顎顔面補綴専門用語(アイウエオ順)解説 1. アローポイント;Arrow point:ゴシックアーチの頂点.中心咬合位、習慣性平行位の 咬合点(タッピング・ポイント) 2. 安静位;アンセイイ;Rest position:呼吸や精神状態を安静にし,直立または正しい姿 勢で腰かけて前方を直視したときにみられる頭蓋に対する下顎の位置関係. 3. ウィルソンの彎曲;-わんきょく;Curve of Wilson:前頭面に現れる下顎および上顎 の咬合彎曲.側方咬合彎曲 mediolateral curve とも呼ばれる. 4. 運動障害;ウンドウショウガイ;dyskinesia:中枢性あるいは非中枢性のさまざまな原 因で生ずる身体運動機能の異常.起因疾患は小児では脳性麻痺がもっとも多く,成人では 脳卒中,外傷,慢性リウマチなどが多い.早期発見・早期治療が重要で,専門の医師・療 法士による機能訓練・リハビリテーションが必要である.歯科領域では,舌・顔面・頬ジ スキネシー(lingual-facial-buccal dyskinesia:持続性の顔面筋や舌の不随意運動)が対象 となる. 5. エビテーゼ;facial prosthesis:腫瘍,外傷,炎症,先天奇形などが原因で生じた顔表 面を含む実質欠損を非観血的に,あるいは手術との併用により人工物で補填修復し,その 形態的審美的改善とともに,咀嚼・嚥下・発語などの機能障害・能力障害の回復をはかる 補綴装置. 6. MPD 症候群;・エムピーデーショウコウグン;myo-facial pain dysfunction syndrome: 咀嚼筋の機能異常により引き起こされる,顎関節,咀嚼筋および関連組織の疼痛や機能障 害を主症状とする症候群.顎関節症の 1 つの病態. 7. 嚥下障害;エンゲショウガイ;dysphagia:口腔から咽頭,食道を経て胃の噴門に達す る嚥下運動機能の障害.障害には口腔,咽頭,喉頭,食道における器質的障害によるもの と,嚥下にかかわる末梢神経(舌咽神経,迷走神経,三叉神経,顔面神経,上咽頭神経) および中枢神経(延髄,網様体,大脳皮質)の障害によるものとがある. 8. 嚥下補助装置;エンゲホジョソウチ;prosthetic appliance for swallowing disorder: 先天的あるいは後天的な形態や機能の異常による嚥下障害「口腔期,咽頭期,食道期の動 作障害)に対して,リハビリ目的で使用する補助装置.口蓋裂による鼻咽腔閉鎖不全に対 する Hotz 床,PLP,スピーチエイドなどの補綴装置,上顎切除などによる実質欠損に対す る義顎や顎義歯,舌切除や脳卒中による舌の運動障害に対する舌接触補助床などがある. 9. オクルーザルスプリント;occlusal splint:暫間的に歯列の咬合面を被覆し,咬合の改 善や診断に用いられる可撒性の口腔内装置.スタビライゼーションスプリント (stabilization splint) ,リラクセーションスプリント(relaxation splint),リポジショニ ングスプリント(repositioning splint)などがある. 10. オクルーザルテーブル;occlusal table:咬合高径を保持するため,顎義歯あるいは義 顎の咬合面に付与した平坦な面. 11. オクルーザルランプ;occlusal lump:咬頭嵌合位を保持するため,顎義歯あるいは義 顎の咬合面に付与した隆起部. 類義語:咬合斜面板 12. guidance ramp 音声言語障害;オンセイゲンゴショウガイ;speech disorders:構音,声,流暢性, 言語のいずれか,あるいはそれらの複数の要素が傷害されて,耳に聞こえる言葉での情報 の授受が障害されている状態.種類として,欧米では,言語発達遅滞 development language disorders,構音障害 disorder of articulation(器質的構音障害,運動障害性構 音障害 motor speech disorder),発声障害 voice disorder,口蓋裂音声言語 cleft palate speech,失語症 aphasia,脳性麻痔言語 cerebral palsy,dysarthria としている. 13. 開口障害;カイコウショウガイ;disturbance of mouth opening:顎口腔系組織・器 官が一過性あるいは持続的に障害を受け,開口運動に制限が生じた病態. 一般的に最大開口量の測定によって診断されるが,顎関節の障害によるものと,筋などの 軟組織の異常によるものとがある. 14. 外鼻エビテーゼ;ガイビエビテーゼ;external nose prosthesis‥外鼻欠損に対する顔 面補綴装置. 15.過蓋咬合;カガイコウゴウ;deep bite:咬頭嵌合位における上顎前歯が,下顎前歯唇 面の 1/4~1/3 以上を被蓋する咬合状態.上下顎歯列弓の垂直的咬合関係の異常の 1 つ. 16. 下顎限界運動[路] ;カガクゲンカイウンドウ[ロ] ;mandibular border movement [path] :骨,顎関節,歯,筋肉,靭帯などにより規制された三次元的な下顎の限界での運 動(路) .切歯点の限界運動路を表示したポッセルトの図形が有名である.また,ある定め られた垂直的下顎位における水平面では,前方・後方・側方の下顎限界運動路が措記され る. 特に,後方・側方下顎限界運動路を措記したものはゴシックアーチと呼ばれる. 17. 下顎枝矢状分割法(術);カガクシシジョウブンカツホウ;sagittal splitting ramus osteotomy「SSRO」 :1」下顎枝矢状分割咬合改善術や下顎枝矢状分割骨切り術の用語は用 いず,下顎枝矢状分割法(術)に統一する.必要な場合は近位骨片の切断部位を明示する. 2)原則として,Obwegeser 法(原法,変法) .Obwegese-Dal Pont 法など個人名を用いた 名称は用いないが,特に記載の必要がある場合は,下顎枝矢状分割法「術」の跡に,例え ば(Obwegeser 原法に準ず)の様に()内に用いる 3). 18. 下顎枝垂直骨切り術;カガクシスイチョクホネキリジュツ; (intraoral vertical ramus osteotomy(IVRO):口腔内から切開を加え,下顎切痕から下方へ,下顎枝を垂直に離断 する骨切り術. 19. 顎間固定;ガクカンコテイ;intermaxillary fixation:顎骨骨折あるいは骨切り術後 に,上下顎間を結紫し固定すること.顎間固定について 1)顎間固定と顎間ゴム牽引は区別 すること.ゴムを用いても,開口不能あるいは強度の制限は顎間固定であり顎間ゴム牽引 は,誘導的な意味をもつものとする.2)顎間骨固定法は区別して明記する. 20. 顎関節雑音;ガクカンセツザツオン;temporomandibular joint noise:下顎運動に伴 って顎関節部に生ずる異常音.顎関節症の主症状の 1 つで,初発症状として高頻度に出現 する.その音質はクリッキング(弾撥音)とクレピテーション(捻髪音,摩擦音)とに大 別される. 21. 顎関節症;ガクカンセツショウ;temporomandibular disorders:顎関節や咀嚼筋の 疼痛,顎関節雑音,開口障害ないし下顎運動異常を主症状とする慢性疾患群の総括的診断 名.その病態には咀嚼筋障害,関節包・勒帯障害,関節円板障害,変形性関節症などが含 まれる. 22. 顎関節内障;ガクカンセツナイショウ;internal derangement of temporomandibular joint:顎関節症の痛態の 1 つ.関節円板の位置や形態異常によって引き起こされる顎関節 の械能障害. 23. 顎顔面補綴;ガクガンメンホテツ;maxillofacial prosthetics:腫瘍,外傷,炎症,先 天奇形などが原因で,顔面または顎骨とその周囲組織に生じた欠損部を非観血的に,ある いは観血的処置(手術)との併用により人工物で補填修復し,損なわれた機能・形態の回 復・改善をはかることをいう. 24. 顎顔面補綴学;ガクガンメンホテツガク;maxillofacial prosthetics:腫瘍,外傷,炎 症,先天奇形などが原因で,顔面または顎骨とその周囲組織に生じた欠損部を非観血的に, あるいは観血的処置(手術)との併用により人工物で補填修復し,損なわれた機能・形態 の回復・改善をはかる専門技術に関する学問体系. 25. 顎顔面補綴装置;ガクガンメンホテツソウチ;maxillofacial prosthetic appliance: 腫瘍,外傷,炎症,先天奇形などが原因で,顔面または顎骨とその周囲組織に生じた欠損 部を非観血的に,あるいは観血的処置(手術)との併用により人工物で補填修復し,損な われた機能・形態の回復・改善をはかる装置. 26. 顎義歯;ガクギシ;dento-maxillary prosthesis:腫瘍,炎症,外傷,先天奇形などに よる顎骨または口腔軟組織の欠損に適用され,欠損部の補填,閉塞を図るとともに,人工 歯を備え,義歯に準ずる形態・機能を有する補綴装置.なお,栓塞部を有することを条件 としない.即ち,欠損部に必ずしも開口部が存在しなくともよいし,また,欠損の原因に は制限されない.類義語:義顎 27. maxillary prosthesis 顎補綴;ガクホテツ;maxillary prosthetics:腫瘍,外傷,炎症,先天奇形などが原 因で,顎骨とその周囲組織に生じた欠損部を非観血的に,あるいは手術との併用により人 工物で補填修復し,顎口腔の損なわれた機能・形態の回復・改善をはかることをいう. 28. 顎補綴装置;ガクホテツソウチ;maxillary prosthetic appliance:腫瘍,外傷,炎症, 先天奇形などが原因で,顎骨とその周囲組織に生じた欠損部を非観血的に,あるいは手術 との併用により人工物で補填修復し,顎口腔の損なわれた機能・形態の回復・改善をはか る装置.この装置を顎義歯または義顎と称する. 29. からくり義歯;-ギシ;technical denture:構成要素の一部に可動機構を有する義歯. 義歯の着脱や維持安定が困難な場合に回転,折り畳み,はめ込み等種々の仕組みを義歯の 構成要素に組み込んだ義歯. 30. 眼窩部エビテーゼ;ガンカブ-;orbital prosthesis:眼窩内容欠損を含む顔面実質欠 損に対する顔面補綴装置. 31. 顔面印象;ガンメンインショウ;face impression:顔面部の作業用模型を製作する目 的で行う印象採得.顔面模型には death mask(デスマスク)と live mask(診断用模型ま たはエビテーゼ作業用模型)の 2 種類がある.印象方法は通常,death mask では石膏単独 使用法,live mask ではアルジネート印象材(顔表面側)と石膏(代替トレー)の積層印象 法などにより行われる.live mask では,準備として患者の鼻または口に呼吸用チューブな どを予め装着し,印象材と石膏の保持用ガーゼ等を準備する必要がある. 32. 顔面補綴;ガンメンホテツ;facial prosthetics:腫瘍,外傷,炎症,先天奇形などが 原因で生じた顔表面を含む実質欠損を非観血的に,あるいは手術との併用により人工物で 補填修復し,その審美的改善(形態・色彩・肌理等の改善)とともに,発語などの損なわ れた機能の回復・改善をはかることをいう.この補綴装置をエビテーゼと称する. 33. 顔面インプラント;ガンメン-;facial implant:エビテーゼの維持のために頭蓋顔面 骨に植立されるフィクスチャー.なお,義顎または顎義歯の維持のために口腔内から頭蓋 顔面骨に植立されたフィクスチャーは口腔インプラントに分類する. 34. 義顎;ギガク;maxillary prosthesis:①狭義の解釈:腫瘍,炎症,外傷,先天奇形な どによる顎骨または口腔軟組織の欠損に適用され,人工歯を備えず,欠損部の補填,閉塞 などを目的とした補綴装置.なお,栓塞部を有することを条件としない.即ち,欠損部に 必ずしも開口部が存在しなくともよいし,また,欠損の原因には制限されない. ②広義の解釈:腫瘍,炎症,外傷,先天奇形などが原因で生じた顎骨とその周囲組織の実 質欠損に対し,非観血的あるいは手術との併用により補填修復し,損なわれた顎口腔系の 機能・形態の回復・改善をはかる補綴装置.顎義歯,栓塞子,口蓋床,軟口蓋挙上装置な どを包括した顎補綴装置に対する口腔外科分野の総称. 類義語:顎義歯 35. dento-maxillary prosthesis 機能障害;キノウショウガイ;impairment:臓器,器官系レベルでの身体または精神 の障害. WHO( 1980)の公式定義・国際障害分類( Impairments,Disabilities and Handicaps)では心理的,生理的または解剖学的構造または機能の喪失または異常. この用語は臓器,器官レベルでの障害を意味する.医学・生物学的に定義される機能障害 に対するアプローチは治療である. 36. 筋肉位;キンニクイ;Muscular position:協調の保たれた筋活動によって表現された 下顎位で,筋機能に着目した機能的な下顎位. 37. 言語障害;ゲンゴショウガイ;language disorder:高次脳機能としての言語活動がで きない状態. 「話す」 「聞く」「書く」「読む」の 4 つの言語活動が障害された状態で,広く は「失語症」なども入れる.意味のある文章が話せない,思い出せないなど,言語に関す る障害. 38. 構音床;コウオンショウ;articulation-assisting plate(AAP):舌に限らず,口腔内 軟組織欠損により音声の形成に必要な固有口腔内の構音点の形成が困難な状態の患者に対 し,構音点を再設定し,ある構音を中心とした補助を目的に使用される床. 39. 構音障害;コウオンショウガイ;articulation disorder:構音器官(咽頭から口腔・鼻 腔までのさまざまな器官)の器質障害,神経筋機能の障害,誤学習等による構音の障害が あり,音声表出時に正常な構音動作がとれず,音声言語によるコミュニケーションに不都 合を生じている状態. 構音障害の分類には 1.付加 Addition 2.歪み Distortion 3.General Oral Inaccuracy 4.省略 Omission 5.置換 Substitution があり,その原因による分類 としては,機能的構音障害,器質的構音障害,運動障害性構音障害がある.口腔の構音器 官には歯,舌,硬・軟口蓋,口唇.下顎,頬などがあるが,子音に最も関与し重要なのは 鼻咽腔閉鎖機能に大きく関与する軟口蓋である.補綴装置が最も関与する構音障害は,鼻 咽腔閉鎖機能不全が構音障害の主たる原因となる口蓋裂,運動障害性構音障害である.ま た歯・歯列などの欠損に対する一般補綴においては口唇音,歯舌音,歯茎音,口蓋音など の子音が重要となる. 40. 口蓋補綴;コウガイホテツ;palatal prosthetics:腫瘍,外傷,炎症,先天奇形など が原因で,口蓋部に生じた欠損,形態異常,機能不全などを非観血的に,あるいは手術と の併用により人工物で補填修復し,損なわれた横能と形態の回復・改善をはかることをい う. 41. 口蓋床;コウガイショウ;palatal plate:口蓋の先天的,後天的欠損あるいは機能不 全に対して装着する補綴装置の主たる構成要素で,口蓋部を被覆する合成樹脂ないし金属 製の床装置. 42. 口腔外補綴装置;コウクウガイホテツソウチ;extraoral prosthesis:腫瘍,外傷,炎 症,先天奇形などが原因で生じた口腔外,とくに顔面部およびその周囲の実質欠損を非観 血的に,あるいは手術との併用により補填・修復し,その審美的改善(形態・色彩・肌理 等の改善)とともに,発語などの損なわれた機能の回復・改善をはかるための補綴装置. エビテーゼ,体幹補綴装置,四肢補綴装置の全てを含む. 43. 口腔内乾燥症;コウクウナイカンソウショウ;xerostomia:唾液分泌量の減少に起因 する口腔内の高度な乾燥状態.灼熱感,発語障害,摂食・嚥下困難などをきたす. 原因としては唾液腺の疾患(唾液腺炎,唾石症,腫瘍など) ,唾液腺分泌神経障害,老人性 萎縮,全身性疾患(尿崩症,糖尿病,慢性腎疾患など),薬物服用などに継発して起こる. 44. 口腔内補綴装置;コウクウナイホテツソウチ;intraoral prosthesis:腫瘍,炎症,外 傷,先天奇形,加齢変化などが原因で,歯および顎骨とその周囲に生じた実質欠損を非観 血的に,あるいは手術との併用により補填・修復し,顎口腔の損なわれた機能と形態の回 復・改善をはかるため,口腔内に装着される補綴装置.一般歯科補綴装置と顎補綴装置の 全てを含む. 45. 交叉咬合;コウサコウゴウ;cross bite:咬頭嵌合位おいて,3 歯以上の前歯群または 側方歯群の反対咬合により,上下顎の歯列弓が水平的に交叉している不正咬合. 46. 呟合滑面板;コウゴウカツメンバン;guide flange:下顎骨離断切除後の下顎偏位を 防止する目的で,咬合時に上顎臼歯頬側面に誘導され,下顎を咬頭嵌合位に導くように下 顎臼歯の頬側に付与する偏位防止板. 47. 唆合斜面板;コウゴウシャメンバン;guidance ramp:下顎骨離断切除後の下顎偏位 を防止する目的で,咬合時に下顎を咬頭嵌合位に導くように上顎補綴装置の口蓋側に付与 する偏位防止板. 類義語:オクルーサルランプ 48. occlusal lump 語音明瞭度検査;ゴオンメイリョウドケンサ;speech intelligibility test:被験者の発 音を複数の検者が聴取し,その結果を集計して被験者が発音した語数に対する正しく聴取 しえた語数の百分率として表す方法. 49. 国際疾病分類;コクサイシッペイブンルイ;international classification diseases (ICD) :世界保健械構(WHO)が 1900 年より開始した疾病分類.現在本邦では第 10 回 修正分類(ICD‐10:21 分類:1995)の体系が適用されている.疾病分類は次の 3 原則に 基づかなければならない,1)ある一定の基準により疾病を分類するシステムであること. 2)疾病単位が明確であり,調査成果の相互比較が可能であること.3)その分類は,すべ ての疾病を包括するとともに,それぞれの疾病は互いに排他的でなければならないこと. 50. 国際障害分類;世界保健機構(WHO)が疾病と傷害の概念の連続性を認め,どのよ うなアプローチが必要かという観点から,1)機能障害:臓器レベルの概念で,治療という アプローチが求められる.2)能力障害:個体レベルの概念で,リハビリテーションという アプローチが求められる.3)社会的不利:社会レベルの概念で,福祉のアプローチが求め られる.この 3 つのレベルに分類し,障害の実態を構造的に明確にした(1980). 51. 作業模型;サギョウモケイ;working model:修復物を製作する目的で使用される模 型. 52. 3 点接触咬合(ボンウィルの);サンテンセッショクコウゴウ;three point contact occlusion:総義歯の安定を得るために用いられる咬合形式. 53. 耳介エビテーゼ;ジカイ-;external ear prosthesis,auricular prosthesis:耳介欠 損や矮小変形に対する顔面補綴装置. 54. 歯槽頂間線法則;シソウチョウカンセンホウソク;interalveolar ridge line:無歯顎 者の上下顎の上下顎提の頂上間を結ぶ線. 55. 社会的不利;シヤカイテキフリ;handicap;WHO の国際障害分類(Impairments, Disabilities and Handicaps:1980)によれば,ある社会的役割をはたす個人の能力が,機 能障害(impairment)や能力障害(disability)のために,あるいはその障害に対する不適 切な訓練および他の環境のために低下すること.したがってこの言葉は社会レベルでの障 害を意味する.社会的不利に対するアプローチは福祉である. 56. 習慣性咬合(位);シュウカンセイコウゴウ(イ);habitual occlusion(occlusal position):習慣的な閉口運動の終末位.正常有歯顎者では咬頭嵌合位と一致するとされて いる.習慣的咬合(位)は用いずに習慣性咬合(位)に統一する 3). 57. 床部;ショウブ;base:顎義歯の構成要素の 1 つであり,顎堤の実質欠損や外観の回 復をはかるとともに人工歯や栓塞部を保持することを目的として,欠損部顎堤やそれに関 連する領域あるいは口蓋部を覆う部分. 58. 支台装置;シダイソウチ;retainer:顎義歯の支持,維持および把持のために,顎義 歯と支台歯(維持歯)を連結する装置. 同義語:維持装置 retainer 59. 人工歯;ジンコウシ;artificial tooth:顎義歯の構成要素の 1 つであり,歯列の欠損 部を補い,歯の形態,色彩,機能を回復する部分. 60. 人工舌;ジンコウゼツ;artificial tongue:舌全摘もしくは可動部全摘症例において, 限局した機能(構音または摂食機能)を回復・改善させるために,適切な形状や性状(弾 性)を付与した舌相当部におけるシリコーン等で形成された口腔内補綴装置. 61. ステント;stent:1)軟組織を保持・固定する装置の総称.外科処置に併用され,移 植皮膚片の保持や保護に利用するもの,あるいは形成外科手術後の患部の軟組織を一定期 間,定形に保つ装置などがある. 2)放射線照射治療時の小線源の保持,インプラント植立時の植立方向のガイドなどに用い られる補助装置の総称. 62. すれ違い咬合;すれチガいコウゴウ;surechigai occlusion:上下顎に残存歯が存在す るにもかかわらず,咲頭軟合位を失っている岐合(尾花甚一,1952).上下顎の残存歯が, 左右的にすれ違って存在する場合と,前後的にすれ違って存在する場合があり,それぞれ 左右の臼歯群のすれ違い岐合と,前歯群と臼歯群のすれ違い岐合が典型的なものである. 残存歯と対校する顎堤の骨吸収が大きく,咬合平面設定が困難で,義歯の設計が難しい. 63. 切縁咬合(解剖用語)と切端咬合(慣用用語);セツエンコウゴウ(カイボウヨウゴ) とセッタンコウゴウ(カンヨウヨウゴ) ;edge-to-edge occlusion:切縁咬合(解剖用語)と 切端咬合(慣用用語)は併用する. 64. 切除義顎;セツジョギガク;resection maxillary prosthesis:術前に切除範囲を予想 して作業模型上で予め製作しておき,外科手術後直ちに装着する義顎. 同義語:即時義顎 immediate maxillary prosthesis 類義語:即時顎義歯 immediate dento-maxillary prosthesis 65. 摂食嚥下障害;セッショクエンゲショウガイ;dysphagia:食物が通過するいちによ って 5 期(先行期,準備期,口腔期,咽頭期,食道期)に分けられる一連の摂食嚥下動作 のどこかの段階における動作の障害. 先行期(認知期)は食物を認識し,何をどのくらいどのように食べるかを認識し決定する 段階,準備期は食物を口腔に取り込み,咀嚼して食塊形成する段階,口腔期は食塊が搾送 運動により奥舌,咽頭に送り込まれる段階,咽頭期は嚥下反射により咽頭を通過して食道 に送り込まれる段階,食道期は食塊が蠕動運動により食道を通過して胃に送り込まれる段 階をいう. 口腔期では舌と口蓋との接触関係,咽頭期では食道入り口部の拡大に必要な舌骨と喉頭の 前方への挙上のための下顎骨の固定,軟口蓋挙上による鼻咽腔閉鎖が重要であり,これら の段階の障害には,義歯だけではなく,舌接触補助装置,パラタルリフトタイプのスピー チエイドなどの歯科の技術が有効である. 66. 舌接触補助床;ゼツセッショクホジョショウ;palatal augmentation prosthesis(PAP), palatal reshaping prosthesis(PRP) :舌の運動障害あるいはボリュームの不足により発音 および咀嚼・嚥下機能に必要な義歯床の口蓋部を肥厚させた形態を付与することによって 舌の口蓋への接触を容易にし,口腔機能改善をはかることを目的とした補綴装置. 悪性腫瘍などによる舌・口腔底切除症例あるいは舌運動障害を伴う疾患が適応となる. 67. 栓塞部;センソクブ;obturator:顎義歯の構成要素の 1 つであり,上下顎の穿孔部あ るいは欠損部を栓塞する部分 68. 栓 塞 部 充 実 型 顎 義 歯 ; セ ン ソ ク ブ ジ ュ ウ ジ ツ ガ タ ガ ク ギ シ ; dento-maxillary prosthesis with solid obturator:栓塞部を修復材科で填入し,そのまま重合.完成させる 方法で製作した顎義歯. 69. 栓塞部中空型顎義歯;センソクプチュウクウガタガクギシ; dento-maxillary prosthesis with hollow obturator:栓塞部を中空状にして軽量化した顎義歯. 通常は以下の方法により製作された顎義歯の総称. ①重合後の充実型栓塞部の内部をくり抜き,その開口部を常温重合レジンにて閉鎖する方 法.②蝋義歯の栓塞部を開放型にして,埋没,重合し,その後開放してある口蓋天蓋部を 常温重合レジンにて閉鎖する方法.③栓塞部の中空容積を最大にしうる設計のもとに,天 蓋粘膜側と固有口腔側とを各々プレート状に蝋型を製作して埋没重合後,常温重合レジン で接合して中空型栓塞部を完成する方法(大畑等の方法).④栓塞部のみ③の方法で一度完 成させた後に,中空型栓塞部と義歯部とを一体化してワックスアップし,埋没・流蝋し, 義歯部を積層重合し,完成する方法(古田等の方法). 70. 栓塞部天蓋開放型顎義歯;センソクブテンガイカイホウガタガクギシ; dento-maxillary prosthesis with buccal flange obturator:栓塞部中空型顎義歯の栓塞部の 天蓋部分を開放したままの顎義歯. 71. 栓塞子型鼻咽腔補綴装置;センソクシガタビインクウホテツソウチ;soft palate obturator(SPO) :硬軟口蓋の破裂あるいは実質欠損をほとんど全域にわたり補填すること により,鼻咽腔閉鎖機能の改善をはかる装置. 72. 線源保持装置;センゲンホジソウチ;carriar(mold):密封小線源による間隔照射や 腔内照射などにおいて,線源を封入・保持するために製作される装置. 73. 即時顎義歯;ソクジガクギシ;immediate dento-maxillary prosthesis:術前に予め 製作しておき,または術中に製作し,抜歯直後に装着する顎義歯. 類義語:即時義顎 immediate maxillary prosthesis 74. 即時栓塞子;ソクジセンソクシ;immediate surgical obturator:術前に切除範囲を 予想して作業模型上で予め製作しておき,外科手術後直ちに装着する栓塞子. 75. 組織遮蔽装置;ソシキシヤヘイソウチ;protector(shield) :放射線治療において,腫 瘍周辺の正常組織を遮蔽し,被曝軽減を目的として製作される装置. 76. 組織排除装置;ソシキハイジョソウチ;protector(stent):放射線治療において,腫 瘍周辺の正常組織を,照射野外に排除することを目的として製作される装置. 77. 咀嚼障害;ソシャクショウガイ;masticatory dysfunction:顎口腔系が食物を切断・ 破砕・粉砕し,唾液との混和を行いながら食塊を形成して,嚥下する一連の過程がうまく 機能しない状態. 78. 低位咬合;テイイコウゴウ;infraclusion:1)一部の歯あるいは人工歯の咬合面が, 正常な咬合平面まで達しないような咬合.2)咬頭嵌合位が適正な咬合高径よりも低い位置 にある咬合状態. 79. 頭蓋インプラント;トウガイ;cranial implant:1)頭蓋骨欠損に対する形態修復と 保護を目的とした補綴装置の維持のために頭蓋骨に植立されるフィクスチャー.なお,エ ビテーゼの維持のために頭蓋骨に植立されたフィクスチャーは顔面インプラントに分類す る.2)頭蓋骨欠損の修復のために埋入する補填物. 80. ドンダー空隙;-クウゲキ;space of Donders:下顎が安静位にあるとき舌背と口蓋 との間に現れる空隙. 81. 軟口蓋挙上装置;ナンコウガイキョジョウソウチ;palatal lift prosthesis(PLP) :口 蓋床の後方へ延長した挙上子によって軟口蓋を挙上させて鼻咽腔を狭くすることで口腔鼻 腔を分離し,音声の鼻音化や構音障害の発生を防止する装置.長期に装着した症例の中に は,鼻咽腔閉鎖機能が賦活され新たに獲得される場合がある. 82. 能力障害;ノウリョクショウガイ;disability;WHO の国際障害分類(Impairments, Disabilities and Handicaps:1980)によれば,人として正常と考えられる範囲での活動を 行うことが制限されている,またはできないこと.この用語は,機能障害(impairment) を原因とした各個人の機能的行動や活動での障害の結果を表し,個人レベルでの障害を意 味する.能力障害に対するアプローチはリハビリテーションである. 83. 鋏状咬合;ハサミジョウコウゴウ;scissors bite:すべての上顎臼歯の舌側咬頭が, 下顎臼歯の頬側に鋏状に接触し,上下顎の臼歯が正常に咬頭嵌合しない咬合. 84. 発音障害;ハツオンショウガイ;speech disorders:発音器官(肺,気管,喉頭,咽 頭,口腔・鼻腔などの呼気流に関するすべての器官)の器質的・機能的要因による発音の 障害があり,会話に支障をきたし,コミュニケーションに不都合を生じている状態.した がって,構音障害(構音器官の障害)と肺,気管,喉頭からなる喉頭原音・バス音の発声 器官の障害の両方を含める. 85. パラタルランプ;palatal lump:咬頭嵌合位を保持するため,顎義歯あるいは義顎の 口蓋床部に付与した隆起部. 86. パラトグラム;palatogram:発音時に舌が口蓋に接触する範囲を示す図.同一の言語 音ではほぼ一定の形になることから口蓋における調音点を知る方法.すなわち,義歯の適 切な口蓋形態の確認に用いられる.口蓋に墨や粉末を塗布して行う静的パラトグラムと電 極を利用するダイナミックパラトグラムとがある. 87. バルブ型鼻咽腔補綴装置;-ガタビインクウホテツソウチ;speech bulb prosthesis (SBP):種々の形態を人工物によって鼻咽腔閉鎖時に残存した空隙を補い,口蓋括約筋群 の運動能力を賦活し,鼻咽腔閉鎖機能の獲得を助けることを目的とした装置. 88. 反対咬合;ハンタイコウゴウ;reverse articulation:咬頭嵌合位において,連続する 3 歯以上の被蓋関係が唇舌・頬舌的に正常とは逆である不正岐合.歯の位置異常によるもの (歯性),下顎位の異常によるもの(機能性) ,顎骨の形態に基づくもの(骨格性)などが ある.前歯部の者は,下顎前突あるいは下顎近心咬合となり,臼歯部のみに発現したもの は交叉咬合とも呼ばれる.ただし,いずれにおいても,1,2 歯の場合には転位として扱わ れる. 89. 鼻咽腔補綴装置;ビインクウホテツソウチ;velopharyngeal prosthesis:鼻咽腔部の 組織欠損あるいは機能障害によって鼻咽腔閉鎖機能不全がある症例に適応される補綴装置 で,装置の形によってバルブ型・挙上子型・栓塞子型の 3 種類に分けられる. 90. ブラキシズム; bruxism:咀嚼筋が何らかの理由で異常に緊張し,咀嚼・嚥下・発 音などの機能的な運動と関係なく,非機能的に上下顎の歯を無意識にこすり合わせたり(グ ラインデイング) ,くいしばったり(クレンチング),連続的にカチカナとか(噛)み合わ せる(タッビング)習癖.顎関節症の原因の 1 つとされている. 91. フラビーガム; flabby gum:顎堤に発現する可動性の大きい粘膜組織. 歯槽骨の吸収と粘膜の肥厚および粘膜下組織の線維性増生が見られるが,不適切な義歯の 長期使用による慢性的な機械的刺激が原因とされている. 上顎前歯部が好発部位である. 92. 分割顎義歯;ブンカツガクギシ;sectional dento-maxillary prosthesis:小口症や開 口障害に適用するため,組み立て式の構造にした顎義歯. 類義語:分割義顎 93. sectional maxillary prosthesis,分割義歯 sectional denture 放射線治療補助装置;ホウシャセンチリョウホジョソウチ;radiotherapy prosthetic appliance:放射線治療の効果を増大せしめ,副作用,後障害を軽減させるための治療補助 装置. 同義語:線源保持装置,組織遮蔽装置,組織排除装置 94. 無歯症;ムシショウ;anodontia:歯の先天的な欠如が多数に及ぶもの.歯がすべて 認められない場合を全部無歯症,一部認められる場合を部分的無歯症と呼ぶ.無歯症の直 接的原因は不明であるが,外胚葉異形成症に随伴して現れることが多い. 95. モデルサージエリー;model surgery=mock surgery:手術時の planning にあたって, 歯列(顎)模型を用いてシミュレーションを行い,手術計画をたてること. video surgery,paper surgery,photo surgery は造語であり surgery という語は不適切で ある.したがって,これらの語に対しては,cephalometric prediction,photocephalometric planning,photographic planning などの用語を用いることとする. 96. 予後;ヨゴ;prognosis:病気の経過の良し悪しを予測すること.したがって,予後判 定の用語は誤りであり,術後判定とすること. 97. リコール;recall:治療終了後,治療成果を長期に維持する(メインテナンス)ために 行われる定期検査と評価.歯科全般には種々の検査項目があるが補綴領域では補綴装置の 機能状態と生体の健康状態を確認し,何か異常を認めれば適切な対応を行うことになるが, 補綴装置の調整,修理,床裏層,咬合面再構成などの処置が行われる. 98. 連結子;レンケツシ;connector:顎義歯の構成要素の 1 つであり,床部や支台装置(維 持装置)などを連結する部分. 99. 老人様顔貌;ロウジンヨウガンボウ;senile appearance:1)加齢による変化だけで なく,歯の喪失に伴うリップサポートと咬合支持の喪失による顔貌の変化が,主として下 顔面に特徴的に現れる老人様の顔貌.口裂の縮小が起こり,上下の口唇は緊張を失って陥 没し,赤唇は薄くなり,放射状のシワが著明になり,老人の顔貌の特徴が強調される.補 綴装置によるリップサポートと咬合支持の回復により改善される.2)無汗型外胚葉異形成 症の小児に見られる特有な顔貌,毛髪,捷毛,眉毛などがほとんど無く,目の周縁には小 皺が多く,鼻は鞍状様で,無歯症により口唇が反転突出しているために,その顔貌が一見 老人様を呈している状態を言う.全部無歯症ならびに部分的無歯症もともに同様の特異的 顔貌を示すので,無菌症横顔貌(anodontia appearance)とも呼ばれている. 参考資料 日本顎顔面補綴学会雑誌 29 巻 2 号 2006 67-73 咬合学事典 保母須弥也 他 クインテッセンス 1998
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