平成21年度事業報告

平成21年度事業報告
「H21 年度事業報告」
施設受託事業
指定管理者管理業務
斜里町の公の施設に係る指定管理者に関する条例に基づいて、公園利用
施設の管理運営業務を受託しました。
①
幌別園地
施設及び園地周辺施設の維持管理、映像展示館(ダイナビジョン館)の
運営と料金徴収等の業務を行いました。映像展示館の入館者数は 30,975 名
で、前年度より 15,677 名(前年度比△33.6%)減少し、昭和 63 年の設置以
来過去最低の数字となりました。このような状況を改善するために、映像
館の古さをカバーすることを目的として知床自然センター館内のリニュー
アルを随時行いました。小規模ではあるものの、創意工夫を加えて、館内
のイメージがだいぶ良いものになりました。それに加えて、今後の施設内
外の大規模リニューアルの企画検討も行いました。
②
知床自然教育研修所
ボランティアや外部研究者が活動する際の拠点となる知床自然教育研修
所の維持管理を行いました。平成 21 年度は延べ 206 名(909 泊)の利用が
ありました。また、知識・技術の向上を図り交流を進める「しれとこゼミ」
の場としても活用されました。
③
知床五湖レストハウス
知床五湖レストハウス、及び関連施設の維持管理を行いました。秋の閉
園後は、平成 23 年度の新施設建築に備え、レストハウスの取壊しに関わる
各作業を行いました。
④
知床五湖園地夜間閉鎖業務
ヒグマに関わる安全管理対策、およびオートキャンプによるゴミなどの
散乱防止のため、町道知床五湖道路入口を閉鎖して夜間の園地内への立ち
入りを制限しました。
総務管理係
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羅臼ビジターセンター関連管理運営業務
羅臼地区事業係
羅臼ビジターセンターの運営を円滑に進めるために、来館者対応や各種
問い合わせ、情報提供、イベント実施等の運営事業を行い、施設管理全般
については環境省と協力して実施しました。
ビジターセンターの来館者数に関しては、平成 19 年の移転新築以降、3
年間増加し続けており、今年度は 34,123 名となり前年度比 107 パーセント
でした。昨年 2 月からシャチの骨格標本が新たに常設展示に加わったこと
や、好評なハイビジョン映像が口コミで伝わっているためと思われ、羅臼
町周辺の町村からの団体などが目立ちました。
8 月には、繁忙期の常時多数の来館者で賑わう状況を利用して、ミニレク
チャーを実施しました。事前の館内アナウンスにより 10 数名を 1 ヶ所に集
めた上で、10 分程度館内の展示物を用いた解説をすることにより、知床の
自然を効率よく学んでいただきました。
そのほか、リピーターを増やすために期間限定の特別展示を実施したり、
各種研修、視察、講演、就業体験などの依頼にもその都度対応しました。
世界遺産センター関連運営環境教育業務
普及研修係
羅臼地区事業係
① 知床世界遺産センター
平成 21 年 4 月 19 日、世界自然遺産となった知床の素晴らしさや、その
素晴らしさを守っていくためのルールやマナーを伝える施設として知床世
界遺産センターが 新規オープンしました。来館者を対象にフロアレクチャ
ーや館内のハンズオンアイテムや教材を利用した普及啓発、および(財)
自然公園財団のスタッフとインフォメーション業務を行いました。また、
地域住民が知床世界遺産センターを身近に感じてもらえるように、レクチ
ャールームやジオラマ、パネル等を利用したウトロ小中学校の総合学習授
業や、通常知床自然教育研修所で開催されている知床ゼミを当館で試験的
に行いました。平成 21 年 4 月 20 日から平成 22 年 3 月 31 日までの間に
76,881 名の来館者がありました。
② ルサフィールドハウス
平成 21 年の 6 月に新規オープンしたルサフィールドハウスでは、知床半
島先端部利用者へのレクチャーや、海に重点をおいた展示解説や情報提供
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を行いました。年度途中からですが、7,848 名の来館者があり、当初予想し
ていたよりもたくさんの人たちに利用されています。
施設の管理運営や一般の来館者対応を行うと共に、先端部利用に関して
の問い合わせや情報提供と、ヒグマ撃退スプレーやフードコンテナのレン
タルを行いましたが、先端部利用者のレクチャーに関しては、一件にかな
りの時間を要するため、より効率的なレクチャー方法の検討が課題となり
ました。
保護管理研究事業
羅臼町ヒグマ・自然環境管理対策業務
羅臼地区事業係
羅臼町一円におけるヒグマに関する危機管理や出没状況のモニタリング、
普及啓発および対応時の猟友会との連携等、現地対応に重点をおいた対策事
業全般を実施しています。また、自然環境保全に関する現地調査、パトロー
ル、啓発事業、傷病鳥獣の受入、野生生物の生息調査や保護管理業務を羅臼
町と連携して実施しました。
平成 21 年度は対応件数 175 件、目撃件数 169 件となり、過去最高件数
となった平成 20 年度よりさらに増加しています。
7 月から 8 月にかけては、これまで記録の無かった羅臼町中心街で、夜間
に自動撮影および目撃された個体があり、羅臼町役場裏手の羅臼川河川敷
にヒグマ捕獲檻を設置するという、これまでは無かった状況が生じました。
9 月には、知床岬を目指すトレッカーが、ヒグマに食料とテントを荒らされ
るという事例が発生しており、これ以降環境省などから知床岬先端部地区利
用の自粛要請が出され、平成 21 年度いっぱいこの自粛要請が継続されまし
た。
斜里町ヒグマ・自然環境管理対策業務
斜里町からの受託事業として、斜里町一円のヒグマに関する危機管理、出
没情報の収集と対応、普及啓発活動などを人とヒグマの軋轢低減を目的に実
施しました。また、自然環境保全のためのパトロールや普及啓発、傷病鳥獣
の受け入れ(知床博物館と連携)
、ライトセンサス(夜間、車で走りながら
周囲をライトで照らし、発見した動物種や個体数等を記入する)による野生
保護管理研究係
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動物の生息動向調査、エゾシカ有害駆除個体の下顎骨の処理・分析等の業務
を行いました。
斜里町内におけるヒグマの目撃件数は 686 件、対策活動は計 493 件に及
びました(平成 21 年 3 月からの 1 年間を集計)。いずれも一市町村の数字
としては高い水準にあります。対策活動の内訳は、ヒグマの出没に伴う緊急
出動や追い払い等の直接的な対応が 318 件、ヒグマの出没やヒグマとの危
険な遭遇を未然に防ぐための活動(ヒグマを誘引するシカ死体やゴミの除去、
遊歩道のパトロール、注意喚起のための看板の設置、電気柵の設置や保守管
理)が 175 件でした。
知床五湖では、日常的なパトロールや周辺地域における標識付きヒグマの
有無の確認作業を毎日実施し、ヒグマ活動期には、ヒグマの侵入経路を遮断
する電気柵を遊歩道沿いに設置しました。電気柵に囲われたウトロ市街地で
は、ヒグマの目撃が 2 件でした。平成 19 年から稼働している電気柵が効果
を発揮していると考えられます。ウトロ高原や日の出、峰浜、朱円東、越川
の農地では、
5 月上旬からヒグマの出没が本格的に確認され、6 月下旬以降、
ヒグマによるビート・小麦への農作物被害が発生しました。斜里町から出動
を要請した猟友会員と連携して情報収集や対応にあたりました。
傷病鳥獣の受け入れ件数は 34 件で、その内訳はエゾシカが 18 件、エゾ
シカ以外の哺乳類・鳥類が 16 件でした。外来種として特段の注意をはらっ
ているアライグマに関しては、目撃情報が 1 件、日の出地区で報告されまし
た。ライトセンサス調査は、春期と秋期に各 5 回、幌別地区と岩尾別地区に
おいてそれぞれ行いました。エゾシカの下顎骨は、365 頭分について年齢査
定や各部の計測を行いました。
国立公園野生生物管理業務
野生生物との共生と適正利用に係わる保護管理業務や現地調査を行いま
した。知床岬地区などの自然保護上重要な地域の自然保護監視・管理活動業
務を環境省自然保護官事務所配置のアクティブレンジャーと業務分担をし
ながら進めました。
① アメリカオニアザミ
知床岬地区に繁茂する外来種のアメリカオニアザミについては、平成 16
年~20 年の 5 ヵ年の駆除作業により、密生する場所が次第に縮小してきて
いるという一定の成果が確認され、もう一息というところまで来ています。
保護管理研究係
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羅臼側赤岩の台地の縁から海岸までの斜面は、密生地が一面に広がっていま
したが、地面が岩と玉石のために、これまで駆除作業がうまく進みませんで
したが、平成 21 年度は赤岩で重点的な複数回の駆除作業を行ったところ、
秋までに密生する範囲が縮小したことを確認しました。
②セイヨウオオマルハナバチ
平成 20 年度に引き続き、特定外来種セイヨウオオマルハナバチの生息状
況監視・防除を知床国立公園内中心に行いました。その結果、知床岬地区で
40 頭を捕獲したほか、関係行政機関や地元の住民の協力を得て捕獲作業を
行った結果、国立公園内(知床岬除く)で 6 頭、国立公園の周辺部であるウ
トロ地区と羅臼地区で 366 頭の合計 412 頭を捕獲しました。
知床生物多様性保全業務
保護管理研究係
羅臼地区事業係
①
ヒグマ
ルシャ地区では、直接観察による個体識別と、それらを基にした個体識別
台帳の作成を引き続きすすめました。さらにこれらに加えて、糞や体毛から
DNA を採取し、DNA を用いた性別判定と個体間の血縁関係推定の可能性を
探っています。
また、長年財団独自調査として取り組んできた GPS 標識によるヒグマの
行動追跡調査についても、知床海と森の生物多様性支援事業の支援を受けて
実施しています。今シーズンは新たにメス成獣 2 頭と 2 歳のオス 1 頭の計 3
頭を捕獲し、メス 2 頭については現在も追跡中です。継続追跡中の既存標識
個体は昨年 4 月の時点で 2 頭いましたが、1 頭は 5 月に首輪が脱落し、もう
1頭も電池消耗のため GPS 機能は既に停止しており、追跡中の個体は新規
の 2 頭のみです。
その他、ヒグマに関する普及啓発事業として、旭川市旭山動物園との共催
事業として「知床ヒグマわくわくウィークエンド」を開催、道内外から動物
園を訪れた入園者に趣向を凝らしたイベントを通じてこれまでの成果を広
く伝えました。
② 稀少鳥類
オジロワシの繁殖状況および冬期のオジロワシ、オオワシの飛来状況の長
期的変動傾向を把握するため、オジロワシの繁殖状況に関するモニタリング
および情報集約をし、羅臼の海岸線で冬期間のオジロワシ・オオワシの個体
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数調査も実施しました。
③
海棲哺乳類
海棲哺乳類の主要来遊海域である羅臼町沿岸域を中心に、観光船運航を行
っている事業者等から目撃情報を収集し、種ごとの出現傾向の季節変動や遭
遇率等を把握しました。また、トドを主な対象とした独自の長期モニタリン
グを継続しています。上記の聞き取り調査および独自調査で得られた情報は、
羅臼ビジターセンターやルサフィールドハウスでの展示や、普及啓蒙活動、
および関係機関等への情報提供に活用しました。
森林再生推進事業
しれとこ 100 平方メートル運動森林再生推進事業
斜里町主催「しれとこ 100 平方メートル運動」の開始から 32 年、新運
動「100 平方メートル運動の森・トラスト」として原生の森の再生に向け
た取り組みが始まり 12 年が経過しました。この知床の森を守り育てる取り
組みの中で、知床財団は、森づくり作業やしれとこの森交流事業など 100
平方メートル運動に関わる現地業務を担っています。
①
森林再生作業
知床での森づくり作業は、5 年毎の回帰作業方式を取り入れています。平
成 21 年度は、3 順目の回帰作業の 2 年目に当たり、幌別台地東側に位置す
る第 2 区画を中心に作業を行いました。本格的な森づくり作業を開始して
12 年、初期の頃に設置した防鹿柵の木製の柱などは、腐食や劣化が進み交
換の時期にきています。そのため、現在、3 カ年計画で運動地各地の防鹿柵
の改修作業を進めています。その他にも、苗畑での広葉樹の苗木の育成や植
樹、樹皮保護ネットのメンテナンス作業などを行いました。
②
しれとこの森交流事業
森づくりの現場と運動参加者の皆さんをつなぐ交流事業では、「第 30 回
知床自然教室」(7 月 30 日~8 月 5 日、参加者 43 名)、
「第 13 回森づくり
ワークキャンプ」(10 月 30 日~11 月 4 日、参加者 12 名)、
「第 13 回しれ
とこ森の集い」(10 月 18 日、参加者 100 名)の企画・運営を行いました。
自然復元事業係
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30 年目を迎えた知床自然教室を記念して、9 月の連休の 3 日間、
「知床へ
の回帰」と題したイベントを行いました。自然教室の卒業生や関係者総勢
63 名が知床に集い、これまでの自然教室を振り返るとともに、これからの
100 平方メートル運動についても熱く語り合いました。知床自然教室で培わ
れた知床への思いは、着実に次の世代へと引き継がれていっています。
③
森林再生専門委員会議運営
森づくり作業の方針や計画は、動植物の専門家や地元の有識者で構成され
る森林再生専門委員会議の場で議論が行われその方向性などが定められて
います。現地業務を担う知床財団では、平成 21 年度の活動の成果と課題を
まとめるとともに、平成 22 年度の森づくり作業の具体的な方針や計画案を
斜里町と検討を重ねながら立案しました。11 月に開催された専門委員会議
では、上記の方針や計画案について話し合われるとともに、高密度に生息す
るエゾシカへの対応方針などが議論されました。
④
運動地広報企画
100 平方メートル運動の広報誌『しれとこの森通信 No.12』
(A4 判カラー
8 ページ)の企画・編集作業を行いました。また、知床財団のホームページ
にて、日々の森づくり作業や知床の森の様子をお届けするブログ「森づくり
日誌」を新しく始めました。その他にも斜里町の「しれとこ 100 平方メー
トル運動ホームページ」への掲載用写真の提供、マスコミ等の取材を積極的
に受けるなど、運動の広報業務にも努めています。
遺産地域管理事業
遺産地域調査業務
保護管理研究係
羅臼地区事業係
①
エゾシカ関連
知床岬におけるエゾシカの密度操作実験は、3 年目の捕獲です。今シーズ
ンはエゾシカが集結する時期でありながら、これまで天候と海況のために岬
へたどり着けなかった厳冬期に捕獲を行いました。流氷接岸直前の 1 月に船
での日帰り捕獲を 1 回と流氷接岸後にヘリコプターでの泊まりがけ捕獲(4
泊 5 日)を 1 回、海明け後の 3 月末に船の日帰り捕獲をさらに 1 回と、合
計 3 回の実施でメス成獣 84 頭を含む 152 頭を捕獲しました。3 冬の合計は
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406 頭(うちメス成獣 84 頭)となり、岬の越冬群にかなりの打撃を与えら
れたと思います。
毎年 2~3 月頃に 1 回セスナ機で上空から岬の台地上にいるシカの数を数
える調査を行っていますが、今年は 1 月と 3 月の 2 回調査を行いました。
その結果、1 月捕獲前には 374 頭確認できましたが、3 月の調査では 35 頭
のみでした。このような撹乱効果が長く続くことは期待できませんが、今冬
の捕獲によってシカの警戒心が高まり、岬台地草原への出没が減ったものと
考えられます。また捕獲時期を 1・2 月とすることは、希少猛禽類(オジロ
ワシ)の繁殖への影響を低減する効果も期待できます。
同じく岬に設置されている 3 つの植生保護柵内では、種数、個体数ともに
在来種の回復が進んでいますが、今年度より柵外でも植生回復の兆しがあり
ました。土壌浸食も変化ありません。年変動の可能性がありはっきりと回復
しているとは言えませんが、ササの高さの増加傾向もあり、シカ捕獲の効果
が出てきたのかも知れません。
平成 20 年度冬期にルサ・相泊地区で捕獲標識した 22 頭のエゾシカにつ
いて季節移動調査を実施しました。22 頭中、大きく移動しているのが確か
められたのは、その内の 2 頭のみでした。
銃器による従来のシカの捕獲方法では、繰り返し捕獲による捕獲効率の低
下を避けられないことから、爆音器やブラインドを使用した上で、射撃の仕
方も含めて、極力シカに警戒心を与えない捕獲方法を羅臼町ルサ相泊地区で
実験しました。爆音器によって銃声には馴れることがわかりましたが、捕獲
効率が良くないという課題が残りました。
その他、知床でエゾシカの捕獲を実施するにあたって、シマフクロウやオ
ジロワシなど希少猛禽類の生息、繁殖に与える影響を調査し、より希少猛禽
に影響の少ないエゾシカの捕獲手法を検討するために、専門家による意見交
換会を開催しました。
②
植生調査等
7 月末、遠音別岳近くのシレトコスミレ群落を調査しました。シカの足跡
や糞は見つかりましたが、スミレに被食はありませんでした。8 月、3 年目
となる海岸植生調査を行い、斜里側の海岸線に 25 方形区を作りました。こ
れで斜里側に 63 ヶ所、羅臼側に 29 ヶ所で計 92 方形区が設置され、在来植
生の分布や外来種の侵入、そしてシカ採食状況をモニタリングする準備が整
いました。今後は数年おきに調査を繰り返していきます。
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③ 海域関連
海海に関する各種調査は、サケ類の物質輸送、コンブ類の分布、動物プラン
クトン季節変化、深海域の栄養塩季節変化、主要魚種食性、浅海域生物相、
サケ類移動生態について実施されました。また、平成 21 年度は過去 4 年間
に行われた全ての調査の取りまとめ年ということで、海洋環境の変動や水中
ロボット(ROV)調査などを含めた取りまとめが行われ、知床の海の特徴に
ついて多くの新たな情報が得られました。
④
海岸ゴミ関連
風致景観を著しく損なっている知床国立公園沿岸部の海岸ゴミの状況に
ついての現地調査を行い、知床岬地区・ルシャ地区等において試行的に海岸
ゴミの回収を行いました。知床岬赤岩周辺地区では主に人力手作業のみによ
り 7.86t、ルシャ地区では重機を導入して 30.87tのゴミを回収しています。
また、今後の回収対策の検討・回収体制の構築を行うことを目的として、
海岸清掃のあり方についての検討会を斜里町で 2 回行い、この事業に関する
地元報告会を羅臼町と斜里町で各 1 回開催しました。
科学委員会等運営業務
①
科学委員会
知床では世界自然遺産地域を適切に管理するために、科学的な見地か
らの行政への助言が科学委員会や付属のワーキンググループ(以下、WG)
によって行われています。科学委員会や WG は多分野の研究者や専門家
によって構成されており、当財団は科学委員会とエゾシカ WG の運営事
務局として会議の運営(会場の準備、広報や資料の作成など)を担いま
した。
科学委員会の会議は、第 1 回会議が 7 月 23 日に地元斜里町のゆめホ
ール知床で、第 2 回会議が 2 月 16 日に札幌市のプレスト 1・7 で開催さ
れました。第 1 回会議では、今後の遺産地域をどのように管理していく
のかという計画(知床世界自然遺産地域管理計画)についての最終的な
議論が行われ、その後 12 月に策定されました。また、第 2 回会議では、
平成 16 年度に設置された科学委員会の今後のあり方について議論され、
今後の新たな課題に対してより適切に対応していけるよう平成 22 年度
からは体制を再編することになりました。
保護管理研究係
「H21 年度事業報告」
また、第 1 回会議の地元開催に合わせて、科学委員会の委員である梶
光一東京農工大教授に斜里で、服部寛東海大学教授に羅臼で遺産地域で
の調査に係わる講演をしていただきました。
②
エゾシカワーキング会議
エゾシカワーキング会議は、6 月 25 日と 10 月 30 日に釧路と札幌で
それぞれ行われました。知床岬で行われているエゾシカの捕獲について、
捕獲開始から 2 シーズンを経た中間評価と 3 シーズン目の実施方法など
が議論されました。
国立公園利用適正化事業
普及研修係
国立公園利用適正化業務
国立公園利用適正化業務では、知床国立公園の適正な利用を目指し、様々
な業務を行っています。
①
マイカー規制
カムイワッカ地区で行われているマイカー規制の現地連絡調整業務を
自動車利用適正化対策連絡協議会から受託し、運営の円滑化のためにバ
ス会社や各地に配置された警備員や巡視員との連絡調整、利用状況の調
査や利用者への情報提供、ヒグマ出没時の連絡整理、負傷者への対応な
どを行いました。
②
エコツーリズム関連
地域の発展と、観光利用、自然保護を両立させるエコツーリズムを推
進することを目的としたエコツーリズム総合推進事業を環境省から受託
しました。平成 16 年度~平成 18 年度のエコツーリズム推進モデル事業
をさらに発展させるための業務で、今年が 3 年間の取り組みの最終年で
した。これまで取り組んできた地域産業連携プログラムを専門家に評
価・提言を受けるなど、これまでの推進事業の区切りとして、エコツー
リズム推進計画を見直し、質の高いガイドツアーに代表される知床のエ
コツアーを推進していく方針を確認しました。
羅臼地区事業係
「H21 年度事業報告」
③
国立公園利用状況関連
知床国立公園利用状況を把握する業務を北電総合設計株式会社より受
託し、観光船等の海域利用状況のアンケート調査、知床連山の利用者の
分析等を行いました。
④
知床五湖関連
知床最大の観光スポットでもある知床五湖では、ヒグマのリスクを回
避しつつより良い自然体験を提供する新しい利用のあり方の検討が進ん
でいます。国立公園利用適正化業務内の複数の業務に含まれる形で、様々
な検討や試行の実施を担いました。新しい制度の柱となる、自然公園法
の利用調整地区制度導入のために、現状の利用が環境に与える影響の分
析、制度導入時の運用体制の検討、ヒグマに対する対処法を習得した登
録引率者がガイドを行う知床五湖の利用コントロール導入実験の実施と、
認定のための研修制度の設計と実施、さらには実験の結果を受けてヒグ
マが活発に活動する時期の運営体制の詳細を検討する部会運営などを行
いました。
⑤
その他
この他にも林野庁からの受託事業として、国有林を森林環境教育フィ
ールドとして活用する「遊々の森」制度の紹介のために、フィールドマ
ップおよび体験プログラムを作成する業務も行いました。
JBN事業
JBN業務
日本クマネットワーク(JBN)からの受託業務として、JBN 会員向けニュ
ースレター「Bears Japan」の発行・発送、
「ヒグマとの遭遇回避と遭遇時の
対応に関するマニュアル」の発行・販売、JBN ホームページの運営管理を行
いました。
日本クマネットワークは、個人や地域ごとの単独の活動だけでは難しい全
国レベルの諸問題や国際問題に関し、必要に応じて社会に対して働き働きか
保護管理研究係
「H21 年度事業報告」
けを行い、人とクマのより良い関係を構築する活動を行っている NGO 組織
です。近年はアジア地域のクマ類の保全に焦点をあてて精力的に活動を行っ
ています。会員は専門家やクマに関心を持つ一般市民、およそ 280 名で構
成されています。
JBN 会員向けニュースレター「Bears Japan」は計 3 回、のべ 879 部を発
行・発送しました。また、
「ヒグマとの遭遇回避と遭遇時の対応に関するマ
ニュアル」については、店頭および通信販売を通じて計 89 部を販売しまし
た。ホームページについては、日常的な掲載内容の更新や全面的なサーバー
の移転まで、幅広い運営業務を JBN 事務局と連携して実施しました。
財団活動独自調査研究事業
財団活動業務
総務管理係
情報係
羅臼地区事業係
■ 知床自然センター及び羅臼ビジターセンターインフォメーション事業
知床自然センターと羅臼ビジターセンターのインフォメーションカウン
ターを拠点に、知床の自然情報や交通情報、登山やトレッキング等に関する
問い合わせ、簡単な旅行の助言などを、財団ならではの専門性を加味しつつ
実施しました。対応の際には、ルールやマナーのほか、ヒグマの目撃情報や
遭遇時の注意点など、知床の自然を適切且つ安全に利用してもらうための情
報提供を併せて行うよう努めています。
①
知床自然センター
知床自然センターでは、地元ネイチャーガイドとの関係を深め、自然情
報や散策道情報等の聞き取りなどで情報共有を図り、ビジターに対する効
果的な案内に役立てることが出来ました。また、近年増加している外国か
らの観光客にも積極的に話しかけるよう心がけました。今後も、明るく笑
顔のあるインフォメーションを目指します。
②
羅臼ビジターセンター
新しい羅臼ビジターセンターがオープンして 3 年目となりますが、依然来
館者は増加傾向にあります。それに対応するために、インフォメーション関
係資料などの収集と整理を行うとともに、来館者や問い合わせに対してのよ
り効率的かつ効果的な情報提供に努めました。
「H21 年度事業報告」
■ 会員サービス事業
平成 21 年度の入会状況は、年個人会員の新規入会は 88 口、更新数は 516
名口、合計が 604 口。終身個人会員の新規入会は 6 口。年法人会員の新規
入会は 5 口、更新が 30 口、合計が 35 口。昨年度新規に設けた法人特別年
会員への新規入会者はなく、更新は 1 法人(1 口)でした。新規入会者数、更
新数共に減少傾向にあります。
賛助会員向けの会報誌である知床自然情報紙「SEEDS」は、平成 21 年度
から年 4 回の季刊に変更、オールカラーで内容も大幅リニューアルしまし
た。写真も見やすく、内容も読みやすいと概ね好評です。新たに会員の皆
さんからのご意見を掲載するコーナーも設け、会員の皆さんと知床財団を
つなぐ定期便としての役割をさらにパワーアップさせることを目指してい
ます。これからも、会員のみなさんに楽しみにしていただけるよう、充実
した紙面作りに取り組んでいきます。
■ 寄付拡大推進事業
財団活動に対する支援を募るため、平成 14 年度より知床自然センター内
に募金箱を設置しています。世界遺産登録以来、毎年約 90 万円の募金が寄
せられていましたが、平成 21 年度は前年度より 15 万円以上減少し、60 万
円台と大幅に落ち込みました。知床自然センターへの入館者数が大幅に減
少していることが、募金額の減少に影響していると考えられますが、それ
でも繁忙期には毎月 10 万円以上の募金をいただきました。羅臼ビジターセ
ンターに平成 20 年度に設置した募金箱は入館者の導線を工夫するなどして、
前年度より 3 倍増しの約 7 万円の募金を集めることができました。
また、平成 20 年度にご厚意を一般寄付としてお寄せいただいた件数は
53 件、合計 701,125 円に上りました。企業等からのご支援としては、札幌
テレビ株式会社から、札幌テレビ創立 50 周年記念環境キャンペーンにてオ
リジナルキャンディーの売上の 1 割、75,200 円のご寄付を頂いたほか、日
本損害保険代理業協会から継続的なご支援として 5 年目の今年も 10 万円の
ご寄付をいただいた他、環境省とイオン環境財団が創設した生物多様性日
本アワード優秀賞の副賞として 50 万円を頂きました。
知床自然センター・羅臼ビジターセンター館内展示や財団ホームページ
では、賛助会員募集や寄付の呼びかけ、そして寄付のお礼の掲載などの掲
載に力を入れ、継続的なご支援が知床財団の活動の支えになっていること
を訴えました。
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■ 地域向け財団活動紹介・情報提供事業
知床財団の活動に対する地元の理解と協力を得るために、斜里・羅臼町民
に向けた財団活動紹介を行っています。新たな試みとして平成 21 年 6 月よ
り、知床の旬の自然情報や当財団の活動・イベント情報をお知らせする「知
床財団だより」を月 1 回、斜里・羅臼両町の広報誌に折り込みました。(発
行部数:斜里町 5200 部、羅臼町 2100 部)。読みやすい自然情報の記事を
きっかけに、知床財団の名前にも親しんでいただければと考えています。
また、町民の方々にも知床財団や知床の自然への理解や親しみを深めてい
ただくきっかけをふやすために、両町の役場や図書館などの公共施設に
SEEDS 閲覧用のファイルを設置する取り組みも引き続き行っています。地元
の宿泊施設・観光関係者の方々には、より広く当財団の活動を知っていただ
こうと、SEED に加え、当財団がその年に取り組んだ活動をまとめた年次報
告書「アニュアルレポート 2008」を配布しました。
■ 財団ホームページによる広報活動事業
財団の活動に対する理解と支援の輪を広げる「伝える活動」の主軸として、
ホームページでの情報発信を継続して行っています。専門的な知識がなくて
も簡単に情報を更新できるブログ形式のページでは、
「財団の最新の活動」
を伝えるページを 35 回、
「知床の旬の自然情報」を伝えるページを 317 回
更新するなど高い更新頻度を保ち、ほぼ毎日新しい情報を発信してきました。
知床キムンカムイプロジェクトの一事業として作成したヒグマ貸出教材
であるトランクキットを紹介するページを新設しました。
ボランティア活動推進業務
知床の自然のために何かしたい、そんな思いや気持ちを持っている方を
対象に、知床財団では、森づくり作業や普及活動などをお手伝いいただく
という形でボランティア活動の場を提供しています。
平成 21 年度末でのボランティア登録者数は 194 名、その内の 73 名の皆さ
んが知床を訪れ、森づくり作業などのボランティア活動に参加し汗を流し
ました。総活動日数は 42 日間、延べ 133 人の力が知床に集まりました。参
加していただいた方の年齢層は、10 代から 60 代までと幅広く、また道内
のみならず遠くは東京や名古屋などからもたくさんのボランティアの皆さ
んに掛けつけていただきました。
自然復元事業係
「H21 年度事業報告」
活動内容は、
「100 平方メートル運動の森・トラスト」の現場での森づく
り作業から屋内での展示作成まで多岐に渡っています。特に森づくり作業
では、苗木を育てている苗畑の草取りや防鹿柵の支柱の交換作業などたく
さんの人手が必要な仕事が多くあり、ボランティアの皆さんのご協力が不
可欠なものとなっています。また、2 月には一年の活動を振り返る「ボラン
ティア・ミーティング」(参加者 5 名)を開催しました。
知床財団のボランティアホームページでは、それぞれの活動報告を掲載
しています。また、平成 21 年度のボランティア活動のまとめとして「ボラ
ンティア通信」を作成し、一年間お世話になったボランティアの皆さんへ
お送りしました。
ボランティアの皆さんがこの活動を通して、知床の自然環境の保全に貢
献するだけではなく、知床の自然に触れ、そして理解を深めることで、こ
れからも知床を応援する気持ちをもっていただければ幸いです。
調査研究業務
■ エゾシカ個体群の動態に関する調査研究
平成 21 年春の知床岬における自然死調査では、発見したシカ死体はわず
かに 2 体でした。これで平成 19 年春から確認死亡数が 5 体以下の状態が続
いています。前年の報告書で、自然死体の発見が少ないのは二つの要因が
考えられると書きました。
一つは実際にシカがあまり死んでいない、つまり越冬死亡率が低い可能
性、もうひとつはシカの死体がヒグマに食われるため、死体発見率が低い
可能性です。
一つ目の要因に補足すると、今年度で 3 年目になるシカ捕獲により、岬
で越冬するシカの数自体がかなり減っていることとも関係がありそうです。
乏しい冬の餌を分け合うシカの数が減ると、1 頭当たりの餌の量が相対的に
増えることになります。捕獲をまぬがれたシカにとっては、しのぎやすい
冬になっているのかも知れません。
斜里町真鯉、羅臼町相泊周辺で行っている日中センサスの結果を見ると、
真鯉、相泊どちらもシカが多く見られ、雪も少なく、かつ遅く、やはりシ
カには楽な冬だったようです。これまで見られた集結の時期等は変わりま
せんが、真鯉では最多 664 頭と、平成 19 年から 3 年ぶりに 700 頭近いシ
カが確認され、輪採制とワナ捕獲の効果が疑わしくなってきました。相泊
では、前年度には 3 月後半まで 100 頭以下だったのに対し、今年度は 1 月
保護管理研究係
羅臼地区事業係
「H21 年度事業報告」
末から 200 頭前後が道路近くに下りていました。
これは雪の状態もありますが(昨年同時期は、道路法面上部がアイスバ
ーン状態でシカが法面まで降りにくい状態だった)
、別事業(エゾシカ密度
操作実験予備調査)による餌付けの影響もあると考えられます。
■ 知床半島におけるヒグマの生態等に関する調査
財団独自調査事業として行ってきた GPS 標識によるヒグマの行動追跡調
査、ルシャ地区における直接観察による個体識別と個体識別台帳の作成等
ついては、平成 21 年度は知床生物多様性保全推進支援事業の支援を受け、
知床海と森の生物多様性保全協議会の委託事業として実施したため、受託
事業の部分で詳しく記述しています。
また、ウトロ高原地区農地の電気柵効果試験については、平成 20 年度に
ウトロ高原地区の農業者と知床財団が共同で既存の防シカ柵の一部を電気
柵化し、ヒグマに対する効果を検証しています。現状では電気ワイヤーの
設置区間が一部のため、効果が十分に発揮されているとは言えませんが、
その管理方法も含めたノウハウの蓄積を農業者とともに行っています。平
成 22 年度には農地全体の電気柵化が完成する予定のため、本格的な効果検
証を行うことができると思います。
■ 水域における生物群集モニタリング調査
海藻類分布調査は、春に知床岬で 2 回行いました。41 年前の資料と比較
したところ、たくさん生えていて目立つ海藻にほとんど違いが見られませ
んでした。
外来魚侵入状況調査は、秋に斜里側の 2 河川(幌別川、岩尾別川)
、羅臼
側の 4 河川(ルサ川、モセカルベツ川、知円別川、知西別川)で行い、ル
サ川と知西別川でニジマスを確認しました。ルサ川でのニジマスの確認は、
遺産地域内の河川での初記録でした。今後は遺産地域内を中心に調査を進
める予定です。
羅臼漁港の深層水汲み上げ施設によって捕獲される深海魚調査は、羅臼
町役場と羅臼漁業協同組合の協力のもとに北海道大学と共同で平成 20-
21 年度の 2 年間に実施し、未記載種(新種)と考えられる 5 種を含む 32
種を確認しました。
5 月には環境省事業浅海域生物相調査の補完調査を北海道大学と東京農
業大学と共同で実施しました。知床岬地区へ 2 泊予定で行ったのですが、
帰る日の海の模様が悪く 1 日足止めとなり 3 泊することになってしまいま
「H21 年度事業報告」
した。
知床周辺海域の魚類リスト作成は、知床博物館と共同で随時実施してお
り、博物館の標本室に保存されている魚類標本の整理から行っています
■ 調査研究に関わる交流、及び、成果公表に関する事業
平成 21 年 10 月 3~9 日の 7 日間に、東京農業大学のプロジェクトで「サ
ハリン州水域生物調査」が実施され、当財団からは魚類担当として 1 名が
参加しました。平成 21 年度で 3 年目となり、サハリン中南部の沿岸域、汽
水域や河川でこれまでに 6 目 17 科 30 種の魚類を確認しました。
日本哺乳類学会大会(平成 21 年 11 月台湾)に 1 名が参加(ポスター発
表)、日本生態学会大会(平成 22 年 3 月東京)に 1 名が参加(口頭発表)
しました。
自然教育研修所(斜里町ウトロ)等を利用した「しれとこゼミ」を計 11 回
開催し、財団職員のほか、地元自然ガイド、行政関係者、調査で滞在中の
学生など、計 268 人の参加がありました。
■ 知床の生態系の保全・復元に関する調査検討事業
「100 平方メートル運動の森・トラスト」による生物復元の取り組みと
して、北見管内さけ・ます増殖事業協会の協力のもとにサクラマスの発眼
卵の放流が行われています。知床財団では孵化状況の確認などその後の追
跡調査を行っています。
平成 20 年の秋期に岩尾別川支流の白い川へ放流した 15 万粒のサクラマ
ス発眼卵のふ化状況の調査を 5 月に実施し、良好であることを確認しまし
た。一方、9 月には平成 11 年から平成 13 年までに幌別川と岩尾別川で放
流したサクラマスの再生産状況を例年どおり調査しましたが、海から遡上
してきたサクラマスを確認することはできませんでした。また、11 月には
平成 20 年に続いて白い川へ 20 万粒のサクラマス発眼卵を放流しました。
平成 22 年の冬には、白い川に設置されていた全てのダムの改良が終了し、
サケやマスの遡上が可能になり、産卵場所が上流部へ広がりますので今後
の変化が楽しみです。
「H21 年度事業報告」
情報係
自然教育活動開発研究業務
普及研修係
自然復元事業係
■ 道東自然系施設ネットワーク推進業務
道東自然系施設ネットワーク推進事業は、道東各地に散在するネイチャ
ーセンターやビジターセンターが互いに情報を共有し合いながら、結びつ
きを深め、助け合うためのネットワークです。今年度はウトロに新設され
た知床世界遺産センターが加わり、現在 13 施設が参加しています。このネ
ットワークは平成 13 年にゆるやかにスタートしたのち、平成 17 年に正式
に発足、その後平成 18 年度まで当財団がネットワーク代表および事務局と
して運営を担いました。平成 19 年度より事務局業務からは外れたものの、
引き続きネットワークの事業運営に積極的に参加してきました。
主な事業として、各来館者が他の地域を「はしご」する時に役立つよう
なフィールド最新情報を、各施設が交換し合って掲示する「はしご情報」
を月 2 回発行、各地域の旬の見所を一覧できる「月間いきもの予報」を月 1
回発行しました。また、これらの情報を釧路管内の NHK 地上デジタル放送
でもデータ通信で公開しています。
施設の展示や教育プログラムをより洗練させるために、各施設のスタッ
フが集まり課題や改善方法などを評価・共有し合う施設相互研修も主な事
業の1つです。今年度は 12 月に自然系施設として「伝える」技術の向上を
目指した「インタープリター講習・初級編/中級編」が行われました。それ
ぞれに合計 5 名のスタッフが参加しました。
10 月には厚岸市のネイパル厚岸にて、平成 21 年度をふりかえり次年度
に向けて目標・改善案をまとめるワークショップと総会が行われました。
引き続き情報の共有と発信を行うと共に、施設間の交流と共同研修に力を
入れていく方針が確認されました。
■ 職員の技術知識を高めるための研修事業
ヒグマをはじめとする野生動物の保護管理や、国立公園の管理運営の先
進事例を学ぶため、アメリカのアラスカ州に 2 名のスタッフを 9 月に 2 週
間研修に派遣しました。アメリカ国立公園局による全面的支援と案内のも
と、野生のヒグマ・ウォッチングが人気をあつめるカトマイ国立公園や、
シャトルバスのシステムで有名なデナリ国立公園などを訪問し、実際の現
場を現地の担当者と一緒にめぐりながら、知床に多くの知見をもちかえる
ことができました。
羅臼地区事業係
「H21 年度事業報告」
そのほかにも、札幌市にて 12 月に行われたクリエーターとのコラボレー
ションによって活動紹介ツールの拡大や洗練の手法を探る講座に、スタッ
フ 1 名が参加しました。また、浜中町の霧多布湿原センターにて 2 月に開
催されたチラシやパンフレットなど広報物の作成方法を学ぶ講座に 4 名の
スタッフが参加しました。雑誌編集者を講師にした二日間の講座で写真撮
影法から編集の心得、デザインのヒントなど様々な事を学びました。同じ
く霧多布湿原センターで開催された、様々な意見の出される会議などをう
まくまとめるファシリテーション技術を学ぶ講座にも、スタッフ 1 名が参
加しました。
■ 地域向け環境教育事業
地域が支える世界遺産・知床を目指して、知床の自然とその自然に携わる
人々の活動をより深く知ってもらう機会を様々な形で地域に提供していま
す。
学校教育では、ウトロ小中学校全校生徒を対象にクマ授業を実施しまし
た。毎春恒例となっているこのクマ授業は、ヒグマに出会った時の対処法
を中心として、いろいろな切り口から身近な自然に対して子供たちが想像
したり、発見したり、そして自分たちで考えてみたりする手伝いができる
よう毎回スタッフが趣向を凝らして行っているものです。また総合学習と
して、ウトロ中学 1 年生のポンホロ沼へのフィールドトリップ、ウトロ中
学 3 年生の「自然を守るために私たちができる環境保全とは?」と題する
授業などを行いました。
また、知床博物館と共催で知床自然史講座を開催、現在知床で起こって
いる様々問題についての講演などを行いました。
羅臼の中学校・高校一貫教育のカリキュラムとして行っているヒグマ授
業も 3 年目となり、ヒグマの疑似テレメトリー調査を体験するという、野
外実習を取り入れた授業を開始しました。また、中・高一貫教育のカリキ
ュラムとは別に、羅臼小学校と春松小学校でもヒグマ授業を行いました。
年度中に実施したヒグマ授業は、計 7 回、受講した児童・生徒数は延べ 316
名となっています。
羅臼町教育委員会などと共に、羅臼町内の小学生を対象にして、知床キ
ッズ(羅臼町ふるさと体験教室)を、5 月から 3 月までの間に計 8 回実施
しました。
ヒグマの被害が実際にあった水産加工業者に対して、残渣物などの保管、
扱いなど、ヒグマの対応方法について、羅臼町役場と共に指導や注意喚起
「H21 年度事業報告」
を行いました。
■ しれとこ 100 平方メートル運動地保全・公開システム検討事業
100 平方メートル運動地保全・公開システム検討事業 本業務は、斜里
町主催「100 平方メートル運動の森・トラスト」の長期目標の一つとして
掲げられている「トラスト資産としての 100 平方メートル運動地の適正な
公開と保全のシステムを構築」に向け、運動の現地業務を担う知床財団が
斜里町と連携を図りながら独自事業として取り組んでいるものです。
平成 21 年度は、運動の趣旨に賛同する企業や団体、教育機関を対象に、
運動地を歩きながら 100 平方メートル運動や開拓の歴史などを紹介し、そ
して実際の森づくりの作業も経験する運動地公開プログラムを行いました。
地元の斜里高校の生徒を始め、運動へのご支援をしていただいた KDDI(株)
「au 知床 walk」の皆さんや日本赤十字北海道看護大学の学生など約 200 人
が、知床の森を訪れ、運動と森づくりに触れていきました。
その他にも 6 月には、森の番人が一般の方々を引率して解説を行う「番
人の森の見方」を実施しました。また、冬期の「スノーシュー・歩くスキ
ーコース」では、運動地と森づくり作業を紹介する地図を観光客の方々や
地元の皆さんに配布しご利用いただくなど運動の普及と公開に向けた取り
組みを行いました。
今後も、保全と利用のバランスを考慮した運動地の利用の在り方を探る
ともに、100 平方メートル運動をたくさんの皆さんに伝えていくための取
り組みを進めていきます。
理事会・評議員会・協議会の開催・運営
理事会・評議員会・協議会の開催・運営
定例の理事会・評議員会を、5 月、12 月、3 月の年 3 回開催しました。5
月に行われた理事会では公益法人移行検討専門委員会の設置、公益財団法
人移行後の最初の評議員の選任方法が承認され、公益法人移行に向けて具
体的な作業が進むことになりました。
また、臨時的に 4 月に理事会、9 月に理事会・評議員会を開催しました。
4 月の理事会では新しい理事長が選任されました。また、9 月の理事会では
総務管理係
「H21 年度事業報告」
最初の評議員選定委員会委員の選任が行われました。
その他、当財団の役員の方々に向け、事務局の最新の動向をお知らせす
る「財団ニュースレター」を、10 月、3 月の年 2 回発行しました。
財団組織改革推進事業
総務管理係
平成 21 年 5 月に発足した公益財団法人移行検討専門委員会において、4
回にわたる委員会を開催し、移行後に適用される新たな定款の案の作成作業
を行ってきました。
また、それと並行し、公益法人移行認定審査の際の重要なチェックポイン
トとなる公益事業の内容を説明する書類の作成を行っています。
普及研修事業
総務管理係
普及業務
普及研修係
羅臼地区事業係
■ 普及資料等販売、および写真貸出し事業
知床自然センターと羅臼ビジターセンターのインフォメーションカウン
ターで、知床の自然や動植物に関する知識を深める書籍類や、ルールやマ
ナーを普及するパンフレット、自然観察や登山道沿いの植生保護などに役
立つアウトドア用品の販売、レンタルを行いました。
平成 20 年度から販売を開始した登山用携帯トイレが、平成 21 年度は知
床自然センター、羅臼ビジターセンター合計で 219 個販売できました。ま
た知床財団のロゴマークをプリントしたオリジナルエコボトルや、羅臼の
カメラマン倉沢栄一氏の協力を得て作成したオリジナルクリアファイルが
好評でした。散策の際に役立つ長靴、双眼鏡のビジターへの有料貸出しを
知床自然センターで行い、長靴は 586 件の貸出しがあり、前年度 349 件か
ら大幅に増加しました。少しずつですが販売に加えてレンタルも定着して
きたようです。
情報提供事業の一環として行ってきた写真貸出しは、雑誌等掲載のため
の知床のイメージ写真などの有償貸し出しが 8 件ありました。旅行ガイド
ブックや旅行情報サイト上の知床自然センターの施設紹介など、無償貸し
出し扱いのものは 10 件ありました。また、日本ユネスコ協会の世界遺産普
「H21 年度事業報告」
及展示パネルおよび環境教育教材、また富山市科学博物館の北海道の生き
物特別展への協力など、普及啓発要素の高い非営利の画像貸出にも無償で
柔軟に対応しました。
■ ヒグマ対策普及事業
知床における安全対策上大きな効果のある「ヒグマ撃退スプレー」、「フ
ードコンテナ」の有料貸出しを行いました。貸出しは、知床自然センター
と羅臼岳登山道入り口にある木下小屋、そして平成 21 年度から羅臼ビジタ
ーセンター、ルサフィールドハウスでのレンタルも開始しました。貸出し
件数は知床自然センター48 件、木下小屋 106 件、羅臼ビジターセンター14
件、ルサフィールドハウス 4 件でした。貸出しの際に、契約内容や使用方
法をより分かりやすくレクチャー出来るよう、スライド画像を作成し導入
しました。また、近年増えつつある外国人観光客への対応の為、英語の貸
出し契約書を作成しました。
平成 21 年度は、ヒグマにテントを荒らされる事例があったためフードコ
ンテナの利用推奨を図りました。今後さらなる普及が必要となり、館内展
示と絡めて必要性をアピールしていきたいと思います。
羅臼ビジターセンター及びルサフィールドハウスで、ヒグマ撃退スプレ
ーとフードコンテナのレンタルを新たに始めました。特にルサフィールド
ハウスでは、知床岬先端部地区利用者に対してのヒグマ撃退スプレーとフ
ードコンテナの普及に努めましたが、並行して、まずルサフィールドハウ
スに立ち寄ってもらうにはどうしたらいいか、という課題が残されていま
す。
研修実習業務
■ 知床の自然保護活動についての体験型教育プログラム事業
ゴールデンウィークと夏休みの期間に知床自然センターを訪れたビジタ
ーを対象に、知床の自然の魅力や知床が抱える課題、財団の活動などにつ
いて、実際の骨格標本や毛皮、小道具などを使いながら財団スタッフが分
かりやすく解説する『ミニレクチャー』を無料で行いました。ゴールデン
ウィークは 4 月 29 日~5 月 5 日までの 7 日間、夏休みは 7 月 26 日~8 月
22 日までの 28 日間実施しました。
『ミニレクチャー』はスタッフの「伝え
る」技術を高めるための研修としても位置づけ、係・担当を超えて多くのス
タッフがレクチャーに携わったほか、インターンシップの学生が知床での
普及研修係
「H21 年度事業報告」
活動をまとめ発表する場としても活用しました。
■ 研修・実習受け入れ事業
知床には、豊かな自然のみならず、ヒグマと共存するための努力、自然
を守るための各種制度を整えてきた歴史や数百年の時の流れを必要とする
森づくり活動など、自然と人間が共存するための様々な取り組みがありま
す。そして知床にはそれらを体験できる現場があります。
財団が担う野生動物保護管理、調査研究や公園管理の実績を反映した研
修プログラムとして、国際協力機構(JICA)主催の海外からの研修生向けの研
修や、エジンバラ大・北大獣医学部生の研修などを受け入れました。また
環境教育や調査研究、地域振興の現場で活躍する人材の就業体験の場とし
て、インターンシップを 4 大学より 8 名受入れました。
他にも、道内外の各種団体からの講演依頼、知床でのレクチャー対応、
行政視察などの受入れ対応を通じて、知床の価値を広く伝える活動を行い
ました。