患者が増加傾向にあるOAS1) アナフィラキシーショックを誘発する 進化するアレルギー検査 化するアレルギー検査 図 ショック症状を呈した原因食物 カシューナッツ 0.7% モモ 1.1% 大豆 1.4% キウイ 1.4% ソバ 2.8% イクラ 2.8% エビ 3.2% ピーナッツ 6.4% カバノキ科(ハンノキ・シラカンバ) の IgE抗体検査の必要性 ナッツ類にも注意! 本邦における食物アレルギーの有病率は、乳児期10%、 幼児期5%、学童期2%、成人1%と推定されており、平成 16年に小、中、高校の生徒約1,277万人を対象に実施され た調査では、食物アレルギー有病率は2.6%、食品や特定 の物質に対するアナフィラキシーショック既往率は0.14% でした1)。近年、食物を主な原因とするアナフィラキシーの 増加が米国、英国、豪州などで報告されており、英国では 1990年からの10年間で7倍に増加しており、豪州では 特に0∼4歳児で著しい増加が指摘されています 2、3)。 食物アナフィラキシーの原因食品として、鶏卵が最も 多く、乳、小麦、ピーナッツ、エビの順に多く、ほかには果実、 4) 魚介類、ナッツ、ソバがあります(図) 。平成14年4月より、 アレルギーの発症頻度が多い、あるいは重篤な症状を誘発 しやすい食物(卵、乳製品、小麦、ピーナッツ、ソバ、エビ、 カニの特定原材料)が、微量でも加工食品に含有されている 場合は原材料表示が義務化されました。 小児の場合、乳製品、卵、小麦、大豆アレルギーの多くは 年齢とともに摂取が可能になりますが、 ピーナッツ(マメ科) 、 ナッツアレルギーなどは経年的な耐性が得られにくく、米国では アナフィラキシーショック死亡原因の8割を占めています5、6)。 カシューナッツはナッツアレルギーの原因アレルゲンと クルミ 0.7% アーモンド 0.7% その他 7.1% 鶏卵 29.3% して頻度が高く、ピーナッツと同様に微量な摂取においても 重篤な症状を引き起こすことがあります 7、8)。豪州では、 小児のカシューナッツによるアレルギー症状の74%がアナ フィラキシーであり、ピーナッツの30%より高いことが報告 7) されています(表) 。 カシューナッツは、同じウルシ科であるピスタチオとは 交差反応性がありますが、科の異なる他のナッツとは交差 反応性が少なく9)、カシューナッツアナフィラキシー症例で あっても、他のナッツ類の特異的IgEは陰性を示す場合が あります。当科では、すでに幼児2例のカシューナッツアナ フィラキシーを報告しましたが 10)、これまでに幼児6例を 経験し、そのうち3例はピーナッツおよび他のナッツ特異的 IgEは陰性でした。ナッツアナフィラキシーではナッツを用いた 皮膚テスト(プリック−プリックテスト)での危険性が高い ため、安全性の面からもカシューナッツ特異的IgE検査が 日常検査として行えることが望まれます。 アナフィラキシーを避けるためには厳格な除去食が必要で すが、除去食は患児・家族のQOL低下をきたします。詳細な 問診や特異的IgE検査等の結果などを参考にして、最終的 には負荷試験の実施を検討する必要があります。ピーナッツ、 ナッツの負荷 試 験での95%誘 発 陽 性 確 率は、Immuno CAP特異的IgEによる抗体レベルで14および15UA/mLと されており、IgE抗体価の推移を参考に慎重に負荷試験の 適応を考慮することが必要です。最近では卵、 牛乳、 ピーナッツ アレルギーについて経口減感作療法が試みられており、 アナフィラキシー患者の誤食による症状発現の予防に役立つ として期待されています。しかし、ピーナッツアナフィラキシー での減感作療法は危険性も高く、日常臨床では避けるべき であるとの見解も出されています11)。 表 小児のピーナッツ、ナッツアナフィラキシーの頻度 ショック症状を 呈した原因食物 ピーナッツ アナフィラキシー (n=283) 小麦 20.1% 乳 22.3% 今井孝成:平成20年度厚労科学研究: 摂取後60分以内に症状が出現し、医療機関を受診した患者数の割合 国立病院機構 福岡病院 小児科 医長 柴田 瑠美子 先生 日本アレルギー学会指導医(小児科)で、 食物アレルギー経口負荷 試 験ガイド ライン2009作成委員も務める カシューナッツ アナフィラキシー 小麦成分が入った化粧品やせっけんを使って アレルギー症状が疑われる場合には その他のナッツ アナフィラキシー 総計 30.5% 74.1% 66.7% (n) (54/177) (20/27) (6/9) 接触のみ 25% 20% (n) (8/32) (1/5) (1/1) 経口摂取 31.7% 86.4% 62.5% (n) (46/145) (19/22) (5/8) Davoren M et al:Arch Dis Child 90(10) :1084-1085,2005 1)文部科学省スポーツ・青少年局 アレルギー疾患に関する調査研究報告書(平成19年3月) 2)Gupta R et al:Thorax 62(1) :91-96,2007 3)Poulos LM et al:J Allergy Clin Immunol 120(4) :878-884,2007 4)平成20年度厚生労働省科学研究報告書 5)Savage JH et al:J Allergy Clin Immunol 120(3) :717-719,2007 6)Fleischer DM et al:J Allergy Clin Immunol 116(5) :1087-1093,2005 7)Davoren M et al:Arch Dis Child 90(10) :1084-1085,2005 8)Sicherer SH et al:J Allergy Clin Immunol 108(1) :128-132,2001 9)第57回日本アレルギー学会秋季学術大会 223 カシューナッツアレルギーの臨床像と 交差抗原性に関する検討 10)第19回日本アレルギー学会春季臨床大会 P147 カシューナッツにより アナフィラキシーショックを呈した乳幼児の2例 11)Thyagarajan A et al:J Allergy Clin Immunol 126(1) :31-32,2010 ファディア社発行 ALLAZiN Winterより 春の花粉といえばヒノキ科のスギとヒノキが有名ですが、 1∼6月には多くの樹木が花粉を飛散させます。ヒノキ科の 樹木に次いで花粉を多く飛散させるのが、 カバノキ科、 ブナ科 などのブナ目です。カバノキ科にはハンノキ、 シラカンバ、ハシ バミ、ヤシャブシ、ブナ科にはブナ、コナラ、クヌギ、スダジイ などがあり、これらは日本全土に自生しています。都会でも これら樹木は身近にあり、1∼6月には花粉が飛散し感作 すると考えられます。これら樹木の花粉症はスギ花粉症と 同様の症状が強く、都心のクリニックを受診したスギ花粉症 患者の約20%にハンノキ花粉の感作が認められました2)。 ブナ目花粉症の特徴は、果実、野菜、ナッツ類と交差性の あるコンポーネント、すなわちPR-10蛋白*やプロフィリン**が 原因となっていることです。ハンノキ花粉感作例を対象に アンケート調査をした結果、54.8%に果実、野菜の口腔アレ ルギー(OAS)がみられ、ハンノキ特異IgE抗体価が高いほど 頻度は高くなりました。原因食物の頻度は単独ではメロンが、 科全体としてはモモ、リンゴ、ナシなどのバラ科の果実が 多くみられました2)。同様の結果が、北海道(シラカンバ)、 相模原(ハンノキ) 、横浜(ハンノキ) 、神戸(ヤシャブシ)など から報告されています 3-5)。また、ブナ目以外にもイネ科、ブタ クサやヨモギ花粉などでOASが知られています6)。 OASの症状は、多くが口腔内の違和感など比較的軽度 ですが、稀に重篤な症状も起こります。特異IgE抗体価が 高くなる花粉飛散時期に発現しやすく注意が必要です。 多数の果実、野菜などで症状を起こすことが多く、日常 生活上の支障となるため、抗原診断は重要です。頻度の 高い食物を中心に問診で原因食物を推定し、イムノキャップ によりハンノキまたはシラカンバ花粉の感作を確認すると ともに、原因と疑われる食物の特異IgE抗体を測定することで 比較的容易に診断が可能です。 現症状が軽いからと、原因食物を摂取し続けた結果、 アナフィラキシーを起こした例もあり、可能な限り原因食物 を避けさせることが最も確実な指導です7)。 *PR-10蛋白:カバノキ科、ブナ科花粉の主要なアレルゲンコンポーネントで、シラ カンバのBet v 1がよく知られ、Bet v 1関連蛋白ともいわれる。多くの果実、野菜、 ナッツ類にも同様な蛋白が存在し、 このためOASの主要な原因アレルゲンとなる。 **プロフィリン:植物に広くみられ、広範な交差性に関与するコンポーネントで、 花粉症原因アレルゲンとしての頻度はPR-10蛋白ほど高くない。 ALLAZiN News ● 主なブナ目と花粉の飛散時期 科 カバノキ科 属 種 飛散時期 1月 2月 3月 4月 5月 6月 ハンノキ属 ハンノキ カバノキ属 シラカンバ せっけんやシャンプーなどには、しっとり感や泡立ち 原因でない可能性もありますので、しっかり問診の上、 クマシデ属 クマシデ などのために小麦成分が入ったものがあります。しかし、 患者様のQOL向上のために、的確な診断をして下さい。 ヤシャブシ ブナ科 ハシバミ属 ハシバミ ブナ属 ブナ 厚生労働省から昨年の10月に「小麦加水分解物を含有 コナラ する医薬部外品・化粧品による全身性アレルギーの発症 コナラ属 クヌギ シイ属 スダジイ 指導・ハンノキ、シラカンバ写真提供:東邦大学 佐橋紀男先生 ● 花粉との関連が報告されている食物 (野菜・果物・ナッツ類)6)改変 カバノキ科 ハンノキ・ オオバヤシャブシ カバノキ科 シラカンバ ヒノキ科 スギ・ヒノキ も報道されましたので、ご存じの方も多いかと思いま スイカ・メロン・ズッキーニ・キュウリ・バナナ ブタクサ キク科 ヨモギ う呼び掛けています。同時に製造販売業者に小麦を含ん バラ科(リンゴ・モモ・ナシ・洋ナシ・スモモ・アンズ・サクランボ・ イチゴ) ・ヘーゼルナッツ(ハシバミ) ・クルミ・アーモンド・ココナッツ・ ピーナッツ・セロリ・ニンジン・ジャガイモ・キウイ・オレンジ・メロン・ ライチ・香辛料(マスタード・パプリカ・コリアンダー・トウガラシ) カモガヤ・マグサ・ メロン・スイカ・トマト・ジャガイモ・タマネギ・オレンジ・セロリ・キウイ・ 米・小麦 オオアワガエリ キク科 html)、体に異常が出た場合は製品の使用をやめるよ でいることの表示を徹底し、異常があったら使用をやめ イネ科 ニンジン・セロリ・レタス・ピーナッツ・クリ・ピスタチオ・ヘーゼル ナッツ(ハシバミ) ・ヒマワリの種・ジャガイモ・トマト・キウイ・香辛料 (マスタード・コリアンダー・クミン) るよう消費者へ情報提供するよう求めています。各新聞で す。また、11月に開催された日本アレルギー学会秋季 学術大会でも報告がありました。 小麦加水分解物によるアレルギー症状は、職業性の アレルギー疾患として認識されていましたが、近年は せっけんなどで広く一般に使われるようになり、赤み・ かゆみなどの症状の出る人が増えてきました。症状が 出た人の中にはさらに、小麦を含むパンやめん類を食べて 赤字はイムノキャップで測定可能 から歩いたり運動したりして、顔や手の腫れ、血圧低下 1)小野恵美子 他:アレルギー 56:587-592, 2007 2)奥田 稔 他:アレルギーの領域 5:761-765, 1998 3)山本哲夫 他:アレルギー 53:435-442, 2004 4)守田亜希子 他:アレルギー 57:138-146, 2008 5)小笠原 寛 他:日花粉会誌 38:134-139, 1992 6)松倉節子 他:アレルギー免疫 17:1031-1038, 2010 7)Temesvar E et al:Contact Dermat 28:185-186, 1993 などの小麦依存性運動誘発アナフィラキシーを発症した 日本医科大学 名誉教授 日本臨床アレルギー研究所 顧問 奥田 稔 先生 鼻アレルギーガイドライン編集顧問。 日本におけるアレルギー性鼻炎の臨床 研究のパイオニア。 【症 例】30代女性 www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000uaiu. バラ科(リンゴ・モモ・ナシ・ビワ・サクランボ・イチゴ) ・ウリ科(メロン・ スイカ・キュウリ) ・ダイズ(豆乳) ・キウイ・オレンジ・ゴボウ・ ヤマイモ・マンゴー・アボカド・ヘーゼルナッツ(ハシバミ) ・ニンジン・ セロリ・ジャガイモ・トマト トマト 症例紹介 について」という注 意喚 起の通 知が出ており(http:// ケースもあります。 小麦を原料とする成分が入った化粧品やせっけんを 【既 往 歴】通年性鼻炎のみ。 【経過及び処置】 約2年前から加水分解コムギ末を含有する石けんを使用。 使用開始して洗顔後に皮膚の痒み、膨疹など発現していたが、 使用を続けていた。発現日にパン摂取後、自転車で5-6分 走行したあと、手掌の痒み、眼周囲の血管浮腫、鼻閉、全身 発赤・膨疹、腹痛などあり。 その後も小麦製品摂取後に運動を して、アナフィラキシーを繰り返した。精査目的で受診。 【検査所見】 血清総IgE値 220 IU/mL <特 異 的IgE値>小 麦 2.58 UA /mL(class 2)、グル テン 4.48 UA /mL(class 3) <Prick test 膨 疹 径>当該 石けん3mm、0.3%加 水分 解 小麦9mm、 小麦0mm、 パン0mm、 Histamine(10mg/mL)3mm 【診 断】 ・小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA) ・加水分解小麦による接触性蕁麻疹 病歴とPrick test、特異的IgE検査の結果から上記診断。当該 石けんの使用、小麦摂取後の運動を中止した。 (厚生労働省課長通知の症例2より) 使ってのアレルギー症状が 疑われる場合には、小麦 特異的IgEとグルテン特異的IgEの測定により、小麦に ImmunoCAP ®で測定できる小麦アレルゲン 対する感作を確認することをお勧めします。また、運動 小麦特異的IgE 誘 発アナフィラキシーが疑われる場合は小麦のコン グルテン特異的IgE ポーネントの1つであるω-5 グリアジン特異的IgEを ω-5 グリアジン特異的IgE 測定することも有効だと考えられます。もちろん、小麦が UA/mLは世界的に広く使われている特異的IgEの単位です。 Aはアレルゲンを意味しており、ユニキャップ特異IgE(ImmunoCAP®) 独自の単位であるとともに、学術分野では特異的IgEの標準的な単位 として世界的に広く使われています。 マラセチア(属)の測定が可能になりました 島根大学医学部 皮膚科学教室 マラセチアはヒトや動物の皮膚常在菌の1つです。脂漏性湿疹(皮膚炎)やアトピー性皮膚炎との 関連が報告されています。2010年10月から「ユニキャップ特異IgE m227 マラセチア(属) 」による 特 異的IgE検 査が 保険 適 用となりました。このマラセチア(属)は抗 原性の異なるMalassezia sympodialis, M.restricta, M.globosaの3つの菌種から構成されています。これらは既存項目に 比べ、アトピー性皮膚炎患者で高頻度に検出されるアレルゲンがより感度高く測定ができるよう になりました。 ファディアでは引き続き、幅広いアレルゲンの提供を通じて、アトピー性皮膚炎の診断と治療に 貢献したいと考えています。 ぬいぐるみから 直接分離したマラセチア 小麦・グルテンで 小麦感作の確認を アレルギーの診断と検査 レルギーの診断と検査 教授 森田 栄伸 先生 日本皮膚科学会認定皮膚科専門医で、 日本アレルギー学 会 代議員、指導医 (皮膚科)などを務める。 お問い合わせ先 【写真提供】NPOカビ相談センター代表 高鳥浩介先生 http://www.kabisoudan.com 0120-489-211 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