第 25 回徳島県理学療法士学会

第 25 回徳島県理学療法士学会
~研究および臨床の基礎を構築する~
会期:平成 26 年 10 月 19 日 (日)
会場:徳島健祥会福祉専門学校(3F 大講義室・2F レクリエーション室)
主催:公益社団法人 徳島県理学療法士会
Program
9:30 ~ 10:00 受付
10:00 ~ 10:05 開会式
10:05 ~ 12:05 特別講演(第 1 会場:3F 大講義室)
座長 徳島大学病院 出口 憲市
『理学療法における研究デザインと統計解析の基礎』
弘前大学大学院保健学研究科 対馬 栄輝 先生
12:05 ~ 13:00 休憩
13:00 ~ 14:40 一般演題発表
第 1 会場(3F 大講義室)
13:00 ~ 13:50
14:00 ~ 14:40
セッション 1 (5 演題)
セッション 3 (4 演題)
座長 麻植協同病院 後藤田 晶
座長 橋本病院 水田
隼
1. アフターフォロー実施に向けての調査・検討および 10.超音波診断装置を用いた長軸・短軸画像におけ
今後の課題
る腹横筋筋厚値測定の検者内信頼性
兼松病院 新居有美子
中洲八木病院 西本 篤史
2. 後期高齢者の大腿骨近位部骨折術後における退院時 11.超音波による下肢固定位での大腿筋厚測定法の
歩行能力に及ぼす影響
日間信頼性
中洲八木病院 山本 晃平
徳島大学病院 古本 太希
3. 当回復期リハビリテーション病棟退棟症例の転帰先 12.慢性疼痛を呈する腰部脊椎疾患患者の外来リハ
別 FIM 運動項目の追跡調査
鳴門山上病院 福田 俊也
ビリ期間と破局的思考,不安・抑うつ自己効力
感疼痛,QOL との関連
きたじま田岡病院 三木 裕介
4.壮年循環器疾患患者の復職に関わる要因
徳島赤十字病院 村上 直也
13.長期療養高齢患者の運動機能が栄養状態に与え
る影響
鳴門山上病院 矢野 広宣
5.理学療法士における喀痰吸引の実態調査
徳島文理大学 柳澤 幸夫
第 2 会場(2F レクリエーション室)
13:00 ~ 13:40
13:50 ~ 14:40
セッション 2 (4 演題)
セッション 4 (5 演題)
座長 徳島文理大学 日岡 明美
6.認知課題を用いて動作の向上がみられた一症例
座長 鳴門山上病院 佐川 英理
14.自動的な静的ストレッチングの頻度の違いが
きたじま田岡病院 加納 佑基
柔軟性改善に及ぼす影響
徳島文理大学 大泉
湧
7.身体機能向上の希望と意欲を持ち続けた球麻痺型筋萎 15.歩行能力と脊柱後弯,筋力について
縮性側索硬化症の一症例
阿南共栄病院 高橋 真也
きたじま田岡病院 宮脇 直人
8.人工膝関節単顆置換術後に Stiff-knee gait を呈した
16.一過性の抵抗性運動後の静的ストレッチングが
症例
動脈スティフネスに与える影響
三加茂田中病院 鎌村 篤志
9.ギランバレー症候群に対し、ロボットスーツ HAL®
鴨島病院 石川みづき
17.ラダートレーニングにおける難易度設定の検討
福祉用を使用した一症例
橋本病院 山下 陽輔
博愛記念病院 湯浅 雅史
18.踵上げ動作時の運動戦略についての検討
橋本病院 澁谷 光敬
14:40 ~ 14:50 休憩
14:50 ~ 15:10 優秀演題報告(第 1 会場:3F 大講義室)
座長 徳島文理大学 柳澤 幸夫
『早期のリハビリテーション介入はがん患者の入院日数を短縮させる可能性がある』
徳島大学病院 近藤
心 先生
『非重症クモ膜下出血術後における早期離床の安全性』
徳島大学病院 古本 太希 先生
15:10 ~ 16:55 教育シンポジウム(第 1 会場:3F 大講義室)
座長 橋本病院 高岡 克宜
教育講演『臨床推論能力を高めるために何が必要か?』
博愛記念病院 池村
シンポジスト:天野 裕紀 先生 (鴨島病院)
シンポジスト:後藤
強 先生 (徳島大学病院)
シンポジスト:立石 広志 先生 (きたじま田岡病院)
16:55 ~ 17:00 閉会式
健 先生
特別講演
『理学療法における研究デザインと統計解析の基礎』
弘前大学大学院保健学研究科
対馬 栄輝 先生
座長 徳島大学病院 出口 憲市
第 25 回徳島県理学療法士学会 特別講演
理学療法における研究デザインと統計解析の基礎
弘前大学大学院 保健学研究科
対馬栄輝
理学療法士に研究は必要でしょうか?と問われると,意見が分かれると思います.研究は必要ないという意見
の裏には,そんな暗中模索をする前に,基準もしくは基準以上の知識と技術を備えるための勉強をすべきだとい
う考えがあるのではないでしょうか.自分が実行するかしないかに関わらず,何を勉強するかも問題ですが,勉
強は不必要という人は存在しないと思います.しかし,もし理学療法の知識や技術について,臨床効果に至るま
での勉強をするのであれば,研究論文を解読できなければ不完全だと言わざるを得ません.
研究は必要だという意見の理由としては,
専門職として切磋琢磨しなければならないという概念を持ちますが,
漠然と研究をしてみたいと思っている方が多い気もします.もしそうであれば,何を知りたいのか,具体化しな
ければなりません.そのためには研究に関する知識をつけ,他者の研究論文を評価できるようになれば良いので
す.
いずれにしても,理学療法士が理学療法の専門家である限り,研究論文を解読する能力が要求されます.研究
論文を読まない人は,専門家ではなく職人と呼ばれます.理学療法士は専門家を基盤とした職人ともいえる立場
です.その意識を持って,少なからずとも研究デザインと統計解析の知識が必要であると自覚しなければならな
いのです.
今回は研究デザインと統計解析の基礎について,初心者向けの簡単な説明をしたいと思います.研究デザイン
とバイアスの種類についてを述べ,統計的検定の p の意味,検定結果の読み方に関する基礎,多変量解析の意味
についてまで出来るだけ簡単に解説しようと思っています.
さきに断っておきますが,私は研究方法論について長けているわけではありません.単なる経験と基本的な知
識を,少し持っているだけです.研究デザインと統計解析の知識は便利な道具に過ぎず,どう活用するかは,使
う人次第です.そうした意識も持って,自らの可能性を考えて頂けましたら幸いです.
教育シンポジウム
教育講演『臨床推論能力を高めるために何が必要か?』
博愛記念病院 池村
健 先生
シンポジスト:天野 裕紀 先生 (鴨島病院)
シンポジスト:後藤
強 先生 (徳島大学病院)
シンポジスト:立石 広志 先生 (きたじま田岡病院)
座長 橋本病院 高岡 克宜
第 25 回徳島県理学療法士学会 教育シンポジウム
教育講演「臨床推論能力を高めるために何が必要か?」
博愛記念病院 理学療法士
池村 健
「臨床推論」
、理学療法士としてこの言葉の意味を理解し、その重要性を知ったうえで日常の患者さんへの治療の
なかで実践できているでしょうか?あるいは、自身が実践している臨床推論の精度は高いものであり、根拠に基
づいたものであるといえるでしょうか?私自身、この質問に自信を持って「Yes」と答えることは到底困難です
し、だからこそこの臨床推論能力の精度を高めるための努力を続けていくべきであると感じています。
臨床推論はクリニカルリーズニング(Clinical Reasoning)とも言われ、医師でいうところの正しい診断を行う
能力と言えます。問診や聴診、臨床検査データや画像データなど様々な患者さんに関する所見をもとに的確な診
断をくだし適切な治療方針を定めることです。私たちの理学療法場面にあてはめると、患者さんに起こっている
「歩けない」
「痛みがとれない」というような障がいや症状の理由を突き止め、適切なアプローチを行う能力にな
ります。要するに目の前にいる患者さんに最適な治療方法を選択して適用することであり、理学療法士の生命線
とも言えるでしょう。これは、評価・観察・分析をもとに仮説を立て、プログラムを立案し実行する。そしてそ
の結果を検証(再評価)し、仮説やプログラムの修正を行う作業です。臨床推論を行うには、解剖学、生理学、
運動学をはじめ疾患特性や障がい学、力学的視点や心理面、環境面など非常に多岐にわたる知識が必要になって
きます。急性期と生活期の理学療法では推論のためにフォーカスされる要因は異なるでしょうが、私自身も含め
多くの理学療法士がとりわけ重要と考えるのが姿勢や動作の観察と分析ではないでしょうか?動作は、運動学的
要素、認知情緒的要素、環境との相互作用、習慣、運動学習など多くの要素で構成されており、どこに問題を見
出しアプローチの鍵を見つけるか、それはその動作を観察し、何かに気付くこと、何かに疑問を持つことからす
べてが始まると考えます。動作の観察・分析を行うにあたり私自身が重要視しているのが、正常な動作の理解(運
動の連鎖や姿勢制御、筋の働きとその効果いわゆるバイオメカニクス的な側面も含めた)です。当たり前ですが、
動作を観察し何かに気付くためには正常な動作の理解が必要です。ここでの気付きや疑問は、個々に必要な機能
評価と統合し、解釈から仮説立案へと進める段階で非常に重要と考えています。今回、これらのことを踏まえた
うえで、姿勢観察から分析へ進める段階での臨床推論と、歩行に着目した臨床推論と理学療法介入を考察してみ
たのでご紹介させて頂きます。
また、今回このような貴重な機会を与えて頂けたことを機に、私が勤める病院と関連のある全国の病院に勤務
する理学療法士に対し、臨床推論に関するアンケートを実施したのでそれらの結果も紹介しながら、皆様と共に
臨床推論について考えることができればと考えています。
最後に、理学療法士というプロの臨床家として患者さんに相対した時に、同じ方法を繰り返すばかり、あるい
は他人の行っているプログラムをそのまま真似るような理学療法士にならないために、私たちは日々考えながら
臨床に立つことが求められています。そして日々の臨床推論の繰り返しこそが、大切な経験の積み重ねとなり、
患者さんの 1 日も早い回復に繋がり、また自分自身の成長にも繋がるのではないでしょうか。
第 25 回徳島県理学療法士学会教育シンポジウム
「肩関節疾患に対する臨床推論-超音波画像診断装置を用いて-」
鴨島病院 理学療法士
天野 裕紀
臨床的推論能力を高めるためには、セラピスト自身のアプローチを客感的に評価できることが必要である。さ
らに、その評価を患者自身や医者、看護師といった他の職種と共有または理解できる事で治療に対する相乗効果
をもたらすことができると考える。レントゲンや CT、MRI といった画像は他の職種と共有できる方法の 1 つで
はあるが、理学療法士では自由に撮影することができず、治療の効果判定といった意味で頻回に行うことはさら
に困難である。
近年、超音波診断装置(以下エコー)の発達により非侵襲でありながら、筋や靭帯の状態だけでなく関節の動
きをタイムリーに捉えることが可能となってきている。治療の前後の効果や経時的な評価が誰とでも共有できる
ようになってきている。
腱板断裂術後の肩関節では術部の状態把握による再断裂に対するリスク管理が最も重要である。また、術部の
リスクの状態を判断できることで肩関節の装具固定による様々な影響を最小に抑えることができる。例えば、手
術の影響による術部周囲の疼痛と術部の疼痛の区別をエコーでは判断することができる。さらに、エコーを使用
し装具固定時期の肩関節を描出すると、肩関節の他動運動によるアプローチが組織に対して炎症を助長している
場合がある。腱板断裂術後の装具を除去する時期では、動作指導を行う際にその動作が日常生活でリスクを伴う
かどうか判断に迷うことがある。腱板断裂術後の禁忌である関節の運動方向は、患者の脊柱の彎曲や肩甲骨の位
置によってそのリスクは個人で違っている。入院中の生活でも入浴や更衣動作ではリスクが大きい。そのように
判断が難しい場合でも術部のエコーでの評価は判断の材料として役立つことがある。
今回、装具装着時期で分類すると肩関節は時期毎に問題点が変化していた。不動にしている影響、不動から自
動介助に変更となった時の肩関節の負荷量、代償動作を取り除いた動作での肩の関節運動など理学療法士として
重要な所見が見られた。腱板断裂術後の肩関節の状態をエコーで評価した肩関節の状態は他の肩関節疾患への応
用も可能であると考えられる。この結果が肩関節の疾患と向き合った際に臨床的推論能力の向上の一助となれば
幸いである。
第 25 回徳島県理学療法士学会 教育シンポジウム
「脊椎疾患に対する臨床推論‐クリニカルリーズニングに基づく症例検討‐」
徳島大学病院 理学療法士
後藤
強
【はじめに】
高齢者人口の増加とともに腰部脊柱管狭窄症 (LSCS) などの脊椎疾患患者が増加しており,わが国では 240 万
人に及ぶと報告され,腰痛および下肢症状などを有する患者の 25-45%が本症と診断されている.これまで LSCS
患者の歩行の特性については, Laser doppler,Radiography および 2 次元動作解析装置などを用い,循環動態
あるいは生体力学的視点から検討されている.これらの報告では,LSCS 患者の歩行の特性を循環動態あるいは
バイオメカニクス的視点から検討されているが,LSCS 患者の歩行において最も特徴的な間欠性跛行 (IC) 出現時
の筋活動と姿勢変化との関係については不明確である.そこで,LSCS 患者の IC における有効なリハビリテーシ
ョンの方法を確立するために,歩行時の筋活動と姿勢変化の特性について検討した.
【対象および方法】
症例は,70 歳代女性,診断名 腰部脊柱管狭窄症,手術名 内視鏡視下腰椎部分椎弓切除術 (L4/5) であり,3
次元動作解析評価は,術前および退院前の術後 12 日目,独歩可能な状態で実施した.撮影環境は,3 次元動作
解析装置 (Vicon motion systems Ltd),カメラ 8 台 (Vicon MX T20),マーカーは,Plug in gait モデル(Oxford
Metrix Ltd) に従い 35 箇所設置した.目的動作は,歩行 (3 回平均) とし,検討項目は,術前の間欠性跛行出現
前 (pre),自覚的間欠性跛行出現時 (postIC),間欠性跛行により歩行困難時 (lastIC),術後 12 日目の間欠性跛行
出現前 (PO pre) および術前歩行困難となった距離までの歩行 (PO lastIC) の歩行パラメータ (速度,歩行率)
および脊椎角度,股関節角度,膝関節角度,足関節角度とした.また,表面筋電計 (MyoSystem 1200) を用いて,
前脛骨筋,腓腹筋内側,外側広筋および脊柱起立筋の筋活動を計測した.筋活動量は,1 歩行周期を時間で正規
化した後,各相 (全歩行周期) の筋電図積分値を求め,MVC を基準に正規化 (%MVC) した.
【結果】
脊椎角度は,術前の pre と post IC および last IC では屈曲角度が増加していたが,術後の PO pre と PO last
では,著明な変化は認められず,術前の角度と比較して屈曲角度が減少していた.また,腓腹筋内側および脊柱
起立筋の%MVC は,両筋ともに術前と比較して,術後で左右ともに低値を示していた.
【まとめ】
本症例の術前後の姿勢変化および筋活動を基に,固定的な観念がクリニカルリーズニングの妨げにならない
ように,できる限り多くの定量可能な評価を用いて理学療法アプローチを考えていきたい.
第 25 回徳島県理学療法士学会 教育シンポジウム
「膝関節疾患に対する臨床推論‐変形性膝関節症への理学療法介入のヒント‐」
きたじま田岡病院 理学療法士
立石 広志
はじめに
現在、日本では超高齢社会(65 歳以上の方が 21%以上)が進んでおり、2025 年 65 歳以上の方が全体の 30.3%
を占めるといわれております。介護保険の要介護認定において要支援者の原因 19%、要介護者の原因 10.9%に
関節疾患が原因と挙げられております。関節疾患の中でも我々理学療法士が、臨床の場において、膝関節疾患の
患者もしくは、合併している患者を担当する事は少なくありません。変形性膝関節症は、膝関節疾患の中で最も
多い疾患であります。自覚症状を有する患者は約 1000 万人、潜在的な患者(X 線診断による患者数)約 3000 万
人とまで言われています。
また、変形性膝関節症の整形外科医の治療戦略は多岐に渡り存在します。今回は、当院の治療戦略を中心に変
形性膝関節症の理学療法を紹介し、臨床の場における推論のヒントにしてもらえればと考えております。
疾患概要
まず、膝関節とは、大腿骨・膝蓋骨・脛骨で構成され、大腿脛骨関節と大腿膝蓋関節からなります。大腿脛骨関
節には歩行時で体重の 2~3 倍、走行時で 5 倍、ジャンプをすると最大 24 倍もの負荷がかかるとされており、最
もダメージを受けやすい関節の 1 つであります。その膝関節に対して加齢に伴う生物学的変化や荷重、機械的ス
トレスなどの生体力学的変化により膝関節の構成体である関節軟骨および軟骨下骨、骨組織に進行性変化と反応
性の増殖性変化が生じた疾患が変形性膝関節症であります。
治療戦略
治療は大きく、保存療法と手術療法に分かれます。
保存療法 ①運動療法 ②物理療法 ③生活指導 ④薬物療法 ⑤装具療法(膝装具 足底板 歩行補助具)
手術療法 ①関節鏡視下手術 ②高位脛骨骨切り術 ③人工関節置換術
当院の例
上記のうち、手術療法後の術式の違いによる理学療法の進め方と薬物療法の違いによる理学療法の進め方を当院
での例と合わせていくつか紹介します。
(手術療法の術式には TKAではパテラの置換と非置換による違いや PS
や CR 式による術後の差。薬物療法では、非ステロイド性抗炎症薬 ヒアルロン酸 ステロイド関節内注射、オ
ピオイドの治療など。
)
最後に
変形性膝関節症は、多くの臨床家(ここでは理学療法士)にとって多くかかわる疾患ではあるが、決して単一の
アプローチでは十分な治療結果に結びつかない疾患であると考えます。合併症や環境、その他の因子にも十分に
配慮したプログラムの立案を行い、より大きな治療結果を得るべく、理学療法を行う必要性があるのではないか
と提言いたします。
優秀演題報告
第回 日本癌治療学会学術集会 優秀賞
『早期のリハビリテーション介入はがん患者の入院日数
を短縮させる可能性がある』
徳島大学病院 近藤
心 先生
第 42 回 四国理学療法士学会 学会長賞
『非重症クモ膜下出血術後における早期離床の安全性』
徳島大学病院 古本 太希 先生
座長 徳島文理大学 柳澤 幸夫
第 25 回徳島県理学療法士学会 優秀演題報告
がん患者リハビリテーションにおける在宅復帰要素の検討
近藤
心 1)・江西 哲也 1)・佐藤
紀 1)・大澤 俊文 1)・出口 憲市 1)・福森 知治 2)・加藤 真介 1)
1) 徳島大学病院 リハビリテーション部
2) 徳島大学病院 がん診療連携センター
【目的】
がん患者においては、国の施策による在宅医療の推進、疾患の特性として生命予後が不良である場合が少なくな
いこと、化学療法に代表される繰り返す治療、などの理由で原疾患の治療後に在宅復帰が望まれる場合が多い。
しかし、治療による侵襲あるいは体力低下などにより ADL が低下するがん患者が多く、在宅復帰に向けてリハ
が果たす役割は大きい。本研究ではリハが実施されたがん患者の在宅復帰の際に必要となる因子を ADL 面およ
び環境面を中心に検討した。
【方法】
対象は 2010 年 10 月から 2013 年 9 月までに当院にてリハが実施されたがん患者(n=398)から死亡退院となっ
たもの(46 名)を除いた計 352 名で、在宅復帰群(n=225)と転院群(n=127)に分類した。在宅復帰に関わる
因子として、年齢、性別、リハ紹介までの日数、リハ日数、退院時 Barthel Index(以下 BI)
、摂食嚥下障害の保
有率、多臓器転移の保有率、独歩および杖歩行率、介護保険認定の保有率、家族との同居率の 10 項目について単
変量および多変量での解析を行った。単変量解析は Mann-Whitney の U 検定およびχ2 検定を用い、多変量解
析は在宅復帰を目的変数としたロジスティック回帰分析を用いた。
【結果】
各項目の中央値もしくはパーセンテージは、在宅復帰、転院の順にそれぞれ、年齢(67.0 歳、72.0 歳)
、性別(女
性比率;41.3%、50.4%)
、紹介日数(10.0 日、14.0 日)
、リハ日数(27.0 日、28.0 日)
、退院時 BI(95.0、50.0)
、
摂食嚥下障害(12.9%、26.8%)
、多臓器転移(24.0%、31.5%)
、独歩率および杖歩行(73.3%、30.7%)
、家族同
居(71.1%、65.4%)
、介護保険認定(24.0%、12.6%)で、単変量解析にて年齢(p=0.002)
、
(p<0.001)
、摂食嚥
下障害(p=0.001)
、独歩および杖歩行(p<0.001)
、介護保険(p=0.012)で有意差を認めた。多変量解析では年
齢(p=0.026、オッズ比 0.972)
、退院時 BI(p<0.001、オッズ比 3.493)
、独歩および杖歩行(p<0.001、オッズ
比 11.008)
、介護保険認定(p<0.001、オッズ比 8.680)が有意な因子であった。
【考察】
BI スコアおよび独歩・杖歩行率はいずれも ADL の自立度に関するものであり、それらが在宅復帰に直接的に関
与する因子であることが示唆され、リハにおいてもそれらの改善が最重要課題であるといえる。また介護保険で
のサービスを利用することにより、在宅療養へのスムーズな移行あるいはその後行われる治療に向けての体力維
持などが図られるため、ADL の低下したがん患者に対するリハの一環として積極的な導入を検討する必要があ
る。
第 25 回徳島県理学療法士学会 優秀演題報告
非重症クモ膜下出血術後における早期離床の安全性
-症候性脳血管攣縮の発生状況での比較-
古本 太希 1)・出口 憲市 1)・近藤
心 1)・大澤 俊文 1)・佐藤
紀 1)
江西 哲也 1)・里見淳一郎 2)・永廣 信治 2)・加藤 真介 1)
1)徳島大学病院 リハビリテーション部
2)徳島大学病院 脳卒中センター
【目的】
当院脳卒中センター (SCU) では,非重症のクモ膜下出血 (SAH) 術後の症例に対して SCU 専属医師の指示の
下で早期に脳槽ドレナージを抜去し,積極的な離床を実施している.本研究では,非重症 SAH における早期離床の
安全性を明らかにする目的で,後方視的に当院 SCU における非重症 SAH の症候性の脳血管攣縮 (Vs)発生の現状
を調査した.
【方法】
対象は,2010 年 1 月~2012 年 12 月までに動脈瘤による SAH で入院し,リハビリテーションを実施した 96 例の
うち,重症例および保存的治療例を除外した非重症 SAH42 例を対象とし,術後 1 週間以内に歩行開始した早期離床
群 (18 例) および術後 1 週間以降に離床を開始した通常離床群 (24 例) とした.カルテ記録より両群の症候性 Vs
発生率,基本属性,術式,入院時重症度,術後からのリハビリ,座位,離床開始までの日数,退院時 BI,転帰および在院日数
などを抽出した.統計解析は,早期離床群と通常離床群との比較に Mann-Whitney の U 検定,χ2 検定を使用し,有意
水準は 5%未満とした.
【結果】
早期離床群における術後からリハビリ開始,座位開始および離床開始までの日数は,3.3±1.3,4.6±1.4,5.3±1.4 であ
り,通常離床群では,4.3±2.0,9.3±3.8,14.2±5.8 であった.また,症候性 Vs 発生の有無については,2 群の間に有意差は認
めなかったが,早期離床群での Vs 発生率は一過性 Vs (22%),永続性 Vs (11%)であり,通常離床群での Vs 発生率
は,一過性 Vs (8%),永続性 Vs (25%) であった.
【説明と同意】
本研究は,徳島大学病院倫理委員会 (承認番号:第 1609 号) の承認を得た.また,診療記録より後方視的にデータ
抽出を行い,個人情報が特定できないように ID 化しデータ保存を行った.
【考察】
今回の研究結果より,症候性 Vs の発生については早期離床群と通常離床群との間に有意な差は認められなかっ
たことから,非重症 SAH における早期離床は,Vs の発生予測因子とリハビリ実施中の安全性を考慮した早期離床
参加基準を設定し,さらに病棟スタッフとの包括的なアプローチが可能な場合は Vs 発生率を上昇させないことが
示唆された.また,早期離床群で一過性 Vs の割合が高い原因としては,早期離床群では術後早期から積極的に立位
および歩行を実施することによりベッドレストであれば検出不可能であった意識障害・神経脱落所見の検出が可
能となり,Vs に対してただちに MRI/A の撮影,塩酸ファスジル局所動注あるいは経皮的血管形成を行い,永続性の
Vs 発生の予防が可能になるためと考えられる.本研究により,非重症 SAH では厳格な離床基準を設定することに
より,Vs 発生率を高めることなく離床が可能になることが示唆された.
一般演題発表
『セッション1』
座長 麻植協同病院 後藤田 晶
アフターフォロー実施に向けての調査・検討および今後の課題
~2013 年度内の骨折による早期再入院に着目して~
○新居有美子1)・兼松 晴彦2)・清田 陽平1)・小西加奈子1)・原口
享1)
賀治 祐人1)・野々瀬麻衣1)・田尾 俊典1)
1)兼松病院 リハビリテーション部
2)兼松病院 外科
【はじめに】
骨折後の入院リハビリテーションを終えた患者が退院後に骨折によって再入院するケースを認める.当院では
再発予防の観点から,退院患者に対する「アフターフォローの実施」を計画立案することとなった.2013 年度の
実態調査を行った結果,同年度内の骨折による再入院全患者が脊椎圧迫骨折であることが判明した.本研究では
同年度内の脊椎圧迫骨折による再入院患者と,脊椎圧迫骨折による入院が1回の患者との退院時 ADL 能力の比
較検討を行った.
【対象および方法】
対象は同年度内の脊椎圧迫骨折による再入院患者(以下,再骨折群)7 名(男性1名,女性6名,平均年齢
88.71±4.38 歳,平均在宅日数 71.86±88.42 日)と脊椎圧迫骨折による入院が1回の患者(以下,骨折群)27 名(男
性 2 名,女性 25 名,平均年齢 81±7 歳)とした.退院時 ADL 能力の比較項目は,Barthel Index の移動・トイレ・
入浴の 3 項目,当院で考案した在宅生活活動状況評価の 10 項目とした.統計学的分析には Mann-Whitney の U
検定を用い,有意水準は 5%未満とした.
【倫理的配慮】
本研究はヘルシンキ宣言および臨床研究に関する倫理指針に従って実施した.データの個人情報保護には十分
に注意した.
【結果】
すべての項目において有意差を認めなかった.
【考察・まとめ】
有意差を認めた項目に特に着目してリハビリを施行しようと考えていたが,再骨折群と骨折の退院時 ADL 能
力には有意差を認めなかった.この結果は,脊椎圧迫骨折の再発と退院時 ADL 能力の関連性が低いことを示唆
している.今回の比較項目は ADL 能力としたが,脊椎圧迫骨折は器質的な疾患特性を有することからも,再発
要因として身体機能や運動習慣の影響を考慮する必要があったと考えられ,
今後の運動療法の再考も必要である.
今回は退院時の ADL 能力について比較検討したが,再発時における ADL 能力に関しての調査を行っていな
いため,脊椎圧迫骨折再発と ADL 能力との関連性を否定することは出来ない.今後の課題として,退院後の継
続的な ADL 能力評価が必要であり,身体機能や運動習慣の評価を加えたアフターフォローに取り組むこととし
た.
後期高齢者の大腿骨近位部骨折術後における退院時歩行能力に及ぼす影響
○山本 晃平 1)・加藤 祐希 1)・西本 篤史 1)・井関 博文 1)・岡崎 大資 2)・日浅 匡彦 1)・八木 康公 1)
1)中洲八木病院 リハビリテーション室
2)徳島文理大学 保健福祉学部 理学療法学科
【はじめに】
「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン」では,歩行予後について年齢,受傷前歩行能力,認知症,骨折型
等が影響因子として報告されている.近年,リハビリテーションにおいても栄養管理が重要視され,低栄養が ADL
低下に関与する可能性が示唆されているが,
歩行予後の一要因として関与するとの報告は少ない.
そこで今回は,
大腿骨近位部骨折術後患者の退院時歩行能力にどのような要因が影響を及ぼすか調査し比較検討することを目的
とする.
【対象及び方法】
対象者は平成 21 年 5 月1日から平成 26 年 1 月 31 日の間に当院回復期病棟にて大腿骨近位部骨折に対し観血
的整復固定術を施行され,受傷前歩行レベルは屋内歩行自立レベルであった後期高齢者 28 症例 (男性 7 例:女
性 21 例,C-CHS:5 例:CHS:23 例,平均年齢 85±5.1 歳) とした.方法は退院時歩行能力が FIM 移動項目 5 点以
上を歩行介助なし群 (以下,なし群) とし,4 点以下は介助あり群(以下,あり群)の 2 群間に分けた.調査項目
として年齢,術後 3 週の身長,体重,BMI,血液データ (Hb,Alb,CRP),入院時 HDS-R,在院日数を後方視的に
抽出し,2 郡間において比較検討を行った.統計解析は対応のない t 検定を用い,有意水準は 5%未満とした.な
お,倫理的配慮として当院倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】
対象者を比較検討した結果,なし群 16 例,あり群 12 例であった.2 群間における術後 3 週の Alb (なし群 3.4
±0.3g/dl,あり群 3.1±0.4g/dl) (p<0.05) と HDS-R (なし群 23.6±4.7 点,あり群 14.4±8.5 点) (p<0.01)
にて有意差が認められた.年齢 (なし群 85+5.1 歳,あり群 84±5.3 歳),身長 (なし群 152±5.2cm,あり群 150
±7.3cm),体重 (なし群 46.2±7.6kg,あり群 49.8±12.5kg),BMI (なし群 20.1±2.5,あり群 22.1±4.4),入
院時 Alb (なし群 3.4±0.3g/dl,あり群 3.5±0.2g/dl),Hb (なし群 11.1±1g/dl,あり群 10.7±1.3g/dl),CRP
(なし群 0.6±0.5mg/dl,あり群 0.97±0.9mg/dl),在院日数 (なし群 91±23 日,あり群 90±17.9 日) で有意差
を認めなかった.
【考察】
本研究より,2 群間において術後 3 週の Alb 値,HDS-R で有意差が認められ,また後期高齢者においては年齢に
よる有意差は認められないことが分かった.認知症が歩行予後に影響する報告は多くあるが,栄養状態が歩行予
後に関連する報告は少ない.栄養学的因子の関連について古庄らは,大腿骨近位部骨折症例では術後早期離床が
可能となった一方で,Alb 値回復までの期間,低栄養状態にて運動を行うことになると述べている.本研究の対
象者においても,あり群に対し低栄養状態で過負荷な運動を行っていた可能性がある.また加齢による摂取量減
退に加え,侵襲程度,不活動時間の延長,基礎疾患などの複数の要因が,退院時歩行能力低下に関連したと考え
る.
【まとめ】
本研究により,栄養状態,認知機能が歩行予後に影響したことはガイドラインと一致する結果となった.今後
は栄養評価において Alb 値の評価だけでなく身体指標や食事摂取量,基礎疾患等も評価し,それらを踏まえた更
なる検討が必要であると考える.
当回復期リハビリテーション病棟退棟症例の転帰先別 FIM 運動項目の追跡調査
~在宅と療養による違いに着目して~
○福田 俊也 1)・直江 貢 1)・柳澤 幸夫 2)
1)医療法人久仁会鳴門山上病院 診療協力部 リハビリテーション部門
2)徳島文理大学 保健福祉学部 理学療法学科
【はじめに】
当回復期リハビリテーション病棟(以下,回リハ)では,365 日体制のチームアプローチを基盤として症例の
心身・生活機能,日常生活動作(以下,ADL)能力等をはじめとする治療成績の向上に努めているが,退棟後の
ADL 能力については十分に把握できていない状況にある.そこで、退棟後の ADL 能力の推移を在宅と療養に分
類して調査し,両者の特徴から今後の治療プログラムの指標を得るべく検討を加えたので報告する.
【対象及び方法】
平成20 年4 月から平成25年5月までの期間に回リハに入棟した症例のうち,
退棟時のFunctional Independence
Measure の運動項目(以下,m-FIM)が 45 点以上 80 点未満であり,追跡調査が可能であった 43 例(在宅群 21
例・療養群 22 例)を対象とした.調査時期を回リハ退棟時・3 ヶ月後・12 ヶ月後として m-FIM 得点を診療録よ
り後方視的に抽出し,退棟時と 3 か月後の m-FIM 得点差(以下,生活適応期)及び 3 ヶ月後と 12 ヶ月後の得点
差(以下,生活期)を算出した.統計解析は同群での経時的変化は対応のある t 検定,在宅・療養での 2 群間比
較では 2 標本 t 検定・Mann-Whitney の U 検定にて比較検討した.分析には SPSSver21.0 を用い,全ての有意水
準は 5%未満とした.尚,本研究は当法人倫理委員会の規定に従い実施したものである.
【結果】
退棟時の在宅群・療養群での対象者特性には有意差を認めなかった.m-FIM 得点差は,在宅群では 3.1±7.8 点
(生活適応期)
,-1.62±6.5 点(生活期)
.療養群では-5.8±10.3 点(生活適応期)
,-1.75±6.0 点(生活期)であり,両
群ともに得点変化において有意差はなかった.一方,2 群間比較検討では生活適応期の得点差において在宅群に
高値を示す有意差を認めた(p<0.05)
.退棟時と 3 ヵ月後の m-FIM 各項目の変動値を比較した結果,療養群では
更衣(上)
・移乗(トイレ)
(p<0.01)
,整容・更衣(下)
・トイレ動作・移乗(ベッド・浴槽)項目に有意な低下
を認め(p<0.05)
,在宅群は更衣(下)にのみ有意な向上を認めた(p<0.05)
.
【考察】
両群の比較において特徴的な差異を認めた m-FIM 項目は,更衣・移乗(トイレ)
・トイレ動作であった.この
事は,
トイレに関連する諸動作が転帰先に影響を及ぼすことを指摘した前田らの先行研究を支持するものであり,
起居・移乗・移動・更衣・整容の複合的な動作であるトイレ動作獲得の可否が転帰先での能力維持・向上に関与
する一因であることが示唆された.今後は,精神機能及び生活環境(人的・物理的)の評価等を含めた包括的な
検討と,転帰先において『する ADL』を見据えたリハ・ケアを提供することが課題である.
【まとめ】
転帰先別に ADL 能力の特性を把握することは,転帰先での生活を見据えたリハ・ケアプログラムの一指標を
得る観点から有益であると考える.
壮年循環器疾患患者の復職に関わる要因
○村上 直也 1)・高瀬 広詩 1,2)・松尾 善美 2,3) ・平林 伸治 4)
小田 実 1) ・小倉 理代 5) ・日浅 芳一 5)
1)徳島赤十字病院 リハビリテーション科
2)武庫川女子大学大学院 健康・スポーツ科学部研究科
3)武庫川女子大学 健康・スポーツ科学部
4)大阪労災病院 リハビリテーション科
5)徳島赤十字病院 循環器内科
【はじめに】
壮年循環器疾患患者に対する心臓リハビリテーション(以下:心リハ)では,社会的地位の回復や経済的安定
などの観点から,復職が最大の課題となる.また,急速な少子高齢化が進む我が国においては,労働人口の確保
という点からも壮年循環器疾患患者の復職を促すことは重要である.しかし,これらの患者を対象にした復職に
関する研究は極めて少なく,また,復職状況を詳細に検討した報告は調べ得た限りない.そこで,本研究では壮
年循環器疾患患者の復職状況を調査し,復職に関わる要因を明らかにすることを目的とした.
【対象及び方法】
対象は 2012 年 1 月から 2013 年 12 月までの間に当院の循環器科に入院し,入院中に心リハを受けた 65 歳以下
の患者 436 名のうち,
調査時に死亡していた者を除く 412 名とした.
調査は郵送方式によるアンケート調査とし,
回答が得られた者については,カルテから医学的情報も収集した.なお,本研究は徳島赤十字病院倫理審査委員
会の承認を得て実施した.
【結果】
300 名から返送があり,回収率は 73%となった.入院時の有職者(自営業を含む)は 240 名(80%)おり,そ
のうち復職できた者は 179 名(75%)であった.仕事内容は建設・採掘従事者が最も多く(18%)
,次いで専門的・
技術的職業従事者(15%)
,サービス職業従事者(13%)の順に多かった.疾患や,左室駆出率で復職率に差はな
かったが,年齢では有意差を認めた(復職可 59.0(54.0-63.0)
,不可 63.5(56.75-65.0)
,p<0.01)
.また,雇用形態
別にみると,正規雇用者に比べて非正規雇用者では復職率が低く,自営業者で高かった(各々77%,63%,87%,
p<0.01)
.復職できなかった理由としては,
「体力的にきついから(57%)
」
「病気が悪化するかもしれないという
不安があるから(36%)
」と答えた者が多かった.また,元通り復職できていても,60%の者が仕事中になんらか
の制限を感じており,30%の者が病気の悪化に対する不安を感じていた.
【考察】
復職に関わる要因として,年齢および雇用形態が挙げられた.また,復職の可否に関わらず,多くの者が体力
面の制限や病状悪化に対する不安を感じていたことから,心リハの重要性が示唆された.
【まとめ】
今回,壮年循環器疾患患者に対しアンケート調査を実施し,復職に関わる要因を調査した.結果,復職に関わ
る要因として年齢および雇用形態が挙げられた,また,復職の可否に関わらず多くの者が体力的な制限や病状悪
化に対する不安を抱えていたことから心リハによる復職支援の重要性が示唆された.
理学療法士における喀痰吸引の実態調査
~現状およびインシデントについて~
○柳澤 幸夫 1)・中村 武司 2)・松尾 善美 3)
1)徳島文理大学 保健福祉学部理学療法学科
2)徳島県鳴門病院 リハビリテーション部
3)武庫川女子大学 健康・スポーツ科学部
【はじめに】平成 22 年 4 月に厚生労働省医政局より「痰の吸引」の医療行為が認可され,理学療法士は痰喀出訓
練を実施する際に喀痰吸引が認められた.このことから呼吸ケア領域で積極的な介入が期待されるようになった
が,現在の現場での実施率,挿入範囲やインシデントの有無などの報告は少ない.したがって,本研究では徳島
県下の理学療法士にアンケートを行い,現場での喀痰吸引の実態,またインシデントの有無とその内容を明らか
にすることを目的とした.本研究は,大同生命厚生事業団の研究助成を受け実施した.
【方法】対象は徳島県理学療法士会に所属し,病院,施設登録の理学療法士 715 名を対象とした.アンケート調
査期間は,平成 25 年 3 月 1 日からの 2 週間とし,同意を得た上で無記名にて記入後郵送にて回収した.調査内
容は,対象者の属性,吸引行為の有無,対象者の疾患分類,吸引カテーテルの挿入箇所,吸引行為の挿入範囲,
吸引行為中のインシデントの有無,インシデントの内容とした.統計解析は,SPSS21.0J を用いて,各回答に対し
て単純集計を用いて検討した.本研究は徳島県鳴門病院倫理審査委員会の承認を得て,回答者には研究概要を紙
面にて説明し,同意を得た上で返信を依頼した.
【結果】715 名中,540 名から回答を得た(回収率 75.5%)
.吸引の実施は,経験有は 115 名(21.3%)で 425 名
(78.7%)が経験無であった.対象者の疾患分類は順に呼吸器疾患が 87 名(75.7%)
,脳疾患 77 名(67.0%)
,神
経筋疾患 23 名(20.0%)であった.吸引の挿入箇所は口腔 100 名(87.0%)
,鼻腔 42 名(36.5%)
,気管カニュー
レ 60 名(52.2%)であり,挿入範囲は口腔内 84 名(73.0%)
,咽頭 58 名(50.4%)
,喉頭 36 名(31.3%)
,気管支
33 名(28.7%)であった.インシデントでは 24 名(20.9%)が有で,その内容は順に呼吸状態 13 名(54.2%)
,
感染管理 10 名(41.7%)
,吸引操作の手順 9 名(37.5%)であった.
【考察】結果,吸引行為の実施は 21.3%との低い結果であった.吸引の挿入箇所では口腔が最も多く,次いで気
管カニューレ,鼻腔であり,鼻腔が低い理由は鼻腔内の構造によるカテーテル挿入の困難感や易出血性などが影
響していると考えられた.挿入範囲でも口腔内が最も多く,喉頭,気管支は低かった.口腔に関する部分は比較
的容易に吸引することができること,対象者も多いことも影響していると考えられる.インシデントの有無では
20.9%の発生,その内容は感染管理や吸引操作のトレーニングにて解決できるものが多かった.これらのことか
ら,今後も感染管理,吸引操作などのリスク管理関係に重点をおいた喀痰吸引の指導を継続的に実施していく必
要がある.
【まとめ】本研究にて理学療法士による吸引実施率は 21.3%と低いこと,口腔に比べ気管,鼻腔からの吸引が少
ないことが明らかとなった.また,インシデントは 20.9%に認められ,インシデントの内容を考慮した課題解決
にむけた研修の実施を継続していくことが必要である.
一般演題発表
『セッション2』
座長 徳島文理大学 日岡 明美
認知課題を用いて動作の向上がみられた一症例
~物干し動作に着目して~
○加納 佑基 1) 三木 裕介 1) 秦
沙織 2) 山中ひかる 2)
1)医療法人 きたじま倚山会 きたじま田岡病院リハビリテーション科
2)医療法人 倚山会 田岡病院リハビリテーション科
【はじめに】
今回、脳梗塞により右片麻痺を呈し 6 年が経過した当院通所リハビリ利用者に対して、認知課題を用いてアプローチを実施
する機会を得た。本症例は自宅での ADL 能力低下がみられており、特に日常生活における実施頻度の高い ADL 動作の
一つに着目した。Demands として、物干し動作時に右上肢が使いにくいとの訴えがあり、麻痺側の ADL 動作参加向上を
目標として治療を行った為、以下に報告する。尚、本症例に対しては発表内容の説明を行い、承諾を得ている。
【症例紹介】
70 歳代女性、平成 20 年に脳梗塞(放線冠~基底核)を発症し、右片麻痺・言語障害を呈し当院入院。平成 22 年より当院通
所リハビリを利用され、平成 25 年 11 月より担当変更となり介入。右 Brs.上肢Ⅲ~Ⅳ、手指Ⅲ、下肢Ⅲ~Ⅳレベルである。表
在感覚は左右差なく、深部感覚は位置・運動覚ともに軽度鈍麻。指示理解は良好で、表出は時間を要するが自分の言葉で
表現する。移動は T-cane で自立しており、調理や洗濯は自身で行っているが麻痺側の使用頻度は少ない。物干し動作時
に、右大胸筋・上腕二頭筋・回内筋・手指屈筋に異常な運動単位の動員や連合反応がみられる。右肩関節各運動方向の識
別は曖昧で、注意を向けてもらう事で識別可能となる。
【治療結果】
訓練開始当初は、麻痺側上肢を自ら動かして誤差を見出そうとしていた。しかし、健側との比較などを行い運動の細分化を
行っていく事で、徐々に内部イメージへ注意が向くようになり誤差も減少していった。結果として、右大胸筋の筋緊張コントロ
ールが以前より向上し、肩甲帯拳上の代償動作が減少した。それにより、物干し動作時の努力性は軽減した。
【考察】
介入前においては運動先行で動作を行っており、実際の運動との比較が行えていなかった事が考えられる。そのため、動
作時における右上肢全体の筋緊張亢進に繋がっていたのではないかと考える。そこで、訓練を通して筋感覚イメージを用
いて予測された運動と実際の運動感覚フィードバックによる誤差に気づいた事で、肩関節周囲の筋緊張コントロールが向上
したと考える。また、右肩関節に対して選択的注意や運動イメージの想起が継続的に行え、物干し動作の努力性軽減に繋
がったと考える。
【まとめ】
今回は肩関節周囲の筋緊張軽減が図れ、物干し動作の向上がみられたが、肩関節の機能以外の問題点が数多く残
っている。今後、よりよい行為の改善を図るためには、細かく ADL 動作の細分化を行い上肢・体幹・下肢との
関係性改善や機能レベルでの向上が必要だと考える。
身体機能向上の希望と意欲を持ち続けた球麻痺型筋萎縮性側索硬化症の一症例
~進行性疾患に対する理学療法士の役割を考えて~
○宮脇 直人
医療法人きたじま倚山会 きたじま田岡病院 リハビリテーション科
【はじめに】
進行性の疾患に罹患しても、
「自分のことは自分でしたい。寝たきりになりたくない」と思うことは自然なこ
とであり、患者を支えるチーム医療の中で理学療法士(以下 PT)の役割は大きい。今回、身体機能向上の希望
と意欲を持ち続けた筋萎縮性側索硬化症(以下 ALS)の患者に、外来通院時から入院後気管切開下人工呼吸器導
入を経て、現在までの約 3 年間の理学療法を経験したため報告する。発表にあたり本人・家族の承諾を得てい
る。
【症例】
70 歳代女性、専業主婦、診断:球麻痺型 ALS(H22.8 発症)初発症状:構音障害・嚥下障害
理学療法開始時の身体所見:舌の線維束攣縮・萎縮、構音障害、嚥下機能低下あり。四肢筋力低下・筋萎縮な
し、深部腱反射正常、感覚障害なし、体幹筋萎縮・筋力低下・円背あり
Demands:自分のことは自分でしたい、Needs:本人の希望に沿った生活の継続
【経過】
H23.3~H24.3 発症 8~20 ヵ月:外来通院時期。ADL 自立。経過とともに歩行時の疲労増大。
H24.4 発症 21 ヵ月:当院入院。気管切開下人工呼吸器装着。
「寝たきりになりたくない」
。タオルロールで気切
部の動揺を抑え、ベッド周囲の動作訓練や転倒予防の環境設定によりトイレ動作自立。歩行訓練を継続。H25.7
発症 36 ヵ月:足部変形が進行し歩行困難。医師や看護師にオムツを勧められるが、本人は強い拒否。身体機能
と環境設定を日々評価し、他職種と情報共有や移乗動作指導を行う。チーム医療により、介助下での座位困難と
なるまで P トイレを継続して使用。
現在 発症 40 ヵ月:オムツ着用、端座位保持困難。離床頻度が激減し、脊柱・下肢の屈曲制限が増悪。リクライ
ニング車椅子を提案するが、本人の強い希望でモジュール型車椅子での離床を継続。安定座位を目指したシーテ
ィングや姿勢評価、他職種への情報共有は不可欠である。
【考察】
専門医不在の中、
「身体機能を維持したい」という気持ちを実現し、その生活を継続するためには、日々の理
学療法評価から予後を予測する必要がある。しかし変化する症例の状態に、PT だけでは希望を実現させること
は困難であり、医師、看護師、家族を含めたチーム医療が不可欠であった。そこでは残存機能を的確に把握する
評価能力と他職種に発信できるコミュニケーション能力が求められている。疾患の進行状況に応じて適切な時期
に代償的方法を導入し、他職種と連携できたことで、結果的に症例の希望に沿った、意欲的な生活を継続させる
ことができたと考える。
【まとめ】
ALS では、発症初期から個別性を重視した理学療法が必要である。他職種と連携し、チームアプローチを実
践するには、患者中心の情報共有が必要であり、PT の役割は大きい。そして本人の希望する生活動作とリスク
のバランスを総合的に判断するためには、PT の身体機能的評価の専門性を研鑽していくことが欠かせないと実
感している。
人工膝関節単顆置換術後に Stiff-knee gait を呈した症例
○鎌村 篤志 1)・寺野
誠 1)・山田 英司 2)・伊藤 康弘3)
1)医療法人静可会 三加茂田中病院
2)総合病院回生病院 関節外科センター
3)香川大学医学部附属病院
【はじめに】
Stiff-knee gait は脳血管障害による片麻痺や脳性麻痺に認められる歩行様式であるが、疼痛を伴う膝関節疾患や
膝関節術後急性期にも同様の歩行様式が認められることがある。Stiff-knee gait では、立脚中期と立脚終期から遊
脚前期において膝関節屈曲角度の減少と遅延が起こり、効率的な歩行様式を獲得するうえで早期の改善が必要で
あるとされている。今回、人工膝関節単顆置換術(以下、UKA)後に Stiff-knee gait を呈した症例を経験したの
で報告する。
【対象及び方法】
対象は、変形性膝関節症(以下、膝 OA)により右 UKA を施行された 70 歳代女性であった。対象者には症例
報告に関する趣旨と目的を説明し同意を得た。術後 4 週目に当院に転院され理学療法を開始した。歩行は立脚中
期から遊脚前期における股関節伸展、Double knee action がみられず Stiff-knee gait を呈し、足関節底屈による前
方への推進力が低下していた。関節可動域(以下、ROM)は右股関節伸展 5°、右膝関節屈曲 130°、伸展-5°、右
足関節背屈 10°、徒手筋力テスト(以下、MMT)右膝関節伸展 4、右足関節底屈 2、OverTest 陽性、ElyTest 陽
性、10m歩行(自由歩行)20 歩、11.6 秒(最大歩行)18 歩、8.1 秒であった。治療プログラムは、大腿直筋、大
腿筋膜張筋のリラクセーション、ストレッチを行い股関節伸展 ROM を拡大し、歩行時における前足部への荷重
を獲得するため平行棒内で両足関節底屈運動を開始し、片脚立位での底屈運動へ進めていった。また、外反母趾
により、母趾球、小趾球への荷重が困難であったため、アーチ機能を高める目的で足趾の伸展、外転運動を行っ
た。片脚立位での底屈運動が可能となった時点で、健側を一歩踏み出した状態で歩行時のフォアフットロッカー
の動きを促した。
【結果】
股関節 ROM 伸展 15°、足関節底屈 MMT3、OverTest、ElyTest ともに陰性となり、10m 歩行(自由歩行)15
歩、8.6 秒(最大歩行)15 歩、6.4 秒となった。歩行において股関節伸展、Double knee action がみられるように
なり Stiff-knee gait が改善した。
【考察】
Stiff-knee gait は、膝 OA 術前から起こり、術後も残存し、大腿直筋の過剰活動に起因しているといわれてい
る。本症例における Stiff-knee gait 発生の要因として、大腿直筋、大腿筋膜張筋の筋緊張亢進・短縮による股関節
伸展制限、足関節底屈の低下によるによるものと考えられた。
【まとめ】
今回、Stiff-knee gait を呈した症例において歩様の改善に着目し理学療法を行った。Stiff-knee gait では術後も
長期的に残存し、歩行におけるエネルギー効率に悪影響を与えるといわれており、早期より理学療法を介入が必
要であると考えられた。
ギランバレー症候群に対し、ロボットスーツ HAL®福祉用を使用した一症例
~下肢の運動機能向上を目指して~
○湯浅 雅史(PT)1)・池村 健(PT)1)・日野 千尋(PT)1)
安次富 満秋(PT)1)・大寺 誠(PT)1)・矢和田 祐輔 (PT)1)
元木 由美(Dr)1)・武久 洋三(Dr)1)・宮本 信行 2)
1)医療法人 平成博愛会 博愛記念病院
2)CYBERDYNE 株式会社 営業部
【はじめに】
近年、ロボット支援によるリハビリテーション(以下リハビリ)が注目されつつある。平成 25 年 6 月より、当
院では身体動作支援用ロボットスーツ HALⓇ福祉用(以下 HALⓇ)CYBERDYNE 社製を導入した。HALⓇは運動時の筋活
動電位及び足底の荷重分布、関節の角度情報を基に各関節のモーターを駆動することで下肢の動きをアシストす
る動作支援機器である。今回、ギランバレー症候群(以下 GBS)を発症し、5 ヶ月を経過した症例に対し HALⓇを
使用したので、現在に至るまでの回復過程を報告する。
【症例紹介】
年齢:40 歳代 性別:女性 診断名:GBS 自立度:C2 認知度:Ⅰ
経過:急性期病院にて、GBS と診断。入院直後から、人工呼吸器装着、気管切開術を施行。治療により人工呼吸器
を離脱後、意思疎通、経口摂取が可能となったが、運動麻痺の改善はみられなかった。発症から 5 ヶ月後、当院
へ転院。上下肢の筋力は、MMT2 レベル。Yes―No 判断は可能であるが、感覚検査は精査困難であった。日常生活
動作(以下 ADL)は全介助レベル。FIM は 45 点、BI は 0 点であった。
【説明と同意】
対象者には HALⓇ使用に対しての趣旨、内容及び結果の取り扱いに関して十分に説明を行い、紙面にて同意を得
て実施した。
【方法】
入院当初は、HALⓇを 1 ヶ月に 1 回の頻度で実施し、入院 2 ヶ月目からは、週 1 回の頻度で実施した。HALⓇ以外
のリハビリプログラムは、HALⓇの情報を基にして装具療法や電気療法を中心に実施した。HALⓇでの立位・歩行訓
練時には免荷機能付歩行器を併用して実施している。
【結果】
HALⓇの初回開始時は、アシストレベル(4 段階)
、調整レベル(10 段階)
、共に最大レベルで実施したが、筋出
力の改善に伴い、徐々にアシスト調整レベルを下げることが可能となった。使用開始から 3 か月後には、アシス
トレベルは 4 段階中の 2 段階へ、調整レベルは 10 段階中の 3 段階へと改善が認められた。また、歩行訓練時の
歩容も改善し、ADL では FIM は 66 点、BI は 40 点へと改善している。
【考察】
GBS は、発症後、約 6 ヶ月程度で症状の軽快、完治に至る機序を 8 割がたどると言われている。発症後、約5
ヶ月経過した重症例への HALⓇの使用を行うことで HAL の特性である、脳・神経系との双方的なバイオフィードバ
ックの構成、リアルタイムの促通効果、視覚的なフィードバックにより、症例自身の運動感覚の賦活、体幹、下
肢筋群への運動単位の増加に至り、動作の改善、獲得に至っていると考えられる。また、モニター情報によりリ
ハビリ内容を再構築する事も容易となり、緩徐である回復過程の向上を担っていると考えられる。
一般演題発表
『セッション3』
座長 橋本病院 水田
隼
超音波診断装置を用いた長軸・短軸画像における腹横筋筋厚値測定の検者内信頼性
○西本 篤史 1)・後藤
強 2)・古本 太希 2) ・出口 憲市 2)
井関 博文 1) ・日浅 匡彦 1)・加藤 真介 2)
1)中洲八木病院 リハビリテーション室
2)徳島大学病院 リハビリテーション部
【はじめに】
腹横筋の評価手段として超音波診断装置による筋厚値測定が多く用いられており,高い信頼性も報告されてい
る.しかし,腹横筋を捉えるにあたり,プローブの軸方向の違いによる筋厚値の変化により,再現性が得られず
測定誤差が生じる可能性が示唆されるが,軸方向の違いによる検討はほとんどない.そこで,本研究では先行研
究にて多く用いられている,2 条件の測定位置において,長軸・短軸画像の腹横筋筋厚値から検者内信頼性を算
出し,それぞれの信頼性を検討することを目的とした.
【対象及び方法】
対象者は,本研究の主旨および方法について十分に説明し,承諾を得た健常成人男性 10 名 (年齢 22.9±2.7 歳,
身長 173.5±4.2cm,体重 62.1±9.1kg,BMI20.3±2.0kg/m2) であり,筋厚値測定には,超音波診断装置 (HITACHI
Noblus) のリニアプローブ 8MHz を用いた.また,呼吸による筋厚値変化を考慮し,動画保存にて安静終末呼気
時の腹横筋筋厚値を測定した.測定位置は前腋窩線 (AAL) 条件は床と平行な前腋窩線上,腸骨稜 (IC)条件では
上前腸骨棘と上後腸骨棘間の上前腸骨棘側 1/3 点を通る床と平行な直線上とし,両条件ともに腸骨稜と肋骨下縁
間 1/2 の位置とした.
各条件において長軸・短軸画像における腹横筋筋厚値を同一検者が同日に連続 3 回測定し,
検者内信頼性の検討に級内相関係数 (ICC) を用い算出した.
【結果】
腹横筋筋厚の実測値は,長軸画像でそれぞれ AAL 条件 (1 回目:2.6±0.6mm,2 回目:2.7±0.5mm,3 回目:
2.6±0.6mm),
IC 条件 (2.6±0.8mm,
2.6±0.9mm,
2.5±0.8mm) であり,
短軸画像でそれぞれ AAL 条件 (2.6±0.8mm,
2.6±0.6mm, 2.6±0.7mm),IC 条件 (2.6±0.9mm, 2.6±0.9mm, 2.6±0.9mm) であった.また,各条件における
検者内信頼性については,長軸画像で AAL 条件 ICC=0.90,IC 条件 ICC=0.90 であり,短軸画像で AAL 条件 ICC
=0.96,IC 条件 ICC=0.94 となり,各条件とも高い信頼性を示した.
【考察】
今回の研究結果より,AAL 条件および IC 条件の長軸・短軸画像における腹横筋筋厚値測定は,両条件とも筋
厚値に大きな差はなく高い信頼性が得られた.その要因として,両条件ともに腹横筋中部線維を捉えており,こ
れは内・外腹斜筋中部線維が斜方向であるのに対し,横断的配列をしているため,長軸・短軸画像において比較
的容易に筋膜間の同定が可能だったためと考える.今回の研究により,長軸・短軸画像における腹横筋筋厚値測
定は信頼性が得られたが,それぞれの超音波画像に違いがあるため,今後は用途に応じて軸方向を選択する為の
更なる研究が必要であると考えられる.
【まとめ】
超音波診断装置を用いた腹横筋筋厚値測定において,先行研究にて多く用いられている測定位置での長軸・短
軸画像の腹横筋筋厚値を同日に 3 回測定し検者内信頼性を算出した結果,それぞれ高い信頼性が得られた.
超音波による下肢固定位での大腿筋厚測定法の日間信頼性
-急性期リハビリテーションにおける大腿筋厚測定法の第1報○古本 太希 1)・西本 篤史 2)・後藤
強 1)・出口 憲市 1)・大澤 俊文 1)・佐藤
紀(MD) 1)・江西 哲
也(MD) 1)鈴江 直人(MD) 3)・加藤 真介(MD) 1)
1)徳島大学病院 リハビリテーション部
2)中洲八木病院 リハビリテーション部
3)徳島大学病院 整形外科
【はじめに】
超音波による大腿筋厚測定は高い再現性および MRI での測定値とも高い相関関係があることが報告されている.
しかし,急性期リハビリテーション(リハビリ)における意識レベルの低下例などでは,測定肢位の再現性が困難で
あり,日間での信頼性も明らかではない.そこで本研究では,長谷川法 (H) 条件および下肢固定法 (LC) 条件によ
る大腿筋厚値から日間信頼性を算出し,急性期リハビリにおける下肢固定法の妥当性を明らかにすることを目的
とした.
【対象者及び方法】
対象者は,職員および学生 10 名 (年齢 21.3±1.4 歳,BMI19.6±1.6) とした.超音波診断装置(HITACHI Noblus)にて
8MHz のプローブを使用し,同一検者が安静背臥位にて大腿直筋および中間広筋(大腿筋厚)を同日に連続 3 回測定
し,その平均値を算出した.また初回測定から 1 週間の間隔で再測定を実施し,H 条件および LC 条件では,それぞれ
上前腸骨棘~膝蓋骨上縁を結んだ線上 50%を測定位置としており,LC 条件では足関節固定装具を用いて下肢を固
定した.測定肢位は,H 条件では口頭にて股関節軽度外旋位で下肢を脱力するように指示を与え,LC 条件では股関
節中間位とした.また,各画像において皮下脂肪組織と大腿骨との境界までの距離を計測し,その値を大腿筋厚とし
た.なお, ,筋厚値に影響を及ぼす因子として身体活動量の変化を IPAQ short version にて調査し,日間信頼性の検討
には,級内相関係数 ICC (1,3) を用いて算出した. 対象者には,実験趣旨および方法について十分に説明し,承諾
を得た上で実験を行った.
【結果】
初回測定時の実測値は,H 条件 (39.4±7.7mm),LC 条件 (36.3±7.0mm) であり,1 週間後の実測値は H 条件
(39.4±7.3mm),LC 条件 (36.9±6.9mm)であった.また,各条件における日間信頼性については,長谷川法 ICC=0.97,下
肢固定法 ICC=0.98 であり,2 条件ともに高い信頼性を示した.
【考察】
本研究の結果より,LC 条件は H 条件と比較し,同日内での再現性が高く標準偏差も低値であり,また ICC に関して
は両条件ともに高い信頼性を得ることができた.これは測定部位を同様としたことで,大腿筋厚の同定が容易に可
能であり,下肢固定を実施したことでプローブの当てる圧力および角度の再現性が高くなったと考えられる. しか
し,各条件の実測値の違いについては,LC 条件での大腿筋厚値において股関節中間位での測定により股関節軽度外
旋位と比較し,重力の影響により大腿筋厚が変化したと考えられる. また,H 条件では,意識レベル低下および疼痛
による姿勢保持が困難である症例では,股関節角度の再現性が得られず,測定誤差が生じる可能性がある.一方,LC
条件では足関節固定装具により測定部位および測定肢位の再現性を高めることで,測定誤差が生じる可能性が低
くなる.そのために,下肢固定法は急性期リハビリ現場での大腿筋厚測定法としての可能性が示唆された.
【まとめ】
超音波による下肢固定位での大腿筋厚測定法は,急性期リハビリにおける廃用性筋萎縮の評価方法としての妥当
性が高いことが示唆された.
慢性疼痛を呈する腰部脊椎疾患患者の外来リハビリ期間と破局的思考、不安・抑うつ
自己効力感、疼痛、QOL との関連
○三木 裕介
医療法人 きたじま倚山会 きたじま田岡病院 リハビリテーション科
【はじめに、目的】
現在、当院では外来リハビリテーション(以下外来リハ)で慢性疼痛を呈する腰部脊椎疾患の患者様に関わる機
会が多い。Engel や松原らによると、慢性疼痛は生物心理社会的モデル、多面的評価で捉えるべきであると言わ
れている。臨床場面で患者様の訴えとしては、ネガティブな発言、疼痛に対する不安と抑うつ、他者依存傾向の
考え、生活上での不満を聞くことが多い。患者様は生物学的要因に加えて、心理社会的要因が加わることで症状
を持続・悪化していると考える。
そこで今回、長期間外来リハに通われている患者様の傾向を明らかにすることを目的とし、患者様の心理面、自
己効力感、疼痛の程度、QOL が外来リハ実施期間にどのように関連しているかを調査した為、以下に報告す
る。
【対象、方法】
対象は当院外来リハ通院中の慢性疼痛を呈する腰部脊椎疾患患者 20 名(男性 9 名、女性 11 名
、平均年齢 71.2±12.3 歳)である。疾患内訳は、腰部脊柱管狭窄症 6 名・腰椎椎間板ヘルニア 4 名・腰椎椎間板
症 3 名・変形性腰椎症 3 名・腰椎圧迫骨折 2 名・腰椎変性すべり症 1 名・変形性脊椎症 1 名である。除外基準は
腰部脊椎疾患以外に著名な合併症を有している者、脊椎疾患の手術の既往がある者、認知症があり質問形式評価
法の理解が困難な者とした。評価項目は、外来リハ実施期間(外来リハ開始日から質問形式評価実施日までの期
間)
、心理面の評価は破局的思考(以下 PCS)の合計点・下位項目の反芻・無力感・拡大視、不安と抑うつは
(以下 HADS)の合計点・不安・抑うつ、自己効力感は(以下 PSEQ)、疼痛の程度は(以下 VAS)、QOL は
(以下 RDQ)である。統計解析は外来リハ実施期間と PCS 合計点、PCS 下位項目、HADS 合計点、HADS の
不安・抑うつ、PSEQ、VAS、RDQ をスピアマンの順位相関係数を用い、有意水準は 5%とした。対象者には、
ヘルシンキ宣言に基づき本研究の主旨を十分に説明し書面にて同意を得た上で研究を実施した。
【結果】
外来リハ実施期間と PCS 合計点に(ρ=0.465、p<0.05)
、外来リハ実施期間と反芻に(ρ=0.459、p<0.05)相関を
認めた。その他の項目に相関は認められなかった。
【考察】
本研究結果より PCS 合計点と反芻が高い患者様程、外来リハ実施期間が長い傾向であることが示唆された。反芻
とは痛みのことが頭から離れない状態であり、反芻が高いことで恐怖心が生じ、受動的になることで外来リハ実
施期間が長くなると考える。その為、リハビリとして生物学的要因に加えて、心理社会的要因を考慮しながら患
者様の反芻を軽減させる必要があると考える。今回の研究は、症例数が少なく外来リハ実施期間と各評価項目と
の関連性を確認した程度であり、今後の課題として症例数を増やして継続的に各評価項目との関連性を調査する
ことで長期間外来リハに来られる患者様の要因を詳細に示すことである。
長期療養高齢患者の運動機能が栄養状態に与える影響
○矢野 広宣1)2)・松尾 善美2)3)・柳澤 幸夫4)・直江
貢1)・國友 一史5)
1)医療法人久仁会鳴門山上病院診療協力部 リハビリテーション部門
2)武庫川女子大学 大学院健康・スポーツ科学研究科
3)武庫川女子大学 大学院健康・スポーツ科学部
4)徳島文理大学 保健福祉学部理学療法学科
5)医療法人久仁会鳴門山上病院診療部
【はじめに】
長期療養高齢患者は,異化亢進状態により身体活動量や食事摂取量が減少した結果,タンパク・エネルギー低
栄養状態に陥っていることが多く,さらに骨格筋量や脂肪量が減少し,血清アルブミン値(Alb)も低下傾向にあ
るとされる.そこで,今回,栄養サポートチーム(NST)が介入した長期療養高齢患者の運動機能が,総合的な
栄養指標として用いられている Geriatric Nutritional Risk Index(GNRI)に与える影響について検討したので報
告する.
【対象及び方法】
2011 年 11 月からの1年間に当院介護保険療養病棟において加療し,NST が介入した経口摂取可能な 43 名(男
性 13 名・女性 30 名,年齢 85±6.5 歳)を対象とした.
方法は,カルテ記載内容より身長,体重,BMI,Alb,ADL の運動機能(M-FIM)
,認知機能(C-FIM)を後方
視的に抽出し,Alb と体重を用いて GNRI を算出した.また,M-FIM は中央値 23 点以上の群(M-FIM 上位群)
と未満の群(M-FIM 下位群)に分類し,群間比較のため,対応のないt検定を用いた.本研究は当法人の倫理規
定に従い実施した.
【結果】
M-FIM 上位群,
下位群のGNRI は各々89.4±8.6,
79.6±9.5,
Alb(g/dl)
は3.5±0.4,
3.0±0.5,
BMI は20.8±3.8,18.3±3.0
であり,GNRI,Alb,BMI は M-FIM 下位群より上位群で有意に高値であった(p<0.05)が,体重と C-FIM に
は有意差がなかった.また,M-FIM 上位群,下位群と GNRI 重症度リスク分類の関連性には有意な偏りがあっ
た(p<0.05).さらに,栄養リスクを予測する GNRI のカットオフ値は 86.0 であった(感度 0.619, 特異度 0.727,
AUC0.777).
【考察】
M-FIM の群間比較により,GNRI,Alb,BMI に有意差がみられたのは,長期間に及ぶ異化亢進状態が,栄
養状態を増悪させ,運動機能と栄養状態にバランスの崩れを招来した結果,心身生活機能を維持・改善させる事
が困難であったと推察する.また,M-FIM スコアと GNRI 重症度リスク分類の関連性については,M-FIM
上位群では栄養障害が軽度であるため,適切な栄養管理下での機能改善を行う事が必要となる.一方,M-FIM
下位群では重度から中等度の栄養障害を認めたため,機能維持もしくは栄養改善を優先することをリハビリテー
ション・ケア(リハ・ケア)の目標に設定する必要があり,今回求めた新たな GNRI カットオフ値 86.0 はバイ
タルサインの 1 指標として有用となる可能性がある.
【まとめ】
長期療養高齢患者の運動機能を維持・向上させるためには,総合的な栄養指標と最適な運動負荷量の設定を行
い,NST を含めた多職種間での包括的なリハ・ケアを展開することが重要である.
一般演題発表
『セッション4』
座長 鳴門山上病院 佐川 英理
自動的な静的ストレッチングの頻度の違いが柔軟性改善に及ぼす影響
○大泉
湧 1)・鶯
春夫 1)
1) 徳島文理大学 保健福祉学部 理学療法学科
【はじめに】
自動的な静的ストレッチング(以下,ストレッチング)は柔軟性改善等の目的で多用され,研究も行われてい
る.しかし,ストレッチングの頻度による効果を検討した報告は比較的少ない.本研究の目的はストレッチング
の頻度の違いによる柔軟性改善の影響を検討することである.
【対象及び方法】
整形外科疾患が無く日常的にスポーツ活動を行っていない本学理学療法学科学生 77 名(男性 51 名,女性 26
名)を対象とした.そして,ストレッチングを毎日行う群(以下,毎日群)
,1 日おきに行う群(以下,1 日おき
群)
,行わない群(以下,非実施群)の 3 群にランダムに振り分け,ハムストリングス(長座位にて)と腓腹筋(立
位にて)に対するストレッチングを行わせた.なお,全ての対象者に対して,研究目的と内容の説明を十分に行
い,書面による同意を得た.
ストレッチングは 1 回 2 分間で,1 日 3 回,計 4 週間継続させた.筋の伸張度は 5 段階評価の自覚的伸張度(非
常にきつい・きつい・ややきつい・楽・非常に楽)を用い,
「ややきつい」程度とした.実施前と実施後 1 週ごと
にデジタル長座体前屈計(竹井機器工業社製)を用いて長座体前屈距離を測定した.なお,測定時にはストレッ
チング実施表を提出させ,実施状況を確認した.
ストレッチングや測定を実施できなかった 6 名を除く毎日群 24 名,1 日おき群 24 名,非実施群 23 名の 3 群
の各測定値と時系列変化の2要因について比較検討を行うため,二元配置分散分析を行い,有意差が認められた
部分においては多重比較を行った.有意水準は 5%未満とした.
【結果】
毎日群,1日おき群,非実施群の各測定値と時系列変化には交互作用を認め,毎日群と1日おき群では介入前
と比較して,1週後からすべての週において有意な柔軟性の改善を認めた.しかし,毎日群と 1 日おき群の間に
はすべての週において有意な差を認めなかった.
さらに,1週間ごとの改善度をみた場合,毎日群では介入前と1週後,2 週後と 3 週後の間に有意な改善を認
めたものの,1 日おき群では介入前と 1 週後の間に有意な改善を認めたのみであった.
【考察】
今回の結果から,ストレッチングは毎日行わなくても 1 日おきに行えば介入前と比べて 1 週後には有意に柔軟
性が改善することが考えられた。しかし,1 日おき群では介入 1 週後以降から翌週との間では有意な改善を認め
ていないため,本研究で設定した 4 週間を超える期間で実施した場合には異なる結果が起こる可能性が示唆され
た.
【まとめ】
健常成人を対象にストレッチングの頻度により柔軟性の改善度に違いがあるかどうかについて長座体前屈距離
を測定し検討した.毎日群と 1 日おき群ではともに介入前と比較し,1 週後には有意な柔軟性の改善を認めた.
しかし,1 日おき群では介入1週後以降から翌週との間では有意な改善を認めなかった。
歩行能力と脊柱後弯,筋力について
○高橋 真也
阿南共栄病院 リハビリテーション科
【はじめに】
高齢に伴い転倒後に大腿骨頚部骨折や圧迫骨折を呈される方は多く,加齢による脊柱後弯姿勢への変化や筋力
が低下してくることも多い。結果,歩行能力が低下する恐れもある。本研究は,歩行能力の低下がある者とない
者に分け,歩行と脊柱後弯度合,筋力の関係を明らかにすることを目的とした。
【対象及び方法】
対象は,大腿骨頚部骨折術後者(術後)10 名(男 1 名,女 9 名)及び圧迫骨折者 11 名(男 1 名,女 10 名)で
あった。受傷前の歩行能力と評価時の歩行能力の差がない者(歩行能力低下なし)と歩行能力低下ありに分けた。
歩行能力低下なしの術後 6 名,圧迫骨折者 7 名で,歩行能力低下ありの術後 4 名,圧迫骨折者 4 名であった。そ
れぞれ歩行能力低下なしの平均年齢は,74±9.9 歳,歩行能力低下ありは,85±5.9 歳,平均身長は,149±8.1cm,
146.7±9.5cm,平均体重は,51.2±9.4kg,51.7±11.6kg,発症日より 26.1±13 日,25±13.8 日の経過している方であっ
た。全対象者に,研究の趣旨と内容を十分に説明し,同意を得た後に本研究を開始した。方法は,対象者にマー
カーを肩峰,大転子,大腿骨外側上顆,外果に貼付し,10M 歩行を自由速度で計測し,その間 5M 程度で,三脚
に立てたカメラ(カシオ)にて歩行を録画,PC に取り込み,動作解析ソフト ICPro(ヒューテック社)を用いて
歩行時の股関節最大伸展 ROM 及び最大屈曲 ROM を計測した。円背指数は、立位で,マーカーを第 7 頸椎と第
4 腰椎棘突起に貼付し,矢状面からカメラで撮影,PC 上で,第 7 頸椎と第 4 腰椎を結ぶ直線 L(cm)
,直線 L か
ら弯曲の頂点までの距離を H(cm)とし,Milne らの式を用い,その割合を(H/L×100)として算出した。筋力
は,マイクロ FET2(HOGGAN)を使用し,仰臥位にて股関節伸展筋力,端座位で膝関節伸展筋力をそれぞれ体
重で補正した。各計測を 2 回行い,最大値を採用した。統計処理は,JSTAT を用いて Mann-Whitney の U 検定
で,有意水準を 0.01 以下とした。
【結果】
歩行能力低下なしと歩行能力低下ありの P 値は,円背指数は,P=0.9155,歩行速度は,P=0.0034(有意差あ
り)
,歩行健側股関節最大伸展 ROM は,P=0.0013(有意差あり)
,歩行患側股関節最大伸展 ROM は,P=0.004
(有意差あり)
,歩行健側股関節最大屈曲 ROM は,P=0.0159,歩行患側股関節最大 ROM は,P=0.0168,健側
股関節伸展筋力/体重は,P=0.0446,患側股関節伸展筋力/体重は,0.0246,健側膝関節伸展筋力/体重は,P=
0.4137,患側膝関節伸展筋力/体重は,P=0.0045(有意差あり)であった。
【考察】
歩行能力と脊柱後弯姿勢には影響はなく,脊柱の後弯のみが体幹機能を反映しているわけではない。歩行能力
低下なしの股関節最大伸展 ROM は大きく,股関節最大屈曲 ROM の有意差はない。最大伸展 ROM は歩行能力
に影響され,股関節最大屈曲 ROM は,体幹の前傾も加わっており,それらの総和で高値となってしまう。筋力
については,患側膝関節伸展筋力のみに有意差があり,膝伸展筋力と歩行の関係を表している。
一過性の抵抗性運動後の静的ストレッチングが動脈スティフネスに与える影響
○ 石川みづき 1)・三浦
哉 2)・田村 靖明 1)・橋本 祐司 1)・松本 真巳 1)
1)鴨島病院 リハビリテーション部
2)徳島大学大学院 SAS 研究部
【はじめに】
高強度の筋力トレーニングで代表される抵抗性運動は,動脈スティフネスの指標として用いられる脈波伝播速
度の増加を招くことが報告されている.一方,ストレッチングなどの運動は柔軟性の改善と同時に動脈機能の維
持・改善に貢献することが明らかになっている.したがって,抵抗性運動とストレッチングを組み合わせること
で,運動後の脈波伝播速度の増加を抑制するのではないかと推察されるが,この点については十分に検討されて
いない.そこで本研究では一過性の高強度の抵抗性運動後のストレッチングが動脈スティフネスに及ぼす影響に
ついて検討した.
【対象及び方法】
被検者は,健康な成人男性 11 名 (年齢 30.1±4.5 歳) であり,15 分間の仰臥位安静後,1RM の 80%の強度で 8
種目の抵抗性運動 (マルチバイセプス,レッグカールなど) をそれぞれ 10 回,3 セット実施させた.その後,1 部
位 30 秒間のセルフストレッチング (15 部位の上下肢および体幹の屈筋群,伸筋群) を実施する ST 条件および抵
抗性運動後にストレッチングと同一時間,同じ姿勢を保持するコントロール (C) 条件を 3 日以上の間隔をあけ
て,それぞれ実施させた.測定の際には,血圧脈波検査装置を用いて,仰臥位安静後,ストレッチング/同一姿勢
直後,30 分後および 60 分後に,上腕収縮期血圧,拡張期血圧および上腕~足関節間脈波伝播速度 (baPWV) な
どをそれぞれ測定した.
【結果】
仰臥位安静後,ストレッチング/同一姿勢直後,30 分後および 60 分後の baPWV は,ST 条件でそれぞれ
1230.1±130.6 cm・sec−1,1312.1±182.1 cm・sec−1,1206.4±146.2 cm・sec−1,1238.3±158.3 cm・sec−1,C 条件でそれぞ
れ 1224.8±139.9 cm・sec−1,1209.3±181.7 cm・sec−1,1198.0±162.8 cm・sec−1,1243.3±158.6 cm・sec−1であり,両条
件間に有意な差は認められなかった.また,同様に収縮期血圧,拡張期血圧についても両条件間に有意な差は認
められなかった.
【考察】
本研究では抵抗性運動後のストレッチングが脈波伝播速度の増加を抑制すると仮説を立てたが,ストレッチン
グを実施した ST 条件と実施しなかった C 条件との間には有意な差は認められなかった.ST 条件で脈波伝播速度
の低下がみられなかった原因として,セルフストレッチングにより目的筋以外に等尺性収縮が生じ,交感神経活
動の亢進による血管平滑筋収縮,血管抵抗の増加から shear stress による血管拡張作用を持つ一酸化窒素 (NO)
の分泌を阻害したことが考えられる.また,本研究で実施した高強度の抵抗性運動が活性酸素過剰状態,酸化ス
トレスを亢進させ,血管内皮での活性酸素種と NO を含む抗酸化物質のバランスが崩れ,NO の産生と不活性化
を招いたこと,さらに中心動脈圧の急激な上昇により,血管平滑筋や動脈壁の張力を支えるコラーゲンなどに影
響を及ぼしたことが原因と考えられる.
【まとめ】
一過性の抵抗性運動後のストレッチングが動脈スティフネスに及ぼす影響について検討した.その結果,本研
究で実施したストレッチングでは,抵抗性運動後の脈波伝播速度の変化に影響を及ぼさないことが示唆された.
ラダートレーニングにおける難易度設定の検討
○山下 陽輔1)・田野
聡1)・高岡 克宜1)
田岡 祐二1)(MD)
・鶯
春夫2)
1)橋本病院リハビリテーション部
2)徳島文理大学 保健福祉学部 理学療法学科
【目的】平成 22 年度の国民生活基礎調査によると,高齢者が要支援,要介護に至る要因の第 4 位は転倒による骨
折で約 1 割を占めるという結果が出ている.加齢による敏捷性の低下が転倒の原因の一つとして考えられるが,
敏捷性はトレーニングによって向上が見込めることが報告されている.SAQ トレーニングはその代表的なトレー
ニングであり,速さを Speed,Agility,Quickness という構成要素に分けて考案された.その中でも敏捷性の向
上を狙って最も多く活用されるのがラダートレーニング(以下,ラダー)である.ラダーは梯子状の器具を地面
に敷き,1 つの升を 1 歩ずつ順次進んでいくステップから,サイドステップやバックステップを取り入れたり,
身体の捻りを加えたりするものなどパフォーマンスの必要性に応じて様々なバリエーションが活用されている.
そこで今回は,ラダーを高齢者の転倒予防プログラムとして用いるために,ステップ難易度の設定について検討
することを目的とした.
【対象及び方法】対象は,下肢に器質的疾患のない健常成人男性 17 名(平均身長:171.6±5.3 ㎝,平均体重:
66.5±6.7 ㎏,平均 BMI:22.6±1.6 ㎏/m2,平均年齢:31.2±5.9 歳)とした.ステップ課題は日本 SAQ 協会編
SAQ トレーニングよりベーシックステップからジャンプ系ステップを除く 10 種目,ステップ 1(クイックラン)
,
ステップ 2(ラテラルクイックラン)
,ステップ 3(サイドラテラルラン)
,ステップ 4(カリオカ)
,ステップ 5
(パラレル)
,ステップ 6(シャッフル)
,ステップ 7(1 イン 2 アウト)
,ステップ 8(サイド 1 イン 2 アウト)
,
ステップ 9(サイド 2 イン 1 アウト)
,ステップ 10(バック 1 イン 2 アウト)を選択して実施した.ラダーは IGNIO
トレーニングラダー8mを使用し,各ステップ課題を正しく遂行できるまで繰り返させた.そして,正しく課題を
遂行できた回数を成功回数とした.なお,実施前には映像を見せてステップを確認させた他,2 回連続でエラー
した場合には再度,映像を確認させた.そして,統計学的解析は各ステップ課題の成功回数(中央値)を KruskalWallis 検定を用いて検討し,有意差が認められた場合には多重比較検定を行い,全ての有意水準は 5%未満とし
た.
【説明と同意】対象者に対して研究主旨について十分な説明をし,同意を得た後に実施した.
【結果】各ステップ課題の比較において,ステップ 4 に対してステップ 7,9 が,ステップ 10 に対してステップ
7,9 が有意に高値を示した.また,各ステップ課題の中央値は,ステップ 4 は 3(1-11)回,ステップ 5 は 4(19)回,ステップ 6 は 3(1-17)回,ステップ 7 は 7(2-11)回,ステップ 8 は 3(1-20)回,ステップ 9 は 5(120)回,ステップ 10 は 3(1-11)回であった.
【考察】ベーシックステップの中でも,特にステップ 7 のように身体を捻る動作や,ステップ 9 のように横方向
への複雑なステップ課題での成功回数の増大が認められた.健常成人でも普段は身体を捻ったり,サイドステッ
プを行う機会は少なく日常の活動では行わないパターンが,
成功回数を増大させた要因であると考えた.
しかし,
姿勢が変化した複雑なステップであっても,同じステップを経験したことが成功回数に影響を及ぼしている可能
性があることから,ステップ経験をさせることが難易度の設定に寄与することが示唆された.今後は,対象者数
を増やすことや女性対象者,高齢者によって成功回数がどのように変化していくのかを検討していく必要がある
と考える.
踵上げ動作時の運動戦略についての検討
○澁谷 光敬 1)・平島 賢一 2)・田野
松村 幸治(OT)1)・鶯
聡 1) ・高岡 克宜 1)
春夫 2) ・田岡 祐二(MD)1)
1)橋本病院 リハビリテーション部
2)徳島文理大学 保健福祉学部 理学療法学科
【はじめに】
一般に足関節底屈筋は,歩行時の前方推進力に寄与する役割として,臨床的にも介入頻度の高い筋であり,底屈
筋エクササイズとして踵上げ動作を実施することがある.石田(2011)らは立位にて足関節底屈位を保持させた
場合,荷重位置を意識的に変化させることで,母趾球荷重に比べ小趾球荷重では筋活動量が少なくても可能なこ
とを報告している.しかし,無意識的な底屈位保持時の荷重位置はどちらを優位に選択しやすいのかといった部
分は明らかではない.そこで本研究では,意識せずに踵上げ動作を行った際の荷重位置を調査した.加えて,意
識的に荷重位置を選択させた場合には、母趾球・小趾球荷重のどちらが安定するのかについても比較したので報
告する.
【対象及び方法】
対象は,健常成人 26 名(性別:男性 14 名,女性 12 名,平均年齢 20.6±0.6 歳,平均身長 165.3±8.6cm,平均
体重 56.2±8.9kg)とし,Zebris 社製重心動揺計(PDM-S)を用いて,10 秒間の踵上げ保持の足圧中心の解析を
行った.足部の位置は左右の第 2 足趾先端間の距離を 20cm とし,両足部の向きが平行となるよう設定した.踵
上げ動作は,荷重位置を意識しない踵上げ(自然条件)
,母趾球荷重を意識させた踵上げ(母趾球条件)
,小趾球
荷重を意識させた踵上げ(小趾球条件)の 3 条件を各 1 回ずつ試行した.順序はまず自然条件を行った後,母趾
球条件・小趾球条件をランダムに試行し,それぞれの条件での荷重位置,軌跡面積を比較した.動作時は画面上
に表示される足圧中心を視覚的に確認させ,可能な限り正中軸で留まるように指示した.
統計学的解析は母趾球条件,小趾球条件の 2 群において,対応のない t 検定を行った.有意水準は 5%未満と
した.
【説明と同意】全ての対象者に,事前に本研究の主旨を説明し同意を得た.
【結果】
自然条件において,荷重位置は第 3 足趾 15 名,第 2 足趾 10 名,母趾 1 名と足底内側寄りに荷重位置をとる傾向
にあった.これに対し,母趾球条件では荷重位置は第 2 足趾 19 名,母趾 5 名,第 3 足趾 2 名,軌跡面積は 764.2
±216.3 ㎟,小趾球条件では荷重位置は第 4 足趾 16 名,第 3 足趾 10 名,軌跡面積は 632.7±176.4 ㎟となった.
軌跡面積は母趾球条件が小趾球条件に比べ有意に高値を示した(p<0.05).
【考察】
結果より,自然に踵上げを行った際には足底内側寄りに荷重位置をとる傾向にあった.しかし,安定性を求めた
本研究課題において,意識的に荷重位置を選択させた場合には,小趾球条件の方が動揺が小さく,無意識的に選
択している運動戦略が,必ずしも優れたパフォーマンスを発揮するとは限らない可能性が示唆された.母趾球荷
重での底屈位保持は小趾球荷重に比して筋活動が多く必要であることから,
動揺が大きくなったことが考えられ,
今後は筋活動との関連ついての検討を行う必要がある.
会場案内
徳島健祥会福祉専門学校 〒779-3105 徳島県徳島市国府町東高輪
受
付:徳島健祥会福祉専門学校 本館 1F
第1会場:本館 3 階(大講義室)
第2会場:本館 2 階(レクリエーション室)