お菓子とジェンダー キーワード:スイーツ,ジェンダー,子供,子育て 人間環境学府 行動システム専攻 健康行動学コース 2HE09044Y 1. 背景 王 セイ を享受することができ、かつ、共に責任を担うことを 男女平等とは、「経済的、政治的、社会的に平等で いう」を基礎として、男女の進路指導と職業観の育成 あり、それぞれに独立した人格である状態をさす。ま は「『この仕事は女向き』『この仕事は男向き』と職 た、そうした状態が望ましいとする思想をさす」(布 業に対する固定な考え方にこだわらず、幅広い職業選 施晶子;『日本大百科全書』小学館)。男女平等思想 択を念頭に置いて進路決定を行うことができるよう、 が、「男女間に不平等がある」という背景で、18世 生徒及び保護者に意識啓発を行うほか、職業選択や就 紀後半以降の歴史的変革期において登場して以来、世 業にあたっての心構えについて意識の育成が望まれ 界的に女性を中心として、いろいろな運動を展開して る」を要求している。また、家庭生活の面で「男女共 いる。 同参画社会を実現するためには、男女が社会の基盤で 日本の場合、「女子差別撤廃条約」の批准、日本国 ある家庭の重要性を認識し、相互の協力と社会の支援 憲法の第11条「すべての人に基本的人権があり」、第 の下に、子の養育や家族の介護などの家庭生活におけ 13条「個人として尊重されなければならない」、第14 る活動について家族の一員としての役割を円滑に果 条「法の下の平等」と第26条で「教育を受ける権利」、 たすとともに、職場や地域等において、自己の能力と また教育基本法の第3条「教育機会均等」、第5条「男 個性を発揮できるようにすることが求められている」 女共学はみとめなければならない」などが記載されて と述べている。 いる。平成15年7月に大阪府教育委員会から発行した ただし、たとえどのように男女平等を追求しても、 「小・中学校および府立学校における男女平等教育指 日常生活の中で「男のもの」と「女のもの」は無意識 導事例集」においては、「 学校においても、授業中 に区別され、結局「男は~、女は~」のイメージの基 はもちろんのこと、学校行事やその他の学校生活の場 礎となっているのではないか。日常生活の中で、食べ 面において、固定的な男女の役割分担意識を無意識の 物や、着るもの、道具、住宅、乗り物など、様々な物 うちに伝えてしまうことのないように日頃から点検 がジェンダーのメッセジーを伝えているのではない し、教職員研修に取組むことが必要である。男女が性 か。 別による差別的な取り扱いを受けることなく、自分の 意志によって、仕事などを通じて能力を発揮したり、 子育てや介護をはじめとした家庭生活についても男 2. 先行研究 Ⅰおもちゃとジェンダー 女が共に喜びも責任も分かち合える社会を実現する 森永によると、おもちゃ売り場に行ったら、女の子 ためには、固定的な男女の役割分担意識によって自己 のおもちゃ箱には着せ替え人形やままごとセットな 実現の幅が狭まることがないように、一人ひとりの個 どが、男の子のおもちゃ箱にはミニカーやアクショ 性を大切にする教育を推進することが大切である 。 ン・フィギュアなどが多い。女児用と男児用ものは明 ……教科指導や総合的な学習の時間などを通して、育 確に区別されている場合が多い。清水が幼稚園児の色 児体験学習や福祉体験学習などを一層推進し、男女が の好みを調べたところ、「女児は男児よりもピンクや ともに、家族の一員としての役割を自覚し、家庭生活 赤を好み、男児は女児よりも青や黒を好んでいる」と を相互の協力のもとに築くように指導する必要があ 報告している。また、「男の子と遊ぶときには、女児 る」のような「固定的な性別役割分担意識の解消」が 向け(ベビー人形など)や、性別と無関係な中立的な 提唱されている。男女共同参画が「男女が社会の対等 おもちゃ(パズルなど)よりも、男児向けのおもちゃ な構成員として、自らの意志によって社会のあらゆる (トラックなど)で遊ぶ時間が長いこと、また、女の 分野における活動に参画する機会が確保され、もって、 子と遊ぶときには女児向けや中立的なおもちゃで遊 男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益 ぶ時間が長いことを見出している」 。 初、女性向けのサービスとして始まった「オフィスグ Ⅱ服装とジェンダー 16) リコ」も、実際の利用者の 7 割は男性であった) 。男 は「服装の性差」について以下のように報告 が甘いものなんて、イメージを壊すという「偏見」も した。時代の推移とともに、男性はズボン、女性はス 出てくるそうである。以上のことはお菓子とジェンダ カートというようにはき分けられるようになった。な ーに何からの関係があることを示唆している。我々は、 ぜズボンは男性でスカートは女性なのか。要約すると、 お菓子を買う時、無意識にこのようなジェンダー観に ヨーロッパにズボンが生まれたのは、アジアのズボン 影響を受けているのだろうか。もし影響を受けている 型を輸入したためだが、ズボンが取り入れられた頃、 とすると、子供のジェンダー形成にお菓子がどのよう すでに父権制社会が成立しており、女性は男性に従属 に影響を与えているだろうか。以降はこれらのことに を強いられていた。男性は活動的なズボンをはくよう ついて具体的に検討してみたい。 青柳 になったが、女性に対し活動的なズボンをはくことを 許さなかった。つまり、女性にとってスカートが唯一 4. 研究方法 の服装となった。 「ズボン=男性の服」 「スカート=女 Ⅰ文献資料の内容による分析 性の服」という図式ができると、スカートには性的な Ⅱ調査 「記号」が付随するようになって、一言で言うと「女 1) 対象 らしさ」のように考えられた。男性のスカート着用を 本研究で調査の対象となったのは、 福岡市内に住ん めぐる議論も、「メンズスカート」のイメージを明確 でいる 17 歳から 68 歳までの男女 298 名であった (男 に示すことができなければ、無意味なものに終わると 性 172 名、女性 126 名) 。 考えられる。 2) 質問紙 本研究で用いた質問紙に含まれる質問項目の全て Ⅲ広告とジェンダー を表1に示した。 調査内容は、 「Ⅰ あなたご自身に 滝嶋によれば、男と女は<内―外>と<表―奥>の ついて」 、 「Ⅱ ジェンダー観について」 、 「Ⅲ お菓 無意識的な関係になっている。こういう意識の下で、 子について」 、 「Ⅳ お菓子選びについて」で構成さ 家事と育児は女の仕事と見なしているから、育児なし れている。なお、 「Ⅳ お菓子選びについて」でサン の男性たちは家庭内に関係する広告に登場すること プルとして使っている商品は、シリーズものとして が滅多にない。男は、圧倒的に職場、仕事周り関係の 販売されているものの全シリーズを使用した。 商品・サービスにかかわるだけである。例えば、男性 3) 手続き 用化粧品や紳士服などの衣類のほかに、酒・焼酎・ビ 調査票は、食品販売、雑貨販売などの職場におい ールなどアルコール類、オーディオ機器、クルマ(ス てはマネージャあるいは当日の担当を通じて、学校 ポーツ・カーやスペシャル・カー)、パソコンなどで においては授業担当者の了承を得て配布され、その ある」。杉山は記号学の分野で広告における男女につ 場で回答の後回収された。調査期間は 2010 年 10 月 いて研究した。それによると、「男性が登場する広告 上旬から 11 月中旬であった。調査票の回収率は において、規定されている役割の中で最も顕著な例が 100%で、その中に有効票本数は 279、約 96.5%だ。 『働く男性』というもので、もう一つの規定されてい 4) 統計解析 る役割は『夫もしくは父親としての男性』である。男 ジェンダー観の質問項目において伝統的な性別に 性の『父親』としての記号と対応するように、女性も 関する考え方に該当とする項目を選別し、それらの 『母親』としての役割が規定されていることが多いと 項目の合計得点の中央値による調査対象者の分割を 考えている」 。 行った。また質問項目ごとに回答の度数(観察度数) を求め、 独立性の検定を行った。 この際の検定法は、 3. 研究目的 Pearson の χ2 検定であった。さらに、Pearson の χ2 近年、スイーツ市場において、男性マーケットの存 検定で有意差が認められた場合は、関連度合いを表 在が指摘されるようになっている(例えば、コンビニ す連関係数も求めた。このとき、2×2 のクロス集計 市場において、弁当などと一緒にスイーツを購入する 表の場合は、φ(ファイ)係数を算出し、l×m のクロ 男性が増加している。一説には、コンビニスイーツの ス集計表の場合は、Cramer(クラメール)の連関係数 7 割は男性客によって買われているとも言われる。当 を算出した。次に、順序尺度においては、ノンパラ メトリック検定の Mann-Whitney の U 検定を行った。 婚姻状況別にみた商品選択(男子) 5. 結果 まず、調査対象者はお菓子に関してジェンダーの区 商品3群 1 2 3 既婚 16(22.9) 29(41.4) 24(34.3) 別がないと思われた。 独立性の検定 χ ²=0.003 * 未婚 「性別にふさわしいお菓子」 「お菓子の購入理由」に対する回答 注) n=286 54(25.0) 48(22.2) 114(52.8) Pearsonのχ二乗検定 * p<.05 婚姻状況別にみた商品選択(女子) 「男女にふさわしいお菓子」に対する回答 表より、 「婚姻関係」と「商品 3 群」商品との関係が 独立であるという帰無仮説は、5%水準の危険率で廃 却されている。 既婚者は男子の第 3 群商品の選択では、 選択率の最高の物は「2」で、最低は「1」であり、女 子の場合は、最高は「1」で、最低は「2」であった。 このことから見れば、既婚者たちは商品選択時に、 「男は青、女は赤」という伝統的なジェンダー観に無 意識的に影響されていると思われる。一方で、未婚者 この結果からすれば、ほとんどの調査対象者はお菓 が第3群商品を男子に買い与える場合、一番多いのは 子とジェンダーの間には関係がない、また買い物をす 「3」で、また女子の場合には、一番多いのは「3」で る時もわざわざジェンダーに関する思いを入れて買 あった。つまり、未婚者たちにとって、男子か女子か い物をしない、さらにお菓子がジェンダーを示さない には関係なく、「野菜サラダ」は一番いい選択だと思 ということを示している。とはいえ、これらの結果は われていた。すなわち、未婚者たちは子供向けの商品 「意識的な判断」を反映した結果である。つまり、こ を選択した時、男イメージの青色、女イメージの赤色 れらの回答は、実際に子供たちにお菓子を買い与える ではなく、緑色を選択した。つまり、未婚者は子供向 場合、どのような選択をするのかという実際の行動と けのお菓子を選ぶ時、わざわざ性別を意識して選択し は距離があるとも考えられる。 てはいなかったが、既婚者の場合には、選択に際して、 また、こういう無意識な影響に関する検討は商品選 択の部分で詳しく見てみよう。表には婚姻状況別に、 小学校低学年の男子にじゃがりこを買い与える場面 を想定した結果である。 「1」は赤いパッケージのチ ーズ味、 「2」は青いパッケージのじゃがバター味、 「3」はサラダ味の緑色のパッケージである。 子供の性別により、それぞれ違う選択を無意識的に行 ったことが明らかになった。 また、 「子供のジェンダー化と家族や親の影響」か 子供の有無別にみた商品選択(男子) ら、 「大人は『子供文化』 (簡単にいえば、子供をめぐ る様々な文化的状況を指す言葉である)にたえず介入 している。一つは、 『のぞましい文化』としての『児 童文化(財) 』を介して、もうひとつは、子供をター ゲットにしたマーケットで提供する様々な商品・情報 を介して。子供は、これらを取捨選択し、自らの文化 に取り込み、自らの正解を作り出していく」というこ とがわかってきた。つまり、大人たちがお菓子に作っ 子供の有無別にみた商品選択(女子) た無意識的なジェンダー観は、子供のジェンダー観の 形成に影響を与えることが推測できる。 7. 主要引用文献 1) 江原由美子(2010) 1 ジェンダーとは. 江原由美 子・山田昌弘著, ジェンダーの社会学入門, 岩波書 店. 表より、子供有無と「商品 3 群」商品との関係が独 2) 山田昌弘(2010) 5 専業主婦という存在. 江原由 立であるという帰無仮説は、5%水準の危険率で廃却 美子・山田昌弘著, ジェンダーの社会学入門, 岩波 されている。子供有の者が男子に 3 群商品を選択する 書店. 場合、選択率の最高の物は「2」で、最低は「1」であ 3) 森永康子(2006) 第二部 ジェンダー化される人間- り、女子の場合には、最高は「1」、最低は「2」であ 2.家族とジェンダー. 福富護編, った。これらの選択には、「男は青、女は赤」の伝統 学, 朝倉書店. ジェンダー心理 的なイメージが影響を与えているであろうことが推 4) 青柳蓉子(2001,2002) 服装の性差-なぜ女性しかス 測できる。一方、「子供無」の者が3群商品を男子に カートをはかないのか.「現代日本論講読Ⅰ」長期課 選択する場合、一番多いのは「3」であり、女子の場 題Ⅱ. 合にも、一番多いのは「3」であった。つまり、子供 5) 森岡清美・塩原勉・本間康平(1993)新社会学 がない者たちにとって、男子女子は関係なく、「野菜 辞典, 有斐閣. 6) 滝嶋英男(2000) 広告からよむ女と男―ジェン ダーとセクシュアリティ, 雄山閣. 7) 有泉優里(2001) 【調査報告】ジェンダー・ステ レオタイプにおける知識と個人の考えおよび偏 見の関係-特性語に関する調査研究-. 日本語ジ ェンダー学会学会誌, 日本語とジェンダー第7 号. 8) 塚本明子・増成隆士(1993)記号学入門, 放送 大学教育振興会. 9) 戸塚悦朗(2006)ILO とジェンダー―性差別の ない社会へ, 日本評論社 10) 木村涼子(2009)ジェンダーと教育, 日本図書 センター. 11) 清水隆子(2003)幼児の色彩選好と親のジェン ダー意識―ピンク色選好にみられるジェンダ ー・スキーマ,早稲田大学大学院教育学研究科紀 要 別冊 11 号-1. サラダ」が一番適切だと思われているということであ る。つまり、子供がない者たちは子供にお菓子を選択 してあげる際、わざわざ性別を区分しはしないが、子 供を持っている者たちの場合になると、子供の性別に より、それぞれ違う選択を無意識的に行ったことが明 らかになった。 6. 考察 服を買う時、普通の考え方は「ズボン=男性の服」 「スカート=女性の服」のように、スカートには「女 らしさ」の「記号」が付随する。おもちゃ売り場で、 男性用と女性用が明確に区別されていることが多い。 やはり男のほうがスポーツ道具、女の子が人形や家具 などのほうが多い。人々はたとえどんなに男女平等を 追求しても、このような「男のもの」と「女のもの」 を無意識に区別されて、結局「男は~、女は~」のイ メージの基礎となっているのではないか。
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