平成 18 年度 山口大学教育学部公開講座テキスト

平成 18 年度
山口大学教育学部公開講座テキスト
― 第12 回 ―
平成18 年 8 月 11∼13 日,25∼27 日
山口大学教育学部木材加工実験室
Ⅰ
開講に当たって
本講座は,実習を通して基本的な木工具の使い方や木工技法を学ぶと同時に,木に触れ
親しんで頂くことを目的としています。
わからない点や不安な事などがありましたら,お気軽に講師にお尋ね下さい。
【注
意】
1. 工作台や機械など,設備に限りがあります。効率よく作業ができるようご協力下さい。
2. 電動機械の使用にあたっては,担当者の指示に従い,安全な作業をこころがけて下さ
い。
3. のみなどの刃物は,危険ですから工作台の中程に置き,床に落下しないよう注意して
下さい。
4. 作業中は,木粉等で床が滑りやすくなります。転倒等による事故がないよう注意して
下さい。
5. 作業台の角や機械の突起などで衣服を引っかけたり,体をぶつけたりしないように気
を付けて下さい。
6. この冊子に記されている寸法を含め,実習中の長さの単位は全てミリメートル(mm)
を使用します。
【使用する木工具について】
使用する木工具は,講座担当者の方で用意いたしますが,ご自分のものを使用して頂い
ても結構です。
【作業着について】
汚れても構わない格好であれば,どのようなものでも構いませんが,危険ですのでスカ
ートはご遠慮下さい。また,上着の裾や袖が広がっている衣服については危険な場合があ
りますので,裾はズボンに入れる,袖は何かでとめるなどのことをお願いすることがあり
ます。
また履物は,運動靴など滑りにくく,足全体を覆うものを着用してください。
【その他】
・ 組立作業の段階で,ボロ布などを用意して頂く必要があります。
・ 仕上げ作業では、かなりの埃がたちます。2 日目以降,マスクをご用意ください。
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Ⅱ
学習テーマ
今回のテーマは,「引き出しの製作」と「のみの使い方」です。
引き出しは,特別な工具や機械を使用しないで,家庭でも比較的簡単に製作できる方
法を紹介します。
作品には,取っ手を取り付けます。両端を「のみ」で加工した穴にはめ込み,強度と
見栄えのアップを図ります。
Ⅲ
作業工程
大まかな作業工程を示します。実際の作業は,加工する部材や設備・機械などによっ
て入れ替わったり,複数の工程を平行して進める場合もあります。作業の目安としてく
ださい。
工 程 表
工
程
主な使用工具・機械
1.材料取り ①けがき
②のこぎりびき
○さしがね,鋼尺,鉛筆*
○のこぎり
2.引き出し ①引き出しの材料加工
②接合
○のこぎり,かんな,木口削り台,さしが
ね,直角定規,くぎ,金づち
3.本体加工 ①側板の部材取り
②棚板の部材取り
③ほぞ穴加工
④段欠き加工
⑤取っ手の製作
⑥接合
○さしがね,のこぎり,かんな,接着剤
○
〃
○さしがね,のみ
○ルーター
○糸のこ盤
○さしがね,くぎ,金づち,接着剤,直角
定規
4. 仕上げ
○紙やすり
○刷毛,ぼろぎれ,紙やすり
○さしがね,ダボ,金づち
①から研ぎ
②塗装**
③棚用ダボの打ち付け
*鉛筆は,なるべく軟らかいもの(2B,B など)を使用して下さい。
**塗装は,受講者の希望ならびに天候によっては,実施しない場合があります。
= お願い =
「取っ手」ならびに「引き出しのつまみ」については,各受講者にデザインまたは調達
をしていただきます。
刃物を扱います。ケガのないよう,互いに気を付け合ってください。
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Ⅳ
材料加工(全般的説明と注意)
一枚の板から,必要な部材を切り出していくことを材料取りまたは木取りといいます。
下図は,今回製作するものの木取り計画です。
作業スペースを確保するため,AとBの2つに分けてお渡しします。
1.材料取りをするときの注意
☺ 板目のある材料では,板目模様の山形が流れる方向に注意し,視覚的に違和感を生
じないようにします。
・縦に使用する材では,板目の山形が上に凸となる。
・横に
〃
が左から右に流れる様にする。
横向きに使う場合
縦向きに使う場合
力
繊維の方向
☺ 木材は,繊維方向によって強さが異なるた
め,丈夫な構造となるよう,繊維方向に注意し
てください。
☺ 箱ものを作る場合などは,右図のよ
うに,木裏が外に出るように板を使用
するのが一般的です。
木裏側
木表側
箱もの製作における
木裏と木表の使い方
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すき間ができやすい
2.けがき(寸法を印す)での注意
木取り図をよく見て,間違いのないように材料にけがきをして下さい。
1) 木端面の一方(できるだけ真直ぐな方)に,基準面を示す印を付けます。
〔ねじれや曲がりが生じていないか,材料の状態を確認しておきましょう。〕
2) 材端の悪い部分等を避けて,さしがねでけがきを行います。
☆さしがねは,さおの長い方を「長手」,短い方を「妻手」と呼び,さおの内
側を基準面に押しつけるように密着させて使用します。所定の寸法(位置)の
所で固定したら,さおに無理な力が加わらないようにして鉛筆で線を引いて下
さい。
線を引く場合は,妻手の外側を利用します。筆記具に力を入れすぎると,正
しい線が引けません。細く,はっきりした線を引くように心がけましょう。
3) けがき線の引き方 〔きりしろ と けずりしろ〕
通常,正確な加工を行うために,のこ引きのための「きりしろ」,かんながけの
ための「けずりしろ」をとります。
ただし今回は,使用材料,作業時間,求められる加工精度 などを考慮し,余分な
しろ はとりません。けがき線の真上を正確にのこびきしてください。
3.切
断
けがきした線に沿って,のこぎりで材料を切断して下さい。
☆のこぎりは,縦引きと横引きがあります。切断する方向により使い分けてく
ださい。
☆切り始めと切り終わりは,特に丁寧に作業して下さい。
4
けがき線と目,鼻を
一直線上に構える
☆切り終わりは,材料が割れることがあります。注意して下さい。
4.かんな削り
【木端削り(繊維方向に削る)】
縦引きした面を削ります。木端削り台またはすり台に材料をのせ,図のように
かんなを使います。かんながけする前に削る面を指先でなで,滑らかな方向にか
んなを動かすようにしましょう。
当て止め
Ⅴ
材をしっかり固定。
削り終わりに,精度を確認する。
引き出の製作
① けがき
Bの材料に,けがきを行います(☐に記入した寸法で線を引いてください)。
5
② 部材加工
1.のこぎりで,引き出しの材料 4 枚を切り出します。
2.のこ引きした部分をかんなで整えます。
・木端(木の繊維に沿う方向)削りでは,材料 4 枚の幅が揃うようにしてください。
・長い材料 2 枚について,木口(木の横断面)をかんな削りします。
長さが 176∼178mmの間に納まればOKです。
!!削り終わりが割れやすいので,注意してください。
・短い材料の内側に下図のような線を引き,きりで下穴あけをしてください。
75mm
5mm
反対側からきりで穴をあける。
・接合する面に接着剤をつけ,くぎで打ちつけます。
*底になる側の面を揃えてください。上面は,下図のように少し段差があって
も構いません。
同様に,短い材料の端が出っ張っていても構いません。
これらは,接着剤が乾燥したら,かんなで削り取って仕上げます。
・底に合板を貼りつけます。
合板は,上で作った引き出しよりも 2mm 程度大きく作ってください。
接着剤が乾くまで,かりくぎで留めておきます。
・接着剤乾燥後,はみ出た部分を,「かんな」または「やすり」で全て削り取ります。
・最後に「引き出しの前板」を接着し,引き出しの完成です。
(注意)前板は,本体完成後に接着します。
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Ⅵ
本体の製作
① けがき
材料Aに行うけがきを示します。
② 側板の加工
●側板の寸法および組み立てに必要な補助線を示します。
・補助線は,内側と外側で位置が異なります。
・側板の左右に,同様のけがきを行ってください。
*棚板を置くダボの位置は,受講者にお任せします。完成後くぎで打ち付けますので,
きりの先で,目印を付けておいてください。
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● ほぞ穴加工
のみで取っ手が納まる部分の角穴(ほぞ穴)を彫ります。
1.両端を 2mm残
2.のみを垂直に打
3.底をさらいと
4.最後に,けがき
し,V字に堀る。
ち込み,繊維を切断
る。
線までのみを打ち
する。
込み仕上げる。
③ 取っ手の製作
両端の網かけ部分をのこぎりで切り落とします。残った両端が,側板に埋め込む部分(ほ
ぞ)です。
◎両端部を除く 200×40mmの部分は,自由にデザインをしてください。糸のこ盤を使っ
て,切り抜きます。
④ 天板と固定棚の加工
・ 天板と固定棚の材料をのこぎりで切り出し,かんなで木端と木口を仕上げます。
!! 天板と固定棚は,長さを正確に揃えましょう。
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⑤ 段欠き
天板と側板に,裏板(合板)を納める部分(段欠き)を作成します。
<お願い> ルーターを使用しますので,スタッフの指示に従ってください。
⑥ 棚板・引き出し(前)板の加工
棚板 2 枚と引き出し(前)板 1 枚を作成します。(全 3 枚)
* 全 3 枚とも全て同じ大きさです。
* 長さは,④で作った固定棚(または天板)より,わずかに(2mm程度)短くします。
⑦ 引き出しのつまみ
引き出しのつまみを製作し,引き出し(前)板に取り付けます。
つまみは,糸のこ盤などを使って自作します。
! 既に気に入ったつまみがあれば,これを使用していただいても結構です。
Ⅶ
本体の組み立て
接着剤とくぎを併用し,本体を組み立てます。
○ くぎの長さは,板厚の2∼2.5倍程度が目安といわれています。
ただし,接着剤を併用する場合は,これよりも短めでも構いません。
<組み立ての順番>
1.側板の一方へ,天板と固定棚を取り付けます。
【チェック】取り付け位置,材料の向き は正しいですか?
2.取っ手を側板に差込み,もう一方の側板を仮組みしてみましょう。
【チェック】取っ手はきちんと納まりますか?
3.仮組みで問題がなければ,もう一方の側板を固定しましょう。
【チェック】取っ手のほぞ穴には接着剤を付けていますか?
4.枠が組み上がったら,直角定規で直角の検査と修正をします。
5.裏板を作成します。
段欠き部にきちんと納まる大きさまで,かんなで合板を削ります。
【チェック】直角に仕上げましょう。削りすぎに注意!
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6.段欠き部に接着剤を塗り,裏板を接着します。
固定棚と裏板は,鋲で固定します。
接着剤が乾くまで,仮くぎで固定しておきます。
7.引き出しが納まるレールを取り付けます。
8.最終的な確認
9.棚板を置くためのダボは,塗装後に打ち付けます。
Ⅷ
仕上げ
① サンドペーパーで磨く
120番程度のサンドペーパーで全体を磨きます。研磨は,繊維方向に行ってくださ
い。サンディングブロックを使用すると,作業が容易で仕上がりもよくなります。
② 塗 装
今回の塗装は,オイルフィニッシュとします。
木材中に塗膜を形成するため,艶はありませんが木の風合いが生かせるという特徴があ
ります。刷毛で,木材表面に塗料を塗ったら,直ぐに 240 番程度の紙やすりで木目と平行
に磨きをかけます。隙間やキズなどが見つかったら,研磨屑を刷り込むようにして補修す
ることが可能です。
磨きと刷り込みが終わったら,柔らかい布で研磨屑をふき取ってください。
!! 塗装は,塗りにくいところ,陰になるところからはじめ,目
立つ部分で終わるように心掛けてください。
!!底の部分は塗装しないで下さい。(作品を置けなくなります)
<参考>オイルフィニッシュ以外の一般的な塗装方法を紹介しておきます。
1)素地調整:
良好な塗装が行えるよう,木地の調整をします。これには,木地の
汚れやはみ出した接着剤の除去および木地面の平滑化などが含まれま
す。
木地面の汚れは,サンドペーパで磨くとほとんど取れますが,ひど
いものについては,ベンジンやシンナ等の溶剤や薄い中性石鹸水でぬ
ぐい取って下さい。接着剤が付着している場合は,のみや小刀で削り
取ります。木地をサンドペーパで磨く場合は,木片にサンドペーパを
巻き付け,材面が平滑に仕上がるようにします。毛羽だち等がひどい
ときは,繊維方向に対して直角に研磨してもかまいませんが,最終的
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には,繊維方向と平行に研磨し,磨き傷が残らないようにしてくださ
い。
また,塗料を塗りたくないところや塗料がついたら困る所には,こ
の時点でマスキングをします。
2) 着
色 :
木地の着色には,ステインを使用します。ステインには,大きく分
けて水性と油性がありますが,今回は次の塗装でラッカー系のサンデ
ィングシーラーを使用することから,色むらを生じないよう水性のも
のを使用します。ステインは,刷毛で塗ってから,乾く前にらせん状
に布を動かしてすり込み,最後に木目に沿ってふき取るようにします。
目止め剤(とのこなど)で,木材表面の細かい凹(導管および細胞内
腔など)を埋め,表面を平にします。目止め剤の拭き取り時期が早い
今回は省略し と,拭き取り性は良好ですが,乾燥後目やせするため平滑度が悪くな
ます。
ります。逆に拭き取り時期が遅れると,目やせはし難くなりますが,
拭き取りにくく,塗装後の色むらになりやすくなります。
4)下地塗り/ 一般に使用されているのは,
中塗り:
下地塗り…ウッドシーラ,
中塗り……サンディングシーラ です。
3)目 止 め:
刷毛は,木の繊維方向と平行に,内側から外に向かって動かしまし
ょう。
サンディングシーラは,乾燥後にサンドペーパで研磨(から研ぎ)が
できるため,塗面を平滑にするのに便利です。今回は,下地塗りを省
略して目止め後すぐにサンディングシーラ塗装を行います。
ウッドシーラおよびサンディングシーラは,溶剤にラッカシン
ナを使用するため,換気と火気に十分注意して下さい。
5)上 塗 り:
一般には,2回程度重ね塗りします。重ね塗りをする場合は,塗装
面を強く指で押してもあとがつかない状態まで塗装面を乾燥させ,必
要に応じて刷毛目を取り,#320∼400 程度の目の細かい研磨紙で研磨
し,布で研ぎかすをふき取り,その後次の塗装を行って下さい。
最終的な仕上げには,塗装後,タンポすりやコンパウンドみがき,
ワックスがけを行うこともあります。
塗装時の注意
・塗料を吸い込まないよう,マスクをしましょう。
・塗装時は,誇りを立てないようにしましょう。
・換気と火気に十分注意してください。
・塗料の用材の種類を確認し,間違えないようにしてください。
・器具(用具)の後始末を十分にしてください。刷毛は良く洗いましょう。
・オイルやシンナーなどが付いた布などは,一旦水に濡らしてから捨ててください。
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平成 18 年度 山口大学教育学部公開講座「木工入門 −第 12 回−」テキスト
1 回目 平成 18 年 8 月 11 日∼13 日(3 日間)
2 回目 平成 18 年 8 月 25 日∼27 日(3 日間)
講師
岡村吉永(山口大学教育学部)
本講座の内容およびテキストに関しては,下記までお問い合わせください。
山口大学教育学部 岡村吉永
〒753-8513 山口市吉田 1677-1 山口大学教育学部
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