第8回「ハンガリー旅の思い出」2011年コンテスト作品 後藤 等さんの作品 旅の思い出 「ワインの街エゲルへ」 退職記念に、昨年11月末ハンガリーへ出かけました。英会話もできない私の一人旅です。 ガイドブックを片手にブダペストに4日間滞在。その後日帰りでエゲルへ出かけました。 ペットボトルを準備し、東駅から列車に乗り9時24分にエゲル駅に到着。 駅前散策後、徒歩でワインセラーのある「美女の谷」をめざしました。 多くのワインセラーがありましたが、人影も少なく開いているところは5軒程でした。 開いているセラーに入り声をかけましたが、出ていくように指示され入ることはできませんでした。 仕方なく次を探していると、二人連れがセラーに入っていくところを見かけ、駆け寄りその後に続き入り ました。中はうす暗く年代物の椅子とテーブルが4セットあり、その一つに座り先に入った二人の行動を 観察しました。 なじみ客のようで、大きな空き瓶を老人に手渡していました。しばらくすると老人がワインを入れた瓶を 持ち地下から上がってきました。二人はそれを受け取り出て行きました。 老人と目が会い、ワインを飲む動作をしました。すると赤と白のワインが入ったグラスがテーブルに運 ばれてきました。笑顔でサンキューと言いワインをゆっくり味わいました。 白ワインの香りがよく、癖のない味だったので白ワインの購入を決め、ペットボトルを出しました。 老人は地下へ降りて行きワインを入れて来てくれました。300フォリントでした。 少しだけ酔った気分になり外へ出ると、冷たい外気が心地よく、幸せな気分になりました。 老人と握手をし別れましたが、いつまでも手を振ってくれました。 「美女の谷」から帰ってくる途中に5軒のワインセラーが並んでいましたが、観光客を入れるようなセ ラーではなく、寂しそうに扉を閉じていました。 写真を撮っているとその一つの扉が開き、中からがっしりとした四角い顔の主人(老人)が、医師の持 つ往診かばんに似た物を持ち出てきました。取りつきにくそうな人でしたが、鍵をかけようとしている傍ら に行き、身振り手振りで中へ入れてくれるように頼みました。 怪訝な顔で見つめられたため再度お願いし頭を下げました。 不機嫌そうな顔をしながらも開けてくれましたので、何回も頭を下げサンキューと言ったのを思い出し ます。セラーの中はこぶりで、ワインの樽が6つあり、にはリンゴがたくさん並んでいました。椅子もなく 低いテーブルが一つだけの質素なセラーでした。 写真を撮っていると、主人が樽からストローのようなガラス管でワインを取り出し、カップに入れてくれ ました。飲むように勧められ一口飲みました。 これがまた大変美味しい白ワインですぐに空けてしまいました。すると又入れてくれ、3杯いただきまし た。 主人の顔はいつの間にか笑顔に変わっていたため、こちらも笑顔を返しました。 その後はセラー内の写真や二人の写真を撮りましたが、写真の顔は二人とも強張っていました。 帰るとき少しお金を渡そうとしましたが受け取らず、握手を求め肩をたたいてくれました。 ありがとうと何回も言い別れました。主人は自転車を押しながら緩い坂道を上り帰って行きました。 どこの国から来た人かも知らず、親切にしていただいた主人に感謝しています。 名前を聞くことはできませんでしたが、もう一度あのワインセラーの前へ行き、主人に会えるのを待 ち、ワインをいただきたい気持ちでいっぱいです。必ずもう一度行きます。 夕暮れ時に、クリスマスマーケットにも足を運びました。 そこでもワインをいただき、幸せな気分でエゲル駅の列車に乗りました。 ハンガリーの人々の温かさを感じたエゲルの旅。 今でも、景色や出会った人々の顔を思い出します。もちろんワインも。 作品一覧へ戻る 2012年1月
© Copyright 2024 Paperzz