トウキョウ ブロンド - Edwina Hoerl

マルティン・クバチェク
トウキョウ
ブロンド
トランプカードの絵のように。その人工芝のシバフに横たわる、ブラームスの
歌のような花を散らした草原に、薔薇を刺した草原に、その覆いの下へお入り。
ふたりの女性、女性と女性が、よく子供のころに掛けぶとんの下に潜り込んだ
ように、足と足とを寄せ合い、足を頭に、頭を足につけて、さながら空無の中
へ落下するように、この落下を受け止める神の手、ただようようにやわらかく
着地した、そうではない、牧場の牧歌に抱かれたのだ、金色の巻き毛、わたし
の日本の天使。
貧しい装い。少々短く、少々細すぎ、少々幅が広すぎる、少々「間違った」と
ころに切込みが入り、肩がいかってせりあがいる。パンツには皺がよっている
のは、姉妹のお下がり、姉妹の愛情、姉妹の服。なぜ兄弟のズボンとは言わな
いのだろう?
ここに寝転がっているのは二人の女の子。花咲く野原の天国の
中で夢見ながら、自己に沈潜してゆく。重心、天への軸は、臍から発する。世
界の根源。見ること、ではなく、見えないもの。星の銀貨の童話の、エプロン
を広げる少女、灰被り姫とマッチ売りの少女。
ひとりは甘く、ひとりは苦い。白いチョコレートと茶色いチョコレート。赤い
ソックスと緑色の。彼女たちの手の風袋は飛び去る。
、巻きつけ、か羽織る、刺
繍の、手縫いの、モカシン靴、花模様、親しさ。なぜ目をぱちくりするの?
す
こしばかりつんとすまして、すこしばかり呆然とこっちを向いて。それからこ
の座るバレエの中へ。回転木馬、足はバラ色に空色に飛ぶ、金色のレギンス(脛
当)をつけて。サウンド・オヴ・ミュージック、白いリンネルの袋の波模様の
なかに投げ込まれる、もう一つの袋は黒。音楽は聞こえない、衣服の中に音楽
は見える。ザ・ヒルズ・アー・アライヴ。
さまざまな境い目にそばだつレース模様。東方の、聖霊降臨祭の、さまざまの
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民謡を、掴んで君は僕の髪の毛の中にさし込む、そんなふうにぼくらは子供の
頃に花を、お祝いの行進の列の前に投げ散らしたものだ、聖体顕示台の黄金色
の輝き、その上には天が、金色に塗った柱によって支えられて架かっている。
一方の手は君のお腹の上に、それは暖かさと信頼だ。エドヴィーナ、と金色と
青の袋が言う。モンゴルのズボンとレントラーの舞踏会の夜会服。青いトルコ
風の上着に、編み合わせた素材のこのベルト、ぼくはそれが好きだ。サウンド、
と胎内から囁く。耳を澄ませ!
ここに二人は横たわる、たくましく、恥じらいもなく、両足をくの字に踏ん張
って、二重の A の字型に。ガチョウとガチョウ、胸も袋も二重に、対角線をな
して、絵の中を進行する。気が散ったり集中したり、形を決めたり解いたり、
このような二つ巴となってさまざまな形が戯れる、それは二つのからだの組み
立てる三角形のコンポジションとなり、ふたたび合体して A の字を形成すると、
イエスと言う承諾、肯定、承認、時代からの脱出、プライベートな憧れの中へ
と、小さな夢の中へと入り込み、大いなるものへと旅立ってゆく。
このままでいい?
あたしがみえる?
そこにいるのね?
あたしがわかる?
御覧よ、あなたのためにおめかししたの。あたしの方をを見おろしてよ、小さ
な獣さん。こうしてあたしたち草原の上を、浮かび漂っているの、ホヴァーリ
ングよ、ハチドリの飛び方をそう言うの(ハチドリ飛び、って?)、でもあたし
たちは羽ばたかない、空気の渦をこしらえたりしない、翼で漕ぐなんて苦労は
しない、翼を羽ばたきもしない、水上停止のような姿勢もしない、底へ潜りも
しないの。雲となって飛ぶの。一つ雲にあたしたちはなって、下を見おろすの、
地面すれすれに飛び、人口芝の中を見おろすの。
おばあさんの布。おばあさんの料理。釉薬と陶器。花の入った食器と鍋。台所
の食器棚とベランダ。林檎の木の庭と庭の花。逆立ちしてわたしは歩く、とツ
ェランはビュヒナーのレンツに言う、天は頭上の奈落、と。あなたは漂う、草
原の天井を、そしてわたしを見おろす。宇宙船のカプセル、無重力、わが草原
宇宙飛行士?
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あなたはこの草原の天空に横たわり、あなたの方をわたしは見上げる。バラ色
の星が、撒き散らされ、あなたは暗い天の川、茶色のヴェスト=西、東には靴
が金色。そこにはもっと明るい花の星が光っているの?
ン?
ア・ブライター・サ
小惑星、配置、星座、花の天、花の子供。
江戸とウィーン。君の名の中にはその両方がある。ウ‐イン。ウ‐イ‐ナ。そ
してエ‐ド。エド‐ウイナ。エドウィナ。名前の中でのように御伽噺と現実が
出会う。名前の中に君は自分が掬われて決められるのが分かるだろう。EH、そ
れはさながら、刺繍されて、緑の地に記された額縁。
〈ザ・グローバル・ヴレッ
ジ〉ガールが草原に寝そべって〈ザ・ヴィレッジ・クライ〉を読む。天からの
呼び声が村に命中する。しなやかな暗色のビロード。別の時代から来たような
雑誌。引用と想い出。そしてあらゆる慰め。復活。小枝には薔薇の花。灰の水
曜日、洗足木曜日。聖金曜日。ウメとサクラ。
跳ねるように走っているところを射当てられ。眠れ、よい子よ眠れ。きみの頭
の天辺に小さな、白い鞠。あのやわらかなモカシン靴、それは少女のまわりに
撒き散らされた、御飯粒みたい:豊穣。卵はどれもがガチョウの子、どの卵も
ひとつの誕生、どの卵もひとつの可能性、ひとつの思想、ひとつの
れともひとつの
フルフト
,実。そ
フルヒト
,怖れ。崩壊、破裂。花の羽毛。何にわたしたちはなるのだ
ろう?
それから花は夏の花火のように飛び散るのだ。江戸川の八月。川岸には何千、
何十万もの人々、江戸川、隅田川、多摩川、どこもかしこも大掛かりな夏の花
火が、夜闇に巨大な花を咲かせ、流れ星のようにあっという間に咲き終わるが、
空をありとあらゆる色に染め上げる。紫、銀、白に緑、それからふたたび空は
インクの色の夜闇に沈むと、そこにすだく蟋蟀の音、人もまた濡れた筆のよう
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に蒸し暑さの中へと浸される。誕生と忘却、身近と眠り。
(黒い袋の中に何をも
っているの?と聞きたくなる。眠りの手袋?
それじゃあ君の黒い服の中は
何?)
黄金のマント、金襴緞子。結婚式のためのような白さ。おごそかなことは祝祭
の日のようだ。田舎の子供時代の祭りの服のような、晴れがましさ。日々がま
だ真新しく特別のものだったころ。初めての聖体拝領、世俗的な聖なる諸々の
儀式。堅信を受ける者、それは私たち自身だ!
姉妹の服の中に身をすべり込
ませる。わたしたちは年をとる。わたしたちは新しくなる。生まれたてのよう
に、卵から孵る。昔の自分の中へすべり込み、戯れに新しい衣装をまとい、い
たれりつくせりのやさしさにつつまれて日がなほとんど遊び暮らしてしまう。
なにか暖かなものがわたしたちを包み込む。夜の暖かさが。
不図、不意打ちがやってくる。学生服。学校の青。女子用上着、女子用鞄、十
二歳の少女の時期、成長したことへの覚醒。米粒は、不定形に撒き散らされ、
その合間合間には台形が。人形のように押し付けられて座った姿勢に、両足は
シュパガート
ほとんど
,前後開脚座に。馬鹿なお人形さん、お座り!
転んじゃだめよ!
そして輪から、お皿の服から、君の可愛い口。
衣服はそこに横たわっている。衣服はわたしを惹きつけ、装う。衣服はわたし
に見せてくれる、頁を開くとはどういうことか、を。わたしは書物に読みふけ
るように、衣服に読みふける。きみが語って聞かせるひとつの物語、沈黙の中
で、布のみが語り、そのカットのみが語る。それから終いに、もうひとつの印。
明るいコケモモ色で服は語り、
ヒッポファエ
,砂丘茨の橙色で柔らかなマントは語る。
黄金色の髪の冠の中に、大きな A の字に少女は横たわる。豊満にここに身を横
たえる、黄金色のメドゥーサ、蛇の頭などない、すっかり開かれて。小さな王
子。小さな王女。(これは薄いショール。これは柔らかな結末。)
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須永恆雄 訳
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