海外滞在記 イリノイ工科大学滞在記 知能情報工学科准教授 平野 靖 3月初めから、米国シカゴにあるイリノイ ハウスの校長をしていましたが、ナチスによっ 工 科 大 学(Illinois Institute of Technology) てバウハウスが閉鎖されたため、アメリカに に滞在しています。シカゴというとアル・カ 亡命しました。後にアーマー大学(現・イリ ポネが有名で、治安が悪い印象があるかもし ノイ工科大学)建築学科の教授を務めるとと れません。それは今も健在です。というのは もに、イリノイ工科大学の多くの建物の設計 言い過ぎですが、現在でも非常に危険で、昼 を行いました。現在でもそれらの建物は現存 間でも立ち入ってはいけないような地区もあ しており、建築ツアーの名所の1つにもなっ ります。特にシカゴの南部と西部は比較的危 ています。 険なエリアです。イリノイ工科大学はダウン タウンと南部の間にあるので、それほど危険 ではありませんが、絶対安全ということでも ないようです。少なくとも夜間に出歩くのは 厳禁です。数ヶ月前にはイリノイ工科大学の すぐ近くで発砲事件があり、流れ弾で一般市 民が亡くなるという事件が起きました。どこ が危険かを把握し、危険なエリアには近づか ないことが重要です。不思議なことに、危険 なエリアと(比較的)安全なエリアはかなり はっきりと分かれており、極端な話をすれば、 図1 シカゴの高層建築 道路のこちら側は安全だけど、反対側は危険 シカゴといえば、シカゴ美術館も有名で ということもあるようです。 す。メトロポリタン美術館およびボストン美 それはそれとして、シカゴは高層ビルが立 術館とともにアメリカの三大美術館に数えら ち並ぶアメリカ型都市(図1)の発祥の地と れています。そのシカゴ美術館で「To build されており、このような建築傾向をシカゴ派 a modern campus -Ludwig Mies van Rohe と呼ぶようです(シカゴ大学を中心とする社 and the Illinois Institute of Technology 会学におけるシカゴ学派や、経済学における 1939-1948」と題して、ローエがイリノイ工 シカゴ学派とは関係がないようです) 。近代 科大学の建物を設計した際のデッサンなどの 建築の三大巨匠(ルートヴィヒ・ミース・ファ 資料が展示されていました(図2)。ちなみ ン・デル・ローエ、ル・コルビュジエ、フラ に、欧米の美術館内での写真撮影は基本的に ンク・ロイド・ライト)のうちローエとライ 許可されていますので、ここで紹介する写真 トがシカゴおよびその近郊で活躍していたこ は盗撮したものではありません。完成後の航 とからもシカゴと近代建築との関連の深さが 空写真(図3)もあったので、Google Earth 想像されます。なお、ローエはドイツのバウ の航空写真(図4)と比較してみると現在も - 22 いうと、この絵は点描という技法(図6)で 描かれているからです。つまり、一般的な絵 画のように絵の具を塗っていくのではなく、 様々な色の絵の具で点を打つことによって遠 くから見たら通常の絵になるようにしてあり ます。この方法は、点で画像を表現するとい う意味では、テレビや液晶ディスプレイと全 く同じです。画像処理に興味がある方はご覧 図2 To build a modern campus になると面白いと思います。ただし、この絵 図3 完成当時のイリノイ工科大学 図5 グランド・ジャット島の日曜日の午後 図4 最近のイリノイ工科大学 図6 点描法 面影を残していることが分かります。もっと は寄贈者の遺言によりシカゴ美術館から持ち も、これらの建物の多くは重要建築物に指定 出せないことになっているので、ご覧になり されているため、改修することもできないそ たい場合にはぜひシカゴまでお越しください。 うです。 先ほど、私の専門分野は画像処理と書きま ところで、私の専門は画像処理です。シカ したが、正確にいうと、医用画像処理です。 ゴ美術館には「ディジタル画像を専門とする CT 像や MR 画像などをコンピュータで処理 人は見ておかなくてはならない絵」 (私の大 し、その結果を医師に提示することによって 学院時代の恩師の言)があります。それは、 診断を支援することを目的としています。イ スーラの代表作である「グランド・ジャット リノイ工科大学は工学と科学技術に重きを置 島の日曜日の午後」(図5)です。なぜかと いており、その中でも建築学・航空工学・コ - 23 ンピュータ工学・医用生体工学などが特に強 目の授業が1週間に2回あり、それぞれ 75 分 いようです(Wikipedia によると)。私がお 間ずつです。そして、宿題の分量もかなり多 世話になっている研究室は Medical Imaging いようです。良し悪しは分かりませんが、特 Research Center(MIRC) の 中 に あ り、 イ 定の分野のスペシャリストを養成することが リノイ工科大学の医用生体工学分野の一翼を 目的となっており、その他の必要なことは自 担っている研究室ということになります。所 分自身で身につけるというのが、アメリカ流 属している学生は6人(修士課程2人、博士 (あるいは世界的な流れ)のようです。そして、 課程4人)と訪問研究員2人です。この研究 特定の業種の企業に就職したいからそのため 室の責任者である鈴木先生も含めて、すべて に必要な知識を身につけるという考え方も日 の構成員がアメリカ国籍を持っておらず、日 本とはかなり違います。 本人2人、中国人3人、イラン人2人、フラ シカゴ市内にはあまり日本人は住んでいま ンス人1人、インド人1人という国際色豊か せんが、近郊に多くの日本人が住むアーリン な研究室です(図7) 。研究室で行っている トンハイツという村があり、この村にミツワ・ ことは、医用画像処理とニューラル・ネット マーケットプレイスという日本食材等を専門 に関する研究です。最近流行りのディープ・ に販売するチェーン店があります。そこで図 ラーニングもニューラル・ネットの一種です。 8の日本酒を見つけました。ぜひ日本で購入 したものと飲み比べしてみたいものです。 図7 研究室のメンバー (右端が鈴木先生、左から3人目が著者) 鈴木先生のご厚意で「Statistical Machine Learning」という修士課程の授業に出席さ せていただいています。決して私に機械学習 図8 ミツワ・マーケットプレイスで 見つけた日本酒 の知識がないということではありません。選 最後になりましたが、この滞在を許可して 択科目なので、積極的な学生が多い印象です。 くださった知能情報工学科の松藤学科長をは とくに、授業中に質問したり、教員の問いか じめ知能情報工学科の皆様に感謝いたします。 けに答えたりする学生がいるのは日本とは違 また、この滞在は山口大学国際的研究連携プ います。修士課程の学生が半期に履修する科 ロジェクトの支援を頂いております。来年の 目数は2つか3つぐらいとのことですので、 1月末に帰国する予定ですが、その頃はちょ 日本の大学に比べるとだいぶ少ないのですが、 うど修論・卒論の時期で、学生も教員も忙し 例えばイリノイ工科大学の場合には、同じ科 そうです…。 - 24
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