精 神 医 学 - 大阪大学大学院医学系研究科・医学部

1.授業科目名
精 神 医 学
2.担当教員・教室
(1)学内教員
武 田 雅 俊:精神医学講座
杉 田 義 郎:精神医学講座(健康体育部)
井 上 洋 一:精神医学講座(健康体育部)
工 藤 喬:精神医学講座
田 中 稔 久:精神医学講座
池 尻 義 隆:精神医学講座
福 永 知 子:精神医学講座
鵜 飼 聡:精神医学講座
紙 野 晃 人:精神医学講座
大河内 正 康:精神医学講座
廣 常 秀 人:精神医学講座
数 井 裕 光:精神医学講座
岩 瀬 真 生:精神医学講座
田 上 真 次:精神医学講座
石 井 良 平:精神医学講座
(2)非常勤講師
奥 田 純一郎:国立療養所松籟荘(臨床教授)
豊 永 公 司:大阪市立総合医療センター精神神経科(臨床助教授)
田 中 則 夫:松拍会榎坂病院(臨床教授)
夏 目 誠:大阪樟蔭女子大学人間科学部
篠 崎 和 弘:和歌山県立医科大学神経精神医学
山 本 晃:大阪教育大学障害児教育学科
中 尾 和 久:甲南女子大学人間科学部心理学科
立 花 光 雄:大阪府立精神医療センター
上 間 武:大阪府立急性期・総合医療センター精神科
柏 木 雄次郎:関西労災病院心療内科精神科
水 田 一 郎:神戸女学院大学人間科学部
高 橋 幸 彦:清風会茨木病院
関 山 守 洋:松拍会榎坂病院
その他
(3)カリキュラム担当教員
数 井 裕 光:助手 精神医学講座
大河内 正 康:助手 精神医学講座
−216−
3.学習目標
精神医学では人間の存在を、生物学的、心理学的、社会的、倫理的の各次元の階層的構造(Biopsycho-socio-ethical Model)として捉えている。また、生物学的次元では神経心理学、神経病理学、
神経化学、神経精神薬理学、精神遺伝学など、心理学的次元では精神病理学、力動精神医学、家族
精神医学など、社会的次元では社会精神医学、地域精神医学、産業精神医学、学校精神保健、司法
精神医学などに細分化されている。実際の精神障害では身体因、心理因、社会因などが複雑に絡み
合っており、「病む人間」として人格を尊重しつつ治療を進め、社会適応、社会復帰を目指すこと
になる。以上のことをふまえ、精神医学での授業および臨床実習では、精神疾患の成因および主要
な障害の理解を進め、さらに患者を通じて心の病いに対する理解を深めていただく。一方、精神疾
患患者に対する社会の対応を学び、患者の観点から問題点を検討していただく。
4.講義の概要、形式
4年生を対象に講義をおこない、5、6年生を対象に実習をおこなう。
(1)講義
講義は、精神医学の主要な柱である生物学的精神医学と心理学的精神医学を中心として、「精
神医学総論」、「代表的精神障害」、「年齢別精神医学」、「診断と治療」、「社会精神医学」、そして
近年の話題を取り上げる「脳と心の科学」をテーマとした。実地臨床に必要な他の精神疾患各論
の講義は、講義時間の都合により臨床実習の際に補完する。
(2)実習
プレラウンド時の外来実習では外来症例の診察見学、および日常診療に即した精神療法、薬物
治療の実際を学ぶ。また、初診患者の問診を体験する。病棟実習では臨床に即したミニレクチャ
ーを受ける。また絵画療法、音楽療法などにも参加する。さらに症例検討会、回診などに参加す
る。クリニカルクラークシップでは、プレラウンド時の実習をより深めるとともに入院患者を担
当し、さらに数多くの症例を見学するため学外実習をおこなう。
5.講義日程
1
年
月
日
曜日
平成17年
8
31
水
2
時限
講 義 題 目
担当教員
教室名
1
精神医学の成り立ちと重要性
武田 雅俊
精神医学
2
精神科診察
井上 洋一
精神医学
3
9
1
木
3
精神障害の原因と分類
鵜飼 聡
精神医学
4
9
7
水
1
精神症候学
池尻 義隆
精神医学
2
統合失調症
大河内 正康
精神医学
6
9
8
木
3
気分障害
上間 武
精神医学
7
9
15
水
3
心理テスト
福永 知子
精神医学
8
9
22
水
3
心身症
岩瀬 真生
精神医学
9
9
29
木
3
症状精神病
柏木 雄次郎
精神医学
10
10
6
木
3
睡眠/リズム障害
杉田 義郎
精神医学
11
10
13
木
3
精神発達の心理学と児童乳児精神医学
豊永 公司
精神医学
12
10
20
木
3
思春期青年期精神医学
廣常 秀人
精神医学
13
10
27
木
3
老年精神医学
田中 稔久
精神医学
14
11
10
木
3
神経症
中尾 和久
精神医学
15
11
17
木
3
薬物療法
田上 真次
精神医学
16
11
24
木
3
精神療法
水田 一郎
精神医学
17
12
1
木
3
精神科救急医療
奥田 純一郎
精神医学
5
−217−
18
12
8
木
3
産業精神医学と地域精神保健
19
12
15
木
3
精神保健と関連法律(司法精神医学) 立花 光雄
精神医学
20
12
22
木
3
脳と心の科学-生化学
精神医学
21
平成17年
平成18年
夏目 誠
工藤 喬
精神医学
1
12
木
3
脳と心の科学-生理学
篠崎 和弘
精神医学
22
1
19
木
3
脳と心の科学-神経心理学
数井 裕光
精神医学
23
1
26
木
3
脳と心の科学-精神病理学
山本 晃
精神医学
6.講義内容
(1)精神医学総論:精神医学の成り立ちと重要性
精神医学は人間の精神的側面を対象とする医学の一分野であるが、人間の精神面を扱う唯一の
分野であり、しかもその関与する領域は極めて広範囲である。講義では精神医学の成り立ち、変
遷、特徴、そして精神医学の一般臨床における重要性について解説する。
(2)精神医学総論:精神科診察
精神科診察は一般臨床における医療面接以上に、精神障害をもつ患者に対する配慮が要求され、
良好な信頼関係の上で精神療法が効果的に機能する。また、治療に際してはインフォームドコン
セントも要求される。一般診察および精神科診察の注意点について解説する。
(3)精神医学総論:精神障害の原因と分類
精神障害の成因は身体因と心因とに大別され、心因はさらに内因と外因とに分類される。精神
障害の発症過程にはこれらの成因が階層的に関与している。一方、精神障害の分類はその病像に
基づいており、治療への指針となる。精神障害の原因と分類について解説する。
(4)精神医学総論:精神症候学
精神障害における症状は、意識、知能、記憶、知覚、思考、感情、意欲に大別される。一方、
巣症状は脳の局所的障害に起因するが、精神症状と脳局所障害との関係は近年の研究課題とされ
てきた。一般臨床に必要な精神症状の知識、および精神科用語を解説する。
(5)代表的精神障害:統合失調症
精神分裂病の呼称は2002年より統合失調症に変更されている。統合失調症は幻覚、妄想、思考
の変調を主体とし、その成因は未だ解明されていない。一方、類縁疾患として妄想性障害が分類
されている。統合失調症の症状および成因、妄想性障害などの類縁疾患について解説する。
(6)代表的精神障害:気分障害
躁鬱病/うつ病は、感情障害あるいは気分障害として一括される。感情障害は心因性のものか
ら器質性と考えられるものまで多岐にわたる。気分障害は一般臨床においても決して稀ではなく、
また治療の進歩も著しい。気分障害の成因、分類、診断について解説する。
(7)診断と治療:心理テスト
精神医学では、精神遅滞、認知機能評価から、神経症、気分障害の把握など広く心理テストが
使用される。統合失調症、痴呆など精神障害の経時的評価では心理テストが不可欠である。代表
的な心理テストの種類と方法、およびその意義について解説する。
(8)代表的精神障害:心身症
心身症という概念は、心身相関の立場による身体疾患の分類を基盤とし、独立した疾患単位で
はない。消化性潰瘍、蕁麻疹などが代表であるが、その成因には精神機能、自律神経機能が関与
する。心身症の概念を理解し、その対応や治療に反影させる必要がある。
(9)代表的精神障害:症状精神病
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症状精神病とは、身体疾患にともなって生じる精神障害であり、器質性精神疾患である。代表
としては、感染症、内分泌疾患、自己免疫疾患、代謝性疾患などが知られ、身体疾患の治療の際
にも精神症状の対応が必要である。症状精神病の治療は原疾患の治療が優先されるが、その対応
は個々の症例によって柔軟な対処が必要である。
(10)代表的精神障害:睡眠/リズム障害
睡眠は生命の維持にとって重要な基本的機能のひとつであり、また、睡眠障害は統合失調症、
気分障害にも合併する。睡眠、概日リズムなどの生理学的知識を解説するとともに、睡眠障害の
原因、分類、その対応の仕方について、最近の進歩も交えて解説する。
(11)年齢別精神医学:精神発達の心理学と児童乳児精神医学
精神機能の発達は遺伝的要因のみならず、環境的要因も極めて重要な役割を果たす。人間の精
神機能の発達過程を理解するとともに、精神遅滞や自閉症、多動性障害(ADHD)を始めとする
児童乳児期の精神障害を解説し、その対応について解説する。
(12)年齢別精神医学:思春期青年期精神医学
思春期青年期に精神機能は著しく発達する一方、精神障害が顕在化する時期でもある。一方、
不登校は社会問題であるが、生物学的には様々な意義があることが指摘され始めている。講義で
は思春期青年期の精神発達、この時期にみられる精神障害について解説する。
(13)年齢別精神医学:老年精神医学
老年期は、身体的にも社会的にも大きな転換期である。痴呆を始めとする脳の器質的な障害の
増加がみられる一方、うつ病などの発症も少なくない。老年期にみられる精神疾患を解説し、そ
の成因、分類、診断について解説する。
(14)代表的精神障害:神経症
神経症は心因によって精神的あるいは身体的症状がひき起こされた状態であるが、器質的身体
症状は認めないものである。パニック障害、強迫性障害、外傷後ストレス障害(PTSD)などが
代表である。神経症の成因、分類などを解説する。
(15)診断と治療:薬物療法
精神障害の治療は、薬物が著効を示す場合もあるが、薬物を使用すべきでない精神障害もある。
統合失調症への非定型抗精神病薬、パニック障害/うつ病へのSSRIの導入など、薬物療法の変化
も近年著しい。精神障害の薬物療法の基本的事項を解説する。
(16)診断と治療:精神療法
精神療法は、支持、表現、洞察、訓練、行動、催眠などの治療法に大別される。精神療法には
森田療法、内観療法など、東洋的治療もある。近年では、統合失調症患者への作業療法も積極的
である。講義では精神療法の目的と方法などを解説する。
(17)診断と治療:精神科救急医療
精神科領域では、精神障害の興奮状態のみならず、自殺に対する精神的治療、薬物による障害
への対応などに際して、救急医療に関する基本的知識が要求される。講義では、診断へ到るため
の基本的注意点、薬物療法の原則、他科との対応などについて解説する。
(18)社会精神医学:産業精神医学と地域精神保健
自殺者数の増加にともない、メンタルヘルスに代表される産業精神医学が重要性を高めている。
また、精神障害患者の社会復帰に向けて、地域精神保健の充実が図られている。精神障害の予防、
連携、リハビリなど、社会的対応について解説する。
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(19)社会精神医学:精神保健と関連法律(司法精神医学)
精神障害では、患者の保護が必要な場合が少なくない。精神障害患者への対応は個人の人権を
尊重した上で、法律に基づいておこなわれねばならない。講義では精神保健と関連法律を取り上
げ、医師として知っておくべき精神科関連法律を解説する。
(20)脳と心の科学:生化学
精神障害の主体は脳機能にある。分子生物学、生化学は細胞レベル、組織レベルでの障害機構
の解明を目指している。生化学的知見は治療薬開発への礎となる一方、薬理学的知見は生化学の
発展に寄与している。講義では生化学的話題を提供し、精神医学の理解を深めていただく。
(21)脳と心の科学:生理学
脳波検査、脳の画像診断は機能的障害か器質的障害かを検討するのみならず、治療、予後判定
に重要である。講義では生理学的検査、さらに脳磁図を始めとする生理学的研究の進歩を紹介し、
精神医学の理解を深めていただく。
(22)脳と心の科学:神経心理学
神経心理学は、大脳皮質およびその他の脳機能と、高次精神機能との関係を研究する領域であ
る。画像診断の進歩により、認知機能、精神機能のマッピングが大きく進歩している。講義では
画像診断に基づいた認知機能、精神障害などを解説し、高次脳機能に対する理解を深めていただ
く。
(23)脳と心の科学:精神病理学
精神病理学は心的現象について一般的概念や法則を見出すことを主眼とする。摂食障害の他、
人格障害など思春期青年期精神障害の対応は社会的にも重要視されている。講義では精神病理学
的な側面に焦点を当てて、精神障害を解説する。
7.参考書
臨床精神医学、西村 健、志水 彰、武田雅俊 編、南山堂、1996.
新精神医学入門、志水 彰、井上 健 編、南山堂、1989.
カプラン臨床精神医学ハンドブック:DSM-IV診断基準による診療の手引、ハロルド・I・カプラ
ン、ベンジャミン・J・サドック著、融 道男、岩脇淳監訳、メディカル・サイエンス・インタ
ーナショナル、1997.
8.成績評価
(1)講義について
毎回、小テストを行い出席点とする。小テストの結果も評価に加える。
(2)実習について
出席とレポートで評価をおこなう。
(3)試験について
6年の卒業試験期間に筆記試験および口頭試問をおこなう。成績は、講義出席点、講義小テス
ト点、ポリクリ出席点、レポート点も加えて総合的に評価する。ちなみにレポートは重要である
ので、ポリクリ終了後遅滞なく提出するよう注意すること。
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