釣りを活用したブルー・ツーリズムの可能性 - JAFIT

日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
《論 文》
釣りを活用したブルー・ツーリズムの可能性
~釣り人の消費と思想に着目して~
す ず
き
か ず ひ ろ
鈴木 一寛
友成 真一
と も な り
し ん い ち
早稲田大学大学院環境・エネルギー研究科
博士後期課程
早稲田大学大学院環境・エネルギー研究科
教授
For sound development of blue tourism, I researched its current situation and issues. As a result I found out that blue tourism
involved game fishing made cooperation from the professional fishermen. The high level of repeat ratio and consumption of game
fishing maniac impacted regional economic revitalization.
キーワード:釣り、ブルー・ツーリズム、漁業体験
1.はじめに
1-2 研究の目的と手法
然学習を実践するには釣り関係業界の取
1-1 研究の背景
本研究では、ブルー・ツーリズムの堅
組に加えて、地元住民の理解と協力が重
観光形態におけるマス・ツーリズムか
調な発展を目的として、ブルー・ツーリ
要であることを明らかにした。また、
「釣
らオルタネティブ・ツーリズム又はニ
ズムの現状と課題を整理した。更に釣り
りを活用した教育旅行の考察」
(2013b)
ューツーリズムへのパラダイムシフトに
人の消費と思想に着目をして、釣りを活
では、教育プログラムの一環として職業
従い、地域活性化のため地域独自の生活
用したブルー・ツーリズムの可能性を考
体験や自然観察を伴った教育旅行におい
様式を垣間見ることや、実際に体験する
察した。研究手法は主に先行研究や農林
て釣りを活用することで、離島や港街の
ことへの体制整備が地域観光の命題とな
水産省や水産庁発行の「食料・農業・農
地域活性化の可能性について報告をし
った。旅行者が、農村地域では農業体験、
村白書」、「水産白書」などの関連文献の
た。
「釣人の環境保全に係る思想と消費に
沿海地域では漁業体験ができるように地
引用に加え、関係者からのヒアリングを
関する研究~消費社会の地方志向が釣り
域における受け入れ体制の整備が進んで
もとに論を展開した。
に与える影響~」
(2013c)では釣り人の
いる。農業の6次産業化が進む中でグ
先 行 研 究 に は、先 に 引 用 し た 東 ら
思想と消費動向に着目し、現在の地方志
リーン・ツーリズムが注目されている。
(2007)の「日豪の海浜におけるレジャー
向やエコロジー志向に帰着することを論
一方、漁村におけるブルー・ツーリズム
空間形成の比較文化-ブルー・ツーリズ
じた。本研究の次章(第3章)にて引用
への関心は低い。少子高齢化の進行によ
ムの構築に向けて」がある。海岸を海水
をした。釣りの地域活性については、
「海
り、高齢者に馴染みやすい農業体験の
浴や潮干狩りのためのレジャー空間と捉
釣 り 公 園 に 関 す る 地 域 活 性 の 考 察」
ニーズは高いが、ダイビングやシーカヤ
え、日本と豪州の海岸レジャーの比較分
(2013d)において集客が芳しい海釣り公
ックなどの海洋性レクリエーションを彷
析をおこなっている。他では漁村の地域
園と地域の経済効果について論じた。有
彿させるブルー・ツーリズムの発展には
活性に関する研究は多いが、釣りを活用
路(朝日新聞山形版、2011)はアユ釣り
課題が多い。東ら(2007)は、
「(ブルー・
す る も の は 少 な い。筆 者(2013a)は、
の経済効果を報告している。
ツーリズムが)従来の海水浴を中心とし
2011年に福岡県宗像市大島に開設した海
本研究の構成は次章(第2章)におい
た海辺の観光産業から脱皮するほどの構
洋体験施設「うみんぐ大島」における釣
て観光の側面と漁業の側面からブルー・
築には至っていない」との見解を示して
りを活用した体験学習の事例を調査し、
ツーリズムの現状を整理し、課題を抽出
いる。南ら(2007)は、ブルー・ツーリ
釣りを活用した環境教育の可能性につい
した。第3章では、前述のとおり「釣り
ズムが進まない背景にジェットスキーや
て研究報告をした。漁業が主産業の大島
人 の 消 費 と 思 想」を 筆 者 の 先 行 研 究
ダイビング、ヨットやボートセイリング
の島民にとって、漁業資源の枯渇や環境
(2013c)の引用により論述した。第4章
などの海洋レジャー事業者と漁業関係者
負荷の対処として釣りを否定すること
では、第2章の観光の変遷と漁業の側面
との間において、水面利用や航行権に関
は、漁業の仕事離れや、魚を食べること
からブルー・ツーリズムの現状から導き
する軋轢が生じている事例が少なくない
への抗を育むことにつながるといった意
出された課題と第3章で論じた現在の釣
と指摘している。
見があり、釣りを活用した環境教育や自
り人の消費と思考の融合による、ブルー・
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日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
ツーリズムで釣りを活用することが地域
書においてブルー・ツーリズムを「島や
を呼ぶという、国民の交流に向上的な循
経済に寄与することとなり、ブルー・ツー
沿海部の漁村に滞在し、魅力的で充実し
環を生み出す」と説明している。漁村で
リズムの堅調な発展に収斂することを考
た海辺での生活体験を通じて、心と体を
の高齢化、人口減少を背景に就業者の定
察した。
リフレッシュさせる余暇活動の総称」と
着こそが多面的機能の拡大に寄与すると
表している。農村での滞在型の余暇活動
謳っているが、具体的な経済活動や価値
2.ブルー・ツーリズムの現状
を表わす「グリーン・ツーリズム」の同
の記述がない。農業、林業分野との構造
2-1 観光形態の変遷
類語として派出したものと考えられる。
的な差異がある。
大澤(2010)は、従来型の観光振興手
「ブルー・ツーリズムの魅力」のなかで
農林水産省の統計資料「漁業コンセン
法では目玉となる観光施設を建てたり、
は、
「釣り」を観光レクリエーション施設
サス」
の2003年と2008年で比較をすると、
イベントをやったりすることが一般的で
など既存の余暇活動空間だけではなく、
漁業体験を実施している漁業協同組合数
あったが、地域行政の財政緊縮化や他の
漁業者の生活・生産の場において参加で
では2003年が271組合であったことに対
地域との差別化が図れなかったことによ
きる海洋レクリエーションの一つとして
し、2008年では200組合に減少している。
る集客の低減化などの理由により90年代
位置づけている。
一方で、漁業者が自営漁業の他に6次産
後半には行き詰まったことを論じてい
少子高齢化や IT 機器の高度化により
業化の取り組みとして水産加工業を行っ
る。一方需要側である旅行者の動向は、
若年層の海洋レクリエーションへの参加
ている個人経営体数は、2003年で1,603経
物見遊山を中心とした団体旅行から、旅
が減少しているため、観光業界や受け入
営体であったが2008年では2,189経営体
行者の嗜好が多様化することに従って個
れ側の地域では、環境教育や職業訓練を
と増加している。遊漁船業では、2003年
人旅行を選択する傾向が強くなっていっ
目的とした教育旅行にブルー・ツーリズ
で 5,212 経 営 体 で あ っ た が 2008 年 で は
た。世界的な観光の流れに沿って、マス・
ム の 可 能 性 を 見 出 し て い る(鈴 木、
5,982経営体に増加している。旅館・民宿
ツーリズムからオルタネティブ・ツーリ
2013b)。
業では2003年で2,346経営体であったが
2008年では1,632経営体に減少した。
ズムへのパラダイムシフトに変遷をした
ことを論じる専門家は多い(長谷、1998)。
2-2 漁業の多面的機能
平成22年度水産白書では、農林水産省
旅行者は、地域のありのままの姿を求め
平成22年度 食料・農業・農村白書で
の調査(
「食料・農業・農村及び水産資源
るようになり、地方の観光行政は地域独
は、森林のもつ多面的機能を貨幣的評価
の持続的利用に関する意識・意向調査」
自の生活を垣間見ることができる体験型
で表し、昨今の地球温暖化、生物多様性
(2011)
)の結果、漁業者のうち6次産業
観光や着地型旅行商品の造成、販売のた
の保全などの地球的規模の環境問題に呼
化の取組を既に行っていると回答した者
めの政策変更を余儀なくされた。政府の
応している内容となっている。加えて農
は13%、今後積極的に取り組んでいきた
「観 光 立 国 推 進 基 本 計 画」(閣 議 決 定、
村地域の6次産業化の成功事例として各
いと回答した者は19%となっており、
「取
2007)では「ニューツーリズムの創出、
地域のグリーン・ツーリズムにおける取
り組みたいとは思うが、加工・販売まで
流通」という項目が日本の観光政策の重
組みを紹介している。
自ら行うのは難しい」と回答した者が45
要な柱として位置づけられている。同計
一方、ブルー・ツーリズムの根源とな
%と最も多いと報告している。6次産業
画のなかでは「グリーンツーリズム」、
「エ
る漁業における多面的機能には、
「健全な
化の取組を既に行っている者を対象とし
コツーリズム」、「ヘルスツーリズム」な
レクリエーションの場の提供、沿岸域の
て取組の内容をみると、水産加工品の製
どをニューツーリズムの個別具体例とし
環境保全、海難救助や防災への貢献、固
造・販売及び産地直売施設での直接販売
てあげており、ニューツーリズムと前述
有の文化の継承」
をあげている。
「今日ま
が全体の8割を占め、民宿・旅館の経営、
のオルタネティブ・ツーリズムは同意語
でに構築された多数の地方の漁港や整備
漁家レストランの経営、漁業・漁村体験
である。
された港湾施設は、国民の海へのアクセ
等の取組をあげた者は少数となってい
漁村地域においては、国土交通省(旧
スを容易にし、海を景観として楽しむだ
る。取組に向けたハードルを如何に下げ
国土庁)と水産庁の共同で、海の資源を
けではなく、海上や海中でのレクリエー
るかが、6次産業化を推進するための課
活用した漁村滞在型余暇活動の推進を図
ションへと国民を誘っている。海の生産
題と結論づけている。
っている。漁村滞在型余暇活動を「ブ
に依存する漁業家による沿岸海域の環境
高齢化が著しく進む漁業において新た
ルー・ツーリズム」と定義をし、ブルー・
と生態系保全の日常的な営みは、海の魅
な取組を実施することは難しいが、水産
ツーリズムの啓発と魅力を周知すること
力をさらに高め、より多くの国民を引き
加工品の製造・販売及び産地直売施設で
を目的に「ブルー・ツーリズム推進のた
付けている。そして、多くの人々の来訪
の直接販売については漁業協同組合の婦
めの手引書」(1999)、「ブルー・ツーリズ
は、漁業家が漁村や海の環境改善にあた
人部など女性の活躍が目立つ。また、青
ムの魅力」
(1999)を発行、配布した。両
る動機をさらに高め、それがまた行楽客
森の大間産のクロマグロは大間で食すこ
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とが不可能であったが、観光客誘致への
移動への抵抗意識は低い。雪道走行を余
の大型魚釣りが容易にできるようになっ
方針転換により、現在ではクロマグロを
儀なくされるスキー・スノーボードの顧
たことやタイやアジなどの海水の養殖魚
食味することが大間観光の目玉となって
客やプレーの時間に制約を受けるゴルフ
を対象とした釣り堀が全国で設置されて
いる(観光庁、2013)。地産地消と観光客
の顧客は移動距離や時間を短縮化する傾
いることから釣り業界の海水魚に対する
誘致を組み合わせた成功事例と言える。
向がある。一方、移動に対する抵抗意識
期待は高い。
沖縄県東村で自営漁業の傍らで遊漁を
が低い釣り人は、長距離や悪路に対応で
営む與那嶺浩氏は「年をとると、漁獲が
きる自動車を購入する傾向が強い。移動
不安定で更に危険を伴う漁をするよりも
距離の長い釣り人は、交通費や宿泊費な
消費社会の研究者三浦展(2012)は、日
遊漁船で出船したほうが収入も安定し、
ど滞在に関する消費において地域経済の
本の近代化が顕著となった2012年日露戦
安全性も確保できる。最近の釣り人は小
活性化に寄与する。
争勝利以降からの日本の消費社会を四段
さい魚や不必要な魚は放流してくれるの
「レジャー白書」
(2013)では、釣り1
階に区分をし、
それぞれの消費の特徴を分
で、水産資源が枯渇することもない」と
回あたりの費用(平均値)を約5,040円と
析した(表.2)
。2005年リーマンショック
いう。與那嶺氏の遊漁船は全国区の釣り
推計している。釣り経験の少ない層が多
以後、現在を含め「第四の消費」とし、特
関連のテレビ番組や雑誌に多数紹介され
い神奈川県の本牧海釣り施設の入場者1
徴を「つながりをうみだす社会」
、
「地方志
ている。顧客は関東や近畿など本土から
日あたりの消費額約2,390円と推計されて
向」
、
「環境問題への関心の高さ」などと論
の釣り人が多い。釣り人の多くは東村に
いる(日本釣用品工業会、2001)
。餌や仕
じている。本項では、
三浦の消費社会の四
数件しかない宿泊施設に滞在するため地
掛けなど釣りに係る経費が低いことに加
段階における時代区分との釣り人の思想
域経済への影響も大きい。前述の統計で
え、首都圏からの利用者が多いため交通
について比較分析を行い、地方志向及び
は兼業で遊漁船を営む漁業者が増加して
費も低い。一方、京都府の遊魚船利用者
エコロジー志向の現在における釣り人の
いるが、高齢化が進むと與那嶺氏のよう
の1日あたりの費用は約22,300円(京都
消費動向について考察を加えた。
に遊漁船に重点をおく漁業者の増加が予
府、2011)
、山形県最上小国川のアユ釣り
「第一の消費社会」
(1921年から1941年)
測できる。また地方の若い漁業者にとっ
の1回あたりの費用は約50,000円(朝日新
は日露戦争勝利後から日中戦争までとし
ても、都市部からの釣り人との交流は地
聞山形版、2011)とそれぞれ試算してお
ており、東京や大阪など大都市を中心に
域経済の活性化に加えて貴重な情報交換
り、本格派層の消費は高いことが伺える。
近代化が進んだ。近代化を表す
「モダン」
の場となり有益である。
餌(まき餌や囮アユ含む)や仕掛けなど
という言葉が流行をした。東京向島(墨
釣りに係る経費が高いことに加え、交通
田区)で幼少期を過ごした評論家の森秀
3 釣り人の消費と思想
費や宿泊への消費が含まれている。
人(1979)は、
「銀座など現在の都心部の
3-1 釣り人の消費動向
表.1のとおり、釣り具の市場でみる
どこでも釣りができた。日曜日は、竿先
「
(鮎の職漁師が)何十万もする竿や、
と、2012年釣用品国内出荷金額(見込み)
が触れ合わんばかりの込みようであった
ほんの数メートルで何千円もする金属糸
の総額は115,900百万円である(日本釣用
から、釣り人口は、今に劣らないほど多
を使ってはいられない。(一方、釣り人
品工業会、
2013)
。シーバス(スズキ)や
かった」と記憶し、ほとんどの釣り人が
は)楽しみ、ゲームであるから、逆に、
アオリイカなど海水に生息する魚類を対
同じ原始的な仕掛けを使い、釣果は求め
とんでもない金額を鮎につぎ込むことが
象としたルアーフィッシング市場が最も
てはいなかった、健全な釣場を釣り人自
できる」という作家の夢枕獏(1994)の
高い。2番目では磯・波止釣りが続いて
らが維持していると書いている。
文章が示すように、釣り人の消費は満足
おり、10年程前に釣り市場を独占してい
「第二の消費」
(1945年から1974年)は
の尺度に比例して、際限なく変動する可
たバスフィッシングは3番目であった。
戦後復興から高度成長期を経て、オイル
能性がある。また、釣り人は他人よりも
海水での市場が6割以上を占めている。
ショックまでとしている。大量消費時代
遠くに行けば、釣れるという信念が強く、
釣り道具の進化によりマグロやブリなど
といわれており、マイホーム、マイカー
3-2 戦後の釣り人の消費と思想
表.
1 釣魚別釣用品国内出荷金額(2012年見込み)
単位:百万円
投げ釣り
磯・波止
釣り
出荷金額
4,562
21,280
16,964
32,549
2,593
6,033
5,523
20,226
3,729
1,951
490 115,900
構成比
3.9%
18.4%
14.6%
28.1%
2.2%
5.2%
4.8%
17.5%
3.2%
1.7%
0.4% 100.0%
釣種
船釣り
ルアー
ヘラブナ ルアー
ルアー
フライ
渓流釣り アユ釣り
(海水魚)
釣り
(バス) (マス類) フィッシング
その他
合計
海水:淡水 海水:
75,355 淡水(フライフィッシング、その他含む):
40,545 115,900
構成比
65.0%
35.0% 100.0%
(出所:社団法人日本釣用品工業会(2013)の引用に筆者が加筆)
-61-
日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
表.
2 三浦展の定める消費社会の四段階と消費の特徴と釣りに関する状況の変化
第一の消費社会
(1912~1941)
日露戦争勝利後から日中戦争
まで
社会背景 東京、大阪などの大都市中心
中流の誕生
時代区分
三浦展「消費社会の四段階と消費の特徴」
人口
出生率
国民の
価値観
人口増加
5
人口微増
2→1.3~1.4
national
famiy
individual
消費は私有主義だが全体とし 消費は私有主義だが、家、会社 私有主義かつ個人主義
ては国家重視
重視
洋風化
大都市志向
消費の
志向
文化的モダン
消費の
テーマ
消費の
担い手
釣りに係る状況の変化
釣りに
関わる
背景
第二の消費社会
第三の消費社会
(1945~1974)
(1975~2004)
敗戦、復興高度経済成長期か オイルショックから低成長、バ
らオイルショックまで
ブル、金融破綻、小泉改革まで
大量生産、大量消費
格差の拡大
全国的な一億総中流化
山の手中流家庭
モボ・モガ
全国的に自然との共生
(1次産業中心構造)
・自然の戯れ
釣りに ・大衆の娯楽
対する ・水産業界就業への意識啓発
イメージ
人口増加
5→2
大量消費
大きいことはいいことだ
大都市志向
アメリカ志向
一家に一台
マイカー
マイホーム
三種の神器
3C
核家族
専業主義
レジャー産業の繁栄
経済のソフト化・サービス化
(1次産業の衰退)
釣り道具:天然から人工
(釣竿の化学繊維化、配合えさ
の開発)
釣果の飛躍的拡大
「待ち」から「攻め」へ
個性化
多様化
差別化
ブランド志向
大都市志向
ヨーロッパ志向
量から質へ
一家に数台
一人一台
一人数台
第四の消費社会
(2005~2034)
リーマンショック、2つの大
震災、不況の長期化、雇用の不
安定化などによる所得減少
人口減少などによる消費市場
の縮小
人口減少
1.3~1.4
social
シェア志向
エコロジー志向
社会重視
ノンブランド志向
シンプル志向
カジュアル志向
日本志向
地方志向
つながり
数人一台
カーシェア
シェアハウス
単身者
パラサイト・シングル
環境保全意識の向上
・外来生物法(2005)施行へ
・環境教育の法制度化
全世代のシングル化した個人
釣り業界のブッラクバス依存
体質からの脱却
教育旅行の漁業体験
釣りのゲーム化
「自然の戯れ」への回帰
・ブ ッラクバスのルアーフ 世代、性別を超えた交流の場
ィッシング
・カジキのトローリング
釣り人のマナーの低俗化
(出展:三浦展(2012)の引用に筆者が加筆)
や家電が普及をした。釣りでは、都市化
強い欧米型のゲームフィッシングスタイ
が伺える。釣りについて言えば、環境問
による釣場が減少する一方で、釣竿が竹
ルが流行した。1997年はレジャー白書の
題やマナーに配慮した健全な釣り人が増
などの天然材料からグラスやカーボンな
推計により釣り人口が2,020千人となり、
加し、地方における経済活性化が期待さ
どの化学繊維が台頭し、淡水では配合え
統計を開始した1995年以降最多であった
れる。
さを使うヘラブナ釣りやアユの友釣り、 (図 .1)
。一方、釣り人による外来種放流
海水ではオキアミ餌を使ったメジナ釣り
やマナーの悪さが社会問題化した。
3-3 釣りと観光
など専門志向が強まった。
2005年リーマンショック以後、現在を
釣り人口が減少しているなかで、釣り
「第三の消費」
(1975年から2004年)は
含め「第四の消費」とし、特徴を「つな
業界や釣り客を期待する観光地域では新
オイルショックからバブル経済、小泉改
がりをうみだす社会」
、
「地方志向」
、
「環
規需要の獲得のために子供や高齢者、女
革までとし、消費の特徴は「量から質へ」
境問題への関心の高さ」としている。一
性への釣り体験を促進している。釣り具
の構造展開がはかられ、個性化、差別化、
方、環境問題に加えて、少子高齢化など
メーカーのグローブライド社では、旅行
多様化したが、格差社会の拡大が顕著と
の構想的な要因も重なり、釣り人口が減
会社のクラブツーリズムやJTBと連携を
なった。ニューツーリズムへの移行期と
少傾向である。
2012年の釣り人口は810万
して、初心者を対象としたフィッシング
重なる。1980年アニメ「釣りキチ三平」が
人まで減少した。
三浦のいう
「地方志向」
、
ツアーを企画し、釣りの講師派遣や釣り
テレビ放映をされる。
バスフィッシングや
「エコロジー志向」から、グリーン・ツー
道具の貸出を行っている。企画に携わる
カジキのトローリングなどレジャー色の
リズムやエコ・ツーリズムへの高い関心
グローブライド社の大川氏はツアーの目
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日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
図.
1 釣り人口の推移 謝辞
本研究のためにヒアリングに協力頂い
た公益財団法人日本釣振興会の専務理事
清宮栄一様、事務局長の高橋裕夫様、グ
ローブライド株式会社の大川雅治様、沖
縄県東村遼丸船長の與那嶺浩様には厚く
御礼を申し上げます。
引用・参照文献
・東美春・小峰力、
「日豪の海浜における
(出所:レジャー白書2013)
レ ジ ャー 空 間 形 成 の 比 較 文 化 - ブ
的を釣り未経験者が釣りの愛好家や常連
4.まとめ
ルー・ツーリズムの構築に向けて」『流
になってもらうことと話す。日本釣振興
平成24年度水産白書のなかで釣りは漁
通経済大学社会学部論叢 』2007
会では、健全で安全な釣り場を確保する
村に存在する地域資源のうち海洋性レク
ために青森港北防波堤などの立入禁止と
リエーションに関するものとしてマリン
なっている11の防波堤の開放に向けて、
スポーツ全体や海水浴と並んで紹介され
・鈴木一寛、
「釣りを活用した環境教育の
行政等に働きかけを行っている(2013年
ている。本格派層の釣り人は高い消費額
可能性~うみんぐ大島の取組の事例考
12月現在)。防波堤の開放により海釣り公
に加え、再訪頻度が高く(宮澤、1995)
、
察~」
『日本地理学会2013年春季学術大
園として運営している熱海港海釣り施設
物見遊山で一過的に訪問する観光客に比
会論文集』2013a
は 手 ぶ ら の 一 般 観 光 客 が 多 い(鈴 木、
べて地域経済へ影響は大きい。今後はマ
・鈴木一寛・友成真一、
「釣りを活用した
2013d)。
ナーを重んじた地方志向、エコロジー志
教育旅行の考察」
『総合観光学会第25回
釣り目的の来訪者が多い伊豆大島と神
向の自然回帰を求めた健全な釣り人が増
学術大会発表要旨』2013b
津島の来訪者数をみると、伊豆大島では
加することが期待される。一方で、安定
・鈴木一寛・友成真一、
「釣人の環境保全
1973年に831,666人であったが、2010年は
的な収入と異なる地域の旅行者との交流
に係る思想と消費に関する研究~消費
184,156人に、神津島では1985年に86,087
が望まれる漁業関係者にとっても、遊漁
社会の地方志向が釣りに与える影響
人であったが、2010年は34,461人にそれ
船への転化や港湾施設の開放などで釣り
~」
『地 域 活 性 学 会 第 5 回 研 究 大 会
ぞれ減少しており(東京都、2012)、釣り
人を受け入れやすい。依然として漁業者
人口の減少に比例をしている。2012年の
と遊漁者或いは釣り人とのトラブルが絶
・鈴木一寛、
「海釣り公園に関する地域活
東京市町自治調査会による東京島しょ地
えない地域もあるが、観光形態の変遷と
性の考察」
『地域活性研究 vol.4』2013d
域に関わる観光キーワードの傾向調査
地域活性を希求した受け入れ体制整備を
・朝日新聞山形版、
「最上小国川アユ効果
(インターネット検索数)において「釣
考慮した上で、地方公共団体の観光担当
22 億 円 近 畿 大 試 算 釣 り 客 ら 調 査」
り」が2,240,000件で最も多かったことを
部署による包括的な解決が考えられる。
2011.10.6
報告している。伊豆大島や神津島などの
和歌山県串本町では「釣り」を中心と
東京島しょ地域では依然として釣りが魅
した地域活性化策が始まっている。2012
力的な観光コンテンツであると考えられ
年より串本町商工会が町内の観光関係者
る。伊豆大島や神津島では、東海汽船や
や町外の釣り関係事業者らを委員に委嘱
観光協会による女性の初心者向けの釣り
し「フィッシングタウン串本着地型観光
ツアーが実施されている。また、沖縄や
プロジェクト検討委員会」
を発足させた。
伊豆などの海洋性リゾート地域の観光協
委員が釣りと魚食を生かした地域活性化
会では家族連れや学校向けの釣りの着地
事業の実現に向け、協議や先進地視察な
型旅行商品を企画、造成し、ホームペー
どを行っている。
実験的な事業であるが、
ジ上で紹介している。釣り未経験者が気
釣りを活用したブルー・ツーリズムの先
軽に手ぶらで参加できる受け入れ環境整
行的事例として期待できる。
・南賢二・中村徹他、
「観光実務ハンドブ
ック」
(丸善株式会社)2007
(2013年度・高崎)論文集』2013c
・大 澤健、
「観光革命」
(角川学芸出版)
2010
・長谷政弘、
「観光学辞典」
(同文舘出版)
1998
・閣 議決定、
「観光立国推進基本計画」
2007
・国土庁・水産庁、
「ブルー・ツーリズム
推進のための手引書」1999
・国土庁・水産庁、
「ブルー・ツーリズム
の魅力」1999
・農林水産省、
「平成22年度 食料・農業・
農村白書」2010
備を進めている。
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日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
・農 林 水 産 省、「漁 業 コ ン セ ン サ ス」
2003/2008
・水産庁、
「平成22年度/平成24年度水産
白書」2010/2012
・農林水産省、「食料・農業・農村及び水
産資源の持続的利用に関する意識・意
向調査」2011
・観光庁、
「地域観光イノベーションに係
る調査事業報告書」2013
・夢枕獏、
「釣りにつられて」(福武文庫)
1994
・公 益財団法人日本生産性本部、「レジ
ャー白書2013」2013
・社団法人日本釣用品工業会、
「釣人によ
る経済効果の算出と釣りに関する意識
調査報告書」2001
・京都府農林水産技術センター・海洋セ
ンター、「季報第102号」2011
・社団法人日本釣用品工業会、
「第16回釣
用品の国内需要動向調査報告書」2013
・三浦展、
「第四の消費」
(朝日新書)2012
・森 秀人、「私本釣魚大全」(角川選書)
1979
・東京都、「平成22年度伊豆諸島・小笠原
諸 島 観 光 客 入 込 実 態 調 査 報 告 書」
2011
・財団法人東京市町村自治調査会、
「島し
ょ地域における観光ニーズに関する現
状調査」2012
・宮澤晴彦、
「遊漁船業の課題-釣り人を
迎える立場」
『釣りから学ぶ-自然と人
の関係-』(成山堂書店)1995
・紀伊民報「釣り生かして町おこし~28
日から実験イベント~串本町古座の動
鳴気漁港」2013.9.25
【本論文は所定の査読制度による審査を経たものである。
】
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