お志事の感動が日本を元気にする! 株式会社角田識之事務所 代表取締役 角田識之氏 1956 年愛媛県松山市生まれ。 上場企業にて代理店への経営指導業務を経験後、大手コンサルティング 会社で、5 年余り実務経験を積む。1989 年株式会社ハイネットを設立、 現在に至る。進化型CIや理念型経営という独自の手法により、数々の 企業革新や新創業を実現させ、好評を博している。また、文明 800 年周 期論に基づく東洋ルネッサンスの旗手の一人として、海外交流にも取り 組んでいる。 1 お客様の事前期待を超えられたか? これから、お仕事の感動が日本を元気にする!ということでお話したいと思います。 決算期によって、皆さんもいろいろなサイクルがあると思うんですが、数字の積み重ねを 背負っていらっしゃる。先月まで思わしくない、という人も、心配は要らないです。よく 経営者の方に言うことなんですが、過去の数字は変えられないからね。いくら会議をして もね。変えられるのは、今日以降の数字で、その数字が誰からもらえるかといえば、お客 様からしかもらえない。皆さんが提供する価値がお客様の期待を超えれば、いろいろな評 価が出てきます。 経営者として、リーダーとして、1 日の仕事終わりに振り返るべきは、今日接したお客様 の事前期待を超えられたか、ということです。超えると感謝・感動・感涙が起こってくる わけですが、そんなお客さまとの方程式を積み上げたものが、他でもない業績の方程式に なるんですよね。 そして、事前期待を超える評価を作ろうとすると、・値段を下げる・量を増やす・品質を 上げる という 3 つのどれかしかありません。 値段を下げるといえば、最近やたらと言われるのが牛丼戦争で、今 1 杯 280 円とかです。 とんでもないなぁと思います。牛肉 1 キロ作るのに、穀物 15 キロ使います。穀物が食べれ なくて毎日 5 万円の人が餓死しているのに、食べ物の値段を安くするというのはどういう 1 感覚なのかな、と。 量を増やすというのもありますね。たとえばスーツを買いに行くと、 「お客様、今なら 2 着買うと 3 着目無料です」とかね。3 着も買っちゃうと、着るときになって体型変わっちゃ うんじゃないかとか思いますけど。 そして品質を上げるには 1 つしかない。リーダー が志を持つことです。リーダーの志の目線に、働く 人の目線がそろってくると、志を使ったお志事集団 ができてきます(図 1)。 図1 2 志の角度が高ければ、お仕事が「お志事」に 違和感なく、事前期待を超えるということ この前プレジデントスクールが大阪であって、久しぶりにリッツ以外の、ブライトンシ ティ大阪北浜という講座会場から 10 分くらいのホテルを取りました。で、これは先ほどの 方程式で言うと、事前期待低いんですが、フロントの男性がすごいことするんですね! にこっと笑って、「角田様、お待ちしておりました」と言うんです。これは驚きました。 この前、過去どのくらいホテルに泊まったかを計算してみたら、4500 回くらいありました。 その中で、名前を呼ばれたのは 2 回目です。初めて行って、ということですが、もう 1 つ がリッツカールトン大阪。4500 分の2といったら、0.0004%。ゴルゴ 13 が的をはずす か、小松さんが 2 次会でお酒を飲まないか、そのくらい低い確率ですよね(笑)。驚きまし た。 で、チェックインだから宿帳書こうと思ったら、もう書いてあるんです。「すみません、 勝手に書いてしまいました。お間違いがなければ、サインお願いします。」と言うんです。 これは事前期待をさらに超えています。私も 4500 回行っているといろんなホテルがありま したし、10 回以上行っているところもざらにありますが、10 回以上泊まってても、名前を 書かせるところもあるんですよね。名前はいえませんけど某岡山の・・・笑 だけど、そこの集団の方々は何の違和感もなく、そうやって働いている。感動的な「お 志事」をしている会社も、お客さんの事前期待を超えない会社も、みんな違和感なく働い ているんですね。「違和感がない」というのは、トップが違和感なくいる視点に社員が合わ せているんですね。 2 私は感動しましたので、このことをメルマガに書きました。で、講座のお昼休憩のとき、 尋ねてきた人がいます。ちゃんとスーツ着て、ネクタイしめて、名刺出されるんですね。 「大 西敏明」さん。初めての人だな、と肩書きを見ると、「ブライトンシティ大阪北浜執行役員 総支配人」。どうしたんですか、と聞くと、 「私は毎朝、自分の会社名で検索する習慣があります。すると、臥龍さんが書かれた社長 のビタミンというメルマガがヒットしました。すぐにプリントアウトして、全社員にくば りました。こういうふうにお客様は見てくださっているよ、と。 今日は北浜フォーラムで講座をやっているということだったので、ご挨拶に伺いました。 本当にうちの社員のことを覚えていただいてありがとうございました。」 と言うんですね。 本当に驚きました。まあメッセージカードを書いて部屋に入れてくれても、よく見てく れてるな、と感心します。でもこの炎天下のなか、総支配人が 10 分歩いて挨拶にやってき てまた帰る。大西さんのお仕事の視点に、感動しました。 2 日目、鍵を持っていたのでそのままエレベータに乗ろうとしたら、昨日はいなかった受 付の女性が、 「角田様、FAX が届いているのでぜひお持ち下さい。」というんです。普通で すと、部屋に入るとランプが点滅していて、押してみると「FAX 届いてます、お持ちしま しょうか」というメッセージが入っているんですが、前を通ったときにすかさず・・・と いうことは、この組織にとっては、お客様の名前を呼ぶことに、命がけというのは変です けども、本気なんだな、と。サービス業としての目線の高さに感心しました。 今回はいつものリッツカールトンから浮気して泊まったわけですけど、まあ 2 号ができ たなあ、と(笑)だからつい、来月・再来月の講座の時のためにも予約して帰りました。 3 感動物語は作るのではなく、浮上するもの お客様は正直でうそをつかない、と本当に思います。人間は、必ずバランスをとろうと する。アンバランスだと居心地が悪いんですよ。 もらいすぎたら(図2・A 事前期待<事後評価→感 謝・感動・感涙)こう(図 2・B 事前期待=事後評価 →満足)しようとするし、思ったよりもらわなかっ たら(図2・C 事前期待>事後評価→不満・苦情・去 る)こう(図2・B)しようとします。こっちは大体 悪口ですね。アメリカの統計では、もらわなかった ら 10 人に悪口を言うと、もらいすぎたら 5 人によか 図 2 感動創造方程式 3 ったよ~と口コミをすると、落ち着くそうです。 これは私のお客さんから言っても、99%当てはまります。1%の当てはまらない方を「恩 知らず」というんですが。 大体の人が、もらいすぎたのはお返ししよう、と思うんです。だから 1 日終わって、今 日、お客様が払った以上の喜びや価値を持って帰ってもらったか、ということ。その振り 返りがあれば、必ず明日からの数字は変わってきます。 3 お客様の感動のためにトップがすべきこと ではお客様の感動を創造するためにどうすれば いいか。感動物語ができるまでに、次のような段 階があります(図3) 。トップの志があって、現場 のやるべきこと、ゴールドスタンダードが変わっ て、現場のリーダーシップや環境整備、お客様の 声を生かして・・・これは氷山のつもりなんです が、海上と海面下では 1:9 です。海面下が大きく なるほど、上も大きくなっていく。で上に見えて いるのが感動物語です。感動物語は作るんじゃな 図3 感動物語への氷山 くて、浮上するものなんです。しかも波間に浮か んでいますから、油断するとすぐに記憶の彼方に沈んでいきます。 実は先月 10 日に、プレジデントスクールを受講していたベストホームさんが、第二創業 の出航式を行いました。出航式の時には、この仕事って働き甲斐あるね、という感動物語 を話してもらいたい、と藤本社長に言ったら、 「うち、ないです」と。あまりに自信もって 言われたので心がめげかけたんですけど、「何とか探して!」といったら、当日参加者の皆 さんを泣かす感動物語が出てきました。 これは藤本さんの会社の方が、とびきり記憶力がないわけではなくて、忘れていってし まうんですね。だから浮かんでいる時にちゃんと刈り取って形にして、残してあげようと いうことで、 「感動物語コンテスト」をやってます。 一昨年のコンテストではホテルでの内容が優勝しました。ご紹介したいと思います。 4 「プロポーズ大作戦~おせっかいなキューピッ トたち~」あらすじ 奈良県吉野郡川上村にある、ホテル杉の湯。あ る時、桜の好きな彼女にプロポーズするために、 桜のきれいな場所を教えてもらいたいんですとい うご予約。場所を教えるだけでなくて、もっと二 人のために何かをしたい!ホテルのスタッフと、 他のお客様を巻き込んでの大作戦が始まりました。 氷山の下のほうの厚みを作ると、上に感動物語ができる、と。今日はホテル杉の湯の氷 山の下の厚みを作った、喜家村玲子さんに来ていただきました。 4 ホテルの理念が感動物語を生んだ<以下喜家村様> 奈良県吉野郡川上村、ホテル杉の湯からまいりました、 喜家村と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 プロポーズ大作戦が生まれた経緯をお話いたします。 ホテル杉の湯は公営の宿です。どちらかというとサー ビスというよりも、役場が作った・・・硬い感じのホテ ルだったんですね。私はそこで働いていて、たまたま友 人に背中を押されて、臥龍先生の「本気塾」に出させて いただきました。「リッツカールトンに学ぶ、ホスピタリティ」というタイトルで、うちも ホテルだし、どうせなら一番といわれているリッツカールトンみたいになったらいいな~、 と軽い気持ちで受講させてもらいました。そこで学んだのは、サプライズなどそういう上 の部分ではなくて、もっと下の部分、どうしたらお客様のために動けるのか、そういう部 分を学びました。 それはリッツカールトンにある「クレド」というものです。会社の理念のようなもので すが、考えてみたらうちにはありませんでした。村が作りましたので、観光振興のためで すとか、観光情報収集のためですとか、地域のためとかいうのはあったんですが、全然私 たちの言葉じゃない、心に響かないものだった。うちには理念がないんだと気付いて、支 配人に、「お客様に感動していただくためには理念が必要だ、支配人の思いを形にしてくだ 5 さい」と何度も何度もお願いしました。ついに根負けしてくれまして、理念を作ってくれ ました。ご紹介させていただきます。 「私たちは、ホテル杉の湯の将来の発展と、自己目標の実現のために、お客様とともに 感動します。そして、地域に貢献し、地域に愛されるホテル杉の湯を目指します。」 わずか 2 行ですが、この 2 行に、全ての思いが込められていると思います。 理念ができたてほやほやのころに、ご予約のお電話をいただいたので、みんなめっちゃ 燃えてたんですね。お客様のために何をしよう、とみんなわくわくしながら大作戦をした のを思い出します。 そして当日、お二人の本当に幸せそうな涙を見て、私たちも泣けてきた。あ、感動って、 一方通行じゃないんだ、両方向なんだ。お客様が幸せなら、私たちも幸せなんだ、という ことを逆に教えていただきました。 5 感動物語を形にして残す それでへたくそながら映像を編集し、音楽をつけて、何とか形になりました。これを作 って、変わってきたことがあります。 まず、人生を通して付き合えるお客様の存在にも気付きました。この時のお客様は何回 も来てくださって、家族ぐるみのお付き合いになっています。 また、実際は別館で行ったので従業員全員がいけたわけではないんですが、従業員全員 に見てもらうことができました。「うちのホテルって、こんなことできるんだ」って、仕事 に対する誇り、方向性、ベクトル合わせ、目線あわせができたと思います。 あと、こういう場で見ていただくことによる広がり、ということもあります。すごい田 舎のホテルですので、皆さん杉の湯をご存じなかったと思うんですが、こうやって知って いただけました。ありがたいことです。また、社内研修で使いたいなどとも言っていただ けて、感謝しております。 ホテル杉の湯を、日本一笑顔のあたたかいホテルにしたい。これが私の夢です。実は今 度ウーマンドリブラというのがありまして、私の志をまとめた映像を出させてもらいます。 こちらも少しお付き合い下さい。 「一期一笑(いちごいちえ)プロジェクト」あらすじ 女性の感性。感動経営。マンガの融合。 6 脱サラした夫と二人の子どもとともに、奈良の吉野で生活し始めた喜家村さん。豊かで はなかったけれど愛にあふれた、幸せな暮らしをしていましたが、夫が突然の病死。心か ら笑えない日々が何年も続いたあるとき、経営塾に通い始めてたくさんの仲間と出会い、 夢を追う情熱を取り戻していきました。 私の夢は、杉の湯を日本一笑顔の集まるホテルにすること! でも、何か忘れてない?子供のころの夢は・・・漫画家になること。イラストをブログ にアップするようになりました。 あるとき、次男から、「本気の学生と企業をつなぐプロジェクトを立ち上げるから、パン フレットにイラストを書いて!」との要望が。ようやく見つけた、私の本当のお役立ち。 イラストで今までお世話になったみんなに恩返しをしたい!みんなありがとう。 臥龍先生に会えて、本気塾のみんなに会えて、私は本当に変わりました。ありがとうご ざいました。 <以上喜家村様> どの従業員も、また皆さんのお子様もみんな、志の火種は持っている。誰かがそれにチ ャンスというか、ガソリンを注いだときに燃え始めるんじゃないかと思います。 ぜひ皆さん自分の従業員一人一人、お子様の火種に、太陽にも負けない熱い炎を注いで あげてください。その可能性を信じて、この二人のセッションを終わります。どうもあり がとうございました。 7
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