セラミックス絶縁耐熱コイルを用いた内蔵CRD等に関する技術開発 Development of Mortor-Driven Internal CRD with ceramics insulated heat proof coil 奈良林 直、山本 哲三、佐藤 道雄、小林 徳康、徳増 正、亀田 常治、萩原 剛、川野昌平、 荒岡 勝政、菅原 良一、福井 和也 東電 森 治嗣、大森 修一、 東大 寺井 隆幸、班目 春樹、森元 雄一郎 BWR内に制御棒駆動機構(CRD)を内蔵することによって経済性、安全性の向上が期待できる。これまで東京電 力㈱と㈱東芝の共同研究の中で概念構築と成立性検討を進めてきた内蔵電動CRD(1)~(3)について、その主要技術で あるセラミックス絶縁コイル応用技術を中心に技術開発を行う。 キーワード:内蔵電動CRD,セラミックス絶縁、耐熱コイル、耐熱モータ、電磁カップリング 東芝 1.緒言 CRDを従来と同等のサイズの原子炉圧力容器内に内蔵することによって、RPV下部ドラ イウェルの高さ約10mのスペース削減と原子炉格納容器の容積・CRD関連機器の物量削減により、 経済性の大幅向上を図ることが期待できる。また、炉心がRPV下部に移動し、LOCA時の炉心冠水 維持が容易になる、RPV下部冷却による過酷事故時のIVR(炉心溶融物RPV内封じ込め)も有利と なる等の大きなメリットが期待される。 2.開発計画 内蔵電動CRDの主要構成要素には耐熱モータ、スクラム動作用の耐熱ソレノイド 駆動ラッチ機構、位置検出器、炉外との電力・信号の伝送を中継する電磁カップリングがあり、 いずれもセラミックス絶縁耐熱コイルが必須である。技術開発項目を図1に、分担を以下に示す。 ① 内蔵電動 CRD 駆動システム開発 (リーダ:東芝 位置検出器 奈良林主幹) ・キャン密閉型耐熱モータ・電磁機構 ラッチ機構 (耐熱ソレ ノイド含む) ・炉外への非接触信号伝送技術 RPV ② 耐熱セラミックス絶縁コイル技術開発 (リーダ:東大 耐熱モータ 寺井教授) ・絶縁コイルの耐久性向上 (高温劣化・弥生での照射試験) ③ BWR への適用性検討 (リーダ:東電 内蔵CRD 森グループマネージャ) 電磁カップリング 炉心 ・水質・中性子束などの炉内環境評価 ■炉内環境で機能する 電磁気応用品要素 ・セラミックス絶縁耐熱 コイルの応用 ・電力・信号伝送 ■炉心上部にCR引抜 →二相流チャンネル ガイドチムニ ・高温水中軸受(ロバスト)耐久性試験 ④ 二相流安定性・FIV 構造健全性評価 (リーダ:東大 図1内蔵電動CRD周りの構造模式図 班目教授) ・二相流 FIV 構造健全性評価 ・炉心上部の二相流安定性解析 これらの技術開発は当初の計画を1年 短縮し、平成16年度までの3.5年間で 実施中である。 3.平成 14 年度の成果 表1に各実施項目と今年度の成果を示す。 電磁駆動機構評価、セラミックス絶縁耐熱 コイルの耐熱試験が開始され、軸受けの ロバスト向上のための試験体と試験片の 設計製作、円形絞り流路を有する二相流 FIV 試験装置が完成した。 参考文献 表1 1.耐熱コイル技術を用いた内蔵電動CRDの技術開発 (1)内蔵電動CRD駆動システム開発 ・電磁気応用駆動システム(リニア型マグネットカップリング)の試作・評価 (2) 耐熱モータ開発 ・耐熱モータの克服すべき課題検討と性能評価 (3) 信号・電力伝送技術開発(電磁カップリング) ・内蔵CRDの位置検出精度の確認 2. 耐熱セラミックス絶縁コイル技術開発 ・セラミックス高温劣化特性評価装置を製作 ・適用候補材料についての耐熱評価試験とスクリーニング ・次年度照射計画(Co照射、弥生炉) 3. 内蔵電動CRDのBWRへの適用性検討に関する技術開発 ・軸受のロバスト性向上を目指した高温摺動試験装置の設計製作 4. 二相流動に関する安定性・構造健全性評価 ・円形絞り流路でのFIV励振力測定試験装置の設計製作 (1)山本ら日本原子力学会2001秋の大会G14 (3)徳増ら日本原子力学会2001秋G16 平成 14 年度の実施項目と成果のまとめ (2)小林ら日本原子力学会2001秋の大会G15 (4)石田ら、原子力学会2000春年会C41 i Development of Mortor-Driven Internal CRD with ceramics insulated heat proof coil TOSHIBA: Tadashi NARABAYASHI, Tetsuzo Yamamoto, Michio SATO, Noriyasu KOBAYASHI, Tadashi TOKUMASU, Tsuneji KAMEDA, Tsuyoshi HAGIWARA, Syohei KAWANO, Katsumasa ARAOKA, Ryoichi SUGAWARA and Kazuya FUKUI TEPCO: Michitsugu MORI, Syuuichi OHMORI University of Tokyo: Haruki MADARAME, Takayuki TERAI 1. INTRODUCTION In order to develop a competitive and high performance Next Generation BWR with fossil power plant, an internal CRD using a heatproof ceramics insulated coil is under development. In case of a 1700MWe next generation BWR, the internal CRDs are installed in a RPV which size is equivalent to the 1356 MWe ABWR, and there will be no space required for CRDs and CRD exchange under RPV. These advantages realize a compact PCV and reduced volume of a reactor building. Moreover, the internal CRDs eliminate penetration via a bottom flange of RPV, and lower installation level of RPV in a drywell. This brings further advantages of elimination of RIA (Reactivity Induced Accidents) caused by CR withdrawing under pressure boundary broken, and easy IVR (In Vessel Retention) by vessel bottom cooling during severe accidents. 2. TECNICAL DEVELOPMENT ITEMS The internal CRD consists of (1) a heat-resistant motor for normal adjustment of CR position, (2) heat-resistant solenoid drive latch mechanism for gravity driven scrum operation (3) an electromagnetic power coupling for signal and power transmission from outside of RPV. These new devices need heat-resistant magnet coils used in high- pressure and high temperature coolant in 内蔵電動CRD Internal CRD RPV. Therefore, the technical development for the Lift coil internal CRD is performed focusing on the ceramics insulated coil about 600 deg C or more. The technical development items are as follows: Linear magnet 1) Development of heat-proof motor and driving Power Power pipes mechanism and latch magnet for gravity driven Latch pipe nozzle mechanism scram. Magnet-co 2) Development of the ceramic insulated heat and upling Radial radiation resistant coil. magnet power 3) Durability test of a ball bearing for the internal Planet gear Primary CRD in the high-pressure and high-temperature Secondary reactor coolant under BWR condition. Heatproof motor for signal 4) Evaluation of structural integrity and flow for power instability due to two-phase flow of core exit condition. 3. RESULTS DURING FISCAL YEAR 2003 Fig.1 Development Items and Components 1) Linear magnet coupling latch mechanisms were evaluated by using a test model and analysis at TOSHIBA. The types of motor were evaluated concerning the simplification. 2) A hirh-temperature electrical-heated chamber upto 1000 deg. C was manufactured and installed at the University of Tokyo. Several ceramic insulated coil specimems were tested. Some of the specimens showed high-durabiliy. The radiation plan of Yayoi Reactor was made. 3) In the view point of robustness by the comment of the stearing committee, the ball bearings and roller-pin durability test apparatus was made at TEPCO, that can be test under the condition of high-pressure and hightempareture two-phase flow. 4) A visualized two-phase flow test loop was made at the University of Tokyo, in order to evaluate the two-phase FIV phenomena. 動力管1Bsch80 24本:信号線はMI ケーブルとして 共通原因故障を 防ぐ RPVを貫通する CRD動力管: 周方向に8本 以下の電磁カップリングを11組高さ 方向に積み上げて、この筒を24本 炉心上部に立てる(264本までの CRDに対応できる) 位置検出用電磁カップリング 350mm 動力用電磁カップリング This program was conducted as one of the selected offers for the advertised technical developments of the Institute of Applied ii Energy founded by the METI (Ministry of Economy, Trade and Industry) of Japan. iii 1.はじめに 原子力も新鋭火力などとの熾烈な発電コスト競争のさなかにある一方で、欧州では過酷事 故対策を取り込んだ第4世代の原子炉の開発がすすめられている。また、燃料の経済性の観 点から燃料の高燃焼度化も進み、RIA(反応度投入事象)の評価上から制御棒の引き抜け 事故に対するマージンも少なくなって来ている。また、東京電力㈱と㈱東芝の共同研究「先 進型 BWR の要素技術に関する研究」の研究開発[1]-[9]により制御棒駆動機構(CRD)を従 来と同等のサイズの原子炉圧力容器内に内蔵することによって、原子炉格納容器の容積、お よび CRD 関連機器の物量を削減し、経済性の向上を図ることが可能となることが明らかと なった。このためにはセラミックス絶縁被覆を施した耐熱コイルを用いた高温水中モータや 非接触電力伝送手段である電磁カップリングの技術開発が必要である。 内蔵電動 CRD の適用によって、CRD に関して圧力バウンダリが無くなる一方、炉心が RPV 下部に移動し、内蔵電動 CRD および制御棒ガイド兼二相流の流路となるガイドチム ニが炉心上部に位置することになるため、RIA を撲滅すると共に冷却材喪失事故時に炉心 冠水維持が容易になる、RPV 下部冷却による過酷事故時の IVR(炉心溶融物 RPV 内封じ 込め)も有利となる等の大きなメリットが期待される。さらに内蔵電動 CRD の主要な要素 技術である耐熱コイル技術を発展させることによって、BWR のみならず PWR や超臨界圧 炉への適用も可能である。 この成果報告書では、「セラミック絶縁耐熱コイルを用いた内蔵CRD等に関する技術開 発」の平成14 年度の技術開発成果について報告する。 リフトコイル 二重円筒ドライヤ 気水分離器 リニアマグネット カップリング 内蔵電動 CRD ラッチ機構 (重力スクラム) 電磁カップリング 非接触電力コネクタ ラジアルマグネット カップリング CRD ガイド チムニー RIP チューブ炉心 流量計 遊星ギア シュラウドレス炉心 耐熱モータ インターナルポンプ 図1 内蔵 CRD を採用した先進型 BWR(1) 1 図2 内蔵 CRD の内部機構 2.技術開発計画 2.1 技術開発目標及び具体的実施計画 内蔵電動 CRD システムの実用化を目指すにあたってキーとなる技術、すなわち下記(1) ~(4)の丸番号で示した技術の確立に重点をおき、各技術開発について、以下のように目標 を設定する。 (1)耐熱コイル技術を用いた内蔵電動 CRD の技術開発 ①電磁駆動システムの構築(スクラム動作系、通常動作系) スクラム動作系として、キャン内蔵ソレノイド機構、その上下動作をキャン外に伝達す るリニア型マグネットカップリング、その動作を制御棒駆動軸の把持・開放動作に変え るラッチ機構がある。この内蔵電動 CRD の主要構成をなす電磁駆動システムについて 解析的に炉内高温環境における性能を予測できる技術を確立する。 ・解析設計手法の確立 ・電磁駆動システムを応用した重力落下方式スクラム特性の把握 ②キャン密閉型耐熱モータのセンサレス制御技術 ・電力伝送用電磁カップリングを介した耐熱モータのセンサレス制御技術の確立 ・高温性能特性評価技術の開発 ③電磁気力を応用した原子炉圧力容器外から炉内への非接触信号・電力伝送技術(電磁カ ップリング適用システムの開発) ・制御棒位置検出系信号の電磁カップリングを介した伝送技術の確立 ・電磁カップリングを介した耐熱モータへの電力伝送技術の確立 (2)耐熱セラミックス絶縁コイルの技術開発 ・セラミックス絶縁材の候補材に関する高温劣化および放射線劣化特性の把握 (電気絶縁、機械的強度) ・耐久性向上手法の確立 (3)内蔵電動 CRD の BWR への適用性検討に関する技術開発 ・高温水中環境下における軸受け材料の劣化特性(軸受け寿命)の把握と候補材の選定 ・水質、中性子束などの BWR 炉内環境の影響の明確化 ・内蔵電動 CRD の炉内適用性評価 (4)二相流動に関する安定性・構造健全性評価 ①炉心上部の多チャンネル二相流 安定性に関する理論解析手法 ②二相流 FIV 構造健全性評価技術 図3 2 内蔵 CRD と二相流ガイドチムニー 2.2 技術開発のスケジュール 本技術開発における各技術開発項目に対するスケジュールを表 2.2.-1 に示す。 (1) 耐熱コイル技術を用いた内蔵電動 CRD の技術開発 ①内蔵電動 CRD 駆動システム開発 平成 13 年度に、技術開発項目(1)~(4)の全体計画を策定、平成 14~15 年度にわたって 電磁駆動システムの解析設計手法の確立を行い、平成 16 年度にはスクラム特性に重点を おいた評価を行い、駆動システム開発を完了する。 ②耐熱モータ開発 平成 15~16 年度にかけて耐熱モータの試作と高温試験による性能特性評価を行う。 ③信号/電力伝送技術開発(電磁カップリング) 平成 13~14 年度にかけて信号伝送技術開発、平成 15 年度に電力伝送技術開発を行い、 平成 16 年度には耐熱モータの試験結果をもとに電力伝送技術の理論検証を行う。 (2) 耐熱セラミックス絶縁コイル技術開発 平成 13 年度にセラミックス絶縁材の調査、候補材の選定、試験評価方法の検討を行い、 平成 14 年度に高温特性試験評価、平成 15 年度には照射試験評価を実施する。平成 16 年 度にはコイル線材としての耐久性向上方法の確立を目指す。 (3) 内蔵電動 CRD の BWR への適用性検討に関する技術開発 平成 13 年度に BWR の炉内環境評価と内蔵電動 CRD の BWR への適用性課題の抽出を 行い、平成 14~15 年度にわたって高温水中軸受け材料の劣化特性について試験・評価、 および軸受け材料の選定を重点的に行う。平成 16 年度にはロバスト性を評価する。 (4) 二相流動に関する安定性・構造健全性評価 ① 二相流安定性解析 平成 16 年度に二相流安定性理論解析を実施する。 ②二相流 FIV(流力振動)構造健全性評価 平成 13 年度に課題の抽出と簡易理論評価を実施し、平成 14 に FIV 試験装置を製作し、 15 年にデータを取得する。平成 16 年度にはそれを基に、構造健全性を評価する。 表 2.2.-1 本技術開発のスケジュール H13 ①内蔵電動CRD ・電磁機構要素 ・高温モータ ・電力・信号伝送 ②セラミックス絶縁 耐熱コイル H14 基本計画 吊上げ H15 H16 回転系 スクラム特性 制御 性能解析 耐熱モータ 高温特性 位置信号伝送 調査 高温特性 電力伝送 伝送理論 照射特性 耐久性向上 ③BWRへの適用性 ・中性子束・水質 ・軸受耐久性向上 中性子解析 試験装置 劣化試験 適用性評価 ④二相流の安定性・ 構造健全性評価 簡易評価 FIV試験装置 FIV試験 構造健全性 安定性評価 3 2.3 技術開発実施体制 本技術開発の実施体制を図 4 に示す。 統括代表機関: 東芝 (3)BWRへの適用性検討 リーダ:東京電力 ■BWRへの適用課題抽出 ■高温水中軸受・劣化特性 (1)内蔵電動CRDの技術開発 リーダ:東芝 ■電磁気応用駆動システム 耐熱モータ開発/制御 炉内への電力・信号伝送 技術指導/要素試験支援 (2)セラミックス絶縁耐熱 コイル技術開発 リーダ:東京大学(寺井教授) ■高温特性・照射試験 →耐久性向上 図4 技術指導/解析評価支援 (4)二相流動に関する安定性・ 構造健全性評価 リーダ:東京大学(班目教授) ■二相流安定性解析 ■構造健全性(FIV) 本技術開発の実施体制 2.4 平成14年度の技術開発 平成 14 年度は以下の項目を実施した。 1.耐熱コイル技術を用いた内蔵電動CRDの技術開発 (1)内蔵電動CRD駆動システム開発 ・電磁気応用駆動システム(リニア型マグネットカップリング)の試作・評価 (2) 耐熱モータ開発 ・耐熱モータの克服すべき課題検討と性能評価 (3) 信号・電力伝送技術開発(電磁カップリング) ・内蔵CRDの位置検出精度の確認 2. 耐熱セラミックス絶縁コイル技術開発 ・セラミックス高温劣化特性評価装置を製作 ・適用候補材料についての耐熱評価試験とスクリーニング ・次年度照射計画(Co照射、弥生炉) 3. 内蔵電動CRDのBWRへの適用性検討に関する技術開発 ・軸受のロバスト性向上を目指した高温摺動試験装置の設計製作 4. 二相流動に関する安定性・構造健全性評価 ・円形絞り流路でのFIV励振力測定試験装置の設計製作 参考文献 [1]小林 剛 他、「先進型 BWR の要素技術に関する研究(1)基本概念と要素技術」、原子力学会、2000 秋 H12 [2]斎藤 登 他、「同上 (2)炉内基本構造と耐震評価」、原子力学会、2000 秋 H13 [3]奈良林 直 他、「同上 (3)LOCA 時評価解析」、原子力学会、2000 秋 H14 [4]山本 哲三 他、「同上 (4)内蔵電動 CRD の概念検討」、原子力学会、2000 秋 H15 [5]小林 徳康 他、「同上 (5)電磁カップリングの開発」、原子力学会、2000 秋 H16 [6]小池 良介 他、「同上 (6)新型炉内機器の流動解析」、原子力学会、2001 秋 G13 [7]山本 哲三 他、「同上 (7)内蔵電動 CRD のラッチ機構の開発」、原子力学会、2001 秋 G14 [8]小林 徳康 他、「同上 (8)内蔵電動CRD用電磁カップリングの開発」、原子力学会、2001 秋 G15 [9]徳増 正 他、「同上 (9)磁場解析」、日本原子力学会、2001 秋 G16 4 3. 成果の概要 3.1 耐熱コイル技術を用いた内蔵電動 CRD の技術開発 本技術開発の対象となる内蔵電動 CRD について、東京電力㈱と㈱東芝による共同研究「先 進型 BWR の要素技術に関する研究」の成果に基づき、内蔵電動 CRD の電磁気応用駆動 システムについて、機構の理論解析と設計試作、作動特性試験を通じて炉内高温環境にお ける性能を予測する技術(解析設計手法)を確立することを目的とし、平成14年度は以 下の技術項目を実施した。また、技術開発成果を 4/20 から新宿で開催の ICONE-11 にて発 表する予定である。 1) 電磁駆動システムの機構要素であるリニア型マグネットカップリングの技術開発 2) 耐熱モータの解析設計手法の技術開発 3.1.1 内蔵電動 CRD 駆動システム開発 (1)内蔵電動 CRD 駆動システムの基本構造検討 平成14年度はスクラム動作系の磁気ラッチ(吊り上げマグネット)、リニア型マグネット カップリングなどの電磁気および希土類(サマリウム)コバルト磁石を応用した機構要 素について検討を行った。 図 3.1.1(1)-1(a)は吊上コイルによってラッチ機 構を作動させるため、圧力隔壁を介して吊上げ 力を伝達するリニア型マグネットカップリング の機構設計を行うために作成した3次元 CAD 図である。また、同図(b)はその下のラッチ機構 部を構成する分割ボールナットとその分割ボー ルナットを一体化するホルダースリーブ(円筒 下部にボールナットを一体化するための斜面を 有する)である。ホルダースリーブをリニア型 (a)リニア型マグネットカップリング マグネットで下降させると分割ボールナットが 開き、制御棒駆動用のボールネジが重力により 落下する。 図 3.1.1(1)-2 はリニア型マグネットカップリン グの作動原理を示す図で、対向する強力なサマ リウムコバルト磁石で上下方向の吊上げ力を非 接触で伝達することができる。図 3.1.1(1)-3 はマ グネットカップリングの製品例である。 平成 14 年度は、図 3.1.1(1)-4 に示す通り、リニ ア型マグネットカップリングを試作し、吊上げ 力の測定と、これを使ったスクラム作動試験を 実施した。図 3.1.1(1)-5 にスクラム機能作動試験 用機構評価モデルを示す。機能評価用のため、 吊上げコイルは市販のプランジャを用いた。 3.1.1-1 (b)ラッチ機構部 図 3.1.1(1)-1 ラッチ機構評価用3次元 CAD 図 この吊上げ力は、対向する磁石のギャップ距離に依存するため、間に挿入する圧力隔壁円筒の必 要肉厚を考慮しながら、ギャップをパラメータとして吊上力を測定した。得られた試験データから、 サマリウムコバルト磁石の高温時の減磁特性を考慮して実機で必要な 7MPa 飽和温度である 286℃の高温時での必要吊上げ力を確保するための必要な磁石個数を求めた。以上のリニア型マ グネットカップリングの試作および吊り上げ力評価試験により、内蔵 CRD として最も重要なスクラム 機構の成立性が確認できた。重力スクラムを採用することにより、現在のABWRで用いられている FMCRDのスクラム用のHCU(ハイドロコントロールユニット)などの多数のスクラム用機器と無数の 水圧配管が削除できる。また、内蔵CRDでは、圧力バウンダリ破損に伴う制御棒の引き抜け事故 が無いため、RIA(反応度投入事象)が発生しない。 図 3.1.1(1)-2 リニア型マグネットカップリングの作動原理 図 3.1.1(1)-3 製品例 図 3.1.1(1)-4 リニア型マグネットカップリング およびスクラム機構評価モデル試験体 3.1.1-2 図 3.1.1(1)-5 スクラム機能作動試験用 機構評価モデル概略断面図 (2) 電磁気駆動応用システム解析設計評価 スクラム機構の吊り上げコイルの固定アマチュアと可動アマチュア間のギャップが 10mm 程度ある。このギャップを介して可動アマチュアを吸引する必要があり、約 7000 アンペアターンの励磁によって必要となる 410N の吸引力を発生できることが確認されて いるが、励磁アンペアターンが大きいこと、特に固定ヨークでの最大磁束密度が 1.9T と 高めである点が厳しい設計となっている。そこで、磁気ラッチマグネットの高さを半分 にしたものを上下に2段積み重ねて磁気ラッチ機構を駆動することを考える。固定ヨー クの磁束密度を上げて体格の縮小を図ったものが設計改善例2である。設計改善例2で は固定ヨーク厚さを減少するとともに磁気ラッチマグネット高さを 108mm に減少して設 計改善例1と同等の 210N の吸引力を発生する設計となっている。図 4.1.1-6 に設計改善 例2の磁界解析結果を示す。固定ヨークの磁束密度は 1.5T まで高めた設計となっている。 固定アマチュア 固定ヨーク 1.5T 磁束分布図 磁束密度分布図 図 4.1.1-6 磁気ラッチマグネットの設計改善例2の磁界解析結果 3.1.1-3 3.1.2 耐熱モータ (1)耐熱モータの課題 平成 13 年度の研究において、耐熱モータに関しては次の目標仕様が抽出された。 ①の高圧・水蒸気環境に関しては、モータ全体をキャンで覆う構造とすること、 ②の高温環境に関しては、セラミック絶縁コイルを含む高温・放射線環境で使用可能 な材料を選定すること、また熱伸びを考慮してモータの回転子・固定子間のギャッ プを確保すること、またセラミック絶縁導体の巻線性の問題から固定子スロット内 の導体占積率を低めに抑えること、 ③の設置スペースに関しては、モータ種別として出力密度の高い永久磁石型同期モー タを採用すること、 ④の周波数の制限に関しては、1/5の減速ギヤを用いることにより、定格周波数を 50Hz とすること、 ⑤ モータの制御に使う信号線は電磁カップリングの関係から削除したい。 (2)センサレス制御 ⑤の課題からは、耐熱モータをセンサレスで制御することが必要であり、これに関して 平成13年度の研究において検討した。センサレス制御するためには、オープンループ方 式の制御が必要となるが、この種のトランス(電磁カップリング)を介した永久磁石式同 期モータでのオープンループ制御の実績はなく、新しい技術課題となる。またこの場合は 始動時のトルク角・回転速度の持続振動や脱調限界周波数の関係から始動周波数を低減す ることが望ましいが、④の電磁カップリングの周波数特性の制限を考慮すると技術課題が 大きいことが判明した。 さらに電磁カップリングと永久磁石モータを組合せた状態での電気的な静特性を解析に より検討した結果、始動周波数を低減できる場合においても電磁カップリングのインピー ダンスドロップが大きいために、低周波側での励磁電流の供給のためにインバータ、電磁 カップリングの容量が増大する課題があることが判明した。 (3)誘導モータの検討 (a) モータ基本構造 上記の①~④の課題はモータ種別に係わらず同一であるので、モータの基本構造として は永久磁石型同期モータの場合と同一とする。即ち、モータ全体をキャンで覆う構造とし、 減速ギヤを介しての駆動を行う。また熱伸びを考慮して、固定子=回転子間のギャップを 1mm程度確保する。 以上のことから、誘導モータに関する仕様は表 3.1.2-1のようになる。 3.1.2-1 表 3.1.2-1 仕様項目 寸法制約 誘導モータの仕様 形式 誘導モータ 極数 8 定格周波数 50Hz 回転数 12.5rpm 定格トルク 7.0Nm 最高使用温度 300℃ 回転子内径 φ51mm以上 固定子外径 φ173mm以下 軸長 357mm以下 (b) モータ材料の検討 固定子については永久磁石型同期モータと同様であり、鉄心材料として珪素鋼板を、コ イルとしてセラミック絶縁コイルを用いる。回転子については、鉄心材料は同期モータと 同様であるが、誘導モータ特有の材料として回転子バー材料の選定が必要である。誘導モ ータのバー材料としてはアルミ、または銅合金が用いられるが使用環境温度からアルミ合 金は使用できず、銅バーを用いることとする。また、バーを短絡するエンドリング材も銅 製とし、かつバーとエンドリング部の接合についても高温での接合強度を考慮してロー付 け等の方法を採用することとする。 (c) 誘導モータの課題 一般に小容量の誘導モータと永久磁石型同期モータを比較すれば、誘導モータでは永久 磁石型同期モータでは不要であった(永久磁石が界磁磁束を発生する)励磁電流分だけ固 定子コイル電流が増加するため、表 3.1.2-1 に示すように誘導モータでは体積が大きく、効 率が低下することが課題となる。 特に内蔵 CRD 用モータでは動作温度が高く、またセラ ミック絶縁導体の固定子スロット内占積率を低めに抑える必要があることから、固定子コ イルの抵抗が常温モータより高くなり、効率は表に示した値より小さくなり、また固定子 コイル電流増加が体積・効率に与える影響は大きくなる。 表 3.1.2-2 モータ種別 モータ特性の比較(常温モータ) 体積/トルク比 効率 永久磁石型同期モータ 1 90~98% 誘導モータ 1.2~1.5 80~88% 3.1.2-2 3.1.3 信号/電力伝送技術開発(電磁カップリング) (1)信号伝送理論 CRD を炉内に設置すると、CRD の駆動モータへの電力供給や計測系からの信号伝送が必 要となる。通常、電力の供給及び信号伝送は、コネクタを利用するが、炉外から炉内まで の電力伝送系及び信号伝送系がコネクタで結線されていると、燃料や制御棒の交換時に、 そのコネクタを外す必要がある。炉容器内でその作業を行うには、相当困難が伴うため、 ケーブル類が簡単に着脱可能な電力供給方式及び信号伝送方式が望ましい。 先行研究として東京電力、東芝の共同研究があり、「先進BWRの要素技術に関する研 究」(1)-(8)において、① 駆動モータへの電力供給用電磁カップリング、② 電磁石保持のため の電流供給用電磁カップリングの試作及び性能試験を行なった。 本技術開発では、平成 13 年度に、2つの信号用電磁カップリングをシリーズに接続する 位置信号伝送用電磁カップリングを試作するとともに、各々の電磁カップリングの性能に ついて、電圧伝送効率を測定し、各々約40%程度の伝送効率を有することを確認した。 平成 14 年度は、電磁カップリング#1について改良を加えると共に、位置検出用ソレノ イドコイルの設計・試作を行うとともに、電磁カップリング#1と電磁カップリング#2 を接続して位置検出検証試験を行った。 (a) 電磁カップリング#1の改良 昨年度の磁場解析結果によれば、電磁カップリング#1の効率を向上する方法として 1 次コイルの線径を大きくすれば、電圧伝送効率の向上が可能であるとの知見が得られてい る。従って、今年度の改良では、線径を 1.4mm(昨年度は 0.7mm)と大きくした。 (b) 位置検出用ソレノイドコイルの設計/試作 位置検出用ソレノイドコイルの設計条件は次の通りである。 ①位置検出範囲:0~3.5m(CRDの移動範囲) ②使用温度:最大 300℃ ③使用圧力:7MPa 信号伝送回路を図 3.1.3-1 に示す。信号伝送回路は、電磁カップリング#1、#2およ びソレノイドコイルを直列に接続する。CRDが移動すると、ソレノイドコイル中の鉄 心の移動によりソレノイドコイルのインダクタンスが変化するが、この変化分ををブリ ッジ回路によって測定した。ソレノイドコイルの設計は、鉄心を全挿入した場合と全引 き抜きの場合の電磁カップリング#1から見た入力インピーダンスの絶対値の差を求め、 インピーダンスの差が大きくなるようなソレノイドコイルのインダクタンスを求め設計 値とした。この結果、ソレノイドコイルのインダクタンスは、空心時で3mHとなった。 この条件とCRDの寸法の制約条件を考慮して、ソレノイドコイルの設計を行った。設 計結果は、次の通りである。 ① ソレノイドコイルの全長:3,500mm、ソレノイドコイルの直径:114mm ② 全巻数:1,300 回、銅線径:2.7mm 3.1.3-1 以上の設計を行い、±5mm を位置検出精度の目標とした。 実機のソレノイドコイルでは、寸法が大きいので、今回の試験では、1/5の縮小モデ ルを設計し、試作した。縮小モデルの設計結果は次の通りである。このときのソレノイド コイルの空心時のインダクタンスは 3mH である。 ① ソレノイドコイルの全長:700mm、ソレノイドコイルの直径:114mm ② 全巻数:585 回、銅線径:1.4mm 実機での位置検出精度の目標値は、±5mm であるが、縮小モデルでは1/5の±1mm であ る。試作したソレノイドコイルを図 3.1.3-2 に示す。 図 3.1.3-1 信号伝送回路 (a)分解写真 図 3.1.3-2 (b)組み上げた写真 試作した縮小モデルのソレノイドコイル 3.1.3-2 (2)位置検出検証試験評価 位置検出検証試験に先立ち、改良した電磁カップリング#1の伝送特性試験および電磁 カップリング#1と電磁カップリング#2を接続した総合伝送特性試験を実施した。 a.電磁カップリング#1の伝送特性試験 昨年度の測定結果では、周波数が 100Hz で効率が約 40%であったが、改良した電磁カッ プリング#1は、周波数が 50Hz で効率が約 45%となり、5%程度の改良が図られた。 b.総合伝送特性試験 接続したときの電圧伝送効率は、周波数が 50Hz で約 16%となった。これは、電磁カップ リング#1と電磁カップリング#2の各々の効率の掛け算(0.4×0.4=0.16)とほぼ、等しく なっている。 電磁カップリング#1の伝送特性試験結果と2つの電磁カップリングを接続して測定し た総合伝送特性の測定結果を図 3.1.3-3 に示す。 電磁カップリング#1伝送特性 総合伝送特性 60 電圧伝送効率(%) 50 40 30 20 10 0 0 100 200 300 図 3.1.3-3 400 500 600 周波数(Hz) 700 800 900 1000 電圧伝送効率の測定結果 C.位置検出検証試験 図 3.1.3-4 に位置検出検証試験の機能図を示し、図 3.1.3-5 に位置検出検証試験の試験体お よび計測器を示す。試験先立ち、ソレノイドコイルのインピーダンスの測定を行った。そ の結果を表 3.1.3-6 に示す。 ソレノイドコイルを使用した位置決め精度は、約±21mm であった。ただし、ブリッジ回 路の出力電圧のドリフトの影響があり、これを除く必要がある。 3.1.3-3 表 3.1.3-1 No 1 2 3 4 ソレノイドコイルのインピーダンス測定結果 ソレノイドコイル条件 偏心有/内筒無/外筒無 偏心有/内筒有/外筒無 偏心無/内筒有/外筒無 偏心無/内筒有/外筒有 抵抗(Ω) 全挿入 全引抜き 6.83 2.83 7.30 3.04 7.43 3.03 6.35 3.41 インダクタンス(mH) 全挿入 全引抜き 13.55 3.25 6.20 3.45 6.24 3.50 3.04 3.18 周波数 100Hz 100Hz 100Hz 100Hz (3)まとめ 今回の試験結果をまとめると次のようになる。 ① 電磁カップリング#1の 1 次コイルを改良したことにより、電磁カップリング# 1の電圧伝送効率は向上した。 ② 電磁カップリング#1と電磁カップリング#2を接続して、総合的な電圧伝送効 率を測定したところ、約 16%であった。これは、各電磁カップリングの電圧伝送 効率を乗じたものとほぼ一致した。 ③ ソレノイドコイルを使用した位置決め精度は、約±21mm であった。ただ、ブリ ッジ回路の出力電圧のドリフトの影響が大きかった。 以上のことから、ソレノイドコイル中の鉄心位置の変化を利用した位置検出方式は、測 定精度の確保およびブリッジ出力の温度ドリフトを解決する必要があることが分った。来 年度以降に解決を図る方針である。 図 3.1.3-4 位置検出検証試験の機能図 3.1.3-4 図 3.1.3(2)-4 図 3.1.3-5 位置検出検証試験の試験体および計測器 位置検出検証試験の試験体および計測器 図 3.1.3-6 位置検出検証試験結果 3.1.3-5 3.2 3.2.1 耐熱セラミックス絶縁コイル技術開発 セラミックス絶縁材料の候補材の選定 電磁カップリング用の高温コイルとして用いられている現行の耐熱絶縁電線について、 その構造を図 3.2.1-1 に示す。導線は、SUSクラッド銅で、その外側に数十μmの厚み の無機ポリマー層が被覆され、更に最外層としてセラミック長繊維の編組からなる約20 0μmの厚みのセラミック絶縁層が存在する。この耐熱電線では、部品組立施工時に、特 に屈曲部でこすれが生じた際に最外層のセラミック長繊維に切れが生じて毛羽立ち、施工 作業上の不具合を生じている。そこで、昨年度に実施した絶縁電線の構造および絶縁層に 用いるセラミック長繊維材質についての調査検討結果を基に以下の改良候補材料を選定し、 供試材を作製した。作製した供試材の仕様を表 3.2.1-1 にまとめる。 3.2.2 セラミックスの高温劣化試験装置の製作 絶縁電線の高温における電気絶縁性の劣化状態を評価する目的で、セラミックス高温劣 化試験装置について仕様および構造の検討を行い、装置を作製・導入した。本試験装置の 概略仕様を表 3.2.1-2 に、導入した装置の外観を図 3.2.1-2 に示す。試験温度は1000℃ までとし、雰囲気についても制御可能とした。また高温での電気特性を評価するため、炉 内部と電気的導通をとるコネクターを設ける改造を施した。さらに次年度以降に実施する 計画の耐照射試験に本加熱炉を持ち込む場合も想定して、加熱部と制御部を分割する構造 とした。制御部を照射場外に置くことで放射線の影響を隔絶する必要があるためである。 合わせて絶縁抵抗を計測するため超絶縁計を導入した。 3.2.3 セラミックス劣化特性評価 現行の絶縁電線とセラミックフェルト層のみを被覆した絶縁電線の外観、および屈曲試 験を実施した後の損傷状況を図 3.2.1-3 に示す。屈曲試験は、φ12mmの金属性円筒に 巻付けと伸ばしを10回繰り返す条件である。現行材は屈曲試験を行う前の編組の段階か らすでに部分的に繊維の細かい切れが認められ、屈曲試験後は切れが増加して毛羽立ちを 生じている。合わせて編組のゆるみ(導線からの浮き上がり)も観察され、こうした部分 で施工時にこすれが生じれば、容易に損傷が進むことが想定される。一方、セラミックフ ェルトはφ3μm以下の極細径の短繊維が相互に強固に絡み合った構造で、可とう性に富 み、屈曲試験後も導線からこの層全体が浮き上がるような損傷は認められない。 大気中800℃で2時間加熱処理を行った供試材の外観を同様に図 3.2.1-3 に示す。本 熱処理条件では、熱処理前と外観上に顕著な差違は認められない。 3.2.4 セラミックスフェルト層の特性劣化に関する照射試験計画の検討 本年度に購入した高温劣化試験装置を用いて実施する高温条件下における絶縁性試験に より絞り込んだ候補材料に対して次年度に実施する高温放射線照射環境下における絶縁性 3.2-1 劣化試験についての予備的な検討を行った。本照射試験に要求される条件としては、(1) 照射温度が 600℃以上、できれば 800℃であること、(2)高速中性子フルエンスが 2 x 1015 n/cm2 以上(もしくは照射線量がそれと同程度以上)であること、(3)試験体が照射でき る十分なスペースを確保できること、(4)照射中に絶縁特性を連続的に測定できることが 望ましいこと、である。これらの条件を満足する可能性がある設備としては、東京大学原 子力研究総合センターCo-60 ガンマ線照射設備および東京大学工学系研究科附属原子力工 学研究施設の弥生炉があり、これらの設備を使用した照射計画についての検討を開始した。 参考文献: 1)石塚敏夫,松本栄,石塚紀元;「セラミックフェルト超耐熱電線の開発」,工 業材料,38 [12] (1990) 表 3.2.1-1 No. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 供試材の仕様 導線 セラミックフェルト Ni 覆銅線(φ0.7mm) セラミックフェルト (Al2O3(52)-SiO2(48), φ2.6~3.0μm, 最長 250mm) Ni 線(φ1.4mm) Ni 覆銅線(φ0.7mm) 無し Ni 線(φ1.4mm) 表 3.2.1-2 高温劣化試験装置の概略仕様 項目 炉内寸法 電源 最奥使用温度 温度分布 温度センサー 到達圧力 炉内雰囲気 装置冷却方式 セラミック長繊維・編組 セラミック長繊維・編組 備考 無し ニチビ(Al2O3(70)-SiO2(30),φ5μm) ニチビ(Al2O3(70)-SiO2(30),φ7μm) ニチビ(Al2O3(70)-SiO2(30),φ10μm) ネクステル610(Al2O3(99),φ10μm) MQY-68(SiO2(99.6),φ10.5μm) 無し ニチビ(Al2O3(70)-SiO2(30),φ5μm) ニチビ(Al2O3(70)-SiO2(30),φ7μm) ニチビ(Al2O3(70)-SiO2(30),φ10μm) ネクステル610(Al2O3(99),φ10μm) MQY-68(SiO2(99.6),φ10.5μm) 現行材相当 ニチビ(Al2O3(70)-SiO2(30),φ7μm) 現行材相当 仕様 225W*215H*310D AC200V 4.6kW 1100℃ ±5℃ at1000℃ JIS R熱電対 10-1Pオーダ 大気、真空、不活性ガスなど 空冷 図 3.2.1-1 現行の耐熱絶縁電線の断面構造 無機ポリマー 導線 セラミックフェルト SUSクラッド銅 図 3.2.1-1 二重構造絶縁電線の模式図 3.2-2 セラミック長繊維・編組 図 3.2.1-3 高温劣化試験装置の外観 現行材 セラミックフェルト被覆材 セラミックフェルト被覆材 導線:φ0.7mm 導線:φ0.7mm 導線:φ1.4mm 製造時 端部 製造時 中央部 屈曲試験後 加熱処理後 屈曲試験:φ12mm の金属製円筒に巻付け⇔延伸を 10 回繰返した後に観察 加熱処理:大気中 800℃×2 時間の処理後に観察 図 3.2.1-4 絶縁電線の劣化特性の評価 3.2-3 3.3 3.3.1 内蔵電動 CRD の BWR への適用性検討に関する技術開発 高温水中軸受材料の劣化理論検討 (1) 内蔵電動 CRD の摺動部位に関する調査 図 3.3.1-1 から図 3.3.1-3 に、現在概念設計されている内蔵電動 CRD 本体の摺動部を示す。 内蔵 CRD 本体には、合計 17 ヶ所の摺動部位が存在する。これらの摺動部位の使用環境は、 気中と水中に分類される。水中で使用される摺動部位についてはグリス等の潤滑材が適用 できないため、摺動材料にとって過酷な使用環境となる。17 ヶ所の摺動部位にうち、使用 環境や接触荷重の観点から最も耐久性が要求されると考えられる代表的な部位は、図 3.3.1-2 に示したラッチ機構部スラスト軸受(摺動部6)である。 ラッチ機構部スラスト軸受の形状を図 3.3.1-4 に示す。外径 170mm、内径 130mm のス ラスト軸受は、約 286℃、圧力 7MPa の高温水中で使用される。このスラスト軸受には、 ラッチ機構部の自重、ボールネジ、及び、制御棒の全荷重(合計 1600N)が加わる。また モーター回転時のスラスト軸受の回転速度は 150rpm であり、60 年間プラント運転時の合 計回転数は 2.7×106 回転と設計される。 したがって、最も耐久性が要求されると考えられるラッチ機構部スラスト軸受について、 高温水中軸受材料の劣化特性を以下に検討する。 (2) スラスト軸受材料の劣化特性 ラッチ機構部スラスト軸受は約 286℃、圧力 7MPa の水中で使用されるため、軸受が回転 する際には、高温高圧水中で軸受材料同士の回転摺動が生じる。具体的には、玉、軸受溝、 及び保持器との摺動摩耗及び転動摩耗が生じる。このとき生じる材料の劣化すなわち摩耗 は、材質や使用温度、使用環境に大きく依存するため一概には言えないが、押付荷重(P) と回転速度(V)が大きいほど損傷が大きくなる傾向にある。また、運転時の合計回転数の 増加とともに、摩耗が進行する。したがってスラスト軸受の設計に当たっては、想定され る使用条件に耐えうる軸受材料を選定するする必要がある。加えて、鉄酸化物等を主成分 とするクラッドが炉水中から軸受摺動部に混入すると、摺動特性に大きく影響を及ぼす可 能性があり、軸受のロバスト性が要求される。 軸受材料の摩耗に関する劣化特性を評価する場合には、試験体系や試験環境をできるだ け対象機器に近づけた試験が望ましい。そこで、3.3.2 節では、ラッチ機構部スラスト軸受 を対象とする試験装置の設計・製作を行なった。 3.3.1-1 摺動部4 ピンローラ(水中) 摺動部6 スラスト軸受(水中) 摺動部7&8 ラジアル軸受(水中) 摺動部9 ピンローラ(水中) 摺動部1 摺動部10&11 ピンローラ(気中) ラジアル軸受(気中) 摺動部12 摺動部2 二段遊星ギア ボールケージ(気中) (気中) 摺動部13&14 摺動部3 ラジアル軸受(気中) ボールケージ(水中) 摺動部15 ラジアル軸受(気中) 図 3.3.1-1 内蔵電動 CRD 本体摺動部(1/3) 図 3.3.1-2 内蔵電動 CRD 本体摺動部(2/3) φ170 単位 mm φ130 30 摺動部16 スラスト軸受(気中) 摺動部17 ラジアル軸受(気中) 図 3.3.1-3 内蔵電動 CRD 本体摺動部(3/3) 3.3.1-2 図 3.3.1-4 ラッチ機構部スラスト軸受の寸法 3.3.2 試験装置製作 (1)概要 平成13年度に実施した、炉内構造の基本設計とBWR炉内設置に関わる課題の抽出および 内蔵電動CRDの設置環境(中性子束、水質)評価、BWR炉内環境における摺動部材(軸受 等)の寿命に関わる文献調査から、高温高圧水中における軸受等の成立性評価を行う際に は、実機水質を模擬した環境で試験することが望ましいという結論が出た。また、平成13 年度の審査委員会から、「研究の目玉を明確に打ち出し(例えば、軸受けのロバストネス など)、チャレンジングな研究活動をして欲しい。」とのコメントをいただいた。 これを受け、平成13年度は内蔵電動CRDが使用される環境を模擬した条件下で軸受けの ロバストネスが確認できるように、①軸受試験片の60年相当の寿命評価が可能な試験を実 施する、②炉水環境中の過酷な環境を模擬して鉄クラッドなどの異物を混入した試験を実 施するというチャレンジングな目標を置き、摺動部材の選定および試験方法の検討を行な った上で試験装置の設計製作を実施した。 (2)内蔵 CRD 軸受気液二相流水中駆動試験装置の設計・製作 a. 試験方法の検討 軸受が使用される高温高圧二相流環境を模擬した条件で、小型試験片を用いた摩耗試 験を実施し、軸受寿命の評価を行う。 高温高圧二相流ループに接続した循環試験と、試験装置単独でのバッチ試験ができる よう、小型の圧力容器試験装置を設計する。 b. 軸受試験片の設計(形状、材質の選定) 1)以下に示す2種類の形状の軸受試験片とする。 ①ボール軸受試験片 スラスト型転がり軸受試験片であり、回転輪と平板固定輪との間に保持器で等間 隔に分離された玉6個をはさむ構成となっている。概略形状を図3.3.2-1に示す。 ②ローラ/ピン型軸受試験片 ABWRのFMCRD摺動部に適用実績があるローラ/ピンを用いた軸受試験片であり、 ローラ/ピン3組をホルダーリングに保持する構成となっている。概略形状を図3.3.2-2 に示す。またローラ/ピンの代表的な外観写真を図3.3.2-3に示す。 2)以下に示す材質を候補材とする。 ①ボール軸受試験片 回転輪、固定輪および玉:SUS440C、保持器:グラファイト ②ローラ/ピン型軸受試験片 ローラ:ステライト#3、CRA(Ni-Cr-Mo-Nb合金) ピ ン:アロイ#25、アロイ#25+CrNコーティング 3.3.2-1 c. 試験条件の整理 1)試験環境 温度286℃、圧力7MPaの高温高圧二相流とする。 2)押付荷重(P) 内蔵電動CRDラッチ機構部スラスト軸受に生じる荷重は、前節(3.3.1)で述べた 如く約1,600Nと想定されている。外径170mmの軸受が20個の玉で構成される場合、 玉1個に加わる荷重は、80N/個である。従って、玉1個あるいはローラ/ピン1組あたり 最大80Nとする。 ①ボール軸受試験片:玉は6個あるので、負荷荷重は最大480N ②ローラ/ピン型軸受試験片:ローラ/ピンは3組であるから、最大240N 3)回転速度(V) 内蔵電動CRDラッチ機構部スラスト軸受の回転速度は、前述の如く約150rpmと想 定されている。外径170mm玉軸受と軸受試験片との形状比率(玉間距離150mm: 40mm)を考慮し、試験の回転速度を最大560rpm(0∼560rpmの範囲で可変設定可) とする。 4)試験時間(回転数) 内蔵電動CRDラッチ機構部スラスト軸受における60年間プラント運転時の合計回 転数は前述の如く2.7×106回転と想定されている。従って、回転数最大3×106回(0 ∼3×106回の範囲で可変設定可)とする。 試験は、 まず候補材の摩耗特性をスクリーニングする軸受材料スクリーニング試験 を2.7×105回程度行った後、寿命試験を最大3×106回行う。(後節(3.3.3)で詳述) 5)評価項目(後節で詳細に述べる) ①摩耗減量評価 試験前後の試験片の重量変化及び形状寸法変化を測定する。 ②摺動面表面観察 摺動面の表面粗さや表面状態を、粗さ計及び走査型電子顕微鏡等により観察する。 以上の試験方法、軸受試験片形状及び試験条件を考慮し、試験装置を設計した。試験装 置本体の概略図を図 3.3.2-4 に、装置架台及び試験容器開放時配置図を図 3.3.2-5 に示す。試 験装置は来年度より供用を開始し、高温高圧水中での軸受けのロバスト性向上というチャ レンジングな開発に取り組む。 3.3.2-2 φ52 回転輪 保持器 35 平板固定輪 玉 図 3.3.2-1 ボール軸受試験片の概略形状 φ52 回転リング ローラ ホルダーリング ピン 35 図 3.3.2-2 ローラ/ピン型軸受試験片の概略形状 図 3.3.2-3 ローラ/ピンの代表的な外観写真 3.3.2-3 3.3.2-4 a.装置本体全体図 b.装置本体拡大図 図 3.3.2-4 試験装置本体概略図 荷重負荷用錘 (非回転) 試験容器(圧力容器) 単独運転用 循環配管より ラジアル軸受 (すべり軸受) 回転軸(シャフト) 軸受試験片支持部材 (回転) 回転体支持部材 (固定) 単独運転用 循環配管へ 圧力容器蓋 磁力式回転機回転軸 磁力式回転機 高温高圧 ループより 軸受試験片 高温高圧 ループへ 3.3.2-5 図 3.3.2-5 装置架台及び試験容器開放時配置図 3.3.3 評価計画の策定 本年度製作した試験装置を用いて実施する軸受材料劣化特性試験について、評価する特 性や試験条件、評価項目を検討した。検討結果を表 3.3.3-1 に示す。 (1) 軸受材料のスクリーニング試験 高温水中での使用に耐えうる軸受材料を選定するため、実環境を模擬した条件下での軸 受摩耗試験を実施し、軸受材料のスクリーニング試験を行なう。今までに報告されている 研究事例[1-3]を参考とし、候補材として、ボール軸受試験片には SUS440(玉、回転輪、固定 輪)とグラファイト(保持器)の組合せ(表 3.3.3-1 中の材質①)を選定した。また、ロー ラ/ピン型軸受試験片には、ステライト#3(ローラ)とアロイ#25(ピン)の組合せ(表 3.3.3-1 中の材質②) 、及び、Ni-Cr-Mo-Nb 合金(ローラ)とアロイ#25+CrN コーティンング(ピン) の組合せ(表 3.3.3-1 中の材質③)をそれぞれ選定した。材質①の組合せは、内蔵 CRD とは 使用条件が異なるが、船舶炉用軸受特性試験において良好な特性を示した材質の一つであ る。材質②は、ABWR 用制御棒駆動装置において摺動部に使用されるローラ/ピンの材質の 一つであり、耐摩耗性に優れる Co 基超硬合金である。また材質③は、同じく ABWR 用制 御棒駆動装置のローラ/ピン用に開発された材料で、被爆低減用の Co を含まない合金(ロー ラ材)と CrN セラミックをコーティングしたピンの組合せである。材質③は、材質②に比 べて高温水中での耐摩耗性に優れることが確認されている[3]。これら3種類の候補材につい て、表 3.3.3-1 に示す実環境を模擬した条件で軸受材料劣化特性試験を行ない、摩耗特性と 軸受材質の関係を評価する。試験回数については、実機運転 60 年の 1/10 に相当する回数(2.7 ×105 回)で3材質を比較し、良好な特性を示す材料について次に述べる寿命試験を行なう。 評価項目としては、試験前後の試験片の重量減量を測定するとともに、試験片の試験後表 面粗さや表面形態を観察し、摩耗等の劣化を調査する。 (2) 寿命試験 選定した3種類の材質①~③のうち、スクリーニング試験で良好な摩耗特性を示した材 質について、実機運転 60 年に相当する試験回数 3×106 回の寿命試験を行なう。そして摩耗 特性と試験回数の関係を把握し、長期間の供用に耐えうる材質の選定を行う。 (3) ロバスト性試験 内蔵 CRD の軸受には、鉄酸化物等を主成分とするクラッドの混入に対するロバスト性が 要求される。そこで、先に述べたスクリーニング試験及び寿命試験で良好な特性を示した 材質組合せに対して、高温水中に鉄酸化物を混入した環境下での軸受摩耗試験を実施し、 ロバスト性評価を行う。そして摩耗特性に及ぼす鉄酸化物混入の影響を調べる。 参考文献 [1]布川浩、頼経勉、今吉祥、笠原芳幸、落合政昭、石田紀久、”MRX 原子炉容器内装型制御棒 駆動装置の高温軸受の開発”、JAERI-Tech2001-040、(2001) [2]林田一徳、石田紀久、”高温・高圧水中における転がり軸受のトライボロジー特性”、Koyo Eng. J., No.160 (2001) 39. [3]岡崎旦、森本庄吾、村上宣興、大谷卓、小野昇一、”原子力発電プラントへの新素材の適用研 究-ANERI15 年の成果-”、日本原子力誌、Vol.42, No.3 (2000) 146. 3.3.3-1 表 3.3.3-1 軸受材料劣化特性試験において評価する特性、試験条件、及び、評価項目 評価する特性 摩耗特性と軸受材質の 関係 (スクリーニング試験) 摩耗特性と試験回数の 関係 (寿命試験) 試験条件 *1 ・雰囲気:286℃飽和水中 ・試験速度:560rpm ・試験回数:2.7×105 回 ・材質: ①ボール軸受 回転輪,玉:SUS440C 保持器:グラファイト ②ローラ/ピン型軸受 ローラ:ステライト#3 ピン:アロイ#25 ③ローラ/ピン型軸受 ローラ:Ni-Cr-Mo-Nb 合金 ピン:アロイ#25+CrN コーティング ・試験荷重: ①の場合 480N ②③の場合 240N ・雰囲気:286℃飽和水中 ・試験速度:560rpm ・試験回数:3×106 回 ・材質:上述①~③のいずれ か2条件、もしくは全条件 ・試験荷重: ①の場合 480N ②③の場合 240N ・雰囲気:286℃飽和水中 (酸化鉄混入) ・試験速度:560rpm ・試験回数:2.7×105 回 酸化鉄等の混入に対す ・材質:上述①~③のいずれ る軸受のロバスト性 か2条件、もしくは全条件 (ロバスト性試験) ・試験荷重: ①の場合 480N ②③の場合 240N 評価項目 ・試験前後の摩耗減量 (重量、寸法) ・試験後の表面観察 (粗さ、表面状態) ・試験前後の摩耗減量 (重量、寸法) ・試験後の表面観察 (粗さ、表面状態) ・試験前後の摩耗減量 (重量、寸法) ・試験後の表面観察 (粗さ、表面状態) *1:試験結果に応じて適宜試験条件の見直しを行うものとする。 3.3.3-2 3.4 二相流動に関する安定性・構造健全性評価 内蔵型CRDを採用に対する二相流動に関する安定性・構造健全性の課題のうち、前年 度に引き続き、二相流による流力振動(Flow-Induced Vibration,以下FIVと略称する) に対する構造健全性の問題について検討を行った。前年度は、流路内並行二相流によるガ イドチムニーの振動を検討し、構造健全性の上で問題がないことを確認した。今年度はこ れとは別に前年度に抽出したCRD格子板の上下方向振動を検討した。 CRD格子板の上下方向振動は、ガイドチムニー下部(ダクト部)からガイドチムニー 上部(CRDハウジング間流路)への絞り流路上面への二相流の衝突によって起るもので ある。CRD格子板の振動は動的機器である内蔵CRDの動作健全性や絶縁セラミックの 耐久性に影響を及ぼす可能性があるので、あらかじめこれを検討しておく必要がある。し かし、このような衝突二相流による励振力に関する研究は従来ほとんどなく、この大きさ を評価することは容易ではない。そこで、これを知るために理論と実験の二つの側面から 検討を行うこととし、今年度はそれぞれに関して、次に記す2項目を実施した。 (1)励振力評価のためのパラメータ検討 並行流励振では NUPEC 燃料 FIV 試験結果に基づいて、二相並行流励振力を評価した。こ の場合には評価に必要な二相流パラメータは水力等価直径と質量流束、クオリティ、気相 密度、液相密度の5つであった。衝突流励振でも同じように評価パラメータを決めること ができれば、後述する水-空気模擬試験の結果を実機における水-蒸気条件へ適用するこ とが容易になる。そこで、比較的データが多い管群に対する二相直交流励振力の整理法を 調 査 し た 。 こ の う ち 良 く 知 ら れ て い る 二 つ の 整 理 法 ( Pettigrew&Taylor の 方 法 、 de langre&Villard の方法)を比較整理し、共通する評価パラメータを抽出した。抽出したパラ メータは代表長さと質量流束、クオリティ、気相密度、液相密度の5つで並行流と同じで あった。しかし、Pettigrew&Taylor の方法では気泡径が質量流束に依存するのに対して、de langre&Villard の方法ではクオリティと気相密度、液相密度のみで決まり、両者の予測値 は大きく異なることがわかった。したがって、水-窒素模擬試験装置では、これらの評価 パラメータに追加して気泡径の評価を考慮して設計・製作した。 (2)水-窒素模擬試験装置の設計・製作 二相衝突流現象を調べる基礎試験装置として、水-窒素模擬試験装置を設計・製作した。 前年度に概念設計したようにガイドチムニー下部からガイドチムニー上部への絞り流路を 同心円形絞り流路で模擬した。概略図を図 3.4-1に、装置諸元を表 3.4.4-1に示す。測定項 目としては試験部での圧力変動、加速度のほかに流路出口部でのボイド率を測定する。こ れ以外にも流動様式や前述した気泡径を評価できるように流路出口部に可視化セクション を設置した。なお、試験部自体もアクリル製流路に交換することで流れ場の可視化を行う ことが可能で、流力振動問題のみならず流動自体に大きな問題がないかを確認することが できるようにした。 3.4-1 表 3.4-1 水-窒素模擬装置諸元 項目 設計値 窒素 気体容積流量 最大気相みかけ速度 30-300 L/min 0.63 m/s 液体容積流量 最大液相みかけ速度 気体容積流量率 60-600 L/min 1.27 m/s 水 (実機ガイドチムニー) 0.17 - 0.95 0.80 CRD 同心円形絞り 流路で模擬 CRD格子板 制御棒 図 3.4-1 水-窒素模擬試験装置 3.4-2 4.まとめ 4.1 平成 13 年度末の委員会参考コメント H14 年度においては、計画通り技術開発を継続することが適当である。ただし、下記委員の参考コメ ントを考慮・検討して、H14 年度末にはその十分な説明がなされるべきである。 (1) ほぼ確立された技術の試作(実証)という手堅い開発研究の印象がある。研究の目玉を明確に 打ち出し(例えば、軸受けのロバストネスなど)、チャレンジングな研究活動をして欲しい。 (2) 高温の状態でも使える見込とのことで、Na 炉などへの利用も期待できるかも知れない。 (3) 二相流解析は技術開発上は直接関係ないように思える。 4.2 平成 14 年度成果のまとめ 4.2.1 耐熱コイル技術を用いた内蔵電動 CRD の技術開発 (1)内蔵電動 CRD 駆動システム開発 電磁気応用駆動システムとしてリニア型マグネットカップリングの試作・磁場解析評価を実 施し、必要な吊上げ力の見通しを得た。 (2) 耐熱モータ開発 キューリー点温度が 800℃と高く、放射線による減磁も小さい SmCo 磁石を用いた同期モー タと、必要容積が約 1.5 倍に大きくなるが構造が簡単で回転制御が容易な誘導モータの優劣 比較を行った。電磁カップリングを介したセンサレス制御は始動時や低速回転時の制御の課 題が大きいため、8極誘導モータを選定し、高温時の材料選定を実施した。 (3) 信号/電力伝送技術開発(電磁カップリング) 制御棒位置検出器用電磁カップリングを対象とした信号伝送特性試験装置(信号伝送用電磁 カップリング)の設計および製作を行い、総合電圧伝送効率を測定し、制御棒の位置検出精 度として±34mmを得た。今後は、高温時の温度ドリフト対策と精度向上を図る。 4.2.2 セラミックス耐熱絶縁コイル技術開発 委員会コメント(2)を反映してBWRのみならず、高速炉や超臨界圧炉を想定して約1000℃までのセ ラミックス高温劣化試験ができる高温電気炉を製作した。この高温電気炉と超絶縁計を組み合わせた セラミックス高温劣化試験装置の製作を行い、Co照射室での使用を考慮した改造を東芝にで実施し た後、東京大学 寺井研究室に設置した。更に、セラミックス絶縁材料の改良候補材を高温電気炉で 加熱後、屈曲試験を実施し、セラミックスフエルトとアルミナ長繊維の二重構造を選定した。また、東京 大学原子力研究総合センターCo-60ガンマ線照射設備および東京大学工学系研究科附属原子力工 学研究施設の弥生炉を用いた照射計画についての検討を開始した。 4.2.3 内蔵電動 CRD の BWR への適用性検討に関する技術開発 委員会コメント(1)を反映して、軸受けのロバストネス(堅牢性)向上を目指したタレンジン グな目標設定とし、高温高圧水のみならず二相流での試験や炉水中に存在すると想定される鉄 酸化物クラッドなどを混入した耐久試験が実施できるような高温水中軸受耐久性試験装置を 東京電力技術開発研究所にて設計製作した。また、試験のための高温耐摩耗材を用いた軸受試 験体、ローラーピン摺動試験体を製作した。 4-1 4.2.4 二相流動に関する安定性・構造健全性評価 円形絞り流路での励振力の測定の試験装置の設計製作を実施し、東京大学原子炉工学施設内 の実験室へ設置した。予備試験により、二相流のボイド率の過渡変化を測定できることを確認 した。委員会コメント(3)については、炉心上部のガイドチムニー構造、内蔵 CRD 設置位置で の絞り流路は従来の二相流研究の知見からは炉心の安定性に影響を与える懸念があり、本技術 開発にも直接関係するため、円形絞り流路の二相流圧力損失のデータ等を考慮し、最終年度に 解析評価することが必要と考えている。 4.3 平成 15 年度の計画 4.3.1 耐熱コイル技術を用いた内蔵電動 CRD の技術開発 (1)内蔵電動 CRD 駆動システム開発 リニア型マグネットカップリングに続き、遊星ギアやラジアル型マグネットカップリングなど回転系の試 作・解析検討を実施する。 (2) 耐熱モータ開発 本年度実施した耐熱モータの解析評価に基づいて、世界初の動力用耐熱モータを試作する。 (3) 信号/電力伝送技術開発(電磁カップリング) 動力用電磁カップリングの理論評価および検証試験を実施する。 4.3.2 セラミックス絶縁耐熱コイル技術開発 セラミックス高温劣化特性評価装置を用いたセラミックス絶縁耐熱コイルの高温劣化試験と東京大 学の Co-60 ガンマ線照射設備および原子力工学研究施設の弥生炉で照射試験を実施する。 4.3.3 内蔵電動 CRD の BWR への適用性検討に関する技術開発 東京電力技術開発研究所に設置した高温水中軸受耐久性試験装置を用いて、ロバストネス向上 の観点から設計寿命 60 年を目標とした高温二相流中軸受耐久性試験とローラーピン摺動試験を実 施する。 4.3.4 二相流動に関する安定性・構造健全性評価 東京大学原子炉工学施設内の実験室へ設置した円形絞りを有する FIV 試験装置を用いて、上 部に絞り流路を有する二相流 FIV 試験データを採取する。 4.4 平成 16 年度の計画(技術開発最終年度) 技術開発の最終年度として、技術開発を進めてきた各要素技術および機構部品を組み合 わせ内蔵 CRD としての総合試験を実施する。車に例えればエンジン、車体、タイヤ、ス テアリング装置を組み合わせた走行テストに相当する。ただし、実証試験の代わりに電気 ヒータを用いた実機相当高温試験と、セラミック絶縁耐熱コイルについては弥生炉を用い た照射下での耐久性向上試験、軸受けについては最終選定材でのロバスト性向上試験を実 施する。また、二相流構造健全性については最終形状での構造健全性 FIV 理論評価と二相 流安定性理論評価を実施し、合理的な手法により実用化の道筋を付ける。 4-2
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