応用生化学教室

医療薬物薬学科
応用生化学教室
教室構成
教授
講師
講師
高木教夫(薬学博士)
袁 博 (薬学博士)
林 秀樹(薬学博士)
場所
教室コード
研究2号棟6階
10
大学院博士課程
卒論生 6年生
卒論生 5年生
(平成29年度予定)
4名
15名
16名
研究テーマ(詳細は右ページ)
脳神経疾患・がんの病態解析と新たな治療標的の創出
指導方針
右ページに示されている主な研究内容について、教員指導のもと、実験・調査研究を行い、
できるかぎり形(投稿論文)に残します。
卒論研究を通じて①様々な問題を俯瞰できる②多面的に物事をとらえ問題を解決できる
③得た知識と技術を他の分野に応用できるような人材に育ってほしいと思っています。
各自テーマを持つことになりますが、研究は一人でできるものではありません。教員を含
めた教室構成員(大学院生・客員研究員・卒論生)や学内外の共同研究者の協力と信頼関係
の基に築かれていくものと考えています。
このことを良く理解していただき、そのために・・・・・・・
これらが、目の前にある共用試験、卒試、国試のみでなく、実社会での適応力・解決力・
忍耐力として発揮されることを願っています。
自己推薦方式(専願)募集の基準
上記の方針を十分に理解していただき、本教室で実験・調査研究に真摯に、主体的に取り組
み頑張れる方、本教室に協調的にかかわってくれる方。
備考
自己推薦方式募集に限らず本教室を希望される方は、「この教室(人)はどんな考えを持
っているか」等々、直接話を聞きに来てください。
この紙面では伝わりきれないこともあると思いますので・・・・・・・
応用生化学教室
電話:042-676-5736
E-mail: [email protected]
脳神経疾患およびがんの病態解析と新たな治療標的の創出
キーワード:脳、中枢神経系疾患、虚血性脳血管障害、神経幹細胞、脳血管、グルタミン酸受容体、アポリポタンパク質、
ヒ素化合物、抗がん剤、適応拡大
教授:高木教夫(薬学博士)
講師:林 秀樹 (薬学博士)
講師:袁 博 (薬学博士)
脳は中枢高次機能を司る極めて重要な臓器で、その損傷は重大な問
④ アポリポタンパク質E含有リポタンパク質(E-LP):中枢神経系の
題となります。例えば脳梗塞により直接的な死をたとえ免れたとして
脂質輸送の中心的役割を担っているのが、E-LPです。近年、中枢神経
も、片麻痺や認知症など各種後遺症を誘発し、多くの患者においてQOL
系のE-LPに含まれるコレステロールがシナプス形成を促進すること
の著しい低下を引き起こします(寝たきり原因の第1位等)。しかし、
や、低比重リポタンパク質(LDL)受容体ファミリーの受容体が神経
その病態の悪化を防御・改善する優れた薬物は創出されていないのが
細胞の遊走に関与することなど、中枢神経系脂質関連分子の新たな役
現状です。また、我が国の主たる死因であるがんに対しても多くの治
割が明らかとなってきています。我々はこれまでの研究で、グリア細
療薬が開発されていますが、がん細胞および正常細胞への影響を加味
胞由来E-LPが、LDL受容体ファミリーのLDL receptor-related protein
した確かな効果の獲得と投与量の減量や副作用を軽減することは臨
1(LRP1)を介して神経細胞死を強力に抑制すること、および軸索切断
床上重要となる研究課題です。
後の再伸長を促進することを明らかにしました。最近、グルタミン酸
応用生化学教室では、「中枢神経系疾患」および「がん」を主なテ
神経障害に対するE-LPの神経保護作用も明らかにしました。これらの
ーマとして動物病態モデルや各種細胞を用い、分子から個体レベルま
機序解明を続けるとともに、中枢神経系におけるE-LPの新たな病態生
で生化学的・薬理学的な病態解析スタイルを踏襲し研究しています。
理学的役割と疾患治療への応用研究を進めていきます。
その中で、疾患の新たな概念の創出とそれに基づく創薬、あるいは既
⑤ 視神経保護:緑内障は日本の失明原因疾患の第1位であり、視神経
存薬の新しい適応発見等を目指しています。
の脱落により視野を失ってゆく進行性の神経変性疾患です。我々は培
■中枢神経系疾患
果を発揮することを明らかにしました。また、この視神経保護効果を
① 神経幹・前駆細胞:近年、中枢神経組織にも自己増殖能と多分化
妨害する分子の同定にも成功しています。現在、新たな緑内障治療薬
能をもつ幹細胞の存在が証明され、神経幹細胞の脳疾患への応用が期
の開発に向けて本格的な創薬研究を進めています。
養神経細胞や緑内障モデル動物を用いた研究で、E-LPが視神経保護効
待されるようになってきました。我々は、脳梗塞後の内因性神経幹細
胞の増殖・分化機序および単離した神経幹細胞移植による記憶障害の
■がん
改善効果を明らかにしてきました。現在その改善機序解明やリハビリ
⑥ 天然物由来物質と抗がん剤併用による抗腫瘍効果増強機構の解明
テーションの妨げにもなる脳卒中後うつ様症状にも着目し、神経幹細
および応用拡大:既存の抗がん剤治療効果を維持しつつ、その投与量
胞の病態生理学的役割について研究を進めています。
の減量による副作用の軽減は常にがん治療の大きな関心事です。一方、
② 脳血管病変:脳梗塞後に起こる血液脳関門破綻の機序をモデル動
伝統的にがん治療の代替薬となり得る天然物由来物質は、正常細胞に
物の脳血管を用い明らかにしてきました。脳血管が関わる初発病態の
及ぼす影響が少なく、がん治療薬の効果を維持・増強しつつ、投与量
解明は慢性期の重篤度を左右する極めて重要な事項です。脳血管とそ
の減量による副作用の軽減をもたらすことが期待されています。我々
の周囲環境を創薬ターゲットにすることは、薬物・遺伝子送達の観点
は天然物由来物質による既存の抗がん剤の殺細胞作用増強機構を、細
から、治療薬開発において有利性が高いと考えられます。現在、脳血
胞死・細胞分化・薬物トランスポーターを中心に、分子細胞学的な観
管・ニューロン・グリア細胞の細胞間相互作用に着目しながら細胞・
点から詳細に検討を進めています。近年、急性前骨髄球性白血病のみ
薬物治療研究を進めています。
ならず、骨髄異形成症候群にも優れた治療効果を示しているヒ素化合
③ グルタミン酸受容体:グルタミン酸は高次中枢機能の発揮に必須
物[As2O3、As2S2]が、種々のがん細胞に殺細胞効果を発揮し、注目を
の神経伝達物質である一方、その受容体の過剰刺激は神経細胞死を引
集めています。その殺細胞作用機構については不明な点が多く、現在、
き起こします。しかし、グルタミン酸受容体の病態学的役割は十分に
白血病細胞及び健常者由来末梢血単核球に対するヒ素化合物と天然
解明されていません。これまで、脳梗塞後のグルタミン酸受容体、特
物由来物質の併用効果とその機序解明を進めています。また、乳がん
にNMDA型グルタミン酸受容体に関する研究を翻訳後修飾の観点から
細胞に対する作用を抗がん剤のタモキシフェンと比較しながら検討
独自に展開し、本受容体が病態形成に重要であることを報告してきま
しています。この殺細胞作用増強機構の解明が新規抗がん剤の開発、
した。さらに、代謝調節型グルタミン酸(mGlu)受容体が係るシナプ
副作用の軽減による抗がん剤の応用拡大に寄与すると考え、研究を進
ス局所での活性酸素種産生経路を明らかにしてきました。NMDA受容体
めています。
はアルツハイマー病治療薬の標的であり、また、mGlu受容体は精神疾
患の病態にも関わる可能性が報告されはじめ、創薬への期待が高まっ
異分野との共同研究にも取り組み、新たな研究領域を開拓していき
ています。我々は、グルタミン酸受容体が係る多彩な病態を解析し、
ます。その中で膨大な薬学の知識と技能を駆使し総合的に医療を考え
創薬につなげる研究を進めています。
られる人材の育成に貢献していきたいと思っています。