ISSN 2185-9418 特集:物流センターに新機能をプラスする ● 日立物流が考える物流センター 株式会社 日立物流 ● 次世代の物流を支えるTMSの在り方について 伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 ● ロボットによる物流現場の自動化への取り組み 西部電機株式会社 ● AR技術で実現するスマートデバイスを活用した現場業務革新 ● 次世代仕分システムGAS(ゲート アソート システム)のご紹介 ● JPRの提案する次世代高機能物流サービ スについて 富士通株式会社 株式会社 タクテック 日本パレットレンタル株式会社 MHジャーナル 275号(夏季号) 目次 2015.Jul 巻頭言 災害時におけるロジスティクスとMH技術 京都大学防災研究所 特定教授 小野 特集 憲司 氏 ……2 物流センターに新機能をプラスする ……………………………………………… 寄稿文 ●日立物流が考える物流センター ………………………………………………………4 株式会社 日立物流 ロジスティクスソリューション開発本部 ソリューションエンジニアリング部 主任技師 在原 武志 氏 ●次世代の物流を支えるTMSの在り方について ……………………………………8 ∼クラウド型TMSがもたらす真の物流サービスとは?∼ 伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 情報通信事業企画室 クラウドサービス営業部 長谷川 真一 氏 ●ロボットによる物流現場の自動化への取り組み…………………………………14 西部電機株式会社 マテハン事業部 営業部 白竹 健一 氏 ●AR技術で実現するスマートデバイスを活用した現場業務革新 ……………………20 富士通株式会社 統合商品戦略本部 ソフトウェアビジネス推進統括部 ミドルウェア商品企画部 ARソリューション推進 市川 聡 氏 ●次世代仕分システムGAS (ゲート アソート システム) のご紹介 ……………………26 株式会社 タクテック 常務取締役 山崎 整 氏 ●JPRの提案する次世代高機能物流サービスについて ………………………………32 日本パレットレンタル株式会社 事業プロジェクト PJリーダー 二村 篤志 氏 米国マテハン専門誌抄訳 Vol.63 ……………………………………………………………36 JMHSニュース …………………………………………………………………………………38 奥付 ………………………………………………………………………………………………42 Material Handling Journal No. 275 1 巻 頭 言 災害時における ロジスティクスとMH技術 京都大学防災研究所 特定教授 小野 憲司 社会や経済にとって、災害とはその活動に必要な た立体自動倉庫では、倉庫の躯体は無事でも内部で 「資源」が失われることを意味する。ここで言う資 発生した荷崩れによって機能が停止した等々の「想 源には、電気、水道、ガス等の供給から人的資源、 定外」の事象には枚挙のいとまがない。 インフラや設備類、情報通信システム、輸送手段等 これらの経験から改めて我々は、我が国のモノ造 の様々なヒト、モノ、情報が含まれる。日本が世界 りが、国内はもとより地球規模で運用される複雑で に誇るモノづくり産業にとって、これらの資源を切 高度なサプライチェーンによって支えられており、 れ目なく確保し、効率的に運用することが競争力の そのサブシステムの思いもよらないところに、実は 源泉である。より効率的なロジスティクスを求めて 災害に対して著しく脆弱な構造が存在していたこと サプライチェーンマネジメント(SCM)の高度化 を痛感させられたわけである。 が図られてきた所以であるが、災害時には様相が一 これらを教訓として東日本大震災直後、製造業を 中心とする日本の各企業から、災害に対するサプラ 変する。 2011年3月に発生した東日本大震災によって東 イチェーンの復元性(Resiliency)の強化の方針が 北、北関東地域で生産される高品質の素材や精密な 相次いで打ち出された。サプライチェーンの「見え 中間製品類の供給が停止すると、ICチップ等の電 る化」や事業継続計画(BCP)策定の推進、原材料、 子工業製品や自動車部品の生産に支障が生じた。ま 中間製品の在庫の積み増し、調達の分散化、輸送・ た、津波による沿岸域の道路網の寸断や漂流物によ 保管システムの耐震性の強化等である。ロジスティ る海上輸送の停止等が、全国規模、世界規模で日本 クスの分野でも、これまでの効率性とコスト最少一 のモノづくり産業の活動の妨げとなった。例えば、 辺倒のSCMを見直して、災害に対する施設・設備 東北地方からのコンデンサーの供給が滞ったため、 の安全性を強化したり、リダンダンシーを持たせよ 高級カメラメーカーの九州地区事業所が操業を停止 うという取り組みが始まったが、当然、物流コスト した。北米では日系自動車メーカーの製造ライン や在庫ロスのリスクの増大を伴う。東日本大震災か が、日本からの部品供給不足が原因で、発災の一か ら4年が過ぎ、災害に強いサプライチェーンの構築 月後になって大幅な操業低下に追い込まれた。これ はどの程度進んでいるのだろうか?マテハン技術の らの原因の中には「こんな事が!」と驚かされるも 分野ではどのような貢献がなされてきたのであろう のも多くあった。臨海工業地帯の津波被災による超 か?首都直下地震や南海トラフ巨大地震等のリスク 純度過酸化水素水の供給減がICチップ製造ライン が高まる中で、その努力と効果が試される日は近い を停止させ、高度なマテハン技術とICTに支えられ のではないかと感じるが、皆様はいかがお考えか? 2 MHジャーナル 平成27年 月 特 集 物流センターに新機能をプラスする 国内景気の浮揚、回復の状況は未だ斑模様の感 様にパートさんやアルバイトさんの労働力を当て があります。しかし、一方では全産業で人手不足 にするのは難しいと思われます。なぜなら今まで が進行しており、特に物流の現場での人手不足は 物流現場を支えてくれた彼らは確実に歳をとり、 急速に深刻化しているようです。 生産性が低下しているであろうし、若手労働力 これまで、物流現場での効率化や省人化は、コ スト削減にばかり目が行っていたようです。その ために現場が疲弊し、人時生産性は改善どころか 悪化しつつさえあるようです。 かつて90年代、 バブル景気と呼ばれたころに、 同じように物流現場の人手不足が叫ばれ、多くの は、少子化の影響で絶対数が不足しているからで す。 では、どうすればよいのでしょうか。これから はまさに攻めの設備投資(バブル時代のような、 ただの積極策とは異なります)を検討すべき時代 ではないでしょうか。 自動化投資が行われました。その後バブルの崩壊 より付加価値の高い物流を提案して事業成長を により、それらの設備は過剰設備となり不況にあ 図り、より生産性を高めて事業安定化と収益力を えぐ企業にとって大きな負担となってしまいまし 高めることが勝ち残りの鍵と言えそうです。 た。設備投資もバブルだった結果です。 今回特集記事は、物流センターのプラス・ワン では、昨今の人手不足も、今を乗り越えれば、 をテーマに、これからの物流現場に何が必要かを かつてと同じようにやがて沈静化するのでしょう 模索し、提案する内容の記事を掲載することが出 か? 来ました。 ここで言えることは、かつての人手不足とは、 その構造が違うということです。 少子高齢化は確実に進行し、今後は生産性の高 い労働力を確保することは非常に難しくなるでし 貴社の物流現場や物流事業にどんな強みをプラ スするか。本稿が読者の皆様の参考になれば誠に 幸いです。 (記 吉田 千春) ょう。景気や国内生産が多少後退しても、以前の Material Handling Journal No. 275 3 特 集 ●物流センターに新機能をプラスする● 日立物流が考える物流センター 株式会社 日立物流 ロジスティクスソリューション開発本部 ソリューションエンジニアリング部 主任技師 在原 武志 1.はじめに 2.物流センター機能の変遷 当社・日立物流は「3PL」という言葉が広まる前か 物流センターに求められる機能は時代と共に変化して ら「システム物流」と称して、お客様の物流業務を包括 きました。導入する物流機器も同様です。当社における 的に受託するサービスを提供してきました。 物流センター機能と導入機器の変遷を以下にご紹介しま 当社のサービスの特徴は「提案型」であるということ です。物流センターの立地や規模・構造、輸送ルート、 す。 (1)1980年代∼1990年代前半 作業方法、物流機器、情報システムなど、物流に関わる 家電品に代表される 「大量保管・大量出荷」 の時代で、 全てのことをお客様のニーズに合わせて提案していま パレット荷役が大半でした。この頃は、自動倉庫やパレ す。 タイザーなどの自動設備がマテハンの主流でした。 本稿では、当社が考える「物流センターの機能と物流 機器」についてご紹介します。 また、 物流職場がいわゆる3K (危険・きつい・汚い) と呼ばれ敬遠される傾向にあったため、作業者の確保と 効率向上を目的に、機械メーカーと共同で大型家電品の 〔当社の事業概要〕 トラックへの積込装置の開発なども行っていました。 (1)事業内容 (2)1990年代後半 ◇システム物流 (3PL) 事業 当社において、卸・小売などの流通業界向けの物流サ ◇重量品、精密機械などの輸送・搬入・据付作業 ービスを拡大してきた時期です。「通過型」の物流セン ◇国際物流事業 ターが増え、短時間での作業消化が要求されました。 (2)物流ネットワーク(2015年3月31日現在) 流通業界はピース単位での出荷が多く、曜日や季節に ◇会社数 :123社 (国内24社、海外99社) よる物量の変動が大きいため、パート社員を大量動員し ◇拠点数 :772拠点 (国内364拠点、海外408拠点) ての運営が主流でした。配送先(店舗など)の数が多 ◇倉庫面積:691万㎡ (国内500万㎡、海外191万㎡) く、類似商品もあることから、物流機器はDPS※1や DAS※2、ハンディターミナルなど、検品機能を重視し (3)取扱い製品 ◇機械・機械部品、精密機器 ◇自動車部品、輸送機械 ◇社会インフラ設備 (発電設備、鉄道他) たものを多く使用していました。 (3)2000年代 3PL思想の普及に伴い、物流拠点の統合や再編が盛 ◇金属材料、化学製品 んに行われました。作業規模の拡大や24時間稼動に対 ◇化粧品、医薬品、トイレタリー商品 応するため、自動倉庫や仕分けソーター、搬送コンベヤ ◇衣料品、アミューズメント関連商品 などの大規模な物流機器を積極的に導入した時期です。 ◇生鮮食料品、加工食品、飲料 4 MHジャーナル 平成27年 月 日立物流が考える物流センター 一方で、これまでハンディターミナルに依存していた 人手作業については、重量検品機能やデジタルアソート 機能を搭載したインテリジェントカートを導入し、ピッ キングと検品を同時に行うことで作業生産性を向上させ ました。 また、この頃から当社では「プラットフォーム事業」 を推進しています。これは、同一業界向けに共同保管・ 共同配送を提供するサービスで、業界ごとに「プラット フォームセンター」を設立して、物流コストと環境負荷 (排気ガスなど)の低減を図っています(図表. 1) 。 図表.2 スマートロジスティクスの概念 スマートロジスティクスとは、 当社の中核事業である、 ①システム物流(3PL) 、②重量・機工、③フォワーデ ィングが三位一体となり、高品質で高付加価値なサービ スをワンストップで提供するというコンセプトです。 その実現手段として、図表.3に示す3つの新技術の導 入を進めています。 図表.1 プラットフォーム事業の概要 (4)2010年∼ 東日本大震災などの経験から、物流センターの要件に 「BCP(事業継続計画) 」 の概念が加わりました。この対 応として、立地検討の際にハザードマップで津波による 液状化等の影響を確認し、設備面では停電に備えて自家 発電設備を導入するなど、BCP対策を進めています。 図表.3 スマートロジスティクスを支援する3つの技術 「スマートロジスティクスコンフィギュレーター」は 物流の仕組みを設計する際の支援ツールです。倉庫内の 作業方式や機器構成、庫内レイアウト、さらには拠点配 置や輸送方法などの最適解を導き出す支援をします。 「スマートウェアハウス」 は倉庫運営の効率化技術で、 自動化設備のほか、荷物やロケーションの最適化システ 写真.1 物流センター設置の太陽光発電設備 ムを活用します。綿密な計算を行い、入荷・出荷作業を するうえで、どこに何をどの程度置くと最も効率的か、 また、当社では2011年より図表.2に示す「スマートロ などを導き出すものです。 ジスティクス」を事業コンセプトに掲げています。 Material Handling Journal No. 275 5 日立物流が考える物流センター 「スマート物流コックピット」は「見える化」を推進 ッキングシステムの導入による省人化や、パワー支援ス する技術です。作業の進捗やコストなどを一元管理して ーツなどを活用した省力化の実現に取り組んでいます。 一目でわかるようにする仕組みです。 (3)見える化を追求する 近年、お客様のニーズが多様化し、物流事業者にとっ 以下に、この取り組みを紹介しながら日立物流が考え る物流センターの将来像をご説明します。 ては人・車・倉庫の確保や、激化する物流波動への対応 が課題となっています。 当社では、「スマート物流コックピット」と名づけた 3.日立物流が考える物流センター 3. 1 これからの物流センターに求められるもの 見える化システムを職場に展開し、物流センター全体で の作業状況が一目でわかるような環境づくりに取り組ん でいます。 (1)最適化を追求する これまで、保管やピッキング間口のロケーション設定 〔見える化の項目(例)〕 については担当者の判断に依存しており、客観的な効率 ◇作業進捗状況 検証ができていませんでした。ピッキング時の移動経路 ◇人員配置、作業生産性 についても作業者個人の判断に任せていたのが実態で ◇日々の収支実績、要因分析 す。お客様に高度な物流サービスを提供し続けるために ◇作業、収支計画 は、個人の判断や能力に依存しないセンター運営が求め られます。 当社においてはこれらの業務を最適化するシステムを 開発し、順次職場への展開を行っています。 [当社で導入している最適化システムの例] ◇ピッキング時のオーダー割付け ◇ピッキング時の最短経路指示(写真.2) ◇ピッキング間口への商品割付 ◇商品在庫配置割付 写真.2 ピッキング時の最短経路指示 (2)省人化・省力化を追求する 物流業界全体の課題である労働力不足に加え、荷主か らの継続的なローコスト要請に応えるため、省人化が重 要な課題となっています。また、ケース品荷役などの労 力軽減(省力化)も必要です。当社では後述する新型ピ 6 MHジャーナル 平成27年 月 写真.3 見える化のイメージ 日立物流が考える物流センター 3. 2 新型ピッキングシステムのご紹介 当社は、AGV※3を活用した新型ピッキングシステム を2015年4月に関東地区のセンターで稼動させました。 このピッキングシステムでは、自動搬送でAGVが動 き、搬送制御ロジックを用いて1台ごとではなく、全体 で最適集中制御していることが特徴です。 これは自動搬送AGVがピッキング棚をピッキングステ また、AGVや保管棚を増やすことで物量増加に柔軟 ーションのピッカーの元まで運んでくる仕組みで、日本 に対応でき、また保管棚をそのまま運搬してくるので、 初のピッキングシステムです。 商品の制約を受けることなく作業を行うことができま 以下、このシステムの概要についてご紹介します。 3.2.1 導入の経緯 この新型ピッキングシステムのコンセプトは「人を歩 す。 4.今後の取り組み かせない」ことにあります。通常のピッキング作業では 当社の新技術導入の取り組みは試行段階を終え、2015 ピッカーがピッキングリストやハンディターミナルの指 年度から各職場への適用を加速させています。最適化、 示に従ってロケーション順に歩くため、作業時間の多く 省人・省力化、見える化を追求することで、お客様に喜 は歩行に費やされています。 ばれる物流サービスの提供を目ざします。 そこでピッカーが歩くのではなく、棚がピッカーの手 オペレーション改革にはゴールがありません。今後も 元に移動してくるという逆転の発想を行ったのが今回の 新しい技術の活用によりスマートロジスティクスをコン システムです。 セプトに今後も物流イノベーションを推進して参りま 当社としては、省人化、無駄な時間の削減を目的に、 す。 搬送・歩行などの作業工程にAGVを使った自動化を積 極的に進めることとし、当システムの導入に至りまし ※1 DPS :Digital Picking System た。 ※2 DAS :Digital Assort System ※3 AGV:Automated Guided Vehicle 3.2.2 新型ピッキングシステムの概要 お問合せ先 株式会社 日立物流 ロジスティクスソリューション開発本部 ソリューションエンジニアリング部 主任技師 在原 武志 〒135−8372 東京都江東区東陽7218 図表.4 新型ピッキングシステムの概要 (上記AGVは(株) 日立製作所が製品化した 「Racrew」 で、同社の日本国内の登録商品です) TEL:03−5634−0324 E‐mail : [email protected] Material Handling Journal No. 275 7 特 集 ●物流センターに新機能をプラスする● 次世代の物流を支えるTMSの在り方について ∼クラウド型TMSがもたらす真の物流サービスとは?∼ 伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 情報通信事業企画室 クラウドサービス営業部 長谷川 真一 昨今、サプライチェーンやロジスティクスに大きな変 きているか?今何をすべきか?どのくらいのお客様がサ 革をもたらしそうなキーワードが目白押しだ。ドイツが ービスを利用できていないのか?サービスの品質は?な 産学官連携で推進するインダストリー4. 0、世界中の小 どを当たり前のように把握することができました。この 売業が次世代の対顧客戦略として掲げるオムニチャネル 仕組みがあるからこそ、数多くの新規サービスの開発が リテイリング、あらゆるものをネットワークに接続し、 行え、それらを安定的に提供し続けるとこができている 次世代のビジネスモデル構築のきっかけづくりを担う のです。 IoT(Internet of Things) 、そしてこれらの全てのデー タを収集・分析しマーケティングや商品開発にフィード バックなどを行うためのビッグデータなどだ。 では物流業界はどうだろうか?通信業界にいた者にと っては衝撃的な状況でした。企業規模やネットワーク規 模によって管理・運営手法は様々だとは思われるが、こ この時点で「何が物流と関係があるんだ?」と思われ のような概念の管理基盤があまり存在していない。最も た方々は、あらためてこれらのキーワードに着目してほ 驚いたのは殆どのIT投資は、「コスト削減あるいは業 しい。これら全てが今後のサプライチェーンやロジステ 務効率化」に向けられていることだ。もちろん、これら ィクスの在り方に大きく影響するからだ。 も大切な取り組みである。効率化やコスト削減をするこ とによって価格競争力を確保し、より多くの荷主を獲得 ちなみに筆者は物流の世界に関わるようになって5年 すること、且つ、少しでもコストを削減し顧客のビジネ の若輩者です。以前は通信サービス業界に従事し、日本 スに貢献するという考え方なのかと思うのだが、これだ 国内のみならず世界中のキャリア(通信事業者)との接 けではとても長続きする仕組みとは思えない。これでは 続折衝やネットワークサービスの企画・構築・運営を担 常に受け身の態勢であり、価格のみがサービス選択の判 当しておりました。物流と同じく、キャリアとの関係を 断基準となってしまうからだ。正確な業務実行のための グローバルに構築し、世界レベルでの音声やデータコミ IT投資というのも、よく聞く内容ではあるが、「でき ュニケーションサービスを実現してきました。 て当たり前」と思われてしまうことが多く、これもなか なか差別化にはつながらない。では効果的なIT投資と 通信サービスも安定した収益を得るためには、競争力 いうのは何なのか? のあるサービスを安定的に供給することが必須です。そ のため各通信キャリアは、ネットワークモニタリング、 図表. 1はITに対する期待の日米の比較である。決し 設備管理、キャパシティ管理、トラブル時のサービス影 て物流に特化した内容ではないが、日本と米国ではIT 響などが一元的且つリアルタイムに把握可するための統 投資に対しこれだけの差があることがよくわかる。日本 合的な管理システムを運営しております。どこで何が起 企業が「ITによる業務効率化/コスト削減」をトップ MHジャーナル 平成27年 月 次世代の物流を支えるTMSの在り方について 出典:平成25年10月9日 一般社団法人電子情報技術産業協会 図表. 1 ITに対する期待 (IT予算が増える理由) に挙げているのに対し、米国は「製品やサービス開発強 のはサービスそのものを強化し価格以外の競争力を確保 化」がトップ、これに「ビジネスモデル変革」が続きま することである。ドライバー教育が行き届いている、常 した。通信業界も米国と同様の考え方である。 に丁寧なサービスが提供されるなども重要な差別化要素 ではあるが、IT投資をするからには自社サービスを強 図表. 2はIT/情報システム投資の重要性の比較であ 化するという考え方をぜひ持っていただきたい。 る。米国では「きわめて重要」が75%に達する一方、 ではサービスを強化するというのはどういうことなの 日本は16%に留まっています。国民性の表れかもしれ か?これらをインダストリー4. 0やオムニチャネルリテ ませんが、米国企業の投資へのモチベーションは自社の イリングをテーマに考えたい。インダストリー4. 0やオ 製品やサービスの強化なのである。 ムニチャネルリテイリングで物流に求められているのは ここで忘れないでいただきたいのは、物流はサービス 即応性である。では何故即応性が必要なのか?答えは簡 であるということだ。コストを削減し安価にサービスを 単である。両者はどちらも購入者、あるいは消費者を中 提供することは競争力を高める要因ではあるが、重要な 心に捉えた概念であるからだ。例えば、最近のECサイ トでは在庫の有無がリアルタイムで分かるようになって きた。つまり消費者も自ら在庫の有無を知りえる世の中 となったのである。そのため在庫の有無がリアルタイム で提示できるか否かは商品購入の意思決定に大きく影響 するのだ。在庫情報が提示できないだけで、顧客は他の 店舗へ流れてしまう。さらに今後は在庫だけではなくな るだろう。商品を輸送できるキャパシティは確保できる のか?要望する納期に間に合うのか?何時に届くのか? 出典:平成25年10月9日 一般社団法人電子情報技術産業協会 図表. 2 IT/情報システム投資の重要性 など、輸送に関わる情報も消費者の意思決定を左右する 重要な要因となってくるであろう。 Material Handling Journal No. 275 次世代の物流を支えるTMSの在り方について ではここで今回のテーマであるTMS(Transportation 入前もしくは購入時点で提示された情報から選択できる Management System) について考えたい。 先ほどの調査 のである。在来線ですら、運行ダイアは決まっているた 結果同様、 日本企業のTMS利用はコスト削減を目的とし め、何時の便に乗れば何時に目的地に着くかはわかる。 たものが殆どではないだろうか?ここではTMSを利用 もちろん事故や災害等が起こらないことが前提である。 して前途した即応性対応が可能かどうかに着目したい。 みなさんもよく考えてほしい。もし運行ダイアも空席 情報も提供されない電車や飛行機のサービスがあった場 ご存知の通りTMSの役割は、出荷指示オーダーを受 合、はたして利用するだろうか?輸送キャパシティが確 信後、複数のアルゴリズムを駆使し、最小の車両、最短 保され、約束の時間に到着できるのかが把握できて初め のルートで積載および納品ができるよう計算するのが一 て安心してサービスが利用できるのである。アマゾンや 般的だ。 但しこれでは即応性に問題がある。 受注を閉め、 いくつかの企業が当日配送サービスを提供しているが、 TMSにデータを渡し、全ての計算が終わるまで、輸送 実は輸送可否が確約されないままサービスを提供してい キャパシティが確保されているのか何時に納品が可能な る可能性がある。もしかすると満載で積載ができない可 のかはわからない。つまり即応性という要望にはこたえ 能性だってあるはずだ。 非常に残念なのは、 陸送のサービ られないのだ。何故即応性が必要なのか、もう少し理解 スには新幹線や飛行機と同様なサービスが少ないのだ。 しやすくするために、新幹線や飛行機のサービスと比較 これまでの説明から、荷主や消費者に対し、リアルタ することにする。 イムの情報提供がどれだけ重要なのかを理解いただけた 新幹線や飛行機も輸送サービスである。ITが最大限 のではないだろうか。TMSはダイア情報、積載情報に に活用され運行ダイアも空席情報も発着情報も全て公開 加え、ドライバーのスキル、車両の種別などの情報も管 されている。しかもリアルタイムである。利用者は、提 理できるにもかかわらずこれを公開情報として、且つ、 示された情報から目的に合ったサービスを自由に選択で リアルタイム情報として活用できていないのだ。特に昨 きるのである。定刻より1時間前には目的地に着いてい 今はドライバー不足による車両不足などが顕著であるた たい、窓際の席を確保したい、目的の便に指定席の空き め、輸送キャパシティ情報をリアルタイムに提供できれ はないがグリーン車には空席があるので、お金はかかる ば大きな差別化になるのは間違いないと思われる。 が遅刻せずに目的地に到着できる便を選択するなど、購 㻌 図表. 3 クラウド型TMSと荷主システムとの連携イメージ 10 MHジャーナル 平成27年 月 次世代の物流を支えるTMSの在り方について 図表. 3はこれらの課題を解決したクラウド型TMSサ 現在の積載情報を問い合わせるインターフェースも搭載 ービスのイメージ図である。既に2, 000車両以上がこの されているため、以下のようなことができるのである。 サービスの上で稼働しており、このリアルタイムサービ 図表. 4はEコマースサイトにTMSの情報を組み込ん スの恩恵を受けているのである。イメージは顧客の受発 だイメージだ。商品の購入後、配送可能な時間の情報が 注システムと連動する求車求貨基盤である。 瞬時に現れる。見た目は他の宅配便となんら変わらない ように見えるが、実は中身は大きく異なっている。他の クラウド型TMSと荷主の基幹システムおよびEコマ どの宅配便サービスも時間指定は顧客の希望を聞いただ ースシステムは、インターネットを介しリアルタイムイ けであって確約ではないのだ。ただ受け取り手は希望時 ンターフェースでシステム間が連携されている。ここま 間内に受け取れると考えているため、時間を守れなかっ では一般的なTMSでも可能と思われるが、ここに即応 た場合にしばしばトラブルになることもある。それとは 性を実現するための工夫が組み込まれている。各システ 異なり、上記の時間枠は受け取り時間の確約を意味して ムからの出荷指示情報は受注を閉めてからではなく、受 いる。積載と配車の状況をリアルタイムに把握できてい 注都度TMSに送信されてくる。データを受けたTMSは るからこそ実現できるのである。在庫情報と輸送情報の 24時間365日、受信したオーダーを最適な配車とルート 両方を加味しているため、購入者は受け取り日時まで把 になるよう計算をし続けている。言い換えれば新幹線や 握したうえで商品の購入ができるのだ。料金も新幹線や 飛行機の座席予約と同じように、販売した座席の情報が 飛行機のようにクラス、サービスに分けて販売ができ リアルタイムに反映されていくのである。これらに加え る。もちろんスマートフォンからの購入も可能である。 図表. 4 配送先への配送時間予約のイメージ Material Handling Journal No. 275 11 次世代の物流を支えるTMSの在り方について 図表. 5 配送計画とリアルタイム貨物追跡情報の連携イメージ 購入者の欲求はこれだけではない。日時情報は大枠で これらの情報サービスが物流企業として提供できたら は把握できたが、その中でも何時何分に来るのか?少し どうだろうか?コスト削減や業務効率化に加え、顧客の でも時間を有効活用するために、より詳細な情報が知り 期待を上回るサービスが提供できるのだ。顧客との永続 たくなるのである。これにもTMSの情報は有効活用で 的な関係を構築するには、コスト以外の顧客の立場に立 きるのである。図表. 5は配送計画と配送状況をリアルタ ったサービスが必要なのである。 イム情報としてECサイトに組み込んだイメージだ。 5は商品情報、配送予定時間、配送ステータス、 図表. 現在地、担当ドライバーの情報が表示されている。どれ だけの情報を表示するかはサービス提供者の任意だが、 TMSをフル活用することにより、これだけの情報がリ アルタイムで提供できるのである。宅配はもちろん、工 場や店舗へ搬入される商品の情報や搬入予定時間などが 把握できるため、どの店舗に何時に行けば商品を購入で きるのかなど、販売機会を逃さないための工夫ができる のだ。もちろん一般的なTMSの役割は当然のように果 たしているため、車両数削減や走行距離の最適化ができ ている。この仕組みの恩恵はこれだけではない。顧客は 確実に受け取れる時間を選択したため、在宅率が高まり 再配達の削減効果があることも確認できている。 12 MHジャーナル 平成27年 月 お問合せ先 伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 情報通信事業企画室 クラウドサービス営業部 長谷川 真一 東京都千代田区霞が関3−2−5 霞が関ビル TEL:03−6203−3447 E‐mail : shinichi.hasegawa@ctc‐g.co.jp 平成27年度 第2回MHフォーラム これからの時代の新法則 ロジスティクス「3.0」 ∼「顧客志向」はもう古い∼ と き 2015年10月15日(木) 14:00∼17:00 ところ 日本包装技術協会 会議室 (東京都中央区築地4−1−1 東劇ビル10F) 講 師 原田 啓二 先端ロジスティクス研究所 代表 氏 講師プロフィール 1970年 同年4月 1996年 1997年 2002年 2006年以降 参加申込方法 ●下記申込用紙に必要事項をご記入の上、FAXにてお申し込みください。 ●「参加証」と「請求書」は、下記お申込み欄の1番へご記入の方にご送付 いたします。なお、受講日の10日前までにお手元に届かない場合は、お 手数ですが事務局までご連絡をお願いいたします。 ●参加費の払い戻しはいたしません。参加予定の方のご都合が悪い場合 は、代理の方のご出席は差し支えございません。 東京工業大学電子物理工学科 卒業 日本電気㈱入社 同社 半導体事業部統括部長 NECロジスティクス㈱事業部長 同社 執行役員 先端ロジスティクス研究所 代表 国際物流総合研究所 主席研究所 現在は経営物流戦略、 SCM、 ロジスティクスなどの コンサルティング・セミナー・教育を実施中。 主 催 日本マテリアル・ハンドリング (MH)協会 参加料 法人・個人会員の方:5,400円(税込)/1名 会場案内 一般の方:10,800円(税込)/1名 定 員 50名 (定員となり次第、 締切りとさせていただきます。) [ 講演要旨 ] 世界的なマーケティングの権威者であるコトラーは、顧客志 向のマーケティング「2.0」に続いて人間性中心であり収益 性と社会的責任を追及したマーケティング「3.0」を提唱しています。 ロジスティクスも現在は顧客満足の向上(ロジスティクス「2.0」) を追求してい ますが、 これからの時代においてはそれだけでは不十分であり、物流事業者が 責任を全うしているとはもはや言い難い状況になっています。 これからの時代の要求されるロジスティクス (ロジスティクス 「3.0」) はどのよう なものなのか。 それを知っていただくことが本セミナーの目的であり、物流関係者にとって見 逃せないテーマになっています。 多くの物流関係者が、 ロジスティクス「3.0」を理解して実践して頂くことを期待 しています。 1章 流通革命とともに進歩するロジスティクス ●eコマース市場の伸展 ●ドローン ●オムニチャネルなどで進歩するロジスティクス 2章 社会構造の変化とともにロジスティクスは進化が必要 ●国別GDPのシェア ●日本の人口構成比の変化 ●人口減少・高齢化社会がロジスティクスに何を要求するか 3章 これからの時代のロジスティクス「3.0」 ●個人と社会の成熟段階の関係 ●企業活動のパラダイムシフト ●ソーシャル・バリュー ●マズローの欲求五段階説 ●ロジスティクス 「3.0」 下記申込書にご記入の上、 平成27年度 第2回MHフォーラム 参加申込書(FAX 03-3543-8970)参加を希望される場合は、 本紙をFAXして下さい 会社名 法人会員 ・ 個人会員 ・ 一 般 (〒 ー ) 所在地 TEL URL ① 参加者 ② FAX http://www. (氏 名) (e-mail) (氏 名) (e-mail) (所属役職) @ (所属役職) @ お問合せ先: 〒104-0045 東京都中央区築地4−1−1 東劇ビル10F TEL:03-3543-9335 担当:小川 個人情報の取扱いについて 1) 個人情報は 『日本マテリアル・ハンドリング (MH) 協会 平成27年度 第2回MHフォーラム』 の事業実施に関わる資料等の作成、 ならびに当 会が主催・実施する各事業におけるサービス提供や事業のご案内等のために利用させて頂きます。なお、 作成資料は開催当日、 関係者に限り、 配布する場合があります。 2) 参加申込によりご提供頂いた個人情報は、 法令に基づく場合等を除き、 個人情報を第三者に開示、 提供することはありません。 JAPAN MATERIAL HANDLING SOCIETY Material Handling Journal No. 275 13 特 集 ●物流センターに新機能をプラスする● ロボットによる物流現場の 自動化への取り組み 西部電機株式会社 マテハン事業部 営業部 白竹 健一 1.西部電機の取り組み 『ロボティクス・マテハン』 を増していると認識している。 本稿では、現在物流現場の自動化、省力化に向けての 取り組みと、導入事例についてご紹介する。 1)はじめに 弊社は昭和41年立体自動倉庫を納入以来、物流機器の パイオニアとして多くの開発製品を世に送り出し「技術 の西部」として高い評価を頂いてきた。特にケースの自 動ピッキングシステムは昭和58年の開発以来豊富な実績 2) 『ロボティクス・マテハン』への取り組み 従来より弊社では、 「メカトロメーションを追求する」 という技術コンセプトを経営の根幹においてきた。 と数多くのノウハウを蓄積しており、物流センターにお ここでいう「メカトロメーション」とは「メカトロニ ける高水準かつ、最先端の自動ピッキングシステムを構 クス」と「オートメーション」を組み合わせた造語で、 築し様々な業界へ提供して来た。 「メカトロニクス」と「人間の知恵」をフルに活用して 今日、生産、流通を問わず、物流を取り巻く環境にお いて、人手不足の問題は急激に深刻化しつつある中、弊 社の持つ自動化技術が果たすべき役割はますます重要性 花王株式会社殿 14 MHジャーナル 平成27年 月 オートメーションを実現し、社会に貢献しようとするも のである。 付け加えると、現在では一般的に使われている「メ 自動化物流センター ロボットによる物流現場の自動化への取り組み カトロニクス」という言葉も、起源は、弊社の元代表の さらに、弊社では、このDIOシステムに、ワークの段 森徹郎が考案した、機械工学(メカニクス、mechanics) 取りや洗浄を行うロボットを組み込むことにより、無人 と電子工学(エレクトロニクス、electronics)を合わせ 加工時間を増やし、生産性を向上させている。 (写真. 1) た和製英語である。 この技術コンセプトは、まさに今日のロボット技術、 ロボティクスに通じるものである。 現在弊社は、今日まで培ってきたこの「メカトロメー ション」と、最新のロボット技術(RT) 、更にはIoT等 の情報通信技術(ICT)などを積極的に組み込んだマテ ハンシステムとして『ロボティクス・マテハン』をコン セプトに製品開発、ソリューション開発を進めている。 (図表. 1) 写真. 1 段取りロボット 大変シンプルなマテハンとロボットの組み合わせであ るが、ものづくり企業である弊社では、このように自社 の生産現場での実績とノウハウをシステム開発に活かす ことができている。 この、ものづくり企業としての強みと、今日まで多く の自動化物流センターを開発、構築してきたノウハウを 図表. 1 ロボティクス・マテハン 活かすことにより、これまで自動化、ロボット化が困難 であった物流の現場に挑戦している。 3)生産現場から物流現場へ 物流現場で利用されているロボットといえば、ロボッ 生産物流の現場では、早くから自動化、ロボット化が ト式パレタイザが思い浮かぶ。多くの現場に導入され、 すすめられ、『ものづくり』日本の生産性を向上してき パレタイズ作業の自動化に貢献してきた。今後もその用 た。 途で活躍していくものと思われる。 弊社においても、西部式FMS、DIOシステムを開発、 しかし、さらに物流現場の自動化、省人化をすすめる 提案してきた。このDIOシステムは、自動倉庫と加工ラ には、従来のパレタイザ、デパレタイザの技術だけでは インを中間搬送抜きに直結したシステムで、国内外の多 解決できない課題が残されている。 くのユーザーにご採用いただいている。(図表. 2) 異品種や異サイズ製品のパレタイズ、ピッキングや詰 合せなどのニーズに対応しなくては、さらなる生産性の 向上は果たせないのである。 そのためには、複雑な動きが可能なロボットが必要に なったり、高度な情報処理や、画像処理技術が必要にな るほか、ワークの搬送や段取り、場合によってはロボッ トそのものの移動や搬送が必要になる。 4)ロボット搭載搬送台車・異形品パレタイズ 初めに簡単にご紹介するのは、複数の組立工程に必要 2 DIOシステム 図表. 部品を配分、供給するシステムである。(図表. 3) Material Handling Journal No. 275 15 ロボットによる物流現場の自動化への取り組み 図表. 4 異形品パレタイズシステム 3 ロボット搭載RGV 図表. パレットに積載された小物ユニットを、水平多関節ロ ボットを搭載した有軌道電動台車に取り込み、組み立て ラインに必要数を供給する。(写真. 2) 3 走行軸付き多関節ロボット 写真. 作とポジションに対応するため、走行軸付きの多関節ロ ボットを採用している。(写真. 3) それぞれ目的に合わせたロボットと最適なマテハン機 器とを組み合わせて、これまでにない価値をご提供して 写真. 2 ロボット搭載RGV いる。 昨今のロボット本体は、技術の高度化だけでなく、よ 走行軸付きのロボットに比べ、移動範囲も広く、コス トも抑えられる。また、無人搬送車で移動するよりも高 り周辺システムとのインテグレートがしやすくなるよう な開発が進んでいる。 速で、かつパレットの同時搬送も可能になる。さらに専 これによって、ロボットの活用範囲が広がる一方、実 用デパレ装置と仕分けコンベヤによる構成より大幅にス 装分野では私たちインテグレータの果たす役割が増えて ペースとコストを抑えることができた。 いる。 次にご紹介するのは、ライン別に供給されてくる筒形 状の異形品を自動的にパレタイズしたのち、自動倉庫に 自動的に格納するシステムである。(図表. 4) これまで人手によってパレット積みしていた作業をほ ぼ無人化している。 クし、自動倉庫用パレットにパレタイズする。複雑な動 MHジャーナル 平成27年 1)ピック&アソートへの導入事例 物流現場で人手に頼っている作業の最たるものが、ピ ロボットは多品種の複数ポジションから、製品をピッ 16 2.仕分け現場への導入事例 月 ース品のピッキング、出荷先別の詰め合わせ作業ではな いだろうか。 ロボットによる物流現場の自動化への取り組み 現在では配送単位の小口化に伴いデジタル式などのピ これらの問題に対し、少ない人員でより多くの仕分け ースピッキングシステムが必要不可欠であるが、従来の が可能なシステム。また、正確な仕分け品質が確保でき それらのシステムは多くの運用人員が必要である。人員 るシステムの開発に富士通殿と共同で着手することとな 確保がますます難しくなる現在、弊社ではロボットによ った。 る自動ピッキング技術の開発に積極的に取り組んでいる。 弊社が富士通殿と共同で開発し、昨年、山崎製パン殿 で実稼働を開始した、自動仕分けシステム「ロボット配 分システム」はその答えの一つである。以下はそのシス テムについて紹介する。 3)開発の経緯と問題点 3−1)課題の整理 開発着手に伴い多くの検証作業及び課題克服が必要に なった。 それらを列挙すると、 2)従来の仕分けシステム 現在でも山崎製パン殿をはじめ、製パン業の仕分けは ・物量の解析 ・対象アイテム及び範囲の選定 デジタルアソート式のデジタル配分システム(写真. 4) ・ロボットの方式選定 が主流である。これは1アドレスごとにデジタル表示器 ・ロボットハンドの開発 を床または棚に設置し、そのアドレスに対して店舗デー ・システム構成の検討 タが紐づいている。仕分けデータを受信した管理機で、 ・画像認識技術の確立 製品のバーコードデータを入力すると注文している店舗 ・運用の検討 ・・・etc の表示器が注文数量と共に指示ランプが点灯するもので ある。作業者はその数量に従い製品を仕分けし、表示器 についている完了釦を押下することにより仕分けが完了 これらに対し、ひとつずつ検証を行っていきシステム のアウトラインを固めていった。 その中でも時間を要したのはハンドと画像処理である。 する。 最新のデジタル配分システムでは複数製品の同時処理 や、次の店舗へ最短時間で移動可能な機能などを開発 し、仕分け効率を向上させている。 3−2)ロボットハンドの開発 ハンドは、処理速度実現方法等検討を重ね、バキュー ム式のハンドとした。 しかし、ピッキングの処理スピードを追求しようと し、ロボットの加速度を上げると製品の挙動が大きくな り落下頻度が増えてしまう。その対策として、ピッキン グハンドの吸引力を上げると、製品の包装紙に皺が寄り 商品品質が低下する。 写真. 4 デジタル配分システム しかし、山崎製パン殿においては1工場当たりの仕分 け店舗数が数千店舗に及び、それら全てを人手による仕 分けを行なうには、非常に多くの人員が必要となってい る。また、日配品であるパンの仕分け時間帯は夜間から 深夜に及ぶため、人員確保は更に難しい。 5 ロボットハンド部 写真. Material Handling Journal No. 275 17 ロボットによる物流現場の自動化への取り組み それらを解決するため、高速度カメラで移動時の挙動 ・段積装置(カートフィーダ) (1台) を解析し、その挙動を抑えるため可動式の抑え機構を付 ・コンベヤ装置 加したハンドを開発した(写真. 5) 。これにより移動時 によって構成されている。(図表. 5) の製品挙動が抑えられ、吸引力を下げることで製品の包 装紙に対する皺を低減させた。 3−3)画像認識技術の確立 ロボットによるピッキングをする上において画像処理 での製品重心位置を特定する機能は必須である。当初は パターンマッチングによる位置の特定を行ったが、対象 製品が袋であるため照明や包装紙の皺などの問題により 実用化が困難であった。また、パターンマッチングでは 新しい製品を対象とする場合、常に登録が必要となる。 それらの問題を解決するため、kinect(写真. 6)によ る距離画像を利用し、製品の凹凸により位置を特定する 図表. 5 システム全景図 方式を新たに開発した。 ロボットは4台で構成しており同時に4アイテムを処 7) 理することが可能である。(写真. それぞれの製品はサイズ及び番重内の配置パターンを 新規で取り扱う時に画像処理で自動取得する。そのサイ ズ・パターンに従って、向け先番重に対し、製品同士が 重ならないよう、且つ容積率が最大になるよう配置パタ ーンを計算する。 6 Kinect(画像処理カメラ) 写真. 4)ロボット配分システムの概要 4−1)ロボット配分システムの仕分け対象 本システムの対象アイテムはピッキング可能な製品の なかで物量の多いものを対象としている。 対象アイテム数:60アイテム 対象物量:約60, 000ピース/日 7 ロボット部 写真. 4−2)システムの機器構成 ロボット配分システムの主な機器は、 また、ピッキングハンドは物量の多い製品の配置パタ ・空番重供給機(1台) ーンに合わせて2個同時ピッキングが可能な配置にして ・製品供給機(4台) いる。(写真. 5参照)これにより物量の多い製品の処理 ・ピッキングロボット(4台) 能力を上げている。 18 MHジャーナル 平成27年 月 ロボットによる物流現場の自動化への取り組み する過程で直交式ロボットの開発となった。 4−3)運用 作業者は当日のデータを受信後、仕分け対象製品を登 また、事例でもご紹介したとおり、周辺の自動化機器 録し、番重を段重ねしたまま製品供給機へセットする。 とのインテグレートがあって、初めて効果を発揮して 4アイテムセット後、開始ボタンを押下すると、空番重 いる。 供給機より店舗へ割り当てられた空番重が流れ、仕分け データに基づきロボットが仕分けを行う。 仕分け済みの番重は仮置き場所のアドレスをオートラ ベラにて貼り付け、ブロック(ゾーン)ごとに段積し、 カートフィーダで自動的に台車を履かせる。 段積された仕分け済みの番重は各ブロックでラベルア ドレスに従い、向け先ごとに出荷仮置きを行う。 運用人員は登録及び完成した段積番重を該当ブロック へ搬送する作業を1名で行っている。 どのような技術をどこに適用すれば最適なソリューシ ョンとなるか。マテハンメーカーならではの取り組みが 出来たと考えている。 これまで製造業においては非常に多くのロボットが使 用されてきている。しかし、物流の分野、特にピース仕 分けにおいて実用化されている事例はまれである。これ は、 様々な形状に対応したロボットが実現しにくく、 日々 アイテム構成が変わる現場に対し対応が困難だったから である。 しかし、ロボット主体のシステム提案ではなく、場合 4−4)導入効果 現在ロボット配分システムが仕分けしている物量を、 デジタル配分システムによって処理する場合、約80人時 によっては専用機の開発や、人手作業をアシストするよ うな提案を組み合わせることにより、これらの課題の解 決は可能になりつつある。 必要である。今回導入のロボット配分システムは時間当 今回自動化の対象範囲を設定したことにより実現が可 たり1名のオペレータで運用可能である。その他、ブロ 能となったが、これらの事例をもとに、様々な物流現場 ックにおいて出荷仮置きする作業は当該ブロックの担当 への応用が可能であり、対象範囲も広げていけると考え 者が行うため、それを差し引いても1日当り40人時以上 ている。 の削減効果がある。 弊社は今後とも「メカトロメーション」の追求を続け るとともに、モーション技術や画像処理、センサー技術 などの基礎技術の研鑚に努め、今後より高まる自動化ニ 5)今後の展開 今後のテーマとして、 ・更に効率の良い(処理能力の高い)システムの開発 ・製品包装へダメージのないハンドの開発 ・対象製品の拡大 ・省スペース化 ・・・etc 等があり次号機に向け開発検討に着手している。 ーズにお応えしていこうと考えている。 現在も何種類かの『ロボティクス・マテハン』製品の 開発を進めている。 本稿が読者各位の、自動化推進、労働力不足解消に向 けてのご検討のきっかけになれば幸いであり、また、弊 社の新製品が皆様のお役に立てる日が遠くないことをお 約束して結びとする。 今後とも、山崎製パン殿の物流品質向上及び物流コス ト削減に対し検討を継続していく。 お問合せ先 3.むすび ここにご紹介した事例では、ピッキングロボットとし て、汎用の単軸ロボットを組み合わせた直交型ロボット を開発してシステムに組み込んだ。 基礎開発段階では、パラレルリンク式のロボットを使 用する計画であったが、実装段階での諸々の条件を検討 西部電機株式会社 マテハン事業部 東京支店マテハン営業1課 白竹 健一 E‐mail: [email protected] HP http : //www.seibudenki.co.jp/matehan/ Material Handling Journal No. 275 19 特 集 ●物流センターに新機能をプラスする● AR技術で実現するスマートデバイスを 活用した現場業務革新 富士通株式会社 統合商品戦略本部 ソフトウェアビジネス推進統括部 ミドルウェア商品企画部 ARソリューション推進 市川 聡 いる。 1.まえがき 富士通は、このAR技術を企業の業務効率化や生産性 近年、スマートフォンやタブレット端末などのスマー 向上などにも活用できるのではないかと考えた。そこ トデバイスの普及が加速し、その機能がますます進化す で、富士通研究所が研究開発を進めてきた認識技術と、 る中、企業においてもこれらの業務利用のニーズが着実 富士通がホスト・メインフレーム時代より培ってきた高 に拡大しつつある。 信頼・高可用な技術を融合し、ミドルウェア製品である 例えば、現場業務で従来より使用している紙伝票を電 Interstage ARを2013年8月に出荷開始した(図表. 1) 。 子化し、バックエンドの企業システムと連携すること 適用業務は、製造業・流通業の生産組立・組付、保守・ で、作業品質向上やヒューマンエラー(以下、HE)削 点検、店頭販売などの現場業務である。特に、後述する 減、接客品質改善などを実現したいというニーズなどが メタウォーター様と富士通沼津工場の事例は、保守・点 挙げられる。 検業務にAR技術を適応・実運用した世界発の取組みで これに対応するため、 富士通はエンターテイメント業界 ある。 で利用が急速に拡大しているAR(Augmented Reality: 拡張現実)※1 技術を活用し、現場業務の革新を支える AR統合基盤製品FUJITSU Software Interstage AR Processing Server(以下、Interstage AR)の提供を開 始した。※2−※4 本稿では、お客様の現場環境にInterstage ARを適用 し実践することで、その業務革新の実現に貢献する富士 通の取り組みを紹介する。 図表. 1 富士通が目指すAR 2.富士通の取り組み ここ数年、エンターテイメントの業界で、AR技術を 活用したサービスが急速に普及しつつある。例えば、対 3.ARの認識・表示方式 戦カードにスマートデバイスをかざすだけでモンスター ARは、視覚・聴覚・嗅覚など人間の感覚を通じて得 が3D表示され対戦できるARカード、コンサート会場 られる現実の情報に、装置のメンテナンス情報、在庫管 でステージにスマートデバイスかざすだけでバーチャル 理システムの在庫情報など、ICTを利活用して得られる なアイドルを鑑賞できるARコンサート、イベント会場 デジタルな情報を重ね合わせて表示することで、人間の で看板など特定の対象物と一緒に写真撮影すると実在し 感覚を拡張・強化し現場のリアルタイムな判断・アクシ ないアイドルが写るAR記念写真などが実用化されて 2) 。 ョンを支援する技術である(図表. 20 MHジャーナル 平成27年 月 AR技術で実現するスマートデバイスを活用した現場業務革新 スポイントからの電波の強度により、屋内でも位置情 報を認識できる技術の研究、および実用化も進みつつ ある。 ●ARの表示方式 ARの表示方式は、ディスプレイ表示方式、プロジェ クションマッピング方式の2種類に大別される。以下 に、それぞれの概要を述べる。 (1)ディスプレイ表示方式 図表. 2 ARの定義 ディスプレイ・モニタもしくはヘッドマウントディ スプレイ(以下、HMD)に画像を表示する方式で、 ●ARの認識方式 ARの認識方式は、3種類に大別される。以下にそれ スマートデバイスの普及拡大に伴い一般化しつつあ る。両手を使用する作業シーンではハンズフリーでの ぞれの特徴と問題点を述べる。 作業が可能なHMD(図表. 3)などのウェアラブル端 (1)マーカー型画像認識 末の利用を検討するケースが増加傾向にある。 マーカーと呼ばれる認識目的に特化した特殊な図形 を対象物に貼り付け、それをスマートデバイスに搭載 されたカメラで認識する方式である。認識の速度と精 度の両立を実現するために設計された図形のため、後 述するマーカーレス型と比較して、速度、精度、距離、 角度の点で優れている。一方で、対象物にマーカーを 貼り付けなければならないという制約・不便さがあ る。 (2)マーカーレス型画像認識 3 富士通のヘッドマウントディスプレイ 図表. マーカー型の弱点である「対象物にマーカーを貼り 付けなければならない」というデメリットを補足する (2)プロジェクションマッピング方式 方式である。スマートデバイスに搭載されたカメラ プロジェクターで対象物に画像を投影する方式であ で、あらかじめ撮影した対象物の撮影画像から、特異 る。投影した画像を複数人で共有する点がメリットで 点など画像を一意に同定するための識別子を抽出し、 あるが、太陽光が当たる屋外の明るい現場ではプロジ カメラに映る画像と突き合わせることで、対象物を認 ェクターの輝度が不足し、投影した画像が見にくいと 識する方式である。対象物にマーカーを貼り付ける必 ういデメリットがある。 要がないというメリットがある反面、認識対象物の増 加に伴い認識速度が遅延する場合がある。 (3)位置情報認識型 4.お客様の保守・点検業務の課題 スマートデバイスに搭載されたGPSセンサー、加速 富士通は、まず最初にInterstage ARを保守・点検業 度センサー、地磁気センサーを活用することで、スマ 務に導入した。その理由は、以下に述べる明確な課題が ートデバイスを持つ利用者の位置情報、向き、進む方 あったためである。 向を認識する方式である。GPS位置情報が正確に取得 ●保守・点検業務の負荷軽減・効率化 できる屋外で有効な方式であるが、高層ビルが立ち並 保守・点検の作業対象となる設備、およびそれを構成 ぶ首都圏などでは、GPS位置情報の精度が低くなると する部品数が多いため、作業量が増加している。更に、 いうデメリットがある。また、地下・屋内などGPS位 トラブル発生時にはマニュアル類を事務所に取りに戻る 置情報が取得できない場所では利用できないというデ など、現場と事務所の往復回数が多くなるため、作業に メリットがある。最近では、複数の無線WiFiアクセ 掛かる費用・工数・時間が増大する傾向がある。 Material Handling Journal No. 275 21 AR技術で実現するスマートデバイスを活用した現場業務革新 か、過去の保守履歴を作業前にタイムリーに表示するこ ●HE削減 経済産業省の調査※5 によれば、産業事故の約8割が HEに起因している。例えば、判断・対処を誤った、マ ニュアルの記述どおりに操作しなかった、最新の手順が とでHEを予防し、事故撲滅に貢献できる。 ●注意事項を重ね合わせて表示 新人・若手はもちろん、熟練者でさえ忘れがちな作業 作業手順書に反映されていなかった(マニュアル不備) 、 前の注意事項、例えば、「感電のリスクがあるために濡 熟練者の技能・技術が若手・新人に継承されない、こと れた手で触るな」 「作業前に検電器で漏電確認を怠るな」 などが挙げられる。更に、2020年には熟練者の大量退 などをタイムリーに表示することでうっかりミスを予防 職を控えている※6 ことから、問題はますます深刻にな できる。 りつつある。 ●人間の知覚能力を超えた情報の見える化 例えば、基地局設置作業の現場において、数百本の回 線ケーブルを設置する中、誤って結線・断線するミスが 6.Interstage AR導入効果 Interstage ARをメタウォーター様と富士通沼津工場 発生することがある。 これは、 人間の能力の限界であり、 の現場業務に導入・適用した事例を紹介する。 ICTを利活用することで人間の知覚能力を超えた情報を ●メタウォーター㈱の事例※7,※8 見える化し、活用する必要がある。 メタウォーターは、上下水道インフラ施設の設計・ 建設、運転・維持管理などを行っており、点検業務に 5.Interstage ARによる課題解決 以下に示すInterstage ARの機能を活用することで、 前章の課題を解決できると考えた(図表. 4) 。 Interstage ARをご活用いただいている。従来、現場で 部品の故障を発見してもその型番がすぐに分からないた め、対象部品の在庫確認、注文処理などを含め修理期間 に2か月かかっていた。Interstage AR導入後は、スマ ートデバイスをかざすだけで型番情報や過去の保守履歴 を現場で即時に確認できるため、この修理期間を最短2 週間に短縮できた。 この取組みは、熟練者の五感に頼っていた設備管理ノ ウハウを可視化し、関係者で共有できることが評価さ れ、公益財団法人日本デザイン振興会が主催する総合的 なデザインの推奨制度であるグッドデザイン賞を2013 ※9 年度に受賞している。 ●富士通沼津工場の事例※10 冷凍機や冷却水ポンプなどの工場設備を毎日昼夜に巡 図表. 4 Interstage ARによる保守・点検業務の一例 回点検を行う業務において、以下のような導入効果を 得た。 (1)熟練者と若手・新人でトラブル発生時の対処にば ●作業対象に、作業手順・方法を重ね合わせて表示 らつきがあった。熟練者はこれまでの経験や勘によ 作業の手順を説明する吹き出しアイコンや、マニュア りトラブルに気づいたり対処したりできる。しか ルを参照するアイコンを対象物に重ね合わせて表示する し、若手・新人はトラブルに気付かない場合が多 ことで、正確かつ確実に作業できるようになる。これに く、たとえ気付いても対処方法がわからない場合が より、作業現場の負荷軽減・効率化に貢献できる。 あった。この問題に対し、Interstage ARを導入す ●過去の保守履歴を重ね合わせて表示 ることによって、例えば、「疑縮液の出口温度と入 保守作業において、担当者が申し送りせずに次の担当 口温度の差が小さくなった」という事象が発生した 者に引き継いだ結果、事故につながるケースがある。こ 場合は「チューブの水垢を清掃することで対処し のため、「誰が」 「いつ」 「何を」 「どのように」操作したの た」など、熟練者の過去の保守履歴をタムリーに表 22 MHジャーナル 平成27年 月 AR技術で実現するスマートデバイスを活用した現場業務革新 示できる。このため、若手・新人でも現場で判断し このように、Interstage AR導入前は紙と個人の勘と 対処できるようになった。これにより、作業の標準 スキルに依存した運用だったが、導入後は、データやマ 化と作業品質の底上げ・向上に成功した。 ニュアルをすべて電子化することで、作業の標準化と品 (2)現場で水濡れなどを発見した場合、従来は一旦事 質の底上げに成功した。この結果、ペーパレスによる作 務所に戻ってホワイトボードに記載するという個人 業効率10%向上、トラブル発生時のダウンタイム1/ の記憶に頼る運用であった。そのため、正確な報告 6削減、ヒヤリハット60%削減に成功した。 や引き継ぎができていない場合があった。この問題 に対し、正確な位置に正確な情報を記録・表示する 上述した事例以外にも、次のようなInterstage ARの 導入効果が期待できる。 Interstage ARの特徴を活用した。具体的には、あ バックエンドシステムで管理している在庫、生産実 たかも3次元空間上に付箋紙を貼るイメージで「水 績、保全履歴を現場でリアルタイムに把握できる。 漏れ発見」という文字列を水漏れ発見個所に登録す 現場点検結果などフロントエンドで入力された生のデ ることで、正確な引き継ぎ・申し送りができるよう ータをバックエンドの企業システムにリアルタイムに になり、作業精度・作業品質の向上に成功した。 反映・フィードバックできる。 (3)事務所には、点検結果や部品交換記録を記入した 従来のICTシステムでは、現場のデータと、バックエ 紙が、ファイリング・保管されていただけであり、ほ ンドのICTシステムで管理されるデータが独立の関係 かの作業者が閲覧することが困難であった。そのた にある。このため、現場の作業者は設備管理システム め、突然の事故発生による事後保全の対処に工数・ 上の情報を検索し、対象設備とひも付ける必要があっ 費用がかさんでいた。この問題に対し、毎日の点検 た。しかし、Interstage ARを活用することにより、 結果をスマートデバイス上のInterstage ARから入 対象設備にスマートデバイスをかざすだけで必要なデ 力することにした。これにより、点検結果はダッシュ ーが取得できるため、データへのアクセス性を向上さ ボードを使用して1週間の日時推移を確認できる。 せられる。 また、点検対象設備にスマートデバイスをかざす と、当該設備の温度の1週間の推移傾向が折れ線グ ラフで表示されるだけでなく、前任者の申し送り・ 引き継ぎ事項を表示できるようにした(図表. 5) 。 7.富士通のARの強み 富士通の提供するARの強みと、他社やOSS(Open Source Software)との差異化ポイントについて、以下 に述べる。 (1)業務・作業手順などコンテキストに応じた最適な 情報表示 一般的に、ARは情報をただ重ね合わせ表示するだ けのものと理解されている。一方、富士通が提供する Interstage ARは、利用者やその業務内容に応じた最 適な情報表示できる。例えば、点検業務を行う作業者 が対象設備のマーカーにスマートデバイスをかざした 場合、点検入力フォームを表示し、保守業務を行う作 図表. 5 富士通沼津工場巡回点検業務の事例 業者が同じマーカーにスマートデバイスをかざした場 合は、対象設備の保守操作のガイダンス・ナビゲーシ 例えば、冷却水の温度が徐々に上昇傾向にあれば、 ョンを表示するという切り替えができる。 上限値や下限値などしきい値に達していなくても、 (2)業務利用に強い認識技術(ARマーカー) 現場の冷凍機の冷凍能力が不足していることがわか 従来、直射日光があたり白トビが発生する屋外や、 る。これにより、若手・新人でも現場で大容量の冷 露光時間が長く手振れが発生する薄暗い地下工場施設 凍機への切り替えが判断できるようになった。 では、バーコードやQRコードの適用が難しかった。 Material Handling Journal No. 275 23 AR技術で実現するスマートデバイスを活用した現場業務革新 富士通独自のARマーカーは、照度条件・認識距離に 強いという特徴を持っており、このような条件下でも ARマーカーを正確に認識できる。また、GPS位置情 報認識とARマーカー認識を組み合わせて利用するこ 8.ビジネス拡大に向けた更なるチャレンジ Interstage ARの現場実践により新たな課題も見えて きた。その一部を以下に紹介する。 ともできる。更にBeaconやQRコード・バーコードも 化学プラントなどにおけるARを活用した点検では、 利用することができ、業務に応じて様々な認識方式を 防爆・防塵・防水企画に準拠したスマートデバイスやウ 採用することができる。 ェアラブル端末を提供する必要がある。 (3)直観的な操作でコンテンツ作成 製油所など両手を使った作業が発生する現場作業で 従来、AR技術を活用したコンテンツ作成を新規開 は、作業者の安心・安全を守るため、ハンズフリー要件 発する場合、ARの専門業者が数か月・数千万円をか が求められる。そのため、ウェアラブル端末上でAR動 けて開発する必要があった。また、利用者自身がコン 作保障を進めていく必要がある。 テンツを追加・変更することはできなかった。一方、 通信キャリア基地設置業務など、二人一組のダブルチ 富士通のInterstage ARはあらかじめ用意されたツー ェック体制が求められる危険を伴う作業は、例えば、中 ル(テキスト文字列、イメージファイル、手書き)を 央監視室にいる熟練者と現場にいる経験の浅い作業者と 選択して、ピンチイン・ピンチアウトなど直観的な操 の間で、画像を共有しながら確認できる後方遠隔支援機 作で画面上に配置したりアイコンをタップすることで 能を提供していく必要がある。 表示したいドキュメントや動画、3D画像を簡単な操 食品製造ラインなど、異物混入リスクがある現場や高 作で登録したりできる機能を持っている。この機能を 温多湿の現場では、ARマーカーが貼り付けられない。 利用すれば、専門業者にコンテンツ開発を依頼するこ そのため、マーカーレス型の画像認識や文字認識、音声 となく、作業者自身が現場でコンテンツを容易に追加 認識など、利用シーンに応じて最適な認識手段を利用者 ・変更し、充実させることができる。 が選択できる仕様にする必要がある。 (4)オフライン環境での現場作業支援 これまで、数百件に上るお客様の要望に応えてきた 実績から、化学プラント、発電設備、地下施設などAR 今後は、これらの課題解決のため仕様変更や機能追加 に留まらず、BtoBからBtoCへとチャレンジしていく所 存である。 活用ニーズが大きい現場は、機器に誤動作を与えない ように3G/LTE公衆回線やWiFi無線環境などのネ ットワーク回線が利用できない場合が多いことが分か 9.むすび っていた。富士通のInterstage ARは、ネットワーク 本稿では、A R 技術を活用して現場業務を革新する 回線が利用可能な事務所などで、サーバのデータをス FUJITSU Software Interstage AR Processing Server マートデバイスにキャッシュできる。現場では、この キャッシュしたデータを利用して業務を支援できる端 末データキャッシュ機能を提供している。 (Interstage AR)について述べた。 様々なお客様導入事例を通じて培った現場ノウハウや 自社実践をベースに、今後もInterstage ARの現場適用 (5)スマートデバイスに依存しないアプリケーション を継続していくとともに、富士通の豊富なパッケージ・ 従来、モバイルアプリケーション開発は、Android、 ソリューションにもInterstage ARを連携させていく所 iOS、Windowsといった主要OSに対応する必要があ 存である。Interstage ARと連携したアプリケーション るため、開発効率・生産性・保守性の低下に懸念があ を3点紹介する。 った。富士通のInterstage ARは、開発者が使い慣れ 物流センター管理システム:Logifit WM※11 ているHTML技術を使用してアプリケーションが開 設備点検:AZCLOUD Saa Stera Spection※12 発できる開発環境・実行プラットフォームを提供して 生産準備業務支援:PLEMIA Maintenance Viewer※13 いる。これにより、異なるOS上で動作するアプリケ ーションの開発効率・生産性・保守性が飛躍的に向上 している。 24 MHジャーナル 平成27年 月 AR技術で実現するスマートデバイスを活用した現場業務革新 最後になりましたが、ARを活用した保守・点検およ ※8 富士通:AR技術の活用で熟練者の技術を伝承 び上記ソリューションの適応をお考えの際には、富士通 水道インフラ現場の作業品質向上をスキル平 にご相談頂ければ幸いです。 準化を実現. http://software.fujitsu.com/jp/middleware/ casestudies/metawater/ ■参考文献 ※9 グッドデザイン賞:新世代上下水道インフラ 富 士 通:雑 誌FUJITSU2015年−1月 号 Vol. 66, No. 1 プラットフォーム「スマートフィールドサー に掲載の『AR技術で実現するスマートデバイスを活用 ビス」. した現場業務革新』に掲載した論文をもとに、一部内容 を修正。 http://www.gmark.org/award/describe/40433 ※10 富士通:動画∼ミドルウェアチャンネル∼AR http://img.jp.fujitsu.com/downloads/jp/jmag/vol でつくる新しい現場のカタチ∼富士通内実践を 66−1/paper02.pdf とおして∼. ※1 富士通:AR(Augmented Reality:拡張現実). http://jp.fujitsu.com/solutions/crm/web-integration/ column/column012.html?from=c011 ※2 movie/interstage01/ ※11 富士通:物流センター管理システムFUJITSU 富士通:AR統合基盤製品FUJITSU Software Interstage AR Processing Server. http://interstage.fujitsu.com/jp/arprocessserver ※3 http://software.fujitsu.com/jp/middleware/ 日本経済新聞BPニュースセレクト:富士通、 ロジスティクスソリューションLogifit WM. http://www.fujitsu.com/jp/solutions/industry/ logistics/product/center/logifitwm/ ※12 富士通マーケティング:FUJITSUビジネスア タブレットとARで業務効率化を支援するソフト. プリケーションAZCLOUD SaaS teraSpection http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK2502 D_V20C13A4000000/ ※4 YouTube:スマートデバイスによるワークス タイル変革情報活用ソフトウェア説明会. (アズクラウドサーステラスペクション). http://www.fjm.fujitsu.com/solution/azservice/ azcloud/azcloud_saas/teraspection/index.html ※13 富士通システムズ・ウエスト:FUJITSU https://www.youtube.com/watch?v=mosyD8HMBK Manufacturing Industry Solution PLEMIA 4&list=UUAhZBel56tAnwnQYkToJ_vQ&index=1 Maintenance Viewer. ※5 経済産業省:産業事故調査結果の中間取りま http://www.fujitsu.com/jp/group/fwest/ とめ(平成15年12月16日). solutions/industry/manufacturing/mviewer/ http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g 40129b20j.pdf ※6 厚生労働省:高年齢者雇用促進への政府の取 組∼改正高年齢者雇用安定法の施行∼資料3. http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000022toc‐ att/2r98520000022tsy.pdf ※7 富士通:動画∼ミドルウェアチェンネル∼AR 技術の活用で熟練者の技術を伝承∼メタウォ ーター株式会社様導入事例∼. http://software.fujitsu.com/jp/middleware/movie/ お問合せ先 富士通株式会社 統合商品戦略本部 ソフトウェアビジネス推進統括部 ミドルウェア商品企画部 ARソリューション推進 市川 聡(Ichikawa Satoshi) TEL:03−6424−6505 E-mail : [email protected] interstage02/ Material Handling Journal No. 275 25 特 集 ●物流センターに新機能をプラスする● 次世代仕分システム GAS(ゲート アソート システム)のご紹介 株式会社 タクテック 常務取締役 山崎 整 近年の人出不足により物流センターにおいても作業員 そこで仕分先数、物量増へ柔軟に対応できる仕分シス 不足が深刻となっており、「省人化」 「自動化」が物流シ テムが要求され、同時に精度もソータと同一レベルを確 ステム導入のキーワードになってきています。 保し、かつ高い生産性を生み出するために開発されたの 一方で多品種少量物流が一段と高まり、バラ品の仕分 がGAS(ゲートアソートシステム)です。 作業を全自動にするまでにはいたっておらず、誰でもす ぐに作業ができ、間違わず、一定以上の生産性を出せる 物流システムが求められており、GASを選定して頂け るケースが増えています。 今回GASの概要及び導入事例について、 ご紹介します。 動画を交えてご説明しないと完全にはお伝えできないた 2.GASの特徴 仕分先間口に自動開閉式ゲートがあり、仕分先の該当 ゲートが物理的に1箇所のみ開くため、熟練作業者でな くても仕分けミスをさせない仕組みです。 め、ご興味あれば遠慮なく連絡を頂きたと思います。 1.GAS誕生の背景 1990年代、小売業界のTC共配センターにおいて、総 量一括入荷しカテゴリ別店別仕分するために小物ソータ が導入されました。しかしながら店舗数及び納品カテゴ リ数の増大によりソータシュート数が不足し、シュート 増設は工事期間中稼働を停止しなければならず、複数回 に分けて作業するようになってしまいました。 図表. 1 GASの特徴 開閉ゲートがあるため、仕分けミスをしないことから 多段(3段∼5段)の仕分け棚が構築でき、歩行距離が 減らせることができ人時生産性も高くなり、スペース効 率もよくなります。 近年では物流会社への物流委託契約期間も短く、通販 ビジネスにおいては年率1. 5倍の拡大するケースもあ り、導入後のビジネス変化により設備の移設や増設が必 ずといっていいほどあります。その時のためにGASは 1 GASの外観 写真. 26 MHジャーナル 平成27年 月 アンカーボルトを打たず、置いてあるだけなので、移設 次世代仕分システムGAS (ゲート アソート システム)のご紹介 工事は簡単に施工できます。ある通販事業者へ導入した ます。入荷検品はバーコードスキャンのみではなく、ウ GASは4回の移設、増設(設置階数、建屋移転もあり) ェイトチェッカーを使う事例もあります。GASユニッ を行いましたが、設置してから7年間365日1日も出荷 ト別仕分けにはRFID付トレーを使い、商品、数量、ユ 停止させておりません。 ニット番号をRFID番号に情報をヒモ付し、コンベヤへ 投入します。この工程を 「検品前処理」 と呼称しています。 3.GAS導入事例 (店舗物流) 空段ボール搬送コンベヤは通常ベルトコンベヤを使用 しますが、当社は傾斜、カーブと1つの駆動でレイアウ ト配置することができ、搬送面表面がテープが付着しに くい、 米国スパンテック社のコンベヤを採用しています。 図表. 2 店舗物流の概略フロー GASが誕生したのはドラッグストア向けの共配セン ターです。その導入事例を説明します。 5 破材コンベヤ 「カラコン」 写真. 検品前処理でコンベヤ搬送されたRFID付トレーは、 2 検品前処理ライン 写真. 写真. 3 RFID付トレー コンベヤ先端でRFIDをリードすることで、店別仕分け されるGASユニット番号が表示されるので、人手で積 込みを行います。この作業を「先端仕分」と呼称してい ます。GASユニット数が多く大規模な場合はソータ等 を使うこともあります。 先端仕分けとGAS仕分けをコンベヤで接続せず、人 手にて行っている理由は作業負荷バランスの不均等を吸 収する狙いがあります。あるカテゴリが集中的に入荷し てくるような場合、コンベヤで接続してしまうとある GASユニットにトレーが集中してしまう事を避けてい ます。 人手作業での積込みのため、ミスは発生しますが、 GAS仕分け時に再度トレーのRFIDをリードしますの 4 検品前処理の作業台 写真. で、 すぐにミスは発覚しリカバリーすることが可能です。 先端仕分されたトレーはGASユニット番号毎にキャリ 総量一括入荷(TCⅡ型)され、ケース(元梱)出荷分は ラベル発行を行い店舗別仕分けされます。混載箱に入っ ー台車に積込まれ、GASユニットへ人手供給され、店 舗別にGAS仕分け作業へ進みます。 た商品と荷姿はケース (元梱) ですが、ピース出荷される GAS仕分け作業はトレーを投入台に乗せRFID番号を バラ出荷分を入荷検品兼GASユニット別仕分けを行い リードすることで、仕分けアイテム、数量を認識します Material Handling Journal No. 275 27 次世代仕分システムGAS (ゲート アソート システム)のご紹介 細部にまでミスゼロによる生産性向上を目指したアプリ ケーションを開発しています。 ᴘᴇᴙᴢᴷᴠᴱᴫᴞᴘ ᴯᴥᴶᴱᴤᴷᴰᴵᴘ ᴍᴰᴒᴵᴙᴂᴵᴔᴶ ᴦᴶᴘᴵ 4(+&ᴰᴈᴘᴶᴈ 写真. 6 先端仕分け ので、該当ゲートが開き、投入数量を画面及び音声で作 業者へ指示を行い、商品投入が終わったら、完了ボタン を押下すると次の店舗のゲートが開くといった具合に仕 分け作業を進めていきます。 8 GAS投入作業台 写真. トレー毎に商品過不足があった場合は、検品モードに 入り、ゲート開閉+数量指示により該当商品の実仕分け 数を確認する機能があります。 商品一覧で未仕分け商品が検索でき、商品明細により その商品の仕分け情報を見ることができ、作業画面に検 索機能を効率良く配置しています。これは作業者から問 合せがあった現場リーダーの方が管理PCへいちいち移 動する手間をなくします。 7 GASユニットの配置 写真. 仕分け先のオリコンが満杯になった場合は作業者の判 断により「満杯ボタン」を押下し、オリコンチェンジモ 3 生産性、出荷能力等の管理機能 図表. ードにします。確定するとラベルプリンターから店舗ラ ベルが出力され、オリコンへ貼付けした後、排出して出 管理PCには作業者毎の生産性やセンターとしての時 荷カゴ車へ積込み、空オリコンをセットすることで、ス 間帯別出荷能力など、現場リーダーの方が視覚的に判断 ムーズにオリコンチェンジ作業が可能です。 できる内容を構築しています。 投入台のモニターにはGAS間口の絵があり、仕分け 在庫型センター(DC)においても、トータルピック 情報を視覚的に表示し、作業者の能力UPを促していま した状態は総量一括入荷と変わらず作業ができます。実 す。またGAS背面のゲートが開く時は正面と開く時と 際近年の共配センターはDC併用という形が多く、バラ 違う音声にして、振返る時間を少しでも短くするという 仕分をすべてGASで行う事例もあります。 28 MHジャーナル 平成27年 月 次世代仕分システムGAS (ゲート アソート システム)のご紹介 またDCのみの場合でもGAS間口分の店舗数で作業バ ッチ組を行い、バッチピックを行い、GAS店舗仕分と フットスイッチやセンサーにて投入完了となり、ゲート を閉めます。 いう作業フローも構築可能です。 4.GAS導入事例 (通販物流) 通信販売は無店舗販売のため、物流センターでの出荷 ミスは致命的になります。従って1件毎にピッキングす るオーダピッキングが主流であり、1商品毎にスキャン 検品することで出荷精度を高める運用を構築します。し かし通販ビジネスが市場で認知される飛躍的に物量増と なり、作業員を物量増に比例して投入することになり、 最終的には宅配便の集荷時間に間に合わず出荷が遅れる という事態に陥ります。 写真. 9 通販向けGASユニット 物量増になった時の対応として、単行伝票と複業伝票 を分けて作業する事を行います。単行伝票とは1オーダ 納品書、送り状ラベル(絵符)は商品同様にバーコー =1行、すなわち1種類の商品を購入頂いたオーダのこ ドスキャンして GAS 仕分けする場合もあれば、送り状 とです。(単伝をシングル、複伝をマルチと呼称し、シ ラベルは GAS 仕分け後に印刷する場合もあり、導入先 ングルは1オーダ=1ピースとしている通販事業者様が の既存システムとの兼合いも GAS 導入時にはしっかり いますので注意が必要です。 ) と検討する必要があります。 単伝作業バッチを組み、トータルピッキング(アイテ 商品1つ毎にスキャンしているため、いわゆるPOS ム別集約ピック)し、商品スキャンで納品書や送り状印 検品しているのと変わらず、同時に仕分けを行っていま 刷を行うという効率良い作業が可能です。 複伝作業のオーダピッキング作業をバッチピック→ す。しかしランプによる仕分け作業の場合は上下左右に GAS仕分け運用に変えるご提案をしています。 す。通販物流のGASは「検品兼仕分け」作業ができる GAS1ユニットの間口数でバッチ組を行い、GASバ 投入ミスするため、仕分け後に再検品が必要になりま ことが特徴です。 ッチ単位でバッチピックを行います。ピッキング方法は リスト、無線HHT、DPSと様々な設備が存在しますが ここでは省略します。 集品された商品を1つずつ手にとってバーコードスキ ャンし、GAS間口の該当ゲートが開き、商品投入後に 図表. 5 製函→GAS→自動梱包の概略フロー 出荷段ボール製函から出荷までの一連の作業を省人化 した GAS 導入事例です。 製函機により空段ボールを自動製函→インクジェット プリンターでユニークな段ボール ID を段ボール面に印 4 通販物流のGAS導入 図表. 刷→ GAS 付近へコンベヤ搬送します。 Material Handling Journal No. 275 29 次世代仕分システムGAS (ゲート アソート システム)のご紹介 GAS 作業として、供給された空段ボールをセット→ 段ボール ID をスキャンして出荷番号と段ボール ID を 5.G−CART (新製品) 紐付→商品仕分けを行い、 GAS 仕分け完了後、出荷段 ゲート開閉機能をもったGCART(ゲートシステム ボールを GAS 後方のフレックスキャリーコンベヤへ押 カート)を開発しました。最大6オーダのマルチオーダ 出し自動搬送します。 ピックが可能であり、2ゲート同時に開閉することで大 自動搬送された仕分け済み出荷段ボールの IDを自動 スキャン→納品書発行→投入→封函→送り状発行→貼付 までを全自動化しています。 きな出荷箱にも対応します。 重量マスタが整備できない、重量検品付カートは過剰 設備だが、マルチオーダピックは作業上必要だが、投入 ミスをしてしまうというニーズに応えます。 図表. 6 GAS背面にコンベヤを配備 写真. 11 GCart外観 お問合せ先 株式会社 タクテック 常務取締役 ひとし 山崎 写真. 10 フレックスキャリーコンベヤ GAS 背面に採用したコンベヤはフレックスキャリー コンベヤ(樹脂製のトップチェーンコンベヤ)であり、 3段ある GAS 間口を2本の搬送ラインで集品する3次 元レイアウトを実現させました。分岐・合流がなく搬送 する事が主目的であり、常時駆動で制御コントロールを 整 mobile:090−9183−8358 E‐mail:[email protected] 〔東京営業所〕 〒113−0033 東京都文京区本郷3−32−7 東京ビル7F TEL:03−3868−3140 FAX:03−3868−3152 URL:http://www.taku-tech.com 〔本社〕 〒332−0031 埼玉県川口市青木3−27−17 極小化し安価に対応することに成功しました。 現在計画しているのは、封函機の部分に自動梱包機を 配置したレイアウトです。 GAS の前後を省人化する事 例はこの先まだまだ進化させたいと思っております。 30 MHジャーナル 平成27年 月 24時間365日携帯ONしています。 お気軽に携帯電話まで連絡ください! 尾田寛仁 [著] 経営実務で考えた マネジメントとリーダーシップの基本 出版社:三恵社 定 価:本体価格 2,200円+税 製配販 サプライ・チェーンにおける物流革新 企画・設計・開発のエンジニアリングと運営ノウハウ 出版社:三恵社 定 価:本体価格 1,850円+税 筆者:尾田 寛仁 略歴:1948年山口県に生まれる。1971年九州大学法学部 卒業。1978年九州大学経済学部会計学研究生修了。1971年 ∼1976年日本NCR株式会社で、 プログラム開発、客先システ ム設計及び、営業エンジニアに従事する。1978年∼2006年 花王株式会社で、販売を18年間、物流を9年間、及び経営監査 を1年半担当する。販売では、販売職、販売教育マネジャー、販 売TCR担当部長、東北地区統括兼、東北花王販売株式会社社長 を経る。その後、ロジスティクス部門開発グループ部長として、 設備やシステム開発に従事し、花王物流在庫拠点を60カ所から 21カ所に集約する。並びに、花王システム物流を1996年に設 立し、副社長・社長として小売業の調達物流(一括物流) を40社 受託し運営する。2006年∼2014年中央物産株式会社で、専 務取締役として物流本部長、管理本部長及び営業本部長を順次 所管する。2015年物流システムマネジメント研究所を設立し、 所長となる。 Material Handling Journal No. 275 31 特 集 ●物流センターに新機能をプラスする● JPRの提案する 次世代高機能物流サービスについて 日本パレットレンタル株式会社 事業プロジェクト PJリーダー 二村 篤志 1.パレットだけじゃないJPR のもとパレットの普及に努め、日本経済発展のため全体 最適のため標準パレット(JIS規格である1100㎜×1100 日本パレットレンタル(以下JPR)――社名からのご ㎜サイズの11型パレット)の拡大に努めてまいりまし 想像通り、パレットのレンタルをコア事業としている会 た。そして、物流効率化のため企業をまたいでのパレッ 社です。パレットとは、物流に用いる荷役を載せるため トの共同利用・共同回収の仕組みを提供しています(図 の荷役台のこと。その中でももっとも代表的な平パレッ 表. 1) 。 トをメインに取り扱っています(写真. 1) 。 40年以上の活動の成果もあり、「パレットと言えば、 パレットレンタルさん」と仰っていただくことも多くあ ります。非常に有難いことなのですが、社名のインパク トも手伝い、どうしても扱っているものがパレットだけ と思われがちなことが歯がゆいところでもあります。 弊社はパレット以外の物流容器もレンタル、販売して おります。たとえば、オリジナル販売商品「トラックボ ード」はトラック輸送に欠かせない緩衝材として累計90 万枚以上の販売実績があり、プロが愛用する商品として テレビにも取り上げられました(写真. 2) 。 写真. 1 上はプラスチック製、下は木製 今年で45期目を迎える弊社は、日本初のレンタルパレ ット会社です。重労働から人々を解放したいという理念 32 MHジャーナル 平成27年 月 写真. 2 トラックボード利用例 JPRの提案する次世代高機能物流サービスについて とし、ムダやムリが生じるものです。実際、何万、何十 万という単位で物流容器を保有している場合、「よし! 容器にRFタグを付けて、システムを導入して資産(= 物流容器)管理するぞ!」と思い立っても、そもそも、 いくつ、 どこに、 どのような状態で物流容器を保有してい るのかを把握することすら困難な状態でシステムの導入 なんて現実的じゃない、というお話もよく聞くことです。 そこで弊社は実際に物流現場に赴き、棚卸を実施。容 器管理のためのベストな手法をご提案させていただくサ ービスも提供しており、大手製造業様からも容器の運用 管理コンサルティング業務を請け負っております。 2.社会問題へのアプローチ 図表. 1 JPRはお伝えした通り、レンタル・販売サービス、物 流容器を管理する各種システムの開発と提供を行う情報 サービス、物流容器の運用や管理を代行・支援する運用 また、近年では40年間以上物流現場で培った物流容器 の管理ノウハウを活かしたサービスも展開しておりま 管理支援サービスと、大きく3つの事業を展開しており ます。 す。パレットに載った商品は、メーカーの工場から出荷 パレットのレンタル・運用から派生、展開している各 され、卸売業や小売業と複数企業をまたいで納品されま 種サービスですが、根底にある理念は「全体最適」 「社会 す。納品ごとにパレットを載せ替えていては手間だし、 貢献」です。近年、物流シーンではトラックドライバー 商品の積み替えはせず1枚のパレットで最終納品地まで 不足が深刻化。また、働き手の高齢化も大きな問題とな 運ぶ一貫パレチゼーションを実現するには、企業の垣根 っています。 このままでは本当に 「モノを運びたくても、 を超えて発側と受け側が情報を共有し、パレットを管理 運べない時代」がくるかもしれません。 しなければなりません。そのために必要なパレットを総 量で管理するシステム(WEB物流機器管理在庫システ これらの社会問題に対する解決策としてまずご提案し ム「epal(イーパル) 」 ) を開発し提供しています(図表. 1) 。 たいのが、パレット化です。基本に戻る話となりますが 昨年、「epal」の次世代版として、物流機器管理ソリ 未だ、手荷役でトラックに積み、手荷役で納品している ューションシステム「Llink(エルリンク) 」 シリーズの 業界も少なくありません。ただ、どんなに1つの商品が 販売も開始。これは、弊社からパレットをレンタルして 軽い場合でも、納品に最大2時間かかることもあります いただかずとも、自社でお持ちの物流容器を個体管理し (結局、パレットで保管するので、検品しアイテムごと ていただくためのシステムです。実際に、カートラック にパレタイズする作業が発生するためです) 。かたや、 や、ガスボンベなど様々な自社でお持ちのアイテムの個 フォークリフトを使用したパレット納品の場合は15分∼ 体管理にご利用いただいており、紛失の防止、作業時間 30分ほどで済みます。2時間納品にかかるということ の短縮など目に見える成果が出ております。 は、トラックドライバーは本業である運転以外のことに 労働時間を割き、さらにこれらの検品作業は納品時のサ ただ、事業規模が大きくなればなるほど、そして取り ービス(=無料)として扱われることも多く、ムリとム 扱うアイテム数が多くなればなるほど、物流現場は混沌 ダが発生している例とも言えるでしょう。しかし、15分 Material Handling Journal No. 275 33 JPRの提案する次世代高機能物流サービスについて 写真. 3 で納品を終え、もう1度トラックを走らせることができ ればそれはトラックの回転率を向上させることにつなが り、パレット化に初期投資がかかっても長い目でみれば 結局は自社の利益にも返ってくることなのです。 図表. 2 また、昨今では企業の社会的責任として環境保護への 対応が求められています。 自社でパレットを運用するよりも、レンタルパレット を利用した共同利用・共同回収システムを活用したほう が年間のCO2排出量を約11万トン、83%削減できると また、JPRでは前述した通り、パレットの共同利用・ いう算出データが出ています。 (CO2削減効果について 共同回収の仕組みをご提案しています(図表. 1) 。一貫 は、2007年度の実績を元に、東京海洋大学 海洋工学部 パレチゼーション実現の大きな壁になるのは、納品後の 流通情報工学科准教授 黒川久幸博士との共同研究により パレットの回収です。そこでJPRは、最終納品地となる 試算 ※役職は2007年当時) 卸売業や小売業の物流センターに協力を依頼しパレット これは共同回収の仕組みを活用することで、空のパレ の共同回収拠点となっていただいています(空になった ットを自社で回収するために再びトラックを走らせない JPRのレンタルパレットを一括管理していただいてい で済むこと。また、自社運用するとパレットの紛失率は る) 。現状、全国で約1600拠点。今後はさらに、レンタ 3割∼5割とも言われる中で共同回収・共同利用の仕組 ルパレットご利用者様が安心して出荷し、乗り捨て(納 みでは1%ほどの紛失率を維持しているため、紛失分 品してそのままパレットを置いて帰れる)できる先を増 を買い足すことで生まれる環境負荷が軽減されることな やしていきます。 どが大きな要因です。 つまり、レンタルパレットを利用し、共同利用・共同 回収の仕組みを活用するだけで、企業のCSR活動につ ながるわけです。 もう1つ、次世代の物流サービスとして現在運用実験 を行っている事例もお伝えします。JPRでは、保有する プラスチック製レンタルパレット約560万枚にRFタグを 貼付しています (写真. 3) 。それは、自動認識技術を活用 するためで、現在およそ90%に実装済みです。今年度 中にはほぼ100%タグを貼付し、パレットの個体管理・ 運用を推進します。資産管理という意味合いもあります 写真. 4 パレットに貼付しているRFタグの読み取り風景 34 MHジャーナル 平成27年 月 が、パレットの紛失・長期滞留防止、さらには、個体管 JPRの提案する次世代高機能物流サービスについて 理されたパレットの情報と積載商品の情報を紐づけ検品 時間の短縮を実現します(図表. 2) 。実際、特定非営利 活動法人食品流通高度化推進協議会が食品メーカー2社 と食品卸売業1社と共同で運用実験テストを実施。現状 通りの方法であるパレット納品・検品に要した時間と、 タグによって個体管理されたパレットと積載商品情報を 紐づけ納品時にハンディリーダーで読み込み検品作業を した場合とでは、作業時間は約半分になるという結果が 得られました(写真. 4) 。 つまり、トラックの荷受け場所での滞留時間が削減さ れたという結果で、将来的には「商品との紐づきパレッ 写真. 5 トの読み取り=検品レス」とすることで更なる時間短縮 も見込まれます。時間短縮により、ドライバーの拘束時 間の短縮や、発側企業側での計画的な配車組みも期待さ 物流容器に関するお困りごと全般、JPRにご相談くだ れます。もちろん読み取り精度の向上や、導入費用のコ さい。JPRは、日本の物流インフラを支える企業として ストなど課題もありますが、実験で得られたことは大き これからも変革にチャレンジしてまいります。 く、1つ1つクリアして実運用を目指します。 お問合せ先 3.JPRにご相談ください ご紹介した将来構想もさることながら、弊社にはパレ 日本パレットレンタル株式会社 事業プロジェクト ットにまつわるサービス(調達や効率の良い運用方法、 PJリーダー 洗浄や補修など高品質を保つメンテナンス体制など※写 二村 真. 5)はもちろん。自社容器(物流容器だけにこだわら ず、繰り返し利用する高価なもの) の紛失を防止したい、 資産管理をしたい、容器の回収を代行して欲しい、など お客様の多種多様なニーズにお応えします。 篤志 TEL:03−6895−5251 FAX :03−6895−5249 E‐mail:[email protected] WEB:http://www.jpr.co.jp Material Handling Journal No. 275 35 連★載 米国マテハン専門誌抄訳 vol.63 (2014.11∼2015.4) 米国の Modern Materials Handling 誌の内容を会員に海外情報として紹介すべく、近着の記事中か ら選択抄訳と解説を掲載しています。全文記事については、インターネット上でmmh.comをクリック して原文を読むことができます。 2014年11月号 ピザのフレッシュ配送 米国3番目の大手ピザチェーンストア、パパ・ジョ ンズ社(ルイスビル;ケンタッキー州)では米国10箇 所のDCより3, 200箇所の店舗にピザの生地や原料を、 週2回配送する。DC(生地製造もここで行う)での MH設備や倉庫管理プロセスは一般的なもの(フォー クリフト、パレットラック)であるが、このたび音声 システムを新規導入、サプライチェンソフトを更新し た。その結果、本社のERPシステムとの協調により、 在庫調整の最適化、食品規制適合、自主回収時の見え る化を達成した。 サプライチェンソフトと音声システムのフィロソフ ィ ー は 次 の 点 で あ る。 店 舗 の 在 庫 管 理 は 押 込 み (Push)ではなく引っ張り(Pull) 、 在庫データの 日々更新による量の把握、外部倉庫委託の節減、 追 跡管理によるDCと店舗の在庫量、現在場所の見える 化と自主回収への備え、 音声システムによるバリデ ーション管理、記入する必要がないことによる冷凍、 冷蔵倉庫内での有用性である。 ーダーの場合には自動機器をバイパスする運用になっ ている。 同社ではカナダ/バンクーバーでの1か所のDCが 最初で、米国内ではワシントンに次いで2番目となる 72日から1. 92日に短縮した。 本DCでは配送平均を3. フレキシブル運用を目指したため、AS/RSや商品が 自動的にピッキング員のところへ搬送されてくるよう なシステムを避け、前述のようなMH機器構成となっ た。 2015年1月号 組立ラインにループ軌道式自動搬送カート車導入 2014年12月号 ヨガのように柔軟な配送システム 1日1回汗をかこうのスローガンのもと、ヨガ用ウ エアを販売・配送するルルレモン・アスレティカ社グ ローブポートDC(オハイオ州、コロンバス近郊)で はそのスローガンどおりDC内でヨガエクササイズ教 室を常時設けて、従業員にリフレッシュを与えている。 その目的は従業員に健全な肉体と精神を与えることに よりDC内の作業を効率的に行ってもらうためである。 MH設備としてはWMS、WCSのソフト、RF、音声 システム、電光表示棚、コンベヤ、ソーター、重量計 測、ラベル貼り機、梱包の自動機器である。これら機 器のフレキシブル運用をモットーとしている。緊急オ 36 MHジャーナル 平成27年 月 ジープ車のバンパー・ フロント部を製造し、近 隣の親会社工場にJIT供 給 す る マ グ ナ ズT.E. A.Mシステムズ社トレ ド工場(オハイオ州)で は、その組立ラインのス テーション移動にダイフ ク 社 のAGC(自 動 搬 送 カート車):磁気テープ 誘導型を36台導入した。 AGCの 採 用 目 的 は ラ イン切換変更に対するフ レキシビリティにある。 アッセンブリーステーシ ョンは組立種に応じ、12 ∼24箇所の間で構成され、 部品ピッキング棚、出荷 コンベヤのように前後の 固定化した設備以外の限定されたスペースで、省スペ ース、フレキシビリティが求められた。 AGC導入前はステーション自体が水平移動し、移 動に伴い、1人1つのステーションですべての組立を 行っていたが、製造品の構成・種類が複雑になるに従 い、1人では対応困難となり、また、移動ラインも膨 大なものとなってきた。そこで組立ラインを、固定化 設備を避けてS字形エンドレスラインとし、AGCを導 入し、仕掛品を移動させた。停止するステーションは 製品種によって異なる。 対してプラスチックコンテナを出し入れする。 ピッキングステーションでは各レーンに1人あるい は隣り合う2レーンに1人のピッキング作業員を配置 し、タッチスクリーン、電光表示でピッキング指示が 行われる。ロボットにより払い出された収納品の各コ ンテナは6セルに分かれていて、6セル(6商品)の いずれかにライトが当てられて指示される。電光表示 はピッキング品を入れる出荷用トートに対しても行わ れる。 2015年2月号 DCが配送先店舗の在庫量管理を一元管理 住宅リフォーム・建 設資材・サービスの小 売チェーンであるホー ム・デポ社ロカスト・ グローブ施設(ジョー ジア州)は同社全米70 箇 所 のDCの 一 つ で、 全米1977店舗への配送 を行う。 同施設でのネットワ ークにおける最新の付 加機能は、店舗で実物 を見て買い物をしてく れることを意識して、 店舗での品揃え、情報 提供を目指した一方で、 通信販売での消費者個 人への対応も行うDFC (直接配送センター) である。 それまで店舗で行っていた在庫・補充・オーダー管 理をセンターで行うようにし(センタライズ化) 、 それ に費やしていた店舗側の時間・労力を顧客へのサービ スに向けるようにした。次に、在庫は店舗に持たせ、 DCでの国内品在庫を持たないようにすることの方策 として、RDC(高速展開センター)の構想を打ち立 てた。ベンダ、供給者のDCへの供給分担を限定し、 1日内出荷を原則とした。 同施設はこのようにして2007年以降現在まで、セン タライズ化→RDC→DFCの3ステップを経てサプラ イチェンのリモデリングを行ってきた。 2015年3月号 2015年4月号 またまたgoods to personスタイルのピッキング自動化例 銃器品を扱うAcuSport社ベルフォンテーンDC(オ ハイオ州)では、Dematic社の協力のもと、商品をピ ッキング員まで搬送するgoods to personスタイルの 自動ピッキングシステムを2014年7月に導入した。 AS/RSへの入出庫用垂直コンベヤ、棚への入出庫 受け渡しには棚の各段ごとにスタッカシャトル(マル チシャトル)を備えた2レーンの本システムは、同社 35, 000種の商品の内、75%の27, 000種のスロームーブ 品を対象としたものである。ピッキング品を収納した トート箱がマルチシャトル方式によるAS/RSから出 庫され、電光表示のウォールエリアのピッキング員の もとへ搬送される。このシステムを選択した理由は拡 張性が容易、確立した技術であること、信頼性である。 専用トート箱は8部屋に分かれていて、8種の商品 を収納する。商品がパレットで入荷後、バーコードを 読み取り、指定されたトートに収納する。ピッキング で出庫したトートのバーコードを読むと、出荷する適 度の大きさの箱が選択されて払い出される。同時にピ ッキングする商品名、トートでの収納場所(8箇所の 内の1つ) 、 数量をスクリーンに指示され、ピッキング 員はその指示に従い、出荷箱に収納する。 パーフェクトピックで高密度収納・高速ピッキング 一級品衣服、靴などのアウトレット品を扱うBHFO 社DC(シーダールラピッヅ、アイオワ州)では、商 品をピッキング員まで搬送するgoods to personスタ イルの自動化を推進した。 その自動機器は高密度保管とモービルロボットによ る商品の保管/回収/ピッキングシステムで、オペッ クス社の「パーフェクトピック」である。 導入機器は4レーンの保管庫と各レーン5台のモー ビルロボット(AS/RSのスタッカクレーンに該当す る) 、それと各レーンのホームポジションの位置にあ るピッキングステーションである。モービルロボット は保管庫のレーンの奥行、高さを自走し、目的の棚に Material Handling Journal No. 275 37 JMHS ニュース 第59回通常総会 報告 第59回通常総会が5月19日 (火) 、日比谷松本楼に て、役員・会員過半数の出席をもって開催された。 当日は規約第21条及び第12条により本総会の議長を 小山会長が務め、小山会長による挨拶後、早速議事 に入り、 第1号議案 平成26年度事業報告並びに収支決算 報告の件 第2号議案 平成27年度事業計画案及び収支予算 案審議の件 第3号議案 任期満了に伴う役員の改選、異動並 びに新任案審議の件 について審議され、 いずれも満場一致で可決された。 小山会長による挨拶 続いて、日本物流施設株式会社 代表取締役社長の河田榮司 氏をお招きし、「物流施設の最新動向とMH設計に求められる こと」をテーマに特別講演会を行い、その後は懇親会を開催、 盛況の内に終了した。 特別講演会:日本物流施設 河田氏 下代副会長による乾杯の挨拶 平成27年度新役員の紹介 小倉新監事による中締め 38 MH ジャーナル 平成27年 月 JMHS ニュース 日本MH協会 平成27年度活動方針 成長戦略の早期実現を目指してアベノミクスが一層スピード感をもって進められているが、本年は産官一体とな って経済の好循環を全国的に拡大させ、企業の生産性向上を図っていくことが最優先課題となっている。 MH 分野においても近未来を見据え、社会のニーズに対応したより高度な MH 技術の開発や生産・物流改善へ の取組みが一層求められている。 当協会はこのような情勢下において、会員組織並びに事業活動の強化を図る一方、兄弟団体の公益社団法人日本 包装技術協会との連携を中心に据え、MH・物流関連団体との情報交換・交流を一層推進強化する。また、平成28 年度に迎える協会創立60周年に対応する諸企画をスタートする。 上述の内容を踏まえて、本年度も協会会員の“ためになる MH”諸活動を展開する。 1.協会事業活動の強化推進 会員サービス事業として根強いニーズがある「見学会」 、ユーザーとメーカーとの情報交流を目的とした「MHフ ォーラム」、次世代 MH の研究、セミナーなどより会員に対し、「ためになるMH」諸活動を構築する。 2.MH人材育成事業の推進 中央職業能力開発協会・厚生労働省の公的資格として認知される同協会認定講座「ロジスティクス管理・オペレ ーション基礎講座」の広報充実、並びに我が国唯一の提案書作成型実践講座である「ロジスティクス・MH 技術管 理士講座」をリニューアルし、参加者拡大を図り、企業の役に立つ人材を育成する。 3.協会創立60周年企画によるMH技術の普及推進 当協会は、来年平成28年度に創立60周年を迎えるが、来秋開催される JPI の「TOKYO PACK 2016」と連携し て、協会創立60周年事業を企画し、「ためになるMH」を提案し、協会の存在と「MH」の重要性を内外にアピー ルするための準備を開始する。 4.内外のMH関連団体との交流連携強化並びに協会活動のグローバル化推進 内外の友好団体とのMH・物流領域での交流提携を強化し、併せて海外物流諸団体からの訪日団受入れ、視察団 の派遣等を中心に海外交流を強化し、我が国のMH物流産業のグローバル化の推進に寄与する。 新法人会員(2015.6.30現在) この度、新しく法人会員に加入されました ▋花王株式会社 ▋ブックオフオンライン株式会社 ▋株式会社 タクテック ▋リコーロジスティクス株式会社 Material Handling Journal No. 275 39 JMHS ニュース 平成27年度関西支部 会員総会の報告 さる6月15日(月)、ホテルグランヴィア大阪に於い きし、特別講演会を行った。続いて、関西支部会員総 て、関西支部会員総会を開催した。当日は木村支部長 会を開催し、平成26年度支部事業報告、平成27年度支 (カツヤマキカイ㈱代表取締役社長)による挨拶に続 部事業計画の件、関西支部役員選任の件について報告 き、「松源のネットスーパー事業紹介∼お買物にご不 した。その後会員交流懇親会を開催し、会員相互によ 便されているお客様へのサービス事業について∼」を る懇親を深めた。 テーマに、㈱松源 営業企画部課長の東根誠氏をお招 特別講演会 松源東根氏 懇親会の模様 中華民国物流協会/日本MH協会 事例発表会終了報告 当協会ではさる6月24日(水)、1995年来の友好団体 ジネスチャンスとして期待されている。 である中華民国物流協会(台湾)と協力し、現地の荷 当日は中華民国物流協会の会員企業を中心に、約130 主や物流事業者を対象に、日本の先進的かつ高品質な 名を超える参加者が集まり、日本側による下記5件の MH技術を紹介、発表各社によるビジネス拡大を目的 発表が行われた。また、発表会場の外にあるロビーに とする事例発表会を開催した。 5社の展示ブースを設置し、日本の発表者と台湾の参 2010 年 6 月に中国と台湾の間で経済協力枠組み協 定(ECFA)が締結されて、2011 年 9 月に台湾と日 加者との活発な情報交流が行われた。 参加者の内訳としては、運輸・3PL業が最も多く、 本との間で投資保護・促進・自由化に関する日台投資 続いて製造業、小売業 (スーパー、コンビニ等) 、ネッ 協定が結ばれたことにより、日本の企業がダイレクト ト通販業などのMHユーザー層が参加された。 に中国に進出してもまだ法的な保護はありませんが、 台湾を通して中国に進出すれば保護協定で守られると 今後も会員サービスの一環として海外展開を支援す る国際交流活動に注力していく予定。 いうことで、台湾、そして中国大陸に対する大きなビ 事例発表会 プログラム ①10:40∼11:20 テーマ:B to C市場(個人向け配送)における最新物流システム事例 講演者:台灣大福高科技設備股份有限公司(㈱ダイフク) 営業本部 副本部長 40 MH ジャーナル 平成27年 月 范 晉普 氏 JMHS ニュース ②11:25∼12:05 テーマ:日本における冷凍物流の最新動向と事例 講演者:株式会社 IHI 産業・ロジスティックスセクター 副セクター長 神山 賢一 氏 桂太朗 氏 ③13:20∼14:00 テーマ:物流不動産デベロッパーから見るMH及び冷蔵冷凍設備との関係 講演者:大和ハウス工業株式会社 東京本店 建築事業部 事業部長 竹林 ④14:05∼14:45 テーマ:通販、ネットスーパーにおけるピッキングシステムの事例紹介 講演者:株式会社イシダ 物流 Si・FA システム部 営業技一課長 奥谷 泰広 氏 テーマ:日本国内の個配事業の現状と、冷凍食品物流センターへの弊社の設備納入事例紹介 講演者:オークラ輸送機株式会社 技術本部 取締役副本部長 小野山 達夫 氏 ⑤15:00∼15:40 ⑥個別相談会 現地参加者・日本の発表者との名刺交換会 事例発表会の模様 個別相談会の模様 翌日、6月25日 (木)は、「全日物流股份有限公司」の観音DC(冷蔵・冷凍センター) を見学した。 同社は、1993年2月に設立。台湾全土に8カ所の冷蔵・冷凍専用のDCと、160台の冷蔵・冷凍車を保有する台湾 を代表する3PL事業者で、年間の送重量は約264, 000トンの規模を誇る。観音DCは、2012年12月に完成、二期工 事(自動倉庫:台塑重工股份製)は2014年5月に完成した同社最新鋭の拠点。セブンイレブン、モスバーガーをはじ め、コストコ、ケンタッキー・フライド・チキン、ドミノピザなどグローバルに活躍する荷主を顧客に持つ。 観音DC見学の模様 Material Handling Journal No. 275 41
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