<資料> 世界と中国の窒素系化学肥料の生産状況と問題点

<資料>
世界と中国の窒素系化学肥料の生産状況と問題点
2008 年のリーマンショック以降、中国政府が窒素系化学肥料(アンモニア、尿素)につ
いて、「上大圧小」(大型設備と生産ラインを新規導入するに伴い、小さく古い生産設備
を淘汰する)の方針を打ち出してから中国の窒素肥料工業が高速成長期に入り、産業集中
度が高くなり、外国先進技術の導入と設備の国産化が進み、カギ―となる石炭のガス化技
術に重大な革新があり、アンモニア合成および尿素合成装置の低圧化、大型化にまい進し
た。
しかし、2013 年以降、新たに増加した生産設備の完成により、窒素系化学肥料は生産能
力が過剰となり、生産ラインの稼働率が下がり、販売価格の下落も招いたことは中国窒素
肥料工業協会と中国石油連合会産業発展部会の合同調査により明らかになった。
以下は、中国窒素肥料工業協会と中国石油連合会産業発展部会の合同調査報告書の要旨
を訳したものである。ご参考ください。
一、窒素系化学肥料生産能力の迅速増大
国際肥料工業会(IFA)の統計によると、2012 年末現在、全世界のアンモニア合成能力
2.030 億トン、実生産量 1.660 億トンであった。また、2013~2015 年の 3 年間に生産能力
の平均年間増加率 3.4%と予測し、2015 年にアンモニアの合成能力が 2.242 億トンに達す
る。設備の稼働率が 85%で計算して、2015 年のアンモニア生産量が 1.928 億トンになる。
一方、需要面から見ると、2015 年に需要量が 1.806 億トンで、約 6%、1220 万トンの生産
過剰になる。
尿素については、2012 年末現在、全世界の尿素生産能力が 1.915 億トンに達し、実生産
量も 1.676 億トンであった。2015 年までの 3 年間に全世界の尿素生産能力と生産量の平均
年間増加率はそれぞれ 3.9%、5.3%と予測し、2015 年末に尿素生産能力が 2.146 億トン、
実生産量(稼働率 90%で計算)が 1.931 億トンに達する。一方、尿素に対する需要量が 2012
年の 1.64 億トンから 2015 年の 1.83 億トンに増加し、平均年間増加率 3.8%(農業分野の
需要増加率 2.7%、工業分野の需要増加率 9%)と予測しても、2015 年に尿素の過剰量が生
産量の 5%にあたる 1000 万トンになる。
中国に関しては、2012 年末現在、アンモニア合成能力がすでに 6850 万トンに達し、2005
年より 48.27%増加し、全世界の生産能力の約 34%を占め、断トツ 1 位である。また、尿
素生産能力が 7148 万トン、2005 年より 51.52%増加し、全世界の生産能力の約 37%を占
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め、
こちらも断トツ 1 位である。
2012 年の実生産量はアンモニア 6008.2 万トン、尿素 6192.6
万トン
(純 N に換算で 2850 万トン)
、
すべての窒素化学肥料生産量を純 N に換算して 4313.3
万トンにも達した。
また、生産能力が明らかに過剰になったにもかかわらず、窒素化学肥料への投資熱が下
がらない。調査によれば、2013 年に新たに 19 の尿素プロジェクトが完成し、合計 1016 万
トンの新規生産能力が増加した。2014~2015 年の 2 年間にさらに 25 の尿素プロジェクト
が完成し、合計 1674 万トンの尿素生産能力(その内の 1100 万トンは石炭産地の内モンゴ
ルと新疆に建設中)を新たに増加する予定である。
従って、古い設備の廃棄を入れても、2013~2015 年の 3 年間に新たにアンモニア約 1500
万トン、尿素 2000 万トン以上の新規生産能力が増加する。2015 年末に中国のアンモニア
合成能力 8350 万トン、尿素生産能力 9500 万トン、それぞれ世界シェアの 37%、44%を占
めるようになる。
一方、同じ窒素系化学肥料の硝安についてはさらに問題になる。硝安は危険品であるた
め、生産が許可制となっているが、生産能力増強の動きが止まるところを知らない。2012
年末現在、中国には 33 社の硝安メーカーがあり、生産能力 740 万トン、実生産量 483 万ト
ンであった。生産した硝安の用途内訳は工業用爆薬 337 万トン、硝安系化成肥料 100 万ト
ン、輸出 46 万トンであった。
しかし、生産能力が酷く過剰したにもかかわらず、現在建設中と計画中の新規硝安生産
設備の生産能力が 500 万トンを超え、2015 年に硝安生産能力が 1200 万トンに達すると予
測される。工業用爆薬の需要量が多く計算しても 500 万トンしかなく、残りの 700 万トン
は硝安系化成肥料および輸出に消費しなければならない。
2012 年末現在、中国の硝安系化成肥料メーカー約 20 社、生産能力が 658 万トンであっ
たが、価格の関係で、農家が尿素または尿素系の化成肥料を優先的に購入するため、硝安
系化成肥料を普及できなかった。2012 年の実生産量が約 100 万トンしかなかった。2015
年に硝安系化成肥料生産能力が約 900 万トンに増加し、硝安の消費量が 380 万トンと予測
されるが、それでも 320 万トンの硝安生産能力が過剰になる。硝安は可燃性が高く、爆発
危険性があり、簡単に爆薬が作られるため、在庫管理、輸送管理等の安全管理が困難で、
社会安定にも悪影響を及ぼす。
二、生産過剰による稼働率と利益率の下落
通常、窒素肥料業界では、正常の状態では設備稼働率が 85%以上であるが、2013 年、中
国窒素肥料業界の設備稼働率が 80%に下落し、製品の販売価格も 2012 年の最高値より 3
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割近く下落した。2013 年上半期の全窒素肥料業界の利益率がわずか 3%、赤字企業 145 社、
業界全体の 39%が赤字に陥った。しかし、新規生産設備の完成と稼働により生産能力の過
剰がさらに進み、2013 年末には設備の稼働率が 75%以下に落ちたと推定された。
2013~2015 年に原料供給不安定で、設備が古く、生産コストが高く、採算が取れない尿
素生産設備が約 600 万トンを廃棄する予定であるが、それでも 2015 年末に中国の尿素生産
能力が 9000 万トンを突破する。中国国内の尿素需要量が約 6230 万トン(農業用 4300 万
トン、工業用 1930 万トン、輸出用を計上しない)だけで、生産過剰量が 3000 万トン弱に
拡大する。
農業用尿素等の窒素化学肥料がすでに飽和状態となり、今後も使用量の増加が望まない。
一方、火力発電やセメント生産の脱硝用尿素とディーゼルエンジンの脱窒素酸化物(アド
ブルー)等の環境分野では 2013~2017 年に急速増加することがあるものの、ほかの工業用
途には需要量の増加が見込めない。2025 年には農業と工業分野の尿素需要量が約 7800 万
トンで、2016 年以降にアンモニアと尿素生産設備を新たに建設しなくても、1200 万トンの
過剰生産能力ギャップを解決しなければならない。
三、輸出の窮地
グロバール化に伴い、アンモニアと尿素の生産の重心が次第に資源とエネルギー豊富で、
価格の安い中東や北米に移転する傾向が明らかになった。また、需要の多いインドやベト
ナムも自国生産に力を入れ、新たに生産ラインを建設する動きも見られる。2013~2017 年、
中国以外に新たに 3300 万トンの尿素生産ラインが立ち上がり、そのうちインドとアメリカ
には約 1300 万トン、中東と北アフリカには約 2000 万トンの生産能力を新たに増加する。
今まで、中国産尿素はインドなどの南アジアおよびアメリカに大量に輸出して、国内の生
産過剰をある程度の解消に役立った。主な輸出先のインドとアメリカが自国生産量を増や
し、競争相手の中東・北アフリカが輸出能力の増強により、輸出による生産過剰を解消す
る今までのやり方が益々難しくなる。
一方、中国政府は国内農業用化学肥料の確保と資源保護の大義名分で、2007 年から化学
肥料の輸出を厳しく制限し、高い輸出関税を徴収する政策を取ってきた。窒素系化学肥料
生産能力が酷く過剰する現状に於いて、需要期と非需要期の差別的な輸出関税制度を維持
して、化学肥料の輸出を制御する手法では、国内化学肥料生産の安定と発展を阻害するだ
けではなく、外国への輸出にも非常に不利な立場になり、買い叩かれる。化学肥料の国際
価格の推移を見ればわかるように、中国の輸出関税の高い需要期には尿素やりん安の国際
価格が高く、輸出関税が下がった非需要期には外国の化学肥メーカーと貿易商社が手を組
んで、尿素やりん安の国際価格を低く抑制する傾向が明らかになった。中国メーカーが生
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産コストぎりぎりまたは生産コストより安い価格で輸出するしかなかった。国際競争力を
削っている。
四、 生産能力過剰の解決提案
以下は中国窒素肥料工業協会と中国石油連合会産業発展部会の提案である。
1. メーカーが速やかに老朽化した生産設備を廃棄する。現在、中国国内には技術が遅れ、
原料供給不安定、生産コストが高く、競争力のない尿素生産設備が約 600 万トン強ある。
それらを迅速に廃棄し、尿素生産から撤退することにより、生産能力を削減する。
2. 新規プロジェクトの立上げを厳しく制御する。
老朽した設備 600 万トンを廃棄しても、
2015 年末にまだ 2000 万トン弱の過剰生産能力を存在する。それを対拠するため、新規生
産装置の建設を抑制しなければならない。今後 5 年間に尿素、硝安、ソーダ―塩安併産法
設備の新規建設を原則に認めない。すでに許可されたが、着工していないプロジェクトを
中止すべきである。特に内モンゴル、新疆など石炭資源が豊富であるが、水資源が不足で、
生態環境が脆弱な西北地域には水消費量の多いアンモニアと尿素プロジェクトを中止すべ
きである。
3. 化学肥料の輸出規制を撤廃する。現行の需要期と非需要期の区分と需要期の高い輸出関
税政策を速やかに撤廃して、市場原理に沿って自由競争を推進する。競争力のないメーカ
ーが淘汰され、品質とコストの競争に勝つメーカーを育つ政策に転換して、過剰生産能力
を国際市場に消化する。
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