わかりやすい悪性腫瘍の話 大腸がん 2015.3.18 大腸の役割と構造 大腸は食物が消化吸収された残りの腸内容物をため、水分を吸収して大便にする器官で す。大腸菌や乳酸菌などの 100 種類以上の腸内細菌が存在しており、食物繊維の分解や 感染予防の働きなどをしています。 大腸は盲腸から始まります。盲腸から上(頭側)に向かう部分が上行結腸、次いで横に 向かう部分を横行結腸、下に向かう部分が下行結腸、S 字状に曲がっている部分が S 状 結腸、約 15cm の真っすぐな部分が直腸で、最後の肛門括約筋(かつやくきん)のあると ころが肛門管です。 大腸の厚さは大腸では 3mm までが正常で 3-4mm までを境界域、4mm 以上を病的壁肥 厚としていますが、内腔側から粘膜層、粘膜筋板、粘膜下層、筋層、漿膜の五層構造と なっています。 大腸 info HP より 大腸がんとは 大腸がんは、長さ約 2 m の大腸(結腸・直腸・肛門)に発生するがんで、日本人では S 状結腸と直腸ががんのできやすいところです。 大腸がんは、大腸粘膜の細胞から発生し、腺腫という良性腫瘍の一部ががん化して発生 したものと正常粘膜から直接発生するものがあり、その進行はゆっくりです。 大腸がんは、粘膜の表面から発生し、大腸の壁に次第に深く侵入していき、進行するに つれてリンパ節や肝臓や肺など別の臓器に転移します。 大腸がんの症状は、大腸のどこにどの程度のがんができるかによって異なりますが、血 便、下血、下痢と便秘の繰り返し、便が細い、便が残る感じ、おなかが張る、腹痛、貧 血、原因不明の体重減少などが多い症状です。中でも血便の頻度が高いのですが、痔な ど良性疾患でも同じような症状がありますので、早めに消化器科、胃腸科、肛門科など 1 わかりやすい悪性腫瘍の話 大腸がん 2015.3.18 を受診することが早期発見につながります。 大腸がんの発見には、便に血液が混じっているかどうかを検査する便潜血検査の有効性 が確立しており、症状が出る前に検診などで早期発見が可能です。早期に発見できれば 完全に治る可能性が高くなります。ただし、がんが大腸壁に平坦に発生していたり、凹 むように発生している場合、または発生部位によっては出血が起きにくく発見が遅れる こともあります。少々大変ですが、大腸がんのリスクがいくつもあり特に心配な方は、 最初から大腸内視鏡検査や、苦痛がなく全身のがんの検査が一度にできる PET/CT 検査 を受けるのがよいでしょう。 大腸がんの統計と罹患に関する因子 大腸がんにかかる方は、40 歳代から増加し始め、高齢になるほど高くなります。大腸が んの罹患数を年を追ってみると、増加傾向で、*男性では、3 番目、女性は 2 番目に罹患 数が多いがんとなっています。男性では 12 人に 1 人、女性では、15 人に 1 人となって います。*がんの統計 2010 のデータより 罹患数 国立がん情報センター 大腸がんで亡くなる方は、年々増えており、女性ではがんが原因で亡くなる方のうち一 番多いがんとなっています。男性では、3 番目です。男女とも死亡率は罹患率の約半分で あり、大腸がんの生存率が比較的高いことと関連しているといえます。 死亡数 国立がん情報センター 2 わかりやすい悪性腫瘍の話 大腸がん 2015.3.18 大腸がんの発生には、遺伝的因子よりも環境的因子の比重が大きいとされていて、食生 活の欧米化、特に動物性脂肪やたんぱく質の取り過ぎが原因と指摘されています。 大腸がんの罹患に関する因子 危険因子 予防因子 高脂肪、肉(赤身・加工肉)砂糖、卵 環境要因 人間側 要因 野菜、果物魚 タンパク質過多 魚、海産物 アスベスト従事者 カルシウム、ビタミン D 大腸がん家族歴、高身長 運動 未産婦 多産婦 潰瘍性大腸炎、胆のう摘出経験あり 経口避妊薬使用経験あり 喫煙 病因 食物繊維 非ステロイド系消炎鎮痛剤 飲酒(ビール) がん対策情報センターホームページ&「がんの教科書」中川恵一 大腸がんの検査と診断 大腸がんが疑われると、がんのある部位や広がりを調べるために、直腸指診や注腸造影検 査、内視鏡検査、CT や MRI 検査、腹部超音波(エコー)検査などを行います。 1.直腸指診 指を肛門から直腸内に入れて、しこりや異常の有無を指の感触で調べます。 2.注腸造影検査 検査の前日に検査食を食べて腸内をきれいにしてから、肛門からバリウムと空気を注入 し、X線写真を撮ります。この検査でがんの正確な位置や大きさ、腸の狭さの程度など がわかります。 3.大腸内視鏡検査 腸内をきれいにしてから、先端にライトとカメラレ ンズ(ビデオスコープ)のついた内視鏡を肛門から 挿入して、直腸から盲腸までの全大腸を詳細に調べ ます。ポリープなどの異常(病変)がみられた場合 は一部組織を採取して(生検)悪性か良性かを鑑別 したり(病理検査) 、内視鏡で根治可能な早期がんと 手術が必要な病変との判別も行います。 4.腫瘍マーカー 腫瘍マーカーとは、体のどこかにがんが潜んでいると異常値を示す血液検査の項目のこ とで、がんの種類に応じて多くの種類があります。転移・再発の評価指標として、また 3 わかりやすい悪性腫瘍の話 大腸がん 2015.3.18 治療の効果判定などのためにも用いられています。大腸がんでは CEA と CA19−9 と呼ば れるマーカーが一般的です。しかしこれらの腫瘍マーカーで大腸がんを早期に発見する ことはできず、進行大腸がんでも異常値が認められない場合もあります。腫瘍マーカー は定期的に測定して判断することが必要です。 5.超音波検査 大腸がんと周囲の臓器の位置関係、がんの転移の有無を調べます。 6.CT、MRI 治療前に転移や周辺の臓器へのがんの広がりを調べるために行う検査です。CT はX線を、 MRI は磁気を使って体の内部を描き出します。CT で造影剤を使用する場合、アレルギー を起こすことがありますので、ヨードアレルギーを起こした経験のある人は医師に伝え てください。 7.PET 検査 放射性ブドウ糖液を注射し、その取り込みの分布を撮影することで全身のがん細胞を検 出するのが PET です。超音波検査、CT、MRI や病理検査で診断が難しい場合、腫瘍マ ーカーなどの異常から転移や再発が疑われる場合などには、PET で検査することもあり ます。 <症状の無いうちに早期発見を> 大腸がんは、早期の場合にはほとんど自覚症状がありません。早期に発見するには、定 期的に大腸がんを検診を受けることが大切です。 大腸がんは 40 歳代から増え始めるので、 40 歳になったら毎年検診を受けるようにしましょう。 大腸がんの病期 病期とは、がんの進行の程度を示す言葉で、英語をそのまま用いてステージともいいます。 説明などでは、 「ステージ」という言葉が使われることが多いかもしれません。大腸がんで は、0 期、I 期、II 期、III 期、IV 期に分類されています。 病期はがんの大きさではなく、大腸の壁の内にがんがどの程度深く入りこんでいるか(深 達度) 、周囲組織への広がり浸潤程度、およびリンパ節への転移や肝臓・肺などの遠隔臓器 への転移の有無によって決まります。病期によって治療方法が決まっています。 4 SG ホールディンググループ健康保健組合の HP より わかりやすい悪性腫瘍の話 大腸がん 2015.3.18 大腸がんの治療 1.内視鏡的治療 内視鏡治療とは、内視鏡を使って、大腸の内側から がんを切除する方法です。大腸の粘膜には知覚神 経がありませんので、通常は、痛みを感じること はありません。病変の状態により内視鏡的ポリペ クトミー、内視鏡的粘膜切除術(EMR)と内視鏡 的粘膜下層剥離はくり術(ESD)が行われます。 内視鏡的ポリペクトミーは、内視鏡を通してスネア と呼ばれるループ状の細いワイヤ(針金)の輪をポ EMR 国立がんセンターホームペ リープの茎に引っかけて締め、高周波電流で病変を ージ 含む粘膜を焼ききります。内視鏡的粘膜切除術(EMR)は、病変の下層部に生理食塩水 などを注入して病変を浮き上がらせてから、スネアで病変を含む粘膜を焼ききります。 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は、病変の下層部にヒアルロン酸ナトリウムなどの薬 剤を注入しながら、病変を電気メスで徐々に剥ぎ取る方法で、大きな病変も一括して切 除できます。ただし、従来の内視鏡的粘膜切除術に比較すると高度な手技が必要であり 切除にも時間がかかります。どの方法であっても保険を使って治療できます。 2.手術 大腸がんの治療は、手術による切除が基本であり、早期でも手術が必要な場合がありま す。がんのある腸管とリンパ節を切除します。がんが周囲の臓器に及んでいる場合には、 それらの臓器も一緒に切除します。がんの位置に応じて切除範囲、合併症や危険性も異 なります。 病状や手術の方法によっては人工肛門の造設を必要とする場合があります。 直腸がんの場合は、直腸が骨盤内の深く狭いところにあり、そのすぐ周囲には神経や筋 肉があるため、切除する範囲によってはがんと一緒に神経や筋肉を切除します。 そのため、排便、排尿、性機能に障害が起きることがあります。 進行度によっては、神経や筋肉を残す方 法(自律神経温存術、肛門括約筋温存術) が可能な場合もあります。 最近では、おなかに小さな孔をつくり 炭酸ガスを入れ て腹腔内をふく らませます そこから小型カメラと切除器具のつい た腹腔鏡を入れ、画像を見ながらがん を摘出する腹腔鏡手術という方法もあ ります。 5 BRAVE CIRCLE HP より わかりやすい悪性腫瘍の話 大腸がん 2015.3.18 放射線治療 放射線治療は、高エネルギーの X 線を体の外から照射してがんを小さくする効果があり ます。直腸がんでは、手術前後の補助治療として、 「骨盤内からの再発の抑制」、 「手術前 のがんのサイズの縮小」や「肛門を温存すること」などを目的として放射線治療を行う 場合があります。 また、切除が難しい骨盤内のがんによる痛みや出血などの症状緩和、骨転移による痛み や脳転移による神経症状などを改善するためにも一般的に行います。 3.化学療法 大腸がんの化学療法は、主に「手術後のがん再発を予防するための補助治療として」と、 「根 治目的の 手術が困難な 進行がん または再発が んに対し て延命および 生活の 質 (QOL:クオリティ・オブ・ライフ)の向上」を目的に行います。最近は、大腸がんに 有効な抗がん剤がいくつか開発されており、患者さんの症状に合わせて数種類の薬剤を 組み合わせて使用したり、単独で使用したりします。副作用対策が進歩したことから、 外来通院で日常生活を送りながら抗がん剤治療を受ける患者さんも多くなりました。 分子標的治療は、体内の特定の分子だけを狙い撃ちにしてその働きを抑える「分子標的 薬」という薬を用いて治療します。ほかの抗がん剤と併用されることで効果を高めるこ とが期待されています。2000 年代になって登場した分子標的治療薬を従来の抗がん剤と 組み合わせて使用することで、手術が可能なほどがんが小さくなったり、生存期間が大 幅に延長する等の効果が出ていますので、今後の化学療法の動向には注目している必要 があるでしょう。 大腸がんの術後化学療法は、主にステージⅢから行われています。リンパ節転移の数 が 3 個以下のⅢa と、4 個以上のⅢb では、その再発率の違いから、違う化学療法が行わ れます。治療期間はいずれも 6 ヶ月間が目標です。 参考文献:NHK テレビテキスト『今日の健康』 、国立がんセンターがん情報サービス 『大腸がん』 、 『がんの教科書』中川恵一著 平成 25 年 3 月 19 日 ㈱長野メディカルサポート 6
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