な事例・事案を取り上げ、広くスタッフによる話題提供を受けて、心理劇を用いた 実践的な学習がなされている。ここでは、行為・情緒・認識・洞察の学習の全ての側面で、理 論・技法(技術)・実践が統合された形で、「専門性」の向上が認められる学習効果が得られた と考えられる。 (3)シェアリングの意義と学習効果について 本研修会では、参加者の体験や学びを共有する「シェアリング」を重視している。個々の参 加者の学習体験からの感想や認識、生活実践から相互に学びあうことを通して、さらに学び を深める効果・成果が認められる。そのような意味においては、「共に学びあう学習集団」とし て発展していくことが今後も期待される。
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