インテック試験科目

マレーシア政府派遣による高専留学予定者を対象とした,
プログラミング導入教育について
竹部 啓輔 CC,Ec , 佐々木 徹 M ,
CC
Ec
M
E
竹内 麻希子 E , 樺澤 辰也 E , 青柳 成俊 M
長岡工業高等専門学校・総合情報処理センター
長岡工業高等専門学校・電子制御工学科
長岡工業高等専門学校・機械工学科
長岡工業高等専門学校・電気電子システム工学科
長岡高専では,高専機構の特別教育研究経費プロジェクト「アジア高等教育機関との交流および地域連携に
よる人材育成」において,平成 21,22 年度の 2 回,マレーシアから高専に留学する予定の学生を対象と
して,C 言語プログラミングの導入教育を実施した.本稿ではその事業内容と,今後の展開について報告
する.
にも,さらに化学実験や物理実験などを可能な限
1. はじめに
り経験してから,日本へと旅立っていく.
マレーシアから全国の高専に,毎年 70 から 80
KTJ では,以前から高専に編入した学生から「高
名ほどの留学生が編入している.マレーシアの教
専でプログラミングの授業についていくのが大変
育制度は,小学校・中学校は日本と同じく 6 年・
だ.前もって KTJ でプログラミングを勉強できな
3 年であるが,高校は 2 年となっていて,マレー
いか.」という意見が多数寄せられていたようで
シアから政府派遣で高専に留学する学生たちは,
ある.
高校卒業後の 2 年間,マラ工科大学国際教育カ
*1
長岡高専と KTJ の交流は,学生海外派遣研修等
の高専予備教育センター (KTJ;
によって平成 19 年度から現在も続いている.教員
Kumpulan Teknikal Jepun) で学び,高専留学のた
間の交流において,マレーシアからの留学生のこ
めのさまざまな準備をしている.
うした実情が伝えられ,問題点として浮上してき
レッジ (INTEC)
KTJ では,日本語の授業だけでなく,数学,物
た.そこで,高専機構特別研究経費プロジェクト
理,化学,英語の授業が行われている.日本語以
「アジア高等教育機関との交流および地域連携によ
外の授業は,1 年次にはマレー語および英語で行
る人材育成」のプログラムとして,平成 21 年度,
われるが,2 年次になると日本語により行われる.
平成 22 年度の 2 回,KTJ に長岡高専から講師を
1 月中旬に文部科学省試験が実施され,どの高専
派遣し,高専留学予定者を対象にしたプログラミ
に編入するかが決定する.学生達は,この試験後
ングの導入教育を実施することになったのである.
本稿では,その内容と今後の展開について報告
*1
2010 年 11 月以前は,国際教育センター (INTEC; INTernational Education Centre) であったが,INTEC のみ私立
大学となり,名称の Centre が College になった.
する.
2. マレーシアプログラミングレッスン
2.1.2 実習環境および教材
授業で利用できる演習室は,60 端末が設置され
2.1 平成 21 年度プログラム
ている部屋(B 室)と,その奥に 30 端末設置の部
2.1.1 事業概要
対象学生は,平成 22 年 4 月より高専編入予定の
屋(C 室)があり,その間がパーティションで区切
2 年生(75 名)である.カリキュラムの関係上,文
られている.一つの教室として使うこともできる
部科学省試験後の実施となり,集中講義期間とし
が,机の向きが同じでないため,一斉授業には向
て確保できたのは 5 日間であった.長岡高専から
かないとの判断から,B 室のみを使いクラスを 2
は教員 5 名,事務職員 1 名を派遣した.
つに分けて交互に行うことにした.表 1 中の C1,
プログラミングで何ができるのか概要を理解し
てもらうこと,プログラミングに対する苦手意識
C2 は,対象クラスを意味する.プログラミングの
授業時間はおよそ 6 時間となった.
をなるべく持たせずに,4 月からの高専での学習
教科書には,
「C 言語プログラミングレッスン入
の動機づけとなることを目的として,C 言語プロ
門編」
(ソフトバンク)を用い,授業は教科書の内
グラムで制御できる簡単なロボットを題材に,(1)
容をベースに作成した PowerPoint 資料を提示しな
ロボットの組み立て,(2)C 言語の学習,(3) ロボッ
がら行った.
ト制御競技会の 3 部構成で行うことにした.
表 1 に実施したスケジュールを示す.1 単位時
パソコンの環境は,OS が Windows Vista(英語
版)である.なるべくソフトウェアをインストー
ルせずに行う方針で,エディタ(TeraPad)やコン
間は 50 分である.
初日のオリエンテーション,ロボットの組み立
パイラ (Borland C++) など必要なソフトウェア一
て,およびプログラミングの導入部分の講義は
式を記録した USB メモリを持ち込み,サンプルプ
KTJ の講義室で行い,残りの C 言語の授業とロ
ログラムに変更を加えることによって演習を行う
ボット競技会は,INTEC 附属図書館のコンピュー
ことにした.
タ演習室で行った.
2.1.3 実習を終えて
表1
平成 21 年度スケジュール
実習では,TeraPad のメニュ―が文字化けのため
時限 1/18(月) 1/19(火) 1/20(水) 1/21(木) 1/22(金)
使えず,notepad を使用した.その結果,サンプル
1
授業 (C1) 授業 (C2)
プログラムの日本語メッセージが文字化けしてし
2
表示/演算
まうこととなった.メッセージを英語化しながら
3
授業 (C2) 授業 (C1)
表示/演算
4
変数/分岐
競技会
変数/分岐
など質問への個別対応は,5 名の教職員が手分け
オリエン
テーション
授業 (C1) (集団礼拝)
6 ロボット
授業 (C1) (集団礼拝)
5
の演習で,なかなか先に進まなかった.操作方法
7
製作
授業 (C2) 表彰式
8
授業
繰り返し
して行い,十分に対応ができたと思う.
以下,学生に行ったアンケートの自由記述回答
(一部)を示す.その他のアンケート結果について
は,後述する.
※演習室の予約状況からこのスケジュールとなった.
空きコマには実験や数学などの授業が組まれている.
■プログラミングの内容はどうだったか?
• プログラミングの内容はあまりわかりませ
んでした.
• 内容が簡単すぎます.内容が全部書いてあ
るので,先生がいなくても自分でできます.
• 大体良いですが,時間が足りなかった.
■来年改善すべき点は?
表 2 平成 22 年度スケジュール
時限 1/17(月)
1/18(火)
1
1/19(水)
自習
2
授業
授業
3
表示/計算/
for/while
変数
演習
5
オリエンテー
ション
演習
競技会説明
• どんどん学生に実習をさせた方がよい.
6
ロボット
授業
• 説明する時間が長かった.説明を短くする
7
製作
if/switch
• プログラミングを KTJ の授業にした方が
よい.
方が良いと思います.
• 図書館が寒い.
分からないという者から,簡単すぎるという者
まで学生の理解度にかなりの幅があった.圧倒的
に演習の時間が足りないということは,学生の声
にも表れた.
2.2 平成 22 年度プログラム
2.2.1 事業概要
平成 22 年度のプログラムでは,確保できた日
1/21(金)
4
競技会
表彰式
8 授業 (導入)
演習
※ 20(木) は,祝日 (タイプーサム) のため休み
教科書は昨年と同じとしたが,教示資料は若干
組み直して,演習問題を増やした.配布資料は一
部虫食い状態にし,説明を聞きながら各自記入す
る必要があるようにした.
演習の時間は,最初に問題を配布し,それぞれ
に取り組んでもらい,時間の最後に解答例を配布
し,解説するという形式をとった.
数は 4 日と短くなった.実施したスケジュールを
表 2 に示す.対象学生は 71 名である.予算の都
合上,派遣する講師は 4 名に減員となったが,KTJ
スタッフ 2 名が TA として加わることになった.
2.2.3 実習を終えて
今回は大きな問題もなく,実習を行うことがで
きた.以下,自由記述の回答(一部)を示す.
演習時間を確保するため,今回はクラス分けせ
ずに B 室と C 室をつなげて一斉授業で進めるこ
とにした.これによって,授業時間は 11 時間と
なった.
教示は B 室で行うが後ろは説明がよく聞き取れ
ないなどの問題が予想されるため,奥の C 室側で
別の講師が補足説明をすることにした.
■プログラミングの内容はどうだったか?
• 問題演習の時間が足りなかった.もっと,
たくさん練習が必要だと思います.
• 来年の後輩たちは,2 週間プログラミング
授業をした方が良いと思います.
• 来年もやってください.
• 授業の時間をもっと長くしてほしいです.
2.2.2 実習環境および教材
パソコンの環境は昨年と同じく変更はなかった.
いろいろなことをもっと勉強したいから
です.
ソフトウェアについては,notepad はエディタとし
• 授業の時間を長くしてほしいです.三日間
て機能不足なので,notepad++ を用意した.コン
は短かったので,理解できないことは理解
パイラは昨年と同じである.
できないままにしてしまいました,ちょっ
今回サンプルプログラムは,日本語メッセージ
を予め英語に直したものを用意した.
と残念です.
まあまあ適当と答えているものの,短いという意
3. プログラミング導入教育の評価
見は 22 年度も相変わらず多かった.
学生に行ったアンケートの結果を図 1 に示す.
22 年度は,90% 以上の学生がプログラミング未
経験者であった.このことからも導入教育として
Q1. プログラムで何ができるか
H21
17
H22
概ね成功したものと考えている.
68
15
24
67
0
20
理解できた
40
まあまあ理解できた
0
9 0
60
80
あまり理解できなかった
100
理解できなかった
17
マレーシアの INTEC 高専予備教育センターに
赴き,C 言語プログラミングの導入教育を実施し
た.1 年目は 6 時間,2 年目は 11 時間というごく
Q2. プログラムの作成・実行方法
H21
4. おわりに
70
11
2
16
0
限られた時間しかなかったため,演習時間が圧倒
的に不足しているという問題はあるものの,受講
H22
28
56
した学生の評価はまずまずであった.
0
20
理解できた
40
まあまあ理解できた
60
あまり理解できなかった
80
100
日本留学を目前に控え,現役高専教員の日本語
理解できなかった
による授業は,多いに刺激となったようである.
Q3. プログラムをもっと勉強したいか
H21
77
H22
13
68
0
20
勉強したい
残念ながら,電子制御工学科には,留学生は配
20
40
まあまあ勉強したい
60
あまり勉強したくない
8 2
属されなかったが,他学科に編入した学生の様子
12 0
を聞くと,最初はすっかり忘れていたようではあ
80
100
勉強したくない
るが,以前よりは問題が軽減されているようであ
るとのことであった.他校の留学生もこの研修に
よっていくらかでも問題が軽減されたならば幸い
Q4. 授業時間の長さは適当だったか
である.
H21
43
32
25
0
我々の 2 年間の取り組みと,現地の KTJ スタッ
H22
37
0
37
20
40
適当だった
まあまあ適当だった
23
60
短かった
80
3
フの働きかけによって,今年度から,現地スタッフ
100
によるプログラミングの授業が KTJ のカリキュラ
長かった
ムに組み込まれることになった.1 年生向けの科
図1
アンケート結果
目で,通常の科目と同じように時間をかけて取り
組むため,今後はプログラミングの基礎を習得し
プログラムで何ができるのかや,作成・実行方法
は,いずれも 80% 以上の学生が理解できた・まあ
まあ理解できたと答えている.プログラムをもっ
と勉強したいかという問いに対しては,80% 以上
た学生が編入してくることになるものと思う.な
お,今年の 2 年生は,我々の行った集中講義形式
で現地スタッフが実施する予定とのことである.
参考文献
の学生が勉強したい・まあまあ勉強したいと答え
ている.ただし,22 年度は積極的に勉強したいと
考える人の割合が若干減ってしまった.
21 年度は,理解できなかった,勉強したくない
という人が若干あったが,22 年度はゼロとなった.
授業時間の長さについては,70% 以上が適当・
[1] 佐々木徹,青柳成俊,竹部啓輔,池田富士雄,
外山成浩,衛藤俊彦,「マラ工科大学 INTEC
高専予備教育コースにおけるプログラミン
グ教育」,平成 22 年度高専教育講演論文集,
pp.23-26 (2010/8).