川裏堤脚部の漏水対策にあたっての着眼点 (井田川小泉地区をモデルケースとして) 石川 俊之1・山﨑 忠2・西澤 和宏3 1 富山河川国道事務所 副所長 (〒930-8537 富山県奥田新町2-1 ) 2 富山河川国道事務所 河川管理課長(〒930-8537 富山県奥田新町2-1 ) 3 富山河川国道事務所 河川管理課 (〒930-8537 富山県奥田新町2-1 ). 神通川左支川井田川の左岸5.2~5.4k間の川裏堤脚部において漏水が確認され、地質調査、水位観測、採 水試験、目視調査等を行い、その結果を踏まえた被災メカニズムを想定し、対策工の検討、設計を実施した。 調査、解析の結果、漏水は、河川水の影響を受けてはいるが、堤体内のパイピングによるものではなく、 元々高い地下水位が、河川水の上昇に伴い、堤脚部の空石積から流出していると想定された。この解析結果 を受け、堤脚部の地盤の緩みの拡大による堤体への影響を考慮し、施工性や経済性よりリリーフウェル工法 を採用した。 本稿では、現地の緊急点検調査を踏まえ、詳細な調査項目やその結果を受けての被災メカニズムの想定、 対策工の立案、設計への配慮事項など漏水対策の着眼点について報告を行う。 キーワード 川裏堤脚部、地下水状況、漏水対策、リリーフウェル工法 1. はじめに 富山県南東部に位置する神通川左支川井田川の左岸 5.4k付近(富山市小泉地区)自治振興会より漏水箇所の 補修要望があった。そこで、緊急点検を行ったが、無降 雨時であったため土砂の吸い出し箇所は見られたが、漏 水は確認されなかった。そのため、降雨時に再度点検を 行った結果、井田川左岸5.2~5.4k間の川裏堤脚部にお いて、漏水:2箇所、しみ出し:2箇所が確認された。 漏水の原因は幾つか考えられたが、井田川の堤防がカ ミソリ堤であること、出水期に入っていることから、最 悪の事態を想定して応急対応を実施することにした。 以上の認識に基づき、応急対策を施した上で、早急に 調査計画を立て、地質調査、水位観測、採水試験、目視 点検調査等を行い、その結果を踏まえた被災メカニズム を想定し、対策工の検討、設計を実施した。 2. 応急対応 最悪の事態として、漏水に伴い堤体内でパイピングが 生じ、堤防法尻からのすべり破壊が懸念されたことから 下記の対策を行った。 ① 情報の共有化として、消防団に情報提供を行った。 ② 情報がリアルタイムで把握できるように現地にカメ ラを設置して画像を配信、その情報を職員の携帯電話 やホームページで確認できるようにした。 ③ 漏水によるパイピングが懸念されたため、水防工法 の一つである月の輪工が直ぐに実施出来るよう土のう 袋に砂を入れて現地に準備した。 ④ 水防団に緊急時の対応を依頼した。 3. 漏水要因調査と結果 漏水の原因は3つ考えられた。 ① 井田川からの河川水の漏水である。 この場合は、パイピングによる堤体内に水道、及び空 洞化は生じているかが課題となる。 ② 堤脚部に設置されている用水路の上流から用水が浸 透し、漏水となった。 この場合は、どの程度堤体内に水道が入り込んでい るか、空洞化が生じているかが課題となる。 ③ 堤内地側の地下水が高く地下水が湧き出た。 この場合は、堤脚部の湿潤化に伴う堤体の弱体が課題 となる。 3つのうちでは、①②③の順で被害想定の程度は異な る。また、対策工の施工位置も異なってくる。 従って、これらのことを前提に、地質調査、地下水検 層、水位観測、採水試験、目視点検調査を実施した。 (1) 地質調査 漏水箇所とその上下流の地質や地下水位状況を確認す るため、漏水の多い箇所を中心に、4箇所の調査ボーリ ングを実施した。 調査項目は、オールコア、標準貫入試験、現場透水試 験を行った。 (2) 地下水検層 地下水検層結果と地質想定図の重ね図を図-3に示す。 図より、深度7~12m付近のAg層において、グラフが 時間とともに右へ移動しており、地下水流動が大きいこ とが確認された。 また、深度10m付近ではグラフが右へ突出しており、 特にこの地点で地下水流動が大きくなっていた。 (3) 水位観測 河川、孔内水 (4箇所)、漏水の水位を観測した。 河川及び孔内は、水位計を設置し、漏水箇所は漏水時 に小段から漏水箇所までの高さを計測し、横断図より標 高を確認した。 漏水発生時(2011/9/15~30)の水位観測結果は以下 のとおりであった。なお、ボーリング孔のストレーナは、 削孔時、地層による地下水位の変化がなかったことから、 全て有孔管を使用した。 ・無降雨時の地下水位は、▽12.4m程度であり、比較的 高い位置に水位があった。(川裏側のU型水路天端高 は12.5m、図-4参照) ・漏水発生開始時、終了時の孔内水位は▽12.7m程度で あり、この水位を超えた時に漏水が発生した。 ・孔内水位と河川水位は連動しており、河川水位が上昇 すると孔内水位も上昇し、河川水位が低下すると孔内 水位も低下した。 凡例 水位観測結果から考察すると、次のとおりである。 ・ 降雨前の水位の相対関係を維持したまま、漏水が発 生することから、漏水発生の必要条件に河川からの 直接供給はない(堤内地の地下水位上昇だけでも漏 水が発生する)と見られるが、堤内地水位が限界 (堤内地の井戸の水位)に上昇する頃から河川から の浸透水が漏水に関与を深めている(B-2とB-4の水 頭差が大きいため)可能性がある。 (4) 採水試験 漏水の水源を確認するため、降雨、河川水、孔内水 (4箇所)、漏水箇所、用水、自噴箇所において採水し、 水質試験を実施した。ヘキサダイヤグラムより考察する と下記のとおりであった。 ・ 漏水箇所の水質の特徴から、河川水と雨水はほとん ど漏水箇所まで到達していないと想定された。 ・ 漏水箇所が、B-2やB-4、自噴箇所と似ており、地下 水が空石積から漏水していると想定された。 (5) 目視点検調査 堤外側:堤外側低水護岸のクラックの有無、大きさ などを確認した。実施区間は漏水が確認されている5.2 ~5.4k間とその上流100m区間を対象とし、300m区間 を実施した。 堤内側:堤内地側法面の漏水状況、田圃の河川沿いに 涌水を確認した。(漏水時、非漏水時)実施区間は漏水 が確認されている5.2~5.4k間の200m区間とした。 目視調査結果から考察すると、以下のとおりであった。 土質調査(ボーリング・標準貫入試験・地下水検層) 水位観測 採水試験 目視調査 井田川 矢板 + 練石張護岸 練石張護岸 写真 1 水位観測 低水護岸 堤防川表法面 堤防天端 B-1 B-2 B-3 1OOm 1OOm B-4 堤防川裏法面 堤脚部の用水路 自噴 自噴 漏水箇所 写真 2 写真 3 図-1 調査位置及び調査内容 ・ 練石張護岸にクラックが複数確認されたが、開口は 小さく、クラックから河川水が進入する量は少ない。 ・ 漏水の水温が河川や用水に比べて低いことから、地 下水が漏水していると想定される。また、漏水は無 色透明であるため、現時点では著しい土砂流出は生 じていないと推測される。 ・ この付近は、無降雨時も地下水位が高く、降雨時に 地下水位が上昇すると、井戸や地盤の緩い箇所から 水が湧き出す傾向がある。 地質調査結果から考察すると以下のとおりである。 ・ Bs層は透水性が低く、川表側には練石張護岸が設 置されているので、河川水の堤体からの浸透はほ とんどないと想定された。 ・ Ag層は透水性が高く、帯水層となっており、地下 水はAg層を流れていると考えられた。また、河川水 上昇時にはAg層を通じて堤体基礎地盤に浸透してい ることが想定された。 ・ 透水性の高い基礎地盤の上に、透水性の低い堤 体があるため、洪水時に河川水位が上昇すると被 覆土が被圧されることが想定された。 図-2 漏水発生時(2011/9/15~9/30)の水位変動状況 図-2 漏水発生時(2011/9/15~30)の水位変動状況 地 質 凡 例 時代 地層名 記号 主な土質 Bs1 堤防盛土 Bs2 砂、礫混じり砂、砂礫 Bs3 漏水箇所 第四紀 完新世 砂質土層 As1 礫混じり砂 砂礫層 Ag 砂礫~玉石混じり砂礫 砂質土層 As2 シルト質砂、シルト 粘性土層 Ac シルト、粘土、シルト質砂 井田川 4. 解析結果 図-3 漏水箇所の地質断面と地下水検層結果 (1) 漏水メカニズム 調査結果から想定される漏水の原因は、下記のとおり である。 ① 当該箇所は周辺地形より地下水が高い。 ② 地下の玉石混じりレキ層は地下水の帯水及び移動層 となっている。玉石混じりレキ層は、河床・堤防の基 礎地盤・堤内地の田圃の下に広く分布している。 ③ 河床には粘土層がなく、河川水が玉石混じりレキ層 に供給され地下水を押し上げている可能性が高い。堤 防敷きは堤体材料で覆われている。また、堤内地の田 圃は粘性土約0.5mで覆われている。従って、最も被覆 層の薄い堤脚から漏水が生じたと推定され、現時点で は、堤防の空洞化は見られていない。 ④ 用水の水温が、漏水の水温より低いことから、用水 が漏水に影響していないと考えられる。 これより、無降雨時でも高い位置にある地下水位が、 降雨の影響によって上昇し、堤体内水位が漏水標高 (▽12.7m)を超えると漏水が始まる。(基盤漏水)こ の時点では、河川横断方向の水頭差がほとんどないこ とから、河川水は漏水に直接影響(堤体内のパイピン グ)しておらず、上昇した地下水が空石積から漏水し ていると考えられた。 (2) 漏水対策の必要性 当該箇所は、地下水位が高く、降雨時に堤脚部から漏 水が確認されることから、堤脚部の地盤が緩んでいる可 能性があった。当該箇所の地層構成は、透水性の高い土 層(Ag 層)が、透水性の低い土層で被覆されているため、 図1 堤脚部からの漏水 図2 川裏法面、堤脚部の崩壊 図3 図-4 漏水発生メカニズム 破堤が進行し、越流 図-5 破堤メカニズム 河川水位が計画高水位まで上昇した際には、Ag 層から 河川水が浸透し、被覆土層が被圧され、法尻部でのパイ ピング(盤ぶくれ)や堤体内部でのパイピングが生じる恐 れがある。 また、パイピングにより土砂流出が進行すると、大量 の浸透水が流れ、堤脚部が崩壊することとなり、降雨や 河川水の堤体への浸透、堤脚部の崩壊によって、川裏法 面ですべり破壊が生じる。 さらに破壊が進行すると、河川水が越水することとな る。 このため、基礎地盤を対象とした浸透対策を早急に行 なう必要があり、また空石積擁壁からの漏水量が多いた め、この漏水を安全に堤体外に排水するための対策も必 要である。 5. 対策工の検討 当該箇所では、漏水対策、基盤地盤の浸透対策を、目 的としているため、これに効果のある対策工を選定する 必要がある。 一次選定では、次の理由から“川表遮水工法”、“ウ ェル工法”の2工法を選定した。 ・ 当該箇所では、川表側に練石張護岸があり、堤体 の透水係数も低いため、断面拡大工法や表法面被覆 工法等の堤体を対象とした対策工は、直接的な対策 効果を期待できない。 ・ 当外箇所では高水敷がないため、“ブランケット 工法”は採用できない。 ・ “川表遮水工法”は、基礎地盤への遮水対策とし て期待でき、採用可能な工法である。 ・ “ウェル工法”は、基礎地盤の浸透圧低減対策と して期待でき、採用可能な工法である。 (2) 対策工の二次選定 一次選定した工法について、表-1のとおり、施工実績 (1) 対策工の一次選定 一般的に、堤防の強化対策としては、大別すると、下 や施工性、維持管理、経済性について比較検討を実施し、 記の2つに分けられる。 最適な堤体強化工法を選定した。 ① 堤体を対象とした強化工法 次の理由から、“リリーフウェル工法”を採用した。 ② 基礎地盤を対象とした強化工法 ・ 鋼矢板工法や連続地中壁等の川表遮水工法の場合、 ① 堤体を対象とした強化工法は、堤体への浸透を防 施工時に既設の練石張護岸を取り壊す必要がある。 止する表法面被覆工法や、堤体に浸透した水を速やかに また、大型機械が必要であり施工性で劣る。 排水するドレーン工法、浸透路長を長くする断面拡大工 ・ ウェル工法は、応急的、短期的な対策とされてお 法等がある。 り、実績がほとんどない。また河道制御が必要で また、② 基礎地盤を対象とした強化工法は、基礎地 あり、維持管理面で劣る。 盤への浸透を防止する遮水矢板工法や、高水敷を難透水 ・ リリーフウェル工法は経済性、施工性で他案より 性材料で被覆するブランケット工法、基礎地盤からの浸 優れ、対策工として有効である。 透水による浸透圧を低減させるウェル工法等がある。 表-1 堤体強化の比較表(二次選定) (3) 断面形状 リリーフウェル工法は、基礎地盤の浸透圧低減を目 的として設置するため、U型水路天端からAg層上端付近 までを砕石で置き換えた。 また、U型水路より上部については、洪水時に現況 の空石積みから漏水があるため、この部分に擁壁工を兼 ねたドレーン工を設置した。 1) 置換え砕石 地下水位が高く、掘削高が1.5mを超えるため、簡易 土留めを用いて施工することを想定し、置換え幅(=掘削 幅)は1.0mとした。また、浸透圧を確実に低減させるた め、置換工下端位置は、Ag層に30cm程度根入れを考えた。 2) ドレーン工 現況空石積の勾配、高さに合わせ、かご枠を2段設 置した。なお、かご枠前面と上面には、蛇等の小動物 の侵入防止対策として、かご枠と中詰め石の間にプラス チック製のシートを設置した。 (4) 使用材料 1) 置換え砕石 砕石は、浸透桝などの浸透施設で一般的に使用され ている単粒度砕石3号(30~40mm)を使用した。 2) ドレーン工 ① ドレーン材料 カゴ枠 中詰め材:粒径15~20cm ドレーン材料は、「河川堤防構造検討の手引き」 より、透水係数や細粒分含有量、内部摩擦角等の点 を満足する必要があった。また、カゴ枠の網目が 13cmであるため、これ以上の粒径とする必要があっ た。以上を踏まえ、粒径15~20cmの玉石や割栗石を 使用した。 ② 吸出し防止材 吸出し防止材は、「河川堤防構造検討の手引き」よ り、開孔径や目詰り、動水勾配、強度等の仕様を満 足する材料を使用した。 ③ プラスチック製シート 蛇等の小動物がかご内に侵入しないよう、かご枠と 中詰め石の間にシートを設置した。 なお、シートは耐久性に優れるプラスチック製とし、 網目が5mm以下のものを使用した。 N値 0 10 20 30 40 50 Ac 4 As1 砕石置換え 写真-1 施工後の状況 300 6 DL=10.00 6. おわりに 33 29 Ag カ ゴ 枠 (河 川 ド レ ー ン 用 ) 中 詰 め 材 : 粒 径 1 5~ 20 cm 1000 張芝 プラスチック製シート 網 目 5m m 1000 平 場 コン クリ ート t-1 0c m ▽12.5 埋戻し 1500 砕石置換え 単 粒 度 砕 石 3号 (3 0 ~ 4 0mm ) Ag層 1000 300 吸出し防止材 井田川左岸5.2~5.4k間の川裏堤脚部の漏水に対し、 漏水のメカニズムを想定し、最も効果的なリリーフウェ ル工法を採用し、施工を行った。その結果、地下水が一 点に集中することなく排出されるようになり、堤体の維 持に寄与していると考えられる。 一般的に漏水においては堤体や基礎地盤の土質が問題 点となるが、その状況を把握するためには、調査ボーリ ングの他、水位観測や地下水検層、水質調査のデータを 的確に把握することが重要である。 今後は、当該箇所の上下流に、堤脚が湿潤化(大根 の花が多くみられる)している箇所が多数見受けられ、 同様の状態になっていることが十分予想されることか ら、これからの維持管理を行う上でも、漏水の痕跡を 十分考慮し、調査を行うことが重要である。 また、今回の現象はこれまでの堤体の安定解析等では 想定されていなかったことであり、今回の検討を踏まえ、 他の河川での検討も必要である。
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