決済システムに関するコア・プリンシプル(基本原則)

平成 13 年 12 月 18 日
各位
全国銀行協会
(社)東京銀行協会
国内の主要決済システムの
「決済システムに関するコア・プリンシプル(基本原則)」(BIS 策定)
への適合状況に関する自己評価について
全国銀行協会(会長 山本惠朗 富士銀行頭取、兼務(社)東京銀行協会会長)は、今般、(社)東京銀行協会が運営
する 3 つの決済システムについて、国際決済銀行(BIS)の「システミックな影響の大きな資金決済システムに関する
コア・プリンシプル」(以下、「コア・プリンシプル」)への適合状況を別添のとおり自己評価いたしました。なお、概要
は下記のとおりです。
当協会では今回の評価に満足することなく、より安全かつ効率的な運営を目指し、今後も努力して参る所存です。
記
1.評価対象決済システム
1.
全国銀行内国為替決済制度(全銀システム)
-金融機関間の国内の振込等に関する通知の授受とその資金決済を行なう-
2.
外国為替円決済制度
-外国為替取引に伴う円資金の支払指図等の授受とその資金決済を行なう-
3.
手形交換制度(東京手形交換所)
-金融機関間の手形・小切手の授受とその資金決済を行なう-
2.評価結果
各決済システムは、全ての基本原則を基本的に充足していると評価しています。ただし、上記の「コア・プリンシプル」
が前提とする制度と異なる仕組みを有する手形交換制度では、一部の基本原則について、別の方法で対応してい
ます。
以

上
評価の基準となる「コア・プリンシプル」は、2001 年 1 月にBIS策定の報告書として公表されたもので、10 の基本原
則からなり、国内外の金融システムや金融市場に混乱が波及する主要な経路になりうるような最も重要な決済シ
ステム(systemically important payment system)について、その設計と運営の安全性および効率性を確保するた
めの普遍的なガイドラインとして策定されたものです。
国内の主要決済システムの
「決済システムに関するコア・プリンシプル(基本原則)」
(BIS策定)
への適合状況に関する自己評価
全国銀行協会 事務委員会 報告書
2001 年 12 月
目次
ページ
第1部
第2部
はじめに …………………………………………………………
コア・プリンシプル(10 の基本原則) ………………
1
3
自己評価
◆第 1 章
全国銀行内国為替制度(全銀システム)について
◆第 2 章
外国為替円決済制度について
………
4
………………………………
12
◆第 3 章
手形交換制度(東京手形交換所)について
………………
20
……
28
(ご参考)本報告書作成に携わった検討部会等
第1 部
はじめに
全国銀行協会(会長:山本惠朗富士銀行頭取、兼務(社)東京銀行
協 会 会 長 ) は 、( 社 ) 東 京 銀 行 協 会 が 運 営 す る 3 つ の 決 済 シ ス テ ム 、
すなわち全国銀行内国為替制度、外国為替円決済制度および東京手形
交換所を国内の最も重要な決済システムと位置づけ、それらについて
国際決済銀行(BIS)策定の「システミックな影響の大きな資金決
済システムに関するコア・プリンシプル」への適合状況を自己評価い
たしました。
このコア・プリンシプル(10の基本原則)は、国内外の金融シス
テムや金融市場に混乱が波及する主要な経路になりうるような最も重
要 な 決 済 シ ス テ ム ( systemically important payment system)
について、その設計と運営がより安全で効率的なものとなることを促
すための普遍的なガイドラインとして利用されることを目的に策定さ
れ た も の で す 。 1999 年 12 月 に そ の 草 案 が 提 示 さ れ 、 そ の 後 各 国 か ら
の意見等も踏まえ、より詳細な基本原則に関する解釈や原則を充足す
る た め の 方 法 例 な ど の 解 説 が 追 加 さ れ 、2001 年 1 月 に 改 め て 報 告 書 と
して公表されたものです。
全国銀行協会では、わが国における主要な決済システムの企画・運
営・管理者として、こうした国際的な基準に照らして各決済システム
を自己評価・点検することは、わが国金融システムの安定、向上を図
る う え で 極 め て 重 要 な こ と で あ る と 考 え 、 平 成 13 年 度 に 新 た な 検 討
部会を設け、コア・プリンシプル(10の基本原則)への適合状況に
ついて評価作業を行って参りました。
こ の 結 果 、全 国 銀 行 内 国 為 替 制 度と 外 国 為 替 円 決 済 制 度に つ い て は、
い ず れ も 、す べ て の 基 本 原 則 を基 本 的 に充 足 し て い る と評 価 し てい ま
す。
ま た 、 東 京 手 形 交 換 所 に つ い て も 、 適 用 が 困 難な 一 部 の 基 本 原 則 を
除 い て 、 充 足 し て い る と評 価 し て い ま す 。
−1−
評価に関する詳細な内容は、各決済システムの概要と各原則に対応
した評価を記述した「第 2 部 自己評価」のとおりであり、それぞれ
の改善への取組みも含めて説明しています 。
このうち、東京手形交換所に関する適用が困難な原則(決済リスク
管理関係)の記述については、他の2つのシステムとは別の方法でリ
スク回避を図っていることについて解説するかたちをとっています。
その理由としては、手形交換が内国為替や外国為替円決済制度のよ
う な「 送 金 型 」シ ス テ ム で な く 、「 取 立 型 」シ ス テ ム で あ る こ と な ど が
挙げられ、このことについては、前述のBIS策定のコアプリンシプ
ルに関する報告書にも指摘されているところです。
全国銀行協会では、今回の評価に満足することなく、わが国金融シ
ステムの基盤ともいうべき各決済システムのより安全かつ効率的な運
営を目指し、今後も努力していく所存です。
以 上
−2−
コア・プリンシプル(10の基本原則)
基本原則
Ⅰ
システムは全ての関係法の下で確固とした法的根拠を持つべきである
基本原則
Ⅱ
システムの規則と手続は、参加者が当該システムへの参加による金融リスクを明
確に認識できるものとなっているべきである。
基本原則
Ⅲ
システムは、信用リスク、流動性リスクを管理するための明確な手続を持つべき
である。こうした手続は、当該システムの運営者や参加者それぞれの責任を特定
し、リスクを管理・抑制するための適切なインセンティブを与えるものでなけれ
ばならない。
基本原則
Ⅳ
システムは、決済日にファイナルな決済を迅速に提供すべきである。ファイナル
な決済は、日中に提供されることが望ましく、少なくとも決済日の終了時までに
は提供されるべきである。
基本原則
Ⅴ
マルチラテラル・ネッティングが行われるシステムでは、少なくとも最大のネッ
ト負債額を有する参加者が決済不能となった場合でも、日々の決済をタイムリー
に完了できるようにするべきである。
基本原則
Ⅵ
決済に利用される資産は、中央銀行に対する資産であることが望ましい。他の資
産が利用される場合、その資産は信用リスクと流動性リスクがほとんどないか、
または全くないものであるべきである。
基本原則
Ⅶ
システムは、高度のセキュリティと運行上の信頼性を備え、かつ日々の事務処理
をタイムリーに完了させるための緊急時の対応策を用意すべきである。
基本原則
Ⅷ
システムは、利用者にとって実用的であり、経済全体にとって効率的な決済手段
を提供すべきである。
基本原則
Ⅸ
システムは、公正かつ開かれた形での参加が可能となる様、客観的で公表された
参加基準を設けるべきである。
基本原則
Ⅹ
システムの組織運営の取極めは、効果的かつ対外的に説明可能であり、透明なも
のとなっているべきである。
−3−
第2部
自己評価
第1 章
−
全国銀行内国為替制度(全銀システム)について −
−4−
全国銀行内国為替制度(全銀システム)について
1.制度の概要
≪内為制度≫
全国銀行内国為替制度(以下「内為制度」という。)は、法令により内国為替業務
を営むことが認められた銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、農業協同組合
等を加盟金融機関として、これら金融機関相互間の内国為替取引を公正かつ円
滑に処理するためのもので、1973(昭和 48)年 4 月に発足した。
この制度は、社団法人東京銀行協会(以下「東銀協」という。)が設置する内国為
替運営機構(以下「運営機構」という。)によって運営されている。運営機構では、
内為制度の運営にあたり、制度の組織、運営に関する諸事項を定める「内国為替
運営規約」、加盟金融機関間の内国為替取引に関する具体的な事務手続を定める
「内国為替取扱規則」、内国為替取引によって生ずる加盟金融機関間の為替貸借
の決済に関する諸事項を定める「内国為替決済規則」および全銀システムの利用、
運営に関する諸事項を定める「全銀システム利用規則」を制定している。
現在の内為制度の加盟金融機関・店舗数は、下表のとおりであり、合計 2,023
行、40,648 店舗である。
【加盟金融機関数・店舗数】
(平成13年 11 月末現在)
加盟金融機関数
店舗数
都
市
銀
行
8
2,698
地
方
銀
行
64
7,896
信
託
銀
行
11
367
行
3
65
第二地方銀行協会加盟行
56
4,062
行
4
30
しんきん中金・信用金庫
365
8,453
全信組連・信用組合
255
2,431
労 金 連 ・ 労 働 金 庫
22
697
農中・信連・信漁連・農協
1,231
13,837
他
4
112
計
2,023
40,648
長
外
期
信
用
国
そ
銀
の
合
銀
≪全銀システム≫
全国銀行データ通信システム(以下「全銀システム」という。)は、内為制度に
加盟する金融機関相互間の内国為替取引に関する為替通知の発受信および同取
引によって生ずる加盟金融機関間の為替決済額の算出等を処理するコンピュー
タ・ネットワークシステムである。
全銀システムは、その中枢である全銀センターと各加盟金融機関の事務センタ
ーに設置されている中継コンピュータおよびこれらを結ぶ通信回線から構成さ
れている。
−5−
全銀システムの取扱高は、昨年度においては件数が約 11 億 8,188 万件、金額
が約 2,334 兆 3,016 億円(1 営業日当り、件数が 481 万件、金額が9兆 5,186
億円)である。また、繁忙日においては 1,000 万件を超える件数を処理してい
る。
≪為替決済の仕組みと決済リスク対策≫
為替取引によって生じる加盟金融機関間の貸借は、全銀センターにおいて計算
のうえ、内国為替決済規則に基づき、日本銀行に設けた東銀協の当座勘定と各
加盟金融機関の当座勘定の間で 1 日 1 回(午後 4 時 15 分)決済される。
そのため全銀システムでは、為替取引における貸借が決済されるまでに存在す
る決済リスクへの対応策として、各加盟金融機関が仕向超過限度額(注1)と同額
の担保・保証(注2)を東銀協に差し入れることとしており、万一資金決済ができ
なくなった場合に備えている。
仮に決済資金の不払が生じた場合には、当日中に決済を完了させるため、東銀
協が流動性供給契約を予め締結している流動性供給銀行(注3)から資金供給を受
け、その資金で不払金額に充当し、決済を完了させる。そのうえで、後日、流
動性供給銀行に対し、東銀協が担保処分等により回収した資金をもって返済す
るという仕組みをとっている。
(注1)仕向超過限度額
全銀システムでは、未決済残高が無制限に多額になることを未然に防止するため、仕向超過額管理制度
を実施している。この制度は、全銀システムを通じて決済する取引の仕向超過額(その時点における引落
累計額−入金累計額)が、各加盟金融機関の申告した限度額を超えないよう全銀センターにおいてシステ
ム的に管理する仕組みである。
仕向超過額が限度額の一定割合を超えると当該金融機関に警告の通知を送信し、限度額を超える場合に
は発信された電文はエラー電文として当該金融機関に返却し、仕向超過額が限度額を超えることを防止
している。このように仕向超過額管理制度は、内国為替取引により生じる未決済残高を一定水準以下に
押さえる役割を果たしている。
(注2)担保・保証
担保は国債など東銀協が認めるものである。また、保証供与を行う金融機関は、保証供与金額上位2行
分の保証供与額相当額の担保差入が義務付けらている。
(注3)流動性供給銀行
為替取引の決済尻を不払とせざるを得ない金融機関が発生した場合、東銀協からの依頼により当該必要
金額を供給する金融機関で、一定の基準により 20 行が選定されている。流動性供給銀行は一定基準に
より毎年見直しがされ、東銀協との間で流動性供給契約を締結することになっている。
−6−
2.コア・プリンシプル評価
原則Ⅰ システムは、すべての関係法の下で確固とした法的根拠を持つべきである。
原則Ⅰでは、決済システムの法的有効性に関する原則が定められている。
全銀システムにおいては、東銀協・運営機構が、その制定する内国為替決済
規則等の諸規則により決済の運営を行っているが、その法的有効性は法律意見
書の取得により確認を行っている。なお、わが国においては、マルチラテラル・
ネッティングを有効とする法律が存在しないため、全銀システムでは加盟銀行
間の債権・債務をセントラルカウンターパーティーとの間のバイラテラル・ネッ
ティングに置き換える方法をとっている。
法律意見書によれば、全銀システムにおける決済は、
①加盟金融機関が全銀システムを利用して電文を発信することにより加盟金融
機関間に債権・債務が発生すること、
②加盟金融機関間の債権・債務を東銀協を相手方とする債権・債務に置き換え
ること(東銀協をセントラル・カウンター・パーティーとすること。)、
③東銀協が同一の加盟金融機関に対する同額の債権と債務を相殺すること、
④相殺後の金額(決済額)を日本銀行の当座勘定を利用して決済すること
において、法的有効性の確認が得られている。
さらに、同法律意見書では、万一、ある加盟金融機関が破綻して決済額を支
払うことができなくなった場合の対応に関しても、
①加盟金融機関が東銀協に担保・保証を差し入れること、
②東銀協が破綻金融機関の担保を処分すること、
③破綻金融機関に対して保証を行った加盟金融機関が保証を履行すること
の法的有効性が確認されている。
原則Ⅱ システムの規則と手続きは、参加者が当該システムへの参加による金融リスク
を明確に認識できるものとなっているべきである。
原則Ⅱでは、決済システムの規則等に関する原則が定められている。
全銀システムの規則は、内国為替規則集・通達集として体系・内容が整備さ
れており、加盟金融機関が金融リスク(ある加盟金融機関が破綻したことに伴
い他の加盟金融機関が被る損失など)を明確に認識できるものとなっている。
また、全銀システムの規則の制定や改正は、加盟金融機関をメンバーとする
会合で行われるという観点からも、参加者にとって明確に認識できるものとな
っており、制定や改正の都度、全ての加盟金融機関にその内容を直ちに連絡す
る体制を取っている。
なお、全銀システムの規則は、通常の取扱いの他に、システム障害が発生し
た場合の取扱い、大規模災害が発生した場合の取扱い、加盟金融機関が破綻し
た場合の取扱いなども定めており、様々な状況に対応できるようになっている。
−7−
原則Ⅲ システムは、信用リスク、流動性リスクを管理するための明確な手続きを持つ
べきである。こうした手続きは、当該システムの運営者や参加者それぞれの責
任を特定し、リスクを管理・抑制するための適切なインセンティブを与えるも
のでなければならない。
原則Ⅲでは、決済システムのリスク管理に関する原則が定められている。
全銀システムでは、加盟金融機関の仕向超過額(加盟金融機関が他の加盟金
融機関に支払う金額から他の加盟金融機関より受け取る金額を差し引いた金
額)を管理することにより信用リスク(ある加盟金融機関が破綻した場合に未
決済となる金額)を抑制している。
第一に、全銀センターでは、各加盟金融機関の仕向超過額が、各加盟金融機
関が事前に申告した限度額を超えないように、オンライン処理によって管理し
ている。仮に、加盟金融機関が限度額を超えて電文を発信した場合には、その
電文はエラーとなり、当該発信金融機関に返戻される仕組みとなっている。
第二に、各加盟金融機関は、仕向超過限度額と同額以上の担保・保証を東銀
協に差し入れることによって、自行の信用リスクを 100%カバーしておくことに
なっている。
その他にも、全銀システムでは、各加盟金融機関における流動性リスク(加
盟金融機関の日本銀行にある当座勘定の残高が一時的に不足することにより決
済額を支払えなくなるリスク)の管理をサポートするために、仕向超過額が限
度額の一定割合(警告額)を超えた場合に警告額を超過したことを通知する電
文の送信や、一定時点毎の決済額の送信(毎日 12 時から 30 分毎)などを行っ
ている。
原則Ⅳ システムは、決済日にファイナルな決済を迅速に提供すべきである。ファイナ
ルな決済は、日中に提供されることが望ましく、少なくとも決済日の終了時ま
でには提供されるべきである。
原則Ⅳでは、決済システムの決済時点に関する原則が定められている。
全銀システムでは、決済日の午後 4 時 15 分に加盟金融機関間のファイナルな
決済を行っている。
また、中長期的な観点から、現在いくつかの案について検討を行っていると
ころであるが、主なものを例示すれば、次のとおりである。
第一に、平成15年11月より稼動する第5次全銀システムの高度化された
機能の活用が挙げられる。
第5次全銀システムにおいては、一層迅速なファイナリティを実現するため、
1日のうちに複数回の決済を可能とするシステムが用意されているが、活用の
当否についてリスク削減と効率性の観点から検討を行っている。
第二に、例えば、「ハイブリッドシステム(注)」の構築など大口決済のための
新たなスキームを採用することが挙げられる。
全銀システムにおける取扱は「小口」決済が大半を占めるが、日中ファイナ
−8−
ルな決済を提供する必要性が大きい「大口」決済取引も多数混在している。こ
うした大口取引については、ハイブリッド化した外為円決済制度、あるいは日
銀ネットの利用によって、効率性にも配慮しつつ随時ファイナルな決済を行い、
リスク削減の実現を図る新たなスキームを採用するという考え方である。
(注)ハイブリッドシステム
時点ネット決済システムと即時グロス決済システムのメリットを併せ持ったシステム
であり、頻繁にネッティング・決済を繰り返すことにより、迅速でファイナルな決
済を実現しつつ、必要とする流動性の節約を可能とする。米国の CHIPS、ドイツの
RTGSPlus、フランスの PNS で採用されている。
原則Ⅴ マルチラテラル・ネッティングが行われるシステムでは、少なくとも最大のネ
ット負債額を有する参加者が決済不能となった場合でも、日々の決済をタイム
リーに完了できるようにするべきである。
原則Ⅴでは、万一、加盟金融機関が破綻した場合における決済の完了に関す
る原則が定められている。
全銀システムでは、加盟金融機関の中から流動性供給銀行(破綻した金融機
関に代って破綻金融機関の決済額を一時的に立替払いする金融機関)を事前に
定めておくことによって、万一、加盟金融機関が破綻した場合においても、迅
速に決済を完了させることができる仕組みとなっている。
流動性供給銀行(全銀システムの利用件数の多い銀行など 20 行)は、加盟金
融機関が破綻した場合、破綻金融機関の支払うべき決済額に相当する金額を供
給する契約を東銀協と締結している。流動性供給銀行20行合算の供給枠は、
現在は 2 兆円とする体制をとっており、これは仕向超過限度額最大行の債務不
履行(決済尻不払)を十分にカバーする額となっている。
さらに、国際的なベストプラクティスを目指し、最大の仕向超過限度額を有
する2金融機関が決済を履行できなくなった場合においても決済尻不払分をカ
バーできる体制とするため、個別銀行の仕向超過限度額を圧縮すること等、制
度面の見直しを検討中である。
なお、流動性供給銀行が供給した資金については、破綻金融機関が東銀協
に事前に差し入れている担保を処分することによって、流動性供給銀行に資金
を返済する仕組みとなっている。このため、加盟金融機関が東銀協に差し入れ
る担保は、処分に適したものに限っている。また、担保については、担保の時
価が変化することを考慮して、適切な評価掛目を設定するとともに、市場価格
の変動を反映させるため定期的に値洗いを行っている。
また、万一、複数の金融機関が同じ日に破綻することによって、流動性供給
銀行が供給する資金では、決済尻不払分をカバーできないこととなった場合に
は、全ての加盟金融機関が資金を供給することによって決済を完了させること
としている。
−9−
原則Ⅵ 決済に利用される資産は、中央銀行に対する資産であることが望ましい。他の資
産が利用される場合、その資産は信用リスクと流動性リスクがほとんどないか、
またはまったくないものであるべきである。
原則Ⅵでは、決済に利用される資産に関する原則が定められている。
全銀システムにおける決済は、日本銀行の当座勘定を利用して行なっている。
原則Ⅶ システムは、高度のセキュリティーと運行上の信頼性を備え、かつ日々の事務処
理をタイムリーに完了させるための緊急時の対応策を用意すべきである。
原則Ⅶでは、決済システムのセキュリティーに関する原則が定められている。
全銀システムにおけるセキュリティー対策として、以下のようなものが挙げ
られる。
第一に、現在の全銀システムでは、参加者以外からの不正なアクセスが行え
ないよう、全銀センターと加盟金融機関の間を専用線で結んだ閉鎖的なネット
ワークを構築している。
第5次全銀システム(平成15年11月稼働予定)では、相手固定接続方式
のネットワーク(フレームリレー網)を利用することに加え、通信データの暗
号化を行うことにより現状以上のセキュリティレベルを確保することとしてい
る。
また、全銀センターでは厳密な入退室管理を行っており、運用担当者以外が
システムの操作が行えないようになっている。
第二に、運行上の信頼性を確保するため、以下のような対策をとっている。
まず、システムの二重化を実施している。全銀システムの中枢である全銀セ
ンターを東京と大阪の2か所に設置するとともに、各加盟金融機関は中継コン
ピュータを2台以上設置することとし、全銀システム専用の通信回線によって
それぞれを接続している。
また、システム運営は運営機構の職員とシステム保守要員が常駐し、厳格に
管理している。緊急時の取扱いについても内国為替取扱規則および緊急時災害
対策マニュアル等に規定している。
その他、業務の継続性確保の観点から、災害時等に対するシステム訓練は毎
年計画的に実施している。
原則Ⅷ システムは、利用者にとって実用的であり、経済全体にとって効率的な決済手
段を提供すべきである。
原則Ⅷでは、決済システムの効率性に関する原則が定められている。
為替業務は、当事者間で直接決済する場合に生じる現金の持参や輸送に伴う
危険を防止するほか、決済のために要する時間、費用等の節約という機能を有
−10−
している。また、正確かつ簡易、迅速な決済が行われることにより、利用者が
資金を効率的に運用しうるという機能も有している。
全銀システムは、「制度の概要」に記載のとおり、1営業日当り、件数が 500
万件(繁忙日には 1,000 万件を越える)、金額で 9 兆5千億円を越えるデータ処
理およびその決済処理を正確かつ迅速に行っている、実用的かつ効率的な決済
システムである。
また、運営機構では、加盟金融機関の委員からなる委員会において加盟金融
機関および顧客のニーズ等を踏まえ、実用的かつ効率的なものとなるように事
務手続きの改正等について随時検討を行っている。
システムについても、定期的なデータ量予測を実施しており、それに基づい
たシステムリソースの適正規模を維持することにより、コスト削減を図る等効
率的な運用を行っている。
さらに、中長期的な課題の一つとして、一層の効率化とシステムの二重投資
の回避を図るため、大口の振込データについては、
「ハイブリッド化」を目指す
外為円決済制度、あるいは日銀ネットを利用することについても検討に着手し
たところである。
原則Ⅸ システムは、公正かつ開かれた形での参加が可能となるよう、客観的で公表さ
れた参加基準を設けるべきである。
原則Ⅸでは、決済システムへの参加に関する原則が定められている。
全銀システムは参加制限のないオープンなネットワークシステムである。参
加基準は内国為替運営規約に規定されているが、法令により内国為替業務を認
められた金融機関は、内為制度の加盟金融機関となる資格を有している。
原則Ⅹ システムの組織運営の取極めは、効果的かつ対外的に説明可能であり、透明な
ものとなっているべきである。
原則Ⅹでは、決済システムの運営に関する原則が定められている。
内為制度は、東銀協・運営機構が運営している。組織運営上の決定は、加盟
金融機関の委員から構成される委員会において決定され、決定事項はすみやか
に各加盟金融機関に通知されている。
以
−11−
上
第2部
自己評価
第2章
−
外国為替円決済制度について −
−12−
外国為替円決済制度について
1.制度の概要
≪外為円決済制度≫
外国為替円決済制度(以下「外為円決済制度」という。)は、外国為替市場
での売買に伴う円代金やコルレス先円勘定の振替、円建仕向送金取引等の外
国為替取引に伴う加盟銀行間の円資金に関する支払指図の送受信、加盟銀行
間の交換尻の計算および決済を集中的に行う制度である。
この制度は、社団法人東京銀行協会(以下「東銀協」という。)を運営主体
として、1980 年 10 月に発足した。当時は、支払指図を立会交換方式で交換
したうえで(午後 1 時頃)、東京手形交換所のコンピュータを利用して交換尻
を算出、それを日本銀行に通知し、3時時点処理において、日本銀行にある
加盟銀行の当座勘定の振替により決済を行っていた。その後、1989 年3月か
ら支払指図の交換、交換尻の計算および決済についての事務を日本銀行に委
託するオンライン処理(日本銀行金融ネットワークシステム(以下「日銀ネ
ット」という。
)による運用)に移行している。
現在の外為円決済制度の参加銀行は、日銀ネットに直接参加して外為円決
済事務を行う加盟銀行が 40 行、加盟銀行に外為円決済事務を委託して間接
的に参加する決済制度事務委託銀行が 204 行の合計 244 行である。
また、外為円決済制度の取扱高は、2000 年度においては、件数が約 939
万件、金額が約 6,543 兆 9,251 億円(1営業日当り、件数が 38,169 件、金額
が 26 兆 6,013 億円)である。
【参加金融機関数】 (2001 年 11 月末現在)
参加銀行
加盟銀行 決 済 制 度 事 務 委
託銀行
都市銀行
8
8
0
地方銀行
64
0
64
信託銀行
14
5
9
長期信用銀行
3
3
0
第二地銀協加盟行
51
1
50
外国銀行
73
18
55
信金中金・信用金庫
27
2
25
その他
4
3
1
合計
244
40
204
(注)その他は、ソニー銀行、商中、全信組連、農中
≪決済の仕組みと決済リスク対策≫
支払指図の交換によって生じる加盟銀行間の貸借(交換尻)は、日銀ネッ
トにおいて計算のうえ、外国為替円決済制度規則の定めにより、日本銀行に
設けた東銀協の当座勘定(決済勘定)と各加盟銀行の当座勘定との間で1日
1回(午後2時 30 分)決済される。
外為円決済制度では、決済リスク対策として、決済のエクスポージャー(被
−13−
仕向銀行が決済完了までに晒されている仕向銀行の信用リスクや流動性リス
ク)に上限を課すために、ネット受取限度額(注1) および仕向超過限度額(注
2)を設定している。また、万一、最大の交換尻支払債務を負う加盟銀行が交
換尻不払銀行となった場合でも当日の決済をタイムリーに完了させることが
できるようにするために、ロスシェア・ルール (注3)を定めるとともに、決
済処理を迅速かつ確実に行えるようにするため、担保スキーム(注4)および
流動性スキーム(注5)を設けている。
なお、外為円決済制度では、上記限度額管理に抵触して支払うことができ
ない場合やネット決済取扱時間帯(午前9時から午後1時 45 分まで)以降
に支払いを行う場合等に対応するため、ネット決済モードを補完するものと
して、RTGS モード(午前 9 時から午後 5 時まで)の支払手段も設けている。
(注1)
ネット受取限度額は、各加盟銀行が他の加盟銀行各々に対するエクスポージ
ャーの上限を課し、リスクの顕在化の影響を極力抑制するための手段である。
各加盟銀行のネットの受取額(受取金額から支払金額を控除した差額)が当
該各加盟銀行が設定したネット受取限度額を超えないよう管理される。
(注2)
仕向超過限度額は、各加盟銀行が制度全体にもたらすエクスポージャーの上
限額である。その値は、他の加盟銀行から設定されたネット受取限度額の合
計の一定割合(5%)を乗じた額であり、各加盟銀行が交換尻不払いとなる
可能性の最大値となる。
(注3)
ロスシェア・ルールは、交換尻不払銀行が発生した場合にその不払額をどの
ように埋め合わせて決済を完了するかという取極めである。外為円決済制度
では、交換尻不払銀行を除く加盟銀行(以下「残存銀行」という。
)が交換
尻不払額について応分の負担(交換尻不払銀行に設定したネット受取限度額
のシェアに応じて負担。この負担金を「決済完了分担金」という。
)をする
という「サバイバーズ・ペイ」の仕組みを採用している。
(注4)
担保スキームは、交換尻不払銀行発生時に決済完了分担金の拠出が確実に行
われることを保証するための仕組みである。各加盟銀行は東銀協に国債を差
入れることが義務付けられており、その額は最大ネット受取限度額の一定割
合(5%)を乗じた額相当額である。
(注5)
流動性スキームは、交換尻不払銀行が発生した場合で、決済完了分担金を流
動性不足のために支払えないときに、東銀協は当該支払いを猶予し(交換尻
不払い発生時の翌営業日の午後 2 時まで猶予。その時点までに決済完了分担
金を支払わない加盟銀行は「決済完了分担金不払銀行」として債務不履行と
なる。
)
、予め選定した流動性供給銀行から当該加盟銀行の決済完了分担金相
当額の流動性供給を受けて決済を完了させる仕組みである。
−14−
2.コア・プリンシプル評価
原則Ⅰ システムは、すべての関係法の下で確固とした法的根拠を持つべきである。
原則Ⅰでは、決済システムの法的有効性に関する原則が定められている。
外為円決済制度においては、東銀協が、その制定する外国為替円決済制度規
則等の諸規則等(諸規則の詳細については原則Ⅱの記述を参照)により、決済
に係る運営を行っているが、その法的有効性については、法律意見書の取得に
より確認を行っている。なお、わが国には、マルチラテラル・ネッティングを
有効とする法律が存在しないため、外為円決済制度においては、加盟銀行間の
債権・債務をセントラルカウンターパーティとの間のバイラテラル・ネッティ
ングに置き換える方法をとっている。
法律意見書によれば、外為円決済制度における決済は、
①加盟銀行が日銀ネットを利用して電文を発受信することにより加盟銀行間に
債権・債務が発生すること
②加盟銀行間の債権・債務を東銀協を相手方とする債権・債務に置き換えるこ
と(東銀協をセントラルカンターパーティーとすること。)、
③東銀協が同一の加盟銀行に対する同額の債権と債務を相殺すること、
④相殺後の金額(決済額)を日本銀行の当座勘定を利用して決済すること
において、法的有効性の確認が得られている。
さらに、同法律意見書では、交換尻不払銀行が発生した場合の担保スキーム
(上記1.制度の概要注4参照)についても、
①加盟銀行が東銀協に担保を差し入れること
②東銀協が交換尻不払銀行および決済完了分担金不払銀行の担保を処分するこ
と
の法的有効性が確認されている。
原則Ⅱ
システムの規則と手続きは、参加者が当該システムへの参加による金融リスク
を明確に認識できるものとなっているべきである。
原則Ⅱでは、決済システムの規則に関する原則が定められている。
外為円決済制度の運営を律する規則は、東銀協が定める外国為替円決済制度
規則、同施行細則および各種取扱要綱・取扱要領からなり、また、外為円決済
事務が日銀ネットを利用して行われることから、日本銀行が定める日本銀行金
融ネットワークシステム利用基本規則、外国為替円決済制度関係事務について
の日本銀行金融ネットワークシステムの利用に関する規則、国債関係事務につ
いての日本銀行金融ネットワークシステムの利用に関する規則および各種利用
細則等からなる。参加銀行は、外国為替円決済制度規則等において、金融リス
ク(ある加盟銀行が交換尻不払銀行となったことに伴い他の加盟銀行が被る損
失など)を明確に認識できるものとなっており、その制定や改正の都度、すべ
−15−
ての参加銀行にその内容を直ちに連絡する体制をとっている。
なお、外為円決済制度の規則は、通常の取扱いの他に、システム障害が発生
した場合の取扱い、大規模災害が発生した場合の取扱い、加盟銀行が破綻した
場合の取扱いなども定めており、様々な状況に対応できるようになっている。
原則Ⅲ システムは、信用リスク、流動性リスクを管理するための明確な手続きを持つ
べきである。こうした手続きは、当該システムの運営者や参加者それぞれの責
任を特定し、リスクを管理・抑制するための適切なインセンティブを与えるも
のでなければならない。
原則Ⅲでは、決済システムのリスク管理に関する原則が定められている。
外為円決済制度では、金融リスクを管理・抑制するためのインセンティブを
与える。例えば、システムは即時でメッセージ毎の処理を実施する。各支払メ
ッセージはシステムにより受け付けられる前に、リスク管理テストにパスしな
ければならない。各加盟銀行は、他の加盟銀行に対する日中のエクスポージャ
ーの上限額(「ネット受取限度額」―一種のバイラテラルリミット)を定めるも
のとされ、加盟銀行が他の加盟銀行に対して認められるネットポジションは、
当該他の加盟銀行により設定された上限額を超えることができない。このバイ
ラテラルリミットの設定にあたっては、加盟銀行はリスク管理の強いインセン
ティブを持たざるを得ない。というのも、ある加盟銀行が破綻した場合には、
破綻した加盟銀行が決済すべき金額を、各加盟銀行が設定した上限額に比例し
て負担する義務を負っているからである。また、各加盟銀行が他の加盟銀行に
設定できるエクスポージャーの上限額は、当該加盟銀行が差し入れた担保額か
ら一定の算式によって算出される金額を上回ることはできない。この算式は、
システムによって定められる、各加盟銀行毎のエクスポージャーの最大額(「仕
向超過限度額」―一種のマルチラテラルリミット)が、他の加盟銀行が差し入
れた担保の合計額を下回るように設定されている。加盟銀行がセントラルカウ
ンターパーティーである東銀協に差し入れるべき担保は、国債(または現金)
とされ、早期の資金化が可能であり、一方で、当日の決済の履行のために、一
定数の銀行と流動性の供給に係る契約を締結している。
原則Ⅳ システムは、決済日にファイナルな決済を迅速に提供すべきである。ファイナ
ルな決済は、日中に提供されることが望ましく、少なくとも決済日の終了時ま
でには提供されるべきである。
原則Ⅳでは、決済システムの決済時点に関する原則が定められている。
外為円決済制度は、午後2時 30 分にファイナルな決済を行っている(同時
刻が、中央銀行である日本銀行にある加盟銀行口座への、加盟銀行のネットポ
ジションの決済のための引落しおよび入金の時間とされ、ほぼ即時に決済処理
が終了する。)
また、ファイナルな決済を日中に提供するためには、例えば、「ハイブリッ
−16−
ド・システム(注)」の構築など、大口決済のための新たなスキームを採用するこ
とが考えられる。外為円決済制度は、日中ファイナルな決済の必要性の大きい
大口取引を中心に取扱っている。これらの決済については、内国為替制度にお
ける大口取引も含めて、外為円決済制度のハイブリッド化や日銀ネットの活用
によって対応することが考えられる。
(注)ハイブリッド・システム
時点ネット決済と即時グロス決済のメリットを併せ持ったシステムであり、頻繁に
ネッティング・決済を繰り返すことにより、迅速でファイナルな決済を実現しつつ、
必要とする流動性の節約を可能とする。米国の CHIPS、ドイツの RTGSPlus、フ
ランスの PNS で採用されている。
原則Ⅴ マルチラテラル・ネッティングが行われるシステムでは、少なくとも最大のネ
ット負債額を有する参加者が決済不能となった場合でも、日々の決済をタイム
リーに完了できるようにするべきである。
原則Ⅴでは、万一、加盟銀行が交換尻不払銀行になった場合における決済の完
了に関する基準が定められている。
ネット受取限度額および仕向超過限度額(バイラテラルおよびマルチラテラル
のリミット)は、どの一加盟銀行が作り得る負債額をも管理する。ある一加盟
銀行が作り出す単一の最大の負債額は、加盟銀行により完全に担保される。あ
る加盟銀行が破綻した場合においても、午後 4 時から 5 時までの間には最終決
済が終了するようになっている。すなわち、交換尻不払銀行の交換尻相当額を
他の加盟銀行が交換尻不払銀行に設定したネット受取限度額のシェアに応じて
ロスシェアすることが定められており、各残存銀行は決済完了分担金を支払う
よう求められる。流動性不足により当該決済完了分担金を支払うことのできな
い残存銀行は、その支払いの猶予を求めることができ、東銀協は当該残存銀行
の差入れた担保を裏付けとして流動性供給銀行から資金の提供を受けて決済を
完了することになる。
外為円決済制度においては、一度支払指図がシステムに受け付けられれば
(つまり、リスク管理テストにパスしたならば)、その支払指図が取り消される
ことは基本的にはない。例外は、最大エクスポージャー2先が共に破綻すると
いうような極稀な事態で、各加盟銀行が差し入れた担保では、不払額をカバー
できないときであり、この場合には決済は「繰戻される」ことになる。
なお、現在、こうした繰戻の可能性をできるだけなくするために、上位2行が
同時に破綻した場合にも決済が完了できるような対応(仕向超過限度額算出基
準率の引下げ、所要担保額算出基準率の引上げ等)を検討し、さらに、新しい
決済の仕組み(ハイブリッド・システムへの移行や日銀ネットの活用)につい
て検討中である。
−17−
原則Ⅵ 決済に利用される資産は、中央銀行に対する資産であることが望ましい。他の資
産が利用される場合、その資産は信用リスクと流動性リスクがほとんどないか、
またはまったくないものであるべきである。
原則Ⅵでは、決済に利用される資産に関する原則が定められている。
外為円決済制度は、システムに直接に参加する加盟銀行間のネットの支払債
務を決済するために、日本銀行に対する請求権を利用している。
原則Ⅶ システムは、高度のセキュリティーと運行上の信頼性を備え、かつ日々の事務処
理をタイムリーに完了させるための緊急時の対応策を用意すべきである。
原則Ⅶでは、決済システムのセキュリティに関する原則が定められている。
外為円決済制度におけるシステムは、高度に安全なシステムである。システ
ムは日本銀行が提供し(外為円決済制度においては支払指図の送受信、交換尻
の算出および決済は、東銀協と日本銀行との委託契約に基づき、日銀ネットを
利用して行われる。)、アクセス権限も厳格に管理されている。システムは二重
化されており、国内の別の地域に、バックアップセンターを有している。緊急
時の取扱いについても詳細な定めを有している。
原則Ⅷ システムは、利用者にとって実用的であり、経済全体にとって効率的な決済手
段を提供すべきである。
原則Ⅷでは、決済システムの効率性に関する原則が定められている。
外為円決済制度は、外国為替取引にともなって生じる円資金の決済のために要
する時間、費用等の節約という機能を有している。また、正確かつ簡易、迅速
な決済が行われることにより、利用者が資金を効率的に運用し得るという機能
も有している。このように金融機関を介して行う外国為替業務とそれに伴う資
金決済を正確かつ効率的に処理するために外為円決済制度は重要な役割を果た
している。
また、外為円決済制度の運営は、東銀協における参加銀行代表による会合に
より常に議論されており、また、参加銀行に対する請求は、その利用度に応じ
たコスト回収の原則に基づいている。参加銀行は、彼らや彼らの顧客のニーズ
を満たすために、制度の改正を提案しうる立場にあり、実際、より安全かつ効
率性を追求するために、決済システムの「ハイブリッド化」への移行や日銀ネ
ットの活用をも視野に入れた制度改正の議論を行っている最中である。
原則Ⅸ システムは、公正かつ開かれた形での参加が可能となるよう、客観的で公表さ
れた参加基準を設けるべきである。
原則Ⅸでは、決済システムへの参加に関する基準が定められている。
−18−
外為円決済制度において参加者となる条件は、外国為替円決済制度規則、同
施行細則に規定されており、すべての銀行およびこれと同一の機能を有する金
融機関が、外為円決済制度の参加者となることが認められている。
外為円決済制度への参加方法としては、直接参加している他の参加者を通じ
て制度に参加し、外為円決済制度を通じた支払を行うことも可能である。
原則Ⅹ システムの組織運営の取極めは、効果的かつ対外的に説明可能であり、透明な
ものとなっているべきである。
原則Ⅹでは、決済システムの運営に関する原則が定められている。
外為円決済制度は、東銀協により所有、運営されている。組織運営上の決定
は、参加者代表からなる委員会において決定され、決定事項はすみやかに各参
加銀行に通知されている。決定事項に応じた各委員会での責任分担が規定され
ており、また、緊急時等において、システム管理者が直接決定を行う場合の権
限も、要綱等に明確に規定されている。(外国為替円決済制度規則・同施行細則
および各種取扱要綱に定める規定は日本銀行の事前または事後の承認を得て発
効する。)
以 上
−19−
第2部
自己評価
第3章
−
手形交換制度(東京手形交換所)について −
−20−
手形交換制度(東京手形交換所)について
1.制度の概要
≪手形交換制度≫
手形交換制度とは、複数の銀行が定時に一定の場所に集合して、手形、小切
手等を交換し、持出手形と持帰手形の差額(交換尻)を日本銀行(一部の地域
では、交換所の幹事銀行)の当座預金で決済を行う制度である。
わが国では、明治 12 年に大阪手形交換所が設立され、次いで明治 20 年に東
京手形交換所が設立された。その後、順次、各地に手形交換所が設立され、平
成 13 年 11 月末日現在、全国に 540 の手形交換所(うち、法務大臣指定(注)の手
形交換所 173)がある。
(注)手形交換所は、手形法・小切手法により法務大臣が指定することとされている。この他に
未指定の手形交換所(私設手形交換所)がある。
≪東京手形交換所≫
東京手形交換所は、社団法人東京銀行協会(以下「東銀協」という。)によっ
て運営されており、現在の東京手形交換所の参加銀行は、421 行である。
参加銀行には、加盟銀行と代理交換委託金融機関がある。加盟銀行は、手形
交換所に直接交換証券を持出し、また持帰って手形交換を行う金融機関を言い、
代理交換委託金融機関は、加盟銀行に交換事務や決済を委託する銀行をいう。
【参加銀行数】
(平成 13 年 11 月末現在)
加 盟 銀 行
121
直 客員 (日本銀行、郵便局) 2
社
員
銀
行
93
接
準 社 員 銀 行
26
外 国 銀 行
5
交
信 用 金 庫
17
信金中金、商中、
4
換
全信組連、農中
代理交換委託金融機関
300
代
委 託 社 員 銀 行
25
第二地銀協加盟行
2
理
銀行系信託銀行
7
外銀系信託銀行
5
交
証券系等信託銀行
4
外 国 銀 行
66
換
信 用 金 庫
43
信 用 組 合
49
労 働 金 庫
2
農協・信連・信漁連
93
そ の 他
4
参
加
銀
行
421
−21−
なお、東京手形交換所の交換参加地域は、離島を除く東京都全域のほか、埼
玉県、千葉県および神奈川県のほぼ全域におよんでいる。
≪東京手形交換所の交換高≫
平成 12 年中の東京手形交換所における交換高は、7,801 万枚、781 兆 7,824
億円で、1 日平均でみると、枚数 31.4 万枚、金額 3 兆 1,523 億円であり、全国
の手形交換高(法務大臣指定交換所ベースで、枚数 2 億 2,587 万枚、金額 1,052
兆 3,389 億円)のうち、枚数は 34.5%、金額は 74.2%を占めている。
なお、東京手形交換所は、昭和 46 年 7 月以来、MICR方式(注)を利用したコ
ンピュータ・システムによる集中交換方式を採用しているため、交換持出手続
は、原則として交換日の前営業日の夜間に行われている。
(注) MICR方式とは、手形・小切手用紙の底辺部分(クリアバンドという。
)に特殊インク
で手形交換所番号、銀行番号、店番号、金額等を印字し、これをリーダーソーターで読取
り、同時にコンピュータに記録することによって交換手形の分類・集計を行う方式をいう。
以下、コア・プリンシプルの評価については、東京手形交換所を対象として
行っている。
−22−
2.コア・プリンシプル評価
原則Ⅰ
システムは、すべての関係法の下で確固とした法的根拠を持つべき
である。
原則Ⅰでは、決済システムの法的有効性に関する原則が定められている。
東京手形交換所は、手形法および小切手法(以下「手形法」という。)ならび
に東銀協が制定した東京手形交換所規則等の規定により運営されている。この
手形交換所規則は、東銀協において、法的側面も踏まえて検討を行い制定した
ものであり、参加銀行に対して当局から業務停止命令が出され、手形交換業務
の一時停止措置等を行う場合の規則改正等にあたっては、その法的有効性に関
する法律意見書を取得している。
手形交換制度における資金決済は、手形交換所規則等に基づき、手形交換加
盟銀行間の債権債務を包括的に決済する決済方法であり、加盟銀行の持出総額
と持帰総額との差額について資金の授受が行われる。この決済方法は、100 年以
上の歴史をもつ効率的かつ安定的な決済の仕組である。
原則Ⅱ システムの規則と手続きは、参加者が当該システムへの参加による金
融リスクを明確に認識できるものとなっているべきである。
原則Ⅱでは、決済システムの規則に関する原則が定められている。
東京手形交換所規則および同施行細則ならびに関係通達等は、東京手形交換
所規則集として整備されており、参加銀行が手形交換制度への参加によるリス
クを明確に認識できるものとなっている。
また、手形交換所規則等の制定や改正は、参加銀行をメンバーとする会合で
行われるという観点からも、参加者にとって明確なものとなっており、制定や
改正の都度、全ての参加銀行にその内容を直ちに連絡する体制を取っている。
なお、手形交換所規則等は、通常の取扱いの他に、システム障害が発生した
場合の取扱い、大規模災害が発生した場合の取扱い、参加銀行が破綻した場合
の取扱いなども定めており、様々な状況に対応できるようになっている。
原則Ⅲ
システムは、信用リスク、流動性リスクを管理するための明確な手続
きを持つべきである。こうした手続きは、当該システムの運営者や参
加者それぞれの責任を特定し、リスクを管理・抑制するための適切な
インセンティブを与えるものでなければならない。
原則Ⅲでは、決済システムのリスク管理に関する原則が定められている。
手形交換制度のリスク対策は、参加銀行の交換尻等の不払いや業務停止命令
があった場合には、当該破綻銀行に係る手形の入金や引落をすべて取消したう
えで、再度交換尻の計算を行い、決済する、いわゆる繰戻手続をとることとし
ている。したがって、破綻銀行を含め参加銀行には、手形交換の銀行間決済を
−23−
完了させるのための損失負担が発生しない仕組となっている。言い替えれば、
繰戻手続をとることにより、決済が完了しないことにともなう信用リスクの顕
現化を回避する仕組みをとっている。
手形交換制度で上述のリスク対策を行う理由は、コア・プリンシプルにおい
ても指摘されているように、以下のとおり。
(1) 手形(交換)の特性
手形は、一定の金額を期日に支払うことを証する有価証券であり、当該期日
に支払われない(不渡となる)こともある。したがって、手形交換は、持出銀
行が一旦入金記帳をしても、①交換日に資金解放されないこと、②入金自体が
取消される可能性について、受取人の了解(普通預金規定等で規定)のもとで
成立している制度である。
(2) 決済方法
現在、手形交換の銀行間決済は、時点ネット決済方式であるため、決済まで
の間に信用リスクが発生している。コア・プリンシプルでは、信用リスク削減
策として、即時グロス決済システムの採用が挙げられているが、手形交換は、
以下の理由からこの方式には適していない。
① 即時グロス決済システムは、支払指図の受付をした時点でその対価であ
る資金が提供される「送金」が前提であるが、手形交換は「取立」であり、
持出銀行から現物が持出され、手形交換所の集計後に支払銀行に持帰られ
た時点では、振出人の口座引落(資金提供)は完了していない。
② 持帰った手形について、印鑑照合等を行ったうえ、振出人の口座から資
金を引落し、その都度、1 件 1 件を即時に送金することも考えられるが、
その事務処理は極めて非効率であり、当日中に処理を終了させることは極
めて困難である。
(3) 限度額設定・管理
内国為替制度や外国為替円決済制度においても、時点ネット決済システム
を採用しているが、両決済システムは「送金型システム」で、信用リスク管理
のため仕向超過限度額やネット受取限度額制度を採用している。一方、手形交
換では、持出銀行から現物を交換呈示されて初めて、一括して大量の処理内容
(手形金額等)が把握できる「取立型システム」であり、振出を制限していな
い対顧客との関係から、事前に信用リスクのエクスポージャーを管理すること
ができない。仮に過去の実績から想定した限度額を設定した場合には、その限
度額を超えた一部の手形について支払を拒絶することは、振出人との支払委託
契約に反するし、対受取人との公平性の観点からも困難である。また、手形法
では、手形交換所における手形の呈示は支払呈示としての効力を有すると定め
ており、加盟銀行が支払うべき手形は原則として交換所の決済に付されること
となるので、支払銀行は持出銀行からの手形の交換呈示を拒む制度にはなって
いない。このように支払銀行自らが限度額の設定・管理をすることができない
−24−
以上、担保・流動性供給スキーム等を構築することは困難であると考える。
一方、流動性リスクへの対応については、前述のように手形交換では、ネッ
ト支払債務の額を制限したり、正確に予測することは困難であるため、交換処
理、決済処理をできるだけ迅速に行い、参加者が十分早い段階で自らが決済す
べき金額を認識し、資金を手当てしておくことが重要である。東京手形交換所
では、交換日の前日夜間に交換処理を行うため、交換日の営業開始時には、各
参加者は、自己の決済額を確認することができ、午後0時30分の決済時限に
備えることができる。また、万一繰戻しとなった場合についても、予め把握し
ている計数をコンピュータ処理することによって、迅速に繰戻し後の決済額を
確定することが可能である。
さらに、現在の手形・小切手現物の交換が伴う交換処理から、手形・小切手
を電子データ化して交換処理を行うチェック・トランケーションの導入につい
ても検討中であり、一層の決済処理の迅速化、効率化を目指している。
なお、現状の手形交換制度では、仮に繰戻手続きをしたとしても、交換所に
おいて付箋を貼付することとしているので、受取人の主債務者等に対する遡求
権は失われないよう措置が講じられており、最終的な受取人の権利は損なわれ
ないものとなっている。
原則Ⅳ システムは、決済日にファイナルな決済を迅速に提供すべきである。
ファイナルな決済は、日中に提供されることが望ましく、少なくとも
決済日の終了時までには提供されるべきである。
原則Ⅳでは、決済システムの決済時点に関する原則が定められている。
手形交換制度は、平常時においては、交換日の手形持出の取消は一切行えず、
午後 0 時 30 分にファイナルな銀行間決済を行っている。
原則Ⅴ マルチラテラル・ネッティングが行われるシステムでは、少なくとも
最大のネット負債額を有する参加者が決済不能となった場合でも、
日々の決済をタイムリーに完了できるようにするべきである。
原則Ⅴでは、万一、参加者が破綻した場合における決済の完了に関する原則
が定められている。
原則Ⅲで述べたとおり、手形交換制度は、参加者に決済不能があった場合に
は、基本的に繰戻手続きによらざるを得ない制度である。
したがって、繰戻しによる影響を極力抑えるため、可能な限り再計算処理を
早期に完了させることが重要である。
東京手形交換所では、手形交換に持出された手形について、加盟銀行単位で
持出銀行毎に持帰銀行(支払銀行)の枚数・金額を把握している。破綻銀行が
−25−
加盟銀行の場合には、この計数を用いることにより迅速に当該破綻銀行の計数
を除いた交換尻を再計算し、繰戻し処理を当日中に完了させることができる体
制となっている。
さらに、現在検討中のチェック・トランケーションが導入されれば、一層の
繰戻し処理の迅速化が期待できる。
原則Ⅵ 決済に利用される資産は、中央銀行に対する資産であることが望まし
い。他の資産が利用される場合、その資産は信用リスクと流動性リスク
がほとんどないか、またはまったくないものであるべきである。
原則Ⅵでは、決済に利用される資産に関する原則が定められている。
手形交換制度(東京手形交換所)では、日本銀行の当座勘定を利用して決済
が行われている。
原則Ⅶ
システムは、高度のセキュリティーと運行上の信頼性を備え、かつ日々
の事務処理をタイムリーに完了させるための緊急時の対応策を用意す
べきである。
原則Ⅶでは、決済システムのセキュリティーに関する原則が定められている。
手形交換システムは、参加銀行のみを対象とした、交換所内のオフラインシ
ステムである。
本システムのセキュリティとしては、入退館管理を厳重に行うとともに、パ
スワード設定による業務処理時の不正アクセス防止や操作ログの記録等を行っ
ている。加えて、ハードウェアの二重化を行い、処理結果について複数の磁気
媒体への書込みの機能を組み込んでいる。また、すべてのコンピュータ機器に
対し障害予防のための保守も定期的に行っている。
また、災害等による緊急事態発生時に対しては、文書化されたコンティンジ
ェンシープランがあり、加盟銀行への緊急時連絡訓練を毎年 1 回行うなど、正
常に機能することを確認している。
原則Ⅷ システムは、利用者にとって実用的であり、経済全体にとって効率的
な決済手段を提供すべきである。
原則Ⅷでは、決済システムの効率性に関する原則が定められている。
手形法においては、手形交換所に呈示すれば支払呈示の効力を有するとされ
ており、手形所持人は期日までに取引銀行へ取立を依頼すれば、わざわざ振出
人の所在地まで赴かなくとも、その手形が不渡でなければ、資金解放時刻をも
って資金化される制度であり、極めて効率的な決済手段であると言える。
また、手形交換制度は、金融機関にとっても手形交換業務に伴う金融機関間
の決済を正確かつ効率的に行うことができ、資金の効率的な運用が可能となっ
ている。
−26−
なお、手形交換制度は、加盟銀行の委員からなる委員会において参加銀行お
よび顧客ニーズ等を踏まえ、実用的かつ効率的なものとなるよう必要に応じ、
規則、手続き等の見直しについて検討を行っている。さらに、手形交換業務の
一層の効率化や決済の迅速性の向上を目的として、手形・小切手を電子データ
化して交換を行うチェック・トランケーションについて検討を始めている。
原則Ⅸ システムは、公正かつ開かれた形での参加が可能となるよう、客観的
で公表された参加基準を設けるべきである。
原則Ⅸでは、決済システムへの参加に関する原則が定められている。
現行の手形交換所規則は、客観的で公表された参加基準を設けている。
営業の免許を取得した金融機関は、手形交換制度の参加者となる資格を有す
る。その参加形態としては、東銀協の社員でない金融機関であっても準社員銀
行として東京手形交換所に直接参加することが可能であり、また代理交換委託
金融機関として直接参加者を介して手形交換制度に参加することも可能である。
原則Ⅹ システムの組織運営の取極めは、効果的かつ対外的に説明可能であ
り、透明なものとなっているべきである。
原則Ⅹでは、決済システムの運営に関する原則が定められている。
東京手形交換所は、東銀協により設立され、運営されている。手形交換所規
則等については、毎年参加銀行から検討すべき事項をアンケート調査し、その
結果に基づき、必要に応じた見直しを東銀協内の関係会議において顧客ニーズ
にも配慮しながら検討している。その決定事項については、機関決定と同日付
けで参加銀行に通知している。
なお、規則の改正にあたっては東銀協総会による決議と日本銀行の承認を得
ることとなっている。
以
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上
(ご参考)
○本報告書作成に携わった検討部会
<内国為替運営機構>
■内国為替決済リスク検討部会
<全国銀行協会>
■外国為替円決済制度リスク検討部会
■手形交換決済リスク検討部会
○全体とりまとめ
■全国銀行協会 事務委員会
(事務局)
全国銀行協会 事務システム部
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