VeCoReP 獣医療コミュニケーション調査研究プロジェクト 第3回研究会 「獣医療コミュニケーション研究の展望と課題」 報告書 2016 年 8 月 28 日(日) 12:30-17:00 於 大阪商業大学 U-メディアセンター(図書館)4F ネットワーク・レクチャールーム 序文 この度、プロジェクト名を「人と動物の関係研究プロジェクト(HARRP)」から「獣医療コミュ ニケーション調査研究プロジェクト(VeCoReP)」に改称した。 「人と動物の関係研究プロジェクト」 と聞くと、多くの人は「人と動物の関係性について幅広い観点から研究を行っている」というイメ ージをもつのではないだろうか。2008 年のプロジェクト立ち上げ当初は、人と動物の関係性に関す る様々な要素を取り込みながら、臨床獣医療コミュニケーションに関わる調査研究を進めていくと いう目標のもと、このように包括的で、ある意味自由度の高いプロジェクト名を選んだ。しかし、 調査を重ねていくうちに、この名称ではプロジェクトの本来の研究目的がぼやけてしまい、誤解を 生む恐れがあるのではないかという思いに囚われるようになってきた。 プロジェクトでは、2009 年の全国の獣医師を対象にした「伴侶動物の安楽死」に関する調査、そ して 2012 年の西日本の獣医師及び飼主を対象にした「獣医療面接コミュニケーション」に関する 調査に続き、今年 8 月に全国の獣医師と動物看護師を対象に「診療におけるストレス」についての 調査を実施した。この調査を実施するにあたり、調査対象者となる方々にプロジェクトの研究テー マを少しでもわかりやすくし、調査協力への理解を得たいと考えた。この結果、4 月から「獣医療 コミュニケーション調査研究プロジェクト(VeCoReP)」という、少々長過ぎるものの、プロジェ クトの研究テーマを打ち出した名称に変更したというわけである。 今回の第 3 回研究会は、新プロジェクト名になってから初めて開催した研究会である。プロジェ クト名変更に伴い、研究会のテーマを「獣医療コミュニケーション研究の展望と課題」としたほか、 演題内容も「獣医療コミュニケーション研究の現状と課題」 「ペット飼育経験と心理的耐性の関係 性」 「飼主から見た好ましい動物病院」というように、 「獣医療コミュニケーション」を意識した構 成にした。さらに今回は北里大学の木村祐哉氏を講師に招き、「飼主ためのコミュニケーション講 座」という特別企画を組み込んだ。 この特別企画では、木村氏がまず獣医療面接で飼主が注意すべき点などについて講演し、その後 で参加者からの質問に回答する時間を設ける形態にした。参加者から出た質問の回答には、一般参 加者として研究会に参加されていた次郎丸動物病院院長の矢野淳氏にも協力していただいた。今回 は研究会開催予定日の数日前に 5 名の参加予定者から次々と参加取り消しの連絡があり、一時はど うなることかと思われたが、参加者からの様々な質問に対する両氏の丁寧な回答のおかげで、研究 会の内容に関する参加者の感想は概ね好評であった。 一方、研究会の運営準備については毎回のように至らない点が目立ち、残念ながら今回もその例 外ではなかった。主催者としては、研究会当日に参加者の方々一人ひとりに丁寧に対応できなかっ たことが最大の心残りであり、反省点である。今回の研究会も参加者の方々の協力があって無事に 終了することができたといっても過言ではない。この場を借りて、参加者の皆様にお詫びとお礼を 申し上げたい。 さて、本報告書には第 3 回研究会のプログラムと発表抄録を掲載している。これは VeCoReP の 研究活動の軌跡として、これまでの研究会の報告書と共に記録に留めておくものである。このよう な地道な活動を積み重ねながら、VeCoReP では、今後もよりよい臨床獣医療コミュニケーションの 実現に向けた研究を目指していきたい。 VeCoReP 代表・大阪商業大学経済学部 准教授 杉田陽出 1 プログラム 12:00 開場 12:30-12-35 開会の挨拶 12:35-13:05 基調講演①「獣医療コミュニケーション研究の現状と課題 -研究者の視点から-」 杉田陽出(大阪商業大学経済学部) 13:05-13:25 基調講演②「獣医療コミュニケーションに関する文献資料の探索方法と課題」 小倉有紀子(丸善雄松堂株式会社) 13:25-13:55 研究発表「ペット飼育経験が大学生の心理的耐性に与える影響」 戸口愛泰(大阪国際大学人間科学部) 13:55-14:05 休憩 14:05-14:25 体験発表①「我が家と犬」 巽久祥(大阪商業大学庶務課) 14:25-14:45 体験発表②「口コミランキング -飼主に愛される動物病院-」 吉田並子(大阪商業大学学修支援課) 14:45-15:45 招待講演「かしこい患者学 -獣医さんとうまくつきあっていくために-」 木村祐哉(北里大学獣医学部) 15:45-15:55 休憩 15:55-16:55 木村祐哉先生への質問・相談 16:55-17:00 閉会の挨拶 2 発表抄録 【12:35-13:05 基調講演①】 獣医療コミュニケーション研究の現状と課題 -研究者の視点から- 大阪商業大学経済学部 杉田陽出 今回は、獣医療コミュニケーション研究の意義と課題について、一研究者の立場から述べていき たい。まず、飼主と獣医師の各視点から見た獣医療に対する期待という観点から、両者間の効果的 なコミュニケーションによって見込める利点を挙げる。そして、その効果的なコミュニケーション とは何かを究明し、得られた結果を臨床現場に還元することが獣医療コミュニケーション研究の目 標であるという見解を述べ、これまでの研究活動を通して見えてきた日本の獣医療コミュニケーシ ョン研究の問題点をもとに、今後の研究課題について私見を論じる。 <資料> 1 2 3 4 5 6 3 7 8 9 10 【13:05-13:25 基調講演②】 獣医療コミュニケーションに関する文献資料の探索方法と課題 丸善雄松堂株式会社 小倉有紀子 研究者にとって先行研究や海外の研究動向を把握しておくことは、研究をさらに深めていくため の必須条件である。書店営業員はこの点を踏まえ、研究者から研究内容を詳細にヒアリングし、最 も適していると思われる文献資料を提示することに日々努めている。しかしながら、「獣医療コミ ュニケーション」という研究テーマについては、今現在において文献資料は少なく、またそれらを 探索すること自体も困難である。 本発表では、まず、「獣医療コミュニケーション」から導き出されるキーワードを示し、発表者 がどのような形態でもって研究者に文献資料を提示しているかを説明する。次に、「獣医療コミュ ニケーション」という研究テーマと文献資料との引き当てが困難な現状及びその理由について検証 する。最後に、以上の点から、「獣医療コミュニケーション」の研究分野においては、幅広い学術 領域の資料を用いたアプローチが必要であるとの見解を導く。 4 <資料> 1 2 3 4 5 6 【13:25-13:55 研究発表】 ペット飼育経験が大学生の心理的耐性に与える影響 大阪国際大学人間科学部 戸口愛泰 [目的] 学校不適応に陥る児童・生徒・学生の特徴として、対人関係能力の低さが指摘されており、対人 関係に必要なスキルを獲得するためには新しい経験に取り組み、試行錯誤する過程が必要である。 しかし、その過程を回避したり、途中で挫折したりしてしまうとスキル獲得にはいたらない。つま り、挫折に負けず成長や成熟につながる体験に取り組むための「心理的下地」としての「心理的耐 性」が必須といえる。本研究では、この心理的耐性を向上させる要因の一つとして、ペットの飼育 5 経験について取り上げる。 [方法] 日本の大学生 800 名(男性 400 名、女性 400 名、平均年齢 20.61 歳)に対する Web 調査。ペット 飼育経験(現在 249 名、過去 310 名、なし 241 名)と性別が心理的耐性に与える影響について検討 した。 [結果] ① 対人関係耐性:動物飼育経験と性別による影響あり。 ② 継続達成耐性:性別による影響あり。飼育経験×性別の組み合わせによる影響あり。 ③ 規律遵守耐性:性別による影響あり。 [考察] 対人関係耐性において飼育経験による差異が見受けられ、全く経験のない人よりも現在或いは過 去にペットを飼っていた経験のある人の方がより「他者への耐性」を育んでいた。継続達成耐性に おいてはペット飼育経験のない人の中では女性の方が男性よりも、また男性では経験がある人の方 がない人よりも「物事を続ける耐性」があった。これらのことから、一般的に女性の方が男性より も耐性が高いが、ペット飼育経験がより一層の耐性育成につながることが示唆された。つまり、心 理的耐性の低い男性でも自分より小さく弱い対象に積極的に関わることで、何かを待つ力や我慢す る力が養われると考えられるのである。 【14:05-14:25 体験発表①】 我が家と犬 大阪商業大学庶務課 巽久祥 私の両親は二人とも結婚する前から犬を飼っており、結婚後も犬を飼い続けました。そのため、 私が生まれ時にはすでに家には犬がおり、私にとって犬と暮らすのは当たり前のことになりました。 私に物心がついた頃、側にいた最初の犬はシェルティのハルでした。ハルにしてみれば、私の方 が後から家族に加わったので、私のことを弟のように思っていたのかも知れません。とても穏やか で優しく、でも雷がとても苦手な子でした。ハルの最期は突然でした。朝は元気だったのに、私が 小学校から帰ってきたら動かなくなっていました。その日に友達の家に寄り道していたことを、私 は今でも時折思い出しては後悔しています。 二代目の犬はヨークシャテリアのドラミです。子犬の頃から飼った初めての犬だったので、トイ レの躾や散歩など、私にとっては分からないことばかりでした。元々心臓が少し大きかったため、 体への負担が大きいとお医者さんから言われたのを覚えています。とてもわがままなのに寂しがり やの子でした。最期は腰が砕けたようになり、後ろ足が立たなくなりました。そして深夜、家族に 抱かれながら息を引き取りました。 一時はペットロスのような状態になり、もう犬を飼うことはないかもしれないと家族で話をして いた時に、縁あって我が家に来たのが現在のファルコです。 我が家にとって犬とはどのような存在か、そして人間と同じように病にかかり、寿命を迎える犬 とのつき合い方について、犬と暮らした経験を通して私なりにお話しできればと思います。 6 【14:25-14:45 体験発表②】 口コミランキング -飼主に愛される動物病院- 大阪商業大学学修支援課 吉田並子 私達は今、知りたいことなら何でも調べられる情報社会に生きている。新聞や雑誌などで読む「文 字」情報、テレビで見る「映像」情報、人との会話で聞く「耳」情報など、数え切れないほど多く の情報に取り囲まれている。例えば、インターネットで「動物病院 口コミ」と検索しただけで 110 万件もの情報が抽出されるが、飼い主は一体どのような情報を信用して、動物病院を選ぶのだろう か。我が家と私の姉のケースを比較してみたい。 わが家は、近所の人から教えてもらった町の動物病院を利用している。姉は、近くて評判も良い からと、高級住宅街にある動物病院を利用している。この2つの病院では、例えば次のような違い がある。姉の通う動物病院では、フィラリアの薬をもらう前には定期健診をし、犬の健康状態を確 認してくれ、新薬も早々に取り入れている。これとは対照的に、我が家が通う動物病院では、毎年 同じ錠剤を処方してくれる。また、姉の犬が避妊手術後につけてもらったエリザベスカラーは、と ても女の子らしいデザインだったのに対し、わが家の犬が手術した時には何もつけてくれなかった。 ある時、姉の犬が遺伝性の急性白内障にかかり、高度医療動物病院を紹介された。その病院は、 高速道路を使って行かなければならない場所にあったが、最新医療設備が整っていて、信頼感と安 心感は満点である。手術費は高額だったが、ペット保険に入っていたので、手術に踏み切った。そ して手術は成功し、10 日間入院して退院することができた。数か月後に反対側の目も同じように手 術をすることになったが、術後はきれいな瞳を取り戻した。治療費はかかったが、姉に後悔はない とのことである。 どの動物病院を選ぶかは、飼い主が決定権を持っている。姉は安心を求めて高度医療病院に行っ たが、もしペット保険に入っていなかったら、手術をしていたかどうかはわからない。わが家はペ ット保険に加入していないが、いざという時のために家計費をペット用に積立している。もしもの 時は、やはり高度医療病院に行くかもしれない。 私が現在通っている町の動物病院は、口コミ検索のランキングこそ入っていないが、わが家の愛 犬たちは、動物病院までの道を覚えていて、院内にも喜んで入ってくれる。動物病院を怖がるペッ トも多いようだが、我が家では「病院に行く」=「散歩に行ける」と思ってくれているようだ。き っと、診てくれる先生のことも怖くないのだろう。結論として、「ペットが自ら入っていく動物病 院」が飼い主にも愛される動物病院だと信じてこれからも利用しようと思う。 7 <資料> 1 2 3 4 5 6 7 8 8 9 10 11 12 【14:45-15:45 招待講演】 かしこい患者学 -獣医さんとうまくつきあっていくために- 北里大学獣医学部 木村祐哉 いま、人間の医療の世界には「患者学」という言葉が存在しています。これは患者となった方自 身が健康になるためにはどうしたら良いか考え、行動するための概念です。検査や治療を実際にす るのは医療者側なわけですが、医療を受ける側の工夫もあって、歩み寄ることでより良い方向に進 みやすくなるということです。 「患者はどのようにあるべきか」とも言い換えられるかもしれませ ん。 獣医療についてもやはり、獣医師とうまくつきあっていくために、工夫できる点があるかと思い ます。もちろん、動物の飼い方や病気について勉強しておくことも、検査をお利口に受けられるよ うにしつけておくことも大切ですが、いくつか知っておくと動物病院を訪れる際の助けになること があります。 例えば、セカンドオピニオンという言葉があります。よりよい方針を決めるために主治医とは 異なる獣医師の意見を聴くことであり、それを参考にして主治医のもとでさらなる治療を継続する のが趣旨です。セカンドオピニオン外来などという言葉も耳にするくらい普及してきていますが、 診療内容に誤り(つまり医療過誤)がないかの確認だとか、主治医を替える転院だとかと混同され ている部分もあり、関係が悪くなりそうだからセカンドオピニオンを言い出せないという方もいま 9 す。実際、 「不満があるわけではないのに、印象が悪くなったら困る」 「信用されてないように感じ させるのは申し訳ない」などとおっしゃって、大学病院に相談に訪れる方もいらっしゃいます。医 療者側でセカンドオピニオンの意味が本当に浸透しているのであれば、飼い主側の方々に「そんな ことはないですよ」と説明するだけで済むのですが、残念ながらこうした誤解は医療者側にも残っ ていて、そんな医療者は、検査結果や説明内容を紙で渡すのを避けたり、そこから転院されること を過度に恐れたりします。 セカンドオピニオンに限ったことではなく、飼い主の方々が困ってしまう場面、また逆に獣医 師の側が困ってしまう場面は様々あります。そうした例を通じ、飼い主側の立場から、動物病院で どのような行動をとるのが良いか、 「飼い主はどのようにあるべきか」考えていってみましょう。 10 VeCoReP 獣医療コミュニケーション調査研究プロジェクト 第3回研究会 「獣医療コミュニケーション研究の展望と課題」 報告書 2016 年 9 月 6 日発行 11
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