31班 静岡市保健所における食中毒対策と病院立ち入り検査 A04049 高木 保 A04055 土屋 一夫 A04072 堀池 安意 食中毒対策について 食中毒患者の届出の情報経路 ♦ 医者からの届出(食品衛生法第58条及び同法施行規則第22条) 確認事項 ① 医師の氏名 ② 患者の住所、氏名、性別、年齢 ③ 食中毒の原因 ④ 発症年月日、時刻 ⑤ 診断、検案年月日、時刻、診断名 ⑥ 患者の勤務先、学校名など ⑦ 患者の臨床症状、予後 ⑧ 糞便、血液、吐物、汚物等の検査状況 ⑨ 治療状況 ⑩ 単発、集団発生の別 ⑪ 発症前の行動、喫食状況 ♦ 患者等からの連絡 確認事項 ① 連絡者の氏名、住所、連絡先 ② 患者の住所、氏名、性別、年齢 ③ 患者の勤務先、学校名など ④ 症状、発症年月日、時刻、受診の有無 ⑤ 吐物、排泄物、食品残留の有無 ⑥ 発症前の行動、喫食状況 ⑦ 患者の周辺者の発症状況 ♦ 消防署等の関係機関、学校、営業者等からの連絡 確認事項 ① 連絡者の氏名、住所、連絡先 ② 患者発生の年月日、施設等の名称、所在地 ③ 症状、患者数、患者数、死亡者数 ④ 患者の性、年齢分布 ⑤ 発症前の行動、喫食状況、給食状況 の3パターンがある。 医師として注意すべき点は、患者さんに対し安易に食中毒といわないこと。なぜなら、 「食 中毒」=原因施設への賠償請求という被害観念をもつ患者さんが多いからである。後々に なってあのとき食中毒だと言ったではないか、といわれ医師としては困惑するケースも出 てくる。 食中毒に関する医療側と一般の人との差は大きく隔たっている。例えば、一般の人はま ず直近の食事を汚染源として疑う傾向がある。しかし、実際には潜伏期間があり、4,5 日前だったりすることも間々ある。他の例を挙げてみると、一般の人は、食肉類は新鮮で あるほど安全であると思っている人が多いようだ。しかし中にはカンピロバクターのよう に鮮度の高いものの方がかえって危険な食品もある。 食中毒による被害、損害金額は、患者1人あたり約10万円、1施設あたりの損害金額は、 500万円程度となっている。このようなことを踏まえ、衛生管理を徹底する必要がある。 平成17年度の静岡県における食中毒の発生件数は27件で、患者数は1307人。 原因物質は、ノロウイルスが10件、腸炎ビブリオが6件、サルモネラ属菌および病原大 腸菌が各3件、黄色ブドウ球菌2件、カンピロバクター、セレウス菌、ヒスタミンが各1 件。 (表1) 病因物質別発生率 4% 4% 4% 7% 37% 11% 11% 22% ノロウイルス 腸炎ビブリオ サルモネラ属菌 病原性大腸菌 黄色ブドウ球菌 カンピロバクター セレウス菌 ヒスタミン 腸炎ビブリオは魚介類をよく摂取する静岡県に多い病原菌である。また、全国でもっと も食中毒の届出の多い都道府県は、広島県で、日本のカンピロバクターが原因となる食中 毒のうちの半数以上を占めているといわれている。 昨年度静岡市保健所管轄内では、9件の食中毒感染があり、患者数は244人であった。 3月には、市内の有名食堂で集団食中毒があり、1ヶ月営業が禁止された。この店は多く の観光客が訪れる場所であったため、この店が営業できなくなっている間隣にある同系列 のお店にお客さんが流れるという現象がおきた。この時保健所は、前者の店を営業禁止に するとともに、顧客の急激な増加に伴って2次的に食中毒が起きることを防ぐために後者 のお店の営業指導も行った。 保健所における医療法第25条の規定に基づく病院立ち入り検査 1.根拠 医療法第 25 条 「都道府県知事、保健所を設置する市の市長又は特別区の区長は、必要があると認めると きは、病院、診療所若しくは管理者に対し、必要な報告を命じ、又は当該職員に、病院、 診療所若しくは助産所に立ち入り、その有する人員若しくは清潔保持の状況、構造設備若 しくは診療録、助産録、帳簿書類その他の物件を検査させることが出来る。」 2.目的 医療法第 25 条第 1 項の規定に基づき、病院が医療法その他の法令により規定された人員 及び構造設備を有し、かつ、適正な管理を行っているか否かについて検査することにより、 病院を科学的で、かつ、適正な医療を行う場にふさわしいものとすることを目的とする。 3.対象施設 静岡市では、市内のすべての病院について、毎年実施する。診療所は概ね3年毎に実施 する。 4.検査員 保健所長、医療監視員、薬事監視員、保健師、栄養士、食品衛生監視員、環境衛生監視 員、廃棄物担当職員、消防職員 など 5.監視項目 ・医療従事者数 ・病室の定員遵守 ・毒劇薬の区別と施錠保管・表示 ・院内掲示 ・感染性廃棄物の処理 ・放射線管理 ・医療事故防止対策及び院内感染防止対策 病院立ち入り検査 *放射線部 医療監視員による放射線担当業務 (1)診療用放射線の設備構造に関すること (2)エックス線装置等の測定と記録に関すること (3)放射線照射録に関すること (4)放射線従事者の被ばく防止に関すること (5)診療用放射線の届出に関すること 主な検査項目 ・管理区域 ・敷地の境界等における防護措置 ・放射線障害の防止に必要な注意事項の掲示 ・放射線装置・器具・機器及び同位元素の使用室・病室の標識 ・使用中の表示 ・取扱者の遵守事項 ・従事者の被ばく防止の措置 ・患者の被ばく防止の措置 ・器具又は同位元素で治療を受けている患者の表示 ・使用・貯蔵などの施設設備 ・照射器具及び同位元素の管理 ・障害防止措置 ・閉鎖施設の設備・器具 ・放射性同位元素使用室の設備 ・貯蔵箱等の障害防止の方法と管理 ・廃棄施設 ・通報連絡網の整備 ・移動型エックス線装置の保管 ・陽電子断層撮影診療用放射性同位元素の使用体制の確保 *検査部 検査部では主に薬品、毒劇物の管理と廃棄物処理の視察を行った。 医薬用外毒物は赤地に白字、医薬用外劇物は白地に赤字で書かれたステッカー(下図) をそれぞれ保存棚に貼ることが法律で決められている。 輸血用血液を放射線で照射して使用しているかを確認。 輸血後移植片対宿主病(GVHD)の予防のためには、リンパ球を含む輸血用血液に放射線照 射をして用いることが最も効果的である。 GVHDとは、輸血用血液の中にあるリンパ球が輸血された患者の体中で増殖し、組織 (皮膚、肝臓、骨髄など)を傷害する病気で、致死的な輸血副作用として知られている。 また、感染性廃棄物は一度すべて滅菌処理してから、ふたの付いた金属の入れ物に捨て ていて特に問題はなかった。 *病棟視察 病棟では主に毒劇薬の管理、病室の定員がしっかり守られているかを見て回った。 麻薬、向精神薬が金庫に保管されているか、また施錠されているかを確認した。 各病室に手洗い用のせっけんが備え付けられているかを確認した。 カルテなど個人情報の管理方法、個人情報保護法への対応を視察した。 個人レポート A04049 高木 保 *工夫点 ・重点監視項目を定めている。 病院側はすべての事項において完璧に対処しているのが当然ではあるが、ポイントをし ぼることで、重点事項に対して一層対応が強化されるし、視察する側にとってもやりやす いと思う。 ・保健所の監視員は自らの専門に分かれ、業務分担して検査している。 限られた時間で多数の項目をチェックしなければならないので、分担して検査し、あと で総括するやり方は効率がいいと思う。 ・検査部:感染性廃棄物の処理の仕方について細かいところまで的確に質問し、一つ一つ 確認していた。この病院では輸血用血液を院内で放射線照射して用いており、照射済みと 未照射の区別がしっかりとされて保管されているかを確認するとともに、作業者の放射線 の被曝に関しても、どういった対処をしているかにも注目し、物の管理だけでなく、作業 者の健康管理にも気を配っていた。 ・病棟:毒劇薬、麻薬、向精神薬の管理状況を確認し、各病室の定員が守られているか、 手洗い用のせっけんが常備されているかを見て回るだけでなく、カルテなどの個人情報の 管理がしっかりとなされているかもチェックしていた。 *改善点 薬物、薬品などの管理・保管の仕方や使用期限が切れてないかどうかの確認が厳密にな されているかと言われればそうでないと答えざるをえない。しかし、実際、すべての検査 室、病棟を厳密に検査することはかなり難しいと思う。多数の検査項目をこのような短時 間ですべてチェックしていかなければならず、一つ一つを厳密に行うことはできない。 そこで、重点監視項目として挙げたものに関しては、時間と人数をかけ、もっと厳密に 実施すべきだと思う。病棟の視察もすべてを回ったわけではなく、見過ごしがあったかも しれない。いかに少ない費用、時間、人数で仕事をするか、というのは企業と行政機関の 共通の課題であろう。しかし、医療の質を上げるためにも監視機関として視察の質を上げ ることが重要であると思う。 個人レポート A04055 土屋 一夫 今回の実習では、実際に現場を見てもらいたいという保健所長さんのご配慮で、病院立ち 入り検査を見学させてもらった。静岡市では医療法等の関係法令に基づき、立ち入り検査 を年に1回行っている。私たちの実習日は、ちょうど県内有数の某病院の立ち入り検査を 実施する日であった。そこで、保健所で立ち入り検査についての説明と注意事項について の話を聞いたあと、われわれは2つのグループに分かれて検査の様子を見学した。注意事 項としては、立ち入り検査は病院側の管理の杜撰さを指摘するため、シビアなムードで行 われること、清潔な格好で入らないと、検査自体がかえって病院を汚染してしまう可能性 があるということだった。立ち入り検査に関してもっと安易なイメージを抱いていたので、 そこで気が引き締められた。 私は、臨床検査部と一般病棟の立ち入り検査に同行させてもらった。そこでは主に、検査 に使う血液などの汚染物をどのようにして扱い処理していくかということに関して、なに か問題となりうる点はないか、薬物、毒物、劇物の管理はしっかり行われているかを事細 かに調査していた。 病院側が衛生面の管理で工夫していた点は、汚染物の処理法で、そこでは汚染物をいった ん回収し、外に漏れないように特殊な袋にいれ、高圧蒸気滅菌によって滅菌した後に業者 に回収してもらうというやり方をとっていた。高圧蒸気滅菌とは、オートクレーブ(高圧 蒸気釜)を用い、2 気圧、121℃で20分の加圧加熱の高圧蒸気で完全に滅菌する方法であ る。高圧蒸気滅菌後に業者の人が回収するようにすることで、汚染物の保管場所から業者 の人が運搬する過程での菌や汚染物の流出を防ぐことができるという点で評価できると思 った。 薬品の管理に関しては、改善の余地があるのではないかと感じた。検査用の試薬ビンの蓋 には、試薬の内容物が結晶となって付着していたし、そのような試薬類は放置されたまま であった。もっともその試薬はもう使われていないものであるが、誰かが間違えて使って しまう可能性もあるし、時間さえあればすぐに処理できると考えられる。医療ミスには、 複数の incident が重なって accident が起こると言われているから、こういった細かな1つ 1つのことを改善していくことで医療ミスの防止にもつながっていくと思う。 今までの病院での実習では気づかなかったが、医薬外毒物の保管場所には赤地に白字、医 薬外劇物の保管場所には白地に赤字のシールを張ることで、間違えないように分けて張っ ていた。ゴミ箱も汚染物用と一般のゴミ箱で分けてあり、汚染物用のゴミ箱にはふたがつ いていた。 検査をする側である、保健所の職員の検査の実施方法でよいと思った点は、当然望まれる ことではあるが、基本的に検査や医療器具などの知識レベルが高かったという点と、それ でも理解できないこと、疑問に思った点や不可解なところなどは、臆せず病院の検査技師 の人に説明してもらっていたということである。 逆に立ち入り検査だけでは院内の全てを検査することは難しいのではないかとも思った。 もちろん全てを検査する必要はないと思う。検査官の方たちは「普段見えない部分」かつ 「危険な部分」を小数精鋭して見ることができていた点も工夫点の一つだと思う。 将来医療者として立ち入り検査に関わる機会が必ずやって来る。今回の実習はその時に生 かすことができる貴重な体験だった。 個人レポート A04072 堀池 安意 ・工夫点 放射線管理:放射線管理区域の検査を始めとして数十の検査項目があったが、限られた 時間内に漏れのないよう的確かつ効率的に質問・検査していた。放射線診療に使用する機 器や薬品の知識をもとに生じうる危険を予測し、改善点を指摘していた。病院側の検査技 師長との専門的な会話の中でも患者の視点に立つことを疎かにせず、放射線区域内の院内 掲示の必要性を強く主張していた。 ・改善点 放射線管理:検査項目の対象にならない点も十分に時間をかけて検査すべきだと感じた。 例えば、放射線管理区域内でも検査をしていない部屋や機器もあったので、それらについ ても安全性を確認するとよいと思う。とはいえ検査項目は非常に多く、かなり急がなけれ ばならないので、今回はそこまでするのは不可能であった。従って、検査職員の増員と病 院側にも院内を案内する技師を増やすなどして隅々まで目が行き届くようにするのが望ま しいのではないだろうか。 検査項目の一つに放射線医療従事者の被爆に関する事項がある。今回立ち入り検査を行 った病院では、検査技師長がコスト削減のため自ら放射性物質を調剤していることを話し た。話によるとその放射性物質は半減期が非常に短く人体には影響が殆ど無いとのことで あったが、長年にわたって調剤していれば被爆が蓄積して何らかの症状を呈さないとは言 い切れない。労働者の健康を守るのも保健所の重要な役割であるから、その点については 防護服の着用や調剤をしないですむ方法(調剤済みの薬物の購入など)を検討するように 指摘したほうがよいとも思った。 立ち入り検査全般に対する提案をしたい。保健所は病院などの医療機関の検査を全てカ バーしている。つまり検査項目や検査方法は対医療機関であり、さらに職員の考えるとこ ろによる。確かに医療機関に特化した検査項目や検査方法ではあるが言い換えれば閉鎖的 な面も持ち合わせている。そこで、大規模企業の生産ラインの危機管理者など、医療とは 全く無関係の業種の危機管理のプロフェッショナルから検査方法のノウハウや検査項目の アドバイスや指導をしてもらうというのは如何だろうか。これは将来保健所の目指すとこ ろとする「対物サービス機関」のコンセプトにも沿っていて、コストはかかるが医療環境 の向上に大きくプラスになると思う。 最後に、改善点ではないが思うところを述べたい。こういった保健所の業務にかかわら ず広く一般の業務にも言える当たり前の事ではあるが、 「コストパフォーマンス」という言 葉を強く意識させられた。薬品一つ一つの使用期限を確認するのも、検査室の隅から隅ま で検査することは出来ない。本当ならそこまでするべきなのかもしれないが、コストも時 間もかかりすぎる。どうしても避けられない妥協があり、完全にはなくすことの出来ない リスクがあるのが現実であると感じた。だからこそ、コストパフォーマンス向上のために 先のような提案をしたのである。
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