年金ファンド、世界のランドグラブの主役へ

年金ファンド、世界のランドグラブの主役へ
2011 年 6 月、グレイン
訳 山本義行
大規模な農地買収により世界各地に紛争や論争が巻き起っています。 調査の数が増えるにつ
れ、これらのプロジェクトは地域社会に悪影響を与えるばかりか、世界の食料と環境に関して全く
不適切な農業の形を促進して深刻な危機に陥れていることも分かってきました。1 それでも、相
変わらず、ファンドは磁石に引きつけられるかのように外国の農地に押しかけています。みんなこ
れらの投資からリターンが期待できると説明されているのです。農地に利益を求める者たちの中
には、年金ファンドがいてその主役の一角を担っておりこの分野に数十億ドルを投資しているので
す。
これらの年金ファンドは現在、23 兆ドルの資産を動かしていますが、そのうちの 1000 億ドルはコ
モディティに投資しているようです。このコモディティへの投資金額のうち 50 億〜150 億ドルが農
地の取得に向けられています。2015 年までには、これらのコモディティと耕作可能地への投資は
倍増するものと思われます。
年金ファンドとはそもそも勤労者のために機能し、彼らに代わって退職に備えた貯蓄を後々まで守
るものです。その目的だけであれば、投資についての戦略や判断は、公の監督やその他の一定
の規制を受けるべきです。言い換えれば、年金ファンドでは、自分たちのお金の運用の問題であ
ることをいい口実にして、みんなのお金でランドグラブに他に先んじて投資できるという恐らくこれ
までにない類のファンドです。このため、年金ファンドは、社会運動、労働組合や市民団体にとって
の特別な関心の的になっています。
年金の規模と影響力
今日の年金は、多くの場合、労働組合、政府、個人、雇用主に代わる民間企業によって運用され
ています。これらの企業は、勤労者が定年退職すればその貯蓄分が彼らに毎月支払われるよう、
皆さんがその年金のために貯蓄しているお金を守り、"増やす"必要があります。仕事があって、
退職後のために多少は振り向けられる幸運な人たちは、皆、おそらく何らかの企業によって運営
されている年金を所持しています。世界全体ではこれは膨大なお金になります。年金ファンドは現
在、23 兆ドルの資産を動かしています。2 世界最大の年金ファンドは、日本、ノルウェー、オラン
ダ、韓国そして米国(表 1 を参照)といった政府の手中にあります。
表 1:世界の上位 20 の年金ファンド(2010)
ランク ファンド
1
政府年金投資
国
日本
総資産(百万ドル)
1,315,071
2
政府年金ファンド - グローバル ノルウェー
475,859
3
ABP
オランダ
299,873
4
国民年金
韓国
234,946
5
連邦政府退職貯蓄貸付組合
米国
234,404
6
カリフォルニア州公務員
米国
198,765
7
地方自治体職員
日本
164,510
8
カリフォルニア州立教師
米国
130,461
9
ニューヨーク州共通
米国
125,692
10
PFZW(現 PGGM)
オランダ
123,390
11
中央積立基金
シンガポール
122,497
12
カナダ年金
カナダ
122,067
13
フロリダ州委員会
米国
114,663
14
国家社会保障
中国
113,716
15
年金ファンド連合会
日本
113,364
16
ATP
デンマーク
111,887
17
ニューヨーク市退職積立
米国
111,669
18
FPEG
南アフリカ
110,976
19
従業員積立基金
マレーシア
109,002
20
ゼネラルモーターズ
米国
99,200
出典:ペンションインベストメンツ 2010 年 9 月 6 日 P&I /ワトソン世界タワーズ 300
年金は、特に、欧米諸国において、機関により運用されるにせよ或いは個人の手中にある年金勘
定の問題であるにせよ、直近の金融危機によって相当ひどい影響を受けました。このため、年金
制度の積立基金やマネージャーは、それぞれのクライアントのために長期の保有に組み直そうと
しています。農地は、彼らにとり非常に魅力的な問題です。この農地の場合には、必要なリソース
は限られているのに増える世界人口を養わなくてはならないため、彼らは、これらの農地は、人口
に応じて成長する良好な「ファンダメンタルズ」と呼ぶ需要と供給の分かり易い経済モデルである
ものと理解しています。 これらのファンドのマネージャーたちは、オーストラリア、スーダン、ウル
グアイ、ロシア、ザンビア、ブラジルなどの国々において土地価格が比較的安いと思っています。
彼らは、これらの価格が(大きなのは賃金 )がインフレペースとなっているのにかかわらず、彼ら
の投資ポートフォリオのコモディティはそれほどではないために多様な収入増がもたらされている
ものと考えています。彼らは、農地価値の上昇とその間の収穫作物、多くの牛や食肉製品の販売
から生じるキャッシュフローの中に長期的な利益を見出しているのです。みなさんでも、もし、30
年後に勤労者に支払わなくてはならない金銭を手にしたことを思えば、そのロジックは理解できる
でしょう。
これらのファンドにこのような重大な役割を与える要因の一つはスケールです。年金ファンドが、
食料と農地を含むコモディティへの投資を開始したのは最近のことにしか過ぎません。3 現在の
状況を考えると、一次産品の価格が食料品と同様にとても大きく上昇しており(図 1 を参照)、農業
は機関投資家にとり利益の源泉であることには間違いがありません。4
図 1:農業で金儲け - 商品取引所における取引の急増(左)と食料品価格高騰(右)
出典:国際決済銀行(G)と国連食糧農業機関(D)
バークレイズキャピタルによると、機関ファンドの一次産品への投資は十数年前には 60 億ドルに
過ぎなかったのに現在では約 3200 億ドルにもなっています。ヘッジファンドはさらに 600 億〜
1000 億ドル多くなっています。これらの数字は、今後数年間で倍増すると予想されています。5
これには、年金ファンドが一般コモディティ分野(上記の 3200 億ドルのうち 1,000 億ドル)並び
に特に農地の分野で共に最大の機関投資家である限りという含みがあります。6 業界の多くの
調査によると、年金ファンドのマネージャーたちは、その投資リターンが 10〜20%に達しうるとい
うまたとない新たな資産水準にある農地への投資に懸命になっています。7 この 3 年間にロンド
ンやニューヨークを経由してチューリッヒからシンガポールへと言った具合に豪華ホテルで開催さ
れた農業投資促進を目的とした派手なセミナーにちょっとでも参加した人たちであればこのことに
は驚かないでしょう。例えば、先月マンハッタンのウォルドーフ・アストリアで開催された世界投資
会議を例に取りましょう。この会議は、ブンゲ社からドイツ銀行にいたるまで約 600 名の投資家を
引き寄せました。全体で、このグループは、世界中で 108 億ドルを占めます。これらの投資家は
今後 3 年間にわたり 181 億ドル(67%増)になるまで自分たちの保有分を増やしていく計画です。
農地がこれらの企業の買収戦略の中心となっていることが多いのです。これらのほぼ 3 分の 1
(30%)近くが年金ファンドでした。
今日、このような農地などの一次産品は、平均して、年金ファンドのポートフォリオの 1~3%を占
めています。8 しかし、これから 2015 年までに実際に行われる戦略的な意思決定によってこの
数字は 3〜5%にまで上昇して「最高値」は更新されるものと見られています。9
1 とか 3 とか、5%といった数字は非常に小さく見えるかもしれませんが、我々はわずか 1%でも
数十億ドルに相当しうる膨大な資金を扱わなくてはならないのです。表 2 は、さらに一歩詳しく年
金ファンドが提示する農地への投資ポートフォリオに関する事例につきいくつか確認を試みたもの
です。しかし、ご多分にもれず、はっきりしたデータは殆どなくその入手も簡単ではありません。
表 2:農地に投資する年金ファンドの例(2010-2011 年)
ファンド
運用資産総
農地の全体投資に占める割
額
合.(左記に占める割合)
プロジェクトの現在の状況
AP2(第二スウェーデ 2,200 億ス
米国、オーストラリア、ブラジ
ン国民年金ファンド)
ウェーデンク
ルにおける穀物用地に 5 億ド 係が予定されている。最
ローネ[346
ル(1.4%)
億ドル]
TIAA - CREF との提携関
初の農地進出は、2010
年にさかのぼる。
APG(国家公務員年
2,200 億ユ
10 億ユーロ0.5%)
金ファンドの運用)、
ーロ
[14 億ドル]
オランダ
[ 3,140 億ド
増加を予想
ル]
アセンションヘルス、
150 億ドル
最大 11 億ドル(7.5%目標)
USA
実質資産の 7.5%の目標
を達成するために、初め
て農地に投資するもの
の、現在は未達成のまま
カルパース(カリフォ
2,314 億ド
約 5,000 万ドル(0.2%)につ 現状
ルニア州公務員退職
ル
いて:
-ブラックアースファーミングに
年金)、USA
120 万ドルを直接投資
: 4,750 万ドルはゴールデン
アグリソース、インドフード、
IOI コープ、Olam、サイムダ
ービー、ウィルマーといった世
界中に巨大な持ち分の農地
を有するアグリビジネス会社
に投資、
ダウケミカル、米国
数字不明
農地は、最近追加され
た。米国保有分につき目
標年間リターン:8~12%
ニュージーランド老齢 174.3 億ニ
500 万ニュージーランドドル
3%の割り当ては、ファン
退職年金ファンド
ュージランド
(3%)
ドの戦略的な意思決定。
ドル
[4.07 億米ドル]
国有地の最初の購入が
[142 億米ド
始まったので、海外での
ル]
農業保有が続くことになろ
う。
米国 5 億ドル
全国教員ファンド
(CalSTRS?)米国
-10 億
PGGM(介護福祉年
900 億ユー
金ファンド)、
ロ
オランダ
[1280 億米
数字不明
2011 年に農地への割り
当てを増やす可能性あり
ドル]
PKA(年金生活ファン 250 億米ド
ド)、デンマーク
3.7 億米ドル(1.5%)
2012 年 4 月まで。2011
年 6 月に主にザンビアを
ル
対象としたシルバーラン
ズファンドルクセンブルク
(シルバーストリートキャピ
タル)に 5000 万ドルの投
資が初めて行われた。
20~50 億米ドル
某国政府職員年金フ
近く予定
ァンド"
ソノマ郡退職システ
UBS のアグリベストファー
ム協会、米国
ムランドファンドに 3%割
当を予定。
TIAA - CREF(教職
4,260 億ド
北米、南米、オーストラリアや
現在の状況。10%の年間
員保険年金連合会 - ル
東欧の 400 農場で 20 億米ド リターンを約定。
大学年金株式基
ル(0.5%)
金)、米国
これらを厳しく非難しよう
大方、私たちには次のことが分かっています。
•
最大級の機関投資家たちは耕作可能地を含む農産コモディティへの投資を倍増する予
定でいる。
•
彼らはこの投資をとても迅速に実施するものと想定される。
•
このとてつもなく多額の新たな出資によって、食料品価格は世界中で再び上昇する。
•
食料品価格の高騰で、貧しい地域社会、農村そして勤労者階級が思い切り手痛い打撃を
受けることになろう。
年金ファンド自体のマネージャーを動かすことはおそらくそう簡単ではないでしょう。つまるところ、
彼らは委託された資金を使ってお金を稼ぎ自らの本来の役割を忘れるないくことしか念頭にない
のです。しかし、従業員の社会福祉を担当する組合や組織、年金ファンドの管理者、政府そして、
投資や年金を充実させる方法に関係する戦略決定を担当する人たちに、農地と農産品への投資
を止めてもらえると同時に止めてもらうよう彼らを説得するべきです。
米国では、ワシントン政策研究所(IPS)のサラアンダーソンが語る最近の成果が良い例となりま
す。
家族農家、教会グループや飢餓撲滅協会の連合だけでなく、業界団体も一緒に、投資家たちがコ
モディティインデックスファンドから手を引くよう説得に向けたキャンペーンを開始しています。彼ら
の最初のターゲットは、一次産品にそのポートフォリオの 25 億ドルを振り込む予定でいたカリフォ
ルニア州教師年金制度 CalSTRS です。 ボイコット運動に続いて、この組織では、18 ヶ月間にわ
たり農業資材に 1 億 5,000 万ドルしか投資せずに、潜在的な問題の調査を継続する予定になっ
ています。10
この種の投資抑制キャンペーンでは、年金ファンドが海外で農地を購入しないことを確実にするこ
とがその目的になり得るので、明らかに皆の手に届くところにあって大きな意味があるものと期待
できます。同時に、これらによって、多くの国を目覚めさせて重要な2つの現実、すなわち、革新的
な投資戦略と一般的な年金制度との両立を必要とする食料農業政策に関して再考を促すことに
全体的な弾みをつける可能性があります。これらの利害関係は私たちにはとても荷が重すぎてこ
れらのチャンスを掴め切れません。
追加情報
ウェブサイトFarmlandgrab.orgは、農地購入に利用される年金ファンドに関する記事やニュー
スを定期的に発行しています。より詳しく考察を行うに
は http://farmlandgrab.org/search?query=pension+fund&sort_order=dateを参照
してください。また、現在の食糧危機の背景にある、一斉に殺到にする農地支配に反発する人々
への接触の様子やその体験についての証言も提供されています。
2011 年 4 月に世界銀行の土地問題についての会議における TIAA - CREF のホセ・ミナヤのプ
レゼンテーションを見るには:http://vimeo.com/23314644
1
イギリス、サセックス大学、開発研究所で 2011 年 4 月 6 日から 8 日開催された世界規模
での、ランドグラブに関する国際会議の文書を参照してください。
http://を.future-agricultures.org/index.php?option=
com_content&view=category&layout=blog&id=1547&Itemid=978
ガーディアン紙に関するジョンヴィダルのレポート記事も参照してください。
(http://www.guardian.co.uk/world/2011/mar/21/ethiopia-centre-global-farmlan
d-rush);
フィルムアレクシス/マランさんの映画、「セール中の惑星」
(http://farmlandgrab.org/post/view/18483);オークランド研究所のアフリカでの土地契
約に関する調査(http://media.oaklandinstitute.org/land-deals-africa);2011 年 2 月
の世界社会フォーラムの参加者が執筆し、2011 年 6 月に G20 農業大臣たちに提出したランド
グラブに反対するダカール要請
(http://viacampesina.org/fr/index.php?option=com_content&view=article&id=6
06:g20-agriculture-non-a-laccaparement-alimen)並びに、2011 年 4 月にラヴィアカン
ペシナ、FIAN、LRAN、WFF そして GRAIN によって発せられた「信頼できる」とされる農地への
投資に対する共同宣言(http://www.grain.org/nfg/?id=767)。
2
政府系ファンドは、比較してみるにおよそ 4 兆ドルの資産を持っています。
3
一次産品(「商品」)は、バルクで売買されている基礎的な商品とサービスであって、石油、
金、米、コーヒー、銅またはビーフといったものです。「基礎的」とはそれらが他の財やその他のサ
ービスを提供するための原料として利用できることを意味します。また、「バルクで」とは、任意の
物品が均一性の高いレベルを示すと同時に多様な産地から来る可能性のある物品であることを
意味します。それ故、1 袋の米や1バレルの石油には、それらが同一の基本的な特性を持つ限り、
複数の畑からとれるコメあるいは複数のポンプからくる石油を含めることができます。スイス政府
向けに作成されたオンバリューインベストメントストラテジ―アンドリサーチ社による最近のレポー
トの中で利用されている分類によると、コモディティは先物契約、現物仕入品、(土地といった)「実
在」資産と呼ぶもの、そして、生産財を所有する会社における利益配分の取得の形で取引される
ことが多いです。
Ivo Knoepfe、「責任のもてる商品投資:機関投資家にとり問題となる争点と潜在的な役割」:ス
イス連邦、PRI 並びにグローバルコンパクトの共同実施プロジェクト、チューリッヒ、2011 年 1 月、
3 頁:(英語版は http://farmlandgrab.org/post/view/18339 で入手可能)を参照して下さ
い。
4
一部の人たちがそのことをどんなに否定し続けようとも、投資銀行家から市民社会組織
(CSO)に至るまでの多くの人々が、特に、2008 年の金融崩壊からずっと現在に至るまでコモデ
ィティの投資家たちが価格高騰を煽っている実際のやり方を取り上げて明らかにしました。
この問題に関してCSOが実施した比較的にアクセス可能な最近の分析の中で、「世界開発運動」
の食糧投機に関する出版物(http://www.wdm.org.uk/food-speculation)並びに、オック
スファムの耕作キャンペーンのために用意された資料
(http://www.oxfam.org/fr/cultivons/dashboard)を参照してください。
5
Ivo Knoepfel、前掲書、P. 2 を参照してください。]
6
同上, 6 ページ。
7
これらの土地契約の多くは、経済学で理解されている生産的な投資ではありません。そうで
はなく、これらは年金の形の資本についてリターンを生みだすように充当された金融プロジェクト
なのです。英国、サセックス大学、開発研究所で、2011 年 4 月 6-8 日に開催された世界規模の
ランドグラブに関する国際会議で発表された英語論文のヒューバート・コシェとミシェル・メルレの
分析、「農地のランドグラブとその付加価値の分配:再来した土地貸出詐欺」、を参照してください。
http://www.future-agricultures.org/index.php?option=com_docman&task=doc_
download&gid=1174&Itemid=971
8
最大級ファンドの一部ではそのポートフォリオの 7%までがコモディティに充当されました。
9
Knoepfel、前掲書、p. 14。
10
サラ・アンダーソン、「食料をポーカーチップにしてはならない」 IPS、ワシントン DC、2010
年 11 月 15 日 http://www.ips-dc.org/articles/food_shouldnt_be_a_poker_chip。詳
細については、「飢餓を投機の対象にするのは止めよう」を参照して下さい。
http://stopgamblingonhunger.com/?page_id=838(CalSTRS との対話)。