経済物理学 統計物理の目で見る経済現象I

経済物理学
統計物理の目で見る経済現象I
ソニーコンピュータサイエンス研究所 高安秀樹
経済物理学の狙い
経済物理学の成果
外国為替市場
市場価格変動のリアルタイム特徴づけ
ミクロとマクロのリンクとインフレ
経済物理学の成果1
外国為替市場のデータ解析(円ドルレートの場合)
10年間のデータ量
生物学とのアナロジー
年次 10個
肉眼
日時 2,500個
光学顕微鏡
ティック 20,000,000個
電子顕微鏡
金融市場はせいぜい分単位で見ないと本当の動きが見えない
「10分ひと昔」
ティックデータは足跡のようなもの
ここからいろいろな集団心理が読み取れる
1
第2回日経エコノフィジックスシンポジウムプロシーディングス
物理の色
経済の色
第3回は、昨年11月9日から11日、日本経済新聞社本社で
海外から50名、日本から30名参加
物理学者
金融実務家
経済学者
2
人間の経済活動は複雑であるがデータ量は限られている
扱える情報量
スパコン
パソコン
1P
有史以来の
全経済データ
1T
一日あたりの
全経済データ
全人類数
1G
為替データ10年分
1M
2000
1980
経済物理学
電子マネー
インタネット
年
2020
時間スケール 秒
100
102
104
分
日
ディーラーの行動
106
月
108
年
統計的フラクタル性
金融工学
非線形動力学
暴落・暴騰
バブル、インフレ
3
取引間隔のゆらぎは数分スケールで変調する
平均間隔大きい
平均間隔小さい
この変調の効果は移動平均で特徴付けられる
データをノイズと非ノイズに
分離できたことになる
ランダムノイズ
P (t ) = P (t ) + f (t )
連続化
ティックデータ
P(t )
最適移動平均
ここに重要な
情報が潜んで
いるはず
の動力学は何か ?
最初の仮説として、
線形な力を生み出
すポテンシャルの
存在を想定
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指値注文は引力、
成り行き注文は斥力を生む
買い注文
価格
売り注文
安定
不安定
需要と供給の力
為替変動の統計性
1日当たりの変動の例
1分当たりのレート変位の分布
およそ1万ティック(平均7秒間隔)
120
119.8
119.6
Rate
119.4
119.2
119
118.8
118.6
118.4
118.2
118
0
1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000 10000
Tick
正規分布
Top 5%
ベキ分布が良い近似になる
自己相関は急激に0になる
5
少数の大きな変位の寄与が大きい
全データ
(1週間分)
上位 5% の寄与
(全体をほぼ再現)
下位95%の寄与
普通の酔歩
Value at Risk とは正反対のアプローチが必要
小さな変動を正しく評価し
て全体の特徴をつかむ
(大変動を見逃す)
大変動を正しく記述する
(小変動は無視しても可)
リアルタイムで動力学を追
いかける必要がある
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ハイパーインフレーション
の経験則
通常のインフレ
(指数関数)
e at
ハイパーインフレーショ
ン(2重指数関数)
e
be ct
同じ関数形は他の国のインフレでも実現した
Germany, Israel, Brazil, Peru, …
Macroscopic dynamics
(consistent with the hyperinflation)
A=1, B>1, f=0, f*=0
Noiseless dynamics
renormalization
Microscopic stochastic
simulation
(parameters can be fitted
with tick-data)
A,B,f,f*: random variables
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3 Macroscopic limits
(B=1 gives Cagan’s eq.)
A( t )
p (t + ∆t )  p* (t ) 
f (t )
=
 e
p (t )
 p(t ) 
p (t + ∆t )  p (t ) 
=

p * (t )
 p (t − ∆t ) 
*
Type I
p (t + ∆ t ) = p * ( t )
p * ( t + ∆ t )  p (t ) 
=

p * (t )
 p (t − ∆ t ) 
B(t )
ef
p (t ) ∝ e a1t
*
(t )
x(t + 2∆t )  x(t ) 

=
x(t + ∆t )  x(t − ∆t ) 
B=1
Normal inflation
B>1
b2t
p(t ) ∝ e e
b1
Type II
Hyperinflation
B
B
B<1
p(t ) ∝ e −c1e
− c2 t
Type III
Stable solution
経済物理学
統計物理の目で見る経済現象II
ソニーコンピュータサイエンス研究所 高安秀樹
お金の特性
経済物理学の成果
銀行間マネーフロー
企業所得分布とその予測
消費税より相続税を見直せ
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お金の非線形性
1万円+1万円=2万円
しかし、価値としては(Vで表す)
V(1万円)+V(1万円)<V(2万円) 価値
まとめて買うと安くなる効果など
お金は集まるほど価値が高いので
お金は“自然に”集まる性質がある
また、巨額のお金は運用で増減する
額面
非線形な価値は、いろいろな値をとる
お金の機能
小額
中額
4
4
∼10 円 10 ∼108
個人現金 家庭口座
巨額 長巨額
108∼ 1012 ∼円
企業 国家
尺度
◎
○
△
×
交換
◎
○
△
×
保存
△
◎
○
△
増殖
×
○
◎
○
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経済物理学成果II
金融機関間キャッシュフロー解析
日本銀行との共同研究
日銀の顧客データを解析
time bank(s) bank(r)
90108 21
13
90115 37
125
・・・・・
amount
466757
13724
銀行のつながりに注目
21 → 13
毎日数千個のデータ
37 → 125
(支店は本店に含まれる)
bank21 bank13
time
リンク数による銀行の分類
• 大銀行 (n>64)
9 銀行 (1.6%)
<n> ≒ 90 沢山のリンク
• 中銀行 (4<n<64) 188 銀行 (34%)
<n> ≒ 8 ベキ分布
• 小銀行 (n<4)
349 銀行 (64%)
<n> ≒ 1 事実上ひとつとだけリンク
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大銀行同士のリンク
→ お互いが直接つながる
安定だが、無駄が多い
大銀行の抱える問題点がお金の
流れだけからもわかる
中銀行のネットワーク
→ スケールフリー、
フラクタルネット
ワーク
相似性、様々な複雑
系で見られる特性
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小銀行のつながり
→ 衛星型
効率的だが
リスク大
構造安定性の解析
やリスク伝播の
シミュレーションなど
が今後可能になる
国の財政破綻のシナリオ
• 現状: 国の税収 40兆円/年
・所得税 14兆、消費税 10兆、法人税10兆
国の借金 −730兆円 − 40兆円/年
借金の金利 −20兆円/年
国債が売れなくなると、金利を上げて売ろうとする
金利を上げると借金の金利がますます高くなる
借金の返し方
1 こつこつ返す
(子孫に肩代わりしてもらう)
2 踏み倒す
(国の信用0になる)
3 インフレを起こす (国民全員苦労する)
4 遺産を当てる (金融資産1000兆円はシニア世代が所有)
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個人の所得の分布
対数正規分布 と ベキ分布
個人金融資産の分布
Cumulative Distribution
1
0.1
0.01
100
1000
10000
Assets
1%の人が1億円以上持っている
所得3000万円以上がベキ領域
ベキ分布 ⇒
大きな値に注目せよ
政策提言:相続税を見直せ!
(現在税収1.5兆円、実質5%課税)
• 例えば:
「金融資産の子供への相続を禁止する」
(その代わり、土地・家・物は相続してもよいとする)
(伴侶は金融資産を相続してもよいとする)
→ 相続税収は10-20兆円増えると期待される
(消費税で5-10% の増税に相当する)
(生前に物を買う動き→お金が回り消費税が入る)
生きている間は税がかからないので老後の心配なし
損をするのはお金持ちの子供だけ(痛みではない)
国民年金は約15兆円/年必要(毎年8千億増加)
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なぜ相続税か?
消費税や源泉徴収・企業の税金は摩擦と同じ
お金の流れを悪くさせる
相続は死んだ人から子供へのお金の流れ
社会に還元した方がお金の流れは良くなる
(金持ちの子はよい環境で育つだけで十分な利益)
お金の循環の新ポリシー
無所得者や低所得者の最低限の生活を保障する
中所得者は自由競争 → ベキ分布
幸運な高所得者の資産は死んだあとで社会に還元
(お金は個人の所有物ではない!!)
参考文献
一般向け読み物:
経済物理学の発見、高安秀樹、光文社新書2004
教科書:
エコノフィジックス−市場に潜む物理法則、高安秀樹、高安美佐子
日本経済新聞社(2001)
論文集:
エコノフィジックス最前線、数理科学、2002年10月号
Application of Econophysics
Editor; Hideki Takayasu, Springer Verlag, Tokyo, 2003
Empirical Science of Financial Fluctuations - The advent of
econophysics, Editor; Hideki Takayasu, Springer Verlag, Tokyo, 2002.
インフレの繰り込み理論の論文:
[Physica A308(2002), 402-410] cond-mat/0112441
T.Mizuno, M.Takayasu and H.Takayasu
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