Embargoed Advance Information from Science The Weekly Journal of the American Association for the Advancement of Science http://www.aaas.org/ 問合せ先:Natasha Pinol +1-202-326-6440 [email protected] Science 2013 年 11 月 1 日号ハイライト HIV を仲介する「犯人」の正体が明らかに 表面をひとひねりすれば小児期のウイルスの良いワクチンを作れる 土壌微生物と土壌の肥沃度 ―― 過去の状態を調べる 眼の蛋白質をおろそかにするなかれ HIV を仲介する「犯人」の正体が明らかに A Close Look at HIV’s Middleman HIV の仲介者、つまり死をもたらすウイルスを免疫細胞の中に侵入させる分子は、新たな 2 つの研究のおかげで、いまや構造生物学者の「最重要指名手配リスト」から外されることに なった(もちろん、高分解能構造を持つ分子は常に考えられるが)。この HIV-1 エンベロー プ(Env)トリマーという分子は大きな議論の対象となってきた。今年の初めに、科学者た ちはクライオ電子顕微鏡を用いて、特徴がつかめないことで悪名高かったこの分子の姿を束 の間、視覚化したと主張したが、研究者のなかからその結果を疑問視する声があがった。今 回、新たな 2 つの研究で、科学者らは Env トリマーの姿を高分解能技術で視覚化したのみな らず、2 つの異なる技術を用いてそれを行った。科学者たちがこの分子の構造の解明におい て進歩を成し遂げたことはきわめて重要である。なぜならこの分子は HIV の表面上に存在 するウイルス的にエンコードされた唯一の抗原であり、つまり天然の免疫にとっての唯一の 標的であり、したがってワクチン開発の可能性を秘めているからである。 この重要な分子を完全に視覚化するために、2 チームの科学者たちが、クライオ電子顕微鏡 (すでに用いられた技術)と X 線結晶学的技術(クライオ電子顕微鏡よりも高分解像が可 能)を用いて取り組んだ。Jean-Philippe Julien らは、Env トリマーを広範な中和抗体に結合さ せ、結晶化させることで 4.7 オングストロームの複合体を得た。Env トリマーと別の抗体を 用いた関連する実験において Dimtry Lyumkis らのチームはクライオ電子顕微鏡を用いて、 最先端の電子顕微鏡技術を使用し、今年の初めに議論のあった研究と同様の方法により、 Lyumkis らはトリマー・抗体複合体のさらなる高分解像を手に入れた。重要なことは、 Lyumkis らが明らかにしたクライオ EM 構造は、Julien らが示した X 線結晶学的構造と一致 していたことである。両チームが報告した抗体複合体の観察から、トリマー構造の特徴(長 い間追究されてきた融合前のトリマーの形状など)について重要な洞察が得られた。この結 果は、HIV が細胞内に侵入するメカニズムを理解するうえで、大きな進歩を意味している。 Env トリマー構造のより詳細な情報を提供したことで、ウイルス構造に基づく HIV ワクチン を開発するうえでの指針としても役立つであろう。 Article #25: "Cryo-EM Structure of a Fully Glycosylated Soluble Cleaved HIV-1 Env Trimer," by D. Lyumkis; J.-P. Julien; N. de Val; C.S. Potter; D.R. Burton; B. Carragher; I.A. Wilson; A.B. Ward at The Scripps Research Institute in La Jolla, CA; A. Cupo; P.J. Klasse; R.W. Sanders; J.P. Moore at Weill Medical College of Cornell University in New York, NY; D.R. Burton at Ragon Institute of MGH, MIT, and Harvard in Cambridge, MA; R.W. Sanders at Academic Medical Center in Amsterdam, Netherlands. Article #26: "Crystal Structure of a Soluble Cleaved HIV-1 Envelope Trimer in Complex with a Glycan-Dependent Broadly Neutralizing Antibody," by J.-P. Julien; D. Sok; R.L. Stanfield; D. Lyumkis; M.C. Deller; D.R. Burton; A.B. Ward; I.A. Wilson at The Scripps Research Institute in La Jolla, CA; A. Cupo; P.-J. Klasse; R.W. Sanders; J.P. Moore at Weill Medical College of Cornell University in New York, NY; D.R. Burton at Ragon Institute of MGH, MIT, and Harvard in Cambridge, MA; R.W. Sanders at Academic Medical Center in Amsterdam, Netherlands. 表面をひとひねりすれば小児期のウイルスの良いワクチンを作れる Surface Tweaks Make a Better Vaccine for Childhood Virus 新しい研究の報告によれば、分子をちょっと操作したおかげで、承認済みワクチンのない最 後の小児期疾患のワクチンがもうすぐできそうである。RS ウイルス(RSV)は、学校や保 育所で急速に広まることがある、非常に伝染性の高い肺感染症である。5 歳未満の小児入院 理由として最も多いが、有効なワクチンはまだ設計されていない。今回の研究で、Jason S. McLellan らは、RSV 膜の F タンパク質と呼ばれるタンパク質が、融合前状態(ウイルス表 面にあるとき)では抗体の標的となるが、融合後状態(細胞に侵入後)では標的にならない という過去の研究結果を利用した。McLellan らは、タンパク質の融合前構造の特定の部位を 操作することで 100 個以上の変異体をデザインし、安定した変異体を 6 個、マウスとサルを 用いて試験した。これらの動物を免疫化して、どの F タンパク質変異体(抗原として働く) が、最もよく防御反応を引き起こすか検討したのである。現在臨床試験が行われている RSV ワクチン候補の一つである融合後の糖タンパク質で免疫化した時に比べて、ある融合 前状態で免疫化したときは、最高 10 倍多く抗体が作られた。この研究は、よりよい抗原を 作り出し、さらにはよりよいワクチンを作り出せる、構造に関する知識の活用の能力を強く 示している。 Article #11: "Structure-Based Design of a Fusion Glycoprotein Vaccine for Respiratory Syncytial Virus," by J.S. McLellan; M. Chen; M.G. Joyce; M. Sastry; G.B.E. Stewart-Jones; Y. Yang; B. Zhang; L. Chen; S. Srivatsan; A. Zheng; T. Zhou; K.W. Graepel; A. Kumar; S. Moin; J.C. Boyington; G.-Y. Chuang; C. Soto; S.-Y. Ko; J.-P.Todd; S. Rao; B.S. Graham; P.D. Kwong at National Institute of Allergy and Infectious Diseases, National Institutes of Health in Bethesda, MD; U. Baxa at SAICFrederick, Inc. in Frederick, MD; U. Baxa at Frederick National Laboratory for Cancer Research in Frederick, MD; A.Q. Bakker; H. Spits; T. Beaumont at AIMM Therapeutics in Amsterdam, Netherlands; A.Q. Bakker; H. Spits; T. Beaumont at Academic Medical Center in Amsterdam, Netherlands; Z. Zheng; N. Xia at National Institute of Diagnostics and Vaccine Development in Infectious Diseases in Xiamen, China; Z. Zheng; N. Xia at Xiamen University in Xiamen, China. 土壌微生物と土壌の肥沃度 ―― 過去の状態を調べる Soil Microbes and Fertility -- A Look Into the Past かつて米国の国土の約 10%は高草イネ科植物プレーリーであったが、その生態系は、近代 農業で広く肥料を大量に使用され、灌漑や耕起も行われたために減少し、かつての繁栄はほ んのわずかしか残っていない。Noah Fierer らは今回、絶滅に近いこの生物群系について遺伝 学的分析を行い、米国中西部でかつて繁栄していた一連の土壌微生物がほぼ消滅しているこ とを明らかにした。Fierer らのこの研究結果よると、プレーリー土ではその高い微生物多様 性のおかげで生態系が損なわれずに生産性を維持することができ、また、過去にはそういっ た土壌に Verrucomicrobia と呼ばれる特定の門の細菌が多く生息していたという。Fierer らは、 自分たちの用いた技術を用いることで絶滅に瀕した他の生物群系の微生物多様性も回復でき るとともに、こういったデータは生態系に産業化以前の元の機能を取り戻すことを目指した 生態系復元の取り組みに役立つであろうと述べている。Fierer らは、長年の間ほぼ未開墾で あった 31 ヵ所の高草イネ科植物プレーリーで深さ 10 センチまでの土壌を収集し(これらの サンプルは墓地もしくは自然保護区で収集したもので、それらの気象条件は多岐にわたる)、 次にその土壌の遺伝学的分析と種の分布モデルを併用して炭水化物代謝に関与する Verrucomicrobia の米国中西部における過去の分布状況を推測し、結論に至った。元のプレー リーの土壌と現代の農業用土壌をこのように比較することでプレーリーの復元に向けた現在 進行中の数百もの取り組みに指針を得ることができると、彼らは述べている。Perspective で は Mary および Robert Scholes が今回の研究について詳しく説明している。 Article #16: "Reconstructing the Microbial Diversity and Function of Pre-Agricultural Tallgrass Prairie Soils in the United States," by N. Fierer; J.W. Leff; R. Knight at University of Colorado at Boulder in Boulder, CO; J. Ladau; K.S. Pollard at The Gladstone Institutes in San Francisco, CA; J. Ladau; K.S. Pollard at University of California, San Francisco in San Francisco, CA; J.C. Clemente at Mount Sinai School of Medicine in New York, NY; S.M. Owens; J.A. Gilbert at Argonne National Laboratory in Argonne, IL; S.M. Owens; J.A. Gilbert at University of Chicago in Chicago, IL; R. Knight at Howard Hughes Medical Institute in Boulder, CO; R.L. McCulley at University of Kentucky in Lexington, KY. Article #2: "Dust Unto Dust," by M.C. Scholes at University of the Witwatersrand in Johannesburg, South Africa; R.J. Scholes at Council for Scientific and Industrial Research in Pretoria, South Africa. 眼の蛋白質をおろそかにするなかれ Don’t Mess With the Proteins in My Eye 動いている物体の動きを検出するために、眼がどのように私たちの周囲の世界を解釈してい るかについて、新たな研究のおかげで今までより少し明らかになった。哺乳類の眼を研究し ている科学者たちは、動きの検出をつかさどる神経回路の制御における手がかりとなる分子 機構についてよくわかっていない。わかっているのは、眼のなかで光を感知する層である網 膜に存在する、星形をした SAC という細胞が関与していることである。SAC は光の明滅に 反応して動きを検出して他の神経細胞に伝えるが、その伝達の仕方は「オン」SAC 細胞と 「オフ」SAC 細胞で異なっている。同じタイプの SAC 細胞が、いかにしてこのような相反 する機能を獲得するのかは謎であった。Lu O. Sun らは、動きを検出する際に眼の神経回路 が光のパターンをどのように解釈するのかについて理解を深めるために、SemaA2 と PlexA2 という網膜の 2 つのタンパク質に焦点をあてた。マウスの網膜に遺伝子操作を行って、これ らのタンパク質の 1 つまたは両方を欠損させ、これにより SAC 細胞の機能が影響を受ける かどうかを調べた。実験のたびに SAC 細胞の反応性は変化した。変異した SAC 細胞を含む マウスの網膜は、反応性テストの成績が不良であった。重要なことは、SemaA2 発現を欠損 させることで、相反する構造と機能を持つ 2 つのグループの SAC 細胞(オンとオフ)を作 り出すことができた。この発見は、SemaA2 と PlexA2 という 2 つのタンパク質が協働するこ とで、哺乳類の網膜の健康な発達と機能が可能になることを示すものである。 Article #10: "On and Off Retinal Circuit Assembly by Divergent Molecular Mechanisms," by L.O. Sun; Z. Jiang; R. Hand; C.M. Brady; R.L. Matsuoka; K.-W. Yau; A.L. Kolodkin at The Johns Hopkins University School of Medicine in Baltimore, MD; L.O. Sun; R. Hand; C.M. Brady; R.L. Matsuoka; A.L. Kolodkin at Howard Hughes Medical Institute in Baltimore, MD; M. Rivlin-Etzion; M.B. Feller at University of California, Berkeley in Berkeley, CA; M. Rivlin-Etzion at Weizmann Institute of Science in Rehovot, Israel; R.L. Matsuoka at Max Planck Institute for Heart and Lung Research in Bad Nauheim, Germany.
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