定期水質調査について 上川町内を流れる石狩川に 3 ヶ所、支流である留

定期水質調査について
上川町内を流れる石狩川に 3 ヶ所、支流である留辺志部川に 1 ヵ所、合計で 4 ヶ所の測定ポイントを
設定し、毎月第 4 火曜日の 5・6 校時を基本として水質調査を行った。一年生全体を 4 つのグループに
分け、10 項目(気温を含めると 11 項目)を協力して調査している。測定項目は、気温、水温、化学的
酸素要求量、pH、アルカリ度、溶存酸素、電気伝導度、硝酸イオン、亜硝酸イオン、リン酸イオン、
透視度である。今年度使用した観測記録用紙を本項末に記載する。調査時には、安全面に特に注意を払
い、採水の際にはライフジャケットを着用、救命ロープを用意している。また、場合によっては、ゴム
長を着用し、川に入る場面も見られた。
水質調査班と自然観察班に分かれ、水中生物の捕獲・観察、川の付近にいる生物の捕獲・観察、川付
近の植物の観察などを行い、またスケッチして記録を行った。
○調査地点について(上川町内:定期調査ポイント)
上川町内の調査地点として、日東、石狩川の支流である留辺志部川、菊水橋、下水処理場の4地点
を設定し調査を行っている。昨年度まで、石狩川上流と呼んでいた箇所を今年度から「日東」と呼ぶこ
とにした。下水処理場のみ自転車を利用し、その他の3地点は徒歩で測定場所まで移動している。どの
地点も高校から15分∼20分程度の移動時間を要する。
下水処理場
図1
上川町内における
水質調査ポイント
日東
調査結果と考察
上川高校環境学習の集大成である「石狩川水質調査発表会」で1年間の調査結果および考察が披露さ
れる。「石狩川水質調査発表会」およびGLOBE活動に関わる生徒たちは、主に以下に示すデータに
基づいて研究発表を行っている。
(1) 定期水質調査(上川町:石狩川・留辺志部川)
(2) 石狩川遠征水質調査(上川町∼札幌市)
(3) 冬季における全国各地での雪の水質調査
(4) 大雪ダム水質調査(上川町)
(5) カナダ(海外派遣研修:ナイアガラの滝、バンフ国立公園など)
この中で(3)
「冬季における全国各地での雪の水質調査」
を中心に考察する。このテーマは、平成18年度の冬休みか
らスタートしたもので、2年生の本間亜由美、川村弥里、長
岡美恵が上川町および全道各地の積雪の水質比較を、pH、
COD(化学的酸素要求量)
、電気伝導度(EC)の項目で行
った。結果を表1に示す。
札幌
釧路
小樽
北見
上川
和寒
旭川
層雲峡
pH
6.3
7.9
7.1
7.1
5.8
7
7.7
6.7
COD
10
5
5
5
13
5
13
5
EC
109
26
64
54
32
34
73
23
表1 全道各地の積雪水質調査(平成19年1月実施)
全道各地で雪を採取しているが、これは上川高校教職員の帰省
先が点在していること利用し、調査にご協力願ったものだ。表1
の結果は、GLOBE 委員の彼女たちには衝撃的なものであった。
上川町の雪は、pH が5.8と酸性であり、加えて札幌市や旭川
市の都市部の雪よりも「値が良くない」のである。生徒たちも「酸
性雪」という言葉は聞いたことがあるが、まさか上川町で降ると
は思っていなかったようだ。雪は、軽く、表面積が大きいので、
大気中の浮遊物が付着しやすく、また運ばれやすい。おそらく、他の町(あるいは海外も含めて)の影
響を受けていることは間違いないと推測された。詳細はつかめていないけれども、これらの結果をまと
め、2年生の3名は、第9回高校生環境学習ポスターセッションに応募し、さらには平成19年10月
に行われた「北海道高校生環境サミット」で発表を行った。
北海道高校生環境サミットでの様子
高橋はるみ知事との記念撮影
高校生環境サミットでの上川高校の発表に対して、藤女子大学の小林三樹先生から助言をいただき、
「近年、話題になっている酸性雨よりも、軽くて表面積の大きい雪の場合は、有機物が付着し、また酸
性度も濃縮されやすく、汚染物質が比較的簡単に他の町へと波及してしまう」と危惧すべき問題に触れ、
質疑応答の制限時間を超えてまでも上川高校の調査内容についての感想を続けてくださった。彼女たち
は、自分たちの調査内容を認めてくれたと感動していた。
高校生環境サミットで、彼女たちは多くの刺激を受けて帰ってきた。
各学校の取組みは、上川高校が行っている環境調査とは異なり、ゴミ
の分別であったり、廃油から燃料をリサイクルするなど、エコロジー
に関わることばかりで、新鮮に映ったようだ。サミットを終えて以降、
他の部活動も行っている彼女たちは、GLOBE活動を自粛すること
も考えていたが、より詳細に「積雪」の調査を行いたい、加えてサミ
ットで知り合った高校生とのつながりも大事にしてきたいと思うよう
になった。つながりを持続するには、サミットで知り合った高校生と
雪の共同調査を行ってはどうかというアイディアが生まれた。他の学
校は、調査器具がないので、積雪のサンプリングをお願いし、私たち
が測定し、そのまとめを送付する形で進めてはどうかと考えた。さら
には、GLOBE 指定校にも調査依頼を行えば、全国的な規模の調査と
なる。諸々の郵送費用は嵩んだが、全国各地から送られてくる「雪解け水」が届くのを楽しみながらの
測定の日々となった。GLOBE委員が測定した全国各地の積雪水質結果と調査協力校を載せる。
滋賀県北部
函館
岐阜県瀬尻
EC
79
EC
42
EC
4.6
pH
4.7
pH
5.1
pH
6.6
COD
13
COD
COD
5
滋賀県八幡市
釧路
5
蘭越
EC
300
EC
6
EC
29
pH
5.6
pH
6.3
pH
6.8
COD
8
札幌
EC
COD
0
斜里
27
EC
COD
6
岩見沢
99
EC
88
5.4
pH
5
COD
標茶
pH
COD
5.4
5
pH
4.3
COD
20
洞爺
EC
25
EC
22.6
pH
6.5
pH
6.5
5
COD
COD
5
表2 全国各地の積雪の水質結果(平成19年12月∼20年 1 月実施)
調査にご協力いただいた学校は、表の記載順に、滋賀県東近江市立能登川南小学校、遺愛女子高等学
校、岐阜県関市立瀬尻小学校、滋賀県立八幡工業高校、北海道上ノ国高等学校、北海道蘭越高等学校、
北海道札幌藻岩高等学校、北海道斜里高等学校、北海道岩見沢農業高等学校、北海道標茶高等学校、
北海道洞爺高等学校です。本当にありがとうございました。
表2のデータは、非常に貴重なもので、都市部だからといって「値が良くない」、山間部だからとい
って「値が良い」とは限らないことがわかった。しかし、後で記載するように測定日、天候等異なるこ
とに加え、サンプリング数が1回であることから単純に比較は行えない。
また、近年、環境汚染の越境問題に関するニュースをよく耳にするが、GLOBE委員も、雪の 汚
染度 は、海外(特に中国大陸)の影響を排除できないと考えている。この調査については、上川高校
単独では実施が難しいことから、研究者に情報提供を依頼した。北海道大学低温科学研究所の石井吉之
先生は、快く私たちに教えてくださり、全国各地の降水(降雪も含む)のpHに関するデータをいただ
くことができた。図2のグラフより、春、夏は全国でpHはあまり変わらないが、西高東低の風が吹く
秋口から冬季において、日本海側のpHが低くなっていることがわかる。やはり、中国大陸の影響は間
違いなく存在することが改めてわかった。ただ、上川町まで到達しているかは、やはりわからない。こ
こでは載せていないが、電気伝導度については、冬季の値の大小は、潮風の影響を十分考慮するべきで
あるとの助言もいただいた。
図2 日本における降水中のpHの季節変化
(日本海側、太平洋側、全国平気の比較)
資料提供 (北海道大学低温科学研究所
寒冷陸域部門
石井吉之先生)
積雪の水質調査は、地元上川町でも詳細に行った。積雪のある日は、ほぼ欠かさず上川高校のグラン
ドの新雪をサンプリングし、解けるのに時間がかかるので翌日に測定した。すると、採取日によって値
が大きく変化することがわかり、値を推測しながらの測定が日課となった。それに伴い、原因追及のた
め、風向・風速を気象庁のホームページから入手し、ノートに記載することにした。次に平成19年1
1月から平成20年 1 月まで行った月毎のデータを載せる。
採取日
11/19
11/21
11/22
11/27
11/28
11/30
EC
53
29
8
41
12
65
pH
7.4
5
5.8
4.4
5.3
4.6
COD
10
10
5
10
13
10
風速
4.4
5.3
4.3
5.5
3.5
2.3
風向
採取日
西南西
西
西
西
西
西南西
12/5
12/7
12/17
12/19
12/20
12/21
12/30
12/31
EC
12
40
11
26
30
76
37
11
pH
5.9
5
5.6
5.1
4.8
4.6
4.6
6.1
5
10
5
5
5
5
10
5
風速
3.4
3.3
3.3
2.3
1.4
4.1
1.5
1.7
風向
西南西
西南西
西北西
西南西
1/2
1/3
1/4
1/6
1/7
EC
10
28
52
38
39
pH
6.8
6.3
5.1
5.1
4.6
COD
5
5
5
5
10
風速
1
1.6
3.7
1.9
3
COD
採取日
風向
西
西
西
西
西
西北西
西北西
西南西
西
表3 上川町の積雪の水質調査(平成19年11月∼20年1月実施)
表3をよく見てみると、水質は風向によって大きく異なることがわかった。特に上川町の風が「西南
西」であるときに、pHは低く、電気伝導度が高い傾向となっている。上川町から見て西南西の方角は、
都市部である旭川市の方角となる。
図3 上川町の雪の水質と風向との関係を説明するモデル図
図3は、雪の水質と風向との関係をわかりやすく説明するモデル図である。GLOBE委員2年の川
村弥里さんがポスター発表の際に作製したものである。表3では、風向は、上川町のみの表記だが、採
取日の天候をよく調べてみると風上である旭川市の風向も重要な要素であり、やはり旭川市の風向も
「西南西」の風が吹く時に、上川町には、付着物の多い雪となる傾向がある(図3 右側のモデル図参
照)。一方、図3の左側のモデル図のように旭川市、上川町とも西風が吹くときには、真水のように、
ほとんど何も含まない雪が降ることが多い。上川町の西の方角には、愛別町、比布町、和寒町などが位
置する。冬季は、一般に西風が吹くと承知しているが、上川町の降雪にとっては、西風と西南西の風は
大きな違いになるのである。ここで、旭川市と上川町の位置関係を説明するもうひとつの地図を見るこ
とにする。
東
上川町
旭川市街地
図4
旭川市街地から東の方角の鳥瞰図
図4は、旭川市中心部から真東の方向の鳥瞰図である。カシミール3Dで作製した。旭川市から上川
町までは、地形図のように高い山がなく、500m前後の山林が存在するのみで、やはり旭川市の影響
を受けることが十分推測される。上川町を中心に考えると旭川市は西南西の方角に位置することが良く
わかる。
結論として積雪がきれいかどうかは、その町自身ではなく、風上に位置する町の環境に大きく左右さ
れることがわかった。また、風向きは採取日によって異なることから、雪の調査を年に 1 度行った限り
では、深い考察はできないことがわかる。また、年に数メートル積もる雪も、きれいな雪、汚い雪のい
くつもの層になっていることが伺える。
ここまで調べてくると、雪の汚染度は、近隣に位置する旭川市での排気ガスなどに起因すると推測で
きるが、GLOBE委員は、雪の汚染を旭川市民のせいにはしていない。私たち上川町民も、同じよう
に乗用車を用い、暖房も使用しているからである。環境汚染を都市部のせいにするのではなく、日本全
体、世界全体で、どのように取り組んでいくかが重要なのであると彼女たちは考えている。
上川町にも(日によって異なるが)汚い雪が降るとわか
ってきたところではあるが、ただ、酸性雪も積雪し雪のま
ま存在しているかぎりでは、環境には影響を及ぼしてはい
ない。実際には、雪に含まれる成分が溶け出し、自然に放
散されることの方が問題である。GLOBE委員は、雪に
含まれる成分がどのように溶け出していくかを追跡するこ
とにした。グランドの積雪を採取し、その雪解け水を経時
的にサンプリングし、pH、電気伝導度を測定した。実験
は簡単なもので、右写真のように三角コーナーにびっしり
雪をひきつめ、ストーブで温め、底辺部の穴から流れ出る雪解け水の電気伝導度、pH値を測定するも
のである。測定値は、雪解け水の累積を測定したものではなく、一定時間内に流れる水毎に測定したも
のである。この実験は、根気のいる実験となった。信頼性のとれるデータを得るには、ある程度の雪の
量が必要で、その雪を解かしきるまでに5時間ほどを要し、放課後から開始したGLOBE委員は夜分
までの実験となった。しかし、10分毎の測定値は変化に富んだため、緊張感をもって調査に取り組め
た。結果を図5、図6に示す。
6.0
70
5.9
5.8
50
5.7
40
5.6
pH
電気伝導度(μS/cm)
60
30
5.5
5.4
5.3
20
5.2
10
5.1
5.0
0
30
80
130
180
230
30
280
80
130
180
230
280
雪の溶解時間(分)
雪の溶解時間(分)
図5 雪の溶解時間毎の電気伝導度値
図6 雪の溶解時間毎のpH値
グラフが示す通り、雪の解け初めは、急激に電気伝導度値が上昇し、pH値は酸性側へと変動した。
ピークに達した後、一気に電気伝導度は下降、pHは中性側へとシフトし、真水へと近づいていった。
この結果から、雪に含まれる有効成分は、初期のうちにほとんどが溶け出されることがわかった。思い
返してみると、凍らせたスポーツ飲料を解けないうちに飲むと非常に甘く、解けきった頃に飲むと味が
薄くなることを、既に幼少の頃から経験済みであった。文献(1)を調べていくうちに、酸性に起因する
成分が雪解けの初期に一気に放散される現象を「アシッド・ショック」と呼んでいるそうだ。
また、別の考察として、電気伝導度値の最後は、真水同様の値に近づくことに比べ、pHは5.6程
度よりも中性に近づくことはなかった。この理由として、雪が室内のストーブの近くに配置したため、
(1)式に示す二酸化炭素が水に溶解する時の炭酸平衡が影響していたのではないかと推測している。
CO2+H2O
HCO3―
+ H+
・・・(1)
酸性雨の基準が5.6以下である理由が、この実験でも裏付けされていると考えている。すなわち、
ただ単に二酸化炭素が十分にあるところでは、pHが5.6前後まで下がるので、それ以下でないと酸
性雨とは呼ばないということである。
話を「アシッド・ショック」に戻す。今回の実験で得ら
れた知見である、有効成分が雪解け初期に一気に溶け出す
ことが、実際の自然の中でも起こっているかどうかを、1
年生のGLOBE委員と3月下旬に行う予定である。春先
から行う「石狩川水質調査」では、川の水は、十分にきれ
いな数値として表れる。上川町に降った酸性雪の成分は、
どこかで吸収されているはずである。
以上、積雪の水質調査について考察してきたわけである
が、ちょっとした調査がここまで進むとは、当初は考えて
いなかった。今後も積雪調査に限らず、ちょっとした生徒たちの疑問に答えつつ、発展できるテーマを
模索していきたい。
(参考文献)
・・・
(1)
「酸性雨」畠山史郎 著 日本評論社