ヒトパピローマウイルスと子宮頸がん検診について

平成 25 年 8 月 28 日 放送
ヒトパピローマウイルスと子宮頸がん検診について
筑波大学附属病院水戸地域医療教育センター
茨城県厚生連 総合病院 水戸協同病院
臨床検査部 臨床検査技師 袴塚 純一
司会
ヒトパピローマウイルスはどんなウ
イルスですか?
袴塚
パピローマウイルス科に属する様々なウイルスの中で、人を宿主として感染す
るウイルスをヒトパピローマウイルスと呼んでいます。
ヒトパピローマウイルスは Human papillomavirus を略して HPV と言われて
います。ですので、これからのお話の中ではヒトパピローマウイルスを HPV
としてお話を進めてさせて頂きます。このウイルスの特徴は性交渉によって感
染する事です。ウイルスの感染によって悪性腫瘍の子宮頸癌や、良性の生殖器
にできるイボの「尖形コンジローマ」等を引き起こします。
司会 HPV はどれくらいの種類がありますか?
袴塚
インフルエンザウイルスに色々な型があるように、HPV にも多くの型があって、
約 100 種類以上の型に分類されています。そのうちの 2 種類ぐらいが生殖器に
できる良性のイボの原因となるウイルスで、低リスク型 HPV と呼ばれていま
す。また子宮頸癌から多く検出されているウイルスは 15 種類位あって、これら
は高リスク型 HPV と呼ばれています。この高リスク型の HPV が癌に深く関わ
っています。
司会
どのように子宮頸癌になるのですか?
袴塚 HPV に感染してすぐ子宮頸癌になる訳ではありません。
HPV は成人女性の 50%以上が生涯に一度は感染すると言われています。です
が、多くの方の場合は感染しても自然に治ってしまいます。
自然治癒されなかった場合は感染した部分に軽度に異形を持つ細胞の変化が現
れます。この変化も大部分が自然に治ってしまいます。
治癒されなかった異形を持った細胞に更なる増殖能が加わり、異常な細胞が占
める割合が多くなることで高度な異形を持つ細胞の変化、いわゆる前癌病変と
呼べる状態となります。
この前癌病変の状態が長く続く場合と、さらに進んだ状態として、この前癌病
変に何らかの癌因子が関与することで癌化してしまいす。
このように、HPV に感染後多くは自然に治りますが、治癒されなかった方の一
部の方は、感染からさらに何段階かの段階を経て癌となる事が分かっています。
司会 HPV の感染は予防できるのでしょうか?
袴塚 HPV の感染を防止するための方法には HPV ワクチンの接種があります。ハイ
リスク型 HPV の2種類の型に対応するワクチンと4種類の型に対応するワク
チンがあり、世界的に評価が高く、日本でも予防接種が行われていますが、副
作用が多く見られた事から今年6月に厚生労働省より、今後は積極的な奨励は
行わない旨の勧告が通知されました。これは、
「予防接種は中止しませんが、接
種するにあたっては有効性とリスクをよく理解したうえで受けてください。」と
言う事です。
また、HPV ワクチンはハイリスク型 HPV のすべての型に対応している訳では
ありませんので、ワクチンを接種された方でも 20 歳になったら2年に1回は子
宮頸がん検診を受けるように勧められています。
司会 HPV の感染を調べる方法はありますか?
袴塚
子宮頸がん検診と HPV の DNA を調べるハイブリットキャプチャー法や PCR
法などの検査法があります。どちらも子宮頸部から採取された細胞を材料とし
て検査を行います。
司会
どのような検査法ですか?
袴塚
子宮頸がん検診は、採取された細胞を特殊な染色液で染めて顕微鏡で異常な細
胞を探し出す検査法です。パップテストとか細胞診とか呼ばれています。
DNA を調べる方法は、採取された細胞から HPV の DNA を検出することによ
って HPV に感染した細胞を発見する非常に優れた検査法です。
司会
かかっているかどうか調べるのなら HPV の DNA を調べる検査がよいのです
ね?
袴塚
先にお話ししましたが、HPV に感染しても多くの方が自然に治ってしまいます
ので、HPV の DNA を調べる方法ですと HPV に感染していたとしても、この
先治ってしまう細胞も検出してしまう可能性があります。つまり偽陽性が多く
なるという事です。検査費用も高いので、負担も大きくなると言う問題も出て
きます。
この検査法の効果的な使い方としては、細胞診で見つけた細胞が異常かどうか
判定の難しい細胞に対して、HPV の DNA を調べる検査を行う事で HPV 感染
による異常細胞か、炎症などによる反応性の変化なのかをはっきりさせる手段
として使われています。
司会
先ずは子宮頸がん検診を受けてからの HPV の検査ですね?
袴塚
子宮頸がん検診は癌検診の中でも有効性の高い検診で、1982 年に施行された老
健法という法律にもと基づいて行われています。確かに子宮頸癌で亡くなる方
は著しく少なくなりましたが、欧米と比較すると死亡率は横ばい状態です。こ
れは欧米に比べ受診率が遥かに低いことが原因の一端と言われています。
司会
受診率はどの程度?
袴塚
子宮頸がん検診を受診される方の割合は、欧米では 70%以上、お隣の韓国で5
0%以上の受診率ですが、日本では21%とかなり低い受診率です。
司会
茨城県の受診率は?
袴塚
茨城県の受診率は全国平均より下回っている状況です。下から 17 番目ぐらいで
す。
司会
低い受診率を上げる制度とかはありますか?
袴塚
厚生労働省が、癌で亡くなる方を減らす為に「がん対策推進基本計画」と言う
政策を行っています。その政策の一環の中に低い受診率を上げるための対策と
して、がん検診の無料クーポン券の配布があります。このクーポン券は市町村
単位で配布されていて、特定の年齢の方が無料でがん検診が受けられる制度で
す。この中に子宮頸がん検診も含まれています。せっかくの制度ですので無料
クーポン券の配布を受けた方はぜひ受診して頂けますようお願いいたします。
司会
癌にならないため先ずは検診ですね?
袴塚
子宮頸がん検診の場合、他のがん検診と大きく違う所は、がんになる手前の段
階、つまりがんになる2、3段階前の状態から発見することが出来ることです。
たとえ癌の状態で発見されても早期であれば、より小さな治療で済んでしまい
ますので、早期に発見するために子宮頸がん検診を積極的に受診して頂けます
ようお願いいたします。