38.リ ン パ 腫 北 ■リンパ腫を疑う臨床症状: 村 聖 C.身体所見 検査前の情報収集 表在リンパ節は,肘窩や膝窩まで,すべてについて 触知するかどうか診察する。悪性リンパ腫の場合,疼 A.主 訴 リンパ腫の初発症状で最も多いのはリンパ節腫脹で 痛がないことが多く,患者自身がリンパ節腫脹に気づ あり,逆にリンパ節腫脹を見たときには必ず悪性リン いていない部位もある。腫張を認めたリンパ節に関し パ腫を疑う。表1にリンパ節腫脹をきたす疾患の主な ては,大きさ,硬さ,弾性,圧痛の有無,可動性,他 ものを示す。原則としてこれらのものがすべて鑑別診 のリンパ節や皮膚との癒着の有無,皮膚の発赤の有無, 断の対象となる。腫脹したリンパ節に関しては,発現 熱感の有無などを記載する。 の順序,自発痛や熱感の有無など詳しく病歴を聴取する。 発熱,体重減少,盗汗はリンパ腫の B 症状であり, また,鑑別の主な対象である感染症や膠原病などの症 その他の身体所見として,発熱の有無,肝臓・脾臓 腫大の有無,貧血の有無,黄疸の有無などに特に注目 して診察する。 Performance Status(PS)も治療方針の決定,予後判定 状でもあるので詳しく病歴を聴取する。 に重要な情報である。 B.既往歴・家族歴など 本邦では成人 T 細胞白血病/リンパ腫があるため,出 身地,家族歴はこれを念頭に聴取する。また,抗痙攣 ■確定診断に要する検査(図1) 薬などの薬物の使用歴も聴取する。 A.手 順 リンパ腫の確定診断のためには,リンパ節生検が必 表1 分 類 感染症 (圧痛,軟) リンパ節腫脹をきたす主な疾患 部 位 局所性 主な疾患 急性化膿性リンパ節炎,皮膚病性リンパ節症,結核(無痛),梅毒(無 痛),非定型抗酸菌症,ネコひっかき病,ツツガムシ病 膠原病 全身性 全身性 悪性腫瘍 (無痛,硬) その他 局所性 全身性 全身性 伝染性単核球症,その他の全身性ウイルス性疾患 全身性エリテマトーテス(SLE),混合結合織病(MCTD) 若年性関節リウマチなど 悪性腫瘍の転移,悪性リンパ腫, 悪性リンパ腫,リンパ性白血病,原発性マクログロブリン血症 サルコイドーシス,川崎病,薬剤アレルギー リンパ腫疑い 病歴の聴取 身体所見:表在リンパ節腫張,扁桃, 鼻腔 肝脾腫 リンパ腫の 確定診断 リンパ節生検 リンパ腫の 病期診断 Ann Arbor 分類 International Prognostic Factor と Index リンパ腫の フォローアップ 病変の広がり 薬剤の副作用 図1 - 158 - リンパ腫診断の進め方 表2 参照 尿・血液検査 画像診断 シンチグラム, CT,MRI など 表2 参照 尿・血液検査 -38.リ ン パ 腫- 須である。リンパ節生検の前に一般的な血液・尿検査 併や悪性細網症を疑う。貧血を単独で認める場合は消 を行い,鑑別診断を試みる。リンパ腫を強く疑った場 化管リンパ腫からの消化管出血や自己免疫性溶血性貧 合,リンパ腫を否定できない場合は生検をするが,感 血などを考える。マントル細胞リンパ腫や濾胞性リン 染症や膠原病を強く疑った場合は生検をせずに治療を パ腫では末梢血に腫瘍細胞を認めることも多い。ホジ 優先することもある。 キン病では反応性の好酸球増多や単球増多を示すこと リンパ腫の鑑別診断のためだけでなく,リンパ腫の 病期診断のために超音波検査,放射線同位元素による がある。 血液生化学検査ではリンパ腫の肝侵襲を推定できる。 シンチグラムや CT,MRI などの画像診断を駆使して, Glisson 鞘に生じるため,胆道系酵素とくに ALP が特 表在リンパ節以外の病変の有無・広がりを検索する。 異性が高いとされている。LDは腫瘍細胞量やその増殖 これに関しては生検と順番は相前後することがある。 速度と関連し,予後因子のひとつである。可溶性 IL-2 B.一般的な検査 受容体α 鎖(sIL-2R)が一部のリンパ腫の病勢の指標とさ リンパ腫を疑う際の尿,血液検査項目を表2に示す。 れる。 リンパ腫では,一般に尿検査に異常が出現すること 骨髄検査はリンパ腫の骨髄浸潤を見るため必須の検 は少ない。全身性リンパ節腫脹とタンパク尿がある場 査である。骨髄穿刺と骨髄生検を併用することが多く, 合はむしろ膠原病を優先的に検索すべきであろう。 部位は腸骨が多い。塗抹標本だけでなく,クロット標 血液検査では,汎血球減少を認める場合は骨髄侵襲 本による病理診断も重要である。 が疑われる。程度が強い場合は,血球貪食症候群の合 表2 リンパ腫を疑う際の尿および血液検査 1.尿検査*1: 色調,混濁,pH,比重,蛋白,糖,ウロビリノゲン,潜血,亜硝酸塩,試験紙による 白血球反応,沈渣 2.血液検査: 1)*1CRP 2)*1WBC,Hb,Ht,RBC,赤血球恒数,血小板数,末梢血液像 3)*1血清総蛋白濃度,血清蛋白分画,総コレステロール,中性脂肪,AST,ALT,LD,ALP, γ GT,UN,クレアチニン,尿酸 4)*2血清カルシウム 5)*2免疫電気泳動,免疫グロブリン定量,血清β 2ミクログロブリン(必須ではない) 6)sIL-2R,HTLV-1抗体,EBウイルスに対する抗体,ACE(必須ではない) *1日常初期診療における臨床検査の使い方 基本的検査(案)のうち,基本的検査(2)に含まれる。 *2同-臓器系統別検査-血液・造血器疾患(案)のうち,悪性リンパ腫第 2 次検査に含まれる。 C.画像診断 診断方法 Gaシンチグラム 57 胸部 X 線撮影,胸部 CT 腹部超音波検査・腹部 CT 頭部 CT,MRI 検査 消化管内視鏡検査 診断部位 リンパ腫の全身の広がりを見る 肺門・縦隔を中心にリンパ腫の広が りを見る 傍大動脈リンパ節,肝臓,脾臓を中 心に,リンパ腫の広がりを見る 鼻・副鼻腔と頭蓋内のリンパ腫の広 がりを見る 胃,腸へのリンパ腫の広がりを見る D.リンパ節生検 リンパ腫の確定診断には必須の検査であるが,侵襲 的検査であり適応を充分に考慮してから実施する。 生検部位は,原則,原発巣と思われる部位,最も腫 注意事項 炎症や便の影響もあり,他の 画像診断を併用する Waldeyer原発のリンパ腫で は必須の検査である 鎖骨上窩が薦められる。鼠径部は感染などのため病変 が修飾されていることが多く,腋窩の深部は術後合併 症が多い。 摘出したリンパ節は一般的病理標本以外に,免疫組 瘤が大きい部位である。全身性リンパ節腫脹では頸部, 織化学染色,細胞浮遊液として細胞表面マーカー検査, - 159 - -診療群別臨床検査のガイドライン 2003- 染色体検査,遺伝子解析,電子顕微鏡標本,細胞培養 International Prognostic Factor and Index(表3)が用いら などに供する(図2)。このうち免疫組織化学染色,表 れる。 面マーカー検査までは必須で,最低限 T 細胞,B 細胞, NK 細胞の何れであるかの情報は必要と考えられる。 リンパ腫の治療は,病期 1 期と 2 期の一部を除き, 多剤併用化学療法が行われる。治療中の検査の目的は 治療効果の判定と,骨髄抑制・肝機能障害・腎機能障 ■フォローアップに最低限必要な検査 害などの副作用のチェックである。原則として表2の 検査項目(2-5),2-6)を除く)を入院の場合は 1 週間に 治療開始までには,原則,病理診断ならびに病理分 類,病期診断,予後予測因子の情報が揃っているべき 一度,外来の場合は 2~4 週間に一度行う。もちろん, である。 主訴・身体所見などにより検査項目・頻度は変化する。 ホジキン病,非ホジキンリンパ腫ともに,病理分類 寛解期の検査の目安は,表2の検査項目(2-5),2-6) はREAL分類が用いられることが多く,病期分類はAnn を除く)を1~2ヵ月に一度行う。 Arbor分類が用いられる。また,予後予測因子として, 摘出後15分以内に固定 最大 割面 病理診断 *10%ホルマリン,緩衝ホルマリン OCTcompound に入れて 新鮮凍結 モノクローナル抗体による 免疫染色 PLP 固定(固定時間は 4 時間以内) 一部で捺印標本の作成 マーカー検査 染色体検査 培養株樹立 ウイルス分離・同定 細胞浮遊液 凍結保存 図2 表3 Prognostic factor Prognostic index - 160 - 免疫染色 DNA 解析 -80℃で保存 DNA 解析 マーカー検査 など 生検リンパ節の処理とその利用 International Prognostic Factor and Index 1.年齢(>60歳) 2.血清LD(>1×正常値) 3.Performance status(PS) (2~4) 4.Stage III or IV 5.節外病変の数(≧2個) 1~5の項目のいくつ当てはまるかを 検討して,右のグループに分類する (全患者) Low risk Low intermediate risk High intermediate risk High risk 0~1 2 3 4~5 60歳以下では1と5を除き,2~4の項 目で判定する (age-adjusted International Index) Low risk Low intermediate risk High intermediate risk High risk 0 1 2 3 -38.リ ン パ 腫- 参考文献 1) 白川 日本臨床病理学会, 1992 4) The Interferon Non-Hodgkin’s Lymphoma Prognostic 茂, 他 : 非ホジキンリンパ腫. 最新内科学体 Factor Project : A predictive model for aggressive non- 系20- リンパ系疾患, 東京 : 中山書店, 1992. p133~ Hodgkin’s lymphoma. N Engl J Med 329 : 287~994, 157 1993 2) 千葉 滋 : 悪性リンパ腫-診断手順と病期診断. カ レントテラピー 16(12): 2192~2199, 1998 3) 日本臨床病理学会[日常初期診療における臨床検査の 使い方]小委員会編 : 日常初期診療における臨床検査 の使い方-臓器系統別検査-血液・造血器疾患(案). 5) Harris NL, et al : A revised European-American classification of lymphoid neoplasms ; a proposal from the international lymphoma study group. Blood 84 : 1361 ~1392, 1994 (平成 15 年 9 月脱稿) - 161 -
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