【2007 ユニバーサル技能五輪国際大会リポート】【その他】 (PDF 1380KB)

海外リポート
米国における難病のある人の
職業リハビリテーション
―マサチューセッツ州地域における取り組み―
障害者職業総合センター 研究員 若林 功
1 はじめに
従来、わが国の特定疾患(難病)のある人に
対する施策は、「難病(特定疾患)対策の概要」
2 米国における「難病」
わが国における「難病(特定疾患)」とは、
「治療の難しい病気」を漠然と指すのではなく、
(難病情報センター)1) にも示されているとお
特に行政上では、特定疾患として指定された疾
り、治療研究や治療費負担軽減、福祉といった
患を指す。そして、特定疾患とは「『原因不明、
面が中心であり、難病のある人の雇用支援に対
治療方法未確立であり、かつ後遺症を残すおそ
する取り組みは十分されているとは言えなかっ
れが少なくない疾病』として調査研究を進めて
た。しかしながら近年、研究報告書(難病の雇
いる疾患のうち、診断基準が一応確立し、かつ
用管理のための調査・研究会,2007a)・ツール
難治度、重症度が高く患者数が比較的少ないた
(難病の雇用管理のための調査・研究会,
め、公費負担の方法をとらないと原因の究明、
2007b;難病の雇用管理のための調査・研究会,
治療方法の開発等に困難をきたすおそれのある
2007c)が相次いで発表されるなどの動きがで
疾患」とされている。そして123の特定疾患のう
てきており、難病のある人への雇用支援への取
ち、45疾患に罹患している場合は、治療の自己
り組みは活発化されようとしている。ただし先
負担分の一部が国と都道府県により公費負担と
述したツール2種はいずれも事業主への啓発用
して助成される2)。
のものである。その一方で、難病のある人(在
一方、米国では、わが国のような「難病(特
職者もしくは求職者)への具体的な支援プログ
定疾患)」という概念は(特に行政上では)な
ラムの開発やその効果検証については、わが国
い。ただし、より幅広い「Chronic Illness(又
でまだあまり行われてきていない。
はChronic Disease)
(慢性疾患)
」という通念は
わが国でのこのような背景を基に、筆者は今
年度10月下旬に米国・マサチューセッツ州ボス
あり、わが国で特定疾患として指定されている
疾患も含まれている。
トン市地域を訪問し、現地における難病のある
それでは米国では、日本の難病に該当する慢
人への職業リハビリテーションの状況について
性疾患のある人への職業リハビリテーションは
の情報を収集する機会を得たので、本稿ではそ
活発に行われているのだろうか。確かに研究レ
の概略を報告する。ただし紙数の制限もあるた
ベルでは日本に比べれば活発である可能性があ
め、主要な訪問箇所(人物)についてのみ報告
る。少なくとも、多発性硬化症、全身性エリテ
する。
マトーデス等のある人への職業リハビリテーシ
ョンに関する研究報告は活発に行われている。
1)難病情報センター:http://www.nanbyou.or.jp/what/nan.taisakugaiyou.htmより
2)難病情報センター:http://www.nanbyou.or.jp/what/nan_kenkyu_45.htmより
職リハネットワーク 2008年3月 No.62
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例えば、医学分野を中心とした論文検索を行う
3)
リテーションカウンセラー(Certified
ことのできる「Medline」 で、「Multiple
Rehabilitation Counselor: CRC)の資格も持っ
Sclerosis(多発性硬化症)」及び「vocational
ている。同氏はもともと看護師として働いてい
rehabilitation」で検索したところ、2000年以降
たが、関節炎のため看護師の職を続けることが
に報告されたものだけでも、8件あり、また最
困難になった。この経験から、看護師を退職し
古の職業リハビリテーション分野の論文は1969
リハビリテーションカウンセリングの大学院に
年に発表されている。
進み、慢性疾患のある人の職業問題を深く研究
一方で、1977年から1989年までに公的職業リ
することにつながったようである。
ハビリテーションサービスを受けた人のうち関
節炎のある人は、2%を占めるに過ぎないこと
が示されている(Allaire他,2005)。また、事
業主に対し行った慢性疾患に関する意識調査で
は、がんや糖尿病に比べ、多発性硬化症や関節
炎は知られていないことが示されている
(Roessler & Sumner,1996)。
つまり研究としては、
「細く長く」取り組まれ
てきているが、実践レベルでは十分に行われて
いない。知見は少しずつ蓄積されているが、ま
だ知見の普及や実践化が不十分であるというこ
写真1 ボストン大学及び周辺の町並み
とである。だからこそ、まだまだ努力の余地が
大いにある、と米国の慢性疾患のある人への支
近年の同氏の研究は、特に慢性疾患のある人
援者・研究者は考えていることが推測される。
の職場定着問題に焦点を当てている。特に2005
そのため、米国の慢性疾患の職業リハビリテー
年にRehabilitation Counseling Bulletin誌に発表
ション関係者が現在どのような努力しているの
した論文(Allaire他,2005)では、関節炎や全
かを知ることは、わが国にとっても大いに参考
身性エリテマトーデスのある人など200名以上の
になるところがあると考えられる。
研究参加者を得て、Randomized Trial Control
(RCT:ランダム化比較試験)による職場定着
3 主要な訪問先施設
上記のような事前情報を基に、マサチューセ
ッツ州地域を訪問した。同地域を訪問したのは、
プログラム( Job Retention Intervention)の有
効性を立証している。
この研究の内容は以下のとおりである。①ボ
優れた研究や実践を行っていると考えられる人
ストン周辺に住み、②同研究に協力する意志を
物や施設が同地域に散見されたためである。以
示し、③慢性疾患があり、④現在雇用されてお
下では、aAllaire博士(ボストン大学医学部)、
り、かつ⑤近い将来雇用継続の危機のあると感
sCI coach.com、d全米多発性硬化症協会中央
じている、の5条件全てに該当する人達を無作
ニューイングランド支部を取り上げる。
為に、実験群と統制群に分けた。そして、実験
a
群にはリハビリテーションカウンセラーによる
Allaire博士(ボストン大学医学部)
Allaire博士は、ボストン大学医学部(写真1)
介入、具体的には2回(1回は1時間半から2
に所属する研究者である。医師ではなく、職業
時間)から成るカウンセリングを行った。この
リハビリテーション研究者であり、認定リハビ
カウンセリングには、①現在の職場の障壁・問
3)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=PubMed
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題点の同定や、バリア・問題解消のための方策
で、職場定着率に差が出たことを報告している
について、慢性疾患のある人とカウンセラーが
のである。
さて、訪問に際しては、実際に同プログラム
るために、慢性疾患のある人自身が事業主と交
を実施する上でのエピソードや、今後同プログ
渉する練習(ロールプレイ)、が含まれていた。
ラムを普及する方策について話を伺った。実際
一方、統制群には慢性疾患のある人が職場で定
のカウンセリングは、同博士が直接行ったので
着するのに必要な情報(ADA法4)など)の書か
はなく、研究費で採用した3名のカウンセラー
れているパンフレット送付のみを行った。以上
が実施し、同博士はカウンセラーのスーパーバ
のように、実験群120名、統制群120名を設定し、
イズ役を行ったとのことである。これは、この
職場定着率を4年間追跡したところ、実験群の
カウンセリング対象者が在職者であることから、
定着率が有意に高いことが示されたという(図
カウンセリング対象者の勤務時間後の夕方や土
1)。
日などにカウンセリングを実施する必要があっ
Percentage Remaining Employed
共に考えていくこと、及び②職場での配慮を得
たが、そのような時間設定に対応可能な支援機
1.1
Vocational rehabilitation
1
関がないため、カウンセラーを採用する形とし
Log-rank Test
p=0.03
0.9
たとのことである。なお、カウンセリングを実
0.8
際に行ったカウンセラーの中には、難病のある
Written materials
0.7
人はしっかりした人が多いように感じ、
「事業主
0.6
との交渉に関するロールプレイは(子どもじみ
0.5
0
6
12
18
24
30
36
42
Months from Randomization
48
54
注)縦軸は職場定着率、横軸は介入(カウンセリング又は
資料送付)
からの時間の長さ
(月単位)
を表す
図1 職業リハビリテーション(カウンセリング)
を受けた群(実験群=実線)と、資料送付
のみの群(統制群=破線)の職場定着率の
推移(Allaire他(2005)より)
ており)行いにくい」と同博士に訴えたり、中
には実際に省略しようとしたカウンセラーもい
た。そのような場合に対しては、同博士は必ず
ロールプレイを実施するようにカウンセラーに
求めたとのことである。そして、実際にロール
プレイを行ってみると、意外にもきちんと交渉
できない慢性疾患のある人が少なくなく、同博
士はその必要性を痛感したとのことであった。
興味深いのは、実験群と統制群の受けたサー
また、効果が証明された同プログラムの普及
ビスの差である。実験群は確かにカウンセリン
については、同博士は困難を感じているようで
グを受けたが、それは基本的に数ヶ月間に2回
ある。つまり、先述したが、在職者に対する職
というわずかなものであった。また、統制群に
場定着を図るためのプログラムであるため、業
送付された資料(パンフレット)とは、実験群
務時間が朝9時から夕方5時までの支援機関で
がカウンセリングを受けるにあたって用いられ
は、なかなか取り組みにくいのである。そのた
た資料と同内容だという。つまり、実験群は確
め、同プログラムの重要性や必要性を公的職業
かにカウンセラーによる介入は受けているもの
リハビリテーション機関に訴えても、取り上げ
の、特段濃密な支援ではなく、ある意味では実
てもらえなかったと言う。訪問時点では、この
験群と統制群の受けたサービスの差はわずかな
ような理由により、まだ普及方法を模索してい
ものである。このようなわずかなサービスの差
る段階であり、今後ワンストップセンター(わ
4)ADA法:Americans with Disabilities ACT(障害を持つアメリカ人法)。アメリカで1990年7月に制定された法律。公民
権法やリハビリテーション法等、障害者の社会参加を保障した従来の法制度を包括したものであり、具体的な規定によ
って障害による差別を禁止している(日本職業リハビリテーション学会,2002)。なお、「ADA法」と言うと、二重に
「法」と言っていることになるが、分かりやすさを優先し、本文では「ADA法」と記した。
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が国のハローワークと機能的に類似)や保健セ
り慢性疾患のある人の職業問題を専門とするコ
ンターへのアプローチを考えていきたいと語っ
ーチングビジネス、CI Coach.comを始めた。
ていた。
この研究で使われた職場定着プログラムには、
同氏のホームページには、慢性疾患のある人
の職業問題の解決に関する様々な情報も挙げら
ADA法に基づく合理的配慮についても当然なが
れているほか、同氏が関わった事例として、
「強
ら含まれている。そのため、そのままの内容で
皮症」
「多発性硬化症」
「潰瘍性大腸炎」
「クロー
はわが国で行えない面はあるかもしれないが、
ン病」等のある方への職場適応や転職を支援し
一方でどのような制度下でも行うことのできそ
た場合について紹介をしている。また、メール
うな要素(職場内バリアの同定と解決のための
にて送付依頼する必要があるが、無料で「職場
カウンセリング等)も多く含まれているように
で慢性疾患を克服する:職場で、慢性疾患を持
見受けられる。そのため、同プログラムをわが
ちながら力を取り戻すための7つの習慣」とい
国に紹介することは意義深いと考えられる。
った資料も配布している。
わが国では、難病相談・支援センターの中に
s
CI Coach.com
CI Coach.comはRosalind Joffe氏(写真2)
はピア・カウンセリングを行っているところも
あるが、同氏のように、慢性疾患のある方自身
が個人で起業した支援機関であり、慢性疾患の
が、疾患のある方の職業問題に関するコーチン
ある人に対し、特に職業問題を専門に有料のコ
グビジネスを起業しているというのは、筆者は
ーチングを行うというユニークなものである。
あまり聞いたことがなかった。そのため、同様
同氏は、インターネット上でサイトを立ち上げ
の事業を行っている人はいるのか聞いてみたと
ており5)、同氏の活動内容を知ることができる。
ころ、そのような人はいないとのことであった。
また、実際のコーチングのプロセスについて
も概略を伺うことができた。クライエントは、
同氏のWEBページを見て、連絡を取ってくる人
が多いとのことである。そのプロセスは以下の
とおりである。まず、クライエントからの申し
込み後、最初にその方の職業上の状況やニーズ
に関する評価を行い、そしてCI Coach.comとし
ては何ができるかを話し合う。ここまでは無料
である。その後、正式に契約をする。そして、
そのクライエントにあった目標を設定し、その
写真2 Rosalind Joffe氏と筆者
方が目標達成できるようにコーチングしていく、
といったものである。コーチング期間中は最低
同氏はもともと教員として働いていたが、多
でも2週間に1回は連絡を取り合うことにして
発性硬化症を患うようになり、短時間勤務で働
いるとのことである(必要があれば何度でも連
き続けていたが、職場側からのフルタイム勤務
絡を取り合うことができる)
。設定される目標は
の要望と折り合いがつかなくなり、離職に至っ
様々であるが、例えば「病気を持っているとい
た。その後、コーチングビジネスを始め、成功
うことを納得する」「生活のバランスの取り方」
を収めていたが、さらに潰瘍性大腸炎を患うよ
「時間の使い方(病気を持ったため今までと異な
うになった。このようなこともあり、2003年よ
った時間の使い方を学ばなければならないた
5)http://cicoach.com/
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職リハネットワーク 2008年3月 No.62
め)」などである。
有料職業リハビリテーション(コーチング)
する研究への資金を提供している7)。なお、そ
れらの研究には医学的なものだけでなく、職業
サービスという、わが国では類のない取組みで
リハビリテーションに関する研究も含まれてお
はあるが、支援者としての経験を多く積んだ同
り、また同協会本部のホームページにも、職業
氏の発言は重みがあるように感じられた。また
問題に関し、相当数のページが割かれている。
頂いた同氏の資料には、箇条書き形式でシンプ
これらのことから、同協会が職業問題をかなり
ルなものも多く、それゆえに理解しやすく、さ
重視していることが窺える。
らには訴える力があるように見受けられた。そ
さて、同協会の中央ニューイングランド支部
のため、同氏の語る内容や資料のかなりの部分
は地域に住む多発性硬化症のある人へさまざま
が、わが国の支援者や難病のある人にも役立つ
なサービスを提供している。わが国の難病相
と考える。
談・支援センター同様、セルフサポートグルー
プ等も開催しているが、加えて同支部も同協会
d
全米多発性硬化症協会中央ニューイングラ
本部のように、やはり職業問題へ強く係わろう
ンド支部
としているスタンスがあるようである。例えば、
全米多発性硬化症協会中央ニューイングラン
初めて多発性硬化症と診断された人への教育プ
ド支部(National Multiple Sclerosis Society,
ログラム、「Knowledge Is Power」プログラム
Central New England Chapter)6)(写真3)は、
(電話会議形式)では、10のテーマ(「多発性硬
多発性硬化症のある人の患者団体全米多発性硬
化症とは」
「病気の受容」など)について話し合
化症の支部であり、マサチューセッツ州及び隣
うが、そのうちの1つは「就職」である。
のニューハンプシャー州内に住む多発性硬化症
のある人への活動を行っている。
また、グループセッション(15∼40人)を行
うこともある。これは、多発性硬化症のある人
同士がお互いにサポートすることや、体験の共
有化を目的としたものであり、実施方法は、3
∼8回(聴講者によって異なる)
、1回あたり1
∼2時間程度である。内容としては、この講義
用に作成されたDVD(「Career Crossroads」と
いうタイトルのもの)を視聴し、それを基に話
し合うといったものである。進め方については
支部用のマニュアルに注意事項が掲載されてお
りそれを基に進める、また実施にあたってのポ
イントはなるべく似た層の人を集めること、と
写真3 全米多発性硬化症協会
中央ニューイングランド支部
のことであった。このグループセッションは各
地域のコミュニティセンター等へスタッフが出
向き実施されるものであり、支部の建物内で行
米国内では、全国レベルでの多発性硬化症の
なうことはないとのことである。
患者会があるが、そのうち同協会は最も大きな
なお、職業訓練や、仕事を探す(ことを手伝
団体である。そして同協会は、様々な企業等か
う)という職業リハビリテーションの中核的サ
らの寄付を受けており、また多発性硬化症に関
ービスは同支部自体では行っておらず、同支部
6)http://mam.nationalmssociety.org/site/PageServer?pagename=MAM_programs_homepage
7)http://www.nationalmssociety.org/site/PageServer?pagename=HOM_GEN_homepage
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は相談してきた多発性硬化症のある人に、公
では、わが国で言う「難病」という概念はない
的/民間の職業リハビリテーション機関への紹
ものの、
「難病」に相当する慢性疾患、例えば全
介を行う。そして、多発性硬化症のある人は、
身性エリテマトーデスや多発性硬化症等につい
そこでそれらのサービスを受けることになると
ての研究は、かなり以前から取り組まれてきた。
のことである。
しかしながら、それらの疾患があり職業リハビ
さらに、職業リハビリテーション機関との連
リテーションサービスを受けている人というの
携として、公的/民間の機関の職員研修におけ
は、米国でもまだ多いとは言えないようである。
る多発性硬化症に関する講義の講師を引き受け
それでも、エビデンスに基づく支援方法を開発
る、多発性硬化症のある人が就職した際に、職
していたり、難病のある人自身が自らの体験を
業カウンセラーと一緒に企業を訪問し、企業担
「武器」に、コーチングビジネスを起業していた
当者に疾患の特性について説明する、といった
り、とわが国ではあまり見られない動きが見ら
ことも行っている。そして、特に民間の職業リ
れる。
ハビリテーション機関で、頻繁に連携している
所があるとのことである。
これらの情報は、わが国でも研究論文やイン
ターネットを通じ収集できる部分もあるが、今
これらの活動は、わが国で今まで取り組まれ
回実際に米国を訪問することにより、難病のあ
てきた職業リハビリテーションの実際と似てい
る人(在職者もしくは求職者)への具体的な支
る面もあり、その内容を知ると、わが国の関係
援方法の情報をより深く収集することができた
者は「コロンブスの卵」的に感じるかもしれな
と考えている。つまり、研究論文やインターネ
い。しかしながら、疾患のある人(同協会は多
ットのみでは「対外的」で「綺麗」な情報しか
発性硬化症のある人に限定されてはいるが)に
知ることができないが、今回の実際の訪問でそ
関して実際にそのことを行っている、という事
の「舞台裏」まで窺い知ることができたと考え
実自体が参考になるのではないかと思われる。
ている。これらの情報は、わが国で不足してい
ると言える難病のある人への支援を、実際に行
4 まとめ
職業リハビリテーションの先進国である米国
おうとする上で、参考になる点が多いのではな
いだろうか。
<文献>
1.Allaire,S.H., Niu, J., & Lavalley, M.P.: Employment and Satisfaction Outcomes From a Job
Retention Intervention elivered to Persons with Chronic Diseases, Rehabilitation Counseling
Bulletin, 48, pp.100-109(2005)
2.難病の雇用管理のための調査・研究会:難病の雇用管理のための調査・研究会:難病の雇用管理
のための調査・研究会報告書(2007a)
3.難病の雇用管理のための調査・研究会:難病のある人の雇用管理・就業支援ガイドライン(2007b)
4.難病の雇用管理のための調査・研究会(編)
:難病(特定疾患)を理解するために:事業主のため
のQ&A(2007c)
5.日本職業リハビリテーション学会職リハ用語検討研究委員会(編)
:ADA、
「職業リハビリテーシ
ョン用語集第2版」(2002)
6.Roessler, R.T. & Sumner,G.: Employer Opinion about Accommodating Employees with Chronic
Illnesses, Journal of Applied Rehabilitation Counseling, 28, pp.29- 34(1997)
82
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第4回障害学会大会
2007年9月16日∼17日、京都立命館大学朱雀
キャンパスで開催された「第4回障害学会大会」
に参加し、発表を行った。参加者は207名で、約
半数以上が障害のある者であった。
プログラムは一般報告(14報告)
、ポスター発
表(18報告)
、シンポジウム1「障害と分配的正
義」
、シンポジウム2「障害学とろう者学の対話
の可能性」という構成である。
2003年、米、英のディスアビリティー・スタ
ディズ1)を研究する障害のある研究者らによって
設立された障害学会が主催する大会は、大会前
から障害者の参加を円滑にする取り組みをして
おり、こうしたことはこの学会の特徴といえる。
その一つは情報保障を巡る事前のやりとりで
ある。障害学会では発表内容について従来から
視覚障害者が予め音声ソフトで聞いたり、手話
通訳や要約筆記の負担を軽くするために「読み
上げ原稿」の事前準備をしている。今大会でも、
視覚や聴覚に障害がある研究者や参加者が想定
されるため、
「読み上げ原稿」の提出が求められ
た。また、事前に発表予定者と事務局のやりと
りがメーリングリスト上で詳細かつ頻繁に行わ
れていた。例えばパワーポイントを使いたい発
表者に、主催者が「その画像が何を示している
か視覚に障害がある者にも理解できるように注
釈を付ける」ことを求めていた。障害のある研
究者を中心に運営されている学会ならではのこ
とである。
さらに、介助者等の手配や会場までのアクセ
ス情報、バリアフリーで安価な宿泊所情報も提
供され、保育や介助を要する参加者の問い合わ
せには、そうした手配に関する情報交換もメー
ル上で盛んにやりとりされていた。
大会におけるいくつかの報告について紹介す
る。
○ 「人間の新しい文字情報チャンネルとして
の2点式体表点字システム」
ワイシャツのボタンほどの装置を体に付けて、
振動で点字を感じるシステムであり、手が使え
ない場合に点字を読む時の代行手段として有効
と紹介された。数名から質問があり、聴衆の関
心を惹いたようであった。
○ 「軽度障害者の意味世界」
一見して軽度にみえる、あるいは見た目では
分からない障害者の場合は、出来るふりをする
ために陰の努力をする。
「できないこと=劣るこ
と」と考えるので、期待される役割をこなすた
めに自弁でコストをかけてでも努力する。その
結果、周りからはできたという結果だけが見ら
れてしまい、自己努力の部分は知られない。さ
らに期待され、また頑張る、そして体を壊すと
いう悪循環になりやすいという指摘があった。
研究分野では重度障害や目新しい障害が注目さ
れがちな昨今の傾向であるが、軽度障害に焦点
あてたのは新鮮な視点であった。発表者自身が
軽度の身体障害を有する研究者であることも説
得力を増した。
○ 「職業的困難度からみた障害程度の見直し
について」
障害福祉施策の障害者と認定されてはいない
が、職業上に困難のある障害者として雇用施策
の支援対象とできるよう障害程度の考え方を検
討する筆者の発表に対しては、①職業上の困難
さから「重度障害」と判定されると、それがス
ティグマとなり逆に就職しにくくなるではない
か、また、そういう判定は難しいのではないか
②障害者の雇用率を満たすことを目的とする研
究であるのかといった質問があった。
会場の隅では「母よ!殺すな」の復刻版が平
積み販売されていた。1970年代日本の障害者運
動の先駆けである『青い芝の会』故横塚晃一さ
んの著作である。障害者自身の問いは今読んで
も新鮮である。障害当事者を中心に展開する障
害学の視点を見失うことなく、職業リハビリテ
ーションの業務に邁進しようと改めて感じる大
会であった。
なお、障害学会のホームページに全ての発表
原稿が掲載されているので、関心ある方はそち
らをご覧下さい(http://www.jsds.org/)。
障害者職業総合センター 主任研究員
沖山 稚子
1)障害、障害者を社会、文化という視点から考え直すと同時に、社会、文化を障害、障害者という視点から考え直すこと。
1982年にアーヴィング・ケネス・ゾラらによって米国で創設された。その後、英国ではマイケル・オリバーを中心とし
て大きく発展した。
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2007年ユニバーサル技能五輪国際大会リポート
知的障害のある日本選手たちが快挙
―第7回国際アビリンピック「データベース作成(基礎)」で
日本代表の知的障害のある3選手が金銀銅メダルを獲得―
平成19年11月14日から18日まで静岡市で開催
表示されている、既に入力されているデータと
された第7回国際アビリンピックの職業技能競
手元のカードとを照合してミスを修正する「デ
技「データベース作成(基礎)
」において、日本
ータ修正課題」の2種類からなり、いずれも競
から出場した3選手(いずれも知的障害者)が、
技時間は60分である。成績は、両課題の正解カ
肢体不自由者や精神障害者等の海外選手をおさ
ード数と正解率を加味して判定される。日本選
1)
え、見事に金銀銅賞に輝いた 。この快挙は、
手たちは、作業スピード、正確性ともに優れて
NHK総合テレビ「クローズアップ現代」などに
いた。今回の快挙は、選手自身の努力はいうま
も取り上げられ、関係者のみならず多くの人に
でもないが、彼らの特性に着目して、データ入
2)
注目された 。
力職務に配置し、その力を開花させた会社関係
本競技は、カードに記載された内容をパソコ
者の努力によるところも大きい。
ンに入力する「データ入力課題」と、画面上に
第7回国際アビリンピック「データベース作成(基礎)」の競技風景
これまで、知的障害者がパソコンを使用した
のパソコン活用の職域について十分な能力開発
仕事に従事しているという事例は、あまり知ら
の機会が設けられてこなかった。また、知的障
れておらず、知的障害者のためのデータ入力等
害者の中には広汎性発達障害のケースもあり、
1)金賞・豊川和弥さん(㈱東京リーガルマインド)、銀賞・橋本良弘さん(横河ファウンドリー㈱)、銅賞・秋田拓也さん
(㈱ニッセイニュークリエーション)。
2)3選手の活躍ぶりは、NHK総合テレビ「クローズアップ現代」の平成20年2月20日放映の「秘められた能力を引き出せ
∼広がる知的障害者の雇用∼」で詳しく報道されたほか、同テレビ平成20年1月10日放映の「ゆうどきネットワーク」の
中で「知的障害者のメダリスト」としても取り上げられた。
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職リハネットワーク 2008年3月 No.62
その独特の話しぶりや一部に見られる手先の不
今回の快挙が、彼らのように漢字や英数字に対
器用さなどから、モノ作りを中心とした職域で
するこだわりが強く、一つのミスも見逃さない
は、なかなか就職ができない、あるいは就職を
という特性を持つ人たちが職場で大きな戦力と
したものの続かないといったことも少なくなか
なることが広く認識され、多くの知的障害者の
った。
能力開発や雇用の機会拡大の契機となることを
そのため、独立行政法人高齢・障害者雇用支
期待したい。今日のIT社会において「データ入
援機構障害者職業総合センター研究部門では、
力」の求人市場は大きい。実際に、パソコンを
そのような知的障害者の職域拡大を目的にデー
使用して企業で働いている彼らに続いて、新た
タ入力トレーニングソフト「やってみよう!パ
な職域で活躍する知的障害者が増えることを願
ソコンデータ入力」を開発し、平成19年3月に
っている。
3)
リリースしたところである 。
なお、今回初めて国際アビリンピックは、
同ソフトは、すでに国立職業リハビリテーシ
「2007年ユニバーサル技能五輪国際大会」とし
ョンセンターや国立吉備高原職業リハビリテー
て、技能五輪国際大会と同時開催された。詳細
ションセンター等の能力開発施設、都立永福学
については、下記ホームページをご覧いただき
園等の特別支援学校で利用されているほか、全
たい。
国障害者技能競技大会(国内アビリンピック)
■ http://www.jeed.or.jp/activity/abilympics/
のパソコンデータ入力競技においても、競技課
inter_7_result.html
題の一つとしてデータ等を差し替えた上で利用
されている。そして、今回の日本の3選手は、
本ソフトも利用して競技本番に備えたと聞く。
この点からも、同ソフトの開発に携わった者と
障害者職業総合センター 特別研究員
(国際アビリンピック技術委員会分科会専門委員)
岡田 伸一
しては、今回の快挙は本当に喜ばしい。そして、
3)同ソフトは障害者職業総合センター研究部門のホームページから無償ダウンロードできる(http://www.nivr.jeed.or.jp)。
職リハネットワーク 2008年3月 No.62
85
職リハネットワーク読者アンケート調査 結果報告
職リハネットワークNo.60(平成19年3月発行)において、読者の皆様を対象に本誌に関する感想や
今後のテーマ等についてアンケート調査を行い、85件のご回答をいただきました。アンケート調査に
ご協力いただきました皆様に厚くお礼申し上げます。
お寄せいただいたご意見等につきましては、特集テーマの設定(発達障害者への就労支援−現場で
の取り組み−)や誌面の工夫(専門用語へ解説を付す等)といった点に反映させていただきました。
これからも読者の皆様の声を参考に、内容や誌面の充実を図って参りたいと考えておりますので、ご
意見やご要望などを障害者職業総合センター企画部企画調整室([email protected])あてお寄せく
ださい。
アンケート調査結果
本誌をお読みになっての感想について
■内容に関して
■読みやすくするための工夫(複数回答)
全体的に印象が
固いため、親しみやすい
情報も掲載する
14.6%
専門性が低く
もの足りない
1.2%
専門性が高く難しい
20.9%
その他
2.5%
専門用語に ついては、
解説をつける
32.3%
文字を大きくしたり
情報量を充実して、
ページ数を増やす
6.3%
文字を小さくしたり
情報量を簡素化して、
ページ数を減らす
1.3%
ちょうど良い
77.9%
重要な箇所等は
傍線、網掛け、枠組み
などで強調する
11.4%
文字だけでなく、
写真、図表、イラスト等
を効果的に用いる
31.6%
今後本誌で取り上げて欲しいテーマや特集について(複数回答)
■障害特性の視点から
内部障害
2.1%
肢体不自由
1.0%
難病
12.8%
■障害者雇用に関する様々な取り組みの視点から
その他
1.5%
在宅就労
8.3%
雇用管理、
キャリア形成
13.6%
発達障害
29.2%
聴覚障害
3.6%
視覚障害
4.6%
知的障害
4.1%
高次脳機能障害
17.4%
精神障害
23.6%
企業におけ
る職域拡大・
職場環境改善
23.7%
バックナンバーの中で関心のあったテーマ・記事について(上位5項目)
86
No.59
ジョブコーチ(11件)
No.58
うつ・気分障害のある者の職業リハビリテーション(10件)
No.56
発達障害についての理解と支援(8件)
No.60
高次脳機能障害者の職業リハビリテーション(6件)
No.60
第14回職業リハビリテーション研究発表会の概要(6件)
職リハネットワーク 2008年3月 No.62
その他 学校から職場
への移行
2.4%
8.3%
福祉的就労
から一般雇用
への移行
27.8%
ジョブコーチ
16.0%