書 評 水 口 憲 人著 『都市という主題ИЙ再定位に向けて』 法律文化社,2007 年 佐々木 信夫 マンフォードは『歴史における都市』の中で, うくらい難事業だったと思うが,あえてそこに挑 都市は生き物のように生成・発展・死滅していく んだ点は高く評価されるべきである。 もので,都市について,すべての発展段階をひと 本書は,都市を主題化するアプローチや都市を つの定義でまとめるのはむずかしいと述べている。 めぐる言説を整理し,都市論の再定位へ向けて視 同じ認識からクラッセンは,都市の成長パターン 角と方法論の提示を試みたものである。同時に, を人口の都市集中・郊外分散・再集中化という図 都市計画の思考や実践がコミュニティ,自然,空 式で捉えている。東京や名古屋,大阪の大都市化 間をどのように扱ってきたのかを批判的に検討し を説明する図式として,あるいは夕張市など産業 た意欲的な作品である。著者の問題意識は,序章 城下町(炭都)の盛衰を説明する図式としてもク で使っている「布置」という言葉に集約される。 ラッセンモデルの分析手法はわかりやすい。 constellation つまり「星座」をも意味する布置 だが,それは都市の動態を説明できても,「都 について,都市を構成する「星」の組合せとその 市とは何か」を本質的に説明できる訳でない。本 意味づけを見極め,都市とはどのような「星」の 書はそこを問題とし,主に海外の都市計画や都市 集まり,配置からなっているかを明らかにしたい 社会学を専攻する学者や建築家らがそれぞれ定義 という意欲が本書にちりばめられている。 してきた「都市とは何か」について,体系化を試 百家争鳴という言葉があるが,本書を読んで改 みようとした野心的な都市論である。著者の水口 めて都市論こそその名に当たると感じた。 氏は代表的な行政学者の 1 人で,1985 年に処女 もとより,都市論がどこまで体系的に整理でき 作として『現代都市の行政と政治』(法律文化社) ているかという点になると,本書の各章を見る限 を発表しているが,今回は政治や行政という視角 り,評者には充分に伝わってこない。評者の浅学 は外し「都市とは何か」を追求する作業に徹して によるが,章立てのわかりにくさも要因かも知れ いる。扱っている学者はジェイコブス,マンフォ ない。序章「布置としての都市と都市計画」,1 ード,ルフェーブル,オルムステッド,ハワード, 章「ルソー,ジンメルと都市」,2 章「都市と自 ヘインズなどからルソー,マルクスといった歴史 然」,3 章「都市とコミュニティ」,4 章「都市空 的な大家までじつに広い。 間と都市計画」,補論「関一と近代大阪」で約 なぜ,こうした都市とは何かという「遠回り的 180 ページに及ぶ論文集の形をとっているが,発 な研究」をしたのか疑問をもって「あとがき」を 表時期がそれぞれ異なり,執筆テーマがそれぞれ 読んだが,新設の政策科学部で「都市地域管理 独立的で,引用文が多いことや,著者の意見がど 論」を初めて担当するに当たり,改めて「都市と こにあるのか,書き下ろし的な「流れ」が見えな 正面から向かい合ってみようと考えた」という答 いところが難解な感じを与えている。論文集の特 えがあり,納得した。都市の政策論を語るにも, 徴かもしれないが,読者がいることを想定した工 そもそも都市とは何かが抜けていては本質的な政 夫を要しよう。 策論を描くことはできないという著者の認識は正 とはいえ,各章の掘り込みは深く,読み応えが 鵠を得ている。まずその研究態度,教育姿勢に敬 ある。都市政策や都市工学の研究にはもとより, 意を表したい。正直,そこまで手を回す余裕もな 政治学や行政学の研究にも大いに役立つ。類書を く都市論を与件と置いて政策論議を語ることが多 見ない好書として購読を薦めたい。 いのが実際で,その点,氏の基礎作業は苦痛を伴 169
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