自分で守ろう 自分の健康

健康教室
ひろの内科クリニック
No.34 2010/4/24
自分で守ろう! 自分の健康
我が国は世界一の長寿国です。また現在の高齢者は昔に比べて元気な方が多いように
感じます。しかしこの傾向はいつまで続くのでしょうか。この2-30年で急速に食事の
欧米化が進み、ストレスも増大し、環境ホルモンの害にも知らず知らずのうちに遭っ
ているかもしれません。人は常に健康でありたいと願います。そのため現在では健康
食品やサプリメントがもてはやされ、様々な健康法が紹介されては消えていきます。
このような健康食品などに確実な効果は期待できません。今回は死因の第一位である
「がん」の予防につきまとめました。がんにならないための健康法は生活習慣病にな
らないための健康法でもあるのです。
主な出典は「国立がん研究センターがん対策情報センター」ホームページです。
悪性新生物「がん」が死因の第1位
我が国における平成18年の死亡者数は
図1
1084450人でそのうち30.4%(約33万人)がが
んで死亡しており、およそ三人に一人ががん
で死亡したことになります。(図1)
がんを予防することや、早期に診断して適切
な治療を受けることが健康であるためにもっ
とも重要です。それでは死亡原因の1位であ
るがんにはどのようなものがあるのでしょう
か。図2に示すように、男性では肺癌を筆頭
に、胃・食道、肝臓、大腸、膵臓、前立腺の
がんが多く、これらががんによる死亡の80%を
占めています。一方、女性は、大腸、胃、肺、 図2 部位別がん死亡数
乳房、肝臓、膵臓の順になっています。当然
これらのがんに注意することが、大事になっ
てきます。図でわかるように男性は女性の約2
倍がんになりやすいのです。
健康でいること=病気の予防
予防には病気の発生を未然に防ぐ一次予防
と、病気を早期に発見し治療する二次予防が
あります。(表1)
表1 予防医学
198052人
1
101334人
がんの一次予防
表2.生活習慣とがん
1996年、ハーバード大学ガン予防センター
は、アメリカ人のがん死亡の原因に喫煙
(30%)、食事(30%)、運動不足
(5%)、飲酒(3%)があげられると発表
しました。これらの合計は全体の68%にな
ります。このことは生活習慣を見直すこと
によって、多くのがんが予防できる可能性
表3.
を示しています。(表2)
この項では国立がん研究センターの「がん
情報サービス」から、現状の日本において
推奨できる科学的根拠にもとづいたがんの
一次予防についてまとめました。一言で言
うと、これさえ守れば絶対にがんにならな
いという方法はありません。また、一部の
情報に惑わされ、高額な食品を買う必要も
ありません。まずがんのリスクをあげるも
のについて述べます。表3に示すように確
実に発癌のリスクを上げるものとして喫煙
表4.
があり、これは肺がんのみならず多くのが
んを引き起こす原因となります。また、喫
煙者のみならずその周辺にいる人も受動喫
煙により肺癌のリスクが確実に高くなりま
す。肥満も食道がん、大腸がん、乳癌(閉
経後)などを引き起こし、内臓脂肪の貯留
は大腸癌の原因になります。飲酒は口腔・
咽頭がんや食道がん、大腸がん(男性)な
どの原因になります。牛肉や豚肉、羊肉な
どの赤肉やソーセージなどの加工肉は大腸
表5
癌の原因です。なお赤字で示してあるがん
は死亡原因で上位を占めるがんです。その
他にも保存状態の悪いとうもろこしやナッ
ツなどに混入するアフラトキシンというカ
ビ毒も肝臓がんの原因になりますが、我が
国ではその関与はないものと思われます。
次に、発癌のリスクを上げる可能性が大き
いものとして肥満(胆嚢がん)、内臓脂肪
表6
蓄積(膵臓がん、閉経後乳癌、子宮体が
ん)、熱い飲食物(口腔・咽頭がん、食道
がん)があげられます。
逆に発がんのリスクを確実に下げるものと
して、運動(結腸がん:直腸を除いた大腸
がん)、授乳(乳がん)があり、発がんの
リスクを下げる可能性が大きいものとして、
野菜・果物の十分な摂取(食道・胃がん、
大腸がん)、活発な身体活動(閉経後の乳がん)があげられます。またほかにもニン
ニク・食物繊維(大腸がん)、βカロチン・ビタミンC(食道がん)、リコピン(前
立腺がん)などがリスクを下げる可能性が大きいとされます。リスクを上げる可能性
のあるものや、下げる可能性のあるものについてはその根拠が明らかでないので省略
します。
2
日本人のためのがん予防法
表7 日本人のためのがん予防法
前項に示した発がんのリスクに関わる要
因を考えて、日本人に適したがん予防法
をまとめたものが表7です。
喫煙についてですが、喫煙ががんや循環
器疾患、呼吸器疾患などのリスクを上げ
る事はよく知られています。まずたばこ
は吸わないことです。また、受動喫煙も
肺癌の原因になるので他人のたばこの煙
をできるだけ避ける必要があります。喫
煙者は禁煙をしましょう。吸っている本
人だけでなく、周囲にも健康被害をもた
らすので注意が必要です。
喫煙はニコチン中毒であり、禁煙外来を受診して保険医療を受けることができます。飲
酒は大腸がんなどのリスクを上げる一方で、古くから「酒は百薬の長」と言われるよう
に、適量ならば心筋梗塞や脳梗塞のリスクを下げる効果があります。従って、節度ある
飲酒が大切です。1日あたり約23g 程度のアルコール(日本酒1合、ビール大ビン1本、
焼酎2/3合、ワインならボトル1/3本程度)にとどめましょう。
食事についてはバランスのよい食事を心がけましょう。塩漬けや食塩の摂取は最小限
(男性10g/日、女性8g/日)にしましょう。野菜・果物を1日400gはとりましょう。ハ
ム・ソーセージ・ベーコンなどの加工肉や、牛・豚・羊肉などの赤肉は大腸癌のリスク
を上げるので控え目にして、熱い飲食物は食道がんを引き起こすことがあるのでとらな
いようにしましょう。身体活動については、日常生活を活動的に過ごすことに努める必
要があります。あまり体を使わない仕事をしている人なら、毎日1時間程度の歩行(適
度の運動)に加えて週1回は、より強い運動(1時間程度の早歩きは30分程度のジョギン
グなど)をしましょう。
肥満とがんとの関係は日本人においてはそれほど強い関連がありません。太りすぎやや
せすぎにならないように注意しましょう。
感染症とがん
また、部位別がん死亡の上位を占める肝がんの原因のほとんどはB型あるいはC型肝炎
ウィルスによって引き起こされます。一生に一度は肝炎ウイルスの検診を受けましょう。
平成22年4月からは20歳以上で過去に肝炎ウイルスの検査を受けていない人は誰でも地
域の保健所或いは医療機関で肝炎ウイルス検査が無料で受けられます。(宮崎市におい
ては平成22年度は市保健所で検査が受けられます。それ以外の地域ではもよりの医療機
関で受けられます。)もし陽性であればさらに詳しい検査が必要なので肝臓の専門医を
受診しましょう。(表7 表8)
表8 感染症とがん
その他にもがんとの関連が明らかになっ
ているウィルスや細菌にパピローマウィ
ルスと子宮頸がん、ヘリコバクター・ピ
ロリ菌と胃癌があります。ヒトT細胞性
白血病リンパ腫ウィルス(HTLV-1)は成
人病T細胞性白血病や悪性リンパ腫の原
因となります。これらの感染予防につい
ては後述します。
3
予防接種・除菌によるがんの一次予防
表9 がん予防のためのワクチン
B型肝炎ウィルスは血液を介して感染します
が、通常成人で感染した場合は、一過性の感
染でおわり持続感染することはありません。
一方、母子感染などで新生児期に感染すると
持続感染となって慢性肝炎発症し肝癌に進展
する可能性があります。母子感染はB型肝炎
ワクチン接種とウイルスに対する抗体(抗
HBs人免疫グロブリン)投与により予防で
きます。(保険給付あり)
また、子宮頸がんは年間約15000人が発症し、
およそ3500人が死亡します。性交によるヒトパピローマウィルス(HPV)の持続感染が原
因で、多くは、感染してもウィルスは自然に排除されます。HPVワクチンは10歳以上の
女性が対象ですが、現在のところ任意接種(全額自費で負担する)になっています。ワ
クチンによる免疫持続期間は明らかではありません。
また、ヘリコバクター・ピロリ菌感染は慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の原因となり、
胃がんとの関連を示す研究が多くみられます。ピロリ菌感染による萎縮性胃炎は胃がん
のハイリスクです。胃酸を強く抑える薬剤(PPI)と抗生剤を組み合わせたピロリ菌の除
菌療法が確立されて、除菌成功率は80%以上です。除菌による胃癌の予防効果について
は現在検討中です。
がんの二次予防(早期発見・早期治療)
がんの早期発見・早期治療にはがん検診を受診することがもっとも重要です。我が国に
おけるがん検診には市町村などの住民検診に代表される「対策型検診と」人間ドックな
どの「任意型検診」があります。前者が集団を対象としているのに対して後者は個人の
健康を対象としている点が異なります。従って対策型検診では対象集団(住民)全体の
死亡率を下げる目的で、コストパフォーマンスや最大公約数的な考えのもとに行われま
す。
我が国では表10のように5つのがん検診が有効なものとして対策型検診として行われて
います。前立腺癌検診(PSA検査)はその有効性(死亡率減少効果)を判断する十分な
証拠がないため任意型検診として行われています。
我が国における乳がん検診、子宮頸がん検診は米国や英国に比べて著しく受診率が低く、
その他のがん検診の受診率も20%前後にとどまっています。(図3) 今後は受診率の向
上に向けてより積極的な取り組みが必要です。
表10 我が国の対策型検診
図3 がん検診受診率の国際比較
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