曽爾の獅子舞い こうべがたれるほど実っていた稲も無事刈り取られるころ、どこからともなく、太鼓や笛の音 が風に乗って聞こえてきます。ほら、獅子舞いの練習をしているのです。国立曽爾少年自 然の家がある曽爾村では、今もこんな秋祭 りの風景があります。みなさんのところでは、 どうでしょうか。同じように残っていますか。 それとも、まったく知らないでしょうか。今回 は、みんなを楽しませてくれる曽爾村の獅 子舞いについて勉強したいと思います。 1 そもそも、この獅子舞い、一体いつごろ から始まっていると思いますか。 実は、約280年以上も前からなんです。大字長野に残されている宮座当屋古文書(みやざ とうやこもんじょ)によると、享保三年(1718年)に「五穀成就(ごこくじょうじゅ)と村安全のた めに神前で獅子舞いを舞います」ということが書かれています。五穀成就とは、米をはじめ 村の作物が豊に実りますようにという意味です。とても古い時代から続いているのですね。 でも、本当は、文書にのっていないだけで、もっともっと古いかもしれません。 2 では、この獅子舞いはどこから伝えられたのでしょうか。 大字長野の人たちが伊勢の国〔今の三重県桑名市〕に行って、伊勢大神楽(いせだいか ぐら)を習ってきたのです。それが、今の獅子舞いの元となったのです。伊勢大神楽の特徴 は、アクロバットつまり曲芸的な舞い方と言われています。現在の研究者の話では、曽爾の 獅子舞いが最もこの伊勢大神楽の原点に近い形で残っていると高く評価されているのです。 そして、昭和54年(1979年)奈良県無形民俗文化財の指定を受け、伝統芸能として大切に 保存されているのです。 3 次に、獅子舞いは誰がまわしているのでしょうか。 現在、九大字のうち三大字が獅子舞いを保存しています。大字長野の長野奉舞会( ほうぶ かい)、大字今井の今井奉舞会、大字伊賀見の伊賀見奉舞会です。 4 この獅子舞いはいつ、どこへ行けば見られるのでしょうか。 ほかのシリーズでも説明がありましたが、曽爾村には九つの大字があります。そのうち、室 生村から合併して加わった大字山粕を除く八つの大字の神様をお祭りしている神社が「門 僕神社(かどふさじんじゃ)」です。別名「もんぼくじんじゃ」とか「春日(かすが)さん」などとも 呼ばれ、親しまれています。獅子舞いは、この神社でお祭りの日に見ることができます。お祭 りの日は、もともと旧暦の9月9日(現在の10月11日)でしたが、その後、体育の日(10月10日) になり、平成12年(2000年)からは「体育の日の前日の日曜日」に変わってきています。神社 では三大字合同で競い合うような形で発表を行います。平成12年度の演目は、・神前の舞 い・悪魔払い・荒舞い・参神楽・獅子踊り・三 三九度・接ぎ獅子・合同荒舞いでした。神社 での発表が終わった後、大字伊賀見では川 下神社、大字今井ではふれあいホール、大字 長野では当屋(とうや)の庭で、それぞれの地 区の獅子舞いを披露します。 また、祭りの前 日には三つの奉舞会で分担して八大字全部 の家を回って、荒神払いという獅子舞いをやり ます。 5 いよいよ、獅子舞いの種類についてです。曽爾の獅子舞いにはどんなまわし方があって、 それぞれどんな意味を持っているのでしょうか。 曽爾の獅子舞いには次のような系統があります。ただし、実際には各大字で特有の呼び 方や各系統の組み合わせがとてもたくさんあって、複雑なのです。だから、次にあげるもの は、あくまでもひとつの目安として考えてください。 かっこ内は保存地区名です。 A 神楽系 B 剣系 C 荒舞い系 神前の舞い(三大字) 三三九度(伊賀見) 参神楽(長野、今井) 小神楽(伊賀見) 新神楽(伊賀見) 悪魔払い(三大字) 剣の払い 荒舞い(伊賀見) 笹の舞い(伊賀見) 振り出し(伊賀見) D 獅子踊り系 獅子踊り(三大字) 道化獅子(伊賀見) E 曲芸系 接ぎ獅子(伊賀見) F 各戸回り系 荒神払い(三大字) A 神楽系 御幣(ごへい)と鈴を持って拝む動作をしま す。衣装では、白足袋(しろたび)神戸下駄(こう べげた)をはくのが特徴です。 B 剣系 剣を持って、悪魔を追い払う動作をします。舞 いの特徴としては、途中で獅子の中の前後の人 が見ている人にわからないように曲芸的に入れ替わることです。みんなは、いつ入れ替わっ たかわかったかな。 C 荒舞い系 獅子が雄々しくまた楽しく踊っているように、何も 持たずリズムも早く荒々しく舞います。 D 獅子踊り系 獅子と天狗(てんぐ)と道化(どうけ)が登場します。 獅子は神の世界に近いものをあらわしています。同じように天狗は魔界のものを、また道化 は村の人たちをあらわしています。そして、次のような物語にそって踊ります。 原っぱで獅子が遊んでいます。それを、高い木の上から天狗が見ています。遊び疲れて 眠り込んだ獅子をひらりと舞い降りた天 狗が起こそうとします。道化もこわごわそ のまねをします。獅子が目を覚まし天狗 と遊びます。お互いの力の見せ合いを しているのでしょう。天狗はささら、しな い、せんすなどで妖力(ようりょく)をつか って(おならもつかいます)獅子をおとな しくさせます。こわごわ道化もそのまねを します。最後に、みんなが仲良くなって いっしょに踊って終わります。 E 接ぎ獅子 この獅子の特徴は、後持ち、台、そしてその上に乗る演者(通称 上と呼びます)の三人 で演じることです。女形の衣装を着て、化粧をします。アクロバット的な要素として、台は上 を肩に載せ、上の足の親指だけを交差した手で 握ります。ほかに支えるものは何もありません。 バランスをとるために、お互いの呼吸がとても大 切です。踊りには、A系、B系、C系も組み入れら れ、獅子舞いの集大成とも言われています。 《剣のときの歌》 1 身は三尺の剣を抜いてな 2 谷の悪魔を払い払いとな 3 よいよいとな 《花魁(おいらん)道中》 化粧をするような動作で獅子頭を直し、櫛で髪 をとき、合わせ鏡で仕上がりを見ます。傘を回し、 扇子であおぎながら進みます。 F 荒神払い 荒神(こうじん)とは、かまど(台所)を守る神様のことです。各家庭が平和で安全に暮らせ ますようにという願いをこめて、村内の各家を回ります。 どうですか。一口に獅子舞といってもたくさんの種類があってそれぞれに大切な思いがこめ られていることがわかりましたね。 6 最後に、獅子舞いについていろんなお話を聞かせてくれた木治さんは、「温故知新とい う言葉があります。獅子舞いはずっと昔から伝えられてきて現在の姿があります。みなさんも、 突然、今生まれてきたというわけではなくお父さんお母さん、さらにずっと先祖の人たちから いろんな思いを受け継いで生きているのです。この獅子舞いが獅子舞いとして残ってきた ように、みなさんも自分にしかできないことを考えてもらえればうれしいです。」としめくくって くれました。この大自然の中で、じっくりと自分の将来について考えるのもいいかもしれませ んね。 資料 祭り笛の楽譜 「季刊 横笛第26号」より 発行年月 平成13年3月 執筆者 久保 晃弘 お話を聞いた人 木治 正人氏(曽爾村大字伊賀見) 参考文献 曽爾村史
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