262KB - 「はたらき」を化学する 三洋化成工業株式会社

川上貴教
機能樹脂研究部ユニットチーフ
[紹介製品のお問い合わせ先]
当社安井事業本部樹脂産業部
プラモデルの組み立てや日曜大
高くなると接着強度が著しく低下
工などで液状の接着剤をよく使っ
する、②図2のように加熱溶融装
これまでのホットメルト接着剤
ているが、ホットメルト接着剤は
置(アプリケーター)が必要とな
は、アプリケーターでの加熱溶融、
見たことがないといわれる方が多
ることなどがあげられる。
被着体への塗布、はり合わせ、冷
反反応性ホットメルト接着剤
却固化からなる接着工程において
いことだろう。身近でホットメル
ト接着剤が使用されている例とし
ては、アイロンを使ったズボンの
120
すそ上げテープなどがあげられる。
100
ホホットメルト接着剤
ホットメルト接着剤は、溶剤を
101
93
92
87
80
含まないためVOC(揮発性有機化
生
産 60
量
合物)を削減できる環境へ配慮し
40
た接着剤である。また、熱可塑性
118
108
20
(加熱すると溶融し、冷却すると固
化する性質)であるため、主要な
接着工程は塗布と溶融物の冷却固
0
2000 2001 2002 2003 2004 2005年度
図1●ホットメルト接着剤の国内生産量(単位: 1,000 ㌧)
化であり、主に使われている液状
接着剤に必要であった加熱乾燥工
コントロールパネル
程を省くことができるので、生産
ソレノイドバルブ
▲
性の向上やエネルギー消費量の低
減につながる。
自動ガン
▲
ホットメルト接着剤は、高温で
ノズル
▲
の加熱乾燥が行えない紙おむつの
製造や包装、製本、部品の組み立
てなどに使われてきた。さらに近
年、環境への配慮ならびに生産性
ホットメルトアプリケーター本体
(加熱溶融装置、ポンプなどを内蔵)
▲
加熱ホース
向上によるコストダウンを目的に、
建材、家具木工や自動車部品など
の用途にも需要が高まり、その市
場は拡大している[図1]
。
ホットメルト接着剤の長所は前
述のとおり、①無溶剤である、②
接着が速い、③自動化、省力化が
図れるなどである。一方、短所は、
①熱可塑性であるため環境温度が
マルチドット
ビード スパイラル コーティング ドット 図2●ホットメルト接着剤アプリケーターの構成と塗工方式の例
三洋化成ニュース
➊ 2007 春 No.441
ビード スロットスプレー
改善した接着剤である。その接着
非反応性ホットメルト接着剤 反応性ホットメルト接着剤 液状反応性接着剤
強度が、経時的に発現していく様
子を従来の2種の接着剤と比較し
て図3に示した。
化学反応
による硬化
接
着
強
度
反応性ホットメルト接着剤とし
て主に使用されているのは、ウレ
タン系反応性ホットメルト接着剤
冷却固化
で、イソシアネート基末端ウレタ
ンプレポリマーが主成分である。
図4に示すように、イソシアネー
経過時間
ト基と空気中の水分が反応するこ
図3●各種接着剤の経時時間における接着強度
とによって生じるカルバミン酸が
O
R−NCO + H2O R−NH−C−OH R−NH2 + CO2↑
カルバミン酸 一級アミン 二酸化炭素
二酸化炭素を放出してアミンとな
り、これと別のイソシアネート基
が反応し尿素結合を生成する。さ
O
らにビュレット結合、アロファネ
R−NCO + R−NH2 R−NH−C−NH−R
ート結合などが順次生成すること
尿素結合
O
O R O
R−NH−C−NH−R + R−NCO R−NH−C−N−C−NH−R
によって、3次元構造の網目鎖を
形成していく1)。
表1に示すように、イソシアネ
ビュレット結合
O
O R O
R−NH−C−OR′ + R−NCO R−NH−C−N−C−OR´
アロファネート結合
図4●反応性ホットメルト接着剤の湿気硬化反応の硬化機構
ート基末端ウレタンプレポリマー
の原料(ポリイソシアネート、ポ
リオール)は種類が豊富であるこ
とに加え、添加剤の配合も容易で
反応を伴わない非反応性ホットメ
た。この問題を解決したのが反応
あるので、接着剤に求められる
ルト接着剤が主流であった。
性ホットメルト接着剤である。
種々の性能を発現することが可能
反応性ホットメルト接着剤は、
しかし、ホットメルト接着剤の
である。
用途拡大に伴い、接着後の被着物
化学反応でその構造を3次元架橋
2005年度のホットメルト接着剤
が熱可塑性樹脂の弱点である高温、
形態にし、樹脂強度を上げること
の国内市場は、図5に示すとおり
高湿下で使用され、簡単にはがれ
で接着強度を向上させ、耐熱、耐
約 480 億円で、このうち反応性ホ
てしまうといった問題が生じてき
水、耐湿熱などの耐久性を大幅に
ットメルト接着剤は約24億円であ
表1●ウレタン系反応性ホットメルト接着剤の主な組成および特徴など
構成成分
①ポリイソシアネート
種 類
芳香族系
脂肪族系
ポリエステル系
②ポリオール
特徴など
硬化速度、凝集力に優れる
ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなど
耐候性に優れる
次のポリオールとジカルボン酸からなるポリエステル
ポリオール:エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネ
凝集力に優れる
加水分解性に劣る
オペンチルグリコールなど
ジカルボン酸:アジピン酸、セバシン酸、イソフタル酸など
ポリエーテル系
③添加剤
組成例
ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートなど
ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、
柔軟性、低温特性に優れる
ポリテトラメチレングリコールなど
耐熱性に劣る
その他
アクリルポリオール、ポリオレフィンポリオール、エポキシ樹脂など
相溶性、凝集力の付与
粘着付与剤
ロジン系樹脂、テルペン系樹脂など
初期接着強度の向上
安定化剤
酸化防止剤、紫外線防止剤など
熱安定性、耐候性の向上
充てん剤
無機フィラーなど
機械物性の向上
その他
可塑剤、軟化点向上剤、触媒など
三洋化成ニュース
➋ 2007 春 No.441
拡大に伴い、反応性ホットメルト
接着剤はさらに性能の多様化、高
性能化、機能の複合化が要求され
エラストマー系
48%
EVA樹脂系
25%
ているが、従来の反応性ホットメ
ルト接着剤では、表2に示すよう
出荷金額
480億円
ポリアミド系
4%
に、初期接着強度、熱安定性、保
存安定性が十分でないことに加え、
反応型
5%
1つのニーズにしか対応できない。
オレフィン系
7%
ポリエステル系
11%
例えば、塗工性を重視し低粘度に
設計すると、塗工直後の接着強度
が得られない。また、極性に差が
出所:粘・接着剤市場および応用分野の現状と将来展望(富士経済)
図5●ホットメルト接着剤市場(2005 年)
ある異種の被着体に対する接着強
度が劣るなどの課題がある。
り、全体に占める割合は約5%で
レストなどに使用され、ヘッドラ
そこで当社では、これらの機能
ある。反応性ホットメルト接着剤
イト周りにも一部使用されている。
をすべて満足し、極性に差がある
の需要量はまだ少ないが、10年間
これらの分野を中心とした用途
異種の被着体もはり合わせること
で需要量は約3倍の伸びを示して
写真1●建材・家具木工に
おり、今後ますます期待は大きく
なっている。最近では、建材、自
動車部品などの耐熱性、耐久性が
要求される用途には反応性ホット
メルト接着剤が使用されるように
なってきた[ 写真1、写真2]
。
反応性ホットメルト接着剤の主
要用途は建材・家具木工(62.5%)
、
次いで自動車(25.0 %)
、その他
(12.5%)の順になっている。その
写真2●自動車部品に
他の用途としては繊維のはり合わ
せ、製靴、製本などがあげられる。
建材分野では玄関ドアのハニカ
ム材、外壁サイディングボードの
出隅部、システムキッチンパネル
などと表面化粧版の接着、建材各
種ボード類への表面化粧シートの
プロファイルラッピングなどに使
表2●非反応性と反応性ホットメルト接着剤の特徴
用され、家具木工では家具の組み
非反応性ホットメルト接着剤
立て、いすの組み立てなどに使用
される。
長所
自動車分野では天井材、座席シ
ト、ホイルカバー、サンバイザー、
エマルジョン、溶剤型に比べて接着時間が短い
自動化、省力化が図れる
不要時には再加熱により解体が可能
反応硬化後は各種耐久性に優れる
専用の塗工装置(アプリケーター)が必要
ート用途を中心にドアカーペット、
ドア内装モール、ドアオーナメン
反応性ホットメルト接着剤
無溶剤である
作業環境温度の影響を受けやすい
短所
初期の接着強度が低い
熱可塑性であるため耐熱性に限界がある
ブラケット、リアトレー、ヘッド
熱安定性が悪い
保存安定性が悪い
三洋化成ニュース
➌ 2007 春 No.441
ができるポリマーアロイ型反応性
海成分 低極性樹脂
(低粘度、
低極性材料との密着性付与)
ホットメルト接着剤を開発した。
島成分 高極性樹脂
(初期の接着強度、耐熱性付与)
ポポリマーアロイ型反応性ホッ
低極性材料
(オレフィン
系ゴムなど)
トメルト接着剤
湿気硬化
当社の反応性ホットメルト接着
剤『ワイティメルト』シリーズは、
当社独自のポリマーアロイ化技術
により海−島構造をコントロール
(モルフォロジー制御)することで
硬化反応前
ポリマーアロイ型
高極性材料
(木質材料など)
硬化反応後
3次元架橋
従来のホットメルト接着剤にない
図6●『ワイティメルト』の設計コンセプト
機能を付与することが可能となっ
強度を発揮し、かつ③硬化後は各
ざまな用途に展開している。最近
た。図6は『ワイティメルト』の
種基材に対して優れた接着性、耐
では高耐熱型ホットメルトとして
コンセプトモデルである。
熱性および耐久性を示す点である。
UV ・ EB、可視光硬化型ホットメ
島成分の粒径がナノオーダーで
一例として、建築材料の接着に用
ルト接着剤などの新しい反応シス
安定した海−島構造をしている。
いられる『ワイティメルト SKR』
テムを導入したホットメルト接着
ポリマーアロイは、化学構造の異
シリーズは、塗工直後から接着強
剤や、導電性、親水性、生分解性
なる非相溶のポリマーどうしが、
度を発揮するため養生時間がほと
などの機能を付与した接着剤も開
安定なミクロ相分離状態を形成す
んど不要で、オレフィン系ゴム質
発されている。今後、当社におい
ることで、海、島それぞれのポリ
基材(表面未処理)と木質材料と
ても時代のニーズに適合したさら
マーの有する性能が相殺されるこ
いった極性の異なる被着体に対し
なる高性能・高機能化を図り、ま
となく発現できるので、単一ポリ
て優れた接着強度を示す。表3に
た使用後のリサイクルが可能なホ
マーでは応えられなかった多様化、
『ワイティメルト SKR』シリーズ
ットメルト接着剤の製品開発に取
高機能化、複雑化したニーズへも
の物性、性能を示す。
り組んでいる。
対応可能となった。
『ワイティメルト』シリーズの
ホットメルト接着剤が開発され
特長は、①低粘度のため塗工しや
て、すでに 40 年以上が経過した。
すく、②塗工直後より十分な接着
この間の発展は目覚ましく、さま
参考文献
1)岩田敬治編著『ポリウレタン樹脂ハン
ドブック』日刊工業新聞社
表3●『ワイティメルト SKR』の物性および性能比較例
項 目 溶融粘度 120 ℃(mPa・s)
物
性
性
能
軟化点(硬化前)(℃)
引張強さ(硬化前)(MPa)
(初期接着強度)
引張強さ(硬化後)(MPa)
硬化後耐熱クリープ性*1
被着体:綿帆布/合板
熱安定性(時間)*2
『ワイティメルト SKR-500』
市販ウレタン系反応性ホットメルト
10,000
18,000
80
75
1.0
0.3
31
25
130 ℃以上
130 ℃以上
11
4
14(ホットメルト接着剤の材料破壊)
4(ホットメルト接着剤の材料破壊)
32(合板表層材料破壊)
25(合板表層材料破壊)
接着強度(N/25mm)*3
①オレフィンシート*4 /合板
初期(塗工直後)
硬化後(72 時間後)
②オレフィン系ゴム質基材*5 /合板
初期(塗工直後)
硬化後(72 時間後)
*1
*2
*3
*4
*5
12(ホットメルト接着剤の材料破壊)
3(ホットメルト接着剤の材料破壊)
26(合板表層材料破壊)
6(オレフィン系ゴム質基材界面破壊)
昇温クリープ試験 0.4 ℃/ min 落下温度(25mm 幅はく離、500g 荷重)
120 ℃空気雰囲気下に加熱滞留させたとき、120 ℃溶融粘度が初期粘度の2倍になるまでの時間
引張速度 300mm/min(180 °はく離)
オレフィンシート:表面プライマー処理
オレフィン系ゴム質基材:表面未処理
三洋化成ニュース
➍ 2007 春 No.441