高分子材料のみで創る太陽電池の高効率化に成功 共役高分子の相分離膜で創る高効率プラスチック太陽電池 (京大院工)〇辨天宏明、森大輔、岡田いずみ (京大院工・JST さきがけ)大北英生(京大院工)伊藤紳三郎 [1G16] (Tel:075-383-2614) 太陽電池をつくるにはプラスの電荷(正孔)を運ぶ p 型、マイナスの電荷(電子)を運 ぶ n 型の材料が必要になる。サッカーボール分子として有名なフラーレン(C60)は代表的な n 型材料であり、これまで高効率有機太陽電池の開発には C60 が必須であると考えられて きた。今回、京都大学大学院工学研究科の大学院生の森大輔、伊藤紳三郎教授、大北英生 准教授、辨天宏明助教らの研究グループは、太陽光を吸収して電荷を運ぶことができる“π 共役系高分子”とよばれる高分子材料だけから高効率な有機太陽電池を創ることに成功し、 全 高 分 子 型 の 有 機 太 陽 電 池 と し て は 世 界 最 高 水 準 の エ ネ ル ギ ー 変 換 効 率 (Power Conversion Efficiency: PCE = 5.7%)を達成した。この成果は、C60 に頼らなくとも高効率化 が可能であることを実証するものである。π 共役系高分子は光吸収波長や HOMO/LUMO 準位などの電子物性の設計が容易であり、PCE を決める短絡電流密度(JSC), 開放電圧(VOC), 曲線因子(FF)を同時に最適化できる可能性がある。また、溶媒に溶かして塗るだけでサラ ンラップのように薄く軽く柔らかい膜を形成できる。このように高分子材料だけでつくる 太陽電池は性能と品質の両面において魅力ある特徴を多く有している。 π共役系高分子は太陽光を吸収する能力と電荷を運ぶ能力を合わせ持つ有機半導体で ある。半導体としての電子特性と、溶媒に溶かして塗るだけで薄く軽く柔らかい膜になる という高分子本来の特徴を利用した有機太陽電池の研究開発が世界中で進められている。 現在、最も盛んに研究されている有機太陽電池は、p 型材料にπ共役系高分子を、n 型材 料には C60 誘導体を用いている。C60 は電子輸送能こそ優れているものの、 光吸収能は低く、 低分子であるがゆえに製膜性は期待できない。そこで我々の研究グループでは、発電層の 半分を占める C60 を n 型のπ共役系高分子に置き換えた全高分子型の太陽電池開発に挑ん できた。今回、全高分子型の太陽電池において、これまで 3%程度であった PCE を 5.7% まで向上させることに成功した。吸収した太陽光を電荷に変換するプロセスと、生成した 電荷を電極に輸送するプロセスの効率はいずれも 80%に達しており、これは C60 をベース とする有機太陽電池に匹敵する値である。 発電層: 光を吸収して電荷を生成し電極へ輸送する部分。有機太陽電池の発電層はp型 と n 型材料を混ぜることで作製する。 PCE 向上の要因は以下のように整理できる (1) 近赤外波長域に大きな吸収係数を持つ高分子を p 型、n 型の両材料に用いた。その結 果、発電層の膜厚を 100 ナノメートル (1 nm = 10 9 m) まで薄くした場合でも、太陽光の 光子密度が最大となる波長域で 95%以上の光を吸収できた。 (2) p 型、n 型の両高分子材料を数 数 10 ナノメートルのサイズで混ぜることができた。 その結果、吸収した太陽光を効率よく電荷へ変換できた。 (3) 電荷輸送性に優れた p 型、n 型高分子の組み合わせを選択した。特に、両材料を混ぜ た場合でも、正孔と電子移動度をともに高い値(10 4 – 10 3 cm2 V 1 s 1)に維持できたこと が効率よい電荷輸送につながった。 π共役系高分子は分子構造や電子物性の設計自由度が大きく、PCE を決める短絡電流密度 (JSC), 開放電圧(VOC), 曲線因子(FF)を同時に向上できる可能性がある。また、分子量や結 晶/非晶性といった分子特性の設計により、製膜性や薄膜構造の熱的安定性向上が期待で きる。このように C60 の電子物性や分子特性に縛られることなく、高分子の特長を十分に 活かすことで、性能と品質の両面において従来の有機太陽電池に優る新しい太陽電池を実 現できるだろう。 <適用分野> 太陽電池、発光素子、トランジスタ、フォトダイオードなど有機エレクトロ ニクス分野全般
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