鉄筋の錆と付着に関する実験的研究

工学院大学建築系学科卒業論文梗概集
小野里研究室 2012 年度
鉄筋の錆と付着に関する実験的研究
D2-08044
谷川健太
錆のグレード(写真 1)と割裂破壊試験、付着破壊試験
1.はじめに
建設中の建物の工事が中断され、長い期間放置されて
の2種類のそれぞれ 4 体ずつ計 32 体とする。また、鉄筋
いる環境が続き作業を再開するとなった時に、鉄筋が錆
の 径 は D13 を 使 用 し た 。 コ ン ク リ ー ト の 実 強 度 は
びていたということがある。そうした時に浮いていない
24.5N/mm 2 である。また、鉄筋が引張降伏してしまうこ
赤錆程度のものについては、コンクリートとの付着を阻
とを防ぐために付着長さを検討し、そこで過去の実験デ
害することがないので、無理にこれを落とす必要はない。
ータをもとに付着長さを 40mm とする。
という記述が建築工事管理指針(平成19年度
上巻)
た、コンクリート打設時の鉄筋発錆状態と打設後の挙動
65
147
に記載されているが、錆の程度は曖昧になっている。ま
についての研究例は、以外に少ない。本研究ではそうし
147
た錆をどの程度まで許容の範囲とするのかということを
示す資料を作成するために、鉄筋を錆の進行状況によっ
て種類を分けて付着実験を行い、その結果から鉄筋の錆
65
スパイラル筋
線形6mm
外径100φ
ピッチ15
コンクリート
加圧版
40
40
の許容の範囲を求めることを目的とする。
2.実験概要
非付着区間
2.1 錆の区分
鉄筋( D 1 3 )
鉄筋の錆の分け方を表 1 に示す。今回の試験ではこの
基準を参考とし錆の区分をする。錆の状況で付着強度が
a) 付着破壊
どう変化するのかをみる。そこで、グレードⅢとグレー
ドⅣの違いは断面欠損の量であるのでグレードⅢまでと
する。使用する鉄筋の錆の状況を写真1に示す。
表 1 日本コンクリート工学協会:海洋 コンクリ
ート構造物の防食指針(案)による分類
b) 割裂破壊
図 1 試験体形状
3. 実験結果一覧
実験結果を表2、各グレード別の付着強度のグラフを
図 2 に示す。付着破壊の中で、特にグレード 0 と、グレ
ードⅢは実験結果にばらつきがないことから正確に強度
が測れていると考えられる。また、グレード0とグレー
ドⅢを比べるとグレードⅢのほうが大きい値になってい
る。割裂破壊においても同様にグレード0とグレードⅢ
を比べるとグレードⅢのほうが大きい値になっている。
グレード 0
グレードⅠ
写真 1
グレードⅡ
グレードⅢ
a)グレード 0
b)グレードⅠ
c)グレードⅡ
d)グレードⅢ
鉄筋 の腐食グレード
2.2 試験体概要
実験は付着破壊試験と割裂破壊試験の二種類行う。鉄
筋を引き抜く前にコンクリートが割裂する事を防止する
ためにスパイラル筋を入れた試験体を付着破壊試験とす
る。また、割裂破壊を起こすためにスパイラル筋を入れ
ない試験体を割裂破壊試験とする。試験体数は、鉄筋の
図 2 各グレードの付着強度
グレード 試験体名
0
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
径
実験結 果
要因として錆により異形鉄筋の凹凸が大きくなりそこ
コンクリート強度
付着長さ
破壊形式
(mm)
(N/mm2)
最大荷重 付着強度
(KN)
(N/mm2)
0-1s
D13
24.5
40
33.3
20.81
0-2s
D13
24.5
40
29.79
18.62
0-3s
D13
24.5
40
31.4
19.62
付着破壊
0-4s
D13
24.5
40
30.21
18.89
0-1
D13
24.5
40
7.61
4.76
0-2
D13
24.5
40
5.89
3.68
0-3
D13
24.5
40
8.03
5.02
0-4
D13
24.5
40
6.59
4.12
1-1s
D13
24.5
40
27.95
17.47
1-2s
D13
24.5
40
34.15
21.34
1-3s
D13
24.5
40
28.75
17.97
1-4s
D13
24.5
40
28.65
17.91
1-1
D13
24.5
40
7.52
4.7
1-2
D13
24.5
40
8.24
5.15
1-3
D13
24.5
40
6.56
4.1
割裂破壊
付着破壊
割裂破壊
1-4
D13
24.5
40
5.39
3.37
2-1s
D13
24.5
40
23.13
14.45
2-2s
D13
24.5
40
31.82
19.89
2-3s
D13
24.5
40
37.58
23.49
2-4s
D13
24.5
40
33.52
20.95
2-1
D13
24.5
40
8.06
5.04
2-2
D13
24.5
40
5.65
3.53
2-3
D13
24.5
40
5.36
3.35
2-4
D13
24.5
40
7.67
4.79
3-1s
D13
24.5
40
31.09
19.43
3-2s
D13
24.5
40
34.17
21.36
3-3s
D13
24.5
40
31.88
19.93
付着破壊
割裂破壊
付着破壊
3-4s
D13
24.5
40
31.77
19.85
3-1
D13
24.5
40
9.73
6.08
3-2
D13
24.5
40
7.16
4.48
3-3
D13
24.5
40
6.77
4.23
3-4
D13
24.5
40
7.61
4.76
割裂破壊
付着強度
平均
(N/mm2)
19.485
4.395
18.6725
にコンクリートが噛み合い付着強度が増加したと考えら
れる。さらに、異形鉄筋のフシの欠損による影響で付着
強度が小さくなったと考えられる。
最大付着応力(Mpa)
表2
25
20
15
10
5
4.33
0
0
20
40
60
)
腐食量(kgf/cm2
19.695
図 5 実権結果
4.1775
6. 考察
錆がない状態よりわずかに錆が付着していると、付着
20.1425
強度は低下するが、錆が一定量増えると付着強度は増加
する。また、割裂破壊試験、付着破壊試験も施工時の状
況を、腐食が認められる物(グレード 0)より鉄筋の全
4.8875
周 に わ た り 断 面 欠 損 が あ る 物 (グ レ ー ド Ⅲ )が 付 着 強 度 が
強くなった。要因として錆が鉄筋とコンクリートの間で
楔のような役割をし、噛み合い効果で付着強度が増加し
4. 各グレードの付着強度の比較
各グレード別の付着強度の平均値を、図 3 に示す。錆
たと考えられる。
がない状態よりわずかに錆が付着していると、付着強度
は低下するが、錆が一定量増えると付着強度は増加し、
参考文献
付着破壊、割裂破壊でもグレード 0 よりグレードⅢが付
1)日本建築学会:鉄筋コンクリート構造計算基準・同解
着強度が強いことがわかる。
説 2010、P7、P198-P200
2)佐々木敦
丸山久一
清水敬二
錆が付着性状に及ぼす影響
5. 過去の論文の検証
過去の論文を調べると、錆びている鉄筋の引き抜き試
米田直也:鉄筋の発
コンクリート工学年次論文
報告集
験をした際に、鉄筋腐食による錆はある限度以内であれ
3)日本コンクリート工学協会:海洋コンクリート構造物
ば最大付着強度を増加し、腐食量が大きくなりすぎると
の防食指針(案)による分類
付着強度が小さくなるという結果が示されている。
4)異形鉄筋の付着強度に関する研究 常田裕是
7
24
4.88
5
4.39
4.33
4.17
4
3
付着強度(N/mm2)
付着強度(N/mm2)
23
6
22
21
20
19.69
19.48
20.14
18.67
19
18
17
グレード0
グレードⅠ
グレードⅡ
グレードⅢ
a)付着破壊
グレード0
グレードⅠ
グレードⅡ
b)割裂破壊
図 3 付着強度の平均値
グレードⅢ