2015年4月2日 2015年度入学式 式辞 東洋英和女学院大学 学長 池田明史 新入生の皆さん、東洋英和女学院大学への御入学おめでとうございます。また、ご息女 を今日まで支え、見守ってこられたご両親をはじめ、ご家族の皆様のこれまでのご苦労に 対しまして心より敬意を表し、革めてお慶び申し上げます。御来賓の皆様におかれまして は、御多忙の折に御臨席賜り、厚く御礼申し上げます。 さて、皆さんは本学を選んで受験して入学されたわけですから、この東洋英和女学院大 学の成り立ちや内容についておおよそのところはおわかりいただいているかと思います。 大学の母胎である東洋英和女学院は、いままさに創設以来 131 年目の歩みを踏み出したと ころです。昨年の NHK の朝の連続テレビ小説「花子とアン」の主要な舞台となったことで、 英和が脚光を浴び、何かと話題になったのはご承知の通りであります。これだけ長い歴史 と伝統を持つ女子教育機関は日本でもそう多くはありません。皆さんに期待したいのは、 ぜひ、この東洋英和の歴史を新たに紡いでいく一人ひとりになっていただきたいというこ とです。 歴史といいますと、皆さんにとっては学ぶ対象、あるいはこれまで勉強してきた教科で あって、皆さん自身が歴史の一部であるという感覚は乏しいのかもしれません。しかしな つど がら、いまこのときに皆さんが集 っているこの講堂は、もともとは学院創設 50 周年を目 前にして 1933 年に落成した旧館マーガレット・クレイグ講堂の雰囲気をほぼ忠実に受け継 いで、復元された空間であります。前方両脇に掲げられている英和の建学の精神「敬神」 まこと と「奉仕」の二つの扁額は、当時内閣総理大臣を辞任したばかりの子爵・斎藤 実 海軍大 ゆかり 将の手による書であり、彼の夫人が初期の英和卒業生であった所縁で 50 周年記念式典に列 席しこの揮毫を快諾したという経緯があります。 1933 年といえば、ドイツにおいてアドルフ・ヒトラーが政権を取り、世界が第二次世界 大戦に向けて転げ落ちていく起点となった年ですし、翌年の英和 50 周年でこの場で祝辞を 述べた斎藤大将は、その僅か二年後に起こった 2.26 事件で内大臣として陸軍青年将校たち の標的となり、射殺されます。英和の OG である春子夫人は、夫に覆いかぶさって「私も撃 ちなさい!」と叫び、彼を守ろうとして自らも負傷したというエピソードも伝わっており ます。 こもごも 皆さんがいま座っているこの空間と備品とは、現代史のこうした交 々 の事件や事情がさ まざまに連なり、折り重なっている「場」なのです。もとより、歴史を新たに紡いでいく というのは、単にこの英和の「来し方」すなわちこれまでの歩みを想起するというだけで は実現しません。建学以来のスクールモットーである「敬神奉仕」の精神も、ただオウム のように文字面を繰り返してばかりいるのでは意味がないでしょう。いま、求められてい るのは、「来し方」を振り返りつつも、「行く末」を見据えて何をするかという姿勢にほか なりません。大学は、東洋英和のファミリーの中では最も若いメンバーで、創設されてか ら漸く四半世紀、25 年を歩んで来たに過ぎません。ですがそれだけに、未来に向き合い、 何ごとかをなそうとする意欲には溢れています。古い学校の新しい「場」であろうとして いるのです。 私たちの生きているこの時代は、おそらく英和が創設された明治の前半期や、それから 半世紀を経た 1930 年代と同様に、あるいはそれ以上に、非常に激しい変化の荒波に晒され ています。こうした大きな変化の時期には、その変化の意味や方向を歴史的な視野の中で 捉える姿勢を持たないと、一方的に押し流されてしまいます。人間科学科に入学された皆 さんであれば、例えば遺伝子技術の発展によってクローン人間が作れたり、人間の病気や 寿命が操作できたりする時代になって、ヒトの「生」や「死」、あるいは「心理」や「哲学」 はどのように変容するのかといった問題に突き当たるでしょう。保育こども学科の新入生 であれば、 「次の世代」を担うこどもたちが、いったい私たちの何を継承し、何を捨て去ら なければならないのかという難問が待ち受けているはずです。翻って国際社会学科に入学 された皆さんが直面するのは、かつては世界にとって「善い社会」を作るためにはどうす ればよいのかを考えようとしていたのに対して、いまや何が善くて、何が善くないのかと いった根本的な問題からの問い直しにほかなりません。さらに、国際コミュニケーション 学科の新入生諸君は、例えばアルカーイダや「イスラーム国」といった想像を絶する異質 な他者と、私たちはまともに向き合うことができるのか否かという喫緊の課題を考えなけ ればなりません。 皆さんには、自分がこの大学で学ぶことの意味、学び方を、ときにはいまの学問のあり 方に対する批判的な視点も持ちながら、しっかり考え、行動していただきたいと思います。 人間科学部で学ばれる皆さんの中には、臨床心理士とか、保育園や幼稚園の先生とか、す でに「成りたい自分」が見えている人もいるでしょう。国際社会学部に入学される皆さん ならば、商社や航空会社で颯爽と働く自分の姿をすでに思い描いているのかも知れません ね。通訳や学校の先生を目指している人もいるのではないでしょうか。あるいは、何にな りたいのか、それを見つけるためにやってきた、という人もいるにちがいありません。そ れがどのようなものであれ、私ども教職員は、皆さんが「成りたい自分」を発見し、それ を実現するための努力に、可能な限り寄り添い、全力で支えていくつもりです。皆さん、 東洋英和女学院大学にようこそ。私たちは、皆さんの入学を心から歓迎いたします。
© Copyright 2024 Paperzz