マイコプラズマ滑走運動の分子メカニズム - J

日本細菌学雑誌
62( 3 ):347–361,2007
©2007 日本細菌学会
平成 19 年小林六造記念賞受賞論文
マイコプラズマ滑走運動の分子メカニズム
―ユニークな生体運動―
宮 田 真 人
大阪市立大学大学院理学研究科生物地球専攻 細胞機能学研究室
〒 558–8585 大阪市住吉区杉本 3–3–138
ヒト異型肺炎の主な原因であるマイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)は,動物細胞や固形物の表面には
りつき滑るように動く“滑走運動”を行う。その運動は,動きが顕微鏡下で一目でわかるほどに速いものである。
マイコプラズマが宿主に寄生することに滑走運動は必須であるが,これまでにそのメカニズムが調べられたことは
なかった。筆者らはもっとも観察の容易な Mycoplasma mobile の滑走装置とタンパク質を発見し,構造と,そこ
で起こっている反応を調べた。それらの結果から滑走運動メカニズムを説明するモデルを提案した。さらにその知
見をもとに,Mycoplasma pneumoniae の滑走メカニズムの研究も進めている。マイコプラズマの滑走運動が,こ
れまでに研究されたどんな生体運動とも本質的に異なっていることが明らかになった。
1.はじめに
で達する(図 2B)(67)。マイコプラズマのゲノムにはバク
テリアの運動メカニズムとして知られているべん毛や線毛
今年日本で流行している“マイコプラズマ性肺炎”
(ある
の遺伝子も,真核生物の運動のほとんど全てを担っている
いは“マイコプラズマ肺炎”
)は小学校高学年の子供がよく
モータータンパク質(たとえばミオシンの様な)の遺伝子
かかる病気で,
マイコプラズマ=ニューモニエ
(Mycoplasma
も見つからない (29)。このことは,この現象が現在の生物
pneumoniae)
(以下,ニューモニエと略)
(図 1A)という細
学では説明できない“ミステリー”である(正確には“で
菌によって起こされる。この肺炎は,症状が比較的軽く,
あった”
)ことを意味している。筆者らは 1997 年からこの
患者が通常の生活を送れることから,英語では walking
ミステリーに挑戦し,以下に述べることを明らかにした。
pneumonia と表現される (90)。しかし,マイコプラズマ肺
幸いなことに筆者は 2002 年にも本学会誌で総説を著す機
炎は異型肺炎全体の約 6,7 割,全肺炎の約 1 割をしめ,
会に恵まれたため,本稿ではそれ以降の進展を中心に解説
あなどれない存在である。
“マイコプラズマ”は系統上は
する (91)。
“モリキューテス綱”に含まれる。モリキューテス綱は 200
以上の種を含み,ほとんどの種類は宿主の組織に接着する
2.どのように滑走する?
ための仕組みを発達させている (64)。さらにニューモニエ
筆者らは最も速く滑走する種,モービレを主に用いて研
を含む 12 種は細胞の片方の端に接着器官,あるいはヘッ
究を行ってきた。モービレは名前からもわかるように,生
ドと呼ばれる膜突起を形成し,その突起で動物細胞や,ガ
きていさえすれば常に動き続ける性質を持っている。また
ラスや,プラスチックにはりつき,すべる様に動く“滑走
ガラスなどの固形物にはりついたときにのみ動くことがで
運動”を行う(図 2A)
(http://www.sci.osaka-cu.ac.jp/~miyata/
きる。このことは顕微鏡下でモービレを観察するとガラス
myco1.htm)(7,34,52,92–96,98)。その速度は淡水魚の
からはずれた菌体がブラウン運動のみを行い,決して動か
エラにネクローシスを起こすマイコプラズマ = モービレ
ないことから容易に知ることができる。滑走運動は膜が細
(Mycoplasma mobile)(以下,モービレと略)
(図 1B)では
く突き出た部分(ヘッドと呼ばれる)に向けて起こる。進
毎秒 2.0–4.5 ミクロン,すなわち細胞長の毎秒 3–7 倍にま
行方向は時々刻々変化するが,他の運動性の細菌で見られ
るような動き方の顕著な変化は観察されない。すなわち,
Makoto MIYATA
Molecular mechanism of Mycoplasma gliding; a unique biomotility
Department of Biology, Graduate School of Science, Osaka City
University
進行方向の変化は菌体のガラスへの接し方に依存し,任意
に起こっているように見える。進行時における菌体軸を中
心とした回転も,ゆらぎ程度にしか存在しない (57)。一般
347
図 1.滑走するマイコプラズマ
(A)ニューモニエのネガティブ染色電顕像。接着器官が矢印で示してある。(B)モービレの走査電子顕微鏡像。
に知られているように,マイコプラズマにはペプチドグリ
ついた時にのみ運動するものがいくつか知られている。過
カン層がないが,菌の形態は比較的安定で動物細胞で見ら
去にはそれらは“滑走運動”としてひとくくりにされてい
れるアメーバ運動のような変化は全く観察されない。運動
たが,この 10 年ほどの間にそれぞれの仕組みが少し明ら
の速度は上記のように毎秒 2.0–4.5 ミクロンだが,これは
かになった (46,93)。それによると,マイコプラズマ以外
生育に至適な 25°C でのことで,滑走速度は温度に依存し
のものは 3 つにまとめることができる。
(i)線毛によるも
て直線的に変化する (55)。すなわち,全菌体の平均速度が
の,緑膿菌,藍藻,ミキソコッカスの S motility など (77),
12°C では毎秒 0.5 ミクロンだが,36°C では毎秒 4 ミクロン
(ii)スライムの分泌によるもの,一部のシアノバクテリア,
に達する。菌体はときどき左右に揺れるが,それを注意深
ミキソコッカスの A motility(59,89) など,
(ただしごく最
く観察するとヘッド近辺でガラスに結合していることがわ
近にミキソコッカスの“スライムによる推進力”を否定す
かる。以下に詳しく議論するが,この,ガラス結合を行っ
る論文が発表された (49)。)
(iii)サイトファーガ―フラボ
ている部分に滑走の装置が局在している。
バクテリアのもの,菌体表面の多糖か,タンパク質の流れ
一方,マイコプラズマ肺炎を起こすニューモニエはどう
によるメカニズムが提唱されている (47)。これらの運動は
だろう?こちらはモービレより少し遅く,生育の至適温度
全てマイコプラズマから系統的に遠く離れたグラム陰性菌
である 37°C では毎秒 0.3–1 ミクロンの速度で滑走し (8),
に見られること,
必要な遺伝子に類似性が見られないこと,
滑走速度は温度に依存する (69)。運動はカルチャーの状態
同じ“滑走運動”といっても顕微鏡下で見られる菌の挙動
に依存し,古いカルチャーでは動いている菌体の比率が低
が全く異なること,などから,マイコプラズマの滑走運動
い。若いカルチャーでも全ての菌体が動くわけではなく,
とは全く関係がないと考えられる。
動きは菌体の分裂増殖サイクルに依存する (17)。すなわち,
滑走運動が観察されている 12 種類のマイコプラズマは
マイコプラズマは二分裂を経て増殖するが (50,56,72,
モリキューテス綱の中で系統的に離れた 2 つのグループに
73),分裂期にある菌は滑走しない。菌体の片側の端はやは
属している。4 種はモービレに代表される Mycoplasma
り細く突き出ており,この部分は“接着器官”あるいは
pulmonis のグループに,残りの 8 種はニューモニエに代表
“チップ”と呼ばれる。滑走中の菌体を注意深く観察すると
される Mycoplasma pneumoniae のグループに属している
この接着器官でガラスに結合しているのがわかる。菌体は
(18)。どちらも菌体の片方の端に形成される膜突起で固形
モービレよりずっとやわらかく,滑走時に菌体の後部が細
物にはりつき,突起方向に動くこと,比較的スムースな動
かく揺らいでいる。
きであること,速度もあまり違わないこと,などから同じ
ごく最近まで,毎秒 2.5–4 ミクロンという速い滑走速度
仕組みで動くように思われる。しかし,それぞれのグルー
はモービレのみの特徴であると考えられていた。しかし,
プの滑走に必要なタンパク質の間にアミノ酸配列の相同性
淡水に住むカメから単離された 3 種のマイコプラズマは
は全く見られない (82,84)。このことから 2 つのグループ
モービレとほぼ同じ滑走速度を示すことが明らかになった
のメカニズムが異なるものであるという議論がなされてい
(32)。しかもそのうち 1 種はモービレではなくニューモニ
る (29,62)。生命現象一般における,
“同じメカニズム”の
エと近縁であった。このことは生育環境が滑走速度の大き
定義は何であろうか?原始的な“滑走運動メカニズム”か
な決定因子になっていることを示唆している。
ら進化の過程で 2 つに分岐したことが明らかになった場合
3.滑走運動の系統関係
細菌の中にはマイコプラズマ以外にも固形物表面にはり
348
に,
“同じメカニズム”と呼べるのであろうか?筆者には,
固形物表面にはりついてそのままに能動的に動くメカニズ
ムを進化の過程で構築することは,そんなに容易なことで
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図 2.マイコプラズマ滑走運動の軌跡
(A)ニューモニエの滑走運動。10 秒のビデオから選んだ画像を紫から赤へと変化するように異なった色をつけ,1 枚の画像に統合した。
画像中の軌跡は滑走速度,滑走の方向,他の軌跡との時間的な関係を示している。(B)モービレの滑走運動。4 秒のビデオから選んだ
画像を(A)と同様に処理した。
図 3.モービレの滑走タンパク質遺伝子
ゲノム上にタンデムに存在している。タンパク質それぞれの役割
が下に示してある。
はないように思われる。しかし同時に,滑走運動すること
がマイコプラズマの生き残りの絶対条件であること,進化
の中で世代の短いマイコプラズマが多数回の選択をうけて
きたことを思えば,マイコプラズマの進化の中で 2 回の滑
走運動メカニズムの構築が起こることが可能であるとも思
われる。答えは 2 つのマイコプラズマグループの滑走の装
置とメカニズムがさらに明らかになったときに得られるの
かも知れない (51)。
図 4.モービレ菌体表面におけるタンパク質の局在
菌体表面に存在するタンパク質それぞれに対する抗体で染めた。
K, I, N&O はそれぞれ MvspK, MvspI, MvspN&O の局在を示してい
る。MvspN と MvspO は共通の配列を持ち,抗体はその部分を認
識している。poly はコントロールで,表面の多数のタンパク質が
染められている。
4.滑走の目的と病原性
マイコプラズマの接着が寄生性に重要なことはよく知ら
動が決定的な役割を果たしていることを示していた (31,
れている。ではマイコプラズマは何のために滑走するのだ
41)。モービレは淡水魚のエラから単離され,同器官に炎症
ろうか?マイコプラズマ以外の運動性の細菌のほとんどは
を起こすことが知られている (35,36,78–80)。エラは常に
化学走性をもち,よりよい環境を求めて移動する。そして
水で洗い流される状態にあるため,モービレは滑走するこ
それらの化学走性の全ては二成分制御系(Two component
とで宿主にとどまることが可能になっているのかも知れな
system)に依存している (6,99)。驚いたことにマイコプラ
い (68)。さらにもう一つの可能性は,動き回ることによっ
ズマのゲノムには二成分制御系の遺伝子が見つからない
て過密状態を緩和しているというものである。マイコプラ
(29)。マイコプラズマは走性なく動いているのか,あるい
ズマは組織にしっかりとはりつくため,動かなければすぐ
は運動と同様に未知のメカニズムによる走性を持つのであ
に過密状態に陥り全個体が死滅してしまうと思われる。
る。ジョージア大学の Duncan Krause らは,接着はできる
が滑走はできないニューモニエの変異株を作製し,その株
のヒト気管上皮細胞への接着過程を調べた。その結果は,
繊毛先端にはりついてからの細胞表面への移動に,滑走運
5.モービレ滑走運動メカニズムの研究
淡水魚病変組織から単離されたモービレは医学的,産業
的な観点からはそれほど重要な存在ではない。そのため
349
表 1.滑走タンパク質の特徴
タンパク質
Gli123
Gli349
Gli521
P42
遺伝子 ID
アミノ酸数
予想分子量
等電点
アミノ酸含量の特徴
MMOB1020
1,128
123,318
5.1
Cys (0%)
Asn (14.8%)
N 末端付近
MMOB1030
3,181
348,516
4.9
Cys (0%)
Asn (12.0%)
N 末端付近
MMOB1040
4,684 (4,728)a
515,863 (520,568)
5.2
Cys (0%)
Asn (13.5%)
C 末端付近 b
MMOB1050
356
42,003
9.6
Cys (0%)
450
neck
450
膜貫通セグメント
モチーフ
菌体内局在
菌体内分子数
なし
変異株の性質
タンパク質の機能
なし
450
NDc
ND
力伝達
ATP 加水分解
接着も滑走もしない
装置の形成
ND
固形物結合
a
:エドマン分解により,43 番目と 44 番目アミノ酸の間におけるプロセスが示された。
:もう一つの膜貫通セグメントが,プロセスされてしまうアミノ末端側に予測される。
c
:ND は未決定。
b
図 5.モービレのくらげ構造
ネガティブ染色像。トライトンで細胞膜を除去することによって
可視化された。
1997 年まではあまり注目されていなかった。しかし今日で
は,その特筆すべき滑走活性から,いろんな分野で研究さ
れるようになってきている。
1)滑走タンパク質
著者らは滑走も接着もできない変異株を取得してそこで
失われているタンパク質を探すこと (58),滑走を特異的に
阻害するモノクローナル抗体を作製してその標的を探すこ
と (42,74),の 2 つの方法で,滑走運動に直接関与する 3
つのタンパク質を同定した。それらは非常に大きな分子量
を持っており,
ゲノム上にタンデムにコードされていた
(図
図 6.モービレ滑走装置の模式図
3)(74,82,84)。著者らはそれらを Gli123 などと名づけ
た。これは Gliding protein 123 kDa の略である。それぞれの
在していると考えられるこの部位を新たに,
“ネック”と名
タンパク質の特徴を表に示す(表 1)。
づけた。さらに免疫電子顕微鏡法で得た菌体像を立体視す
2)滑走タンパク質の細胞局在
ることで,滑走装置がネックの全周に帯状に存在している
これらのタンパク質に対する抗体を用いて免疫蛍光顕微
ことを明らかにした。著者らはまた,滑走とは直接関係の
鏡法で細胞局在を調べた。3 つのタンパク質はどれもヘッ
ない Mvsp という表面タンパク質が,ヘッドのみ,ネック
ドの基部に局在していた(図 4)(42,74,82,84)。このこ
のみ,あるいはネック以外の部分のみに局在していること
とはモービレがヘッド付近でガラス表面に結合している様
を明らかにした (42)。Mvsp タンパク質は,
(i)その遺伝子
に見えることと一致する (57)。著者らは,滑走の装置が存
がゲノム上に 16 コピーのクラスターとして存在している,
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(ii)90 アミノ酸の共通のリピートが多数存在している,
(iii)
と固形物表面の間の距離が約 25 ナノメートルであること
イムノドミナントである,
(iv)N 末端側に膜貫通セグメン
が明らかになった。菌体と固形物表面の間を結ぶ構造は
トか脂質結合部位が存在している,などの理由から抗原性
“rapid freeze/fracture/deep etch/replica”電子顕微鏡法で明ら
変化をになうタンパク質であることが示唆される (29)。さ
かになった (54)。数十本の約 50 ナノメートルの足のような
らに,これらのことは抗原性変化のタンパク質も菌体表面
構造がネック周辺の細胞膜から突き出し,先端部分で固形
で局在していることを意味している。ひょっとすると一般
物表面に接していることが観察された。この構造が固形物
的に抗原性変化のタンパク質は菌体上で局在していて,そ
表面をつかんだり離したりして菌体を前方向に引っぱって
のことが抗原性やその変化と関係するのかも知れない。
いると考えられる。考えられる機能,形態と大きさなどか
3)滑走装置周辺のアーキテクチャー
ら考えて,
“あし”構造は主に Gli349 タンパク質で構成さ
装置はどのような形状をしているのだろうか?ネガティ
れていると考えれられる。
菌体構造の全体像を図 6 に示す。
ブ染色電子顕微鏡法で詳細に観察すると,ネック表面は多
4)Gli349 タンパク質
くの細い繊維でおおわれているように見える。滑走のタン
このタンパク質は 3181 のアミノ酸で構成されており,N
パク質がネックに排他的に存在することを考えれば,この
末端近辺に膜貫通セグメントが存在している。滑走タンパ
繊維が滑走装置に含まれることは想像に難くない。単離さ
ク質の中でこれが最初に見つかったので,その性質が最も
れた Gli349 分子の形状が繊維状であること(後述)(1),
よく解析されている (42,82)。このタンパク質に対するモ
Gli349 は細胞外部から抗体がアクセスしやすいこと (82),
ノクローナル抗体は滑走速度を抑制し,最終的には菌体を
などを考えるとこの繊維が Gli349 である可能性が高い。菌
ガラスから外してしまう。そのため,Gli349 タンパク質が
体をトライトン X100 で処理するとくらげに似た構造が現
滑走中における固形物結合をになっており,何らかの動き
れた(図 5)
(投稿中)。このくらげ構造は,格子模様があっ
を行っていると考えられる。Gli349 はタンパク質のゲル電
て硬く見える“傘”に数十の柔らかい“触手”が結合した
気泳動(SDS-PAGE)のゲル中でブロードなバンドを形成
構造である。触手には直径が約 20 ナノメートルの 180° 回
すること,またプロテアーゼ処理に感受性であることから
転対称の粒子が周期的にくっついている。触手は滑走タン
分子全体が柔らかい性質を持つものと考えられる (48)。こ
パク質それぞれがない変異株では触手がよりこわれた状態
のタンパク質をモービレの菌体から単離精製し,その構造
になっており,このことはくらげ構造が滑走装置と密接に
を解析した (1)。ゲルろ過による解析は単離された Gli349
かかわっていることを意味している。近年,アクチンオル
タンパク質がモノマーであることを示していた。ロータ
ソログの MreB と,チューブリンオルソログの FtsZ が細菌
リーシャドウイングによる電子顕微鏡観察から,分子が約
のほとんどに存在していることが明らかになった (15)。一
100 ナノメートル長で,八分音符(♪)のような形状をし
般的に MreB は細胞形態の維持と染色体分配を,FtsZ は細
ていることが明らかになった(図 7)
。それらは片方の端に
胞質分裂をになっている。しかし,モービレのゲノムには
直径約 14 ナノメートルの球状の部分を持っており,著者
どちらの遺伝子も存在しない。著者らはくらげ構造を単離
らはこの部分を“フット”と名づけた。フットからそれぞ
し,ペプチドマスフィンガープリンティング法で 10 個の
れ 43,20,20 ナノメートルの 3 つのロッドがこの順につ
構成タンパク質を同定した。そのうち 6 つの遺伝子はゲノ
ながっており,1 つめと 2 つめのロッドを結ぶヒンジは柔
ム上でクラスターを形成していた。10 個の構成タンパク質
らかく,それに対して最後のヒンジは硬くて曲がり角は約
のうち 6 つは既知タンパク質との配列相同性が見られない
90 度だった。また分子像の相当数は,この部分がおれたた
ものであった。また 2 つはプロトン駆動力で ATP を合成す
み可能であると想定することで説明できるものであった。
る,ATP 合成酵素のサブユニット,アルファとベータのそ
モノクローナル抗体を用いた解析から,フット側が C 末端
れぞれに明らかな相同性を示した。しかし,ゲノム上の近
側であることが明らかになった。原子間力顕微鏡(AFM)
辺に ATP 合成酵素の他の 6 つのサブユニットは見つから
による水中での観察を行ったところ,一番長いロッドは非
ず,代わりに別の位置に ATP 合成酵素の全サブユニットが
常に柔らかかった。さらにアミノ酸配列を詳細に解析する
コードされている。このことから,くらげ構造を構成して
と,Gli349 の配列の 60%が約 100 アミノ酸からなる弱いリ
いるタンパク質はATP合成やプロトンの輸送とは別の機能
ピート配列から形成されていた (48)。このリピート配列は
を持っていると考えられる。同様の例が細菌べん毛のタン
これまでに報告されたどのような配列とも相同性はなく,
パク質輸送や,細菌のエフェクター輸送を行う,III 型分泌
また三次元構造も未知のものであると予想された。またリ
システムでも見られる (2,26)。すなわち ATP のエネルギー
ピート配列以外の部分は菌体のプロテアーゼ処理に対して
を用いてタンパク質輸送を制御する構成要素がATP合成酵
感受性であることから,リピートを結ぶ部分ははっきりと
素の明らかなホモログである。
した立体構造をとっておらず,柔らかく,また外部に露出
次に菌体と固形物表面との間の相互作用を調べるため
していることが示唆された。Gli349 分子に対する知見を図
に,雲母板表面を滑走しているマイコプラズマを化学的に
6 の下の部分にまとめた。短いロッドの端が N 末端で,そ
固定し,切片を作製して電子顕微鏡で観察した。菌体と雲
こには膜貫通セグメントが存在する。2 つの短いロッドが
母をつなぐ構造ははっきりとは観察されなかったが,菌体
細胞膜近辺に存在し,分子が固形物表面についている場合
351
ぐ下流にコードされている P42 に ATP 加水分解活性が認め
られたため,現在では Gli521 の役割がモーターからあしに
力を伝えるギヤであると考えている (61)。Gli521 のない変
異株は固形物表面への結合もせず,Gli349 タンパク質の量
も少ない (74)。このことは Gli521 が Gli349 の足場としての
役割も果たしていることを示唆している。Gli521 タンパク
質を単離精製してその性質を解析した。このタンパク質も
基本的にモノマーだが,ロータリーシャドウイングで見た
分子像はそれぞれのアームが約 130 ナノメートルの三つ又
形状だった(図 8)。同じく三つ又形状をとる“クラスリ
ン”は,真核細胞の膜の裏打ちを行うことで小胞を形成す
ることがよく知られている。Gli521 もモービレ菌体のネッ
ク部分の形態形成,維持をになっているのかも知れない。
プロテアーゼによる部分分解を行うと Gli521 タンパク質は
3 つに切断される。このことと三つ又形状に何らかの対応
があるかも知れない。滑走を阻害するモノクローナル抗体
は,3736 から 4020 番目のアミノ酸から構成される領域に
結合する。このことは,この部分が菌体外部に向いていて,
滑走メカニズムの中で構造変化を起こしていることを意味
している。
6)Gli123 タンパク質
このタンパク質は 1128 のアミノ酸からなっており,N 末
端側に膜貫通セグメントが存在している (84)。ゲノム上で
は Gli349,Gli521 タンパク質の上流にコードされている
(図 3)
。こ の タ ン パ ク 質 を 欠 失 し た 変 異 株 で は Gli349,
図 7.モービレのあしのタンパク質,Gli349
菌体から精製したタンパク質をロータリーシャドウイング法を用
いて観察した。
(A)フィールド像。
(B)典型的な分子像を並べた
もの。
Gli521 タンパク質の細胞局在と安定性が損なわれる。また
Gli123 タンパク質は Gli349,Gli521 タンパク質と同じ位置
に同じ分子数が存在している。これらの観察はこのタンパ
ク質が他の滑走タンパク質に結合サイトを提供し,滑走装
置複合体の形成に重要な役割を果たしていることを意味し
には長く柔らかいロッドが膜から突き出している。この部
ている。このタンパク質に対する抗体は菌体外部から分子
分は,分子が固形物表面についていない場合には菌体表面
にアクセスできるが,滑走運動を阻害することはない。こ
に沿って存在していると考えられる。
フットは C 末端側で,
のことは滑走メカニズムの中で Gli123 が大きな構造変化を
固形物表面への結合を行っている。著者らはこれまでに,
行っていないか,あるいは動く部分が外部からはアクセス
滑走しているマイコプラズマのガラス結合を阻害する 2 つ
できない位置に存在していることを意味している。
のモノクローナル抗体を取得しているが,どちらもおりた
たみ可能なヒンジ近辺に結合する。そのため,このドメイ
7)滑走時の結合対象
マイコプラズマの滑走運動はガラス表面で観察される。
ンが構造変化のホットスポットであると思われる。C 末端
しかし自然界ではマイコプラズマは動物組織上を滑走する
に近い,2770 番目のセリンがロイシンに変わった変異株は
ため,本来の結合対象は動物細胞の表面構造か細胞外マト
固形物表面に結合することができず,結果として滑走でき
リクスのはずである。ガラスを血清でコートするとモービ
ない。そのためこの辺りの構造が結合に重要であると考え
レはそのガラスにはりついて滑走するようになるが,コー
られる。
トしたガラスをプロテアーゼ処理するとモービレはガラス
5)Gli521 タンパク質
につかなくなる (28)。これらのことは血清中のタンパク質
このタンパク質は 4728 個のアミノ酸からなる ORF とし
成分が動物組織の表面構造と同じ構造を有しており,それ
てコードされている。両末端に膜貫通セグメントが存在す
が滑走に必要なガラス結合を行っていることを示唆してい
るが,N 末端側はプロセスされる (74)。滑走するモービレ
る。放射活性で測定したニューモニエの結合対象がシアル
をガラスにはりつけたまま動きを止める抗体の標的,とし
酸であることが,以前に報告されていた (65)。そこで著者
て同定された。そのため,著者らはこのタンパク質の役割
らは,ニューモニエの結合を阻害する物質がモービレの滑
はモーターであるか,あるいはモーターからあしに力を伝
走に与える影響を解析し,以下の結果から,タンパク質に
える“ギア”であると考えた。しかし Gli521 の遺伝子のす
結合したシアル酸(実際には N-acetylneuraminyllactose)
(図
352
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,2007
図 8.モービレのギアのタンパク質,Gli521
菌体から精製したタンパク質をロータリーシャドウイング法を用いて観察した。上段は Gli521 の典型的な分子像を並べたもの。下段は
真核生物のクラスリン (85)。
図 9.シアル酸の構造
9)がモービレのガラス結合を仲介すると結論づけた (60)。
では細胞膜をトライトンで透過化し,ATP を加えて運動を
すなわち,
(i)ガラス結合は N-acetylneuraminidase で阻害
再活性化する。このことにより,直接のエネルギー源が
される。
(ii)ガラス結合は N-acetylneuraminyllactose で阻
ATP であることが証明され,さらに精子内部における反応
害される。
(iii)N-acetylneuraminyllactose のついたアルブ
を研究することが可能になった。著者らがモービレを用い
ミンをコートしたガラスにモービレは結合する。
(iv)滑走
て同様の実験を行ったところ,モービレの運動は膜の透過
速度はガラス上の N-acetylneuraminyllactose の濃度に依存
化と共に停止した (83)。膜を透過化したモービレを“ゴー
する。上述のように,Gli349 の C 末端側が固形物表面への
スト”と名づけたが,ゴーストは ATP の添加によって 5 秒
結合に関与している。しかし,この部分のアミノ酸配列に
以内にもとの速度にまで再活性化し,その動きは 1 時間以
シアル酸結合タンパク質の特徴は見つからなかった。この
上持続した。この実験から著者らは直接のエネルギー源が
ことはニューモニエの結合タンパク質,P1 アドヘジンの配
ATP であると結論づけた。
列にもあてはまる。これらのことはマイコプラズマのタン
P42 は Gli521 の遺伝子の下流にコードされる 356 アミノ
パク質が新規のシアル酸結合タンパク質であることを示し
酸からなるタンパク質である(図 3)
。このタンパク質のア
ているのかも知れない。あるいは,これら“あし”のタン
ミノ酸配列は ATPase を示唆するようなモチーフを持たな
パク質に結合した別のタンパク質がシアル酸結合をになっ
いが,そのタンパク質は活性を持ち,その性質はゴースト
ているのかも知れない。
の実験から予測される“モーター”のものと一致していた
8)エネルギー源
(61)。このことは滑走メカニズムのモーターがこのタンパ
生体運動のメカニズムを考える上で,直接のエネルギー
ク質であることを示唆している。
源は必須の情報である。この情報を得るために著者らは
9)さらなる滑走の性質
種々の薬剤の運動に与える影響を調べた。その結果,運動
菌体の尾部にプラスチックビーズを結合させ,このビー
速度は膜ポテンシャルには全く依存しないが,菌体内の
ズに光ピンセットかよく制御した液体の流れによって負荷
ATP 濃度減少に比例して減少することが明らかになった
をかけることでモービレが出している力を測定した (55)。
(28)。このことは滑走メカニズムが ATP に依存することを
滑走の速度はかけた負荷に比例して遅くなった。また最大
示唆している。真核生物の鞭毛のエネルギー源を明らかに
力は温度に依存せず 27 ピコニュートンで,これはモービ
したのは,トライトンモデルという実験である (14)。そこ
レの菌体を動かすのに必要な力の 1800 倍だった。
(1 ニュー
353
トン(N)は,1 キログラムの物体を 1 秒間で毎秒 1 メート
き(ii)が起こる。あしの長さが約 50 ナノメートルである
ルの速さまで加速する力)菌体表面には約 450 の滑走装置
ことと滑走速度が毎秒 2.5 ミクロンであることを考えると,
ユニットが存在する (82,84)。ある瞬間を見たときに,4
このステップは遅くとも 10 ミリ秒以内に起こらなくては
分の 1 のユニットが固形物表面に接することができるとも
ならない。外力によって止められる場合(ストール)はこ
し仮定すると,それぞれのユニットは最大で 0.24 ピコ
のステップで止まると考えられる。ステージ(c)ではあし
ニュートンの力を出すことになる。この数字はミオシンや
にかかる張力が減少し,この変化がステップ(iii)におけ
キネシンなどのモータータンパク質の最大力,3–5 ピコ
る,あしのシアル酸の解離を誘発する。張力の減少はまた,
ニュートンに比べてずっと小さい。
ステージ(e)の様にもとのコンフォメーションへの戻りを
さらに著者らは,あしの動きにかんする情報を得るため
誘発する。そしてユニットはゆるい結合状態(f)を通って
に,
50 から 1000 ナノメートルまでのいろんな高さのステッ
強く結合した状態へ戻る。Gli349 に対するある抗体は,滑
プを作製してモービレに上り下りさせてみた (24)。400 ナ
走するマイコプラズマをガラスから解離させるが,また滑
ノメートル以上の高さのステップはあまり上らないが,こ
走速度も抑制する。実測した最大力(ストール力)が,計
れはモービレの細胞の大きさを考えると容易に理解するこ
算からえた,マイコプラズマ菌体を通常の速度で引っ張る
とができる。逆に,モービレはステップ下りが苦手で,た
のに必要な力の 1800 倍と大きいので,滑走速度の低下は
いていは崖に沿うように曲がってしまう。また,細い溝を
抗体によって機能するあしの数が減少することでは説明で
作ってはめた場合も決して運動方向が逆転することがな
きない。そのため,ゆるい結合状態(f)があるために抗体
い。これらの観察はあしが柔らかく,主に足場を引っぱる
によって誘発される,“引きずり力”を考える必要がある。
ことで動いていると考えると理解しやすい。モービレは赤
この,抗体による菌体のガラスからの遊離はステップ(v)
血球の表面もガラスと同じように滑走するが,その様子を
の逆反応を介して起こるのである。著者らは菌体あたりに
微分干渉顕微鏡で観察すると赤血球膜がモービレの方向に
約 450 の滑走ユニットが存在していると考えている。これ
引っぱられているように見える (13)。この観察は赤血球膜
が正しいとすると,ユニットは菌体を前方向に引っ張る時
を小さなビーズでマークすることにより確かめられた。
に協同的に働く必要がある。一般的に,ミクロスケールで
10)メカニズムの特徴とパワーストローク(ムカデ)モ
デル
は分子間相互作用の影響は強調される。あしは柔らかいた
め,その動きは特殊な方法で制御しなくても,物理的に協
メカニズムは「ATP のエネルギーで結合と解離を繰り返
調すると考えられる。ここに示したサイクルはまだあくま
す」といった点でミオシンやキネシンのようないわゆる
で作業仮説の段階である。しかし,これまでに滑走を特異
“モータータンパク質”と共通点がある。しかし,マイコプ
的に阻害する 3 つの抗体を単離し,4 つの滑走と結合に影
ラズマの滑走運動には以下にあげるような特徴がある。
(i)
響を及ぼす変異点を同定したが,これらエフェクターの滑
滑走の装置の半分は外部に露出している。
(ii)ATPase と固
走タンパク質における標的位置を決定すると,この作業仮
形物への結合部位は約 50 ナノメートル離れている。
(iii)
説がこれらの効果をよく説明することが明らかになった。
レールであるシアル酸には方向性がない。
(iv)動きを止め
作業仮説はモービレにおける観察をもとに提案された。
てしまうのに必要な力はユニットあたり 0.24 ピコニュート
これは当然,M. pulmonis のようにゲノム中に容易にオルソ
ンと小さい。
(v)Gli349 の最も長いロッドが柔らかいため,
ログの見つかる,
近縁種には当てはまるものと思われる (9,
メカニズムには押すようなステップはないと考えられる。
29)。しかしニューモニエグループの種はどうであろうか?
これらの特徴とこれまでに得られた他の結果を考慮して,
著者らはニューモニエの接着タンパク質,P1 アドヘジンに
著者らはメカニズムをパワーストローク(ムカデ)モデル
対する抗体が,抗 Gli349 抗体のモービレに対する効果と同
で説明しようとしている (51,92,94,97)。すなわちそれ
じようにニューモニエの滑走速度を抑制し,最終的には菌
ぞれの滑走ユニットはメカニカルサイクルの中にあり,サ
体をガラスから遊離させてしまうことを見いだした (69)。
イクルは一連の状態(図 10,a から f)と(i)ストローク,
このことは 2 つのグループ間におけるメカニズムの共通性
(ii)動き,(iii)解離,(iv)戻り,(v)ゆるい結合,(vi)
を示唆しているのかも知れない。
強い結合,からなる移行ステップ,から構成される。ここ
11)メカニズムの完全な理解のために
での大きな仮定は,図中の稲妻でマークされるように,あ
上記のモデルはこれまでの実験結果をよく説明するが,
しにかかった張力がステージの進行を誘導することであ
あくまでも作業仮説である。前出のように著者らは細胞の
る。ステージ(a)ではあし(Gli349)が固形物表面のシア
ヘッドとネックの内側に存在するくらげ様の細胞骨格を発
ル酸に強く結合する。あしにかかった力があしの上部の構
見した。この構造は Gli521 タンパク質と作用することが示
造変化を誘発し,(i)のストロークになる。この誘発は仮
唆されているが,滑走メカニズムにおける役割はまだわか
定である。ユニットはステージ(a)で新しい ATP 分子を
らない。それは滑走装置を機械的に支えているのだろう
待っている,なぜなら ATP がトライトンによる細胞膜の透
か?滑走のタンパク質を輸送しているのだろうか?あるい
過化で失われた時にゴーストは動かなくなるからである。
はもっと直接的な役割を果たしているのだろうか?滑走メ
ステージ(b)ではより強い張力があしにかかり,実際の動
カニズムのイメージをもっと具体化するには以下の情報が
354
日本細菌学雑誌 62( 3 )
,2007
図 10.モービレ滑走メカニズムのモデル
ネック部分に多数存在する滑走ユニットの 1 つに注目している。6 つの状態からなるサイクル。あしにかかる張力の変化でサイクルが進
む(稲妻で表された部分)。
図 11.MvspI と滑走装置ユニットの形態
左が MvspI で,右が滑走装置ユニット。
有効と思われる。
(i)装置の全体と原子レベル像,(ii)蛍
図 12.ニューモニエ接着器官の内部に見られる細胞骨格
細胞膜を界面活性剤で部分的に溶かしたもの。左が菌体先端部。
(ii)縞のある対になったプレート,
(iii)ロッドの先端(ターミナ
ルボタン)
,
(iv)ホイール複合体,がそれぞれの番号で示してある。
光ラベルと力測定による装置の実際の動きの検出と解析,
(iii)作業仮説の数学的検証,(iv)運動系の再構築。
12)滑走メカニズムの起源
察を行った。タンパク質はホモダイマーで C 末端側の柔ら
滑走タンパク質のアミノ酸配列は他のどのタンパク質と
かい部分が N 末端側の球状の部分から突き出していた。こ
も似ていないため,滑走メカニズムの起源は現時点ではわ
のタンパク質のアウトラインは図 11 で示すように滑走ユ
からない。一般にマイコプラズマは動物の組織に寄生する
ニット全体の形を彷彿とさせるものであった。これらの事
ため,発達した抗原性変化のメカニズムを有している。
実は滑走タンパク質と抗原性変化のタンパク質の起源が共
Mvsp タンパク質は上述のように抗原性変化を行っている
通であることを示唆するのかも知れない。
ことが示唆されており,そのアミノ酸配列は Gli349 タンパ
ク質と同様に約 90 アミノ酸からなるリピートから構成さ
6.ニューモニエ滑走運動の研究
れている (29)。その中で最も大きな分子量,220 k をもつ
ヒト肺炎の原因菌であるニューモニエの滑走と接着に関
MvspI はネック以外の菌体表面に大量に存在している。著
する研究のはじまりはモービレよりずっと早く,1970 年代
者らはこのタンパク質を単離し,性格づけと分子の形態観
初頭に遡る (63)。滑走装置には,接着と滑走に必須な多数
355
図 13.接着器官のアーキテクチャー
これまでの知見を統合して示してある。
のタンパク質が存在しており,よく組織化された内部構造
を特徴としている(図 12)(51)。ニューモニエでは,モー
ビレと異なり 1996 年に報告されたゲノム情報をベースに
した若干の遺伝学が使える。
1)接着器官の超分子構造
接着器官とその内部のアーキテクチャーは 1970 年代初
頭に見つかったが,その構造の詳細な解析はあまり行われ
てこなかった。ごく最近になってエレクトロンクライオト
モグラフィー(ECT)を含む電子顕微鏡を用いた構造研究
がなされ,構造の詳細が少しずつ明らかになりつつある
(20,21,75)。以下に現在の知見を概観する。接着器官は
以下のように大きく分けて 5 つのパートから形成されてい
る(図 13)
。
(i)表面構造(ナップ,けば),
(ii)縞のある
対になったプレート,
(iii)ロッドの先端(ターミナルボタ
ン),
(iv)ロッドの根元(ボウル,あるいはホイール)
,
(v)
密度の低い部位。以下にその詳細を解説する。
図 14.ニューモニエの接着関連タンパク質の局在
P65 と HMW3 がそれぞれ青と緑で示してある。位相差顕微鏡像と
蛍光顕微鏡像を別々に取得し,オーバーレイした (33)。
(i)表面構造:菌体をネガティブ染色法で観察すると接
着器官表面にはナップと呼ばれる構造が見られる (25)。似
観察すると中央には高密度のコアがあり,その周りは低密
た 構 造 が ニ ュ ー モ ニ エ グ ル ー プ の 他 の 種,す な わ ち
度の部分で囲まれている (25,76,86,87)。菌体をトライ
Mycoplasma genitalium,Mycoplasma pulmonis,Mycoplasma
トン X-100 で処理すると細胞骨格とおぼしき不溶構造が現
gallisepticum で観察される (36)。最近の ECT による研究で
れる。それは厚みのあるロッドとバスケット状構造を形成
も接着器官表面に膜タンパク質が集中していることが報告
する繊維ネットワークから形成されている。ロッドは切片
されている (21,75)。それぞれのユニットは高さが約 16 ナ
像における高密度コアに対応すると考えられる。これが接
ノメートルで,それは菌体側の約 10 ナノメートル長のス
着器官を支え,バスケット状構造が菌体のその他の部分を
トークと,先端側の高さ 4–8 ナノメートルで 8 ナノメート
支えていると考えられていた (37,53)。しかし,トライト
ル幅の球状の部分から構成されている。また,この構造は
ン不溶構造をDNaseで処理するとバスケット状構造は消失
細胞膜を貫通しており,24 ナノメートルまで細胞質側に伸
するため,この構造は核酸である可能性が強い。ロッド構
びておりその先端が少し膨らんでいる。滑走運動が菌体と
造は見かけ上 2 つの部分に分けられる。ひとつは縞のある
固形物の間で起こる現象であることを考えると,この構造
対になったプレートで,もう一つは先端の構造(ターミナ
が“あし”としての役割を果たしている可能性が大きい。
ルボタン)である。最近の ECT を用いた研究により,この
(ii)縞のある対になったプレート:接着器官の切片像を
縞のある対になったプレートは約 7 ナノメートルのギャッ
356
日本細菌学雑誌 62( 3 )
,2007
プで隔てられた,異なった厚みの 2 枚のプレートからでき
のある対になったプレートの構成成分である可能性がある
ていることが明らかになった (21,75)。プレートは柔軟性
(39,44,71)。
(iv)ロッドの根元に局在する,ホイールの
があり中央より少し根元側で約 150 度湾曲していることが
多い。
(iii)ロッドの先端(ターミナルボタン)
:高密度コアの
構成要素と考えられるタンパク質。P41(MPN311)
,P24
(MPN312)
,P200(MPN567)が含まれる (31,33)。
(v)接
着器官の先端に存在し,ターミナルボタンを構成すると考
先端側は膨らんでおり,細胞膜に結合している。この膨ら
え ら れ る タ ン パ ク 質。P65(MPN309)
,P30(MPN453)
,
んだ部分はターミナルボタンと呼ばれている (4,53,87)。
HMW3(MPN452)(33,66,70,71,81)。これらのタンパ
これらの特徴は単離されたロッドでも観察される。ECT で
ク質のうち P200 を除く全てはゲノム上の 3 つのローカス
観察されたターミナルボタンは 3 つのパーツに分かれてお
にコードされている (37)。すなわち,
(i)P1 アドヘジン,
り,先端のパーツは細胞周辺の膜タンパク質に結合してい
P90,P40 ともう 1 つの ORF をコードする P1 オペロン。
る (21,75)。
(ii)P65,HMW2,P41,P24 をコードする crl ローカス,
(iv)ホイール複合体:Hegermann らはクライオ切片法に
(iii)P30,HMW3,HMW1,と他の 6 つの ORF をコードす
よる電子顕微鏡観察から印象的なモデルを提案した (20)。
る HMW オペロン。多くの細菌のシステムで見られるよう
すなわち,ロッドが根元部分で“ホイール複合体”と繊維
に,それぞれのグループのタンパク質は同じ場面で機能し
で結ばれているというものである。ECT でも類似の構造が
ているように思われる。逆にこれらのローカスに存在して
観察された。ただしこの場合には繊維は見られず,構造は
いるORFは接着や滑走に何らかの機能を果たしていると思
“ボウル状”をしている (21,75)。
(v)低密度エリア:高密度コアを取り巻くように観察さ
われる。HMW1,HMW3,P65,P200,は SDS-PAGE で分
子量から予測されるよりもずっと遅く移動するという特徴
れる。ここには密度の高い物質が観察されない。Hegermann
を持っており,これはこれらのタンパク質の半分以上の領
らはこのエリアにロッドと細胞膜をつなぐスポークが存在
域をしめる“acidic proline rich(APR)”ドメインにおける
することを示唆している。Seybert らは ECT でロッドの根
アミノ酸含量の偏りに由来する (3)。この特徴はこれらのタ
元の部分に同様の構造を見いだしている。しかし Hender-
ンパク質が接着器官に特有の環境の中で働いており,その
son らはこの部分が他の細胞質とは異なる性質の液体で満
“環境の特殊性”
が接着器官中の低密度部分に反映されてい
たされており,ロッド周辺で発生した力と動きを伝える働
きをしている可能性を指摘している。
るのかも知れない。
ニューモニエのゲノムには細菌のアクチンホモログであ
2)接着のタンパク質
る MreB は存在しないが,チューブリンホモログである
接着は病原性決定因子であるため,接着タンパク質と 10
FtsZ は存在しており (11,22),実際にタンパク質として発
の必須タンパク質が同定されてきた。これらは全て接着器
現している (27)。しかし FtsZ は明らかに接着器官に局在し
官に局在している(図 14)(4,38,51,53)。そのため現在
ているというわけではなく,このタンパク質が接着に直接
では,接着器官に局在するかどうかを見ることが,接着に
関連している可能性は低い。
必須なタンパク質を見つけ出す方法のひとつになっている
3)滑走のみに関与するタンパク質
(33,70,71)。接着に関係するタンパク質は一般的に,滑
上述のように接着と滑走に必須のタンパク質が多数見つ
走にも必須である。なぜならマイコプラズマは結合してい
かってきたが,これらは滑走メカニズムに直接的な解を与
るときにのみ滑走できるからである。最近はニューモニエ
えるものではない。そこでさらに滑走メカニズムにかんす
でもある程度の遺伝子組換え実験ができるようになったた
る情報を得るために,2 つのグループが“滑走に関与して
め,接着に関連するタンパク質が次々に見つかりつつある
接着に関与しない”遺伝子の同定を試みた。すなわち,ト
(5,19,33,39)。これらのタンパク質はその菌体内におけ
ランスポゾンを用いてランダムに変異を導入し,コロニー
る局在などから,5 つのグループに分類される。(i)P1 ア
の形状から動くことのできない変異株を選択し,それぞれ
ドヘジン(MPN141)
:膜貫通セグメントを持つ 170-kDa の
の菌体の挙動を解析した。バルセロナ大学の Piñol らのグ
タンパク質で,シアル酸かグリコリピドを介する固形物へ
ループはニューモニエとごく近縁の M. genitalium からこの
の結合と滑走運動をになっている (40,63,65,69)。
(ii)
条件に合う 2 つの変異株を同定した (62)。またジョージア
P1 アドヘジンに結合し,機能を補佐するタンパク質,P90,
大学の Krause らのグループはニューモニエから 11 の新規
P40(この 2 つのタンパク質は同じ ORF(MPN142)にコー
遺伝子を同定し,最終的に 3 つに注目した (16)。これらの
ドされている)など。これらのタンパク質は P1 アドヘジ
結果は滑走運動のミステリーをすぐに解き明かすものでは
ンと同様に接着器官を含む比較的広い範囲に局在してい
なかったが,以下のように,マイコプラズマ研究者に示唆
る。P1 アドヘジンとこれらのタンパク質で形成される複合
とツールを与えた。
(i)同定したほとんどの変異体では運
体が,電子顕微鏡像ではナップとして観察されているのか
動能力は完全にはなくならなかったため,これらの遺伝子
も知れない (43,45,70,71)。
(iii)ロッドの中央部に存在
がコードするタンパク質の滑走メカニズムへの直接の関与
するタンパク質:HMW1(MPN447)と HMW2(MPN310)
。
には疑問が残る。なぜなら,その遺伝子が滑走運動メカニ
これらはロッドの形成に必須であることから,これらが縞
ズムに本当に必要なら,トランスポゾンの変異株の中に動
357
かないものが存在するはずだからである。あるいはその遺
7.おさそい
伝子が滑走だけではなく生育にも必須なのかも知れない。
(ii)M. genitalium で同定された mg386 遺伝子の産物は
ニューモニエの P200 のオルソログである。P200 はニュー
モニエの接着器官のホイール(ボウル)の部分に局在して
いることが知られている。
ニューモニエの変異株の形質も,
このタンパク質が滑走運動メカニズムにかかわっているこ
とを示唆していた。ホイールとこのタンパク質は,他のタ
ンパク質構成成分よりも滑走により直接的にかかわってい
る可能性がある。
(iii)MPN387 遺伝子の産物を欠くニュー
モニエは全く動くことができないため,このタンパク質は
滑走メカニズムに直接関与していると思われる。(iv)P41
タンパク質を欠くニューモニエの変異株では,接着器官の
みが菌体からちぎれて滑走し続ける。この観察は菌体内局
在から想像されるこれらのタンパク質の役割と一致する。
すなわち,ボウルが接着器官を菌体の他の部分に結びつけ
る役割をしているのである。ここで観察される,ちぎれた
接着器官のピースはメカニズムに必要な装置の特定と,解
析の重要な手がかりになると思われる (30)。
4)ニューモニエの滑走メカニズムモデル
接着器官のロッドの端は周辺構造に結合しており,ロッ
著者らが 1997 年に「マイコプラズマ滑走運動の研究」を
始めた当初,このテーマを扱っている研究者はおらず,こ
の興味深い現象は,マイコプラズマ研究者の記憶の彼方に
消え去るところであった。著者らが研究開始時に抱いてい
た当面の目標は,この 10 年間でそれなりに達成されたと
自負している (10)。現在,このテーマはそれにかかわる遺
伝子とタンパク質が同定され,装置の構造の輪郭が見え始
め,ゴーストや蛍光ラベル実験などで反応を追うこともで
きる様になった。これは,実験結果を基に具体的な仮説と
それを検証するための実験計画が立てられること,さらに
は,他分野の研究者がそれぞれの発想でこのテーマに参入
することができる下地ができたことを意味している (12,
23)。著者は,本稿の読者の中から新たな同業者が生まれる
ことを期待している。マイコプラズマ性肺炎は,多くの人
がかかるが重い病気ではない。そのため,医学的な必要性
は他の感染症と比べて低いかも知れない。しかし基礎科学
としておもしろく,美しいストーリーを展開できれば,こ
のテーマがいつの日か何らかの形で社会に貢献するものと
信じている。
ドはフレキシブルで湾曲がある。この観察から,
“シャクト
謝 辞
リムシモデル”が提案された (21,75)。しかし,滑走する
マイコプラズマを光学顕微鏡下に観察すると,接着器官は
比較的硬いように見えるため,現時点では著者はこのモデ
ルにあまり肯定的ではない (51)。シャクトリムシに似たモ
デルに,ロッドが固形物表面への結合と解離を伴った収縮
と伸長をくりかえす,収縮―伸長モデルがある (88)。これ
らの論争は,あしを含む接着器官の詳細構造をリアルタイ
ムに解析することで決着が付けられると思われる。著者ら
は P1 アドヘジンに対するモノクローナル抗体を加えると
1999 年に入会した新参者の私に,貴重な学会賞を下さっ
た細菌学会に感謝します。
これまでに私と共に研究を行い,
エキサイティングな時間を共有してくれた共同研究者諸氏
と,マイコプラズマの滑走運動に興味を抱いて,コメント
あるいはサポートを下さった諸兄に感謝します。本稿に未
発表のデータと図を提供して下さった,国立感染症研究所
の見理 剛博士,研究室のアダン 純,中根大介,野中孝
裕,各氏に感謝します。
滑走速度が抑えられ,最終的には菌体がガラス表面から外
れてしまうことを見つけた (69)。この現象は,モービレで
文 献
1)
提言したパワーストロークモデルをベースにした,以下の
3 つのシナリオのどれかで説明することができる。1 つ目
では,抗体が結合することで P1 アドヘジン分子のガラス
からの解離が遅くなり,新たな引きずり力が発生し,さら
に再結合の阻害も起こる。2 つ目のシナリオは,P1 アドヘ
2)
3)
ジン分子の全てではなく限られた分子が推進力を生むサイ
クルを回っており,他の分子は静的な結合を行って菌体を
ガラス上に保ち,また通常の滑走では引きずり力を発生し
4)
ている。この場合,サイクルを回っている P1 アドヘジン
分子の数が抗体の結合により減少し,通常の速度で菌体を
5)
推進するのに必要な力が足りなくなる。3 つ目のシナリオ
では,2 つ目と同様に,P1 アドヘジン分子の全てではなく
限られた分子が推進力を生むサイクルを回っている。しか
し速度は引きずり力で決まっているのではなく,全 P1 ア
ドヘジン分子のストローク時間の合計で決まっている。こ
の場合には P1 アドヘジン分子の数の減少がそのまま菌体
の滑走速度を抑制する。
358
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