高効率有機薄膜太陽電池の構築を目指した ナノカーボン材料複合材料の

Annual Report No.26 2012
高効率有機薄膜太陽電池の構築を目指した
ナノカーボン材料複合材料の開発
Development of Nanocarbon Composite Materials for Efficient Organic Solar Cells
A01112
代表研究者 梅 山 有 和 京都大学 工学研究科 助教
Tomokazu Umeyama
Assistant Professor, Graduate School of Engineering, Kyoto University
We have developed a self-assembly method to build up well-ordered donor–acceptor
nanograins and their efficient molecular wiring that can be detected as photocurrent. The
semiflexible methylene linkage of porphyrin (donor)-C60 (acceptor) allowed us to form ellipsoidshaped nanograins in a good-poor solvent mixture. The porphyrin-C60 linked molecules in the
nanograins were found to yield highly ordered donor-acceptor arrays, making it possible to
achieve efficient intra charge-transport within the nanograins. More importantly, functionalized
single walled carbon nanotube (SWNT) wiring between the nanograins also rendered the inter
charge-transport extremely efficient, leading to the highest incident photon-to-current efficiency
(22%) ever reported for analogous photoelectrochemical devices utilizing donor-acceptor
linked dyads.
Novel nanohybrids of SWNT encapsulating C60 (C60@SWNT) with poly(3-hexylthiophene)
(P3HT) have been prepared and their photophysics and photoelectrochemical properties are
studied in detail. Transient absorption and fluorescence up-conversion technique revealed
the excited state dynamics of the nanohybrids, where exciplex formation from the short-lived
P3HT singlet excited state (~ 0.2 ps) with the fullerene peapods and subsequent relaxation to
the ground state within ~ 1 ps occurred dominantly. Significant difference in the photodynamics
upon encapsulation of C60 was not detected, implying little participation of the fullerenes in
the excited state event and thus the inability of the encapsulated fullerenes to generate the
charge-separated state between the fullerene peapods and P3HT. Photoelectrochemical devices
based on the peapod–P3HT nanohybrids showed almost the same incident photon-to-current
efficiencies as those for the SWNT–P3HT-based device, which is in good agreement with the
results of the time-resolved spectroscopies.
目指し、チューブ側壁に対して化学修飾を行
研究目的
う研究が活発に行われている。我々は本研究
単層カーボンナノチューブ(SWNT)は、特
開始までに、疎液性相互作用を利用した新規
異的な幾何・電子構造を有しており、幅広い
複合化手法により、優れた電子受容性材料で
用途への応用が期待されている。最近では、
あるフラーレンC 60 が可溶化単層カーボンナノ
SWNTの更なる機能化および溶解性の向上を
チューブ(f-SWNT)の側壁に集積した複合体
─ 102 ─
The Murata Science Foundation
を得ることに成功している。さらに、泳動電
た貧溶媒注入による可溶化単層カーボンナノ
着法により酸化スズ電極上にその複合体を薄
チューブ(f-SWNT)との複合化と泳動電着に
膜化させ、光電流発生効率を調べたところ、
よるFTO/SnO2 電極への薄膜化を行った。
C 60 あるいはf-SWNTの単一成分からなる参照
f-SWNT不在下で作成した(H 2 P-C 60)m の走
電極と比較し、複合体で修飾された電極では
査型電子顕微鏡(SEM)像では、長いラグビー
光電流発生の外部量子収率に著しい向上が見
ボール状の構造体が観察され、クラスター内
られた。f-SWNT側壁上にC 60 同士が密に付着
でH 2 P-C 60 分子がなんらかのパッキング構造
しているため電子の輸送効率が向上したこと
を形成している可能性が示唆された。また、
がその高効率化の原因であると、複合膜の電
H 2 P-C 60 不在下で作成した(f-SWNT)m のサン
子顕微鏡観察などから示された。この複合体
プルでは、繊維状構造が見られた。複合体で
は有機薄膜太陽電池における電子受容性材料
ある(f-SWNT+H2 P-C60)m のSEM像からは、縦
として期待される。そこで本研究では、この
長の構造体の表面に繊維状物質が付着したよ
フラーレン+f-SWNT複合体に、高い光捕集
うな複合クラスターが見られた。
能と電子供与性を併せ持つポルフィリンを導
各修飾電極の光電流作用スペクトルを測
入することを目指し、フラーレンとポルフィ
定したところ、f-SWNTのみの修飾電極では
リンが共有結合で連結されたダイアド分子と
最大 3%、H 2 P - C 6 0 のみの修飾電極では最大
f-SWNTの複合薄膜形成とその光電変換特性
11%の光電流発生の外部量子収率(incident
の評価を行うことを目的とした。
photon-to-current efficiency、IPCE)値が得ら
一方、SWNTの内部にC 60 を取り込んだフ
れた。これまで報告されている、ドナー・ア
ラーレンピーポッド(C 60 @SWNT)が知られ
クセプター連結分子を泳動電着法により集積
ているが、その系もSWNTを足場としてC 60 が
化した光電変換デバイスのIPCE値は最大でも
一次元に配列した複合材料ととらえることが
4%であり、この11%という値はそれを大きく
できる。本研究では、初めてC 60 @SWNTを電
上回っている。一方、f-SWNTとH 2 P-C60 の複
子受容性材料としてとらえ、C60 @SWNTとポ
合電極では、さらにその約2倍の22%にまで
リチオフェン誘導体の複合薄膜形成とその光
IPCE値を向上させることに成功した。
電変換特性の評価を行うことを目的とした。
FTO/SnO 2(
/ H 2 P-C 60)m の単成分系では、光
照射により励起したポルフィリン部位からフ
概 要
ラーレン部位への電子移動が起こり、その後
1.ポルフィリン-フラーレン-単層カーボン
フラーレンから酸化スズの伝導帯へ電子が注
ナノチューブの三元複合体の作製とその
入され、ヨウ素電解液からの電子供与によっ
光電変換特性
てポルフィリンラジカルカチオンが還元される
高効率な光電変換系を実現するには、電子
ことで光電流が発生すると考えられる。また、
供与体と電子受容体の双連続構造を形成する
FTO/SnO2(
/ f-SWNT+H2P-C60)mの複合系では、
ことが重要となる。そこで、電子受容体であ
上述のメカニズムに加えて、フラーレンのラ
るフラーレンに、光捕集能が高く、かつ電子
ジカルアニオンからナノチューブへの電子移
供与性であるポルフィリンを共有結合で連結
動、およびナノチューブによる電子輸送が加
した分子(H 2 P-C 60)を合成し、我々の開発し
わると考えられる。この場合、H 2 P-C60 のクラ
─ 103 ─
Annual Report No.26 2012
スター間をf-SWNTが結ぶことで、クラスター
た。以上より、フラーレンを内包した効果は
間での電子輸送およびクラスターから酸化ス
光ダイナミックス・光電気化学特性に現れず、
ズ電極までの電子輸送が効率的に行われるこ
複合体は光励起によりエキシプレックスを形
とでIPCE値が向上したと考えられる。つまり、
成した後、1ピコ秒以内に基底状態に失活す
ここでf-SWNTは、当初予想したH 2 P-C60 が配
ることがわかった。
列する足場としての働きは見られなかったが、
H 2 P-C 60 の微結晶が生じる光電流を効率良く
電極基板まで輸送する経路を形成する役割を
担ったと言える。
2.単 層カーボンナノチューブ内部にフラー
レンが配列した系の電子アクセプター材料
としての応用の試み
フラーレンを内包した単層カーボンナノ
チューブ(フラーレンピーポッド)は、その
特異な構造のみならず、分子内包によるカー
ボンナノチューブの物性制御の観点からも興
味が持たれる。しかしながら、カーボンナノ
チューブ・電子ドナー間の励起状態相互作
用に対するフラーレン内包効果は未だ報告さ
れていない。そこで本研究では、フラーレン
C 60 あるいはC 70 を内包した単層カーボンナノ
チューブ(C60@SWNT, C70@SWNT)とポリ(3ヘキシルチオフェン)(P3HT)からなる複合体
を作製し、その励起状態挙動および光電気化
学特性を詳細に検討した。
昇華法により合成したフラーレンピーポッ
ドを、P3HTの共存下、クロロベンゼン中で超
音波照射することで目的の複合体を得た。複
合体の構造観察は原子間力顕微鏡および透過
型電子顕微鏡を用いて行った。複合体の基
礎的光物性は定常状態吸収・発光スペクトル
測定により評価し、さらに、時間分解過渡吸
収測定および蛍光寿命測定を用いてその光ダ
イナミクスを検討した。また、ピーポッド̶
P3HT複合体を導電性透明電極上に薄膜化し、
湿式三極系セルにて光電気化学特性を検討し
─ 104 ─
−以下割愛−