SPDP_LETTERS_No_10 201404

SPDP
SPDP LETTERS (No. 10, Apr, 2014)
The Society of Primate Diseases and Pathology
Jan, 2014 • 2014年4月30日 (第
10号)
編集/発行 サル類の疾病と病理のための研究会
目次▷▶
▶▷
記事および画像・写真の無断複製,使用,転用を禁止します。
<巻頭総説>
❖私とカニクイザルとの出会い
(寄生虫,感染病理から医薬品の安全性研究に至るまで)
平川 公昭
株式会社 新日本科学
<連載> 最終回
❖実験用サル学事始め
(10)
霊長類センターではどういう研究に取り組んだか
本庄 重男
元 国立予防衛生研究所 筑波医学実験用霊長類センター 所長
元 愛知大学 教授
<News & Topics>
❖化血研ツベルクリン: 成分量表記の訂正に際して
板垣 伊織
サル類の疾病と病理のための研究会
<会員の集まる喫茶店>
❖Monkey-tail Café
▽ 横森 稔 (SPDP No. 1283)
シオノギテクノアドバンスリサーチ株式会社
▽ 奥村 敦 (SPDP No. 1299)
米国アレルギー感染症研究所
1
SPDP LETTERS (No. 10, Apr, 2014)
<巻頭総説>
私とカニクイザルとの出会い
(寄生虫,感染病理から医薬品の安全性研究に至るまで)
平川 公昭
株式会社 新日本科学
獣医学科に入学し臨床獣医を目指していた私
立することを証明しました。センセーショナル
は,学部 3 回生の時の講座振り分けで外科学教
なサルとの出会いでした。教室では肝蛭,肺吸
室の選抜から漏れ (じゃんけんで負けて),一番
虫,肺虫,回虫,フィラリアなどの寄生虫を
人気のなかった病理学教室を選んだのをきっか
テーマとした研究が多かったため,私と顕微鏡
けに,40年余,顕微鏡がお友達となることにな
との関係は,病理とはかけ離れた,糞便中の虫
りました。当時,教室では,肝蛭感染牛の生レ
卵の数を数えたり,すりつぶした臓器内の幼虫
バーを食べることで,中間宿主を介せずに肝蛭
をカウントしたりという拡大鏡のひとつでしか
が人へ感染するかどうかの立証実験が行われて
ありませんでした。しかし,その間,病理学教
いました。通常のルート (水生植物のセリなど
室に身を置いていたことから,動物園動物 (天
に付着している感染子虫メタセルカリアの経口
王寺動物園のライオンやオラウータンなど) の
摂取) で感染させたモルモット肝臓内を移行し
病性鑑定や,開業獣医師や大学の付属家畜病院
ている肝蛭幼虫をバナナに混ぜて,ヒトのモデ
から持ち込まれる家畜や愛玩動物の生検材料な
ルとしてのカニクイザルに摂取させて感染が成
らびに剖検を経験することが多く,マクロ病理
2
SPDP LETTERS (No. 10, Apr, 2014)
学や顕微鏡を用いた診断病理学を体得すること
びカニクイザルにめぐり合うことになりまし
が出来ました。卒業後は,製薬企業で安全性試
た。当初,カニクイザルは他の実験動物に比べ
験の病理部門を担当することとなり,病変あり
て実験動物化は進んでおらず,試験に用いる年
きの診断病理から,化学物質暴露による正常か
齢が3∼5歳と高く,加齢や環境要因の影響によ
らの逸脱を見つけ出すという毒性病理の世界に
るバリエーションが多くみられました。生後数
翻弄され,正常であるということの証明の難し
週間あるいは数ヶ月で安全性試験に供するラッ
さをおもいっきり味わうことになりました。実
トあるいはイヌとは異なり,長く環境の暴露を
験動物としてのラットやイヌを用いた医薬品の
受けるカニクイザルには他の実験動物ではあま
安全性試験の結果をもって,ヒトを使って毒性
り経験しない背景病変が多くみられ,安全性評
試験をしてヒトの切片を見るわけでもないの
価に影響を及ぼすのではないかと心配しながら
に,ヒトでの安全性を証明しなければならない
顕微鏡検査を実施していました。しかし,近
という重圧を感じていました。さらには,医学
年,自家繁殖施設の充実など実験動物としての
部で研究生として人体病理の習得時には多くの
微生物学的統御及び環境整備が徐々に改善さ
臨床医から本当に効く薬を作ってほしいという
れ,カニクイザルにしばしば見られていた,主
切実な訴えを耳にしていました。時は進み,20
要臓器における単核細胞浸潤,脾臓白脾髄にお
世紀後半に国際的なヒトゲノムプロジェクトが
ける好酸性物質沈着,慢性胃炎などの出現頻度
始まり,2003年にはヒトゲノムの全塩基配列が
が極端に減少し,背景病変の蓄積も進み,毒性
決定され,未知の遺伝子機能の解明,タンパク
評価に影響を与えると考えられる病変は少なく
質の働きと疾患との関連,さらには,それらの
なってきました。とはいえ,長く顕微鏡とお友
医療への応用 (抗体医薬や核酸医薬などの開発)
達になっていますと,サルならではのいろいろ
が現実のものとなってきました。そのような背
な病変を経験することができ,自称病理おたく
景において,医薬品の安全性試験などに系統発
としては本望につきるといったところですが,
生学的にヒトに近いサル類を用いた研究が注目
臨床医が切望する本当に効く安全な薬の開発に
され,その中でもカニクイザルが,薬効,安全
少しでも役に立ちたいという気持ちで安全性試
性及び薬物動態の解析により有用であることが
験の標本を見続けています。
示され,創薬の分野で広く用いられるように
いくつかの変化を紹介してこの項を締めくく
なってきていることから,卒後20年にして,再
らせていただきます。
3
SPDP LETTERS (No. 10, Apr, 2014)
【写真1】カニクイザルの間脳にみられた鉱質沈着
【写真2】カニクイザルの卵巣にみられた鉱質沈着
4
SPDP LETTERS (No. 10, Apr, 2014)
【写真3】カニクイザルの副腎にみられた鉱質沈着
【写真4】カニクイザルの腎臓にみられた異所性副腎
5
SPDP LETTERS (No. 10, Apr, 2014)
【写真5】カニクイザルの膵臓にみられた異所性脾臓
【写真6】カニクイザルの子宮にみられた異所性卵巣
6
SPDP LETTERS (No. 10, Apr, 2014)
【写真7】カニクイザルの骨髄にみられたリンパ濾胞
【写真8】カニクイザルの未成熟精巣
(結合織中に島状に未熟精細管が存在。成熟とともに結合織領域が
ほとんどなくなる)
7
SPDP LETTERS (No. 10, Apr, 2014)
<連載>
実験用サル学事始め
本庄 重男
元 国立予防衛生研究所 筑波医学実験用霊長類センター 所長
元 愛知大学 教授
(前号から続く)
(10)
霊長類センターではどういう研究に取り組んだか
[最終回]
前号では、1978年4月に筑波医学実験用霊長類
代の人々によって成されるのが一般ですが、わ
センターが発足したことを述べました。そこに
が国のサル学については生態学分野の先達の
至るまでの私の苦労話など、つまらぬ老研究者
方々の威力が強く、私と同世代の人々も異議な
の繰り言であったかも知れませんが、今度の号
くその成果を認識し、それに基づいて自らの研
で述べようとすることは科学とか学問に関わる
究を発展させておられました。ですから、後発
大事なことであると私は思います。実験用サル
の私にとって前例の無い実験動物としてのサル
学を志す方々に是非、自分の頭で考えながら読
学をどう打ち建てればよいのか、模索し続けね
んで頂きたいと願いつつ以下の文章を綴りま
ばなりませんでした。
す。
私が大学を卒業し研究者の道を歩み始めた
霊長類センターの構想を練り、具体的計画を
1953年頃は、ワトソンとクリックによりDNAの
提示し、その実現を意図したころの私は、ひた
分子構造が解明されて分子生物学が勃興・発展
すらサルについての実験動物学的学問の樹立を
し、それは新しい生物学の基礎分野として広く
願っておりました。生態学の分野では既に日本
認知されつつありました。ですから、丸ごとの
の研究者のサル類についての実績は世界的にも
個体として実験用サルを扱う場合にも、分子生
認められていました。私は “実験用サル学” など
物学的知見を考慮しない訳には行かないと思い
とは未だとても宣言できないけれども、何とか
ました。それで私は、大学の講義では学ばな
私自身の学問・思想で自分の研究分野を成立さ
かった分子生物学を、いわば独学で学ぶベく努
せたいと願っていました。学問の評価は後の世
力しました。当時の新しい分子生物学の先導
8
SPDP LETTERS (No. 10, Apr, 2014)
者、渡辺格博士や柴谷篤弘博士のD N A関係の総
余談ですが、この “TPC News" 発行のような公
説論文などを夢中で読んだものです。柴谷さん
報活動の社会的必要性についても、私は長文昭
とは後年、科学者の社会的責任や動物実験の必
君たちと熱心に語り合い、霊長類センター構想
要性などについて、中央公論社の “自然” や朝日
の中に明示することにしていました。その構想
新聞社の “朝日ジャーナル” の誌上で公開論争を
は私の在任中に実現し、1982年以来1998年まで
重ねたこともあり、今では懐かしく思い出され
の 1 6 年間にわたり季刊誌として発行され、国
ます。とは言え私には、D N Aの分子構造やその
内・外の実験用サル学に関心を持つ人々の間で
機能から実験動物へ直接飛躍して考えることは
はよく読まれていたと聴きました。しかし後
とても困難で不可能なことでした。それで、私
刻、官僚的センスによる予算削減の
の学んできた古い動物学や獣医学・畜産学に立
呆気なく廃刊されてしまったのです。私はその
ち戻って、実験動物としてのサルについての研究
時既に退職しておりましたが、刊行継続のため
の在り方を考えました。ここでは一人一人お名
にきちんと抵抗しなかった当時の関係者の不見
前を挙げませんが、多くの先輩・友人方から有
識に呆れました。それは筑波霊長類センターの
益なご意見を頂けたことは、大変に幸せでし
任務の一部放棄に類する行為だと、私は慨嘆を
た。そして私は遅蒔きながら、以下に述べるよ
禁じ得ませんでした。
うな考えにようやく立ち至ったのです。
食にされ
ともあれ、退職直前の “TPC News" 9巻1号
実験用サル学の本領はサルそのものの生物学
(1990年冬季号)
に寄稿した「37年間の研究活動
的特性を多面的に解明し、それらの知見に基づ
を回顧し、T P Cの将来へ期待すること」と題す
いて実験動物としての有用性を確かめ活用の道
る拙文の中で、私は実験用サル学の研究は、少
筋を見出して行くことにあります。この点を先
なくとも6分野に渡り、3つの立場を踏まえて行
ずは最も基本的に頭に叩き込まねばならない
なわれるべきであるとしました。
と、思いました。そして、筑波霊長額センター
6つの分野とは、① 繁殖生理・内分泌、② 遺
の当面の中心課題は野生サルを実験動物化する
伝・育種、③ 免疫および臨床病理、④ 病原微生
ことであるから、その方向に沿った研究課題を
物、⑤ 栄養、⑥ 心理・行動、等の学問分野で
以下のように設定しました。それは、残念なが
す。言うまでもなく、これらの分野は学問方法
ら今では廃刊になっている筑波霊長類センター
上の分類であり、私は全てに “サルの” という限
発行の “TPC News" やその他の学術誌上で、何回
定語を付けねばならないと考えています。
か論述しております。
9
SPDP LETTERS (No. 10, Apr, 2014)
また、3つの立場とは、次のようなことです。
たと思います。飼育現場での日常作業に従事し
第1に常時3種類 (カニクイザル、ミドリザル、リ
ている人はもとより、各種の検査材料の検査作
スザル)
業に従事している人も全てが実験用サル学の推
3千頭前後のサルを飼育・繁殖・育成し
ていた当時の第一線現場で [編集者注] 不断に発生
進者になっているのです。
する問題 (疾病や飼育器材・器具の改良をふく
研究と言うと、何やら今時は理研の小保方晴
む) を迅速・的確に捉え、具体的に対応・処理
子さんがやったようなことを格好良いと見る人
して行くという立場です。文字通り実学的立場
も多いと思われますが、実験用サル学は決して
ですが、そこで得られた成果は、次の第2の立場
そんなものではありません。文字通り地道にサ
でなされるべき研究に多くの問題を提起するこ
ル達と取り組んで始めて達成される学問です。
とになります。
美しく難解な術語で語られる類の学問では決し
第2は、サル類の生物学的特性を様々な角度か
てありません。取り組む人の努力の結晶としか
ら基礎的・多面的に解明するという立場です。
言いようの無い、しかし、ロマンに富んだ学問
それは、上記の6分野の研究方法を活用して行な
だと私は考えています。私もその創設に努力し
われます。そして、その成果は第 1 や第 3 の立場
た日本霊長類学会でも、生態学分野とともに実
での研究の基礎となります。
験用サルの分野を受け入れて、両者の交流・発
展を望んでいることを申し添えます。長い間続
第3は、医学・心理学・行動学等の研究のため
いた拙稿をお読み頂き、本当に有難うございま
の実験動物モデルとしてのサル類の有用性を開
した。
発・実証していく立場です。自然発生の疾患モ
デルは日常の飼育現場での臨床観察と病理学的
[編集者注]
(完)
現在、霊長類医科学研究センター (旧 筑波医
学実験用霊長類センター) には当時に比べて小規模な
検索により発見されます。また、ときに実験的
がらアフリカミドリザルほか数種類のサル類のコロ
に作り出すモデルもあります。人工繁殖されて
ニーが維持されています。リスザルは数年前から飼育
年齢や遺伝形質なども判っているサル個体を用
されていません。
いての疾患モデル作出の重要性については、野
生由来サルでの場合に比し遥かに高いことは言
うまでもないことでしょう。
とにかく、筑波の霊長類センターにおいてこ
の6つの分野・3つの立場で成された研究活動に
より、実験用サル学の内容は次第に充実してき
10
SPDP LETTERS (No. 10, Apr, 2014)
<News & Topics>
化血研ツベルクリン: 成分量表記の訂正に際して
板垣 伊織
サル類の疾病と病理のための研究会 (SPDP No. 1147)
一般財団法人 化学及血清療法研究所 (化血研; 本所 熊本県) が製造・販売する「ツベルクリン」。主
な対象はウシなど畜産分野の家畜であるが,従来からサル類の結核検査でも汎用されている。
2014年4月,この化血研ツベルクリンに添付される使用説明書の記載に重大な変更があったことをご
存知だろうか。主な変更点は「主成分の分量」の訂正である。しかも変更幅は表記上とはいえ従来の
“5倍量” と非常に大きい。サル類の診療や飼育・管理の今後に影響するこの重大かつショッキングな
ニュースを受け,化血研への問い合わせを含めて関連する情報を収集した。またサル類のツベルクリ
ン試験を今後どのように行うか私見をまとめたので,会員諸氏のご意見を承りたい。
・! 人型結核菌青山B株由来ツベルクリン
化血研によると「製剤自体」は従前のままで
100,000国際ツベルクリン単位
あり,何ら変更された訳ではない。製品に添付
・! フェノール!
される使用説明書の記載が訂正されたのであ
変更後)
る。まずこの点についてご承知おき願いたい。
1.!
25mg
・! 牛型結核菌牛10株由来ツベルクリン
}
・! 人型結核菌青山B株由来ツベルクリン
化血研のアナウンス
総量として500,000国際ツベルクリン単位
「ツベルクリン
使用説明書一部変更のご案
・! フェノール!
25mg以下
内」と題された文書は同社のウェブサイト,”獣
[2]! 用法・用量
医医療関係者の皆様” のページに掲載されてい
(主に畜産動物診療に関連する記述につき省略)
る。掲載日は2014年4月21日である。この文書
[注1]
に記された変更の概要を以下にまとめた。
・
変更部分を下線で示した。
·································
・
単位表記: 国際ツベルクリン単位 (ITU) は,ツベルク
リン単位 (TU) や国際単位 (IU) と同義。
【変更内容】
[1]! 成分・分量: 1バイアル (5mL中)
【変更理由】
変更前)
・主剤の分量について、製造販売承認申請書上
・! 牛型結核菌牛10株由来ツベルクリン
の表記に誤りがあったため改めております。
100,000国際ツベルクリン単位
11
Kaketsuken
SPDP LETTERS (No. 10, Apr, 2014)
(本来1バイアル(5mL)中に含まれる抗原
[注2]
量を主剤の総量で記載すべきであったが、各主
以上,文書中強調文字で書かれている部分を原文のまま引
用。以下,フェノール含量と用法・用量の記載に関する部
剤の分量を相対力価に基づき単位容積当たりと
分は省略
して個別に記載していた)
【変更開始Lot】!
Lot96∼
【資料1】化血研のアナウンス文書主要部分 [引用元: http://www.kaketsuken.or.jp/]
12
SPDP LETTERS (No. 10, Apr, 2014)
その写真を含めて自身の貴重な財産となってい
実際の文書のうち関連する部分の抜粋を【資
る。
料 1 】に示したのでご参照願いたい。これが化
血研から公式に提示された情報の全てである。
2.!
その化血研のツベルクリンが我々の認識より
影響
もはるかに高い濃度で成分を含んでいたとなる
と,手法について再考する必要がある。これま
この変更を受け,今後我々はサル類のツベル
で通り原液を接種するのか,1,500TU に近いと
クリン検査にどう当たればいいのだろう。
ころまで接種液を希釈調整するか,見解が分か
かつて多くの施設では,化血研ツベルクリン
れ る 所 で あ ろ う 。 原 液 だ とす る と 接 種 量 は
を二倍から数倍に希釈して使用していたと聞
10,000TU/0.1mL と認識しなければならない。ヒト
く。しかし実験動物の疾病に関する一大教科書
のツベルクリン試験で使用されている抗原液
“Laboratory Animal Medicine” において Fox, J.G.
Purified Protein Derivative (PPD) とは異なり,結
らがサル類のツベルクリン検査には少なくとも
核菌の培養濾液であるオールドツベルクリンで
1,500ツベルクリン単位 (TU) の接種が必要
と
ある。不必要に濃度が高ければ何か非特異な反
述べていることを受け,既に10年ほど前には原
応を惹起しないかとの懸念も生じよう。また多
液を希釈せず接種する施設が存在していた。当
くのサルを抱える施設では,コストも重要な判
時から今回の変更に至るまで,化血研のツベル
断材料である。一方,サルに相対して実際にツ
クリン添付書に記載されていた成分・分量はヒ
ベルクリンを接種し顕れた皮内反応を判読する
ト型・ウシ型それぞれ10万TU/5mLバイアル,
者にとって,これまでに蓄積した背景データや
つまり接種量 0.1mL あたり 2,000TU であり,こ
経験は簡単に捨てられるものではない。殊にサ
1)
の量ならF o xらの方法に準拠するとの解釈であ
る。現在の日本国内において各施設がどれほど
の接種量を採用しているのか総合的に調査した
結果は手元にないが,筆者の関連したいくつか
の施設は全て化血研ツベルクリンの原液か,も
しくはそれを 1,500TU/0.1mL に希釈調整した液
を使用している。筆者自身これまで行ってきた
ツベルクリン検査は,上記F o xらの文献を根拠
に,全て化血研ツベルクリンを原液のまま使用
【図1】化血研の「ツベルクリン」
してきた。そこで観察された様々な皮内反応は
1バイアルあたりの容量は5mLである。本品は添付文
書改定前のロット。シリンジは別売り。
13
SPDP LETTERS (No. 10, Apr, 2014)
ル類の結核は感染症予防法により獣医師が届け
で当局ともコンセンサスが出来ている。例えば
出を義務づけられた重大な疾病である。各時点
ウシの場合,これまでも今後も原液を使用す
における皮内反応の判読から導かれる判定結果
る。しかしサル類での標準が1,500TUというこ
は,我々にとって非常に重要な意義を持つ。そ
とであれば,それに近い濃度まで希釈した液の
れだけに,検査法の主幹をなす接種抗原量の変
使用を推奨する。
更については慎重な態度で臨まざるを得ない。
·································
公表された情報だけでは不足と感じた筆者は,
現場の獣医師としてはそう簡単に抗原量の変
詳細を問うべく化血研に連絡を入れた。
更に踏み切れないこと,また化血研ツベルクリ
3.!
ンをサル類に使用している多くのSPDP会員とも
化血研からの追加情報
協議が必要であることを説明した。
電話口の担当者に,まず記載事項が誤表記さ
れた理由を
【化血研の回答】····················
ねた。今後の検査方法を考える上
関係者の団体で検討するのであれば,例えば
で,記載変更の理由は重要な情報になり得る。
その結果がこれまで通りの希釈倍率を維持する
【化血研の回答】····················
ことであっても,それを尊重する。
使用説明書の作成にあたり,本来であれば1バ
·································
イアル中の総量を記載しなければならなかった
これらの情報について会員諸氏はどのように
のだが,1mL中の成分含量を誤って記載した。
考えるであろうか。
·································
4.!
つまり単位容量あたりの成分量をバイアル中
の総量と誤って記載したという,書類作成上の
アメリカ合衆国の現状
この問題を考える上で,化血研ツベルクリン
単純なミスである。
が普及している地域の外の状況も手かがりにな
ると考え,アメリカ合衆国での状況を調査し
次にサル類で原液を接種するに至った経緯を
た。同国は結核の蔓延する東南アジア地域から
説明した上で,本件を受けて今後の検査をどう
継続的にサル類を輸入しており,ごく稀ではあ
したらよいか,化血研としての見解を質した。
るが検疫で結核を摘発したケースが政府の公式
【化血研の回答】····················
文書に記録されている。また National Institutes
本品は主にウシなどの畜産動物を対象として
of Health (NIH) のような政府機関が科学研究用
おり,サル類に関しては知見やデータを持ち合
のサルを飼育していることもあり,ツベルクリ
わせていない。ウシなど畜産動物の診療にあ
ン検査を含めたサル類の結核対策が系統立てら
たっては,従来通りの希釈倍数を維持すること
14
SPDP LETTERS (No. 10, Apr, 2014)
れている。情報公開も進んでいて調査対象とし
[2]!標準的なツベルクリン接種方法
ては最適だ。調査結果は次の通りであった。
・! U.S.D.A.検定ツベルクリンを0.1mL,眼瞼皮
内に接種する。[出典: NIHガイドライン 4)]
·································
·································
[1]!使用されているツベルクリン
つまりアメリカ合衆国での標準的なツベルク
名称:!
Tuberculin, Mammalian, Human
リン接種量は “15,000TU/0.1mL”。実にFoxらの
Isolates Intradermic
製造:!
方法の10倍量である。U.S.D.A.検定品のツベル
Colorado Serum Company (Denver,
クリンは,化血研ツベルクリンの1.5倍の力価を
CO.)
販売:!
有することになる。
Synbiotics Corporation, Animal Health
Division (SanDiego, CA.)
ちなみに,N I Hの「サル類の結核の予防と制
57
成分量:! 15,000TU/0.1mL [注3]
御ガイドライン」,2 0 1 3年9月に改訂された最
Appendix XII (contd)
規格:!
U.S. Department of Agriculture
新バージョンではツベルクリンについて
(U.S.D.A;
アメリカ農務省)
検定品
A good example
is herpes B virus
in macaques. Many experts
consider it impossible to certify these animals free
of virus even after negative diagnostic testing. Although the probability of attracting a herpes
B virus infection
is
“USDA
licensed”
の一文が付加されているが,一
extremely small, the possible fatal implications for humans coming into contact with latently infected and
intermittently infective animals, requires that the disease potential is not ignored. Mandatory testing for B virus
[注3]
つ前の
2010年5月改訂版では単に
“mammalian
in quarantined animals, however, is not an effective means of identifying problem animals.
A better approach
is
2) 中に成分量に関する記述は見られない。
to consider all macaques
infected and handle all macaques accordingly.
製品添付文書
old tuberculin” とあるのみで,成分量や力価に関
To supplement the Chapter
table given,3.9.1,
a second
listing of agents
による。zoonotic
情報はOIE文書
Appendix
XII 3) possessing
potential was added to alert
persons to the existence of these agents. It is not considered practical to mandatorily test for and exclude these
する手がかりは記されていない。
agents during the quarantine process, however. These agents include hepatitis A virus, hepatitis
B virus, herpes
B virus, filoviruses, poxviruses, retroviruses, and rabies, etc.
It is also considered unnecessary to mandate testing for agents which, if present, would become clinically
apparent during the quarantine period; for example: Monkeypox.
【資料2】アメリカ合衆国でサル類に使用されるツベルクリンに言及するOIE文書
Discussion on specific agents
1.
中段の下部に製品名とその成分
Tuberculosis
量,近年アメリカ国内で推奨され
Since it takes a minimum of three weeks for a healthy but infected animal to develop delayed
hypersensitivity to tuberculosis testing, a series of testings is recommended during the quarantine period to
increase the likelihood of detecting positive animals. Careful interpretation of test results is essential. False
negative tests can result from improper testing techniques, very recent infection (no sensitivity developed
yet), anergy, masking by concomitant viral infections such as measles, immunosuppression, other severe
illnesses, immunisations, and species specific conditions (orangutans are notorious for false negatives).
So far, there is no universally accepted method for tuberculosis testing of non-human primates. A
recommended method of testing is the intradermal injection of 0.1 ml of tuberculin at the edge of the upper
eye lid. Eye lid swelling and erythema at 24, 48 or 72 hours is considered a positive test result. A negative
response indicates the animal has not been exposed to tuberculosis, has not had time to mount an immune
response, or is incapable of mounting an immune response due to immunosuppression. The eyelid is the
preferred site for testing, because it is easily observed without actually restraining the animal. Subsequent
tests are generally alternated between eyelids. Alternatively, an intradermal test may be done on a marked,
non-haired area of abdominal skin. This site is recommended for small species such as marmosets,
tamarins, bushbabies or mouse lemurs. It allows for physical palpation and/or measurement for induration,
and it is often used for retesting an animal with a questionable eyelid test or as part of the baseline testing
in quarantine. In the United States of America, mammalian tuberculin, which is less purified but has more
tuberculin units (TU) than Purified Protein Derivative (PPD) is used on non-human primates because PPD
may not elicit a strong enough response to facilitate the identification of infected animals. Tuberculin,
Mammalian, Human Isolates, Intradermic - a heat inactivated, concentrated filtrate of Mycobacterium
tuberculosis - is the product currently recommended in the US. The minimum dosage is 0.1 ml of undiluted
USDA veterinary tuberculin (which is equivalent to 15,000 TU based on trichloroacetic acid (TCA)
precipitated protein content).
Practices are different in Europe, where, according to a 1996 EAZWV survey carried out in Belgium,
Denmark, France, Germany, Italy, the Netherlands, and Switzerland, most zoos use bovine and avian PPD
for routine tuberculosis testing. The results of this survey are compiled in table 1 (see end of the
document).
15
Code/January 1998
ているとの記述がある。
[出典]
SUPPORTING DOCUMENT FOR
THE OIE INTERNATIONAL ANIMAL
HEALTH CODE CHAPTER 3.9.1.
ZOONOSES TRANSMISSIBLE
FROM NON-HUMAN PRIMATES (Ad
hoc Group Report, Paris, 19-22
November 1996)
<http://www.oie.int/doc/ged/
D5991.PDF>
SPDP LETTERS (No. 10, Apr, 2014)
5.!
願いしたいのは,それぞれ入手している情報を
今後のツベルクリン検査
支障のない限りにおいて研究会に提示して欲し
2014年4月も終わろうとするある日,一本の電
い。また今回提示した筆者の私見についてコメ
話を受けたことがきっかけで化血研ツベルクリ
ント・意見をよせて欲しい。国内のサル類とそ
ンの成分量が今まで間違っていたことを知っ
れに携わるヒトの安全を図るため,切にご協力
た。以来今日まで,筆者が集めた情報は以上の
を願いたい。
通りだ。これらを総合的に勘案し,筆者が自身
6.!
の業務のために導きだした結論を次に示す。
·································
今後のサル類のツベルクリン検査にあたり;
参考文献
2)! 接種容量は従来通り0.1mL
1. Fox J.G., Cohen B.J. and Loew F.M., III.A.
Bacterial Diseases, in Laboratory Animal
Medicine, pp 308-313, Academic Press, Inc.
Orland, 1984.
★! 接種量: 10,000TU/0.1mL
2. 生物学的製剤添付文書;
1)! ツベルクリンは原液のまま使用する
·································
Tuberculin, Mammalian, Human Isolates
Intradermic, Manufactured by Colorado Serum
Company Synbiotics Corporation, Animal Health
Division, Denver, CO.
<https://www.zoetisus.com/contact/pages/
product_information/msds_pi/pi/tuberculin_otmammalian.pdf>
手法としてこれまでと変えるところはなく,
接種量を10,000TUと記録するのである。原液の
使用を選択したのは,接種量の基準をF o xらの
1,500TU から合衆国標準の 15,000TU に引き上
3. OIE文書;
げた上で,国内で入手可能なツベルクリンの最
SUPPORTING DOCUMENT FOR THE OIE
INTERNATIONAL ANIMAL HEALTH CODE
CHAPTER
3.9.1.,
ZOONOSES
TRANSMISSIBLE
FROM
NON-HUMAN
PRIMATES (Ad hoc Group Report, Paris, 19-22
November 1996)
<http://www.oie.int/doc/ged/D5991.PDF>
大濃度をもってそれに近い接種量を確保するの
が狙いである。接種する容量を現行の 0.1mL か
ら 0.15mL にするのも一案だが,サルの薄い眼
瞼表皮である。容量の増加によって物理的な組
織傷害が拡大し,非特異反応が増大する懸念が
4. NIHガイドライン;
ある。成分量の誤りはさておき,十分な熟練と
Guidelines for the Prevention and Control of
Tuberculosis in Nonhuman Primates (revised
Sep. 2013)
<http://oacu.od.nih.gov/ARAC/documents/
NHP_TB_Prevention.pdf>
経験を積んでいればこれまでの手法はサル類の
結核を検出するのに十分適した手段である。
ここに示した情報は限られた時間で収集した
ものであり,まだ不足している部分もあるかと
思う。また集まった資料ひとつひとつの吟味も
十分とはいえない。そこでS P D P会員諸氏にお
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SPDP LETTERS (No. 10, Apr, 2014)
会員が集まってご自分のお仕事について語り合う喫茶店「Monkey-tail Café」の
コーナーです。交流の場としてご愛顧下さい。ある日突然として執筆の依頼が届
く恐ろしい状況,と一部で評判になっています。いずれは皆様に書いて頂くこと
になりますので,早く済ませた方がいいかも知れません。
サル類に携わる新人獣医師として過ごして
シオノギテクノアドバンスリサーチ株式会社
横森 稔 (SPDP No. 1283)
れば,スタッフの方へ指
大学を卒業後,現在勤めている会社に入社して
から2年が経過しました。獣医師としても霊長類
示をして対応していただくこともあります。ベテ
に携わる者としてもまだまだ未熟者の私ですが,
ランのスタッフの方々が多いので,若造の自分が
このような貴重な機会を与えていただきましたの
治療の指示をするのも心苦しいなと感じることも
で,私のサルに関する業務について初々しさを交
しばしばあります。
そのような
えながらお話させていただきたいと思います。
藤を乗り越えて選択した治療が奏
功したときは,とても大きな達成感が得られるの
獣医学科に入学した当初は,将来は臨床獣医師
として過ごしていきたいと考えており,研究室も
で,現在の仕事にやりがいを感じています。裂
臨床獣医学の知識や技術をより多く学べるであろ
傷,下痢,脱水,子宮内膜症,顎関節脱臼などの
う外科学研究室を選びました。
治療を経験してきていますが,サルの治療に関す
私の卒論テーマは薬効評価モデルを作製して試
る情報は国内だけでは不十分なため,どうしても
験をし,データを得るという類の物でしたので,
海外文献が必要になってきます。英語は嫌いでし
薬効評価モデルを作製するやりがいというものを
たが,そんなことを言っていてはサルの治療はで
感じておりました。その経験を活かすことがで
きないと先輩に言われ,苦手なりに文献の検索,
き,それを仕事にできるということで現在の会社
取捨選択,読み込みを何回も繰り返しているうち
に就職しました。
に,その作業を苦と感じなくなっていきました。
そうなってくると情報収集の効率は飛躍的に伸
霊長類を用いた実験をする部署に配属され,小
動物臨床の研究室で過ごしてきた知識や経験を活
び,今では得たい情報を比較的自由に得ることが
かせることもあれば,簡単に投薬や外科的な治療
できるようになりました。ついでに英語も好きに
を選択できないなど実験動物特有の難しさに遭遇
なってしまいました。最初はそんなことを言う先
することも多々あります。獣医師である上司と相
輩を少しだけ恨みましたが,今ではとても感謝し
談して決めた治療内容を自分で実施することもあ
ています。
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SPDP LETTERS (No. 10, Apr, 2014)
諸先輩方から情報や知識を請うという受け身の
的だよ」といったような貴重なご意見をいただき
姿勢だけではなく,仕事をする中で得られたサル
ながら,少しでもサル疾病分野に貢献していける
治療に関する経験などを,機会があれば積極的に
ように成長していきたいと思っています。これか
外部へ発信していきたいと思っております。「そ
らもご指導ご
撻のほど宜しくお願い致します。
のやり方は良くないよ」とか「こうした方が効果
自己紹介
米国アレルギー感染症研究所
奥村 敦 (SPDP No. 1299)
私は現在,米国モンタナ州ハミルトンにある国
れるだけでも,他の実験
立アレルギー感染症研究所の1つである,Rocky
室でする作業の倍の時間を必要としますし,トイ
Mountain Laboratories(RML)にある,ABSL4施設
レの時間との勝負だったりします。BSL4での実
でResearch Veterinarian(研究職獣医師)として働い
験は,バイオセーフティの面から多くの制約や取
ています。ここに来る前は,合衆国独立の地であ
り決めがあり,実時には,高度かつ正確な実験技
る,ペンシルベニア州フィラデルフィアにある,
術を必要とされ,特に刃物や注射針を扱うときは
ペンシルバニア大学獣医学部で,研究と臨床をし
緊張の連続です。それ以外にも,スーツに送られ
ていました。ここミルトンは,周りを山に囲ま
てくる空気が乾燥しているため長時間実験室にい
れ,多くの自然と牧場に囲まれた,ほとんどの店
ると脱水を起こしますし,連続の緊張を強いられ
が8時には閉まってしまう,人口約4千人の小さ
るため,安全面からBSL4実験室内に滞在できる
い街です。私の身分は少し複雑で,NIAIDのバイ
のは,最長5時間と決められています。ここで
オディフェンスプログラムにより雇用され,ワシ
は,主に,マウス,ハムスター,モルモット等の
ントン大学医学部に籍を置く形で,Rocky
齧歯類,フェレット,ブタ,カニクイザル,アカ
Mountain Laboratories(RML)のHeinz Feldmann博士
ゲザル,アフリカミドリザル,マーモセットを用
の研究室に所属する形になっています。ABSL4っ
いて,種々のウイルスの感染実験が行われていま
て?と思われる方もいると思いますが,ご存知の
す。私自身の研究テーマは,フィロウイルス感染
ように重い防護スーツを身に纏い,手袋を何重に
のモデル動物開発,宿主感受性とウイルス病原性
もはめて実験を行っています。そのため,スク
の解析,抗ウイルス薬の開発を行っています。エ
リューキャップのチューブを開けてサンプルを入
ボラウイルス=サルを利用した実験と思われがち
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SPDP LETTERS (No. 10, Apr, 2014)
ですが,薬のスクリーニングやコスト面などか
について病理医と相談して,より正確な病態の把
ら,齧歯類を用いてのモデル動物開発を中心に
握に勤めています。現在は,中東呼吸器症候群
行っています。その傍らで,以前の臨床経験か
(Middle East Respiratory Syndrome:MERS)の治
ら,他の研究者の動物の感染実験での臨床診断を
療法について,マーモセットやアカゲザルを用い
行っています。感染実験そのものは,施設の管理
て研究をしています。今回,サル類の疾病と病理
獣医師が行うのですが,血液検査や画像診断を行
のための研究会に入会させていただいたのは,や
い,実験中の動物の病態を把握し研究担当者に状
はりまだまだ未熟でわからないことも多く,諸先
況を報告して,データの解析を行っています。動
生方からいろいろ教えていただこうと思い,入会
物の感染実験では,病理解剖の所見が重視される
させていただきました。今後もとよろしくご指導
傾向にありますが,私は,臨床所見こそが重要と
いただけますようお願いいたします。
考え,病理解剖に立ち会い,病理所見と臨床所見
第23回サル疾病ワークショップ速報
テーマ (仮)!
各フィールドにおけるサル類の臨床
開催日!
2014年8月28日 (木)
会場!
千葉科学大学 マリーナキャンパス 防災シミュレーションセンター
千葉県銚子市潮見町15番地8
★まずはスケジュールをご調整下さい。★プログラムを含め,詳細は間もなくお知らせいたしま
す。★この夏は吉川先生のお膝元,銚子のマリーナで会いましょう。
編集後記
✤本庄先生の連載
の折は編集の相談に上がらせていただきますので,
✦残念なことに,連載「実験用サル学事始め」が最終
またよろしくお願い申し上げます。
回を迎えてしまいました。
✤化血研ツベルクリンご意見募集
✦数年前,SPDPワークショップの会場に颯爽とご来
本件に関するコメントは次のいずれかまでお寄せ下
場された本庄先生。それがご縁で時々ご自宅に参上
さい。
するようになた今も,ファッショナブルなお姿は健
1)
在です。
SPDPメーリングリスト <[email protected]>
✦SPDP会員ならどなたでも投稿できます。
✦いつも誰が,何時,何をしたか,毎号正確な情報を
✦投稿記事はSPDP全会員に配信されます。
提供下さいました。ご自身はコンピュータをお使い
2) 筆者 <[email protected]>
にならないとおっしゃっていますが,先生ほどの頭
脳であれば必要ないのだろうと納得です。
✦お寄せ頂いたコメントや情報は,ご相談の上
✦本庄先生,本当にありがとうございました。先号で
SPDP会員に提供する場合がございます。その際
宣言した通り,単行電子書籍化を考えています。そ
には提供者のご都合・ご事情に配慮致します。
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SPDP LETTERS (No. 10, Apr, 2014)
表紙のサル (カニクイザル若齢,性別不明)
マレーシア・クアラルンプールの近郊,ゴンバッにあるバトゥ洞
窟 (Batu Cave)。ヒンズー教の聖地としては東南アジアでも屈指
です。岩山の中腹に開いた巨大な鍾乳洞。天井からわずかに射
す陽の光が幻想的な陰影を刻み,神話を象る壁画・彫像が厳か
に浮かび上がります。信者はもとより,この幻想的な光景を目
当てに観光客が絶えることはありません。一方この洞窟,周辺
の密林に棲息する野生のカニクイザルにとっても恰好の遊び場
です。時間になると雌ザルと子ザルの集団が崖を降りて来て,辺
りを走り回る姿は観光客に人気です。写真のサルは麓の街から
続く長い階段の脇で周りを警戒しながら食パンを独り占めにして
います。もちろん,観光客がこの子ザルに与えたものです。洞窟の内部でもサルは人のすぐ足下まで来てスナッ
ク菓子をねだります。ここにいる限りサルが食べ物に不自由することはありません。
野生動物が恒常的に観光客から
を与えられる事例は,洋の東西を問わず無数にあります。食物を得て飢えを
満たす動物とその光景を楽しむ観光客の間にはその刹那一定の取引が成立していますが,それは双方にとって危
険と隣り合わせのきわどい瞬間でもあります。サルの爪や
で観光客が怪我を負うニュースは珍しいものではあ
りませんし,一方サルにとっては致命的な病原体,例えば結核菌などに暴露されるケースも考えられます。現代
[2010年10月11日 撮影: 板垣 伊織]
における野生動物とヒトとの関係を考えさせられた場面でした。
SPDP LETTERS (季刊)
❖ SPDP LETTERS ではサル類に関する記事,ニュー
第9号 2014年4月30日発行
ス,総説,論説,レポート,写真など,会員の皆
発行者
サル類の疾病と病理のための研究会
様からの投稿をお待ちしております。お問い合わ
編集委員
宮嶌 宏彰, 板垣 伊織
せは編集委員連絡先まで。
[連絡先] [email protected] (板垣 伊織)
❖ 記事の内容や画像を引用する際はご一報下さい。
サル類の疾病と病理のための研究会
賛助会員
株式会社イブバイオサイエンス
株式会社 イナリサーチ
参天製薬株式会社
株式会社 ボゾリサーチセンター
株式会社 新日本科学
ハムリー株式会社
大鵬薬品工業株式会社 徳島研究センター
安全性研究所
「サル類の疾病と病理のための研究会」SPDPでは随時賛助会員を募集しております。お申し込み,お問い合わせは次ま
でご連絡下さい。SPDP賛助会員募集係 板垣伊織 ([email protected])
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