ボランティアガイドによる 観光ルートの設定に関する研究 ―横浜シティガイド協会を対象として− Research on the Tourism Route Setting by the Volunteer Yokohama City Guide 00-0287-8 指導教官 1 今井 亮輔 中井 検裕 はじめに 1−1 研究の背景と目的 都市観光において、観光客はその都市らしいと言える有名で魅力的 なポイントを巡り、地域住民は都市観光の質を高めるために地域の資 源を理解し、それをアピールしていくことが必要である。近年その数 を増やし続けている観光ボランティアガイドは、観光をまちの使い手 である地域住民の視点に立って考えているという点で、都市観光にお いて重要な役割を担いつつある。観光ボランティアガイドの活動によ って、観光客に対して地域の資源を紹介することで観光客に地域の魅 力的な要素を理解させ、それによって従来の観光ガイドブック等では 得られなかった新たな視点から見た観光資源の発掘が期待できる。さ らにガイド自身にとっても、ガイド活動を通して地域への愛着心が芽 生え、それによって周囲への波及効果も期待でき、ガイドが高齢者で ある場合には同時に生きがいづくりにもなる。しかしながら実際の観 光ボランティアガイドのガイド活動の詳細、及びガイドが観光ガイド の際観光者に対してどういった地域資源を紹介し、ガイドルートを設 定しているのか明らかでない。 そこで本研究では観光ボランティアガイドのガイド活動の実態を 明らかにし、その中で特に観光ボランティアガイドが観光者のその都 市の経験の違いによってガイドの仕方を変えているかを見ていく事 を目的とする。観光ルートに関する既存研究では散策行動における 人々の嗜好を明らかにしたもの 1)2) や観光回遊コースの計画的設定手 法を明らかにしているもの 3)などがあるが、歩行者の行動や回遊の原 理から観光ルートについて扱ったものが多く、観光ガイドに注目して 観光ルートを考えている研究は見当たらない。これより本研究は、観 光ガイドの設定するルートと観光者のその都市の認知度による観光 ルート両面から、観光ルートのあり方を考察することを目的とする。 1−2 本研究の構成 本研究の構成は次の通りである。2章では観光ボランティアガイド 組織の『NPO法人横浜シティガイド協会』の会員を対象としたアン ケートについて述べ、3章では調査結果から、観光ガイドの実態と、 観光者のその都市の認知度による観光ガイドの設定する観光ルート の違いについて、4章で結論について述べる。 2 横浜シティガイド協会に対する調査 2−1 横浜シティガイド協会の概要と調査対象 対象は現在首都圏で唯一県ベースの協議会を持つ神奈川県にある 観光ボランティアガイド組織のNPO法人「横浜シティガイド協会」 とする。横浜シティガイド協会は主に横浜市内で徒歩による観光ガイ ドを行っている観光ボランティアガイドであり、1992 年に創立した。 シティガイドは、全員が 2 年間にわたる「横浜シティガイド講座」と いう養成、研修の受講生であり、養成講座としてまず「座学」として 連続講座がある。次にワークショップ形式によるマップとテキスト作 成を通して、共同作業を行い講義で受けた学習を自分のものにすると いうスタイルを取っており、このときに作るマップは横浜シティガイ ド協会のモデルルートになる。現在 7 期生までがその講座を受講して いる。ガイドにかかる時間は基本的に約2時間半で、ガイドには「一 般ガイド」と「企画ガイド」といわれるものがあり、前者は観光者か らの依頼に対して、利用者の要望に副う形でガイドルートを設定し案 内していくという形をとっているのに対して、後者は横浜シティガイ ド協会の企画したイベントに利用者が参加するという形をとってい て、ガイドルートに関しては事前に決まっている。本調査では当該協 会の会員 76 人で実際にガイドを行っている人を対象とする。 2−2 調査方法 アンケート形式で、配布は横浜シティガイド協会の定例会にて出席 した会員に直接行い、回収は郵送にて行った。 2−3 調査の内容 調査の内容は、(ⅰ)「横浜に初めて来る観光者」に対してのガイド (以下「依頼1」と呼ぶ)と、「横浜に来たことのある観光者に対し てのガイド(以下「依頼2」と呼ぶ)の 2 つのケースについて、「一 般ガイド」においてガイドが設定するガイドルートとガイドポイント に関して、(ⅱ)ガイドとしての経験について、(ⅲ)ボランティアガイ ドとしての活動と考え方について、(ⅳ)個人属性について、とした。 2−4 アンケートの回収結果 配布数 59 通に対して回収率は 39 通。回収率は 66.1%であった。 2−5 アンケートの集計 ここでは調査によって明らかになった観光ガイドの活動実態を調 査票の集計によって見ていく。 観光ガイドのガイドルートの設定の仕方について見ると、83%の人 が企画ガイドの際に扱ったルートを参考にしていて、モデルルートを 参考にしている人は 89%に上る。またガイドの際、得意な地区、テー マがあると答えた人はそれぞれ 82、67%で、得意な地区に関しては山 手が、テーマに関しては歴史と答えた人が最も多い。 ガイドとして気をつけていることを見ると、ルート設定に関して (グラフ 2-5①)は「ガイド地点の取り方」、次いで「お客さんの希 望に忠実に」という意見が、ガイドの際(グラフ 2-5②)には「お客 さんとのコミュニケーション」という意見が多い。 また横浜に来たことのない客を基準に、横浜に来たことのある人に 対するガイドとの違い(グラフ 2-5③)を見ると「ガイドの詳しさ」 が最も多く、「ガイドコースの取り方」が続く。 自分が案 内し易い コース 9% 歩きやすい 道を選ぶ 13% 季節感重 視 9% ガイドコー スを外れな い 8% その他 4% 時間配分 に気をつけ る 20% ガイドする 地点の取 り方 38% お客さんの 希望に忠 実 27% n=36 その他 11% 大きな声 17% ガイドコー スの取り方 26% 打ち合わ せを綿密に する 11% 資料を用 意する 14% 自分の納 得のいくガ イド 7% グラフ 2-5① ルートの設定時気をつけていること 3 その他 1% 季節感の あるガイド 2% ガイドコー スのテーマ 13% 客とのコ ミュニケー ション 31% ガイドの 詳しさ 39% n=37 グラフ 2-5② ガイド時気をつけていること n=35 グラフ 2-5③ 観光者の横浜の認知度による ガイドの仕方の違い 観光ボランティアガイドのガイド行動の実態 3−1 ガイドの経験によるガイドの際の意識の違い ガイドの経験を示すものとして、ガイドの期とガイドをしている頻 度が挙げられる。その 2 つを組み込み、ガイドの経験を示す指標を考 える。ガイドの経験と、調査によって得たガイドとしての意識に関し て、その相関を見てみたところ、「ルート設定の際、企画ガイドやモ デルルートといった他のルートを参考 表3−2 エリアとブロック にしている」という項目に関して正の ブロック ブロック内のガ エリア ブロック名 番号 イドポイント数 1 1 桜木町駅南 4 相関が見られ、ガイド当日に気を付け 2 掃部山 14 3 野毛山 13 4 日の出町 5 ていることという項目に関して、「大 計 36 桜木町・野毛 2 5 桜木町駅北 4 きな声を出す」「時間配分に気を付け 6 汽車道 17 7 日本丸 4 8 ランドマーク 8 る」という項目に関して負の相関が見 9 臨港パーク 6 10 ワールドポーターズ 7 11 新港埠頭 11 られた。 12 赤レンガ倉庫 8 計 65 みなとみらい21 3 13 馬車道 14 このことからガイドは経験が豊富な 14 イセザキモール 12 15 関内駅周辺 8 ほど他のコースも意識し、また経験が 16 末吉町 6 17 大通り公園 4 18 万世町 3 浅いとガイド当日に多くの注意を払っ 19 横浜公園 6 20 日本大通 8 計 61 関内・馬車道・伊勢佐木町 ているといえる。 4 21 海岸通り 8 3−2 ガイドルートとガイドポ イントに関する集計方法 ガイドの設定したルートに関して、 依頼1,2、それぞれに関してガイド ルートとガイドポイントを地図にプロ ットする。そして、ガイドルート全体 の距離、ポイントの数を明らかにし、 22 山下臨港線 23 県庁周辺 24 シルク通り周辺 25 山下公園前 26 山下公園 27 中華街 山下公園・中華街 5 28 元町 29 港の見える丘公園 30 山手の斜面 31 山手本通り 32 山手町東 33 山手公園 34 石川町周辺 35 山手イタリア山庭園 36 山手町西 山手・元町 計 計 総計 15 6 5 13 17 24 88 11 10 9 32 3 5 6 4 9 89 339 ガイドポイントの特徴 を表すために、有名 度、歴史性という視点 から見ていく。またポ イントを観光ガイドブ ック4)での地区分けを 基に考えた 5 つのエリ アと、エリアの中で基 本的に同じ場所(例: 通り、公園)にあると いえるポイントを 36 のブロックにまとめた (表 3-2、地図 3-2)。 表 3-3-4 有名度の平均値の差の検定 度は高いといえる。統計的に検定 変 数 依頼1 依頼2 差 サンプル対 34 統計量:t 2.139 をしても(表 3-3-4)有意な差を 平均値 3.415 2.882 0.532 自由度 33 不偏分散 1.046 1.251 両側P値 0.040 * 片側P値 0.020 * 見ることが出来るので、このこと 標本標準偏差 1.023 1.119 検定 * :5% から依頼1のルートには観光ガイドブ ックに多く載っているような多くの人に認知されたガイドポイント が多く、依頼2のルートにはガイドブックには載っていない、比較的 認知度の低いポイントが多いことがわかる。 3−3−5 地図3−2 エリアとブロックの取り方 3−3 観光者の都市の認知度によるガイドルートの違い 3−3−1 ガイドルートマップによる考察 ガイドが考えるガイドルートを依頼1、2で別々にプロットしたも のが、地図 3-3-1 である。この二つのルートを見比べると、依頼2の 方はルートが広範囲に分布していて、野毛地区(地図の西)に多くの ルートが存在している。また、中には細い路地のようなところを通っ ているガイドルートもある。 3−3−2 ガイドルートの距離とポイント数 表 3-3-2 ルートの距離とポイント数 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 合計 平均 依頼1 距離の 合計 4902 4446 3673 3429 5918 2956 5354 4425 5599 2761 1474 2313 3207 3428 5385 5743 3077 2964 2391 5758 3538 4662 4520 4839 4173 5217 3558 3149 4397 3217 2388 3840 2051 3896 132648 3,901.41 依頼2 依頼1の 依頼2の 距離の ガイドポ ガイドポ 合計 イント数 イント数 4251 25 23 3218 11 11 3271 12 10 2904 13 12 4289 15 10 2647 22 19 4448 10 12 3328 15 12 2744 8 8 2246 8 13 1474 7 7 2068 10 9 3158 22 20 4801 9 10 4854 16 26 4635 13 20 3454 12 12 4207 10 13 4094 15 16 3171 12 15 3061 9 10 2790 20 27 3657 15 17 4887 27 29 8336 10 9 5434 11 10 1462 8 7 3731 17 20 3498 16 22 1847 16 7 3529 11 8 2987 18 15 4727 18 17 6114 10 20 125322 471 496 3,685.94 13.85 14.59 依頼1と2のガイドルートの距離を平均 値で比較すると依頼1の方が依頼2より長 いが、その差は 215 メートルほどである。ポ イントの数は平均値で見ると依頼2の方が 依頼1より 0.74 箇所多くなっているもの の、依頼1のポイントを多く設定した人が 15 人、依頼2の方を多くした人が同じく 15 人で差が見られない(表 3-3-2)。そのため、 依頼1、2に差は見られない。つまりこれら は大きな差とは言えず、ガイドの標準時間で ある 2 時間半が考慮されているためと考え られる。 3−3−3 ガイドルートの通過ブロ ック数に関して ガイドの範囲から考察するため、依頼1と 依頼2の場合それぞれに関して、ルートが何 ブロックに跨っているかを数えた。依頼2より依頼1の方が多くのブ ロックに跨っていたのは 19 人、依頼2の方が多かったのは 10 人で、 3-3-3 通過ブロック数の平均値の差の検定 依頼 1 の方が明らかに広い範囲 表 変 数 依頼1 依頼2 差 サンプル対 34 統計量:t 2.094 にわたっている。統計的にも有意 平均値 8.176 7.059 1.118 自由度 33 不偏分散 6.513 6.360 両側P値 0.044 * 片側P値 0.022 * な 差 を 見 る こ と が 出 来 た ( 表 標本標準偏差 2.552 2.522 検定 * :5% 3-3-3)。 3−3−4 ガイドポイントの有名度における関係 観光ガイドが案内するガイドポイントに関して、そのポイントの有 名度を観光ガイドブック4)に載っている頻度で表す。そしてそれぞれ のルートごとにその平均値を出し、依頼1と2を比べる。すると、依 頼2に比べて依頼1を有名度の高いルートとしているのは 18 人、逆 に依頼2の方が有名度を高くしているのは 15 人と依頼1の方が有名 依頼1 依頼2 歴史的要素を持つガイドポイントとの関係 ガイドが案内しているポイ 表 3-3-5 歴史的ポイントの平均値の差の検定 数 依 頼 1 依頼 2 差 ントが歴史的要素を含んでい 変 サ ンプル対 34 統 計量:t 1.888 平均値 0.729 0.797 0.067 自 由度 33 0.030 0.017 両 側P値 0.068 るかみていく。そして、ガイド 不 偏 分 散 標 本 標 準 偏差 0.174 0.131 片 側P値 0.034 * 検 定 * :5% が設定したルートの中で歴史 性をもつポイントの割合を依頼1と2とで比べる。その結果依頼1よ り依頼2の方が歴史的なポイントを多く設定している人が 19 人、逆 に依頼 1 の方が歴史的なポイントを多く設定している人が 14 人で依 頼 2 の方が歴史的ポイントの割合が多くなっている。また統計的に検 定しても(表 3-3-5)仮説に対し有意な差が認められた。それは歴史 的なポイントとそうでない様々な魅力的ポイントが混在する横浜に おいて、依頼 2 ではその概要をつかもうとするのではなく、歴史的な ポイントに絞ったガイドをしていると言え、そこにテーマ性を見るこ とが出来る。 3−4 ガイドの属性がルート設定に与える影響 ガイドの属性の依頼1と2のガイドルートの取り方の違いへの影 響を考察するため、性別・年代・経験の3つのガイド属性とルートの 取り方の差の相関を見た。その結果、どの相関係数も数値は低く、こ のことからガイドの属性によって、観光者の都市の認知度に応じたル ート設定に違いが出るとは言えないことがわかった。 3−5 3章のまとめ 依頼1と2では1の方が多くの地区を跨いでいることから、地域の 認知度の低い外からの観光客に対するガイドにおいては、有名なスポ ットを案内しようとすることで広範囲にわたったものと考えられ る。逆に横浜に来たことのある人に対するガイドにおいては、狭い範 囲でも地域の資源をガイドすることで横浜を違った視点から見せよ うとすることで観光者の満足を得ているものと考えられる。 4 結論 本研究の結論をまとめると以下のようになる。 1)横浜シティガイド協会のガイド活動の実際について分析を行っ た。ガイドの性別・年代によらずガイドの際の留意点は一定している が、経験の違いによっては差が見られ、ガイド経験の多い人がモデル ルートなどを意識していることがわかった。 2)観光者のその都市の経験の違いにより、ガイドの仕方が変わるこ とを示した。a)初めて来訪した観光者に対しては、有名なポイント を多く、かつまわるエリアを多く取ること、b)以前に来訪経験のあ る観光者に対しては、より深く地域を観光し、歴史性などテーマ性が あるガイドを設定すること。 3)一方で、観光ガイドの属性は観光者の経験によるルート設定の差 異に影響しないことがわかった。 つまり、観光ボランティアガイドの真価を発揮できるのは、ガイド ブックと同様でよい新規来訪者向けガイドでは なく、来訪経験がある観光者や地元に近い住民向 けのガイドであるといえる。 【参考資料】 1)和田章仁・村野博司(1995)「観光都市京都における散策空 間の整備」、土木計画学研究・論文集 Vol: 12 2)和田章 仁・村野博司(1997)「散策行動からみた散策空間の形成に 関する考察」都市計画 2063)橋本俊哉・渡邊貴介(1994) 「観光回遊の行動特性と誘導手法に関する研究 -観光回遊 計画論序説-」東京工業大学論文梗概集 4)①ポケットガイ ド横浜 るるぶ、るるぶ社編集部 ②ブルーガイドニッポン 11 横浜 今日から土地の人、実業之日本社 ③まっぷる マガジン 141 横浜、昭文社 ④上撰の旅10 横浜、昭文社 ⑤ J GUIDE 21 横浜 みなとみらい21、山と渓谷社 ⑥歩く 地図 Nippon5 横浜・鎌倉、山と渓谷社 5)ゼンリン電 子地図帳Z[zi:]Ⅳ 全国版 ZENRIN、2001 年 地図 3-3-1 依頼 1・2におけるガイドルートの違い
© Copyright 2026 Paperzz