講演資料(福田) 535KB

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光の科学と現代物理学
1.古典物理学と現代物理学
2.光とは何か?
光と視覚,光の性質,速度
波動説と粒子説,幾何光学と波動光学
電磁波
3.古典物理学の破綻
熱放射,原子の構造と安定性,光電効果,エーテル
仮説
4.光の新しい描像
粒子性と波動性の二重性
5.レーザー
レーザーの原理,仕組み,特徴
レーザーの応用
6.幾つかのトピックス
月のレーザー測距,
単一イオンのトラップと量子ジャンプ
気体原子のレーザー冷却
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2
古典物理学と現代物理学
古典物理学
ニュートン力学
マクスウェル電磁気学
統計物理学
熱力学
光学
・・・
現代物理学
相対性理論
相対論的力学,相対論的電磁気学
量子力学
量子電気力学
量子光学
原子核物理学
素粒子物理学
量子統計物理学
物性物理学
・・・
2
3
光と視覚
光による網膜視細胞の刺激
→ 明暗,色,形の認識
プリズムによる光の分散
→ 赤,橙,黄,緑,青,藍,紫
分散 : 波長による屈折率の変化
短波長 → 屈折率大
長波長 → 屈折率小
分光視感度曲線
波長 5,55 nm(緑)で最大感度
眼の構造とカメラ
屈折率
屈折率 n = 真空中の光の速度/光の速度
光の速度 = 真空中の光の速度/n
n(空気)=1.0003
n(ガラス)=1.5, n(水)=1.3
3
4
光速の測定
光速は有限か?
雷の音と光,空気中の音速は約 340m/s
(1) ガリレイ(1564-1642):
2個のランプの点滅による合図(失敗),
(2) レーマー(1675):
木星の衛星の食の周期,地球の公転,
c = 3.02×108 m/s,
(3) ブラッドリー(1727):
恒星の年周視差,光行差,地球の公転 (3.0×104 m/s),
c = 3×108m/s,
(4) フィゾー(1849):
回転歯車,地上実験(8.6km),
c = 3.14×108m/s,
(5) フーコーの方法(1850):
回転鏡,室内実験(20m),
c = 2.98×108m/s
現在,真空中の光速は
c = 2.99792458×108m/s (定義値)
4
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光の性質と光学
光の諸現象
直進,反射,屈折,回折,干渉, etc.
幾何光学と波動光学
幾何光学
フェルマーの原理
「光は最短時間の経路を進む」
波動光学
ホイヘンスの原理
「素元波の包絡面が波面になる」
(回折と干渉の現象は,波動光学でのみ理解できる)
反射の法則
屈折の法則(スネルの法則)
レンズの公式
↓
望遠鏡,顕微鏡,分光器,・・・
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6
フェルマの原理
↓
反射の法則
スネルの屈折の法則 : n1 sin i = n2 sin r
n1 < n2
6
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レンズの公式 : (1/a)+(1/b)=1/ f
(f :焦点距離 a,b:物体,像-レンズの距離)
ホイヘンスの原理
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光の実体は?
ニュートン(1642-1727)の粒子説
と
ホイヘンス(1629-1695)の波動説
ヤング(1773-1829)の実験(1800)によって
波動説で決着
ヤングの複スリットの実験
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光は電磁波
マクスウェル方程式 → (電磁波の)波動方程式
電気と磁気(電界と磁界)の波動
横波 → 偏光
速度c,振動数 ν(角振動数 ω=2πν),
波長 λ(波数 k=2π/λ)
E (x−c t ) = A sin { 2π(x−c t ) /λ}
=
A sin (k x−ωt )
電磁波の波長による分類:
γ線,X 線,紫外線,可視光(0.4<λ<0.8μm),赤外線,電波
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古典物理学の破綻
1.エーテル仮説
2.熱放射
3.原子の構造・安定性
4.光電効果
・・・・・
↓
相対論と量子論の誕生
20 世紀初頭
1900 年ノーベル賞の創設
現代物理学の歴史とノーベル物理学賞
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光 の 科 学 と ノ ー ベ ル 物 理 学 賞
(21 件)
受賞
年
受賞者
国
受賞理由
年齢
エリック A.コーネル
39
アメリカ
希薄なアルカリ原子ガスでのボーズ アインシュタイン
2001
ウルフガング ケターレ
43
ドイツ
凝縮の実現と基礎的な研究
カール E.ワイマン
50
アメリカ
スティーブン チュー
49
アメリカ
レーザーを用いて原子を極低温に冷却する技術の開
1997
クロード コーエン タヌジ
65
フランス
発
1989
ウィリアム D.フィリップス
50
アメリカ
H.G.デーメルト
67
アメリカ
W.パウル
76
西ドイツ
N.F.ラムゼー
74
アメリカ
N.ブレンベルゲン
61
スウェーデン
1981
高精度原子分光法の開発
レーザー分光学への寄与
A.L.シャーロウ
60
アメリカ
1971
D.ガボール
71
イギリス
ホログラフィーの発明とその発展に対する寄与
1966
A.カスレ
64
フランス
原子内のヘルツ波共鳴の光学的方法の発見と開発
C.H.タウンズ
49
アメリカ
N.G.バソフ
42
ソヴィエト
A.M.プロホロフ
48
ソヴィエト
1964
メーザー、レーザーの発明
11
12
P.クッシュ
44
アメリカ
電子の磁気モーメントについての研究
W.E.ラム
42
アメリカ
水素の微細構造のマイクロ波による測定
F.ブロッホ
47
アメリカ
核磁気共鳴吸収の方法による原子核の磁気モーメ
E.M.パーセル
40
アメリカ
ントの測定
1944
I.I.ラビ
46
アメリカ
共鳴法による原子核の磁気モーメントの測定
1930
C.V.ラマン
42
インド
1922
N.H.D.ボーア
37
1921
A.アインシュタイン
42
アメリカ
1919
J.シュタルク
45
ドイツ
陽極線のドップラー効果およびシュタルク効果の発見
1918
M.K.E.L.プランク
60
ドイツ
量子論による物理学進歩への貢献
1911
W.ウィーン
47
ドイツ
熱放射に関する法則の発見
G.マルコーニ
35
イタリア
1955
1952
デンマーク 原子の構造とその放射に関する研究
1909
1908
光の散乱に関する研究とラマン効果の発見
理論物理学の諸研究特に光電効果の法則の発見
無線電信の発達に対する貢献
K.F.ブラウン
59
ドイツ
G.リップマン
63
フランス
光の干渉を利用した天然色写真の研究
干渉計の考案とそれによる分光学およびメートル原
1907
A.A.マイケルソン
54
アメリカ
器に関する研究
H.A.ローレンツ
49
オランダ
1902
1901
放射に対する磁場の影響の研究
P.ゼーマン
37
オランダ
W.C.レントゲン
56
ドイツ
X 線の発見
12
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古典物理学の破綻と新しい物理学 1
エーテル仮説 → A.アインシュタイン(1905)
. エーテル仮説:
電磁波の媒体は?
↓
「エーテル」 が宇宙を満たしている!?
↓
マイケルソン・モーリーの実験
地球の公転による光速の変化?
公転速度 30km/s=c/104
エーテルの存在を否定
↓
ローレンツ収縮
↓
特殊相対性理論
アインシュタイン,1905
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古典物理学の破綻と新しい物理学 2
熱放射の問題 → M.プランク(1900)
高温の物体の温度と色の関係
プランクの公式→エネルギーの量子化?
→
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古典物理学の破綻と新しい物理学 3
光電効果 → A.アインシュタイン(1905)
金属表面から光照射で電子が飛び出す
(光電子の放出)
限界波長λC より短波長の光
(限界振動数νC より高振動数の光)
光電子の運動エネルギーK
K = h (ν−νC )
= hν−W
W = hνC : 金属の仕事関数
(電子を引き出すための最小エネルギー)
↓
光量子仮説
アインシュタイン,1905
光は粒子(光子)
エネルギーE = hν
運動量 = hν/c (= h/λ)
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古典物理学の破綻と新しい物理学 3
原子スペクトルと原子の安定性
→N.ボーア(1913)
水素原子のスペクトル
線スペクトル,波長は規則的な配列
リュドベリーの公式(1890)
ラザフォードの原子模型(1911)
原子核(+)の周りを電子(−)が周回
古典論では光を放出して原子は瞬時に崩壊!
↓
ボーアの原子理論
電子が原子核の周りを円軌道の運動
「量子条件」:軌道運動の角運動量の量子化
→ 安定な電子軌道 n=1,2,3,・・・
エネルギー準位 En(n=1,2,3,・・・)
「振動数条件」:光子+原子のエネルギー保存
吸収・放出する光子 : hν=En―En
→ リュドベリーの公式
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「光」の新しい描像と物質波
光は波動(電磁波)であり,
同時に
光は粒子(光子)である。
↓↑
「波動と粒子の二重性」
↓
ド・ブロイ(1923)
物質波 : 粒子も波動性を持つ
→ ド・ブロイ波
ド・ブロイ波長:λD= h/p
(運動量 p = mv を持つ粒子)
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レーザー
LASER
L ight A mplification by
S timulated E mission of R adiation
放射の誘導放出による光の増幅
1960 年 メイマン
ルビーレーザーの発振
↓
光科学の新時代へ
*レーザーの原理
*レーザーの仕組み
*レーザー光の特徴
*レーザーの応用
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原子による光の吸収・放出
E2
光
E = hν
= E2 −E1
E1
吸
収
誘
導
放
出
自
然
放
出
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レーザーの原理
光共振器
レーザー媒質
レーザー光
ミラー
反射率<1
ミラー
反射率=1
ポンピング
(→反転分布)
反転分布による光の増幅
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レーザーの発振
2枚の平行ミラー(光共振器)中のレーザー媒質に
ポンピングによって反転分布を作る
→
ミラーと垂直方向に進む光はミラーの間を往復して,
反転分布によって繰り返し増幅される
→
自然放出によって発生する光を種として,
レーザー発振が起こる
注) 実際には,発振波長や偏光を選択する素子や,
光のスイッチなどを入れる。
連続発振のレーザーとパルス発振のレーザーがある
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ルビーレーザー
(1960 年,Maiman が発明した世界で最初のレーザー)
ルビー=Cr3+:Al2O3(酸化アルミニウム結晶の Al3+の
一部を Cr3+イオンに置換,宝石のルビーより低濃度)
発振波長:6943Å=694.3 nm (赤色)
フラッシュランプによる光ポンピング → 反転分布
ルビーレーザーの構造(例)
ルビー中の Cr3+のエネルギー準位
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レーザー光の特徴
1)指向性 がよい=進行方向の広がりが小さい
→波面が揃っている→遠くまで広がらずに進む,レンズ
で小さい面積に集められる
→ 高輝度
2)単色性 がよい = 波長の広がりが小さい
(レーザー媒質,光共振器等による波長選択)
→ 狭い波長範囲にエネルギーが集中
→ 単位振動数当たり高輝度
3)強度が大きい:単位面積当たり,単位振動数
当たりの輝度が高い
また,パルス発振のレーザーの特徴として,
4)極めて短時間幅のパルス光が得られる:
10 フェムト秒 = 10−14 秒
(光が 3μm 進む時間)
→ 超高速現象の研究
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レーザーの応用
1)種々の物質・現象を調べる新分光法:非線形光学,飽
和分光,超高分解能分光,超高速現象の観測 ,・・
2)物理学の基礎理論の検証
観測の理論(量子力学),重力波(相対論),陽子の電
気双極子,素粒子の探索,・・
アルカリ原子のボーズ・アインシュタイン凝縮 (2001 ノーベル
賞,原子(ボーズ粒子)気体を冷却(レーザー冷却+磁気
光学冷却+蒸発冷却)
3)原子・分子の操作 (光の力学的効果の利用)
レーザ
ー冷却,トラッピング,レーザーピンセット,・・
4)医療,加工(光のエネルギー,熱的効果の利用,)レーザー
メス,眼科治療,固体材料加工,・・・
5)光通信,光コンピューティング:
半導体レーザーと光ファイバーによる大容量・遠距離通信
6)距離・変位・速度等の測定
月までの距離の測定,モアレ縞,ドップラー流速計,・・・
7)高密度記憶素子の読み取り・書き込みコンパクトディスク
(CD),光磁気ディスク(MO)
8)その他: レーザー核融合,同位体分離,ホログラフィー,ス
ペックル,・・・・・・・・
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朝日新聞
2004.9.24
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月のレーザー測距
1967 年アポロ 11 号
月面に反射器(約 1m×1m)を設置
反射器 =
コーナー・キューブ・プリズム
×100 個
↑
任意の向きの光線を反平行に反射
(反射器がかなり大きく傾いても OK)
地球から レーザーパルスを反射器に送る
∼1mφのビーム → 回折角∼10―6 rad
月面で約 400 mφの広がり
パルスエネルギー ∼1 J (∼1019光子)
1mφの望遠鏡で∼105 個の反射光子を検出
↓
∼1cm / 38 万 km の精度の測距
約 4cm/年のペースで月が遠くなっている
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レーザー冷却
原子に両側からレーザー光を照射する
(レーザーの振動数<原子の共鳴振動数)
ドップラー効果⇔右(左)に進む原子には,
右(左)からくる光の振動数が大きく見える
光子の運動量(p=h /λ)が原子に移る
⇒ 減速 ⇔ 冷却
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おわりに
20 世紀は電子の世紀
21 世紀は光子の世紀
とも言われます。
光科学(量子光学)の分野は,今世紀も,
物理学の新しい展開をリードする役割を持つ,
重要かつ興味深い分野であり続けるでしょう。
物理学を志す皆さんが,この分野の研究に
興味を持って挑戦されることを期待します。
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