<高崎特別研修 領域A 英語> 自分の思いを伝えられる生徒を育てる英語科指導の工夫 ∼ スピーチの構想を段階的に行う活動を通して ∼ 研究員 深田 康雄 研究のあらまし 本研究では、英語科でのスピーチ指導の場面において、語彙や文の蓄積(パーソナル・ストレージ) を活用して原稿を作成し、全体での発表前にグループ発表を行い、その後推敲する活動を行うことで 表現力を高め、自分の思いを英語で伝えることができる生徒を育成することを目指したものである。 【キーワード:パーソナル・ストレージ I グループ発表 推敲】 主題設定の理由 今回の指導要領の改訂の全体の方針において基礎的・基本的な知識・技能の習得と、それらを活用 して、課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等を調和的に育成する必要性が示されて いる。また、外国語科改訂の趣旨の中で、 『「聞くこと」 「読むこと」を通じて得た知識等について、自 らの体験や考えなどと結びつけながら活用し、 「話すこと」 「書くこと」を通じて発信することが可能 となるよう、4技能を総合的に育成する指導を充実する』とある。スピーチの活動は、 「話す」活動に 焦点が置かれている活動に見えるが、その制作過程も含めると4技能を伸ばせる活動となっている。 モデルとなるスピーチや、自分で作ったスピーチの内容が表現されるように音読することから伸ばす 「読むこと」 。互いのスピーチを聞き、内容を確認しながら理解することで伸ばす「聞くこと」 。自分 の意見や考えをスピーチに書くことで伸ばす「書くこと」 。自分の考えや気持ちを伝えることで伸ばす 「話すこと」と4技能を総合的に育成するために適した活動となっている。 基礎的・基本的な知識・技能の習得に関して、小学校段階での外国語活動について、一年生 101 名 に調査したところ、85%の生徒が「よく理解できた」または「おおむね理解できた」と回答している。 また、実際の表現を覚えているか、道案内の表現( 『ターンライト』とはどんな表現ですか)で調査す ると、76%の正当率となる。これは、小学校での外国語活動は積極的にコミュニケーションを図ろう とする態度の育成が目標であり、知識の獲得が目標ではないからだと考えられる。小学校でやってみ たかったことについては、 「買い物などをしっかりやりたかった」「書くことをやりたかった」と答え た。中学校でやってみたいことは「自分で英文を作ってしゃべりたい」 「もっとすらすら英語で会話し たい」 「単語をたくさん覚えたい」と答えている。 中学校における英語科の学習については、ほとんどの生徒が英語での指示を理解することができ、 音読や、基礎表現を身に付けるための言語活動にも意欲的に取り組むことができる。また、積極的に 発言する生徒も多く、活発な雰囲気で英語学習を行うことができる。Lesson 1 の単元テスト(英文を 読んで、日本語で質問に答えたり、英文の語順を答えたりするもの)では平均が 83.7 点となった。し かし、数字の正確な綴りを確かめるテストでは、平均では 73.8 点となった。 上記の生徒の実態として、表現活動で使う知識や技能を、その場で提示すれば、活動を行うことが できるが、積み重ねた知識を記憶から引き出して、正確に再現することに課題がある。なんとなく理 解することはできているが、正確に話したり、書いたりすることが困難な生徒が多い。このことから、 正確な知識に基づいた文を発表する機会をもつことで、生徒の理想像に近付けると考える。スピーチ を行うことは、既習事項を使用して正確な知識を表現する方法として最良なものと考える。 群馬県の学校教育の指針では、言語活動を「力の付く学習」にするために、 『調べたり書いたりした ことをいきなり発表させるのではなく、発表の仕方を工夫させたりする場面を設定する』や、 『生徒が 表現活動でよく用いる語いや典型的な誤用という視点から単語リストを作成したり、辞書を引かせた りするなどして語彙学習を充実させる』とある。スピーチで使う表現を、実際のコミュニケーション に近付けるには、情報を伝えるために自分で調べた単語・語句や既習表現を蓄積(パーソナル・スト レージ)していくことが必要となる。また、スピーチを作る際にどのような語句や表現を使用して書 くか、思考・判断すること。さらに、他の生徒の評価を聞き、よりよい表現ができるように推敲する 活動で、さらに思考・判断を行い、表現力を伸ばしていく。このようにスピーチの構想を段階的に行 っていくことで、力の付く学習になると考える。 本研究では、中学校での表現活動の場で、蓄積された知識で作成したスピーチを、他の生徒の評価 を加味し、もう一度推敲する活動を行うことによって、より完成度の高い表現活動ができるようにな ると考え、本主題を設定した。 Ⅱ 研究のねらい 中学校第一学年の英語の言語活動において、情報を伝えるために自分で調べた単語・語句や既習表 現を蓄積することと、他の生徒の発表や評価を参考にし、自己評価を繰り返し行い、推敲を積み重ね て発表することが、表現力を高めるために有効であることを明らかにする。 Ⅲ 研究の仮説 1 スピーチをする際に使う単語や語句、教科書の表現に自分の情報を入れて書き換えたものを蓄 積し、パーソナル・ストレージとして保存することは、スピーチ原稿を書くことを容易にするで あろう。 2 表現活動で書いたスピーチをグループで発表し、評価しあい、さらに個人で推敲した後に発表 を行うことは、表現力を高めるために有効であろう。 Ⅳ 研究の計画 月 研究の計画 4∼5 実態調査及び考察・研究計画の作成・研究主題の検討 6 主題検討会及び主題の再検討・先行研究の調査 検証授業1(自己紹介)6時間 7∼9 研究実践の検討・先行研究の調査 10 研究実践の検討 検証授業2(友達の紹介)9時間 11 生徒の原稿・ワークシート・アンケートの検討・まとめ 12 研究実践の検討・まとめ 1∼3 研究実践のまとめ Ⅴ 研究の内容 1 (1) 研究の基本的な考え方 理想とするスピーチ 名演説といわれるものはリズムが心地よく、人の心に感動や共感を生み、長く記憶に残るものであ る。中学生にとって理想とするスピーチは、そこに向かうための初歩の段階である。評価は高円宮杯 全日本中学校英語弁論大会でも採用されている観点(英語・表現・内容)で行うものとした。また、 広島大学の研究では『新学習指導要領に基づく授業実践』の中で、新指導要領において、スピーチ指 導を通して生徒に育成できると期待される力には次のようなものがあるとしている。 ○基本的な英語の音声 ア 現代の標準的な発音 イ 語と語の連結による音変化 エ 文におけるイントネーション オ ウ 語・句・文における基本的な強勢 文における基本的な区切り ○正しく伝える力 ア 文法や語法に関して正しい英語を使用する力 イ 明瞭で、適切な声量で話す力 ウ 聞き手の理解を促すための工夫(言い換え、難語の回避、短文でわかりやすい文構造の使用、文 と文の順序や相互の関連、接続表現の活用) エ 聞き手を意識した情報伝達の力(絵や実物の利用や、アイコンタクトやジェスチャーなど) ○まとまりのある英語を発信する力 伝えたい内容を整理して、まとまりのある英語で話す力 目標とするスピーチのモデルは、教科書に載っているものを基本とするのが妥当と考える。原稿の 語数に関しては、本校で使用している教科書『NEW CROWN』 (三省堂)では、三年生のスピー チで 107 語(私の好きな言葉) 、二年生では 82 語(私の夢) 、一年生では 41 語(友達の紹介)と 28 語(自己紹介)となっている。他の教科書でもほぼ同じ語数となる。中学三年生で行うスピーチでは、 聞き手に感動や共感を与えるため、内容を推敲し、文章の構成を考え、文と文のつながりにも配慮し ながら、相手が聞いて分かりやすいものを、はっきりとした発音で伝えられる事を目指したものにな る。また、三年生ではスピーチの発表後、その内容について英語で問答したり、意見を述べ合ったり する力も付けていく必要がある。本研究では一年生を対象としているため、学習した文法内容も、発 音に関して学習した内容も少なく、文章も単純な構造の文のみとなる。また、語数も 40 語を超えれば 十分であると考えられる(参照表1) 。この段階での理想は、習得した文法事項を使って書いたスピー チを、聞き手に分かりやすく伝えるため、非言語的要素(アイコンタクト・ジェスチャー)も加え、 情報を正確に伝える事を目指している。 『COLUMBUS 21 ①』(光村図書)ではスピーチの 評価に「聞いている人を見ながら、ジェスチャーを付けて話す」という項目があり、アイコンタクト やジェスチャーについても考えさせていく必要がある。ジェスチャーについては、小学校学習指導要 領の内容の取扱いについての中で『言葉によらないコミュニケーション手段もコミュニケーションを 支えるものであることを踏まえ、ジェスチャーなどを取り上げ、その役割を理解させるようにするこ と』とあり、生徒も十分親しんだものとして扱う。イントネーションに関する知識は、一年生では疑 問文における語尾の上げ下げ程度である。また、区切りについても、文の構造が単純であるため、今 の段階での指導、評価はしないものとする。つまり、中学一年生の段階での「理想とするスピーチ」 とは、英語で書いたまとまりのある文を、非言語的要素も加えながら、聞き手に分かりやすいよう、 はっきりとした発音で話すことを言う。 スピーチタイトル 1年 2年 3年 自己紹介 自分の夢 好きな言葉 友達の紹介 尊敬する人 スピーチに関して 文章の順序 段落構成(First, パラグラフライティング 学習する内容 非言語的要素(アイコン Second) (Topic, Body, タクト・ジェスチャー) イントネーション Conclusion) スピーチ単元で学 be 動詞・一般動詞 未来形・接続詞 現在完了形・関係代名詞 習する文法 三人称 表1 (2) スピーチに関する各学年の学習内容 スピーチ構想の段階 スピーチを構想する際に最初に行うことは、教科書の本文や、ALT の作った例文をモデルとして、 情報の異なる部分に、自分の情報を入れて書き換えることにある。そこで、パーソナル・ストレージ を利用し、書く段階が1段階目。そこで作ったスピーチをグループで発表し、他の生徒に評価しても らい、その意見を入れて構想を練り直すのが2段階目。そして、自己評価をして、より相手を意識し たスピーチとなるように構想するのが3段階目となる。さらに、全体発表が終わった後に行う自己評 価と、グループ発表時と同じ友達の評価を受けることが4段階目となる。 (図1)この4段階の思考過 程を経ることで、自分の思いが相手に分かりやすく伝わるようになると考えた。 第4段階 第3段階 全体発表と評価活動 第2段階 評価を踏まえての個人 (自己評価とグループ 第1段階 グループ発表と評価活 による推敲 発表時と同じ友達の評 パーソナル・ストレー 動 ジの蓄積とそれを活用 (グループ内での自己 してのスピーチ構想 評価と友達の評価) 仮説1にかかわる部分 図1 スピーチ構想の段階的指導 価) 仮説2にかかわる部分 (3) パーソナル・ストレージ パーソナル・ストレージとは、生徒が次の自己表現をする機会に使える単語・語句・文・まとまった 文章の蓄積のことを指すものである。 今回の指導要領の改訂で、必修とされる英単語は、従来の「900 語程度」から「1200 語程度」に増 えた。しかし、中学校で指導できる語は限られ、生徒の身の回りの物すべてが網羅できるわけではな い。また、指導段階もあり、中学で学習する単語であっても一年生にとっては、まだ未習語が多く、 身の回りのことを伝えるだけでも、既習語では足りなくなってしまう。例えば、生徒が好きなものや 嫌いなものなどを紹介したいと思った時に、その単語をまだ習得していないことが多いので、辞書で 調べ、単語や語句を習得していく必要がある。また、教科書ですでに出ている表現であっても、生徒 が自己表現するための文を考える際、どの文を使って表現すればいいのか悩む生徒も多い。そこで、 既習表現の中に自分の情報を入れた文を蓄積していくこと(I like apples.のリンゴの部分に自分が 本当に好きなものを入れた文)が、教科書を見ることに比べ、さらに身近な表現となり、自己表現に 有効な手だてとなると考えられる。さらに、自己紹介や友達の紹介で書いた原稿など、生徒が今まで 書きためたものが、次の表現活動に使える蓄積へと変化する。 パーソナル・ストレージ(文)…各 Lesson で使った表現を自分に置き換えて書き換えたもの。各課 の最後にまとめとして書かせる。その課で学んだ文法事項を含む文を5文程度書く。一年間で 40 文程 度の蓄積となる。 自分が毎日していることを書いてみよう。 Ex. I play kendama every day.(教科書本文より) 生徒が書いた例 I play tennis every day. 図2 パーソナル・ストレージ(文) パーソナル・ストレージ(単語)…スピーチなどの自 己表現を書いたり、パーソナル・ストレージの文を書い たりする時に、辞書で調べて使った単語を記入していく。 また、意味と読みを同時に記入しておく。一つのスピー チを作る際に1語も書かない生徒から、10 語程書いた生 徒もいた。 図3 パーソナル・ストレージ(単語) 生徒が自己表現に使った文章(自己紹介・友達の紹介など)…今まで書いた作文やスピーチ原稿をフ ァイルに保存させ、いつでも見られるようにしておく。 図4 (4) 生徒が書いた文章 グループ発表の意義 全体発表の前にグループ発表を設定する意義はいくつかある。まず一つ目は、多くの観衆の前より も、人数が少ない方が緊張の度合いが小さいことにある。二つ目は、一度スピーチをして、友達から 感想や意見を聞き、その意見を参考に自己評価を行い、もう一度スピーチを練り直すことができると ころにある。三つ目は、他の生徒の発表を聞き、自分の発表と比べることやよい点を取り入れること により、よりよいスピーチを作る手助けになるはずである。中学校三年間の中で、大勢の人前でスピ ーチをする回数は、 何回も設定できるものではないが、 その一回をできるだけよいものにするために、 少人数での発表は必要なものである。また、同じ生徒をグループの中で一度評価し、さらに全体発表 でもう一度評価することで、他の生徒の発表がどう変わったかを見ることができ、自分の変化と比較 することで学習の過程を相対的に見とることができる。 (5) 評価を活用した推敲 他の生徒の評価と自己評価から、自分のスピーチを振り返り、聞き手からよい評価をもらえなかっ た観点について、どの様にしたら点数が伸びるかを考えることで、より相手を意識したスピーチにす ることができるようになると考えた。よい評価をもらったところは、さらに伸ばすための方法を考え させる。「もっと知りたかったこと」で書かれたことを付け足したり、 「わからなかったこと」を説明 する文を付け加えたりすることで、より聞き手を意識し、分かりやすいスピーチになると考えた。ま た、教科書や、ALT のスピーチだけでなく、同級生のよいスピーチを聞くことで、自分のスピーチと 比較して、何を加えたらよいか、削ったらよいかといったことも考えさせる。 2 検証計画 研究の仮説 検証の観点 検証方法 1 パーソナル・ストレー ・ワークシート 語句、教科書の表現に自分の情報を ジを使用し、スピーチ (パーソナル・ストレージの文、単 入れて書き換えたものを蓄積し、パ を作成することができ ーソナル・ストレージとして保存す たか。 スピーチをする際に使う単語や 語) ・生徒のスピーチ原稿 ・生徒の発表 ることは、スピーチ原稿を書くこと を容易にするであろう。 グループでの発表で指 ・グループ発表後の友達からの評価 グループで発表し、評価しあい、さ 摘されたことについて ・グループ発表後の自己評価 らに個人で推敲した後に発表を行う 考え、よりよい発表に ・全体発表後の友達からの評価 ことは、表現力を高めるために有効 するために推敲するこ ・全体発表後の自己評価 であろう。 とができたか。 ・生徒のスピーチ原稿(発表前・後) 2 表現活動で書かせたスピーチを ・生徒の発表(ビデオ) 3 (1) 具体的な実践 パーソナル・ストレージの活用例(研究仮説1にかかわる内容) 語順がわからず、単語をでたらめに並べて文を作っていた生徒も、パーソナル・ストレージを利用す ることで、教科書の本文のどの部分を変えると自己表現になるのか視覚的に理解することができた。 文法構造を崩さずに自己表現を書いたので、文章を正しく書けない生徒は少なかった。 パーソナル・ストレージ(文) 図5 自己紹介の原稿 パーソナル・ストレージの使用例 友達の紹介の原稿 図5のように、パーソナル・ストレージの文を、スピーチの本文でそのまま使っている例も数多くあ った。パーソナル・ストレージの文を並べただけという生徒もいた。上位の生徒の中には並べ替えた り、書き直したりする過程で、自分で本当に伝えたいことを書くために、パーソナル・ストレージで 作った文章を削ることもあった。 「どのような資料がスピーチを考える際に役に立ったか」という質問に次のように答えた。 (複数回答) 教科書のモデル文 パーソナル・ストレージ文章 ALTのモデル文 パーソナル・ストレージ単語 (6月) 95% 79% 55% 35% 友達の紹介 教科書のモデル文 ALTのモデル文 自己紹介の文 パーソナル・ストレージ文章 (10月) 91% 65% 43% 38% 自己紹介 表2 スピーチ構想に役立った資料 表2のように自己紹介を作る際には 79%の生徒がパーソナル・ストレージを使用して文章を考えた。 これは自己表現をする際に、一度書いてある身近な表現を容易に使えたからだと考えられる。生徒の 感想にも「一度書いてあったので、長い文章がすぐに書けた」 「自己紹介を書くのは簡単だったが、順 序を考えるのが難しかった」とあった。何を書くか考える時間より、文章の構成を考えることに時間 を費やしている生徒が多かった。しかし、友達の紹介の際に 38%の使用となった。これは、自分の情 報が友達と共通するものであれば使用できたが、蓄積量が少ないため、対応しきれなかったためと考 えられる。 (2) スピーチの評価の方法(研究仮説2にかかわる内容) 中学一年生の段階でのスピーチの評価は次のような観点で行う。 ①英語について 発音 単語(単語の正確な発音) 、文(前後のつながり)、スピード、声の大きさ ②表現について アイコンタクト、ジェスチャー、強調 ③内容について 文章の量、文章の順序 生徒はグループ発表の後、 「自己評価カード」に得点を記入した。また、グループの生徒の発表の評 価を「評価カード」に記入した。その後グループの生徒から、自分の発表のよかった点、課題となる 点などを口頭で伝えてもらった。また、グループの生徒から「評価カード」を受け取り、得点を「自 己評価カード」に転記し、平均を出した。その後、さらに、自己評価を行い、自分の課題を考えた。 全体発表の後も自己評価を行い、グループで発表を聞いた生徒の二度目の評価を行った。その後、 再度記入してもらった「評価カード」を受け取り、得点を「自己評価カード」に転記し、平均を出し た。そしてさらに、もう一度自己評価を行い、自分の課題を考えた(図6)。6月に行った自己紹介で は、全体発表で全員の評価をさせた。グループ発表と評価方法が異なったため、生徒はスピーチの変 容を感じることができなかった。前後の変化を感じ取らせる必要があるため、10 月の友達の紹介では、 グループ発表と全体発表においてグループのメンバーだけを同じ観点で評価してもらい、お互いのス ピーチの変容を見られるようにさせた。 グループを決める際に、各グループに理想に近いスピーチができる生徒がいるように配慮した。ま た、発表する際に正しい発音ができない生徒が集まらないようにした。そのため、6・7人のグルー プとなった。他の生徒のよいスピーチを聞くことで、自分のスピーチを振り返り、よいところを加え ていけるように指導した。また、それぞれの発表で必ずよい点を見つけるように指導し、自信を付け させた。 生徒の意見には、 「グループの時よりアイコンタクトやジェスチャーができた。次あるときはもっと 完成度を高くしたい」 「とても上手な人がいたので真似できるようにしたい」 「終わった後に目線が上 に行っていたことに気がついた」 「恥ずかしがらずにやれば自分も聞いている人もきっと楽しいのだろ うなと思った」 「もっとジェスチャーやアイコンタクトをすればよかったと思った。スピードが少し遅 かったと思います」といったものがあった。 自己評価カード 評価カード グループ発表 全体発表 グループの生徒の評価 グループの生徒からもらった「評価カード」 の得点を「自己評価カード」に転記する 図6 自己評価カード・評価カード 自己評価 他の生徒からの評価 8 10 8 6 4 2 0 6 4 2 0 グループ 全体 表3 英語 表現 内容 6 5.66 6.76 7.21 6.49 7.56 英語 表現 内容 グループ 7.31 7 8.28 全体 8.13 7.78 8.8 評価の得点平均(抽出1クラス) 表3から読み取れるとおり、どの観点も得点が上昇している。表現でのアイコンタクトやジェスチ ャーなどは気をつけた生徒が、はっきりと得点を伸ばすことができた。内容については、文章の量に 関しては評価ができていたが、始めから得点が高いのは、見とりのしやすい文章の量のみに観点が偏 ったためと考えられる。 This is ------. He is from Gunma. He likes soccer every day. He plays it very well. His favorite singer is EXILE. His favorite song is EXILE PRIDE. His birthday is October thirty-first. His horoscope is scorpion. His favorite food is fried rice. He doesn’t like 図7 Hello. This is----. He is from Gunma. His birthday is October thirty-first. He likes soccer every day. He plays it very well. His favorite singer is EXILE. His favorite song is EXILE PRIDE. His favorite food is fried rice. He favorite doesn’t TV like programs eggplants. are His “Konan”, “Pokemon” and “One Piece.” 生徒の修正例 図7のように、 「星座のことが相手に伝わらなかったので、テレビ番組の事を書いた。文の順序も分 かりやすく変えた」と言うように、聞き手を意識して原稿作りをする生徒もいた。 全体発表を終えての生徒の感想には、 「みんなに聞き取りやすくするために声を大きくして、スピー ドを少し遅くした。内容の量も前より増えて、ちょうどよくなった」 「発音に気をつけたら班の人から 『発音がよかった』とたくさん書いてあったのでよかった」といったものがあった。このことから、 多くの生徒が、聞き手を意識したスピーチができたと考えられる。 (良かったところ) 声のスピー ドがちょうどよく、内容が多くな 自己評価 (良かったところ) グループの生徒の評価 っていたのでよかったです。 ジェスチャーもア イコンタクトも評価が上がった。自分 なりに気をつけることができた。 (感想) ゆっくり話すこと ができた。なるべく大きな 声を出すことができた。ジ ェスチャーもできた。 (コメント) ジェスチャーも前よりできてい たし、単語の発音もしっかりできていた。 図8 Ⅵ 1 生徒の感想 研究のまとめと今後の課題 まとめ スピーチの構想で段階的に行う活動を通して、自分の思いを伝えられる生徒を育成することを目指 し、本研究を行ってきた。 パーソナル・ストレージを使って文章を書かせた結果、生徒の 96%が 40 語程度のまとまりのある 文章を書くことができた。また、生徒の意見からも、パーソナル・ストレージで一度書いてあるため に、簡単に書けたと言うものがあった。このことからパーソナル・ストレージを蓄積することが、ス ピーチ作成に有効であったと考えられる。想定していなかった成果として、パーソナル・ストレージ を使って文章を作ると短い時間で十分な量の文を作ることができるため、よりよいスピーチにする活 動の中で、文章の順序を考えたり、モデルから離れた文章を新しく作ったりする時間がとれた生徒が 多かった。 64%の生徒がジェスチャーを使い、非言語的要素についても意識してスピーチを行うことができた。 発表を聞いてすぐにわかる「アイコンタクト」 「ジェスチャー」 「文章の量」といったものはどの生徒 にも評価しやすく、友達からも指摘を受けられるため、多くの発表者が意識した。そのため、評価を 伸ばす生徒が多かった。互いのよい点を認め合う評価を通してスピーチに対する意欲の高まりも見ら れた。その結果 98%の生徒が、グループ発表より全体発表の評価がよくなった。このことからスピー チを段階的に指導することが、生徒の表現力を高めることに有効であったと考えられる。 2 今後の課題 仮説1について、パーソナル・ストレージに関しては、文章や単語の蓄積した量が少ないので、こ れからも継続して蓄積し、総量を増やし、使える場面を広げていく。生徒が自己表現する際に自信を もって書けるようにするために、文章や、単語が正しく書けているかチェックをする必要がある。ALT と協力して、何度も確認することで、正しい表現を覚えさせたい。また、パーソナル・ストレージのた めのファイルを用意し、整理させ、使いやすくする。 仮説2については、評価しやすい非言語的要素や文章の量について、グループ発表の評価より、全 体発表での評価を伸ばす生徒が多かった。しかし、語のつながりや、文章の順序などについては適切 な評価が難しいため、グループ発表と全体発表での評価に変化が見られなかった。このような観点を 見るためには、原稿を見ながら聞きとったり、原稿を読んで感想を言い合ったりできるようにする必 要がある。 Ⅶ 参考文献・資料 『言語活動の充実に関する指導事例集』 文部科学省 教育出版 平成 24 年 6 月 『評価基準の作成・評価方法等の工夫のための参考資料【中学校 国立教育政策研究所 外国語】 』 教育出版 平成 23 年 11 月 『学校教育の指針(解説編) 』 群馬県教育委員会 平成 25 年 『新学習指導要領に基づく授業実践』 広島大学 平成 23 年 3 月 『NEW CROWN 1.2.3』 三省堂 平成 23 年 『COLUMBUS 21 1.2.3』 光村図書 平成 23 年 スピーチの構想 単 Lesson 6 Mini Project (New Crown English Series 1) 元 (全9時間予定) 名 過 主な学習活動 時 程 (本時 4/8) ・モデルを聞く ・インタビューに必要な質問を考え る。 1 ・友人にインタビューをする。 つ か む ・スピーチを作る ・パーソナル・ストレージを利用し てつくる 2 ・教師にチェックしてもらう。 3 4 ・グループでの発表をする ・自己評価をする。① ・他の生徒の発表を聞き、アドバイ スを書く。 追 5 ・それぞれのスピーチについて話し 求 6 合う。 す ・自己評価をする。② る ・グループ発表での評価を生かした スピーチを作成する。 ・全体での発表をする。 ・自己評価をする。③ ・全員のスピーチについて評価す る。 7 ・同じグループだった生徒について 8 改善されているか評価する。 自己評価をする。④ ま ・グループ発表で一緒に行った生徒 と 9 からの評価をもらい、改善できた め かを考える。 る ・よりよい発表に向けて考える。 ねらい 指導上の留意点 ・モデルのスピーチを聞き、どの様 ・ALT にモデルを作ってスピー なスピーチが理想か理解する。 チしてもらい、文と文のつな ・友達にインタビューをして、紹介 がりにも着目させる。 文を作るための情報を得る。 ・どの様な質問をしたらいいか、 教科書を参考に例を示す。 ・紹介に必要な情報は何かを考 えさせる。 ・既習事項を使って、友達を紹介す ・自己紹介の時に使った文章も るスピーチを作る。 参考にしながら、友達の紹介 を考えさせる。 ・ALT と協力してスピーチをチ ェックする。 ・練習してくることを宿題にす る。 発表者 ・少人数の前での発表を行う事 ・聞き手を意識したスピーチをす で、緊張を和らげる。 る。 ・他の生徒から評価カードを受 聞き手 け取り、その後自己評価をす ・他の生徒の発表を聞き、自分のス ることで、自分のスピーチを ピーチに生かせる物がないか考 多角的に考えることができる える。 ようにさせる。 ・スピーチの良さや、課題を考える。 ・それぞれのスピーチの良かった点 ・自分のスピーチを振り返り、 を考えさせる。 聞き手から良い評価をもらえ ・どうすれば良いスピーチになるか なかった観点について、どの 改善点を見つける。 様にしたら点数が伸びるかを ・よりよいスピーチの作成をするた 考えさせる。良い評価をもら めに考える。 ったところをさらに伸ばすた めの方法を考えさせる。 ・練習してくることを宿題にす る。 発表者 ・聞き手を意識したスピーチをす ・聞き手を意識できるよう、観 る。 点を与える。 聞き手 ・同じグループだった生徒の成 ・スピーチの良さや、課題を考える。 長を見ることにより、自己の ・他の生徒のスピーチと比較し、自 成長も感じられるようにす 分のスピーチの評価をする。 る。 ・同じグループだった生徒が改善し たところを見つける。 ・自分の思いを伝えるスピーチにす ・今まで書いたワークシート、 るために、どのようなことが必要 何度も行った自己評価や他の か考える。 生徒からの評価など、たくさ ・次のスピーチに向け、自己の課題 んの資料から読み取らせる。 を把握する。
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