理科論文 ビンの中の命が再び? ―原生生物のシスト化についてー 福岡市立 姪浜中学3年 古舘 麻美子 理科論文 題 ビンの中の命が再び? ―原生生物のシスト化についてー 構想 第一次観察 第二次観察 研究・考察 まとめ 2004年5月 2004年5月~10月 2006年4月20日~ 2006年8月10日~ 2006年8月20日~ 研究者 福岡市立姪浜中学3年3組7番 古舘 麻美子 2 目次 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 CONTENTS 本研究の動機及びこれまでの研究の総括 研究目的 研究方法 予想 研究の問題点 観察結果 考察 結論 感想・謝辞 P4~ 参考文献 P45~ P7 P8~ P10~ P13~ P16~ P28~ P39~ P42~ シスト 原生動物は乾燥した場所では多くの種類がシスト(嚢子)と呼ば れるカラをかぶっている。温度や栄養状態などの生活環境が悪化 するとそれに耐えるためのカラのようなものを作り、風などに乗 って移動し、環境が生活に適している場所に落ちると再び元の形 に戻る。 3 1 本研究の動機及びこれまでの研究の総括 A.研究動機 2年前の春、私は 「ビンの中に命を作る」というテーマで研究(今後 は研究1と呼ぶ)を始めた。研究は、殺菌したビンの中に原生生物 (その当時は微生物と呼んでいた)が発生するのか、それらはどこ からやってくるのか、また、小さなビンの中でおきる遷移という現象 を考え、原生生物の相互間における社会性(生物の食物連鎖や相 研究1より使用しているビン 互作用を社会性と呼んだ)について考察した。 研究を続ける中、絶えず疑問だったのが、ビンの中に次々と生まれ てくる原生生物の発生原因についてだった。宮城教育大学の先生方のアドバイスで、私はシスト という原生生物特有のいわば生命維持システムのような生態を知ることになった。私は、ますます 小さな小さな生物に興味を惹かれたのだった。 そこで私は、ビンの中に発生した生物を一旦、悪条件下におき、シ スト化(実際にシストになったかどうかは考察の余地がある)させ、1 年半の月日をおき、その後、水生原生生物の好条件にビンを戻し、 再びビンの中に生物が発生するのか(脱シスト)、実験観察してみよ うと考えた。 2年の間まず私が始めたことは、ビンの中を乾燥させシスト化を促す 乾燥したビンの内容物 ことと同時に、文献やインターネットなどで原生生物の生態をより深く 知ることだった。ところが、シストについて書いてある文献がほとんどないだけでなく、専門の先生 を見つけることもできなかった。幸いなことに、夏休みに入り、私に書籍などをアドバイスしてくださ る先生方がおいでになった。本当に嬉しかった。先生方のアドバイスを参考にしながら私はできる だけひとりでやってみよう、考えてみようと思い、研究にとりかかった。実験法・観察法に様々な不 備があるばかりか、うまく結論にたどり着けるかどうか不安の中、私は中学最後の自由研究を楽 しむことにした。 ここで、研究1の概論を紹介する。 ※この部分については、科学の広場の“みんなの研究発表会”の最初の発表 1. ビンの中に命を作る (04/12/10) http://www.kagakukouen.com/files/ken/1/study1.pdf を見てください。以下にその「まとめ」だけを載せます。(編集部) 4 <研究1のまとめ> ビンの中で起きたことを下図のようにまとめてみた。 死骸 排泄物 分解物 小型 大型 べん毛虫 繊毛虫 繊毛虫 肉質虫 細菌 不完全菌 米 NH3 CO2 日光 ビンの中 藻類 O2 シスト ビンの外 シスト 生物は互いに関わりを持ちながら、共存している。 実験観察、考察を通して私はビンの中には確かに命がやってきて、あるルール・社会を作ってい ることを実感した。シストの形はまったくの想像だ。この絵に描いた以外にも生物が発生するい ろいろな条件があるが、それは絵にしていない。また、系統的な分類の問題も解決していない のが残念だ。 5 生物は、環境が悪化するとシストとなり再生する機会を待っている。ビンの外からもシストとな った生物がやってくる。生物はシストという仕組みを自ら作り出すことによって上手に適応し 生活の場所を広げたのだ。この小さなビンの中でたくさんの種類、たくさんの数の命が生まれ ては消えていった。今後、このシストについての見識を深めていきたい。 これらの生物は、どんなに小さくても生きていることに変わりがない。微生物は私たち人間の 敵になったり、味方になったりするが、その性質をよく知ることでうまく共生できると思う。 研究1をもとに、本研究に取り組んだ。 6 2 研究目的<本研究> 原生生物の画期的な生態システムであるシストを研究するため、研究 1で原生生物の現れた6つのビンを用いて、シスト化・脱シスト化がお こるかどうか確認する。シスト化については顕微鏡の精度や確認する ことに限界があるため、脱シストの状況で判断する。 A.原生動物のシスト化・脱シスト化を探る B.原生動物の生態について考える 以上2点を研究目的とし、乾燥させたビンの内容物に水を加え、原生生物の発生を確認・考察す る。また、実験過程においてシストには主に2種類あることに着目したため、新たにシスト化させた ものを時間的な経過による脱シスト化の違いを観察・考察する。 7 3 研究方法 A.乾燥後一年半経過のビンの中を観察する 研究1では、ビンの条件を日光・水質・蓋・食物などの外的条件による発生の違いを観察した。蓋 という条件のほかは、遷移後、同じような原生生物が確認できた。今回の研究ではビンに発生し た生物の一時休眠からの再生をみるものであるから、ビンの置き場所等の条件の違いをなくし、 一定条件下で観察する。ただし、蓋をつけて観察をしたビン1については、発生した原生動物の種 類や順序が他と著しく異なっているので、そのまま蓋をつけて観察することにする。 ① 原生生物の発生を確認したすべてのビンを同条件で乾燥さ せる ビン1については蓋をつけたまま保存する 乾燥はプラスティックの箱にビンを入れ、下に吸湿シートを敷き、乾 燥を促進させる 水を入れたビンと保管箱 ② 乾燥後、同条件の下で6つのビンを保管する それ以上の異物の混入をなるべく防ぐため、乾燥後は箱に蓋をして 室内にて保管する ③ ビンに水を入れる 水は置き水(浄水した水道水を2日間おいたもの)を使用 ④ 観察する 観察は主に顕微鏡を用い、写真撮影・スケッチなどをして記録に残す 数ヶ月観察する 観察方法については、以前の研究を比較したいため、基本的に同じようなプレパラート作成・ 定量(3段階)・種の特定をする ⑤ 考察する 本研究の問題点や今後の課題を把握しながら、研究1の結果と本研究の結果を比較し、それ ぞれのビンに起こったことを考察する。 結果をもとに原生生物のシスト化・脱シスト化について考察をまとめる B.原生生物を再度シスト化し、脱シスト化を経過時間ごとに観察する Aの観察中、プレパラートにしたサンプルが乾燥しそうになったため、あわてて水を加えた。すると 動きを止めていた原生生物が再び活発に動くのを見た。そこで追加実験としてプレパラート上の 少量のサンプルを乾燥させ、シスト化を促し、短い経過時間について原生生物がどのように再生 するか観察することにした。 8 ① サンプルを用意する サンプルはたくさんの繊毛虫が確認できたビン2を使用する 数枚のスライドガラスにほぼ同量のコロニーを取り、そこに原生生 物がいるかどうか確認する ② 乾燥させる 顕微鏡で確認しながら乾燥させる 白く濁ったビンの様子 ③ 水を注ぐ スライドガラス上のすべての原生生物の動きが止まってから、直 後(0分)・5分・15分・30分・3時間・5時間と時間をおき、水を加える 水はビン2の上澄みを使用する(ビンの生物が混じらないよう注意する・他の水だと水質が変 わり発生しないため) ④ 観察する 観察は生物が顕微鏡の熱や光に影響を受けないよう、速やかに行う ⑤ 考察する 観察結果より、シストが時間経過と共に脱シスト化する様子や原生生物の生態について考察 する 9 4 予想 研究1は実験観察を始めてから約3ヵ月後、ビンの乾燥を始めた。このとき、6つのビンで確認 された生物を整理したい。 水 栄養 ふた 場所 ビンに残った生物 シストになるか? 1 置き水 あり あり 日なた 菌類・繊毛虫・珪藻 × 2 置き水 あり なし 日なた 菌類・繊毛虫・珪藻・緑藻 ○ 3 置き水 なし なし 日なた 珪藻・藍藻・繊毛虫 ○ 4 水道水 あり なし 日なた 菌類・珪藻・繊毛虫 ○ 5 置き水 あり なし 日かげ 菌類・繊毛虫 ○ 6 置き水 あり なし 浴室 菌類・繊毛虫 ○ 種の特定についてだが、研究1でも述べたとおり、原生生物の種の決定はとても難しい。顕微 鏡など使用する道具の精度はもちろん、見た目で判断することには限界がある。また、ある程 度の大きさを持つ鞭毛虫・繊毛虫・肉質虫などでさえも、おおまかな類程度の区別はつくが、学 名の特定は困難だ。原生生物について学習をすすめるうち、変異体なども存在することがわか った。 ここで、水産総合研究センター 中央水産研究所 豊川 雅哉先生のご意見を紹介したい。 先生は、私の研究をご覧になり、いろいろご意見ご感想をメールにて教えてくださった。 細菌類は 1 ミクロン前後ですので,200 倍の倍率で見ても 0.2 mm 前後です。私たち は細菌を数える場合,染色や蛍光顕微鏡を使います。そういうことから考えて, 細菌が見えた,との同定にはやや疑問があります。ただ,何らかの菌類であるの は間違いなさそうですね。(先生のお言葉どおり) 研究1で原生生物に加えることはできないが、不完全菌(主にカビ類)とも思えないちいさなも 10 のを細菌と片付けてしまった。先生のご指摘どおりで、後でおおいに反省した。本研究では、大 まかでも、ある程度の分類が可能な生物に限定して研究をすすめたい。特に、不完全菌・細菌 については、その生態が原生生物と多少異なっているので、ビンの中の環境や相互関係につ いてのみ触れていきたい。そこで、観察結果については、はっき り菌糸が認められ不完全菌と断定できるものは、そのまま表示 するが、グラフで考察する場合は大まかに菌類としてまとめて 表示する。 また、原生生物もはっきり名前がわかるもの、例えば、ゾウリム シ・ツリガネムシ・スティロニキアなどは表示するが、スクリーン ビン3に発生した繊毛虫・小 でみると大きさや動きは同じでも倍率を上げて観察すると異な る種だとわかる場合がある。そこで、べん毛虫や繊毛虫につい ても種類が異なっても大まかに大きさで表示する。植物性とも 動物性とも判断のつかない生物に関しては、曖昧だが、その他 として表示する。 左の写真はビンに現れた小型繊毛虫と表示しているが、大きさ は確かに同じくらいだが、動き方や形が異なる。明らかに異種 ビン6に発生した繊毛虫・小 の原生生物である。しかし、学名などが解からない上、それらを 一つ一つ表示できないので、繊毛虫・小とまとめている。 ビンに最終的に現れた生物は遷移後であったと考えられ、そのままビンの環境を悪条件下、つ まり乾燥状態にすると、生物はシスト化すると思う。どのビンにも観察最後まで確認された繊毛 虫はシストになると思う。ふたがあるビン1のみ、乾燥状態にはならないので、シスト化は起こら ない。研究1で感じたことだが、からだが大きいものほどプレパラートにしたときに速く死んでし まう傾向があるようで、比較的大きな繊毛虫などはシストになりにくいと考える。 また、藻類についてだが、一旦現れるといなくならないと感じた。藻類は自分でエネルギーを生 み出すことが可能なので、悪条件下でも耐性があると思う。藻類がシストになるかどうかわから ないが、なんらかの形で復活してくれるように思う。文献では、シストという言葉は動物性の原 生生物について頻繁に使用されているので、藻類については、検討しなくてはならない。 さらに、脱シスト化については、一度シストになったものは、再び条件が整えば、再生してくれる と思う。その条件とは水であるが、細かく言えば、水質で塩素など有害物質のない点・水温・ph などが考えられる。また、本研究では栄養を入れないので生物相互の捕食関係も重要な条件 になると思う。 また、本研究には一年半の保存期間を置いたものでも再生するのか?という時間的な関心が あったのだが、それとは対照的にシスト(単なる休眠かも)になった時間が短い場合、再生にど 11 のような違いがあるか考えたくなった。体の大きなもの・複雑なものより小さなもの、つまり単細 胞生物は生命力があり、ちょっとした悪条件では動いてなくても死んでなく、水を足すとまた動 きだす。以上の点から、乾燥状態が短ければ短いほど、再生する確率が高いと思われる。 予想の論点 A.ビンに存在した小型・中型の繊毛虫はシスト化し、脱シストして再生する B.その他の生物、藻類についてもシストとは別の経緯を経て再生する C.大型の生物は再生しない D.シストの期間が短いほど再生にかかる時間も短く、また再生する個体数も多い 以上の点を予想として、観察をし、その結果を考察する。 12 5 本研究の問題点 本研究には、研究1に加えていろいろな問題点がある。 ① 種の特定が困難 前にも述べたが、本研究では、大まかでも種の分類ができる原生生物について考察する。他 の生物については、ビンの中の環境として生物相互の関係として考察する。 ② 生物の定量が主観的で曖昧 プレパラートの作り方や定量の方法は基本的に研究1と同様にする。この点については問題 がある。 ③ 使用する顕微鏡等の機器の精度が好ましくない ④ 乾燥する際、さらに生物間の遷移がおこる可能性がある 乾燥を始めるときがこれ以上生物間遷移が起こらないとは限らず、その判断はたくさんのサン プルが必要だと思われる。しかし、研究1での観察開始から2ヶ月くらいたつとビンの中の変化 が乏しくなることから、ある程度の遷移は行われたと判断できる。不安ではあるが、研究を続け たい。 ⑤ 生物が本当にシストになったか・それらが脱シストしたかを確認しにくい シストは生物が乾燥した状態もしくはそれに近い状態と考えられる。しかし、実際に見たことも なく、ましてシストを形成する過程などは確認できない。観察を続けて考察するしかない。 ⑥ 外的条件を一定に保つことが困難 ビン1を除いて他のビンを同一条件にしているが、室内に保管しても温度・湿度などを一定に 保てず、それによりビンの中の環境が変化して観察に影響が出ることが予想される。 ⑦ 水道水の使用についての問題 ここで、日本プランクトン学会 奥修先生からのアドバイスを紹介したい。 水道水は,塩素滅菌されていても,いろいろな生物が生きたまま蛇口に届きます。 特に,急速濾過法と呼ばれる浄水法を採用している現代では(福岡市水道局もそうです)、 多くの微生物が濾過をくぐり抜けて(漏れて)きます。塩素に強い細菌類やそのシスト、 原虫類のシストなども入っていることがあります。これらは感染症の原因になることから、 水道工学において研究がなされています。(先生のお言葉どおり) 水は研究1でも使用した置き水(浄水した水で2日間そのまま放置したもの)を使用した。研究1 から、原生生物はビンの口から、つまり外から入ってくると結論づけたが、その置き水自体・水 道水自体に原因があることを全く想定していなかった。水道水は塩素で消毒しているので、生 きている生物がいるとは考えられなかった。奥先生の指摘に私は愕然としてしまった。原生生 物はどこにでも存在し、あらゆるところから侵入してくるということである。 13 そこで、私は福岡市の水質について調べてみた。 データは福岡市水道局のホームページに記載しているもので給水栓の水質検査結果(平成 18 年 7 月)である。 福岡市水道局浄水部水質試験所の発表データ(一部抜粋) No. 項目 単位 基準 月日 塩素 1 mg/L 水温 ℃ 一 般 個 細菌 東区 名島 高美台 博多区 中央区 早良区 大井 小笹 次郎丸 南区 城南区 西区 柏原 片江 飯氏 7月4 7月3 7月4 7月3 7月4 7月4 7月4 7月3 採水 残留 東区 /mL 0.1 以 上 100 以 下 日 日 日 日 日 日 日 日 0.68 0.67 0.48 0.56 0.67 0.60 0.68 0.55 24.0 23.6 23.8 22.5 22.2 22.3 24.2 23.5 1 未満 1 未満 1 未満 1 未満 1 未満 1 未満 1 未満 1 未満 水質検査結果には50以上の項目があったが、ここで私が着目したのは、№1の一般細菌の 1ml中1個未満というデータだった。 そこで私は、福岡市水道局に残留生物の可能性について聞いてみる事にした。 質問に答えてくださったのは、福岡市水道局浄水部水質試験所の担当の方だ。 処理の方法は急速濾過方式というもので、ポリ塩化アルミニウムという凝集剤を 用いて、凝集沈殿、濾過処理を行い、それを塩素消毒するものです。 古舘さんが調べている「シスト」は、水道の原水の中には多種含まれていると 考えられますが、浄水場で急速濾過処理+塩素消毒を行うことでほとんどが除去 または不活性化できると考えられています。 しかし、原生動物の「クリプトスポリジウム」のオーシスト(配偶体が合体してシストを 形成したもの、5ミクロン程度)については、その細胞膜の塩素耐性が著しく強く、 塩素消毒では不活性化できないので注意が必要です。 プランクトン学会の先生がおっしゃった「急速濾過法による水道水は生物・細菌の 混入がみられる」という指摘はクリプトスポリジウムのことではないかと思います。 アメリカでは、クリプトスポリジウムによる集団感染事故がたびたび起こっており、 1度に40万人の患者が出たこともあります。日本でも、10年位前に9千人近い 患者が出たことがあります。福岡市では、浄水場にはいる川やダムの水(取水)と 浄水処理してできた配る水(配水)のクリプトスポリジウムの検査を定期的に行っており 14 また万一取水にクリプトスポリジウムが流入してきても、確実に除去できるような 適切な運転管理をしていますので心配はいりません。クリプトスポリジウムのほかに、 ジアルジアのシストの検査もしています。(お言葉どおり) 奥先生のご指摘どおり、水道水には原生動物のシスト(オーシスト)が混入する可能性はある が、上記報告文のとおり、使用した水道水からの原生生物の直接の混入・再生はないようだ。 細菌に関しては水道水より、使用する用具からの進入があると思われるが、細菌については、 生物間の関わりについて(捕食関係)のみ考察したいので、ここでは特に問題としない。 ただ、奥先生のご指摘は、研究1で命はどこからでもやってくる!と研究1で結論づけたにも関 わらず、ビンの中の脱シスト化のみに焦点をあててしまったことについて考えさせられた。いろ いろな可能性を考えながら研究をしたい。 以上の問題点を絶えず考えながら研究を続けたい。 15 6 観察結果 A.それぞれのビンについての観察結果 ① ビン1(ふたあり) 最後に確認された生物―菌類・繊毛虫・珪藻 始めて何 認められた微生物の 月日 ビン1の様子:顕微鏡観察他 絵・写真他 日目 量 4/20 水入れ 19℃ 水温16℃ もやっとした茶褐色の物 珪藻類+++ PH7.2 4/25 5 変化無し 珪藻 5/2 12 茶褐色だったのが少し緑色になった 珪藻+++ 緑藻++ 5/5 15 上澄みの水はとてもきれい、小さい繊毛虫 珪藻+++ 緑藻+ 繊毛虫・小+ 5/12 6/12 22 53 上澄みの水はとてもきれい。 珪藻+++ えさがないので繊毛虫が見られない 緑藻+ 多少内容物が緑っぽい 珪藻+++ 緑藻++ 7/15 86 緑と茶色のソウ数があいかわらず 珪藻+++ 緑藻+++ 7/29 100 緑と茶色のソウ数があいかわらず 珪藻+++ 緑藻+++ 8/5 107 動くものなし、菌類も発生せず 珪藻+++ 緑藻+++ 16 緑藻 8/18 120 緑や茶色の藻類がたくさん 珪藻+++ 緑藻+++ Continued ② ビン2 最後に確認された生物―菌類・繊毛虫・珪藻・緑藻 始めて何 認められた微生物の 月日 ビン2の様子:顕微鏡観察他 絵・写真他 日目 量 ビンの底と側面に白い固形物、ゴミ 4/25 5 変化なし 5/2 12 ビンの底の固形物から菌糸のようなもの? 少し白くにごる水 5/5 15 水はにごる。繊毛虫・小、らせん状に動く 繊毛虫・小++ 固形物はもやっとしている 珪藻++ 無数の丸いつぶつぶ半透明 半透明のつぶ 5/7 5/10 6/12 17 20 53 繊毛虫は数が減る 繊毛虫・小+ 珪藻 2 種類 茶色と透明っぽい 珪藻+++ 繊毛虫は見られない、菌類も無い 珪藻+++ まるいつぶつぶ その他++ 動くものなし底に膜のように白く広がるもの 珪藻+++ 丸い大小のつぶつぶ その他++ 17 珪藻 もやもやしている部分 7/15 86 ビンに入っていたゴミにツリガネ虫 珪藻+++ にたくさんついている ツリガネ虫++ その他++ 7/20 91 水のにごりは増す 珪藻+++ ツリガネ虫++ ゴミについたツリガネムシ その他++ 7/29 100 ビンの内部に黒カビ発生。 珪藻+++ 上澄みのにごりは少し落ち着く。 ツリガネ虫+ 小型繊毛虫、中型繊毛虫も少し 繊毛虫・小+++ 繊毛虫・中 繊毛虫・中+ その他++ 8/5 107 中小の繊毛虫大発生。中型→スティロニキア? 繊毛虫・小+++ 小型は茶色っぽい 繊毛虫・中+++ 様々な生物の様子 珪藻+++ その他++ ツリガネムシ・・・? 8/18 120 中小の繊毛虫がたくさん 珪藻+++ 回転して動く繊毛虫 繊毛虫・中+++ 何体かでくっついて動いたり分裂して動いたりしている 繊毛虫・小+++ 繊毛虫・中 Continued ③ ビン3 最後に確認された生物―繊毛虫・珪藻・藍藻 始めて何 認められた微生物の 月日 ビン2の様子:顕微鏡観察他 絵・写真他 日目 4/20 量 ビン2と同じ 4/25 5 生物なし 5/2 12 生物なし 18 5/5 15 菌糸のようなものがある 不完全菌+ 動いているものはない 珪藻++ 赤いオブラート状のものがある その他+ 形の違うさまざまな珪藻 5/12 22 下に膜のような固形物。大きめの透明なもの 珪藻++ 珪藻 2 種類 茶色と透明っぽい その他++ 菌糸の様子 不完全菌++ 6/12 53 色々な形状のもの 動いているものはなし 珪藻++ 大きめの透明のものもまだある その他++ 不完全菌++ 6/12 53 動くものなし 底に膜のように白く広がるもの 珪藻++ 丸い大小のつぶつぶ その他++ 不完全菌++ 7/3 74 様々な形態のもの、 珪藻++ 膜状のものがビンを囲んでいる その他+++ 細長いべん毛虫 不完全菌++ べん毛虫+ 7/15 86 様々な形態のものが見られる。液は不透明 べん毛虫・スケッチ 珪藻++ その他+++ 不完全菌++ べん毛虫+ 7/29 100 変化は無いが小型の繊毛虫が見られる 珪藻+++ べん毛虫はなし 繊毛虫・小+ その他+++ 8/5 107 水面に膜がたくさん浮いている 珪藻+++ 小型の繊毛虫 繊毛虫・小+ その他+++ 19 繊毛虫・小 8/18 120 小型の繊毛虫が大量発生 珪藻++ 繊毛虫・小+++ その他+ Continued ④ ビン4 最後に確認された生物―菌類・繊毛虫・珪藻 始めて 月日 何日 ビン2の様子:顕微鏡観察他 認められた微生物の量 絵・写真他 目 4/20 ビン2と同じ 4/25 5 生物なし 5/2 12 生物なし 5/5 15 固形物がふやけている 菌糸がたくさん 珪藻+ 菌糸の中に丸いつぶつぶがある 不完全菌+++ 動くものは無い その他+ 動くものなし 大小のつぶ 珪藻++ 珪藻 2 種類 茶色と透明っぽい 不完全菌+ 5/15 20 菌糸の様子 その他+ ゴミについたツリガネムシ 5/29 34 固形物のまわりがもやっとしている 珪藻++ 動く細長いべん毛虫や細長い透明なもの 不完全菌++ ゴミに付いているツリガネムシがたくさん べん毛虫+ 繊毛虫・大++(ゾウリムシ?) ツリガネムシ・スケッチ 6/12 53 固形物が増えた、べん毛虫・繊毛虫も増えた 珪藻++ ゴミにツリガネムシ 不完全菌++ べん毛虫++ 繊毛虫・大+++ 6/20 繊毛虫・小 繊毛虫・小++ 20 繊毛虫・大・小 7/15 86 細かく小さい透明と茶色のつぶつぶ 珪藻+++ 不完全菌++ べん毛虫++ 繊毛虫・大+++ 茶色のつぶ 7/29 100 小型の繊毛虫が多く見られる 大型の透明なもの 珪藻+++ 繊毛虫がたくさん 繊毛虫・小++ 三日月型で 繊毛虫・大++ 大きい べん毛虫+ 8/5 107 上澄み液に膜 小型繊毛虫とゾウリムシ? 珪藻+++ 繊毛虫・小+++ 繊毛虫・大++ ゾウリムシ? 8/18 120 大小の繊毛虫がたくさん発生 珪藻++ 長細く透明、動いている 繊毛虫・小+++ 繊毛虫・中++ 繊毛虫・大+++ 様々な生物 Continued ⑤ ビン5 最後に確認された生物―菌類・繊毛虫 始めて何 認められた微生物の 月日 ビン2の様子:顕微鏡観察他 絵・写真他 日目 4/20 量 ビン2と同じ 4/25 5 生物なし 5/2 12 生物なし 5/5 15 透明の直線的にのびた菌糸 不完全菌+ さまざまなつぶつぶ・・・シスト? 5/7 17 菌糸 変化なし 21 5/12 22 菌糸は見られない、つぶつぶ その他+++ 6/12 53 透明の小さなつぶつぶ、白いつぶ 珪藻+ 茶色のつぶ・・珪藻 その他+ 茶色の珪藻類が増えた 珪藻++ ゴミにツリガネムシ その他+ 糸状のもの 珪藻+++ 7/3 7/15 74 86 いろいろなつぶつぶ その他+ 7/29 100 上澄みがにごる 小型繊毛虫が少なくなった 珪藻++ 茶色のつぶ・・・アルケラ? 繊毛虫・小+ 繊毛虫・小 肉質虫+ その他+ 8/5 107 コロニーが底にへばりつくように発達 珪藻+++ 体を反転させて動く繊毛虫(中型) 繊毛虫・小+ 米つぶ状の透明なもの 繊毛虫・中+ 繊毛虫・中 肉質虫++ その他+ 8/18 120 動きがゆっくりした中型の繊毛虫 繊毛虫・中+++ 星型の物(研究1でも居た) 繊毛虫・小+ ちいさなつぶつぶ その他+ 様々な生物 Continued ⑥ ビン6 最後に確認された生物―菌類・繊毛虫 始めて何 認められた微生物の 月日 ビン2の様子:顕微鏡観察他 絵・写真他 日目 4/20 量 ビン2と同じ 22 4/25 5 生物なし 5/2 12 生物なし 5/5 15 他のものより内容物の粒子が細かい 6/12 53 固形物が一番少ない 細かいもやもやしたもの 不完全菌++ 黒いつぶつぶのコロニーがある その他+ 細長いもの 不完全菌++ 繊維にツリガネムシ その他+ ビンの内容物 7/15 86 ツリガネムシ+ 7/29 100 上澄みがにごっている 不完全菌+++ 小型繊毛虫大量 水カビ胞子 その他+ ツリガネムシ+ 繊毛虫・小+++ 8/5 107 小型繊毛虫大発生、水カビも 繊毛虫・大++ 細長い核のみ見られる 繊毛虫大 繊毛虫・小+++ 繊毛虫・小 ツリガネムシ+ 不完全菌+++ 8/18 120 小型の繊毛虫が少し 繊毛虫・小+ 長細い透明なもの、中に核が見えるもの ツリガネムシ++ 茶色い丸い粒もたくさん 不完全菌+++ 中型繊毛虫も動いている 繊毛虫・大+++ その他++ 23 繊毛虫・大・スケッチ Continued B.追加実験・・・シスト化を経過時間で追う 問題点・・・①採集したコロニーが同量ではない→柄付き針を利用し注意して採集する ②加える水について→置き水・ミネラルウォーターを使用したら生物は 再生しなかった ビン2の上澄み液を注意深く採取し、生物の混入が ないことを確認して、加える ③顕微鏡の光で生物が死滅する→観察をすみやかにして、強い光を避ける <乾燥後0分経過して水を加えた場合の生物の再生状況> 再生生物の数 +++ 乾燥時間0 ++ + 経過時間(分) 0 3 10 グラフ 20 30 40 50 60 70 100 130 180 経過時間と生物の数の推移<乾燥経過時間0> 乾燥確認後、すぐに水を加えた結果、動きを止めていた小型・中型の 繊毛虫はすぐに動きを開始し、30分経過以降その数を増やした。乾燥 時、スライドガラス上で自由に動き回っていた繊毛虫は、乾燥が始まる と珪藻などのコロニーの周りに集まり激しく動き回っていた。しかし、一 部の繊毛虫は動きを止めた。繊毛虫の大きさはなぜか、動いていた時 水分が乾燥し内容物が集 まっている様子・繊毛虫が その中にたくさんいる より大きく見え、形も丸くなったように感じた。水を加えると、ひからびた 珪藻の周りのほうから徐々に動き出し、珪藻が元に戻ると動く繊毛虫 の数は多くなっていった。珪藻は、まるで乾燥ワカメのようだった。 24 <乾燥後5分経過して水を加えた場合の生物の再生状況> 再生生物の数 +++ 乾燥時間5 ++ + 経過時間(分) 0 3 グラフ 10 20 30 40 50 60 70 100 130 180 経過時間と生物の数の推移<乾燥経過時間5> 乾燥後5分の時間を置いて水を加えた。こちらもすぐに生物は再生し、順調にその数を増やす かと思われたが、70分経過後から生物が少なくなりはじめた。乾燥以外の要因、光や熱など の影響で生きられなくなったのかもしれない。 <乾燥後15分経過して水を加えた場合の生物の再生状況> 再生生物の数 +++ 乾燥時間15 ++ + 経過時間(分) 0 グラフ 3 10 20 30 40 50 60 70 100 130 180 経過時間と生物の数の推移<乾燥経過時間15> 乾燥後15分たって水を加えた。再生した生物の数はかなり少なく、再生に要した時間も長かっ た。また生物は50分後に姿を消し、1時間後に現れて、かなり不安定な状態であったと言え る。 25 <乾燥後30分経過して水を加えた場合の生物の再生状況> 再生生物の数 +++ 乾燥時間30 ++ + 経過時間(分) 0 3 グラフ 10 20 30 40 50 60 70 100 130 180 経過時間と生物の数の推移<乾燥経過時間30> 乾燥後30分して水を加えた。この場合、生物の再生を諦めかけたころ、動き出した生物を発 見した。その後数十分のちに再び姿を消し、再び現れることは無かった。水を加えてほぼ1時 間後に生物が再生するという結果に驚いた。 <乾燥後180分経過して水を加えた場合の生物の再生状況> 再生生物の数 +++ 乾燥時間180 ++ + 経過時間(分) 0 グラフ 3 10 20 30 40 50 60 70 100 130 180 経過時間と生物の数の推移<乾燥経過時間180> 乾燥後3時間たって水を加えた。30分たって水を加えたものと同様に、しばらく生物は現れず、 諦めかけたころ姿を現した。それも一時的で、すぐに消えてしまった。 26 <乾燥後300分経過して水を加えた場合の生物の再生状況> 再生生物の数 +++ 乾燥時間300 ++ + 経過時間(分) 0 グラフ 3 10 20 30 40 50 60 70 100 130 180 経過時間と生物の数の推移<乾燥経過時間300> 乾燥後5時間経過して水を加えてみた。これには比較的早い段階で生物が現れたが、すぐに その姿を消し、70分後に再び現れた。乾燥時間30分・3時間・と同様に再生した繊毛虫の数 は驚くほど少なく、確認できた時間も短い。 27 7 考察 A.シスト化について・・・研究1との比較から ① ビンに現れた生物について <ビン1(ふたあり)> 最後に確認された生物―菌類・繊毛虫・珪藻 月日 経過 日数 生物 4/20 4/25 5 5/2 5/5 5/7 10 2 15 17 5/10 5/12 5/15 20 22 25 5/29 30 6/12 39 40 50 53 6/20 7/3 6 061 70 74 7/15 80 86 7/20 90 91 7/29 100 8/5 107 110 8/18 120 ケイソウ 緑そう 繊毛虫・小 グラフ. ビン1に発生した生物の推移 ふたがあるこのビンは、研究1から特殊な環境にある。動物性生物の発生はほとんどなかった。 いち早く藻類の発生が見られ、その後も増えていき、研究1でも見られなかった緑藻も唯一認 められた。2年前から水生生物の最大の条件である水は失われず、環境の変化に比較的耐性 があると思われる珪藻が再生した。というよりずっと生存していたのかもしれない。 月日 生物 経過 日数 7/23 10 20 30 40 50 59 6 0 7/30 66 8/8 70 75 8/15 80 82 8/21 88 9 0 研究1でこのビンで の生物の発生は観 細菌 察の不備から生物 せん毛虫 (丸型小) が混入したと考えら れ、その発生の時期 ケイソウ や状態は明らかに他 せん毛虫 (丸型虫) のビンと異なってい た。 せん毛虫 (長細型中) 本研究では、さらに それが顕著で、他の ビンではなかなか生 グラフ.<研究1> ビン1に発生した生物の推移 物が現れなかったが 水という最大の好条 件があったため、藻類を中心に早く再生したのだと思われる。 28 <ビン2> 最後に確認された生物―菌類・繊毛虫・珪藻・緑藻 月日 経過 日数 生物 4/20 4/25 5 5/2 5/5 5/7 10 2 15 17 5/10 5/12 5/15 20 22 25 5/29 30 6/12 39 40 50 53 6/20 7/3 6 061 70 74 7/15 80 86 7/20 90 91 7/29 100 8/5 107 110 8/18 120 ケイソウ 繊毛虫・小 繊毛虫・中 ツリガネムシ その他 グラフ. ビン2に発生した生物の推移 月日 生物 経過 日数 5/27 2 6/5 10 11 6/14 20 6/19 25 6/25 30 31 7/5 40 41 7/11 47 5 0 7/17 7/23 7/30 53 5960 66 8/8 70 75 8/15 80 82 8/21 8890 このビン2でも藻類が 細菌 最初に現れた。研究1 べん毛虫 では、動物性生物の後 せん毛虫 (丸型小) から発生したのだが、 せん毛虫 (丸型虫) 本研究では逆になって いる。 せん毛虫 (長細型小) 研究1で藻類は最後ま コルポダ でビンの中で確認でき、 せん毛虫 (長細型大) そ れ が 本 研究 で は 再 肉質虫 生した。植物性生物は 緑そう 自分でエネルギーを作 ケイソウ り出せるので、ある程 不完全菌 度の環境が整えば動 せん毛虫 (長細型中) 物性生物より生存が可 グラフ. <研究1>ビン2に発生した生物の推移 能でしかも耐性がある と思われる。 ここで着目したいのが、ツリガネムシである。研究1でも確認できなかった生物だ。保管は屋内 で箱に入れていたので乾燥後の混入は考えにくい。すると乾燥中にゴミと一緒に混入し、その ままシスト化して、条件が整ったあと脱シストしたのだろうか?このツリガネムシに関しては、本 来、繊毛虫の仲間であるが、その発生に興味を持ったので、あえてグラフに記してみた。シスト 化・脱シスト化して再生した可能性があると思う。 29 <ビン3> 最後に確認された生物―繊毛虫・珪藻・藍藻 月日 経過 日数 生物 4/20 4/25 5 5/2 5/5 5/7 10 2 5/10 15 17 5/12 5/15 20 22 25 5/29 30 6/12 39 40 50 6/20 6 061 53 7/3 70 74 7/15 80 86 7/20 90 91 7/29 100 8/5 107 110 8/18 120 ケイソウ 菌類 その他 べん毛虫 繊毛虫・小 グラフ. ビン3に発生した生物の推移 月日 生物 経過 日数 5/27 2 6/5 10 11 6/14 20 6/19 25 6/25 30 31 7/5 40 41 7/11 47 5 0 7/17 7/23 7/30 53 5960 66 8/8 70 75 8/15 80 82 8/21 このビンでも藻類の発生が 8890 細菌 早くに見られる。ビン2にも言 緑そう えることだが、動物性生物の ケイソウ 発生理由が、はっきりしな い。 アルケラ 動物性生物が好む条件は、 ランソウ 温度・光・酸素・水質(ph)・ 不完全菌 栄養など様々だ。それが整っ せん毛虫 (丸型中) たためビンの中のシストが脱 せん毛虫 (丸型小) シストしたものなのか空中か せん毛虫 (丸型大) ら混入したものが脱シストし せん毛虫 (長細型中) たのかわからない。 肉質虫 しかし、カラカラに乾燥したビ グラフ. <研究1>ビン3に発生した生物の推移 ンの中に水生生物がそのま まの状態で存在しているとは考えられず、空中からの混入にしてもそれらの生物が脱シスト化 するのは間違いない。 30 <ビン4> 最後に確認された生物―菌類・繊毛虫・珪藻 月日 経過 日数 生物 4/20 4/25 5 5/2 5/5 5/7 10 2 15 17 5/10 5/12 5/15 20 22 25 5/29 30 6/12 39 40 50 53 6/20 6061 7/3 70 74 7/15 80 86 7/20 90 91 7/29 100 8/5 107 1 10 8/18 120 ケイソウ 菌類 その他 べん毛虫 繊毛虫・大 繊毛虫・小 グラフ. ビン4に発生した生物の推移 月日 生物 経過 日数 5/27 2 6/5 10 11 6/14 20 6/19 25 6/25 30 31 7/5 40 41 7/11 47 5 0 7/17 7/23 7/30 53 5960 66 8/8 70 不完全菌 75 8/15 80 82 8/21 8890 このビンでも藻類が 現れてからべん毛虫 せん毛虫 (丸型小) や繊毛虫が見られた。 細菌 やはり研究1とは順 キロドネラ 序が異なっている。 コルボダ このビ ンは観察後期 せん毛虫 (丸型中) にかけて動物性生 物が大量に発生した。 ケイソウ せん毛虫 (長細型中) 藻類とともに菌類(不 緑ソウ 完全菌や細菌)の発 グラフ.<研究1> ビン4に発生した生物の推移 生がその後の生物 の生活を支えている と思う。 研究1でも感じたことだが、べん毛虫は小型繊毛虫と同じくらいの大きさのもので、カメラに撮 影するとほとんどその形状は写らない。しかし、高倍率で観察するとべん毛が2本あることがわ かった。学名などは不明。 31 <ビン5> 最後に確認された生物―菌類・繊毛虫 月日 経過 日数 生物 4/20 4/25 5 5/2 5/5 5/7 10 2 15 17 5/10 5/12 5/15 20 22 25 5/29 30 6/12 39 40 50 6/20 53 7/3 6061 70 74 7/15 80 86 7/20 90 91 7/29 100 8/5 107 1 10 8/18 120 菌類 その他 ケイソウ 繊毛虫・小 肉質虫 繊毛虫・中 グラフ. ビン5に発生した生物の推移 月日 生物 経過 日数 5/27 2 6/5 10 11 6/14 20 6/19 25 6/25 30 31 7/5 40 41 7/11 47 5 0 7/17 7/23 7/30 53 5960 66 8/8 70 75 不完全菌 8/15 80 82 8/21 8890 このビンは他のビンと異な り、藻類の発生があまり早 くない。 細菌 せん毛虫 (丸型小) 研究1では藻類の発生は コルポダ なく、現れた動物性生物の せん毛虫 (丸型中) 数も他のビンに比べて少な キロドネラ かった。グラフにもそれが アルケラ 反映されているような気が するが、生物の定量はか アメーバ なり主観的なので、推測で グラフ.<研究1> ビン5に発生した生物の推移 しかない。 しかし、ビンの中でシストになったものが再生したと仮定すると、このビンはその仮定どおりの 生物の現れ方をしていることになる。他のビンの藻類の発生と比較すると、このビンの珪藻は 明らかに後で侵入してきたと考えられる。 32 <ビン6> 最後に確認された生物―菌類・繊毛虫 月日 経過 日数 生物 4/20 4/25 5 5/2 5/5 5/7 10 2 15 17 5/10 5/12 5/15 20 22 25 5/29 30 6/12 39 40 50 53 6/20 7/3 6061 70 74 7/15 80 86 7/20 90 91 7/29 100 8/5 107 1 10 8/18 120 菌類 その他 ツリガネムシ 繊毛虫・小 繊毛虫・大 グラフ. ビン6に発生した生物の推移 月日 生物 経過 日数 5/27 2 6/5 10 11 6/14 20 6/19 25 6/25 30 31 7/5 40 41 7/11 47 5 0 7/17 7/23 7/30 53 5960 66 8/8 70 不完全菌 75 8/15 80 82 8/21 8890 ビン5と同じく、全体 的に遅い生物の発 生で、藻類は現れ 細菌 ていない。 せん毛虫 (丸型小) このビンだけは、研 せん毛虫 (丸型中) 究1の生物の推移 せん毛虫 (丸型大) とよく似ている。 コルポダ 菌類の発生を見て、 せん毛虫 (長細型) 生物が現れてい 肉質虫 る。 グラフ. <研究1>ビン6に発生した生物の推移 本研究でビンの中 で起きたことの注 目点の一つに、藻類と細菌の相互関係を考えていたのだが、このビンにはあてはまらずにがっ かりしている。ビン5・6は研究1においてそれぞれ日陰・浴室に置いたビンである。研究1で最 も環境に適応力があり、生命力があると結論づけた藻類でも、最大の要因である日光が必要 と思われる。本研究では、外気に触れるようにビンのふたは開けておいたが(ビン1は除外)、 室内で箱の中で保管したため日光も十分ではなく、他の生物同様藻類の侵入は難しかったの だろう。 33 ②追加実験の観察結果から 6つの観察を一つのグラフに表してみる。 5 再生生物の数 乾燥時間0 乾燥時間5 乾燥時間15 乾燥時間30 乾燥時間180 乾燥時間300 4 3 +++ 2 ++ 1+ 0 経過時間(分) 0 グラフ 3 10 20 30 40 50 60 70 100 130 180 経過時間と生物の数の推移 少しわかりにくいが、上記のグラフは乾燥後の時間経過によって、生物の再生状況を示してい る。ビン2は、繊毛虫の発生がとても多いビンで、繊毛虫がシストになること・動きがあって再生 の確認がしやすいことで選んだ。ただ、このような短時間で繊毛虫がシストになり、脱シストした かは断定できない。しかし、明らかに乾燥時間が短ければ短いほど、生物が動き出す確率が 高い。また、30分を超えて悪条件に置いたものは、水を加えてから時間を置かないと再生しな いようだ。30分という時間が生物の再生に困難を与える特別な要因である?と思った。 30分という時間の断定はもちろんできない。しかし、私は休眠シストには2種類あると考える。 一つは、乾燥時間が短い場合つまり悪条件が短い場合の生物が再び好条件に戻すと短時間 で再生するシストであること。もう一つは、悪条件が長いと再生までに時間がかかるシストであ ること。 30分・180分・300分経過した場合は再生に時間がかかり、その数も少なく、また現れてすぐ にいなくなってしまった。観察の不備も考えられるが、時間という条件が生物に与える影響が大 きいと判断した。私の想像では、生物内の核内にそのような悪条件をキャッチする機関があり、 何かの伝達物質を介して、生物の周囲に殻としてたんぱく質を形成する。殻は主にたんぱく質 やセルロースでできているという報告はすでに出されている。その際、繊毛・口・排出器官など 保存に邪魔なものは排除されるそうだ。つまり、生物がシスト化するのにある程度の時間がか かり、同様に脱シスト化にも様々な器官の再生も含めて時間がかかるのだ。完全な殻になるま での時間内の悪条件下であれば、比較的短時間での再生が可能なのでは?と思う。 この観察で判断できることは、生物は悪条件の時間が長いほど再生に時間がかかるということ、 また、再生する個体数の数も少なくなるということだ。ただ、生物の休眠システムには体力の保 持のための本当に一時的なシストと完全に長期間休眠する態勢をとったシストがあると思う。 34 この観察は本当に大変で、乾燥時間を経て経過時間を確認しながら顕微鏡観察を行うため、 データを数多く取ることができなかった。しかし、この観察は繊毛虫がどのくらいの悪条件・時 間でシスト化し、経過時間がどのくらいで再生するのかというメカニズムを解明できると思う。家 庭での観察に限界があるが、幅広いデータを集めることで本研究がもっと有意義なものになっ たと思うと残念だ。 B.ビンの中の命は本当に再生したのか? ここで、ビンの中に命が再び現れたことの考えられる原因を整理したい。 ①水の中に混入していた(奥先生のご指摘から) ②新たに空中から入ってきた ③シストからの再生 以上3点が考えられる。 奥先生のご指摘を受け、少し慌てて水道水について学習したとこ ろ本研究への影響は神経質に考えなくても良いようだ。それでも、 水生生物についての研究であるので、生物と水との関わりにもっと 注意を払うべきだった。 前にも述べたとおり、研究1で使用したビンを乾燥状態においた時 乾燥後のビンの様子 点では、ある程度の遷移がおこったと想定して、完全に乾燥するま では、ビンの観察を見た目だけにした。その間、ビンの中の生物が本当にシストになったかは 判断できない。ビン1(蓋つき)を除き、ほとんどのビンは数週間後には完全にカラカラになり、 ビンの底に乾燥ワカメのようにへばりついていた。乾燥してしまうと本当に少しの固形物とゴミ が混入している状態だった。 しかし、追加実験では、乾燥をはじめるとそれまで活発に動いていた繊毛虫が動きをやめ、見 た目になぜか大きく丸くなったように見え、スライドガラス上でわずかに残った水を漂っていた。 さらに乾燥が進むと完全に藻類と一体化し、その藻類のコロニーは再び乾燥ワカメのようにな った。その後、時間をおかずに水を足すと繊毛虫は再び元気に泳いだ。 また、一年半おいたビンでは、ツリガネムシの突然の発生・藻類の発生は明らかに研究1での 生物の現れ方と異なる。生物の遷移の上で順に現れたというより、条件が整ったからいきなり 再生したと考えられる。 藻類は自らエネルギーを作り出せる分、動物より適応能力が高いと思う。藻類に関しては、確 認できた種類は少ないが、一度現れるといつまでもビンの中にいた。ビンの中の二酸化炭素・ 窒素化合物などの無機物でたくましく生き、そしてその生産物を他の生物に提供している。実 際、藻類の周りにはたくさんの繊毛虫がビンの上部・中間部にくらべて発生している。繊毛虫は 35 主に細菌を捕食するが、この細菌の増殖にも藻類の存在は大きい。藻類は乾燥によりシスト に似た形態をとって、十分な水分を得て再生したのだと考える。 ほとんどのビンで見られた繊毛虫であるが、これについても条件(細菌の発生・PH・水温など) が整ったので発生をした。しかし、これがビンの中にあったものが脱シストしたのか、新たに入 ってきたものが脱シストしたのか判断できない。私・個人的には研究1でも生物が脱シストした ものであって欲しいと思っているが本研究では言及できない。藻類の再生・細菌の発生により 繊毛虫の生活の条件は整ったと考えられ、繊毛虫はとにかく脱シストし、増殖したのだろう。 多くの書籍で報告されている繊毛虫のコルポダに今回は会えなかった。研究1で何度も確認し た生物であったのでとても残念に思った。 本研究では、乾燥後ずっと室内で保管してきたため、研究1でみられたようなバラエティに富ん だ生物は現れなかった。つまり研究1ではほとんどのビンを蓋なしで屋外に置いていたので、 様々な原生生物のシストが空中から入るチャンスがあった。本研究では、その点においても生 物の空中混入説・脱シストを実感することになった。 C.原生生物の生活環について 原生生物がシスト化し・脱シストする様子・原生生物の生活環を私なりに考えてみたい。 本研究では原生生物の休眠シストにのみスポットを当てたのだが、実は生物がシストを形成す る際、休眠シスト(これにも2種類あるのでは?と考える)のほか、生物が増殖する際にシスト 形成する場合、結合、接合する場合のシスト形成が知られている。 本研究のビンの中での原生生物の生活環を考えてみる。 一時的シスト 再生 分離・増殖 長期的シスト 成熟生物 休眠 成長 発芽 再生 図 原生生物の生活環 変異(未確認) 36 ビンの中で起きたと考えられる原生生物の形態の変化を図のように描いてみた。シスト・脱シ スト(発芽)の様子を生活環として図にしてみた。本研究では、繊毛虫に関してのシスト・脱シス トの明確な確認はできていないが、繊毛虫をモデルにして描いてみた。 成熟した生物は好環境下で分離または生殖して増殖し、再び成熟しその数を増やす。もちろん、 好環境ではあってもせまいビンの中なので、増えすぎると生物間のバランスが壊れ、一方的に 増え続けるわけではない。このときの好環境で考えられるのは、温度・酸素・ph・光・捕食関係 である。しかし、それらが損なわれると生物はシスト化する。シストは主に2種類あると考えてい る。ちょっとした環境の変化でシストの硬い殻を形成せず、すぐに活動を再開できる、本当に一 時的な休眠のものと、なんらかの方法で細胞内にある伝達物質を介してたんぱく質やセルロー スを生産して細胞を守る完全なシスト体。一時的なシストは体に変化を起こしていないので、す ぐに復活できる(想像)。完全にシストになった生物は、好環境になっても発芽・脱シストに時間 がかかると思う。文献によると、シストになる際、繊毛虫は繊毛や口など保存に困難なものは 破棄してしまうそうだ。そのようなものが再びどうやって再生するかは本当に疑問だが、再生に はある程度の時間が必要だと思う。また、シストになってもすべての生物が脱シストに成功す るとは思えない。原生生物(私の主観では藻類以外のもの)は、様々な悪条件に弱く、すぐに 死んでしまう。顕微鏡の光源でも生物にとっては厳しい。発芽を試みても脱シストするためのエ ネルギーを得られないものは脱シストできないのではないだろうか? 本研究でシスト化・脱シスト化のメカニズムを解明したかったのだが、たくさんの先生方から、 家庭で数年の観察では無理と笑われてしまった。考察してみると全くそのとおりで、繊毛虫の シスト化についての明確な結論も導きだせなかったのだ。図はあくまで想像によるものだが、 将来、ぜひこのメカニズムを追及してみたい。 37 D.本研究のビンの中の社会 本研究では、研究1と異なった社会がビンの中でできていると思う。 ビンの中の社会を考えたい。 その他繊毛虫・肉食動物 捕食される相手 小型繊毛虫 藻類 細菌類 べん毛虫類 NH3・有機化合物 図 ビンの中の社会 本研究では、研究1のように原生生物の発生をうながすような有機物・栄養を入れていない。 そのため、生物の発生状況は研究1とかなり異なった。ビンの中での社会は、生物間の捕食関 係を考えなくてはならない。 本研究では、発生した繊毛虫の栄養になっているのが、主に細菌類だと考えられる。ビンのな かには特に細菌類の発生を確認できなかったビンもあったが、藻類と細菌はお互いに捕食関 係にあり共存していると言える。それにより、べん毛虫や繊毛虫を養っている。また、動物性生 物は死骸や排泄物を細菌類や藻類に提供して、ビン全体としては輪になっている。 図には描いてないが、呼吸に関しても、藻類と動物性生物は互いに酸素・二酸化炭素を供給し あうことでビンの中にはなくてはならない存在だ。 研究1及び本研究を通して、小さなビンの中にも生物が互いに関わり合い、生物の性質に基づ いたルール・社会がある。 38 死体・ 排泄物 中型繊毛虫 8 結論 A.ビンの中の命はシストになって再生した? 植物性原生生物・藻類はビンの中にあったもの が再生したと言えるのではないだろうか? シスト化については、多くの書籍で主に動物性原 生動物・繊毛虫について報告されている。 藻類についてはあまりシストという言葉は使用さ れていなかった。 ビンの中の藻類はカラカラの乾燥ワカメのように なり、当初、水を加えた段階でも生きている感じ はしなかった。だが、どの生物よりも速く再生し、 その後の生物を支えていた。 原生生物の脱シスト過程 法政大学 月井雄二撮影 原生生物情報サーバーCOPY 使用許可済み 動物性生物については、ビンの中にもともとい たものが、脱シストしたのか、新たに侵入したシ ストが脱シストしたのかわからない。先にも述べたが、研究1で確認できなかったツリガネムシ の発生は、水を加えた後の侵入と思えず、乾燥段階で入った可能性が高い。そのまま他の生 物と同じようにシストとなり、本研究で再生したと思う。残念ながら、書籍などでツリガネムシの シスト化について述べられている報告は無かった。 ビンの中に栄養をいれ、生物の発生を順番どおりに待っていた研究1と異なり、本研究ではビ ンの中のもともといた生物の再生であるとしか考えられない現れ方であった。 私は、ビンの中の命は脱シストし、再生したと考える。 B.脱シストはその生物固有の環境と時間がある 原生生物、特に繊毛虫の再生を待った観察であった。しかし、ほとんどのビンの中で藻類がま ず再生し、その後、べん毛虫・繊毛虫が現れた。藻類は自らエネルギーを創り出せることで、動 物性生物より生活環境の幅が広く、適用しやすいと思う。それとは逆に他を捕食しないといけ ない動物性生物は捕食相手の適応が可能な環境で自らも生活できる。珪藻などの藻類はほと んどのビンで同時期に再生を見ているが繊毛虫などはバラバラだ。つまり、長期的休眠シスト の再生にはその生物の適した環境の整う時間及び再生に必要な時間の二つの要因があると 考える。 図にまとめて整理すると、 39 短時間再生可能 シスト(藻類) 環境整備時間 藻類 脱シスト化時間 短時間再生不可能 シスト(動物性生物) 動物性生物類 図 脱(長期的休眠)シストの時間的要因 また、追加実験の結果より、生物は悪条件の時間が長いほど再生に時間がかかるということ、 さらに、再生する個体数の数も少なくなるということを得た。このような要因が複雑に関係して 生物は再生し、生活の場所を広げていく。 C.シスト化のメカニズムについて(想像論) 最後に私がもっとも関心があったシストになるメカニズムだが、本研究では想像するしかできな い。生命の危険を感じた核内の細胞をコントロールする器官がある伝達物質を出し、生物を保 護・休眠させる硬い殻(タンパク質・セルロース)を作る。その際、休眠に不必要な組織を破棄ま たは細胞内に取り込むと想像している。 それでは、その核内の器官はどこだろうか?伝達物質は何だろうか? 「繊毛虫がシスト形成するとき、細胞のどこで飢餓状態・環境悪化を感知して、 どのような伝達物質を介してタンパク質やセルロースを作ると思われますか?」 という私の質問に、東京大学 アジア生物資源環境研究センター 都丸 亜希子先生は 次のような見解をしてくださった。 これは難しい問題だと思います。繊毛虫のシストの場合、具体的な物質として 何がシスト形成を引き起こす引き金になっているのかわかっていないからです。 シスト形成の要因はさまざまなものが挙げられていますが、それさえも、単一 40 なのか、複数なのか、複数の場合どのような組み合わせが効果的なのか等も、 まだわかっていないのが現状です。もちろん、物質レベルでの解明の試みは過去 にされていますが、まだ、うまく行っていないということが現状です。(お言葉どおり) このメカニズムが解明され、私たちが細胞のシスト化、または脱シスト化をうまく導くことができ れば、次のようなことに利用できるのではないだろうか? ① 人間の体に寄生する悪い細胞(がん細胞)を封じ込める がん細胞の発生原因は様々であるが、細胞が突然変異し人間の体の中で増殖をする。人間 の免疫細胞はがん細胞を攻撃するためキラー細胞や抗体で防御しようとする。がん細胞はそ して転移することが知られている。 がん細胞に外から働きかけ、細胞内のシスト化に関わる器官を刺激し、伝達物質を介してシス ト化させ、がん細胞のみを休眠させてしまうことはできないだろうか? ② 上下水道の浄化に役立てる 水の浄化の妨げとなる原生生物は、シスト化させる。シストになるとすくなくとも増殖はさけられ る(増殖するためにシストになるものもあるが)。また、水の浄化の助けとなる原生生物は脱シ スト化を促す。すると、水質管理が簡単にできないだろうか? ③ 古代の生物を復活させる 以前、科学雑誌で読んだことがあるのだが、地球は過去に、全球凍結または隕石の衝突によ り高熱化した。その際、それまでに存在していた多種の生物は絶滅した。ただ、地球内部の岩 石には小さな生物の混入があるらしい。それらを脱シスト化させることで、うまく復活させること ができないだろうか? 単細胞とはいえ、シストという驚異的な生命維持システムを持つ原生生物はもしかしたら人間 に今後多くのことを教えてくれるのではないだろうか? 観察を終えて、想像論を含め以上のような結論を導きだして、研究を終えたい。 41 9 感想・謝辞 研究1の「ビンの中に命を作る」という研究テーマ名は、実は論文をまとめる頃、つまり一昨年 の夏休みの終わり頃にやっと思いついた。その頃は、原生生物という呼称や生態もわからない ほど未熟だった。だが、様々な生物が次々に現れては消えていく様子に感動した。小さくても 生きているものがあると。「命を作る」という言葉は大げさだと思ったが、小さな生物にもそれぞ れの役割があり、高等生物にひけをとらないメカニズムを持っている事がわかった。今年、研 究1の課題をさらに追求することにより、小さな生物が創りだす複雑な社会に改めて考えさせら れた。私たち人間はそれら小さな生物と同じように地球上の生命体の一部分でしかないことを 自覚しないといけないと思う。 本研究は未熟で未完成であった。家庭での学習には限界がある。しか し、小さな生物たちに再び会えたこと、考察できたことは本当にうれしか った。原生生物のシスト化・脱シスト化を確認したかったのだが、実際に 目でみることは困難で、観察結果で考察することしかできなかった。デ 研究1で現れたもの ータの不足と結論を急ぎすぎた点は反省しなくてはならない。 今、研究を終えたビンをこの先どうしようかと頭を抱えている。もっと広 い世界・川に放してあげようかな?このままにしておいてもシスト化し風 に運ばれて、新しい生活の場所を開拓してくれるのだろうか? 研究2で同じもの?が 現れた 本研究はおととしの研究1から派生したもので、昨年は別の研究にあた りながらも、頭は絶えずビンの中の生物に傾いていた。シストになってくれればいいな、生き返 ってくれればいいなとカラカラになったビンを見ながら、また顕微鏡を覗き込む日を心待ちにし ていた。その間、ネットや図書館などで参考になる文献をさがしていた。文献については原生 生物の生態としての簡単な記述または生活環の一部分としての記述は容易に見つかったが、 私の知りたいメカニズムまでは到達できなかった。外国の文献にはそれが少し見られたのだが 私の理解力をはるかに超えたものだった。 私は何から手をつけたら良いか途方にくれてしまったので、アドバイスをしてくださる先生方を 探して安易に頼ろうとしてしまった。見事に私の浅はかな期待は実らなかった。仕方なく一人で やろう、一人で考えようと決め、観察にとりかかった。シストのメカニズムや、実際どのような生 物がどのくらいの割合でシスト化し脱シスト化するかも解からず、不安の中での研究となった。 水を加えた後しばらくの間、生物はビンの中に本当に眠るかのように現れず、私はさらに不安 42 になった。別の研究テーマを探そうかなと思いはじめた。ところが、しばらくしてビンの中には再 び生物が現れ始めた。希望を持った私は、間違った方法・結論でもかまわないから、このまま 研究しようと考えた。 そして夏休みに入り、たまたま見たインターネットのホームページに、プランクトン学会のメーリ ングの案内があり、メーリングリストの登録をお願いするつもりでメールを送り、自己紹介のつ もりで取り掛かっている研究内容と疑問点をお知らせした。 学会の豊川先生は、すぐにメールをくださり、研究1の pdf を読んでくださり、問題点と考察の正 しいところ、曖昧なところを教えてくださった。そして、先生のお知り合いの先生方にお願いして 参考になる書籍を聞いてくださった。その後、毎日のようにたくさんの先生方からメールが届き、 参考文献が集まった。 さらにその中のお一人であった伴先生は原生生物の専門の先生にお聞きしてくださり、書籍や ホームページを紹介してくださった。 奥先生は顕微鏡に関することから撮影法、原生生物にいたるまでいろいろなことを教えてくだ さった。奥先生自らの撮影による珪藻の写真についての感想をメールしたところ、先生はその 珪藻のプレパラートを送ってくださった。嬉しかった。珪藻は多種多様の生物であるがその形状 は人間が決して作り出すことができないほど美しい。原生生物に私はますます惹かれた。 また、都丸先生は中学生としての研究の進め方や疑問に思うことの論点を整理してくださり、 何度もメールでご心配いただいた。 本研究は数年で結果の出ることではなく、あまりに大きな課題に挑戦していることが先生方の お話を伺ってよくわかった。それでも先生方はまじめに考えてくださった。 先生方のご意見を私の未熟さで研究の中であまり活かされてないことが残念で、お詫びした い。 インターネットというシステムの発達に感謝すると共に、私が一番嬉しかったのは、日本の先生 方が一中学生の曖昧な疑問に耳を貸してくださるという事実だ。中学最後の研究がこんなに楽 しいものになるとは思わなかった。本当にありがとうございました。 お世話になった先生方 敬称略 水産総合研究センター 中央水産研究所 滋賀県立大学 環境科学部 日本プランクトン学会 豊川 雅哉 伴 修平 奥 修 43 東京大学 アジア生物資源環境研究センター 水産総合研究センター 西海区水産研究所 都丸 亜希子 長田 宏 信州大学 山岳科学総合研究所 山地水域環境保全学部門 信州大学 繊維学部 応用生物科 滋賀県立琵琶湖博物館 花里 孝幸 中本信忠 楠岡 泰 水産総合研究センター 業務企画部 企画協力課 宮城教育大学 環境教育実践センター 野本 具視 鵜川 義弘 福岡市水道局 浄水部 水質試験所 そして、研究1から私にいろいろな疑問と喜びを与えてくれた小さな小さな生物たちに感謝した い。命を無駄にしてはならないと思いながらも、結果としてたくさんの生物をむやみに増殖させ たり、死滅させたりしてしまった。ごめんなさい。 最後にいつもこの時期になると徹夜の状態になる私に毎晩付き合ってくれる父母にもお礼が 言いたい。 2006年8月30日深夜 44 古舘麻美子 10 参考文献 A.文献 応用原生動物学 盛下勇 ハウスマン原生動物学入門 動物の顕微鏡観察 扇本敬司訳 井上勤 絵でわかる生物の不思議 太田次郎 生物海洋学入門 陸水学(A.ホーン・C.R.ゴールドマン著、手塚泰彦訳)京都大学出版会 生命とはなにか ーバクテリアから惑星までー(L.マーギュリス・D.せーガン、池田信夫訳) シャーレを覗けば地球が見える(藤井宏一・嶋田正和・川端善一郎著) ミジンコはすごい! 花里孝幸著 赤潮の科学 第二版(岡市友利編) 微化石研究マニュアル Charles N.Haas 著 金子光美監訳「水の微生物リスクとその評価」 原生動物学会誌(松坂 理夫、繊毛虫の休眠シストについて On the resting cyst of ciliates Review、原生動物学雑誌第 39 巻第 2 号 p.205 - 216(2006 年 7 月) B.インターネット 珪藻の生物学 http://www.u-gakugei.ac.jp/~mayama/diatoms/biology.htm 原生生物学入門 http://protist.i.hosei.ac.jp/protistology/chap_1/cysts.html <研究1参考文献・インターネット> 水野寿彦 「日本淡水プランクトン図鑑」 佐藤隼夫・伊藤猛夫 「無脊椎動物採集・飼育実験法」 栗原康 「有限の生態学」「隠された自然」 井上勤 「動物の顕微鏡観察」 竹村嘉夫・原口和夫 「ミクロへの探検」 45 津田松苗 「汚水生物学」 上野益三 「陸水生物実験法・生物学実験法」 見上研究室 http://mikamilab.miyakyo-u.ac.jp/ 東京都下水道局 http://www.gesui.metro.tokyo.jp プランクトン図鑑 http://eis.yokkaichi-u.ac.jp 活性汚泥動物園 http://www.siset.or.jp/doubutu/menu.htm スタジオアールストックフォトプランクトン http://moon.endless.ne.jp 原生生物図鑑 http://protist.i.hosei.ac.jp 46
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