こちら

「ADR を担う人材育成に関する研究会」による
試行プログラム
教材集
平成 15 年
独立行政法人経済産業研究所
ADR ポリシープラットフォーム
「ADR を担う人材育成に関する研究会」による試行プログラムの概要
日程
No
大項目
第1日目
11月15日
(土曜)
午後1時から
6時
経済産業研究
所 1121 会議室
(経済産業省
別館 11 階)
1
当プログラムの
全体像と射程
2
海外の実情報告
と用語の説明
30
3
対話による自律
的解決
45
4
聴くことの意味
とその技法
150
第2日目
11月29日
(土曜)
午後1時から
6時
経済産業研究
所分室
(大同生命ビ
ル 20 階)
5
調
停
(理論・技法と
Exercises)
300
第3日目
12月20日
(土曜)
午後1時から
午後6時(若干
延長すること
があります)
経済産業研究
所 1121 会議室
(経済産業省
別館 11 階)
6
240
相
談
(調停の理論・
技法を応用し
た理論・技法
と Exercises)
・ 「聴く」を中心にしながら、一対一の対
話(相談)の中での援助方法を考える
・ 援助過程の構造化
・ 「聴く」を中心として、具体的に実践し
てみましょう。
・ 事例とビデオを使った参加型トレーニ
ングを行います。
60
・ 受講者からの本トレーニングについて
の感想
・ 本トレーニングの可能性と改善
7
座 談 会
時間
(分)
75
内容の概要
・ 一つのビデオを見て、皆で違いや共通点
を共有しましょう。
・ 「聴く」を中心とした対話促進の可能性
について
・ 海外(主として北米)におけるトレーニ
ングの実情報告
・ 調停・相談等のトレーニングに必要な用
語の説明
・ 対話を通じた自律的解決と合理性の探
求
・ Mediation の価値・法的判断・情報提供
と説明
・ Communication と聴く
・ 紛争状態での当事者の心理と聴く
・ 「聴く」を中心として、参加型トレーニ
ングを行います。
・ Mediation の力動関係
・ 難しい会話の構造と Mediation
・ Mediation の(狭義の)技法
・ Introduction
・ 対話維持円滑化の技法
・ 事例とビデオを用いた参加型トレーニ
ングを行います。
「ADRを担う人材育成に関する
研究会」試行プログラム 第1日
経済産業研究所
ADRポリシープラットフォーム
プログラム1
13:00-14:15
プログラムの全体像と射程
稲葉一人
資料1:「ビデオを見て、違いや共通点を認識
する」
プログラム1
ビデオを見て、違いや共通点を共有する
(概要)
これから、実際の事件を関係者のプライバシーを侵害しないようにアレンジし、担当者
がスクリプト(シナリオ)を書き、劇団の方に協力をしていただいて演じたビデオを見ま
す。
事案は、俊子さんの妹の吉田久美さんが、その夫(吉田秀夫さん)のキャッシュカード
等を使って、二人の実母の看護等の費用に使ったことから、秀夫さんやそのお母さん(吉
田しの)から、お姉さんである俊子さんに返済が求められているというものです。
シーンは、①ある調停センターに電話がかかる場面、②再度電話がかかる場面、③第1
回の調停の場面、④第2回の調停の場面と分かれます。
(共有の課題)
そこで、これらの場面を通しで見た後、次の各点について、グループごとに、お話し合
いをして下さい。
1
全体を見た感想
2
電話応対について
3
調停でのやり取りについて
4
その他
(手順)
① グループ分けします
② チューターが各グループに入り、お手伝いをします
③ グループの話し合いを簡単な記録にとって、後に発表をする方を決めます。
では、ビデオ(約 20 分)を見ましょう。
以下に、ビデオのスクリプトを掲載しておきますが、これは、実際の演技の中では、多
少変更されていることがあります。また、撮影場所・アングルの関係で、位置関係等が実
際の事件とは異なっている場面があります。
母の生活費負担事件
(説明)
正田俊子さんから電話が、調停センターにかかるところからはじまります。電話でのやり
とり、相手方との連絡を通じ、実際の調停が展開されます。
事案は、俊子さんの妹の吉田久美さんが、その夫(吉田秀夫さん)のキャッシュカード等
を使って、二人の実母の看護等の費用に使ったことから、秀夫さんやそのお母さん(吉田
しの)から、お姉さんである俊子さんに返済が求められているというものです。
5月 26 日午後
正田俊子(まさだとしこ)さんから、調停センター事務局に電話がかかります。
1
プログラム1
俊子:
(電話の呼び出し音・2回)もしもし、新聞で読んだのですが、調停センターですか
事務局早田保子(はやたやすこ)
:そうです。調停センターです。事務局を担当しています
早田と申します。お電話いただきありがとうございます。恐縮ですが、まずお名前と、お
電話番号をお教えいただけませんか(保子は、電話聴き取り用紙に書き込んで行く)
俊子:名前は正田俊子といいます。電話は、03-8765-4321 です。
早田:大変、お待たせしました。では、お困りの点をお教えいただけますか。
俊子:はい、私の妹が、その夫に無断でカードを使って、私達の実の母の介護等の費用の
ために使ったのです。夫や姑から、その返済を姉である私にまで求められています。母に
使ったのですから、道義的に責任があるのは十分分かりますが、法的に支払い義務がある
かが分かりません。法的に責任がないとしても、親族間の問題でわだかまりができても困
るので、悩んでおります。どなたかアドバイスしていただけるのでしょうか。
早田:私達は、法的な相談に回答をすることは原則として、しておりません。もし必要な
ら、法律の専門家のお手伝いを受けていただくこともできます。これは、判断を示すこと
で、私達が、お困りの問題を有していらっしゃるお二人の間で、中立的な役割を果たせな
くなるからです。お分かりいただけるでしょうか。俊子さんは、その相手の方とご一緒に
こちらにお越しいただき、お話をするということはできませんか。トレーニングを受けた
調停人が、お話の橋渡しをいたしますが。
俊子:私が先方に頼むのですか。
早田:まずは、正田さんご自身がお願いされて、だめな場合は、また次の手段を考えまし
ょう。突然、私達が連絡すると先方もびっくりされるのではありませんか。
俊子:はい分かりました。なんとか、やってみます。
早田:ありがとうございます。そこで、こちらから、俊子さん宛てに、先方に当方の組織
の目的等を説明していただくためのリーフレットと、所在場所等をお送りします。ご利用
下さい。それでは、連絡をお待ちします。
数日後、俊子さんから電話
俊子:調停センターですか。正田俊子といいます。先日お電話を差し上げた者です。
早田:はい覚えております。正田俊子さんですね。(記録を確認しながら)はい、先方と連
絡を取り合っていただく予定の方ですね。
俊子:先方に連絡したところ、6月3日の午後1時に相手も来てくれると言っていますが。
いかがでしょうか。
早田:(スケジュール表を確認しながら)丁度その日は調停人の援助を受けることができま
す。どうぞ揃ってお越し下さい。先方も住所等はお分かりですか。
俊子:はい。先日送ってもらったリーフレットもお見せしましたので。
早田:先方はどなたがお越しになる予定でしょうか。
俊子:妹の夫である吉田秀夫と、もしかすると姑も来るかもしれません。
2
プログラム1
早田:俊子さんの妹さんはお越しになる予定ですか。
俊子:必要なら連れてきますが。
早田:それは俊子さんのご判断ですが、もしご都合がつけば、ご一緒されてもいいと思い
ます。全員、同じ席で調停を進めようと思いますが、なにか不都合がありますが。
俊子:特にありませんが、秀夫さんや、姑の前で冷静に話せるか自信はありませんが。
早田:お越しになった皆さんのご意見を聞いてから進行方法は決めることになりますが、
お話し合いは、訓練を受けた調停人がお手伝いをしますので、気持ちを楽にしてお越しく
ださい。ではその時間に調停人を待機させておきます。もし、その後不都合があれば、早
い目にご連絡ください。再度確認いたします。6月3日午後1時、当調停センターという
ことで。先方の方にも日時場所等をお伝えください。お待ちしています。
6月3日午後1時前
先方の吉田秀夫さんと吉田しのさんがお越しになり、引き続き、正田俊子さんと吉田久
美さんがお越しになり、それぞれ受付表にお越しになったことの確認を済まし、それぞれ、
書面に、相談の内容や要望を記載している。
調停人沢田孝:(吉田秀夫さんと吉田しのさんに会い)当調停センターで調停人をしており
ます、沢田孝と申します。正田俊子さんとの件でお越しいただいた、吉田秀夫さんと、吉
田しにさんですね。お書きになった書面をご持参の上、どうぞ調停室にお入りください。
沢田:
(正田俊子さんと吉田久美に会い)当調停センターで調停人をしております、沢田孝
と申します。正田俊子さん、そして吉田久美さんですね。お書きになった書面をご持参の
上、どうぞ調停室にお入りください。
(全員が調停室に入ったことを確認し、互いから書面を受け取る)
沢田:改めて自己紹介をさせていただきますが、調停人の沢田といいます。当調停センタ
ーの調停人をしております。今日はようこそお忙しい中お越しいただきました。皆さんの
ご紹介等をしていただきますので、どうぞお座りください(以下のように座る)
窓
久美
入口
俊子
窓
沢田
秀夫
しの
沢田:お座りいただきましたが、それでよろしいでしょうか。これからこの場でご一緒に
お話していただきますが、もし不都合があれば、遠慮なくお申出下さい。
(書面を見ながら)
3
プログラム1
まず、皆さんのお名前を確認させてください。
俊子:正田俊子です。
秀夫:吉田秀夫です。
しの:秀夫の母の吉田しのです。
久美:秀夫さんの妻の吉田久美です。私の姉が、正田俊子です。
沢田:まず、今日のお話し合いの進め方と私の役割などについて説明をさせていただけま
すか。これから、相互にお話をしていただきますが、私はお話をお聞かせいただきますが、
私は判断を下したりせず、皆さんのお話し合いを円滑に進める役をします、主役は皆さん
です。お話し合いの時間は午後一杯をとっております。ご質問があれば、なんでも質問く
ださい。
俊子:途中で法的な問題について検討する必要があれば、どうすればいいのですが。
沢田:いい質問ですね。このお困りの解決のために法的アドバイスが必要な場合は、自由
に法律家に相談していただいて結構です。そのために中断することもあります。しかし、
私が法的なアドバイスをすることは、避けたいと思います。必要があれば、その際に考え
ましょう。
秀夫:質問があります。俊子さんから、調停センターには相談がなされているので、既に
調停人は、事件の内容を一方的に吹き込まれているのではありませんか。
沢田:これも疑問に思われるのは当然ですね。事務局には俊子さんからお電話をいただき
ましたが、私は、その詳細については聞いておりません。これから、皆さんのお話をお聞
きしようと思います。ただ、ご注意いただきたいのは、私は、判断を下すものではありま
せんので、どうぞ、お互いが、お互いのお話を聞き、お互いの納得のいく話し合いの過程
と結果を得るように努力しましょう。
秀夫:わかりました。
沢田:ありがとうございました。席の位置はこれでいいでしょうか。今のようなご要望を
踏まえ、お話はどちらの方からしていただきましょうか。
(秀夫の方を向いて)
秀夫:俊子さんからお話いただくことで結構です。
沢田:ありがとうございます。それでは、俊子さんお話ください。
俊子:
(調停人の方に向かって)はい。妹と私には母がおります。妹は、母の介護の費用と
して、秀夫さんのキャッシュカードを使って無断に現金を下ろして使ったのです。秀夫さ
んらからは、お母さんに使った費用なんだから、私にももってもらわないといけないとい
われているのです。
しの:(はき捨てるように)本当にお母さんの費用に使ったかどうやら・・・
俊子:法的な解決より、話し合いでなんとか解決できないかと思い、ここに参りました。
久美:私が全部悪いのです。すいません(泣く)
沢田:俊子さんのお話はそれでいいですか。
俊子:私は、家庭を持っていますし、この問題は私の母の問題ですので、夫には迷惑を掛
4
プログラム1
けたくないので、夫には申していません。また、私も母の介護費用に出費しています。
しの:それは、あなたのお母さんだから、あなたがどう負担するかは勝手ですよ。しかし、
息子のキャッシュカードを用いてまで、あなたのおかあさんの費用に使わないで欲しいわ。
沢田:では、秀夫さんのお話もお聞かせいただけますか。
秀夫:ここに銀行の通帳がありますが、このうちどれとどれが、久美のおかあさんの費用
に使われたか説明して欲しいと思います。
久美:現金をキャッシュカードで下ろしているほとんどが、それなの。
秀夫:それは本当か。こんな短期間に 100 万円近く引き出されているぞ。
久美:ここに、使ったものの領収書などがあるのですが、それは全部ではないのです。調
停人さん見てください。
(調停人に示そうとする)
沢田:どうぞ、皆さんでご確認ください。
しの:このタクシー代 3500 円というのはなに。お金がないのに、タクシー代とはなんなの。
久美:母の体調が悪いものだから、自宅から病院まで使ったのです。すいません。本当に
すいません。お母さん。
しの:大体、お金が工面できないのに、あなたのお母さんだけに無駄使いさせて。身分相
応のお金の使い方をしてください。
俊子:すいません。今は、母には公的な扶助の申請をしていますので。
しの:(憤懣やるかたなく)もう、あなた方のおかあさんのことは、あなた方で面倒見てく
ださい。
俊子、久美:はい、これからはそうします。おかあさんにご迷惑をかけてすいませんでし
た。
沢田:秀夫さん確認できましたか。
秀夫:一つ一つは、久美に確認する必要があります。少し時間が必要です。
俊子:私も、母に出費をしていますので、これも見ていただけますか。
(領収書等を調停人
に示そうとする)
沢田:これも秀夫さんに確認していただきましょう。私には、皆さんの間の意見にそれほ
ど隔たりがあるとは見えませんが。今まで言っていただいたことを総合すると、俊子、久
美さんは、今後、実母の面倒は自分たちで見ること、実母の生活水準に見合った看護をす
ることを、しのさんに約束することまでは、いいですね。
俊子、久美:はいそうです。
しの:(これを受けて)うなずく
沢田:そこで、俊子さんにお聞きしたいのですが、秀夫さんのお金がいくら使われたかは、
秀夫さんと久美さんに確認していただくとして、使われたこと、これはどうしますか。
俊子:私の母に使われたことは事実ですので、私が工面できる範囲で、工面したいと思い
ます。ただ、私も母に費用を用いていることや、このお金は、夫には内緒で、自分のへそ
くりであることは理解していただきたいと思います。
5
プログラム1
沢田:秀夫さんやしのさんはいかがですか。
秀夫:私は、久美の母に使われたことについて、目くじらをたてているのではありません。
それを私へ説明もなしに使われたことや、その使い方に文句をいいたいのです。全額返せ
とも、そんなに大金をお姉さんに求めるつもりはありません。
沢田:しのさんはいかがですが。
しの:息子がそういうのであれば、私がしゃしゃりでる筋合いではありません。
久美:おかあさんごめんなさい。
沢田:では、秀夫さんと久美さんで、もう一度通帳や領収書をつき合わせてみて、必要に
応じて、俊子さんの領収書も見ていただき、相互に説明を受けてみることではどうでしょ
うか。これは、この場でしますか。
秀夫、久美:二人でします。
沢田:では、次回までにその作業をして、適宜俊子さんにもご連絡ください。俊子さんは、
それを受けて、ご自身の工面をする方法や額をご検討ください。できれば、その結果につ
いても、秀夫さんらに事前にご相談ください。これらの共同作業にどの程度の時間が必要
ですか。
俊子、秀夫、久美:(顔を見渡して、口々に)1週間程度でできると思います。
沢田:では、念のために、約 10 日程度を置いて、再度お越しいただけますか。6月 13 日
午後1時はいかがですか。
全員:それで結構です。
沢田:では、その時間に、ここでお待ちしています。
6月 13 日午後1時
(秀夫、俊子、久美は来るが、しのは来ない)
沢田:前回に引き続き始めたいと思います。今日は、しのさんはいかがしましたか。
秀夫:お前のお金のことだから、お前が話をして来いといわれました。
沢田:俊子さん、久美さん。それでよろしいですか。
久美:(少し戸惑いながら)はい、結構です。
俊子:はい、結構です。ただ、この問題が終われば、残りの額について、再度請求をして
こないことを、秀夫さんが責任を持って約束して欲しいと思います。
秀夫:それはもちろん。そのために、ここに来ているのだから。
沢田:では、前回から今回までの間の共同作業の進展はどうですか。
秀夫:全部の領収書がなく、厳密に、どれが久美の母に用いられたのか、また、なにに使
われたものかは分かりませんでした。しかし、概ね、どのようなものに使われたかは、久
美から説明を受けましたので、結構です。
沢田:では、俊子さんはどうですか。
俊子:はい、なんとか 30 万円を工面したいと思います。今すぐにはできませんが、3月内
6
プログラム1
にはお払いできると思います。ただ、これは夫には内緒ですし、これ以上は、母や私は負
担はできません。
沢田:それで、無理はないですか。だれかに相談しましたか。
俊子:はい。知り合いの法律家に相談しました。法的な責任は別として、親族内のトラブ
ルなので、あなたが思うように解決すればと、示唆を受けました。
秀夫:私は、それで結構です。
沢田:では、俊子さんが、3か月内に 30 万円を秀夫さんに払う、これをもって、秀夫さん
は俊子さんやお母さんにそれ以上の請求はしないということを、これから文章化してみま
す。再度内容を確認していただいいて、必要があれば訂正しましょう。皆さん、当然私も
含みますが、署名をして、そのコピーを一部づつ持ち帰るということにします。では、少
しこのままお待ちください。どうもご苦労様でした。
7
プログラム2
14:15∼14:45
海外の実情報告と用語の説明 入江秀晃
資料2:「海外(主として北米)におけるADRト
レーニングの状況」
資料3:「ADR用語集」
海外(主として北米)における
ADRトレーニングの状況
2003/11/15
(株)三菱総合研究所
情報通信政策研究部
入江秀晃
目次
1.米国におけるMediationの潮流
2.ADRの制度化
· 法律家以外の活躍をサポートする仕組み
3.ADRの効果
4.北米以外でのADRの潮流
5.ADRの活用される領域
6.Mediation手法の潮流
7.各機関が定義するMediation
8.北米でのADR教育
∼組織の性質を反映∼
1
米国におけるMediationの潮流
· 米国においても、新しいコンセプトに基づくMediationが活発になったのは最近のこと
であり、せいぜい20∼30年程度の歴史に過ぎない。
年代
できごと
年代
できごと
60年代
·公民権法(64年)により、コミュニティ関係サー
ビス(CRS)が作られ、人種問題が原因の市民ト
ラブルを話し合いで解決する地域における調停
機関となる。
90年代
70年代
·アトランタ、カンザスシティー、ロサンゼルスにお
けるジャスティス・センターの設置が効果的(77
年)。
·カリフォルニア州オレンジカウンティのショッピン
グセンターで元判事が、紛争解決相談開始。こ
れが全米最大のADRサービス企業であるJAMS
の前身。(78年)
·行政紛争解決法(Administrative Dispute
Resolution Act、90年、96年)により、政府機
関にADR部門の設置が制度化。
· 民事司法改革法(Civil Justice Reform Act、9
0年)により、民事に関する司法費用と遅延へ
の対策としてADRの活用が盛り込まれる。
·ADR法(Alternative Dispute Resolution Act、9
8年)により、連邦司法裁判所としてADRの利
用が位置づけられた。
2000年∼
·2001年、ユニフォーム・メディエーション・アクト
(Uniform Mediation Act)により、メディエーショ
ン(調停)の位置づけを全米レベルで明確化。
80年代
·ロジャー・フィッシャー=ウィリアム・ユーリー
ゲッティング・トゥ・イエス(Getting to Yes,邦題
「ハーバード流交渉術」)(82年)が出版され、原
則立脚型交渉/利益に基づく交渉/促進的
(ファシリエーティブな)交渉が理論化される。
·紛争解決法(The Dispute Resolution Program
Act、86年、カリフォルニア州)
2
ADRの制度化
· 米国、カナダにおいてはADRが様々な形で制度化されている。米国では、州による制度
の違いが大きいが、単なる草の根の動きでもなければ、法曹界だけの動きでもない大き
な動きが様々に観察される。
事例
内容
カリフォルニア州
86年の紛争解決法(DRPA)ができて、地域の紛争解決機関への財政的な支援が行われている。提
訴時に支払う約200ドルのうち8ドル分が、地域の紛争解決機関への財源に使われる仕組みとなっ
ている。例えば、アジアパシフィック紛争解決センターはこのDRPAの元に設立された機関であり、ロ
スに住むアジア系の人々(日系を含む)への紛争解決サービスを提供している。この機関では、約
50人のスタッフがおり、そのうち15人が弁護士である。相談、紛争解決、教育などを実施している。
カナダ・オンタリオ州の3
都市
トロントなどオンタリオ州の3都市では、99年1月から原則として調停を民事訴訟の先に義務付ける
仕組みの試行を始めている。
イリノイ州
裁判所付属型の(非拘束型)メディエーションについて、93年からパイロット事業として実施してきた
が、2001年4月に州レベルでルール化された。
ヴァージニア州
メディエーターになるための州としての公認のプログラムを持っている。フロリダ州でも同様に、州公
認プログラムがある。
3
法律家以外の活躍をサポートする仕組み
非法律家メディエーターが、法律違反を
犯さないためのガイドライン
(カナダ・オンタリオ)
Loyola大学(LA)のコミュニティ向け教材
はスペイン語との2ヶ国語で用意されて
いる
•
①
②
③
④
両当事者およびメディエーターによって
署名された「同意書」を用意する。
弁護士不要、他のサービスより安いとい
う広告をしない。
メディエーターが合意文書のドラフトを
作らず、当事者自身の言葉からなる「理
解のメモ(Memorandum of
Understanding)」を作成する。
裁判所に提出する文書をつくらない。
学校内でのピア・メディエーションも盛
んである
•
http://www.mediate.ca/avoidingunauth.htm
ロサンゼルスのダウンタウンにある
Loyola大学では、貧困層が多いスペイン
語話者への調停サービスを行っているが
、教育プログラムで用いられる教材にも
、2ヶ国語の用意がされている。
コミュニティ向けと並んで、若者向けの
メディエーショントレーニングは、広く
実施されている。学校内(中学、高校、
大学など)で、生徒達同士が問題解決を
することで、学内問題解決と教育効果が
あると言われている。
4
ADRの効果
· ADRの実施により、司法コスト削減、迅速化などの効果が観察されている。
カナダのトロントとオンタリオでは、裁判の早期段階に調停を強制的に入れるよう、「強制調停プログラム」(Mandatory Mediation
Program)を実施している。
1999年1月4日に、民事訴訟法第24.1条により試験的に、非家事の民事事件(non-family civil case-managed cases)に強制調停プログラムを導入。積極的な評価
の結果、同条項は2001年7月3日から永続条項となった。ウィンザーでは2002年3月からこのプログラムを導入している。
・24.1条の強制調停によって、多くの事例
が早期に解決している。(およそ10件に4
件が7日間の調停で完全に解決されている
。)
ネガティブな
影響があった
2%
かなり削減さ
れた
57%
45%
41%
40%
33%
35%
29%
28%
28%
30%
26%
26%
26%
25%
23%
25%
21%
20%
15%
15%
15% 12%
9% 9% 10%
8%6%
10%
4%
5%
0%
過
失
そ
の
物
他
的
信 財産
託
受 権
託
義
務
不
ケ
当
ー
解
ス
雇
の
全
類
型
削減された
28%
幾分かネガ
ティブな影響
があった
2%
債
権
療
過
誤
自
動
車
削減されてな
い、わからな
い
11%
第一抗弁後、6ヵ月以内で解決した事例の割合
医
・調停された訴訟における速度(時間)に
ついては、24.1条の下では、導入前よりも
迅速に処分決定に進むということがわかっ
た。(右の棒グラフは、トロントにおいて
、第一抗弁から6ヶ月以内に解決した事例
の割合を24.1条の導入前と導入後を比較し
たもの。)
(訴訟提起者対象)訴訟提起者にかかるコストへの影響
業
契
約
・明らかに、早期強制調停はコストを削減
する効果が見られる。(右の円グラフはメ
ディエーションがコスト削減に与える影響
について、訴訟当事者を対象に行なったア
ンケートの結果を示したグラフである。)
http://www.attorneygeneral.jus.gov.on.ca/english/courts/manmed/factsheet.asp
商
その間23ヶ月間の評価が、強制調停試行プ
ログラムの評価委員会である民事規則委員
会(Civil Rules Committee)の監督の下で独
立の評価機関によって行なわれた。
24.1条導入前
24.1条導入後
出典:Evaluation of the Ontario Mandatory Mediation Program (Rule 24.1): Executive Summary and
Recommendations March 12, 2001, pp.5-11.
5
北米以外でのADRの潮流
· EUなどでも制度化の動きがある。経済のグローバル化に伴い、各国でADRの重要性が増し
ていると考えられる。
事例
内容
EUにおけるグリーンペー
パー
EU市場の登場によって、モノと人の移動がEU域内で活発になったことに伴い、加盟国間の紛争も増加してい
る。この結果、ADRが、EUレベルでもフェアで効率的な紛争解決メカニズムとして注目され、2002年4月にEU
委員会は民事及び商事におけるADRに関するグリーンペーパーを発行し、議論が開始された。グリーンペー
パーは契約における条項、期限、秘密保持、同意の有効性、プロセスによって発生した合意の効果、第三者
(メディエーター)のトレーニングと認定と責任範囲等に言及している。ADRの質のためには、職業的訓練が重
要であることを説き、判事がトレーニングを受ける必要性や、ADR機関が会員にトレーニングを提供し、認定制
度を確保することを勧めている。
(EU委員会が発行するグリーン
ペーパーとは、特定の分野につい
てEUレベルで議論を促し、会議・
審議会を設定するための文書のこ
とで、これはいずれ議論でまとまっ
たものを実行に移すためのホワイ
トペーパーとなる。)
イギリス
・CEDRなど年間数百件規模で調停を実施する機関がある。
・大法官府(Lord Chancellor’s Department。日本の法務省に相当。新しく出来たDepartment for Constitutional
Affairsに合併される)により、1994年民事訴訟制度の改正のためにウルフ委員会が設立され、ウルフ卿のもと
でADR導入を含む民事司法制度改革がなされた。1999年4月以降の民事訴訟法にADRを組み入れたにも関
わらず、現在それほど発展していない理由について、ウルフ卿は「ADRを強制しなかったため」とコメント。
・調停人を養成するプログラムを持っているADR機関としては、CEDR、Chartered Institute of Arbitrators、
Academy of Experts、ADR Group等がある。
フランス
・ADRの活用状況について、概況は不明。
・民間の機関(AMELYやCMAP(パリ仲裁・調停センター))、大学の心理学研究所(リヨン第2大学、パリ第5大
学)などで、カウンセリング手法を調停に取り入れた、教育プログラムがある。
オーストラリアにおける
NADRACのフレーム
オーストラリアでは、知識、技術、倫理の3つの分野について、ADR実践者が獲得すべき能力を定義している。
6
ADRの活用される領域
· 多様な機関が、多様な動機でADRを実施している。特に、Mediationは非常に大規模な
企業間紛争から、非常にローカルな近隣間紛争など広い分野で利用されている。
機関名
機関の概要
職員数
設
立
年
次
受付件数、 ADR実施の有無
(実施している場
調停件数
機関の特徴
(調停型か仲裁
型か、裁判所と
の関係)
合の扱う分野:
例-商取引など)
AAA
仲裁を中心に行う、世界最大のADRを実施
する非営利団体。全米に39のオフィスが
ある。
管理スタッフ
約700人、登録
されている専
門家メンバー
(Neutrals)約
1万人)
1926
年
23万件
(2002年、
うち調停は
1万件程
度)
保険関係が最も多
い。
仲裁が多い。専
門家(Neutrals)
は弁護士がほと
んど。各州向け
にカリキュラム
を変えている。
JAMS
民間会社として最大のADR機関。国際的な
管理スタッフ
案件、大規模案件を扱えるため日系を含
165人、
む大企業の顧客が多い。専門家は元判事
Neutrals200人
が中心。調停で$50ミリオン(約60億円)、
仲裁で$20ミリオン(約24億円)
1979
年
8000件の調
停。
企業間紛争が多い
模様。
調停が多い。
Loyola Law
School
Center for
Conflict
Resolution
*
ロサンゼルスダウンタウンにあるロース
クール。スペイン語しか話せないかなり
貧しい人向けのバイリンガルなコミュニ
ティベースの調停プログラムを実践して
いる。ロースクールの学生だけでなく、
コミュニティ向けのトレーニングも行っ
ている。
1920
年
不明
コミュニティ調停
(近隣紛争等)、
家族、商取引。
調停、相談。
教員6名
•Loyolaと同様にLAカウンティで、紛争解決及び教育プログラムの提供を行う機関は14ある。そのうちのひとつである、The
Asian Pacific American Dispute Resolution Centerが年間に受け付けた数(相談を含む)は、828件。
7
ADRの活用される領域
(続)
機関名
機関の概要
職員数
設立
年次
受付件
数、調
停件数
ADR実施の有無
(実施している場
合の扱う分野:
例-商取引など)
ADR Workshop
Canada
ロジャー・フィッシャーに師事したAllan
J. Stittらのハーバード出身の弁護士グ
ループが設立した民間会社。StittはADR
Canadaのディレクターを務めたこともあ
る。ADR実施とADR教育が収益源。
8人。(すべて
弁護士)
1994年
不明
商業、契約違反、
調停及び交渉。
環境、保険、過失、
株主、自営業、財
産、人的被害、不
動産、職場、ハラ
スメント、不当解
雇、取り締まり、
専門的違法行為・
過失
St. Stephens
(トロントの
NPO)
http://www.stst
ephenshouse.co
m/index.shtml
非営利のボランティア機関として、近隣
の紛争解決を行っている。85年と、カナ
ダでは比較的早くから紛争解決サービス
を始めたため、NPOでありながら老舗的な
存在となっている。
4人
(ボランティ
アメディエー
ター60人この
うち弁護士は
少数)
1964年 年間約
(紛争 200件
解決は、
1985年
から)
CEDR(英)
英国で最も大きい非営利のADR機関。商業
的調停トレーニングでもリーダー的存在
で、継続教育のスキームも持っている。
36人。会員は、 1990年
法律事務所、
11月14
企業等多数。
日
年間500
∼600件
機関の特徴
(調停型か仲裁
型か、裁判所と
の関係)
近隣、家庭、不動
産賃貸、商取引
など。
調停。
商業分野、公的分
野の契約および約
款に関する争いを
扱っている。
調停を含め、
ADR全般
8
Mediation手法の潮流①
· メディエーションの手法は3つあると言われており、それぞれ特徴がある。
結論を持
つのは誰
か
プロセスを
持つのは
誰か
概要
評価的な手法
(Evaluative)
中立の第
三者
中立の第
三者
中立の第三者(Neutral(s))が、両当事者の上に立ち、裁断的に問題を解決する
手法。法律を含む専門知識により、問題を「評価」するところに特徴がある。元判
事集団からなるJAMSは、非常に複雑な紛争に対しても、裁判所での結論を予
想できるという強みを生かして、年間約8000件のメディエーションを扱う。
促進的な※手法
(Facilitative)
当事者
中立の第
三者
ロジャー・フィッシャー=ウィリアム・ユーリー ゲッティング・トゥ・イエス(Getting
to Yes,邦題「ハーバード流交渉術」)(82年)で理論化された交渉及び調停の手
法。「過去における正しさ」ではなく、「未来における利益」に基づいて交渉するメ
リットと方法を説いた。米国、カナダで普及したメディエーションの多くは、この手
法を中心的に扱っている。中立の第三者は、法的知識を持つよりは、会話の促
進者としての能力を持つことが求められる。
コミュニティレベルでのメディエーションに用いられる場合が多かったと言われる
が、弁護士グループも採用している。
パワーバランスが大きく崩れている場合には有効でないといわれる。
変容力のある手
法
(Transformative)
当事者
当事者
Robert A. Baruch Bush , Joseph P. Folger,“The Promise of Mediation”によって理
論化された。プロセスを含めて当事者がコントロールする手法で、第三者は双方
の当事者をエンパワーする。習得し使いこなすことは容易でないとも言われる。
※「助成的」と訳される場合もある。
9
Mediation手法の潮流②
· 評価的な手法は、従来の司法システムと同様、第三者が当事者達の上
に立ち、評価を下す。一方、促進的な手法は、当事者が問題解決を行
うために議論の場をコントロールするのが第三者の役割となる。
評価的(Evaluative)な手法
促進的※(Facilitative)な手法
第三者(neutrals)
評価
評価
利益
当事者
当事者
立場
当事者
立場
促進
促進
当事者
第三者(neutrals)
Right-based(どっちが正しい?)
Interest-based(どうするのが得?)
※「助成的」と訳される場合もある。
10
北米でのADR教育
○育成する人材の種類
· 生徒は、弁護士、企業の人事担当者などが多いが、必ずしもプロのMediatorにならない人も多く、交渉に関し
て学ぶという動機で、会社社長その他多様な受講者がいる。近隣紛争等のためのMediationを実施している
コミュニティベースの機関では、やはりコミュニティの住民向けや、若者向けの教育を行っている。
○コース
· Mediatorトレーニングの標準は、25∼40時間程度。ワークショップ形式で、生徒が模擬事例を実演することに
多くの時間が使われている。
· 大学及び大学院レベルでは、紛争解決(Dispute Resolution)の分野として、主にロースクールにコースが設置
されている。ロサンゼルスのPepperdine大学は、この分野で有名で、紛争解決だけの修士課程を持つ全米で
唯一の大学である。通常1∼2年のカリキュラムとなっている。
○教育内容
· Mediationトレーニングの理論的基礎として、 Getting To Yes が用いられるケースがほとんど。利益に基づく
(Interest-based)交渉の理論が学ばれている。その他、異文化コミュニケーションなどの交渉についても学ばれ
る。
· 模擬実習に加えて、実践活動を通じた教育も重視されている。例えば、Loyola Law Schoolでは、コミュニティ
ベースの紛争解決センターを学内に持ち、電話相談やCo-Mediatorの形で学生が現実の問題に当たる。
○教育機関
· ADR実施機関(AAA、JAMS、ADR Workshop Canadaなど)や大学が教育を行っている。
11
各機関が定義するMediation
∼組織の性質を反映∼
機関
定義
Uniform Mediation Act
メディエーションとは、当事者間の紛争で当事者自身が自発的に合意に達することができるように、メ
ディエーター(調停人)が当事者間のコミュニケーションや交渉を促進するプロセスを指す。
ADR Institute of Canada
メディエーションとは、当事者が、中立の第三者を指名し、自由意思に基づく解決を達成することを試
みるプロセスのことである。中立の第三者は判断を下さず、当事者はそのプロセス(進行)をいつでも
停止することができる。コンフィデンシャルで偏見ないものである。当事者は独立した法的助言を探
すことが奨励されており、自由意思に基づく解決が達成され、当事者が合意文書を締結したときのみ
拘束力を持つようになる。
Federal Judicial Center
メディエーションとは、中立の第三者であるメディエーターが、当事者間の交渉を促進して、当事者の
紛争を手助けする、柔軟で非拘束的な紛争解決プロセスである。
(連邦司法センター)
“Guide to Judicial
Management of Cases in
ADR”
AAA
メディエーションとは、当事者が拘束力を持たない合意に至るために中立の第三者が支援するプロ
セスをいう。
JAMS
評価的メディエーションとは、裁判で導き出されるであろう結果を「試験」することをいう。
促進的メディエーションとは、コミュニケーションを広げ、解決の選択肢の創造を助けることをいう。
Loyola Law School
The Center for Conflict
Resolution
紛争にある人々が、中立の第三者とともに、同席し、フェースツーフェースで話をすることをいう。
12
まとめ
· 米国、カナダでもMediationを中心とするADRが定着したのは、ここ20年程度のことである。
· Mediationは、当事者の自己決定を促進することで、早く、納得性の高い解決を実現するプロセ
スであり、効果が見出されており、様々な制度化の動きも進んできている。
· 北米では、非法曹関係者もメディエーターになることができる。専門分野としては成立している
が、職業としてはまだ充分な広がりがあるわけではない。
· 北米では、JAMSに代表される、Mediationサービスをビジネスとして提供する民間企業が登場
し、存在感を増している。JAMSでは、200人に上る元判事を中心とする専門家集団が複雑な案
件も処理できることを売りにしている。
· 北米では、コミュニティベースの相談、Mediation及びメディエータートレーニングの実践を行う機
関がある。
· 北米でのトレーニングは、受講者が参加するワークショップ形式をメインにとるものが多い。模
擬ケースを用いたワークショップで理論とおおよそのスキルを身につけ、紛争の電話受付やCoMediatorとして実際の問題に当たりながら、実践を通じてスキルを身につけている。
13
ありがとうございました
本資料に関する問い合わせは、下記までお願いいたします。
株式会社三菱総合研究所 情報通信政策研究部 入江、土屋
TEL 03-3277-5583 FAX 03-3277-3473
[email protected], [email protected]
14
Memo
15
2003/11/15
【ADR 用語集】
本用語集の位置づけについて
本用語集は、米国を中心として、ADR 関連用語がどのように定義されているかをとり
まとめました。別資料で説明したとおり、米国等においても、ADR の考え方や制度は比
較的新しい考え方で、取り組みの主体も市民団体から、弁護士事務所、あるいは元判事
をずらりと揃えた民間会社まで非常に多様です。当然、取り組む主体によって、米国等
でも用語の定義の仕方も微妙に異なってきます。本用語集は正しい一つの説明を記述す
るのではなく、複数の定義を併記する体裁としました。本資料をひとつのタタキ台とし
て、日本における ADR に関する議論と ADR に関する取り組みに少しでもお役に立てた
ら幸いです。
用語の訳間違い等、ご指摘、ご教授いただけますと助かります。よろしくおねがいい
たします。
株式会社三菱総合研究所
情報通信政策研究部
入江、土屋
TEL 03-3277-5583
FAX 03-3277-3473
[email protected]
[email protected]
1
(アイウエオ順)
ADR (Alternative Dispute Resolution)
・ ADR プロセスは、裁判長(presiding judge)による判決以外の手順で、例えば、ENE (Early
Neutral Evaluation)やメディエーション、ミニ・トライアル、仲裁のような手続を通じて、
中立の第三者が論争になっている問題の解決を助けるために介入すること。
(ADR Act)
・ ADR は、通常、紛争を解決しようと紛争当事者が自ら開始する伝統的な訴訟プロセス外
の一連の手続きをいう。(ADR Canada)
・ 訴訟や仲裁(arbitration)の非柔軟性を回避する紛争解決手法の総称。当事者が直接およ
び間接費用を最小限におさえ、より良い又は似たような結果を達成することに焦点をあ
てる。(CEDR)
以下、アイウエオ順
アービトレーション(arbitration)・仲裁
・ 紛争を解決する方法の 1 つで、紛争当事者が公平な第三者に事件を委ね、その第三者が
紛争を解決すべく判断を行なうことである。この判断は通常拘束的である。第三者が単
に紛争当事者らで解決策をみつけるのを助けるメディエーションとは異なる。(C)
・ 最終および拘束ある判断のために、公平な一個人または複数の人に紛争を付託すること。
契約上の規定に基づいて、当事者は、解決される問題の範囲、判断される救済の範囲、
プロセスの多くの手続上の局面をコントロールすることができる。(AAA)
・ 当事者が、中立の第三者である仲裁人の判断に拘束されることに同意する、伝統的な非
公開の紛争プロセス。仲裁人が下した裁定は通常法廷の判断と同様に法的に執行可能で
ある。(CEDR)
・ おそらく非公開の紛争解決法として最もよく知られている仲裁は、正式な拘束力あるプ
ロセスで、紛争が、指名された第三者、即ち一人または二人以上の仲裁人の判断によっ
て解決される。(CIArb)
・
[仲裁] 紛争を、当事者が選定し、その判断に服することを合意した第三者の裁定に委
ねること、または、それによる紛争処理手続。コモン・ロー上の仲裁は強制履行ができ
ないが、制定法上の仲裁は強制履行が可能。制定法としてイギリスでは 1950 年法、1979
年法、アメリカでは連邦法(1925 年)と州については Uniform Arbitration Act(統一
仲裁法)を採用した法律その他がある。なお、アメリカ諸州では、裁判所の負担軽減の
ため、前審的に仲裁を司法機構に取り入れた強制仲裁(judicial arbitration)制度が普及
しつつある。
(英米法辞典)
アーリー・ニュートラル・イバリュエーション(Early Neutral Evaluation、ENE)
2
・ ケースプランを改善するため、紛争の早い段階で当事者に、アドバイス的な評価を与え
る非拘束的なプロセス。メディエーションと同様、民事の多くのタイプの紛争に広く適
用できる。特に、非常に複雑なケースでの適用が有効であると言われている。(FJC)
・ 第三者(通常、判事か法的資格を有している者)が解決のディスカッションとして裁判
で出されるであろう結果に関して意見を述べる、非公開且つ非拘束的な手法。(イギリス
CIArb)
アクティブ・リスニング(active listening)
・ 完全に相手が言っていることに耳を傾け、そのメッセージの内容とその背後にある感情
両方を適切に理解しているかどうかを確認することである。(C)
アドボカシー(advocacy)
・ 紛争において特定の側につく(又は特定の側のために働く)プロセス。紛争当事者は彼
ら自身、ネゴーシエーション(交渉)・メディエーション・政治的ディベートにおいて
自己の立場を主張するためにアドボカシーに従事することができる。相手側を自分の要
求に同意するよう説得する試みはアドボカシーである。(C)
・ ①弁論、②訴答を行なうこと→pleading、③擁護;唱道
一定の立場を強く訴える説得
活動(英米法辞典)
イシュー(issue)
・ 問題が「何」か;討論または話し合いの議題。(AAA テキスト)
インタレスト(interests)
・ 人々があるポジション(p.8 参照)をとるきっかけとなる潜在的な欲求や懸念。ポジショ
ンが「この家をここに建てたい!」というような彼らが欲しいというものである一方で、
インタレストはそのようなポジションをとる理由(よい景色がみえる静かな場所が欲し
いから、という理由等)である。当事者同士のポジションが正反対でも、しばしば、当
事者同士のインタレストは矛盾しないので、話し合う余地はある。(C)
・ ポジションの原因となる「なぜ」;当事者の懸念、ニーズまたは欲望。(AAA テキスト)
インタレスト・ベースド・プロブレム・ソルビング(interest-based problem solving)
・ ポジションではなく、インタレストの意味で問題を定義し、お互いに満足する解決策を
得るために互いのインタレストを調和させるべく取り組むことである。(C)
ウイン−ウイン・アプローチ(win-win (cooperative or problem solving) approach)
・ 全ての紛争当事者を満足させる解決法を見つけたいと思っている人々によって取られ
3
る紛争へのアプローチである。このウィン−ウィンの取引では、紛争渦中の当事者は双
方が 勝つ ような方法で共通の問題を解決するために協力することを試みる。対峙す
る者を敵とみなし、紛争に勝つためには相手が負けなければならないとするウィン−ル
ーズアプローチと比較対照される。
(C)
エンパワメント(empowerment)
・エンパワメントとは、個人またはグループ(集団)に、よりパワー(p.6 参照)を与える
ことである。これは、教育、連合形成やコミュニティの組織化、リソースの発展または
アドボカシーを支援することを通じて当事者自身によっても行なわれる。または、より
パワーが少ない(力関係が弱い)個人やグループを効果的に演出することを助けるメデ
ィエーターによっても行なわれる。このアプローチは倫理的ジレンマを生じさせるが(と
いうのも当事者の一方をより支援することはメディエーターの中立性を損なうからであ
る)、このアプローチが二人の当事者のパワーが比較的均衡している時に最もよく機能す
ることから、問題解決またはメディエーションの
合意志向(settlement-oriented)方法
においてよく行なわれている。しかしながら、ブッシュ(Baruch Bush)とフォルガー
(Joe Folger)は、変容的なメディエーションを通じて両当事者を同時にエンパワメント
することを主張している。これは、紛争当事者の
び人生の問題を扱う自己能力
自己の価値と強みに関する自覚およ
を回復させる。このアプローチは一方側のみのエンパワ
メントの倫理的ジレンマを回避するが、解決(settlement)達成という本来の目的を犠牲
にする。(C)
オープン・エンド・クエスチョン(open-ended question)
・ 答えが一つに決まらない広がりのある質問。
・ (多肢選択法によらない)自由回答式の質問。
(リーダーズ英和辞典)
・ 例)
−この紛争がどのようにして始まったか教えてくれますか。
−この問題をあなたはどう捉えていますか。
−可能な解決策は何ですか。
−他の代替的手段(alternatives)として何が考えられますか。
(AAA テキスト)
コーカス(caucus)
・ メディエーターが、個々の当事者と問題点を話し合うために行なうミーティングのこと。
(AAA)
・ メディエーターと各当事者との非公開の秘密の話し合い。コーカスの面会はしばしば各
当事者の重要な問題とニーズを考察し、強みと弱みに関してオープンにするよう促し、
4
解決のための選択肢を話し合うために行なわれる。(CEDR, ADR Group)
コー・メディエーション(co-mediations)共同調停
・ 同一のメディエーションで 2 人以上の調停人を使うプロセスのこと。(CEDR)
・ 同一のメディエーションで 2 人以上の調停人を使うプロセスのこと。すぐには解決しそ
うもない困難な問題や当事者が数多く関わっている場合によく使われる。(ADR
Group)
コモン・グランド(common ground)/コモナリティーズ(commonalities)
・ 2 人またはグループが共有している、又は共通にもっているもの。例えば、同じ場所に
住んでいる、似ている価値観、関心、ニーズをもっている、或いは、似た恐怖体験があ
るなど。紛争当事者同士はしばしば相手とは共通点が全くないと思っているが、大抵、
共通のものを持っているものである。少なくとも、他者を恐がることなく平和で安全な
場所に住みたいということはほとんど万人が共通にもつニーズである。(C)
コンシリエーション(conciliation)
・ メディエーションに似ているが、コンシリエーター(conciliator)は合意に達する前に当
事者に解決策を提案できる。(CIArb)
・ 中立の第三者が、当該事例における解決策や意見を言うなどして積極的な役割を果たす
プロセス。しかしながら、メディエーションとコンシリエーションのどちらのプロセス
が積極的かということについては国際的な意見の一致はなく、商事紛争においては第三
者ファシリテーションの一般的な条件として、メディエーションの適用が増加している。
(CEDR, ADR Group)
・ 争訟的方法によらずに紛争を解決する手続。両当事者が合意によって解決に到達する手
続。両当事者が合意によって解決に到達することを目的とするから、たとえ、conciliator
(調停者)が解決案を示す場合にも、それは当事者を拘束するものではない。裁判外の
手続としては、イギリスの Employment Protection Act 1978(雇用保護法)、アメリカ
の National Labor Relations Act(連邦労働関係法)のように、労使紛争の円満な解決
のために行なわれることが多い。これに対して裁判手続に付置されるものとしては、少
額裁判手続があり、アメリカの一部の州では,調停手続の付置された裁判所を court of
conciliation とよぶことがある。(英米法辞典)
ニーズ(needs)
・ 心理学者のアブラハム・マズロー(Abraham Maslow)は、全ての人々は一定の生物学的
および心理学的要求の獲得に駆り立てられることを示し、それを基本的な人間の欲求
ニーズ と呼んだ。ジョン・バートン(John Burton)やハーバート・ケルマン(Herbert
5
Kelman)のような紛争理論学者は、このアイディアを紛争理論に適用し、安全(security)、
アイデンティティと認識への欲求は、根強く長引く紛争の背後にあることを示唆した。
彼らが主張するには、例えば、最も民族的(ethnic)で人種的な(racial)紛争は、インタレ
スト・ベースド(interest- based)の紛争ではない(それゆえに交渉はできない)が、
従属するグループのこれらの基本的要求へのニーズによって駆り立てられている。欲求
の紛争が解決されるためには、全てのグループの基本的欲求をみたすように社会を再編
成するしかない。(C)
ネゴーシエーション (negotiation)
・ 交渉(bargaining)−2 人またはそれ以上の、共通の問題に対して解決策を探している紛
争当事者間におけるディスカッションまたはギブ・エンド・テイクのこと。交渉は人々
−親子間、夫婦間、雇用者と被雇用者との間−や国家間で常に起こる。お互いにとって
便益のある解決策をもとめることで比較的協力的にもなり得るし、逆に、相手よりも勝
ろうと思えば、対立する交渉(取引)にもなり得る。(C)
・ 当事者がお互いに差異についてカンファレンスやディスカッションを通じて伝え合い、
解決のために妥協を図ろうとするプロセスである。(AAA)
バトナ(BATNA, best alternatives to negotiated agreement)
・ BATNA はロジャー・フィッシャー(Roger Fisher)とウィリアム・ユーリー(William
Ury)が開発した定義で、”best alternative to a negotiated agreement”の頭文字である。
ネゴーシエーターは交渉で決まった合意(neogotiated agreement)に同意する前に
BATNA を考えなければならない。その合意が一方の BATNA と同等かそれよりも良い
場合、当該合意は受け入れられるべきである。しかし、他に考えた代替的手段が良い場
合は、話し合い(交渉)で決まった合意の代わりに遂行されなければならない。一方の
BATNA が良い場合(若しくは単によく見える場合)、その代替的手段を遂行し、当事
者は交渉には入りたがらないことが多い。(C)
・ ハーバード・ネゴーシエーション・プロジェクトのロジャー・フィッシャー(Roger
Fisher)とウィリアム・ユーリー(William Ury)によって開発された手法で、交渉を
する当事者に彼らの選択肢を評価させるものである。BATNA は、交渉をやめた(中止
した)ときに、当事者が期待できる最もよい結果である。(CEDR)
・ 交渉する当事者に彼らの選択肢を評価させる手法。BATNA は交渉をやめたときに当事
者が期待できる最も良い結果である。(ADR Group)
パラフレイジング(paraphrasing)
・ わかりやすく言い換えること。(リーダーズ英和辞典)
6
・ 目的:話している人が何を話しているか、あなた(メディエーター)と話者自身で確認
(はっきりさせる)すること。話し手は自分が話したことの言い換えを聞き、それが自
分が話したかったことなのかどうかを確認する。聞き手は、自分の理解の正確度を確認
する。
手法:1.話し手が話したことの要旨を話す。
2.あなたが聞いたことが正しいかどうか確かめる。
3.正しければ、当事者が話し続けることができるように促進する;「もっと教え
て下さい」
4.もし、理解ができなければ、もう一回説明してもらう。(話し手は修正してま
た話し続けるだろう)
5.話している最中に何を話したか、何を話してないかを聞くのに有益。あなたが
次に何を言おうかとか、話し手(当事者)が何を次に話すだろうか、と考えて
はならない。
例)話し手:これまた彼が時間厳守でない例なんですよ。私の評判を下げてます!彼は
とにかく、我々の契約に違反したのです。彼の言い訳にはもう飽き飽きし
てますし、もう聞いてあげようなんて思いません。
聞き手:あなたは彼が遅れたことに対して苛立っているのですね。遅れたことは前
にもあり、それであなたの評判を下げていると。あなたは彼が契約違反を
したと思っており、もう遅れたことに対する理由は受け付けないというこ
とですね。
話し手:そうです。契約を解除して損害賠償をいただきたい!
聞き手:あなたは、金銭的な損害賠償を受ける権利があり、契約が断たれるべきだ
とお考えですね。
(AAA テキスト)
パワー(power)
・ 紛争理論家のケネス・ボールディング(Kenneth Boulding)の定義に従えば、パワー
とは、自分が欲するものを得る能力または「未来を変える」能力のことである。これは、
力(時々”power-over”と称される)や協力(”power-with”または exchange power と称
される)または integrative system−人々を集団でいさせるアイデンティティや関係−
によって起こる。(C)
ファシリテーション(facilitation)
・ コンセンサスづくりのミーティングを運営することを助ける第三者によって行なわれ
る。ファシリテーターは典型的に当事者が基礎的ルールと議事を設定・執行し、当事者
が相互にゴールに迎えるよう助ける。メディエーターに類似しているが、ファシリテー
7
ターは審議についてはメディエーターよりも少ない関与の仕方で、メディエーターのよ
うに「解決」することがその目的ではない。(C)
フレーミング(framing)
・ 問題が何なのか定義するプロセス。写真のフレームがある部分のみを囲んでいて他の部
分は切り落としてあるように、人々は問題のある部分を重要だと定義することができる
一方で彼らに関心がない問題は無視する(又は気がつかない)。(C)
ブレーン・ストーミング(brainstorming)
・ 創造的集団思考法。(リーダーズ英和辞典)
・ 例)
1.プロセスをやめ、大きな画用紙かフリップチャート*を用意する。
*講演などで使う 1 枚ずつめくれる大型の解説用図表
2.部屋にいる人全員に、他の代替手段はないかどうか聞く。
a. 時間制限をつける(2∼3 分)
b. 量が重要なのであって、質ではない。
c. 良し悪しの判断をしてはならない。
3.あなた(メディエーター)もクリエーティブな解決策を話すために参加する(これは、
採用されるべき解決策ではなく、あくまでも、あなたのアイディアで、もしかした
ら当事者によって採用されるかもしれないし、断られるかもしれないし、拒否され
るかもしれない)。
4.ブレーンストーミングをやめる。
5.当事者に何が良いと思うか尋ねる。
6.最も見込みのある(期待できる)解決策(promising solution(s))を進展させる。
(AAA テキスト)
ポジション、立場(position)
・ 人々が欲しいと言うもの―相手に対して行なう表面的な欲求。インタレストとポジショ
ンを最初に区別したフィッシャー(Fisher)とユーリー(Ury)によれば、ポジションとは、
人々が判断をするのに依拠するもので(decided upon)、インタレストとはそう判断する
ようになった原因である。しばしば、一方当事者のポジションは他方当事者のポジショ
ンの反対であるが、彼らのインタレストは事実上矛盾しない(共存できる compatible)。
(C)
・ 議題に対する一方当事者が提案した解決策(ソリューション)。(AAA テキスト)
ミーダブ(med-arb; mediation-arbitration)
8
・ 紛争においてメディエーター兼仲裁人として働く中立の第三者を活用する。必要に応じ
て、メディエーションにおける説得の自由意思のテクニックと、仲裁人の最終且つ拘束
力ある判断を下す権限を組み合わせる。(AAA)
・ メディエート(調停)された交渉が解決に至らなかった場合、当事者が、メディエータ
ーに仲裁人に「変わって」(仲裁人になって)法的拘束力ある判断(裁定)を下す権限
を付与する契約をするプロセス。(CEDR)
メディエーション(mediation)
・ メディエーションとは、当事者間の紛争で当事者自身が自発的に合意に達することがで
きるように、メディエーターが当事者間のコミュニケーションや交渉を促進するプロセ
スを指す。(UMA)
・ メディエーションとは、当事者が拘束力を持たない合意に至るために中立の第三者が支
援するプロセスをいう。
(AAA)
・ メディエーションとは、中立の第三者であるメディエーターが、当事者間の交渉を促進
して、当事者の紛争を手助けする、柔軟で非拘束的な紛争解決プロセスである。
(FJC)
・ メディエーションとは、仲介者(intermediary)が当事者と一緒になって行なう紛争解
決手法である。仲介者が当事者間のコミュニケーションと紛争状態の分析を向上させる
のを手助けすることで、当事者はその紛争に関わる者全ての利益又はニーズに応えるべ
く当該紛争を解決すべく選択肢を認識し、選択することができる。仲裁では仲介者は両
方の側の主張を聞き、当事者のために判断を下すのに対して、メディエーターは紛争当
事者自身が解決策を設計するのを手助けする。
(C)
・ ①調停;介入
中立な第三者が紛争当事者の間に入って説得によって紛争の解決を図る
行為。②国際調停
中立の第三国が紛争当事国の主張を調和させて解決を図る手続。
(英米法辞典)
評価的メディエーション (Evaluative Mediation)
・ このプロセスを使って、当事者は当該事例がどのような結果になるかについて「試行」
することができる。メディエーターは当事者に事実関係および法律的な主張をさせる。
その後で、メディエーターは裁判に関する自己の評価(予想)または結果の予想につい
て言及する。当事者間のギャップが大きい場合や問題がいくぶんか複雑で利害関係が大
きいなど、より困難な事例についてよく利用される。(JAMS)
・ メディエーションのアプローチで、中立の第三者が、提案を示したり当該事例のメリッ
トや当事者間の特定の問題に見解を示したりするなどして比較的アクティブな又は介
入的な役割を果たすこと。(CEDR, ADR Group)
促進的なメディエーション (Facilitative Mediation) ※助成的と訳される場合もある。
9
・ このプロセスでは、結果のコントロールは殆ど完全に当事者およびその弁護士(counsel)
に委ねられている。メディエーターはコミュニケーションを促進させ、全ての関連する
情報が当事者間で交わされ、聞かれていることを保証しながら解決のための選択肢を生
み出すのを助ける。メディエーターは、当事者の利益から問題を区別することも助ける。
(JAMS)
・ メディエーションのアプローチで、中立の第三者が、当事者が解決しようとする自己努
力を手助けすること。メディエーターはプロセスに責任があるが、当事者は中身
(content)に責任をもつ。このアプローチは時々、”interest-based” mediation と呼ばれ
る。(CEDR, ADR Group)
変容的なメディエーション (Transformative Mediation)
・促進的なメディエーションと似ている手法だが、使うプロセスを決定するのはメディ
エーターと当事者である。(CEDR, ADR Group)
リフレイミング(reframing)
・ メディエーターによって使われる手段で、当該状況がより肯定的(ポジティブ)にみら
れるように、言い換えや言葉の構成、状況構成・順序の並び替えをすること。
(CEDR)
10
(凡例)
凡例
国
出典
C
米
University of Colorado, USA
http://www.colorado.edu/conflict/peace/glossary.htm 2003
UMA
米
Uniform Mediation Act of 2001 (US)
ADR Act
米
Alternative Dispute Resolution Act of 1998 (US)
FJC
米
Federal Judicial Center
“Guide to Judicial Management of Cases in ADR” 2001
JAMS
米
http://www.jamsadr.com/images/PDF/PressKit/jams_glossary.pdf
2003
AAA
米
American Arbitration Association
http://www.adr.org/index2.1.jsp?JSPssid=16235&JSPsrc
=upload/livesite/focusArea/consumer/glossary.htm 2003
AAA テキスト
米
トレーニングテキスト
“Mediation – 40-Hour Mediator Skills Traing for Court-Based
Settlement Programs”
CIArb
英
http://www.arbitrators.org/DRS/adr_def.htm 2003
CEDR
英
http://www.cedr.co.uk/index.php?location=/library/glossary.htm
2003
ADR Group
英
http://www.adrgroup.co.uk/glossary_of_adr_terms.html 2003
ADR Canada
カ
ADR Institute of Canada
ナ
http://www.adrcanada.ca/news/faq.html 2003
ダ
リーダーズ英
日
松田徳一郎監修『リーダーズ英和辞典』研究社
日
田中英夫編『英米法辞典』(東京大学出版会、1991)
和辞典
英米法辞典
※ 全て、英語文献はすべて、抄訳かつ仮訳です。
※ レビン小林久子『調停者ハンドブック−調停の理念と技法』信山社出版株式会社
(1998 年)は、単語選定に当たって参考にしました。
11
プログラム3 14:55∼15:40
対話による自律的解決
大澤恒夫
資料4:「わたしたちはなぜ、対話を求めるの
でしょうか」
資料5:「対話の価値」
ADR 人材育成試行プログラム
大澤恒夫
2003/11/15
ADR では、相談から調停(Mediation)等まで、「対話」が中心となります。
では・・・・
●
人が人と対話をする意味は、どこにあるのでしょうか?
をしなければならないのでしょうか?
どうして、対話
この問題に関する以下の説明について、みなさんはどのようにお考えになりますか?
□
「法律で決まっていないことについては、話し合いで決める以外にないか
ら。」
□ 「裁判をするより、話し合いのほうが費用を掛けずに早く解決できるかもし
れないから。」
□
あなたのお考えは?
●
対話とは、どのようなことなのでしょうか?
この問題に関する以下の説明について、みなさんはどのようにお考えになりますか?
「人は話せば分るはずだから、理を説いて分らせるように説得すること。」
お互いの話で良い点・悪い点をはっきりさせ合って、
□ 「お互いに話を聞いて、
譲歩をし合うこと。」
□
□
あなたのお考えは?
●
対話に関わるわたくしたちの位置付けと役割は、なんでしょうか?
この問題に関する以下の説明について、みなさんはどのようにお考えになりますか?
□ 「相談の場合、事実関係を聞いて、当事者が法律的にどういう権利を持って
いるのか知らせてあげるのが役割。」
□ 「調停の場合、双方の話を聞いて、双方に譲歩すべきところは譲歩するよう
に説得して、和解させるのが役割。」
□
あなたのお考えは?
「対話」の価値
わたしたちはなぜ、対話を求めるのでしょうか
ADR人材育成試行プログラム
大澤恒夫 2003/11/15
1
個人と個人の相互尊重
気づく
変わる
「対話」⇒共生
気づく
自分で決める自分の人生
自分で決める自分の人生
聴く
語る
語る
聴く
変わる
ADR人材育成試行プログラム
大澤恒夫 2003/11/15
2
「対話」の前提
z 「私とあなたは違うということ。
z 私はあなたと違う言葉を話しているというこ
と。
z 私はあなたが分からないということ。
z 私が大事にしていることを、あなたも大事に
してくれているとは限らないこと。
z そしてそれでも私たちは、理解し合える部
分を少しずつ増やし、広げて、ひとつの社
会のなかで生きてゆかなければならないと
いうこと。
z そしてさらに、そのことは決して苦痛なこと
ではなく、差異のなかに喜びを見出す方法
がきっとあるということ。」
(平田オリザ『対話のレッスン』小学館、221頁)
ADR人材育成試行プログラム
大澤恒夫 2003/11/15
3
「納得」 と 「対話」
自分で決めたと思えること
萎縮
自律の力
対話
対話
自律の力
萎縮
納得
過剰
過剰
正しいと思えること
ADR人材育成試行プログラム
大澤恒夫 2003/11/15
4
「対話」の支援
対話
相談=対話
励まし
相談=対話
気づき
自律の力
Mediation
中立的第三者による
対話の促進
励まし
気づき
自律の力
ADR人材育成試行プログラム
大澤恒夫 2003/11/15
5
わたしたちはなぜ、
「対話」をもとめるのでしょうか
いつも心に留めておきたいことです
ADR人材育成試行プログラム
大澤恒夫 2003/11/15
6
プログラム4
15:45∼18:15
聴くことの意味とその技法
稲葉一人
資料6:「Communicationと聴くとMediation」
資料7:「5人の物語」
資料8:「紛争状態での当事者の心理と聴くと
Mediation」
資料9:「参加型グループワーク」
資料10:「エクササイズ2」
資料11:「エクササイズ3」
資料12:「エクササイズ4」
資料13:「エクササイズ5」
Communicationと聴くと
Mediation
プログラム4
1
Communicationをするということは
相手と「つきあう」ということ
付き合う
1 まじわる。交際する
「悪友に・・・」
2 義理や交際上の必要から
相手をする
「一杯・・・」「買い物に・・・」
突き合う
角と角を持った動物が角を突き
合うことから生まれたもの。
互いに正面から向き合っていく、
争いを覚悟して「つきあう」こと
を意味する。
2
ボールを投げる
Aさんの枠組み
Bさんの枠組み
3
違っている枠組み
コミュニケーションエラーが生じ、苦労をする
違っているから、人は深くコミュニケーションする
違っていることを前提にコミュニケーションを実践する
4
私は誰
z
z
z
私は・・・
私は・・・
私は・・・
5
私は誰
z
z
z
z
私は、女性です−属性
私は、おっちょこちょいです。
−性格・行動傾向
私は、旅行が好きです。−欲求
私は、眠いです。−今の状態
私は色々な(目に見えないまたは意識しない)
枠組みのなかで、Communicationしているのです
そして、それは、Communicationをしている相手も
同じなのです
6
自分を知る
自分の自己概念(枠組み)と合った経験をした時、
合った人と出あったとき、すんなりと
受け入れることができる
しかし、そうでないときは、すんなりといかない
自己概念を豊かにする
自己概念を揺さぶってみる
7
自己概念を豊かにする
心の広い人(自己概念の広い人)が、よく
話を聴いてくれると、自己概念の変容にきっかけ
を得ることができる
他の人からのフィードバックを得る
8
フィードバック
他の人に鏡になってもらって、その人(の鏡)
に自分がどのように映っているのかを
教えてもらう
鏡は評価をしない
9
自己概念を揺さぶってみる
固定した自己概念ではなく、
今いる相手との関係で自己概念を
新しく作りあげる(変容させる)
自分を外(相手の立場)から見てみる
10
好き嫌いと価値観
午後5時ころの電車の中です。前には男子高校生
が座っています。むしゃむしゃと、ハンバーガーを
食べ始めました
午前10時ころの電車の中です。前には女子高校生
が座っています。おもむろに手鏡を持ち出して、
メークをし始めました。
11
大切なものは
婚約して結婚の日取りも決まっている
AさんとBさん
ところが、結婚式の2週間前に、Aさんが突然
交通事故に遭って半身不随の状態に
あってしまいました。車椅子なしでは
生活できません。
私たちは、生きて行く過程で、どちらかを
選ばなければならないときが必ずあります
12
5人の物語
1 4人から6人のグループを複数作ります。
2 このお話には、5人の登場人物が出てきます。まず、最初の
5分で、一人で好き嫌いで、順位(一番ましの順)つけ、用紙の
裏側に書きます。
3 これを順に発表します。
4 メンバーの順位一覧表ができれば、約15分、話し合って
グループとしての順位をつけて下さい。多数決を避けて下さい。
できるだけ、1位から5位までの順位をつけて下さい。
5 グループごとに、皆で披露しましょう。
13
4つの驚き
人によって、順位付けが違うことに驚く
人によって、理由付けや見ているところが違う
ことに驚く
意見が違っても、なんとか合意できることに驚く
グループにより合意できた順位が違うことに驚く
14
違い
意見は違っている。あなたの言うことはわからない
だから、同意できない
意見は違っている。でもあなたの言うことはわかる
でも、今は同意できない
意見は違っている。でもあなたの言うことはわかる
どちらかを決めるなら、あなたに同意してもいい
15
私たちの誤解
相手と自分とが、考え・意見が一致しないと
受け入れることができない
一致を求める
コミュニケーション
説得・強要のコミュニケーションになりがち
16
新しいコミュニケーション
(必ずしも)相手と自分とは、一致しなくとも
受け入れることができる
深いコミュニケーション
違いを尊重したコミュニケーション
17
思い込み(先入観、固定観念)
もともとは正方形のピザパイだったのですが、
1人が4分の1を先に食べてしまったのです。
これから今いる4人で食べたいのですが、
正確に4等分するにはどのように切れば
いいですか。
18
思い込み
私たちはものごとに対して「思い込み」をすると同様に
日常生活の中で、人に対しても多くの「思い込み」
をしている
自分が「今、あることがらをどのように見ているか」、
「今、何に縛られているか」を意識する
発想の転換
19
第一印象
First Impression
1 あなたの第1印象で、相手を見て、各質問に記入
します(深く考えないで)。そう感じた理由もメモして
おいて下さい。
2 自分のことは、自分欄に記入しておいて下さい。
3 各人でそれぞれを順に伝えて下さい。伝える間は、
他の人は発言しないで下さい。
20
3つの驚き
いかに自分はパターン化された認知をしているか
を知って驚く
人から自分がこんなにパターン化されて認知されているか
を知って驚く
パターン化された認知と「その人」が違うことを知って驚く
21
思い込みを超える
経験に基づいて作られ固まってしまったものの
見方や考え方
相手の情報を集める
別の思い込みを招く
情報を持つこと、人と出会えば
なんらかの印象を持つことを否定する
ことではない
今、相手に対して、ある事柄に対して
自分がどのような思い込みを
しているかに、どれだけ気づき、自分を
変容させることができるか
22
コミュニケーションの仕組み
記号化
発信者
記
号
・
信
号
受信者
解読化
23
今日は会社を休む
Aさんは、若手の独身サラリーマンです。朝起きると
38℃の熱があり、とてもしんどいので仕事に行きたく
ない、休もうと思いました。
職場にどのように電話しますか。
24
今日は会社を休む
Aさんは
「朝起きると38℃の熱があって、ふらふらするので
休ませてください。部長にもそう伝えて下さい」
と同僚のBさんに電話で伝えました。
Bさんは、部長にどのように伝えますか。
25
コミュニケーションとは
話し手は、事実そのものだけではなく、事実を
もとにして自分が思ったことを伝える
100%間違いなくそのままということはない
受け手は自分なりの解釈をする
Two-Way
一方通行では正確には伝わらないことを
心にとどめる
26
感情
何かに接したときに、人の中に起こる
心の状態や、体の状態についての感じ
感情から目を背ける
感情を表す
感情的になる
27
感情を表す
初心者の友人が、高速道路に入って急にスピードを
あげている。怖くて、スピードを落とさせたい。
あなただったら、どうしますか
そんなにスピードを出すと危ないよ
スピード違反でつかまるよ
ぶるぶる震えながら、「私怖い」
わめきちらす
28
感情を受けとめる
感情的になる
第三者が翻訳する
Paraphrasing
感情を表す
29
話がうまくいかないとき
自分のたずね方に問題があるのに気づかず
次から次へと質問を投げかけていないか
訊く
聴き手は話し手の立場に立って、相手が
できるだけ具体的に話せるように、援助
するような形で語りかけよう
オープン・エンドクエスチョン
30
二つの会話
z
z
z
z
z
z
z
z
z
z
母:今日は学校おもしろかった。
子:うん
母:体育の授業では何をしたの
子:鉄棒
親:うまくできたの
子:うん
親:それでは算数では何をしたの
子:テスト
親:できたの?
子:悪かった
31
二つの会話
z
z
z
z
z
z
z
z
母:今日は学校どうだった
子:別にどうってことないけど・・・
母:でも、何かつまらなそうな顔をしているので気
になるんだけど
子:そう
親:何があったのか、具体的に話してよ
子:うん。今日ね、同じクラスの○○君が、ぼくをい
じめてきたの
親:いじめてきたって、どんなことをしてきたの?
子:ぼくのかばんを隠したの・・・
32
Communicationに驚く
誰もが日常的に行っていることが
こんなに深いことを知って驚く
コミュニケーションが持っている落とし穴
を知って驚く
驚きを次につなげよう
33
Mediator
Communicationの問題を越えるためにお手伝いをする
聴く
Reframing
枠組みに揺さぶりをかける
感情を受けとめる
Paraphrasing
展開しやすい質問をする
Open-End Question
34
聴く
z
z
z
z
z
z
相手が伝えようとする内容を正確に受けとめる
伝え手である相手の気持ちに関心を向け、その気
持ちをそのまま受けとめる
(一旦)伝え手である相手の枠組みでとらえる
相手の発言や行動にきちんと反応する
相手の表情など、からだが出しているサインに目
を向ける
聴くことは、相手の成長、そして、自分の成長にか
かわること
35
プログラム4
5人の物語
突然の暴風雨に見舞われたクルーザー(大型ヨット)が2艇、無人島に避難しました。1艇には、若い
女性シルビアとそのフィアンセのアルバートが、もう1艇には、ヨットマンであるカールと老人のジョン
とが乗っていました。
日が暮れて暴風雨がおさまったところ、アルバートが 40℃を超える高熱にうなされ、
意識不明に陥りました。シルビアは、アルバートの汗を拭いたり、水を口に含ませたりするなど、いろい
ろと手を尽くしてみましたが、容態が全くよくなりません。夜はどんどん深まります。クルーザーの操縦
ができない彼女は、何とか彼を助けたい一心で、カールに医者のいる島まで連れて行ってくれるように頼
みました。するとカールは、
「この島から医者のいる島まではどうみても5時間はかかる。それに夜の航海
は危険で命がけになる」としばらく考えていましたが、
「あなたを、今、抱かせてくれたら、クルーザーを
出しましょう」と言いました。思いもよらない言葉に困り果てたシルビアは、ジョン老人に、
「どうしたら
いいでしょう」と相談したところ、
「今あなたにとって何がよいのか、何が悪いのかは私に言うことはでき
ません。自分の心に問い掛けて自分で決めるしかないでしょう」と言うのみでした。シルビアは悩み苦し
んだ上、カールの言うとおりにしました。夜明けにカールの操縦するクルーザーは、無事、医師のいる島
に着き、アルバートはルドルフ医師の手当てを受けることができました。3日3晩、ルドルフの懸命な看
護により、アルバートは目を覚ましました。シルビアはアルバートを抱きしめながら、ことの成り行きを
話そうかどうか大いに迷いましたが、正直にすべてを打ち明けました。それを聞いたアルバートは怒り狂
い、彼女に「何ていうことをしたんだ!絶交だ!!」と言い、彼女を部屋から追い出しました。シルビア
は、あまりのことに呆然とし、浜辺に座って波の行方をみつめていると、ルドルフ医師がやってきて「ど
うしたの?」と聞きました。彼女が事情を話すと、
「僕は君の気持ちが痛いほど分かるよ。彼には君のこと
をよく話してみよう。きっと彼も病気が治れば理解してくれると思う。それまでのしばらくの間、私があ
なたの世話をしてあげよう」と言いながら、彼女の肩に手をかけました。(人間関係づくりトレーニング
21 頁を参考にし、アレンジしました)
。
メンバー
自分
理由
2
登場人物
若い女性
シルビア
フィアンセ
アルバート
ヨットマン
カール
老人
ジョン
医師
ルドルフ
1
3
4
5
6
チーム
プログラム4
思い込み
第一印象
メンバー
自分
2
3
4
質問
1
好きな食事
① 和食
② 洋食
③ 中華
④
その他
2
好きな色
① 赤
② 白
③ 青
④ 緑
⑤ 黄
⑥ 黒
⑦
その他
3
血液型
① A
② B
③ O
④
AB
2
5
6
紛争状態での当事者の
心理と聴くとMediation
プログラム4
1
あなたの前に来る人の気持ちを考えてみよう
z
z
z
z
z
z
z
z
ある夜、隣の犬が吠えて寝られない。
「飼主に話す(文句を言う)べきであろうか。」「そのうち吠えな
くなるかもしれないし、こっちが慣れるかもしれない」
しかし、犬はまた吠えだす。
「明日はきっぱり飼主に話しをしよう」
今度は別の理由で眠れなくなる。
「犬のことで、隣人と口論になるかも」「隣人にはよく思われた
しい、対立したくない」
そこで、結局「何も言わないことにする」
しかし、犬は吠え出す。
2
様々な変容
Originalな紛争
知識
他人の意見
変容した紛争
3
特徴的な心理状態
激しい敵意
自己中心的
こだわり
しかし、誰かによく聴いて欲しい
4
来談者は
何を求めているのかを明確に意識していることはまれ
何をしたいのかを十分意識していることはまれ
事実認識の多様性の中にいる
5
専門家の誤解
問題を抱えて相談に来たのだから、
何か具体的で、専門的知識を要する問題があるのだろう
専門家としては、専門知識を駆使してアドバイスをしなければ
来談者の話からどこにアドバイスをする要件があるか
を見つけなければならない
asking
6
専門家と接したときの心理
相談場面を想定して
7
不安のある当事者は
相手が、本当に信頼できるか
どうか分かるまで慎重になる
相手を見ながら小出しする
8
信頼とはなにか
「専門家は怖い」という印象
それは間違っているとしかれれはしないか
悪いこと、不利なことを言えば、不利に扱われる
信頼は、形成するもの
9
信頼関係形成のプロセスの先行
コミュニケーションを中心とした面接
聴く技術
問いの工夫
聴いてもらった経験が乏しい人に
真剣に聴いてもらったという経験を
もってもらう
10
聴く
受けとめる
確認しながら受けとめる
言い換えながら受けとめる
枠組みをゆすぶりながら受けとめる
開かれた質問をしながら受けとめる
11
開かれた質問
言葉を選んで答えることができる
情報量が多い
ハイ・イイエでは答えることができない問題への配慮
12
いくつかの避けるべき反応
議論
称賛
解釈
診断
敏感な箇所への質問
他者への弁護・非難
13
Mediatorに必要な基本的技法
と能力
聴く技術
伝える技術
当事者のニーズを把握し、言語化する能力
当事者の発するシグナルを敏感に対応する能力
14
一つの心構え
not-knowing
強い純粋な好奇心を持っていることを伝える態度
当事者の話を自分自身の価値観のふるい
(経験や信念)を通さず聴く技術
聴くと同時に、評価するのは難しい
早く解決しなければというあせる
気持ちを避けることができる
15
Active listening
繰り返す
Paraphrasing
NotKnowing
Reframing
Summarizing
Open-End Question
言い換える
枠組みを揺さぶる
要約する
開かれた質問
16
プログラム4
参加型グループワーク
1
ねらい
問い
「きく」を考える
「訊く」
「聞く」
「聴く」を考
①
グループ分けします
えます。
②
チューターが各グループに入り、お手伝
(30 分)
プロトコール
①どのような場面で使いま
すか
いをします
③ グループの話し合いを簡単な記録にと
②どう違いますか
って、後に発表をする方を決めます。
④
意見交換をします(約 15 分)
。
⑤ ホワイトボードに発表者が書き口頭で
補い、共有を図ります。
2
Communication 上
夫婦間紛争のビデオを見
①
グループ分けします
の問題を分析し、第
て感情を含むコミュニケー
②
チューターが各グループに入り、お手伝
三者としての支援の
ションを考える。
方法を考える
①Communication 上どのよ
(30 分)
いをします
③ グループの話し合いを簡単な記録にと
うな問題がありますか
って、後に発表をする方を決めます。
②これを二人が回復するた
④
ビデオ(約5分)を見ます。
めには、どのような工夫がで
⑤
意見交換をします(約 15 分)
。
きますか
⑥ ホワイトボードに発表者が書き口頭で
③中立的な第三者が行うと
補い、共有を図ります。
すると、どのような工夫があ
りますか
3
「きく」を実践する
(30 分)
友人の転職に悩む人の相談
①
グループ分けします。
を受けてみて、どのように感
②
チューターが各グループに入り、お手伝
じるか。
いをします。
①来談者は、どのような感想
③
を持ちましたか。
来談者(クライアント)と相談員(カウ
ンセラー)を決めます。
②相談員はどのような感想
④ グループの話し合いを簡単な記録にと
を持ちましたか。
って、後に発表をする方を決めます。
③見ていた人は、どのように
⑤
感じましたか。
来談者には、「FACT SHEET」が配ら
れます。必要な範囲で事実や感情を付け
加えて結構です。
⑥
相談員(カウンセラー)は、「FACT
SHEET」を読まず、相談者の相談に現
実に対応する想定です。
⑦
約5分を目処に「きく」を実践しましょ
う。
1
プログラム4
⑧
意見交換をします(約 15 分)
。
⑨ ホワイトボードに発表者が書き口頭で
補い、共有を図ります。
4
「伝える」を実践す
別席で、犬に吠えられてけが
る
をした事件での「伝える」を
①
グループに分かれる。
経験してみて、伝えるという
②
チューター役が一人入り、お手伝いをし
(30 分)
(手順1)
作業を考える
ます。
①相手方に、来談者のお話し
③
来談者(女性)と相手方(男性)、調停
は伝わっていましたか。
者(男女どちらでも)、書記役兼発表役
②相手方は、調停者から伝え
を決めます。
ていただいたとき、どのよう
④
に感じましたか。
来談者・相手方には個別の情報が渡され
る。
③来談者に、相手方のお話し
は伝わりましたか。
(手順2)
①
④来談者は、調停者から伝え
ていただいたとき、どのよう
来談者と調停者が個別に話しをする(数
分)。
②
相手方と調停者が個別に話しをする(数
に感じましたか。
分)。
⑤調停者の伝えることに、ど
相手方は、開口一番、「相手はなんとい
のような工夫がいるでしょ
っていますか」「怒っていますか」と質
うか。
問し、調停者はこれに応じる。
③
来談者と調停者が個別に話しをする(数
分)。
来談者は、開口一番、
「相手はなんと言
っていますか」「謝るといっています
か」とたずね、調停者はこれに応じる。
この3パターンが終われば終了です
(全部で約 10 分)。
④
調停者は、来談者相手方の言い分を聴
き、これを相互に伝えることに徹してく
ださい。
⑤
意見交換をします(約 15 分)
。
⑥
ホワイトボードに発表者が書き口頭で
補い、共有を図ります。
5
第三者の役割の多
対話促進・紛争解決における
①
グループ分けします
様性について考え
第三者(紛争に利害のない
②
チューターが各グループに入り、お手伝
る
人、Neutral)の役割はなん
2
いをします
プログラム4
(30 分)
でしよう
③ グループの話し合いを簡単な記録にと
①1対1の対話(相談)にお
って、後に発表をする方を決めます。
ける第三者の役割とその技
④
法
⑤ ホワイトボードに発表者が書き口頭で
②三者(三角)の対話(調停・
Mediation)における第三者
の役割とその技法
3
意見交換をします(約 15 分)
。
補い、共有を図ります。
プログラム4
エクササイズ2
Communication 上の問題を分析し、第三者としての支援の方法を考える
(概要)
これから、実際の事件を関係者のプライバシーを侵害しないようにアレンジし、担当者
がスクリプト(シナリオ)を書き、劇団の方に協力をしていただいて演じたビデオを見ま
す。
事案は、岡田進さん(43歳)と忍さん(40歳)は、結婚12年、子供はいませんが、
進さんは、とある塗装会社に勤め、管理職をしています。忍さんは、パート勤めをしてい
ますが、少し健康状態が悪いようです。昨年家を新築しました。進さんは、最近帰りが遅
くなり、飲んで帰ったり、外泊をするようになったこともあり、忍さんは、進さんに女性
がいると感じ、興信所に素行調査を依頼すると、スナック勤めの早見恵さん(28歳)の
部屋に行っているとの報告が出されました。
シーンは、①忍さんのモノローグの場面、②夫進さんが、深夜帰宅して、二人で話す場
面です。
(共有の課題)
そこで、これらの場面を見た後、次の各点について、グループごとに、お話し合いをし
て下さい。
①
Communication 上どのような問題がありますか
②
これを二人が回復するためには、どのような工夫ができますか
③
中立的な第三者が行うとすると、どのような工夫がありますか
(手順)
① グループ分けします
② チューターが各グループに入り、お手伝いをします
③ グループの話し合いを簡単な記録にとって、後に発表をする方を決めます。
④ ビデオ(約5分)を見ます。
⑤ 意見交換をする(約 15 分)。
⑥ ホワイトボードに発表者が書き口頭で補い、共有を図ります。
では、ビデオ(約5分)を見ましょう。
家庭内紛争スクリプト
忍さん
夜11時半、興信所からの報告書片手に、「やっぱり、勘は当っていたわ。」「今晩は、いつ
ものようにはのらりくらりさせないわ。徹底的に吐かせてやる。もし、しらばっくれるな
ら、離婚訴訟でもなんでもして、がっぽり慰謝料をとってやる。」
一方、「でも、子供もいないし、生活費もままならないわ。離婚して、このまま一人で暮ら
1
プログラム4
すのは寂しいわ。昨年の4月までは、仲が良かったのに、こんな風になるとは。一体どう
すればいいの。」
そんなところに、進さんが、酔って帰ってくる。
(二人で話す)
進
ただいま(鼻歌を歌っている)
忍
お帰り。
(冷たく、責めるように)遅かったわね。今日もご機嫌ね。
進
(ネクタイを取りながら)うーん、風呂に入る。
忍
お風呂に入る前にお話があるの。ここ(食卓)に座ってちょうだい。
進
俺は疲れているんだ。明日にしてくれ(と言って、食卓の椅子に座る)。
忍
いつもいつも先延ばしにするのですか。逃げるんですか。このごろ夜遅くまで飲んだ
り、外泊を繰り返す理由を説明して下さい。一体。
進
接待だ接待。
忍
なんで急に接待が多くなるの。以前は全然接待などで遅くならなかったじゃないの。
また、外泊はどう説明するのよ。
進
中小企業は今とても受注難なのだよ。だから、できるだけこまめに業者さんとコミュ
ニケーションをとらなければならないのよ。仕事だ仕事。
忍
私とのコミュニケーションもとれないのに、業者となんかとれるはずがないわ。じゃ
あ、外泊はどう説明するのよ。今日は私が納得するまで、寝ませんから。
進
接待で遅くなり、会社の仮眠室で寝ているんだ。次の日が早いから。早いのだ早いの
だ。
忍
よくそんな嘘を抜けぬけと言えるのね。
進
それはどういう意味だよ。会社に確認したとでもいうのか。
忍
(考えながら)興信所に調査を依頼したのよ。
進
(とまどいながら)俺が信用できないのか。
忍
信用できないようなことをしているのは、あなたじゃない。
進
(突き放したように)もうお別れだね。俺を信用できないなら、離婚だ離婚だ。
忍
進さん言って下さい。どういう事情なんか。なんで、こうなったの。
進
信用していないあんたに話す言葉はないね。
忍
それじゃー実家の母に相談し、あなたのご両親にも連絡するわ。
進
絡(から)め手から責めるのか。いやな女になったね。昔はそうじゃなかったのに。
忍
女は皆歳をとるわ。私ももう若くないわ。でも、私を置いてきぼりにしたのはあなた
じゃない。
進
俺は仕事を一生懸命しているだけさ。一生懸命一生懸命。それを、こんな形で責めて。
忍
私を追い詰めているのはあなたの方じゃないの。もう話ができない。今日から別の部
屋で寝ます(と言って、別の部屋に消える)。
2
プログラム4
進
どうぞどうぞ。
忍
進さんは、やっぱりやましいのだわ。どうしよう。自分が興信所に調査を依頼しなけ
ればよかったのじゃ、知らない方がよかったのか、知っても調査したことを言わなけれ
ばよかったのか。明日離婚歴のある、高校の同級生の裕子さんに相談しよう。
進
まずかったよな。知られているのか。でも、恵との関係は、今はもう切れているし。
世間体もあるし。親父にも怒られるだろうな。謝るしかないか。興信所の調査結果はど
んな内容だろう。報告書があっても、不倫をした絶対的な証拠などにならないよ。去年
この家を建てたところだし、ローンは残っているし。俺が忍をほっといたからか。
3
プログラム4
エクササイズ3
「きく」を実践する
(概要)
これから、ある女性が、友人からの転職の相談を受けて困っているという内容の相談を
受けて、話を「きく」を実践してみます。
これを通じて、「きく」を立体的に考えます。
(手順1)
① グループ分けします。
② チューターが各グループに入り、お手伝いをします。
③ 来談者(クライアント)と相談員(カウンセラー)を決めます。
④ グループの話し合いを簡単な記録にとって、後に発表をする方を決めます。
⑤ 来談者には、
「FACT SHEET」が配られます。必要な範囲で事実や感情を付け加えて
結構です。
⑥ 相談員(カウンセラー)は、
「FACT SHEET」を読まず、相談者の相談に現実に対応
する想定です。
⑦ 約5分を目処に「きく」を実践しましょう。
⑧ 意見交換をする(約 15 分)。
⑨ ホワイトボードに発表者が書き口頭で補い、共有を図ります。
(手順2)
①
来談者は、そのような感想を持ちましたか。
②
相談員は、どのような感想を持ちましたか。
③
見ていた人は、どのように感じましたか。
1
プログラム4
相談者(クライアント)用の FACT SHEET
相談者
女性
会社勤めをしている男性の友人から相談を受けている。友人から、
「職を変えたい」と言
われて、困っている。私個人の意見だけでその人にアドバイスをしても、それが彼にプラ
スになるかマイナスになるかは分からないでしょう。彼には非常に好意を持っていますが、
それほど深く付き合っているわけではないので、案外気安く答えられそうに思うのですが、
深く考えると、分からなくなり、こちらに相談にきました。
(河合隼雄「カウンセリング入門」12 頁以下を参考に、改編しました)
(注)
・相談者になりきり、本当に困っていることの感情を付け加えて表現してください。
・友人との関係、友人の現在の職業・期間、変更後の職業等は、相談員からの質問に応
じて、適宜付け加えてください。
1
プログラム4
エクササイズ4
「伝える」を実践する
(概要)
これから、実際の事件をもとに作った事例をもとに、別席で、犬に吠えられてけがをし
た事件での「伝える」を経験してみて、伝えるという作業を考えます。
事案は、Aさん(女性、20 歳)は、2003 年2月2日午後4時 15 分ころ、X市にある「新
ゆり公園」内の通路を自転車に乗って通行していたところ、突然Bさん(男性、23 歳)の
所有する大型犬(ゴールデンレトリバー)が飛び出し、Aさんは倒れ、左大腿骨骨折の傷
害を負ったというものです。Aさんは、その後約1月半通院して治療を受けたが、Bさん
は、その間にお見舞いにも行っていません。Aさんから、Bさんと話しをしたいとの申出
があり、地元の話しの橋渡しをするボランティア団体のCさん(調停者)が、Bさんに連
絡し、Bさんもこれを受けたので、お話し合いをすることとなりました。
(東京地方裁判所平成 15 年1月 24 日判決(平成 14 年(ワ)第 14626 号損害賠償事件
をアレンジして作成した。)
通路
新ゆり公園
A
さ
ん
Bさんの犬
×
の
約 10m
自
Bさん
転
車
(手順1)
① グループに分かれる。
② チューター役が一人入り、お手伝いをします。
③ 来談者(女性)と相手方(男性)、調停者(男女どちらでも)、書記役兼発表役を決め
ます。
④ 来談者・相手方には個別の情報が渡される。
(手順2)
① 来談者と調停者が個別に話しをする(数分)。
② 相手方と調停者が個別に話しをする(数分)。
相手方は、開口一番、「相手はなんといっていますか」「怒っていますか」と質問し、
調停者はこれに応じる。
1
プログラム4
③ 来談者と調停者が個別に話しをする(数分)。
来談者は、開口一番、
「相手はなんと言っていますか」
「謝るといっていますか」とた
ずね、調停者はこれに応じる。
この3パターンが終われば終了です(全部で約 10 分)。
④ 調停者は、来談者相手方の言い分を聴き、これを相互に伝えることに徹してください。
⑤ 意見交換をします(約 15 分)。
ホワイトボードに発表者が書き口頭で補い、共有を図ります。
(共有の課題)
そこで、これらのロールプレイをした後、次の各点について、グループごとに、お話し
合いをして下さい。
1
相手方に、相談者のお話しは伝わっていましたか。
2
相手方は、調停者から伝えていただいたとき、どのように感じましたか。
3
相談者に、相手方のお話しは伝わりましたか。
4
相談者は、調停者から伝えていただいたとき、どのように感じましたか。
5
調停者の伝えることに、どのような工夫がいるでしょうか。
2
プログラム4
Aさんのお話の概要
買い物のため、公園内を通行していて、突然このような被害に会った.
この通路はよく通行するところだが、サイクリングコースとされている。
公園では、紐(ひも)をつけずに、犬を放し飼いにすることは禁止されている。
大型犬は突然右手から出てきて、私の自転車に当たったので、倒れたもので、私には落
ち度はない。
通院期間は、寝起きにも不自由をした。しかし、Bさんからは、一度もおわびがないば
かりか、連絡もない。幸い、後遺症はなく、元気になったが、一歩間違えば、もっとひど
いことになる。事故のことを思い出すたびに、怖くなるし、事故以降は、その公園にも行
けないし、自転車にも乗る気にならない。
治療費は、2万円弱だが、通院期間の不自由やこれにより大変精神的に傷ついたので、
慰謝料は 100 万円程度もらえると友人から聞いている。
1
プログラム4
Bさんのお話しの概要
Aさんが通行していた通路は、自転車は乗り入れ禁止となっている。
この公園では、多くの人が夕方、犬を散歩させており、放し飼いにして犬を遊ばせてい
る。
直前まで紐(ひも)をつけてこれをもっていたが、犬が驚いて逃げ出したものである。
犬は、Aさんの自転車には当たっていない。
仕事(コピー機の販売)は忙しく、連絡する時間がなかった。Aさんには、事故の時に
私の自宅連絡先を教えていたので、必要なら連絡があると思った。私に落ち度があるかど
うかは別として、怪我(けが)をされたことについては悪かったと思っている。
2
プログラム4
エクササイズ5
対話促進における第三者の役割を考える
できること
1
本人が一人で
2
本人が(紛争の)
相手と対話して
3
本人が第三者と
対話して
4
本人が(紛争の)
相手と対話する
に際し、第三者の
支援を受けて
できないこと
「ADRを担う人材育成に関する
研究会」試行プログラム 第2日
2003年11月29日(土)13:00-18:00
経済産業研究所
ADRポリシープラットフォーム
第1日の振り返り
z
プログラム1 ビデオを見て、違いや共通点
を共有する
z
プログラム4 「きく」を考える
プログラム1
題
内容
課題
プログラム1
(概要)
(共有の課題)
ビデオを見て、違いや共通点を共
実際の事件をアレンジし、担当者
有する
がスクリプト(シナリオ)を書き、 見た後、次の各点について、グル
そこで、これらの場面を通しで
劇団の方が演じたビデオを見る。
ープごとに、お話し合いをする。
事案は、俊子さんの妹の吉田久美
1
全体を見た感想
さんが、その夫(吉田秀夫さん)
2
電話応対について
のキャッシュカード等を使って、
3
調停でのやり取りについて
二人の実母の看護等の費用に使っ
4
その他
たことから、秀夫さんやそのお母
さん(吉田しの)から、お姉さん
である俊子さんに返済が求められ
ている。
シーンは、①ある調停センター
に電話がかかる場面、②再度電話
がかかる場面、③第1回の調停の
場面、④第2回の調停の場面と分
かれる。
1班
2班
法律上の判断をし
うまくおさまっ
てくれない。どこ
3班
4班
5班
全体に関して
全体の感想:事
全体の感想:全体が
た事例という印
事案そのものが、調
実確認の部分
つかめなかった、姑
で聞くのか
象があった。
停に適当か疑問
が足りない(母
と嫁のわだかまり
電話が入ったと
始めの説明が難
調停人が何らの判断
の病状、夫婦関
が消えたのか疑問、
き 、「 調 停 セ ン タ
しい。専門用語、 を下さずにうまくい
係、姑と嫁の同
調停人の役割がわ
ー」と答えるべき。 冷たい印象、機
くのか
居・別居)
かりにくい、対面で
調停センターがで
械的、受身(名
紛争の要点がまとま
物語がうわす
座らせた意図は、調
きることの説明を
乗りなし、あい
りすぎて、聞き取る
べりしていた
停人がメモをとら
すべき。
づちなし)
重要性が伝わらない
感情的な部分
ず、領収書の確認も
かなりスキルのあ
調停員はどこま
人間関係(背景)が
をどうおさめ
しなくていいのか、
る調停員でなけれ
で背景を知って
見えず、聞き取りが
ていくかとい
過程がセンターに
ばそこまでできな
いるのか。知ら
不十分との感じ
う部分がなか
残らないでいいの
い。
なくてできるの
電話では、受け付け
った
か
しかし、相談者の
か。
とメディエーターの
できすぎた相
当事者があれだけ
話しの上手・下
当事者が初めか
役割分担をどの様に
談処理で、日常
整理できているこ
手・声の大小のさ
ら同席する本音
区別するのか
の相談業務と
とは少ない、未整理
ばき方が難しい。
がでにくい。
ビデオの受付は事務
かけ離れてい
の状態から聴き取
書面の執行力があ
うまく言えない
的過ぎ
る
るスキルが見たか
るのか。
人(感情的に表
調停は、当事者の席
相 談 の 入 り
った、∼ですね?と
相談者が結論を出
現できない)か
がラウンドテーブル
口:受付段階に
確認していたが、大
すのに、調停セン
ら聞き出すこと
方式の方が望ましい
ついて、名乗っ
切な点だと感じた、
ター以外のところ
はしないのか
中立性をどこまで貫
ていない、あい
手続の流れについ
にも聞かざるを得
個別に聞くとし
くのか(領収書を見
ずち、うながし
ての説明がわかり
ない。
たら、了解を得
ないことに不自然さ
がない、申出内
にくいのではない
席順は座る前に相
た方がいい。
を感じる)
容の確認がな
か、法的判断につい
談しておくべき。
法的助言はどう
センターの役割につ
い、これらのこ
ての専門家のあっ
紛争パターンでは
なるのか。
いの告知は十分に考
とは実際の横
せんはしないのか、
レアケースが最初
責任の所在は明
えるべき(ひきつけ
断現場ではあ
対面のメリットを
のビデオとして取
確にしないのか
るものが必要)
りえない、あえ
感じた、調停人のカ
り上げられたので
(カードの管
調停人の「隔たりが
てこのような
チッとしたやり方
は。
理)
あるとは思えない」
シナリオだっ
に意志を感じた
の言葉だ妥当か
たのだろうか
電話:相手が応じる
のか、法的指針を与
えられた方が満足
度が高いのか
プログラム4
プログラム4
1
ねらい
問い
「きく」を考える
「訊く」
「聞く」
「聴く」を考
①
グループ分けします
えます。
②
チューターが各グループに入り、お手伝
(30 分)
プロトコール
①どのような場面で使いま
すか
いをします
③ グループの話し合いを簡単な記録にと
②どう違いますか
って、後に発表をする方を決めます。
④
意見交換をします(約 15 分)
。
⑤ ホワイトボードに発表者が書き口頭で
補い、共有を図ります。
1班
2班
3班
4班
5班
訊く:訊問、審
訊く−場面:裁判
訊く(ask)
:質問する、 訊く:たずねる、問
訊く:能動的に
訊、責任追及の
、違い:ききたい内容
尋ねる、なんとなく悪
いただす、事実確認
質問する、問い
場面、何か疑い
を限定的に求める、一
いイメージ、厳しい印
のためにきく、正し
正す、尋ねる、
がある場面でそ
方的に聞き取る、情報
象、「言」葉できく
いことを教えても
疑問を解決す
れを明らかにす
を集める、事前に用意
聞く(hear)
:受動的、 らう、訊いた後に、
るために、結論
る
周到な準備をした上
自 然 に 聞 こ え る 、 何らかの回答を求
を求めるため
聞く:
(二通りの
で行う、上から下に対
「耳」、自然体、あえ
める(両方向性)、
に、「きく」
意見)①よく聞
して相手を認めない
て中立(neutral)な
尋問する、きつもん
聞く:一方的な
く、ふつに聞く、 聞く−場面:日常生活
立場にいるためには
する
話の中で「き
②実は深い意味
の中、違い:物理的に
「聞」(傾聴している
聞く:ニュートラル
く」、情報のや
がある、香を聞
音を聞く、一方的に聞
という姿を見せない
な感じ、聞こえる、
りとり
く、多聞天(毘
かされる、聞こえてく
ききかた)
自然に聞く、」きこ
聴く:音を(全
沙門天の別名)、
る音を耳にする、自発
聴く(listen):「心」、 えてくる、ぼんやり
体として)味合
本質を極める
的に聞く、準備をせず
能動的、積極的に心を
とした感じ、一方的
う、受身になり
聴く:
(二通りの
自然の中で耳に入る、 開 い て き く 、 傾 聴 、
の感じ
一方的に相手
意見)①ききた
対等
active listening(心理
聴く:傾聴する、一
の話しを「き
いところに耳を
聴く−場面:対話、
学)
生懸命きく、意志を
く」、注意して
傾ける、②自然
違い:相手を認めた上
その他:相談の中でこ
もってきく、相手と
「きく」
にありのままに
で、お互いの話しを聞
の3つが行ったり来
の接点を求めて共
意見:聞くと聴
耳を傾ける
く、キャットボールで
たりする、「相談」と
感してきく、事実確
くは変わらな
(注)このプロ
きる話し合いで、心を
メディエーションの
認後、相手に評価を
いのではない
グラムでこの言
聴く、事情を聞きと
場合とでは、「きく」
求める時にきく
か、聞くの方
葉が使われてい
る、対等な立場で目的
は違うのではないか
るのはなぜか
を持って聞く
が、注意深く
「きく」になる
印象
1
プログラム5
調停(理論・技法とExercises)稲葉一人
資料1:「難しい対話の構造とMediationの技
法」
資料2:「対話維持円滑化の技法」
資料3:Mediation エクササイズ
資料4:「Introductionを学ぶ」
資料5:ガラス破損事件 Fact-Sheet
資料6:解雇予告手当事件 Fact-Sheet
難しい会話の構造と
Mediationの技法
プログラム5
1
難しい会話の構造を理解する
• 何があったかを巡る会話
•
事実(真実)はなにか、相手の意図はな
にか、責任の所在は
• 感情を巡る会話
•
傷つけられたという気持ち
• アイデンティティを巡る会話
•
面子、自己イメージや自尊心が危機に
さらされる
2
何があったかを巡る会話
事実はなにか
• 私:「何があったか」を理解・判断するに必要な情報は私
は、全て知っている
• ⇒だから、こちらが正しい。したがって、相手が誤ってい
ることを納得させなければならない
• しかし、
• ①我々は相互に違う情報を有し、接している
• ②同じ情報でも異なった認識を有する
• だから、お互いのストーリーを掘り下げ、その違いがどの
レベル(違った情報を評価しているのか、同じ情報を違う
ように認識しているのか)の違いに由来するかを考える
機会を持とう
3
何があったかを巡る会話
事実はなにか
• Mediator:「なおかつ」のスタンスで聴く
それぞれのストーリーを、それぞれのも
のとして聴く(理想的会話者のスタンス)
• Mediator:各当事者との「距離感」に注意し
ながら聴く
•
4
何があったかを巡る会話
意図はなにか
• 私:相手の意図は悪いに決まっている
• ⇒だから、性格も悪い(ex悪い人だ)と思う⇒相手をとが
めてしまう
• しかし、
• ①現実に相手の意図がどんなものであるかは、知らない
• ②(自分を振り返ればすぐ分かるが)行為の原因は複雑
で、意図もいい・悪いというそんなに単純ではない
• 意図が悪いのメッセージは、「私は傷ついた」「あなたは
私のことをじゅうぶんに気にかけてくれなかった」(影響)
ということである。
5
何があったかを巡る会話
意図はなにか
「意図」と「影響」を切り離す
影響を相手に伝え、その上で意図を尋ねる
Ex 私は、あなたの∼の行為によって、傷ついた
しかし、in conflictでは、当事者は冷静に話せな
い
• Mediator:当事者が受けた影響に焦点を絞る。そ
して、できれば、それを導いた行為にさかのぼる。
• Ex あなたは、∼というように傷ついたのですね。
そのときの様子をお聞かせください。−いずれも
paraphrase・open-end questionの手法
•
•
•
•
6
影響に、そして行為にさかのぼる
Open-end question
行為
相手が、実際に
言ったり、
行った行為は
何か
paraphrase
影響
それは、私に
どのような
影響を
与えたか
想像
受けた影響
から、相手
の意図
について、
想像を
している
7
何があったかを巡る会話
責任は
• 私:全ては相手のせいだ
• ⇒それを相手に認めさせ、その責任をとらせる
• このような場合、会話は誰が責められるべきかという点を
中心に展開する。
• しかし、
• ①多くの問題は、双方が関わっている
• ②自分が責められるのを恐れて、責任を追及してしまう
• 自分も加担(この状況が生じやすくなるようなことをしたの
か)していることを認めよう。
8
何があったかを巡る会話
責任は
• 早いうちに加担を認めてしまおう。
• 加担をしたことが、責任に直結しないことを考え
合おう
• しかし、紛争下にある当事者には難しい
• Mediator:
• ①役割を逆転して考える(相手方の立場に立っ
て考える)。
• ②傍観者(たとえば、Mediator)として見るように
勧める。
9
感情を巡る会話
• 私:感情は上手に伝えられないと思っている
• ⇒感情について話すのを止める
• ⇒そうでなければ、相手にも同じ(辛い)思いをさ
せてやる:感情をぶちまける
• しかし
• ①問題の核心は感情にある、避けると事態は深
刻になり、また、会話内にいずれ出てくる
• ②感情を押さえると、相手の話しに集中できない
• ③感情は複雑(一つの強い感情だけではない)
10
感情を巡る会話
自分の感情を見つけよう
自分の感情の癖をつかもう
感情を抱くのは自然なことと認める
いい人でも悪い感情を抱く
相手の感情も自分の感情と同様に大事な
ものであることを知る
• 感情的であることと、感情をはっきり伝える
こととを混同しない
•
•
•
•
•
11
感情を巡る会話
• Mediator
• どんなときに、感情が関与しているかを見分ける
• 「判断・決め付けが強いとき」、「相手の性格を攻撃すると
き」は、感情が背後にあることが多い
• 感情が存在することを、正面から受けとめる
• ex「Aさんは、∼のように傷ついたのですね」「∼と感じら
れるのですね」−いずれもparaphraseの手法
• 感情を表す語彙を豊富にする
• ex怒り、悲しみ、不安、不満、落胆、嫉妬、罪悪感、愛情、
感謝
12
Mediationの技法
• 全てを一時に解決する魔法のような技法
はありません。
• しかし、確実に役立つ心構え・技法はあり
ます。
• そして、解決のための、具体的な技法を駆
使できるようになる前に、今何が問題と
なっているかを、予め知っていることは極
めて有益であると思います。
13
自分で自分の紛争を解決する
• 紛争になるには特有の構造やそれなりの理由が
あります
• 本人自身、その構造や理由に気づき、自ら修正
することができれば、それにこしたことはないの
ですが・・・
• 紛争下では、
①本人は、コミュニケーション問題・難しい話し合いとな
る原因・紛争時の自らの心理に気づくことは難しい。
• ②本人は、気づいても自ら修正することが難しい。
• ③本人は、相手方を前に構えてしまいます
•
14
Mediationの技法とは
• 難しい会話の構造を理解する
• ⇒この知識を駆使する
• 会話構造に則した援助を行う
• ⇒理想的な会話者をまず演ずる
• 自らは(軌道)修正できない本人を
empowerする
• ⇒(狭義の)Mediationの技法
15
紛争を解決するということ
• 難しい話しは人生につきもの。これを解決するこ
とは、「人生の姿勢」を問うことにつながるのです。
• 人生に取り組もうとするなら、自分自身について
の不快な情報に立ち向かわないわけにいかない
のです。
• 紛争は不快で、ストレスとなるが、普段は見えな
かったことが見える、創造的な瞬間にもなり得る
のです。
16
Mediatorに必要な基本的技法
と能力
聴く技術
伝える技術
当事者のニーズを把握し、言語化する能力
当事者の発するシグナルを敏感に対応する能力
17
一つの心構え
not-knowing
強い純粋な好奇心を持っていることを伝える態度
当事者の話を自分自身の価値観のふるい
(経験や信念)を通さず聴く技術
聴くと同時に、評価するのは難しい
早く解決しなければというあせる
気持ちを避けることができる
18
Active listening
繰り返す
NotKnowing
Paraphrasing
Reframing
言い換える
枠組みを揺さぶる
聴く
Summarizing
Open-End Question
要約する
開かれた質問
19
聴くを実践して見る・聴く練習1
• ここは、あるターミナル・ケアをする病室で
す。
患者が、医療従事者(医師、看護師)
に問いかけました。
「わたしはもうだめなのではないで
しょうか?」
• この時あなたはどう応えますか。
20
では具体的に
• (1)
「そんなこと言わないで、もっと
頑張りなさいよ」と励ます。
• (2) 「そんなこと心配しなくていいんで
すよ」と問題ではないとする。
• (3) 「どうしてそんな気持になるの」と
質問する。
• (4) 「 これだけ痛みがあると、そんな
気にもなるね」と同情を示す。
21
受けとめる
• (5)
「もうだめなんだ・・・とそんな気にな
るんですね」と(ただ)返した場合はどうで
か。
• 聴いてもらえたという実感をもちませんか。
• 精神科医の多くは、(5)を選ぶようです。一見
なんの答えにもなっていないようですが、
「相手の言葉を確かに受けとめましたという
応答」です。
• これは、鷲田清一「聴く」ことの力−臨床哲学試論・
TBSブリタニカ10頁からの引用です。
22
対等な人間関係の形成
• 専門家と市民との間には、対等な人間関係を形
成することはなかなか難しいものです。
• 殊に市民の側から形成することは不可能ですの
で、第三者・専門家・行政がこの努力をする必要
があります。
• 話し手は、聞き手との対等感を感じられたときか
ら、話しはじめ、話はどんどん広がり、深まるの
です。
• そこで、具体的な行動を目標にして考えましょう。
23
対等な人間関係の形成
• ① まず、自ら名前を名乗る。
• ② 必要のない質問はしない(たとえば、
年齢等)
• ③ 話す際は、ゆっくりと話す。
24
話すモードから聴くモードに
• 「Ask」は、話すモード、これは質問をする
人が、自分の関心し沿って情報を収集する
行為
• 「Listen」は、聴くモード、これは、話し手の
意図に沿う行為
• 言うは易いが、行うは難いものです。
• では、具体的な行動を目標として学びま
しょう。
25
Active-Listeningを行う
積極的に聴くとはどのようにするのか。
① 相づちを打つ
② 逆接の接続詞や接続助詞を少なくする
③ 話すときは、ゆっくりしゃべる
ここでは、相づちの種類を増やしましょう。
皆さんは、いくつぐらいの相づちを打てます
か。
26
繰り返す
• 当事者のキーワードを繰り返す
• キーワードは、しばしば、当事者の経験とそ
れに付け加えた意味を表現するために用いる、
独自の価値観、見方を伝える手段であること
が多く、これを繰り返すことにより、聴いて
いることが鮮明になる。
• なにがキーワードかは、対話の文脈上で考え
る経験知です。
• 専門用語に言い換えないで、繰り返すことが
大切です。
27
繰り返す
「明快に」
「短く」
「要点をつかんで」
「相手の使った言葉で」
28
パラフレイジング
Paraphrasing:言い換え
要旨をまとめ、内容を変えずに言い換える。
要約より簡潔で思考の流れを妨げない手法で
す。
• 話し手の分かり難い、感情的な表現を、
Mediatorは、中立性を守りながら、話し手を
受けとめることができる。
• 相手方も、話し手の感情的な言い分と異なり、
Mediatorの客観的に言い換えられた言い回し
は、同じ内容でも受取り易い。
• できるだけ、話し手の意向に沿いながら、客観的
29
な表現にする。
パラフレイジングの例
• 私は、行政のやりかたに頭に来ている。我
慢にも限度がある。人を無視し、馬鹿にす
るにもほどがある。
• 環境への行政の対応にご不満を有してい
らっしゃるということですね。
30
リフレーミングreframing
:表現枠を変える(再構築する)
• 最近は、「枠組みを揺さぶる」と表現している。
• 心理学的には、同じ事象でも表現のフレームを
変えると受け取られ方が変わることを、「リフレー
ミング効果」という。
• パラフレイジングを似ているが、当事者の発言
をMediatorなりに理解し、当事者が伝えたい意味
(言葉ではない)を的確に、肯定的な表現に変え
る。
31
リフレーミングの例
• 妻には家庭で無視され、職場では中間管
理職として板ばさみにあい、調停人さんは
私の立場が分かりますか。
• 家庭内でコミュニケーションがとれず、寂し
い思いをしておられ、職場でも辛い思いを
しておられるのですね。
32
Open-end Question
開かれた質問
• ハイ・イイエの答えができない(誘導尋問でない)
質問
• その時の状況(気持ち)について、もう少し詳しく
お話していただけますか。
• いつ、どのような理由でそこに行ったのですか。
• ∼について、今はどのように思われますか。
• 仮に∼がなかったら、今はどのようになったと思
いますか。
33
対話の維持円滑化の技法
プログラム5
1
Mediationエクササイズ
あるMediationの当日に、次のような事態が生じました。
Mediatorであるあなたならどうしますか。
以下の各問いについて、グループで話し合って下さい
2
Mediationエクササイズ
• 1 出てきた当事者が、呼び出されたことに不平を
言った。
• 2 当事者の一方が同席で話し合うことを嫌がった。
• 3 当事者の一方が、第三者を同行した。
• 4 同席で、話をし始めるにあたり、どちらから話
すかにつき、双方が争いあった。
• 5 同席で、一方が話すときに他方がこれをさえぎ
る発言をした。
• 6 同席で、当事者の一方が、相手方ではなく、
Mediatorに向かって専ら話す。
3
Mediationエクササイズ
• 7 同席で、当事者が相手の発言に怒り、急に立ち
上がった。
• 8 当事者の一方が、「時間の無駄だから、帰る」
と言い出した。
• 9 当事者の一方が、Mediatorの意見を求めた。
• 10 当事者が、Mediatorの交代を申し出た。
• 11 別席で当事者から、「ここだけの話ですが」と
持ちかけられた。
• 12 別席で当事者から相手の言っていることを尋ね
られた。また、相手の提出した証拠の内容を尋ねら
れた。
4
Mediationエクササイズ
以上に限らず、もしあなたがMediatorとなった場合、
こんな事態の遭遇すると困ったなと思うことがらは
どのようなものですか。
5
Mediationを成立させるため
• Mediationを依頼する当事者(申立人)と、相手方
が一同に会して始めて成立する
• 相手方が、Mediationの席に来てくれれば、半ば
成功と同じ
• 呼出の工夫はどうするのか
• Mediatorはまずは接せずに、Administratorが担当する。
• ①申立人が、依頼時に、電話をかけ、必要があれば、
Administratorが電話を代わり、決める(Administratorは
公平感に敏感に)。
• ②Administratorが電話やLove Letterを発する
(Mediationのよさを込めた文面を用意しておく)。
6
トラブルと当事者を受け入れる準備
• 世の中には、様々なトラブルがある
−違うStoryを受け入れる用意をする
Patternでは説明できない
• 世の中には、様々な当事者がいる
−違う人を受け入れる用意をする
Typeでは説明できない
• 当事者と利害関係がないことを確認する
7
Mediationまでの準備
• 来るまでの人の気持ちに思いを馳せる
• 自分の準備
自分自身心配事があったり、忙しいと、人の話しを聴け
ない(Personal foundation: 自己基盤を整える)
予定終了時間後、30分の余裕を持とう
事前にトイレや電話の用事は済まそう
携帯電話は切ろう
• Mediation Roomを確認しよう
机、椅子の配置
音(騒音)、室温、採光(窓)
8
Mediation Roomの設営を
• 出席者が座るのを確認し、自らも座る
• 当事者の位置について
並んで、対面して、斜めに?
• Mediatorの位置について
入り口、奥、壁側?
• 相互の距離について
遠すぎず、近すぎないcomfortable(心地よい)な
距離は
• 最後に当事者に確認を《人によって違う)
9
公平(公正)さを確保する
• 話しを聴く時間、態度(exメモの取り方、向かう方
向)、言動(敬語、先生、奥さん等)すべてについ
て、その行為が目指す当事者ではない、相対立
する当事者の気持ちで、Checkする
• コーカスで、当事者から事情を引き出そうとして、
心情を打ち明ける誘惑に駆られるが、慎重に
• カウンセリングやコーチングの技法は、同席で使
うときには、相手方に偏頗に映ることがあること
に注意
10
人が人と会話する際の礼儀
• Mediator自ら名前を名乗るべきではないの
か
• ⇒問われれば、職業を言うのか。
• ⇒問われれば、Mediationの経験を言うの
か。
11
First Impressionを大切にする
• First Impressionは、その後の印象を基礎
づける
• にこやかに、(待ち合わせ室まで)Mediator
が迎えに行き、Mediation Roomに案内す
る
• 姓名で、まずは、呼ぶ(先生、主人、旦那さ
ん、奥さん等は避けたい)−平等な人格者
として扱う
12
同席の勧め
• 同席は、新しいMediationの必須のツール
二人が同時にその言動を感知することができる
Mediatorのバイヤスが入り難い
当事者の変容度が大きい
• 同席をする前には、少し準備のPhaseが必要な場
合もある
• さり気なく同席を勧める
• 「お二人からお話しをお聞きしますので、お入り
下さい」(ここから、人は、自分に不利な状況や、
不快な情報に向かうことを求められる)
13
当事者が呼出に不平を述べたら
•
•
•
「なんで呼出を受けるのか。私はなにも悪いことしていません。」
「一方的に呼出をするなんて、失礼ではありませんか。どういう権限
で呼出をかけるのですか。」
「忙しいのに、呼び出されて迷惑をしています。時間がありません。」
•
紛争やもめごとの不利さを、何かに攻撃的に振り向ける心理作用
が働いている場合もある。
• そこで、このような発言が引き出される前に、まず
「今日はお忙しい中、この任意の手続に、わざわざご足労いただきあ
りがとうございました。調停時間や、進行方法は皆さんのご意見を聴
いて、できるだけご負担の少ないようにいたします」
14
当事者が同席を拒むとき
•
•
•
•
•
•
•
「相手の顔を見たくないので別々に聞いて下さい」
「人を罵倒するので、別々に聞いて欲しい」
「暴力を振るわれるので、別々に聞いて欲しい」
同席を拒む理由は、Mediatorが相手方を説得してくれという依存心
の表れの場合が多い。
同席には多くのメリットがあり、コーカス(別席)には別のMediatorの
技量を求められるので、これを説明したり、席の位置に配慮を加えこ
とで、同席をさりげなく勧める。
大事なことは、Mediation期間中、同席を拒んだ当事者が圧迫を受
けていないかを十分注視し、配慮することである。
最後はあまり無理をしない。
15
当事者が第三者を連れてきたとき
• 「親戚の・・・ですが、一緒に入っていいで
すか。」
• 「今回の件の相談をしている・・・さんです
が、一緒に入っていいですか」
• 理由も言わずに、入ってくる場合は。
• 一方が多数の人を連れて来た場合は。
• 代理人を連れて来た場合は。
16
必要な当事者が来なくて、
代理人だけが来たとき
•
•
•
代理人によるMediationは、正確な本人のニーズが分からないし、相
手方の意向が代理人を通じ本人にバイアスがかかって伝わり、
Mediationの効果が半減する
しかし、代理人でも来ることは、来なければならないことは本人は了
承していることで、また、本人が来れない理由を聞き出すいい機会
(まだ、本人は、不利な情報に向かうには準備不足)です
相手方の同意をとって、代理人を当事者として(いつもと同じように)
扱うことも考えましょう
• むしろ、次回本人に来ていただけるように、工夫しましょう。
• 「本日は∼さんに来ていただきありがとうございました。
次回は、ご本人もご同行下さい」と言って、その場で、代
理人から、本人に電話をかけてもらい、本人の都合を聞
いた上で、次回期日を決める。
17
当事者がMediatorに向かって発言
し、相手を無視するとき
• Mediationの前半段階では、よくあること。
• Mediationに来た当事者は、Mediatorを味方に入れ、相手
方をMediatorの権威で説得してもらおうとしている。
• Mediatorは、公平性に配慮をしながら、ただ、ひたすら
Active Listeningを行う。
• (経験的には)ある程度話せば、当事者間での不規則な
がら、会話が成立する
• 相手が、「嘘だ」「無責任なことを言うな」等と会話に挟む
と、これを妨害と否定的にとらずに、相手が、発言者と会
話したいという肯定的な意思表示としてとらえ、これこそ
チャンスです
18
相手が話すときに妨害をするとき
• 相手が話すとき、自分の意見を挟んで言う
• 相手を「嘘つき」というとき
• 話しの腰を折る(これはしばしば悪質)
• 通常は、注意するか、同席をあきらめる。しかし、
これは、相手と話したいという意思表示でもある。
• 妨害する点は、発言者が最も関心・利害を持っ
ているSensitiveな点。見逃さないで、Mediatorの
腕の見せ所と思いましょう
• 私なら、相手から異論がない以上、ある程度、言
うに任せる
19
当事者が感情的になったとき
机を叩く
泣き叫ぶ
相手を責める
Mediatorが慌てると、より感情は激化する
感情的なことと、暴力的なこと(感情を暴力的に
使う場合も含む)とは、違う
• 感情はある程度発散しないと治まらない
• 感情を受けとめる(様々な言い換えた言葉で受
けとめる、Paraphraseする)
•
•
•
•
•
20
当事者が暴力的になったとき
急に立ちあがる。
物をつかみ(投げようとする)
相手に迫る
前兆を察する(イライラしている、不規則発言を
繰り返す)
• 慌てない
• 危険が予期できる場合は、Administratorと相談
し、Co-Mediation(共同調停)やSupervised
Mediation(先輩との調停)を利用する
•
•
•
•
21
話しが同じところを回り出したら
• 話は回る、数回回ったこところが大切です。この部
分は、当事者にとって、Sensitive(当事者がもっと
も関心を有する)な部分です。
•
そこで、聴いていますということを、Mediationの
技法を使って示す(繰り返し、Summarizing)
• そうすると、これまで、聴いてくれたところはな
かったのに、始めて聴いてもらえた、私のことが分
かってくれたとして、Mediatorとの人間関係ができ
る
• 聴いてもらうと、緊張関係がほぐれ、リラックスする(当事
者は特に専門家の前では緊張しています)
• 悩んだとき、それを人に話すと楽になる(カタルシス効果)
22
• 自分の話に耳を傾けてくれる人の言うことは、受け入れ
やすい(防御を解く)
コーカス(Caucus)を開くとき
• Mediationが、当事者への判断提示型(従来型)なら、
コーカスは問題が多い
• しかし、当事者empower型なら、コーカスも選択肢と考え
られるのではないか
• しかし、同席の方が、Mediatorのcontrol度が小さく、情報
が正確に伝わるので、同席が原則と考えましょう
• 例外的に、有効である場合のみに、コーカスを認めること
でいいでしょう
• 一方当事者が望み、相手方がこれを拒むときは?
• コーカス後、その内容を話者の了承を得て、伝達する
23
コーカスで証拠を示されたとき
• 見るのか、見るにしても、どんなものを、何のた
めに見るのか、相手に見せるのか。
• 見る基準を考えよう
• 現場の見取り図、人的関係図、登記簿、写真等
• 領収書、契約書、報告書等の設権文書
• 見る目的を明らかにしよう
• あくまで当事者の話を理解する一助として
•
Mediatorが内容の詳細を検討する必要はない
• 証拠を示した以上、これは相手にも見せると言お
う
24
コーカス後に、相手の言い分や、提出
証拠の内容を聞かれた場合
• 「伝える技術」が求められる
• 予め、相手から聞かれることを念頭に、相手にど
の程度・範囲を、どのように伝えるのかについて、
了承をとる
• 了承を採れない(採っていない)ものについては、
勝手に開示すると、守秘義務に反することになり
ます(したがって、了承を採れないものは、コーカ
スでは見ないようにします)
25
当事者がMediationを離れる素振り
をしたとき
• 「もう我慢できない、こんな調停はやめだ」
• 「時間の無駄だから、帰る」
• 「今日は時間がない」
• Mediationに来たくない気持ちと類似する
• Empowerが不十分な証拠
• Mediatorが、結論を急ぎすぎて、当事者が圧迫
されていないかを吟味する
• 結論・解決案のPhaseから、交流のPhaseに戻っ
てみる
• あるいは、少し、休憩を置いてみる(Time-Out)26
Mediatorの意見を求められたとき
• 質問と対応は原則的に同じである。
• とかく、専門家は、意見を求められると、答えたがる。
• 意見は、双方にとって、すぐに納得いうものにはなり難い。
特に、初期の段階での意見は、当事者にMediatorの公
平さに疑惑を抱かせる。
• 意見を求めるのは、当事者のEmpower度が低いしるし
• 初期段階では、もう一度、Mediatorと、当事者との間の役
割分担を確認する。
• 「(皆で)一緒に考えましょう」
27
質問を見分ける
• 答えのある質問はほとんどない(前提事実が不定で、適
用も不確実)
• 問う側は、すぐに答えを欲しがる、しかし、納得できる答
えは、主観的で、人が答えることができるものではない。
• 聞かれた方も、答えられない質問に答えようとする
• しかも、答えがなくとも複数ある場合でも、答えを一つに
絞りたがる
• 「その問題に疑問を持たれていることは、了解しました」
「(3人で)一緒に考えましょう」
28
当事者がMediatorの資質について
疑問を持つ言動をするとき
• 女性のMediatorでは頼りない
• 若造なので、頼りない
• 特定の経験がないので、Mediatorとしての適格がない。
• ex(夫婦間紛争で)離婚の経験がないので相談できない。
• (犬の吠える近隣調停で)犬が嫌いなら相談できない。
• ① 無視する、ないしは、笑ってすごす
• ② 公平に、訓練を経て持っている能力を最大限使っ
て、努力する旨、真摯に述べる
29
当事者がMediatorの交代を
申し出るとき
• 当事者が自らで、Mediationの困難を乗り越えることがで
きないときに、その困難を認めたくないがゆえに、
Mediatorの交代を打開策として求める場合がある
⇒Empowerが不十分
• 当事者がMediatorの公平性に疑問を抱き、信頼関係を
築くことができないときに、交代を求める場合
• しかし、両者は見分けるのが難しい
• 一旦、休憩を置く(Time-Out)
• 深刻な場合は、Co-Mediationを利用する
30
Meta Communication
(Dialogue)の勧め
• どうも当事者が本気になっていないとき、雰囲気
に違和感を感じるとき、当事者にやる気が出てい
ないとき、壁にぶち当たり、前向きの意見が出な
いとき等、困ったときに使おう。
• また、Phase(段階)ごとに、手続への不満を確認
する意味でも使う効果はある。
• 内容から離れて、あたかも、それぞれ当事者が、
第三者となって、これまでの会話のあり方を観察
してみる
31
思いきってClosed Questionを
使うとき
• 本人のCommitment(関わり、現実的参加)が十
分でないときで、相手との信頼関係が十分保て
ているとの実感があるとき
• 相手に「YESかNOで答える質問」をする。
• 真摯に、真剣なトーンで
• Ex あなたは奥さんとの関係を修復しようと思っ
ていらっしゃるのですか。⇒この問いは、YESの
答えなら、同席の席では大きな威力を発揮する。
迷いながらも、「はい、修復しようと思っています」
という夫の発言の持つ、力強さを想像して下さい。
32
プログラム5
Mediation エクササイズ
ある Mediation の当日に、次のような事態が生じました。Mediator であるあなたなら
どうしますか。以下の各問いについて、グループで話し合って下さい。
1
出てきた当事者が、呼び出されたことに不平を言った。
2
当事者の一方が同席で話し合うことを嫌がった。
3
当事者の一方が、第三者を同行した。
4
同席で、話をし始めるにあたり、どちらから話すかにつき、双方が争いあった。
5
同席で、一方が話すときに他方がこれをさえぎる発言をした。
6
同席で、当事者の一方が、相手方ではなく、Mediator に向かって専ら話す。
1
プログラム5
7
同席で、当事者が相手の発言に怒り、急に立ち上がった。
8
当事者の一方が、「時間の無駄だから、帰る」と言い出した。
9
当事者の一方が、Mediator の意見を求めた。
10
当事者が、Mediator の交代を申し出た。
11
別席で当事者から、
「ここだけの話ですが」と持ちかけられた。
12
別席で当事者から相手の言っていることを尋ねられた。また、相手の提出した証拠の
内容を尋ねられた。
13
以上に限らず、もしあなたが Mediator となった場合、こんな事態の遭遇すると困った
なと思うことがらはどのようなものですか。
2
Introductionを学ぶ
プログラム5
1
当事者が想像・想定する
Mediation
• Mediatorは、専門家である(権威者と思う)
• Mediatorに訴えて、解決案を頂こう(依存的で、
自己決定・解決回避)
• Mediatorを味方にひき入れて、Mediatorから相手
を説得してもらおう(Mediatorとの会話を望む)
• 相手とは話しても、埒があかない(相手との会話
の回避)
• 私は間違っていない、相手が間違っている、そう
思うだけの根拠はあるので、Mediatorは分かって
くれる(正義の戦いである)
2
新しいMediation
• 非権威的、非外在的
• 当事者が主役で、Mediatorは脇役・産婆役
•
•
•
•
依存型から、自己決定・解決型
解決案は自らであみ出す、搾り出す
相手との(直接)対話が不可欠
正義(position)の争いから、利益(interest)
の争いへ
3
Introductionの役割
First Impressionを形成する場面
新しいMediationに戸惑わないようにする
入り口
自己決定・解決をするため、当事者を
Empowerする
4
調停者のIntroductionへの疑問
• これまで、調停の経験があれば、省略して
いいのでしょうか
• 法律家(代理人)が付き添ってきた場合や
省略していいのでしょうか。長い
Introductionに対して、短くていいとの申し
入れをしてきたときはどうでしょうか。
• 反面、代理人になにか特別にお願いする
ことはないのでしょうか。
5
必須の項目
• 新しいMediationの趣旨
当事者の役割
Mediatorの役割
•
•
•
•
手続の流れ(今日の予定時間等)
裁判を受ける権利の保障
秘密厳守と非公開
(最低限の)話し合いのルール
6
説明をした方がいい項目
• コーカスの可能性
• Mediatorの変更
• 合意書の強制力について
• 当然、事案、当事者、Mediator(の経験)に
応じた変更をする(離婚、近隣、遺産相続
等々)ことが肝要です
7
では、自分なりのIntroductionを
作ってみましょう。。
• ご自身のIntroductionを、できるだけご自身
にしゃべり口調でお作り下さい。項目だけ
を押さえることでも結構です。
• 長さや順序は自由ですが、長くても、A4で
1枚でしょう。
8
いつもIntroduction
Mediationの開始時
Introductionがなされても当事者の耳には
入らないし、最初了解してもすぐに戻る
当事者の対話がはずまないとき
当事者から意見を求められたとき
9
ではやってみましょう
当事者を招きいれ、名前を確認し、
Introductionをし終わるところまで
解雇予告手当事件
ガラス破損事件
10
解雇予告手当事件
• 大蔵康介さん(19歳男性・独身)は、アルバイトとして中東
海(なかとうかい)軽貨物運送株式会社に、約10ヶ月間勤務し
ていましたが、1ヶ月前に突然解雇されました。中東海軽貨物
運送の労務担当吉永よしみ係長は、物流が減ったので配達員が
あまっていることを解雇の理由として説明しました。しかし、
大蔵さんとしては、まじめに勤務してきたつもりで、この仕事
が気に入っていたので、突然の解雇に納得がいかず、吉永係長
に抗議をしたが、らちがあきません。
• 解雇に際して、中東海軽貨物運送からは事前の解雇予告はなく、
また解雇予告手当の支払いもありませんでした。そこで、大蔵
さんは、解雇は無効であり、そうでなくとも、解雇予告手当の
支払を求め、調停センターに話し合いの取り持ちを依頼しまし
た。
11
ガラス破損事件
•
•
•
主婦である谷川裕子さんは、夕刻、スーパーでの買い物の帰り、4歳になる大
地くんを自転車の後部座席に乗せて国道の歩道(幅員3m程)上を道路沿いに
建つビル寄りをゆっくり走っていました。ところが、急に前方から男子生徒の
乗る自転車が勢いよく向かってきたため、裕子さんは、衝突の危険を感じ右側
へ避けようとし、ハンドルを急に右へ切り、自転車がよろけて歩道に面したビ
ルの大きなガラス壁に、自転車を当て倒れてしまいました。幸い裕子さんも大
地くんも怪我はありませんでしたが、ビルの大きな1枚の透明のガラス壁(厚
さ6mmの横幅2m、高さ2.5m)に長さ30cmと40cm程のひびが2本斜めに入っ
てしまいました。
ビル1階のガラス壁のその部屋は、歩道間際から透明のガラス張りになってい
てバレーのレッスン教室として使用されていました。その教室の責任者山手祐
輔さんが出てきて裕子さんに対し、ガラス1枚の弁償(取替え費を含む)20万
円の支払を求めました。男子生徒の自転車は、走り去ってしまっています。
そこで、自分も被害者であると思っている裕子さんは、ガラス代の修繕費用
を請求されるのはおかしいと感じ、地元の調停センターに話し合いの取り持ち
を依頼しました。バレー教室からは、責任者の山手祐輔さんが、出席されてい
ます。
12
プログラム5
Fact-Sheet
ガラス破損事件
全員(Mediator)用
共通の Fact
主婦である X は、夕刻、スーパーへ買い物に行くため、4歳になる男の子を自転車の後
部座席に乗せて国道の歩道(幅員3m程)上を道路沿いに建つビル寄りをゆっくり走って
いた。ところが、前方から男子生徒の乗る自転車が向かってきたため、Xは、衝突の危険
を感じ右側へ避けようとし、ハンドル操作を誤り、自転車がよろけて歩道に面したビルの
大きなガラス壁に、自転車の前部を当て倒れてしまった。幸い子もXも怪我はなかったが、
ビルの大きな1枚の透明のガラス壁(厚さ 6mm の横幅 2m、高さ 2.5m)に長さ 30cm と
40cm 程のひびが2本斜めに入ってしまった。
ビル1階のガラス壁のその部屋は、歩道間際から透明のガラス張りになっていてバレー教
室のレッスン場として使用されていた。その教室の責任者Yが出てきてXに対し、ガラス
1枚の弁償(取替え費を含む)20 万円の支払を求めた。男子生徒の自転車は、走り去って
しまっている。
男子生徒
バレー教室
×
1
ガラス
プログラム5
来談者用
来談者X固有の Fact
・
ガラスの弁償をしなければならないとも思うが、Yの要求するガラス1枚の取替費用
全額を弁償することについてはどうも釈然としない。
・ ガラスを取り替えなくても、そのままひびの箇所を透明テープで補修すれば済むので
はないか。ひびは目立たない。
・ ビルは、築後15年は経っているようで、ガラスもかなり劣化して割れやすくなって
いたのではないか、自転車がそんなに強く当たったとは思われない。新しいものに取
り替える費用を全額負担する気持ちには到底なれない。
・ ひびは、ガラス全体のほんの一部であり、ガラス一枚の費用全部を負担しなければな
らないというのは、腑に落ちない。
・
ガラスを外壁にするのなら、厚さ6mm 程度のものではなく、物が当たってもよほど
のことでなければ割れないもっと厚くて強いガラスを使うべきであった。
・ 公衆の往来する歩道間際にガラス壁を設置して何の防御も設けていないのは、ガラス
が外部からの衝撃で割れたり、ひびが入るリスクを引き受けていることになるのでは
ないか。
・ もし、ガラスが割れて子供が怪我でもしていたら、ガラス1枚や2枚の問題ではなく
なる。そんなことを思えば、Yの方から弁償の話など出てこないのではないか。
2
プログラム5
相手方用
相手方Y固有の Fact
・ Yは、バレー教室の管理者ではあるが、その部屋は、賃借しており近く賃貸人に返還
することになっている。このままでは保証金からガラスの取替費用が、全額差し引か
れてしまう。
・ Xは、ひびを入れた本人でありながら、いろいろと言いたいことをいうが、被害を受
けた側としては、これを弁償していただくしかしかたない。
・ 実際に元通りにするには、ガラスを全部交換せざると得ず、全額を負担していただく
しかない。
3
プログラム5
Fact-Sheet
解雇予告手当事件
全員(Mediator)用
共通のFact
Tさん(19歳男性
独身)は,アルバイトとしてK運送株式会社に約10ヶ月間勤務してい
たが,1ヶ月前に突然解雇された。
K運送の労務担当S係長は,物流が減ったので配達員があまっていることを解雇の理由として
説明した。
Tさんとしては,まじめに勤務してきたつもりで,この仕事が気に入っていたので,突然の解
雇に納得がいかず,S係長に抗議をしたが,らちがあかない。
なお,解雇に際して,K運送からは事前の解雇予告はなく,また解雇予告手当の支払いもなか
った。
1
プログラム5
来談者用
来談者T固有のFact
・
私は,勤めていたK運送株式会社から1ヶ月前に突然解雇を申し渡されたのですが,解雇予
告手当ても支払われていませんし,納得がいかないので話し合いをしたいのです。
・
勤めていた期間は10ヶ月くらいです。仕事の内容は自分の軽自動車を持ち込んで宅配をす
ることで,朝倉庫に行き,その日分の荷物と伝票を預かり,荷物を配って,作業が終われば,
会社に携帯で終了の電話を入れ,翌日出社の際に前日の伝票を係に渡すという流れです。
・
毎月の末日に,その月の労働に見合う賃金とガソリン代の実費を,労務担当係長のSさんか
ら直接現金でもらい,来月も頼むよと言われて,翌月も出勤しています。
・
私は高校卒業後、フリーターをしていましたが、この仕事は車に乗って作業ができるし、自
分のペースで計画できるので気に入っていました。当分の間は、将来の資金を蓄えるために続
けようと考えていたのです。
・ ところが,ある日の朝,会社に行くと,労務担当Sさんから今月分として給料を渡され,
「お
かしいな,まだ,月末ではないのに」と思っていると,「今日で首だ」と言われました。
・
Sさんは,物流が少なくなり他の配達員で十分だから首にするというのです。私としては,
一生懸命働き,特にトラブルはなかったと思いますので,解雇は無効だと思います。
・
その日は突然のことだったので,一旦自宅に帰り,ハローワークに行って相談すると,解雇
予告手当てが出ると聞きました。翌日会社にそのことを言いに行ったところ,S係長から「お
前は臨時雇用で,パートなので予告手当てが出ない」と言われました。私は,なお食い下がり,
もう少しでSさんと喧嘩になりかけました。そうすると二,三日して,解雇通知と予告手当て
は払うつもりはない,との内容証明郵便が来たのです。
2
プログラム5
相手方用
相手方固有の Fact
(K運送株式会社
労務担当S係長の事情)
・
Tさんのおっしゃることはだいたいその通りです。
・
ただ,Tさんにだけ不利な扱いをするつもりはなく,今までずっとこのようなやり方をして
きたのです。
・ うちのような中小の業者は,正社員を雇う余裕はないですし,荷物の扱い量が不安定なので,
パートやアルバイトの人に半年とか二ヶ月位で辞めてもらうことはよくあります。Tさんにも
そのことは説明してありました。
・
パートの人に解雇予告をしたり,予告手当を出したことはこれまでありませんし,それで特
に苦情を言われたこともありません。
・
法的に解雇予告手当を払う必要があるのかどうかはよく判りませんが,パートには出ないと
いう説明で皆納得してくれました。
・
Tさんは割とまじめに仕事をしてくれていたと思います。でもこの業界は競争が激しいです
から,予告手当など払っていてはとてもやっていけないのです。
・
Tさんは,解雇した後に,会社に押し掛けて予告手当を払わないと訴えてやるなどと脅迫的
なことを言われたので,当社としては話し合う余地はあまりないと思います。
3
プログラム5 (続き)
資料7:「Mediationの力動関係」
資料8:ガラス破損事件 スクリプト
資料9:解雇予告手当事件 スクリプト
第三者が入った場合の
力動関係
プログラム5
1
力動という言葉
• 来談者・相談者力動
• グループ(集団)内力動
• 家族・職場・教育現場での力動
• 援助者・被援助者力動
2
カウンセリング
• とにかく相手を深くわかってあげれば、相手は自
然に変わっていく。時間をたっぷりかけて相手中
心に話をさせてわかってあげれば、必ず人は変
わっていく。多くの場合、その時間をあげない、
わかり方が上手でない。相手中心に時間をあげ
て、わかろうわかろうという関係を結べば必ず相
手は変化していきます(元京都大学教授:河合隼
雄)
• 調停者の聴くは、カウンセリングの力を有してい
る。
3
距離を取る(自分を客観視する)
• 自分の問題を椅子の上において、少し離れたと
ころから見る練習(ジェンドリン(カール・ロジャー
スの弟子)
• 個人(精神療法)では3年かかることを1回のグ
ループ・セッションで気づくかもしれない。グルー
プの中には客観視を促す力が潜んでいる。
• 調停者も相手方も、この客観視を促す力を有し
ている。
4
Mediationの第1段階
申立人
相手方
Mediator
5
Mediationの第2段階
申立人
相手方
Mediator
6
Mediationの第3段階
申立人
相手方
Mediator
7
Mediationの力動の前提
•
•
•
•
•
(利害のない)第三者がいる
第三者は中立的である
第三者は判断を下さない
第三者は聴く
(同席では利害がある)相手方がいる
8
来談者のMediation前の思い
• (利害のある相手と)同席したくない
• 相手と話などしたくない(しても無駄だ)
• 調停者に理解してもらい、こちらの味方に
なってもらおう(囲い込み)
• 調停者を軸にして、相手を説き伏せよう(な
いし圧力をかけよう)
9
相手方のMediation前の思い
• (利害のある相手(来談者)と)同席したくない
• 相手(来談者)と話などしたくない(しても無駄だ)
• このまま逃げ切ればいい(嵐が過ぎ去ることを待
つ)
• 仲介役をする第三者とは何者なんだ
• 第三者は、相手方(来談者)とつるんでいるので
はないか
10
Mediationの力動 Step1
話し手の変化
初めは調停者が中心として動く
調停者が聴き・鏡になることを通じて、話し手は
自己を客観視しする
同席する相手方が聴いていると考える(錯覚する)
11
Mediationの力動 Step2
相手方の変化
最初、相手方は、話し手の話を聴くことはできない
調停者が聴き・鏡となることで、話し手の言葉が届く
自分の話も聴いてもらおうとする
12
Mediationの力動 Step3
Communicationの変化
この過程が何度も、ジグザグに繰り返される
当事者間に対話が形成される
調停者が消えていく
13
Mediationの
肯定的な力動
相手方・調停者がいる前で、めちゃくちゃはいえない
当事者双方・調停者が、循環(反転)する場合がある
当事者は無力な調停者を前にして、自己治癒力を出す
14
Mediationの
否定的な力動
当事者・調停者3者に解決のプレッシャーがかかる
この場から逃げたい、とりあえず終わらせたいとの思いが、
非現実で真意でない合意を作る
自分の構えが、相手方の構えの触発され、更に硬い構えを形成する
15
プログラム5
ガラス破損事件
(説明)
主婦である谷川裕子さんは、夕刻、スーパーでの買い物の帰り、4歳になる大地くんを自
転車の後部座席に乗せて国道の歩道(幅員3m程)上を道路沿いに建つビル寄りをゆっく
り走っていました。ところが、急に前方から男子生徒の乗る自転車が勢いよく向かってき
たため、裕子さんは、衝突の危険を感じ右側へ避けようとし、ハンドルを急に右へ切り、
自転車がよろけて歩道に面したビルの大きなガラス壁に、自転車を当て倒れてしまいまし
た。幸い裕子さんも大地くんも怪我はありませんでしたが、ビルの大きな1枚の透明のガ
ラス壁(厚さ 6mm の横幅 2m、高さ 2.5m)に長さ 30cm と 40cm 程のひびが2本斜めに
入ってしまいました。その位置関係はこのとおりです(図を示す)。
ビル1階のガラス壁のその部屋は、歩道間際から透明のガラス張りになっていてバレー
のレッスン教室として使用されていました。その教室の責任者山手祐輔さんが出てきて裕
子さんに対し、ガラス1枚の弁償(取替え費を含む)20 万円の支払を求めました。男子生
徒の自転車は、走り去ってしまっています。
そこで、自分も被害者であると思っている裕子さんは、ガラス代の修繕費用を請求され
るのはおかしいと感じ、地元の調停センターに話し合いの取り持ちを依頼しました。
男子生徒
バレー教室
×
ガラス
5月15日午後1時
調停人大下雄二(おおしたゆうじ):(谷川裕子さんに会って)はじめまして、調停人をし
ております大下と申します。谷川さんですね。
大下:(山手祐輔さんに会って)はじめまして。山手さんですね。
大下:(二人が座るのを確認してから、座る)
大下:これから、お話し合いを進めていきたいと思います。まず、改めまして、調停人の
大下と申します。どうぞよろしくお願いいたします。谷川さんですね。
(以降、話すときは、
その相手を見て話す)
谷川:谷川裕子(たにがわゆうこ)です。
1
プログラム5
大下:山手さんですね。
山手:山手祐輔(やまてゆうすけ)です。みやびバレー教室の責任者をしております。
大下:これから、この調停室でお話し合いを進めていこうと思いますが、よろしいですか
谷川、山手:(二人はうなずく)。
大下:まず、調停の進め方や私や皆さんの役割について簡単に説明させて下さい。ここで
は相互にお話し会いをしていただきます。私はお二人のお話し合いを円滑にいくためにお
手伝いをしますが、判断を下したりしません。主役はお二人です。お話をする時間はたっ
ぷりありますので、ご自分のお考え等を忌憚(きたん)なくお聞かせください。では、谷
川さんの方からお話を聞くことにしましょう。
谷川:4月 26 日月曜日の夕方5時ころですが、バレー教室の前を自転車でとおりかかりま
した。後ろには、長男の大地を乗せていました。すると、前方から、高校一年ぐらいでし
ょうか、男子生徒が自転車で早いスピードで向かってきたのです。これを避けるために、
ハンドルを急に切って、バレー教室のガラスに当たったのです。もう少しで、ガラスが割
れて、私や長男が大怪我をするところでした。
(次第に当時のことを思い出すように)私は
被害者ですのに、ガラス代を払えとはどういうことですか。
大下:簡単で結構ですが、その位置関係をお書きいただけますか。
谷川:(こうかなーととまどいながら書く)
大下:山手さん。この図でいいですか。
山手:(のぞき込みながら)はい結構です。
大下:では、事故の様子をもう少しお聞かせいただけますか(図は、谷川と山手の真中に
置く)。
谷川:はい。近くのスーパーで夕食の買い物を済ませ、いつものように、バレー教室の前
を自転車で走っていました。そんなにスピードを出してはいなかったと思います。バレー
教室ではレッスンが始まっていました。すると、前方から急に高校生の自転車が向かって
きたので、とっさにハンドルを切ったのです。高校生は私たちが倒れたことにかまわず、
どこかに行ってしまいました。ハンドルの右手の部分が、教室のガラスの部分に当たった
のです。(次第に興奮してきて)なんで、あんな道に面してガラスがあるのですか。ガラス
は薄いじゃないですか。あぶないじゃないですか。
大下:確認させてください。ハンドルの右手部分がガラスに当たったのですね。
谷川:そうです。右手に切りすぎたものですから、ガラスに当たりました。私は、高校生
の自転車を避けるのに精一杯だったのです。しかし、倒れたところに、ガラスがあったの
です。
山手:これまで、私どものガラスに当たるというような事故はありません。倒れてきたの
はあなたであって、私たちは、現実に損害を負っているのです。
大下:もう少し、谷川さんのお話をお聞かせいただけますか。ハンドルを切ったときの様
子をもう少しご説明できますか。
2
プログラム5
谷川:私は前の籠に買った夕食の材料を入れ、後ろには長男を乗せていました。私が少々
の怪我をするのはしかたがないにして、長男には怪我をさせたくはなかったのです。幸い
長男は擦り傷で終わりましたが、一歩間違えば、ガラスが割れて大怪我をすると思うと、
時々夜もうなされることがあります。また、実際、長男は怖かったと思います。事件以降
は、この道は通らないようにしています。
大下:谷川さんにとって、この事故は、ご自身やお子様にとっても、とても怖い体験であ
ったということですね。
谷川:そうです。
山手:私どもといたしましては、道路側から教室内がよく見えるようにすることは、営業
上も必要なのですが、今のお話を聞いて、通行人の方にとっても危険があること、そして、
これは教室でレッスンを受けている生徒さんにも危険があるということだと思います。そ
んなことについては、今まで考えたことがありませんでした。
谷川:そうですよ。あんな人が通るところで、広いガラス窓を設置することは非常識です
よ。
山手:非常識といわれるとこれは心外です。同じようなガラスをショーウインドウ代わり
に用いている店はたくさんあるのですから。
大下:谷川さんが訴えたいのは、ご自身やお子様が怖い目にあったことを分かって欲しい
ということですね。
谷川:そうです。それにガラスが割れたのは、私のせいではなく、逃げた高校生のせいだ
ということです。
山手:でもそれは高校生に谷川さんが、いうべきことで、私どもには関係がありませんよ。
怖い目をしたのは分かりますが。
谷川:ではどうすればというのですか。怖い目をして、また、高校生には逃げられ、それ
で賠償をしろというのですか。ふんだりけったりとは、このことです。もういいです。話
になりません。
大下:急がず、辛いかもしれませんが、もう少し、事故のことに戻ってみませんか。高校
生が走ってきて、どうして倒れたのですか。
谷川:私は前の買い物籠に夕食の材料を入れており、後ろにも4歳の男の子を乗せていま
した。だから、すこし安定は悪かったのです。
山手:息子さんは何キロくらいですか。
谷川:約 16 キロくらいです。そこに、急に高校生が出てきたのです。
山手:でも急に来たということはないのじゃありませんか。
谷川:バレー教室のレッスンが気になったのかもしれません。
山手:うちのレッスンに・・・・
谷川:事件後夫にこの話をするとしかられました。長男にもしものことがあったらおまえ
は責任をとれるのかと。
3
プログラム5
(沈黙)(約 10 秒)
山手:わかりました。ガラスの費用は、いいです。これは、私どもバレー教室の生徒さん
の安全にも関わる問題ですし、お聞きすると、私どものレッスンも遠因になっているよう
ですから。
谷川:
(間髪を入れず)いえ。それはいけません。私がガラスに傷をつけたのですから。少
しは私にも負担をさせてください。
山手:では、こうさせてください。一応傷がいったガラスを、もう少し厚いものに変える
費用を概算します。これは我々にとっても費用かかります。そこで、その一部を負担して
いただけますか。
谷川:そうしていただけると、これをきっかけに、ガラスが厚くなり、もう事故が起こる
ことはないと思うと安心できますし、払わせていただくかいもあります。ただ、主婦です
ので、金額には限度がありますが。
山手:それはわかっています。無理強いはいたしません。
大下:では、概算額を出していただき、お二人でお話し会いをしていただき、必要があれ
ば、また、調停センターを利用していただくということでいかがですか。
両名:それで結構です。
大下:では、ご苦労様でした。
4
プログラム5
解雇予告手当事件
(説明)
大蔵康介さん(19歳男性・独身)は、アルバイトとして中東海(なかとうかい)軽貨物運送株
式会社に、約10ヶ月間勤務していましたが、1ヶ月前に突然解雇されました。中東海軽貨物運送
の労務担当吉永よしみ係長は、物流が減ったので配達員があまっていることを解雇の理由として
説明しました。しかし、大蔵さんとしては、まじめに勤務してきたつもりで、この仕事が気に入
っていたので、突然の解雇に納得がいかず、吉永係長に抗議をしたが、らちがあきません。
解雇に際して、中東海軽貨物運送からは事前の解雇予告はなく、また解雇予告手当の支払いも
ありませんでした。そこで、大蔵さんは、解雇は無効であり、そうでなくとも、解雇予告手当の
支払を求め、調停センターに話し合いの取り持ちを依頼しました。
6月30日午後1時
調停人佐々木謙一:はじめまして。調停人の佐々木です。大蔵さんですね。そうぞこちらにどう
ぞ。
佐々木:はじめまして。調停人の佐々木です。吉永さんですね。どうぞこちらにどうぞ。
佐々木:でははじめましょう。始めるにあたり、皆さんと確認しておくことがあります。ここは、
調停センターですので、相互にお話し合いをする場です。私は調停人として、皆さんのお話し合
いのお手伝いをしますが、判断などを下したりいたしません。法的な判断等が必要ならば、法律
家に別途相談を受けることは自由ですし、この手続は裁判を受ける権利を侵害することはありま
せん。繰り返しになりますが、決めるのは、皆様です。
吉永:私は、中東海軽貨物運送株式会社の従業員ですので、私がここで決めることはできません
が。それでもいいのですか。
大蔵:(不満そうに)だったら、なんのために出てきたんだよ。
佐々木:お互いにそのような質問や疑問が出ることは当然です。この場だけで、話し合いの最後
のステップまでいけるかどうか分かりませんが、そこまで行くには必要なステップだと思いませ
んか。
大蔵、吉永:(うなずく)
佐々木:ではご了承を得られましので、お話を進めましょう。大蔵さんからお話を聞くというこ
とでいいでしょうか。
吉永:(うなずく)
大蔵:私は不満です。私は、10ヶ月間、真面目に働いてきました。なのに、一言で首と言われ、
また、解雇手当も払わずに・・・私は大人の理屈が信じられません。
(次第に声を荒げ)あんたた
ちは、私を未成年と思ってばかにしているのではないのか。
佐々木:わかりました。もう少しその経緯をお話いただけますか。
大蔵:私は、高校を卒業後、少しの間フリーターをしていました。ファーストフード店等を転々
としました。しかし、その間にためたお金で軽四輪を購入することができました。そして、新聞
の折込広告を見て、中東海軽貨物運送株式会社で仕事をすることになったのです。
1
プログラム5
佐々木:仕事の中身についてもお話いただけますか。
大蔵:私は、自分の軽四輪車を持ち込み、中東海に朝行き、伝票と小荷物を渡され、これを日中
運び、作業が終われば,会社に携帯で終了の電話を入れ,翌日出社の際に前日の伝票を係に渡す
という流れです。毎月の末日に,その月の労働に見合う賃金とガソリン代の実費を,労務担当係
長の吉永さんから直接現金でもらい,来月も頼むよと言われて,翌月も出勤しています。10 ヶ月
続きました。私は高校を卒業して、これほど長く務めたところはありません。その間ミスもした
ことはありません。それを、急に首を切って、手当ても払わないとは、聞いてあきれます。
佐々木:こなくていいと言われたときのことをもう少し教えていただけますか。
大蔵:それを話してなんかなるのですか。
佐々木:お話になるかどうかは自由ですが、お教えいただけますか。
吉永:(うなずく)
大蔵:ところが,ある日の朝,あれは、6月18日と思います。会社に行くと,労務担当の吉永さ
んから今月分として給料を渡され,
「おかしいな、まだ、月末ではないのに」と思っていると、「今
日で首だ」と言われました。理由を聞くと、吉永さんは、物流が少なくなり他の配達員で十分だか
ら首にするというのです。私は呆然としました。夢を見ているのかなと思いました。私としては,
一生懸命働き、特にトラブルはなかったと思いますので、解雇は無効だと思っています。それは、
今も変わりません。その日は突然のことだったので、一旦自宅に帰り、ハローワークに行って相
談すると、解雇予告手当てが出ると聞きました。翌日会社にそのことを言いに行ったところ、吉
永係長から「お前は臨時雇用で、パートなので予告手当てが出ない」と言われました。私は、な
お食い下がり、もう少しで吉永さんと喧嘩になりかけました。そうすると二、三日して、解雇通
知と予告手当ては払うつもりはない、との内容証明郵便が来たのです。
佐々木:あなたにとって、中東海軽貨物運送で働くということは、どういうことだったのですか。
大蔵:私は、先に言ったように、あまり長く一つのところで働くということをしたことはありま
せん。したがって、この 10 ヶ月は自分でも一生懸命に働いたと思います。この仕事は車に乗って
作業ができるし、自分のペースで計画できるので気に入っていました。当分の間は、将来の資金
を蓄えるために続けようと考えていたのです。これが急にこのような形になって。
吉永:しかし、私たちのような会社では、物流の量に合わせて作業員を配置して、効率的にしな
いと、経営が成り立たないのよ。うちのような中小の業者は,正社員を雇う余裕はないですし,
荷物の扱い量が不安定なので,パートやアルバイトの人に半年とか二ヶ月位で辞めてもらうこと
はよくあります。大蔵さんにもそのことは説明してありました。
大蔵:おれは説明を受けていないよ。それに、そんなことは、会社の都合のいい理由だろう。お
れには関係ないよ。
吉永:これまで、車の持ち込みの人にはあなたと同じルールで対応してきました。それで問題と
なったことはありません。あなただけを区別して扱ったのではありません。
大蔵:それって、これまでトラブルがなかったら、何をしてもいいってこと。俺はいやだね。
吉永:あなたは、翌日に、私たちに対して暴言を吐きましたね。労働現場では、皆が協力して気
持ちよく働くことが必要なのに。
2
プログラム5
大蔵:それはすまなかったと思っているよ。しかし、俺としては、どうすればよかったというの
か。だったら、教えてくれよ。ハローワークに行って相談すると,解雇予告手当てが出るってい
っていたけど、どうなんだ。調停人さんにも聞きたいよ。
吉永:法的なことは、私は厳密には答えられないです。むしろ、労働者としての基本的なマナー
を守っていないことが問題なのですよ。
大蔵:それは、おまえらが、法的に正しいことをしていないからと違うのか。なんなら、労働監
督署に言ってみてもいいけど。
吉永:
(少し沈黙して)もう少し配慮をすればよかったと思っています。雇い入れの際にその旨の
説明をし、終了する際にも、それなりの説明するなりの手続は導入する必要がありそうです。
大蔵:予告手当はどうなんだ。ハローワークは出るって言っていたよ。そうだろう、調停人さん。
おれの言っていることは間違っている?
吉永:それは私一人では決められません。ただ、翌日の暴言については、撤回していただく必要
があります。その際、倉庫長にも無礼なことを言ったり、他の従業員にも動揺を与えたのですか
ら。
大蔵:撤回すれば、解雇手当はどうにかなるのか。
吉永:それはお約束できません。
大蔵:解雇手当は、労働者にとっては権利なんだよ。事前に言ってくれれば、もう少し早く就職
活動に入れるのに、不況が痛手となり、就職口はまだ見つからない。
吉永:あなたが、一生懸命仕事していたこと、急なことで、困っていることは分かりました。確
約はできませんが、社内で考えてみます。少し時間を下さい。
佐々木:大蔵さんはそれでいいですか。
大蔵:言いたいことは言ったので、あとは吉永さんに任せるよ。
佐々木:吉永さんもそれでいいですか。
吉永:結構です。
佐々木:いつまでにご返事いただけますか。また、直接連絡されますか。
吉永:では、1週間以内、つまり、7月7日までに、電話番号は分かっていますので、大蔵さん
に直接ご連絡さしあげます。
佐々木:もし、この延長線上で、話し合う必要がでれば、またご連絡していただければ、私ども
でお手伝いさせていただきますが。
大蔵、吉永:またよろしくお願いします。
佐々木:ではこれで、終了いたします。ご苦労様でした。
3
「ADRを担う人材育成に関する
研究会」試行プログラム 第3日
2003年12月20日(土)13:00-18:00
経済産業研究所
ADRポリシープラットフォーム
z
13:00-13:05
第2日の振り返り:プログラム5
z
13:05-17:00
相談(理論・技法とExercises)中村芳彦
z
17:00-18:00 座談会
資料1
相談(理論・技法と Exercises)
2003年12月20日
中
村 芳 彦
スケジュール
1.相談トレーニングの意味と概要の説明
1:00~1:05
2.電子レンジ事故の電話相談場面のビデオ視聴
1:05~1:30
(電子レンジ事故のケース-資料1スクリプト1参照)
と振り返り
3.スクリプト1の簡単な検討(資料4)
1:30~1:45
4.相談の考え方(1)(資料2)
1:45~2:05
5.電子レンジ事故の電話相談場面のビデオ視聴
2:05~2:10
(電子レンジ事故のケース-資料5スクリプト2参照)
6.相談の技法(1)−基本的かかわり技法(資料3)
2:10~2:30
7.基本的傾聴の連鎖のロールプレイ(資料1)
2:30~2:50
― 休 憩
2:50~3:10
―
8.英会話教室のケースの電話相談場面のビデオ視聴
3:10~3:20
(英会話教室のケース-資料6スクリプト1・2参照)
9.相談の技法(2)−積極技法−(資料7)
3:20~4:25
10.相談の考え方(2)(資料8)
4:25~5:00
配布資料
資料1 スケジュール表・電子レンジ事故のケースのスクリプト1・
基本的傾聴の連鎖の作業表
資料2 相談の考え方(1)
資料3 相談の技法(1)−基本的かかわり技法−
資料4 電子レンジ事故−スクリプト1の検討−
資料5 電子レンジ事故のケースのスクリプト1・2
(技法コメント付)
資料6 英会話教室のケースのスクリプト1・2
(技法コメント付)
資料7 相談の技法(2)−積極技法−
資料8 相談の考え方(2)
電子レンジ事故のケース
次のスクリプト1のビデオを見て、グループに分かれて、以下の事項について、議論して
みて下さい。
(1) 全般的な感想(何が問題でしょうか?)
(2) 部分的な問題点(どこが問題でしょうか?)
(3) メディエーションと相談の類似点・相違点はどのようところにあるでしょうか?
スクリプト1
1 (相):はい、日本ADRの山田です。どうなさいましたか?
2
(消):あの、家の電子レンジが火を噴いたんです。前々から普通に使っていて何も悪
い使い方はしていないのに。あの、欠陥品だから、PL 法でメーカーが賠償するの
が当たりまえでしょ?なのに、のらりくらりいいわけばっかり。おたくで何とか
してもらえません。
3
(相):火が出たわけですね。あの、そうしますと電子レンジ以外に、燃えたものが何
かありますか?それと、あと、やけどはなさっていますでしょうか?えーと、つ
いでにですね、あのメーカー名と型式の方もですね、教えてください。
4
(消):近くの消費者センターに言って、メーカーと交渉させているんですけど、消費
者センターも頼りないんですよ。店に言ったら、サービスマンが来たけど、ちら
っと見ただけで修理代を要求するんですよね。らちがあかないので店を叱ったら、
メーカーや店長や6人来たんです。やっと責任者が来てくれたと喜んでるんです
けど、ちょっと・・・
5
(相):すみません。あの、他にどんな物が燃えたんですか?えーと、やけどはなかっ
たんですか?
6
(消):えーと、煙が出ているのを娘が見たんです。火のないところに煙は立たないと
いうでしょ。えー、責任をとれる人が来たはずなのに、製品には問題がないと責
任逃ればっかりするんです。
7
(相):ちょっと待ってください。あの、拡大損害はあるんですか、ないんですか?あ
の、ないとですね、あのPL問題にならないんですよ。
8
(消):えーとですね。拡大損害と言われても、そばにいた娘が消火器で消したから良
かったんですよ。娘がメーカーを助けたみたいなもんでしょ。でも、消火器の粉
で台所中が真白で、もう食器やらフライパンやら一晩中かかって、みんな洗いな
おしているんです。もう、私なんか体中が痛くなってしまって。それを自分達は
悪くないと言い張ってんですけど・・
9
(相):わかりました、わかりました。それであのメーカーが調査に来て、調査の結果
なんと言っているんですか?
10 (消)
:ゴキブリのせいにするんですよ。ゴキブリがレンジの中にいたからショートし
たんだって言って。
11 (相)
:ゴキブリですか。そうするとゴキブリはどこにいました。何匹くらいでしたか?
12 (消):基板というとこがあるんですってね。そこの上に、2 ミリくらいの焦げたゴキ
ブリが 1 匹いただけです。
13 (相)
:火が出たというのは、そのスパークの煙のことを言っているわけですね。結局
火は出ていないということですかね。それだとちょっと補償要求は難しいです
ね・・・
14 (消)
:ちょっと待って下さいよ。おかしいと思いません?どこの家にもゴキブリはい
るでしょう?ゴキブリが入ると煙が出るなら、いっそ入らないように設計すべき
じゃないですか。欠陥品ですよ!それじゃあ、私の台所が汚いせいって言うんで
すか。まるで私が掃除していないみたいに聞こえるじゃないですか。えーとね、
娘は欠陥品のせいで、必死になって消火器で消したのよ。精神的損害をどうして
くれるんです。私は食器を洗いなおしたあと、体の調子が悪くて困っていて、も
う消火器の粉を吸ったせいで、私、将来ガンになったらどうしようと心配なんで
す。ちょっと!あなた聞いてんです?
15 (相)
:ちゃんと聞いていますよ!私も何もあなたが掃除していないって言っているわ
けじゃないですよ。あの、お体の具合が悪いんだったらですね、医師の診断を受
けたんでしょうか?健康被害を訴えようというだったら、そこの辺をちゃんと・・・。
16
(消):ちょっと、あなたも店長と同じことをいうのね。欠陥品でしょうが!
17 (相)
:欠陥品と言えるかどうか、ちょっと難しいですね。電子レンジっていうのは熱
が出るわけですからね、それを放熱する口を作っておかなきゃいけないわけで、
実際出回っているものでゴキブリが入れない設計の製品というのは一つもないん
です。
18 (消)
:ちょっと、もう本当、何言っているんです。メーカーの人と同じじゃない。あ
なたはメーカーの味方なんですか?消費者の味方なんですか?
19 (相)
:中立ですよ。公正な立場でやっています。ただですね、製造物責任法に基いて
補償要求ということをするんだったらですね、ちゃんと要件があるわけで、そこ
の所を今説明しているわけなんですね。
20 (消)
:ちょっと、もう本当にそんなこと聞いていませんよ。えらそうに!私だってね、
法律には詳しいんです。さっきから聞いていれば、人のいうこと否定してばっか
りじゃないですか!失礼ですよ!
21 (相)
:否定しているわけじゃないですよ。中立な立場でアドバイスするために、その
ために・・・
22
(消):何が中立ですよ。おたく、どこの役所の管轄です。役所にいいつけてやるわ、
もう本当に
23 (相)
:私達はどこからも干渉は受けません!だいたいこの件はですね、あの消費者セ
ンターの方に御相談になっているわけでしょ。二股かけて相談するっていうのは、
そのセンターの方にも失礼になるんじゃないですかね。
24
(消):もういいです!おたくなんかにもう相談しません。
ガチャン
基本的傾聴の連鎖
閉
ざ
さ
れ
た
質
問
援助者の発言番号
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
開
か
れ
た
質
問
最
小
限
の
は
げ
ま
し
い
い
か
え
感
情
の
反
映
要
約
そ
の
他
発
言
内
容
基本的傾聴の連鎖
閉
ざ
さ
れ
た
質
問
援助者の発言番号
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
開
か
れ
た
質
問
最
小
限
の
は
げ
ま
し
い
い
か
え
感
情
の
反
映
要
約
そ
の
他
発
言
内
容
相 談 の 考 え 方(1)
2003年12月20日
中 村 芳 彦
1
相談の多様性
• 相談の趣旨(狭義の相談・苦情・情報提供の依頼・
問い合わせ・要望など)
• 相談の方法(面談・電話・インターネットなど)
• 相談の内容(法律相談・人生相談)
• 相談者のニーズ(話を聴いて欲しい・情報提供して
欲しい・斡旋して欲しいなど)
→ここでは具体的な紛争の解決を中心に
相談を捉える
2
電話相談の特徴
1.相談者の主導性 →相談者が支配的、攻撃
的になりやすい→相談員もそうならないよう
留意→傾聴技法の重要性
2.相談者・相談員の匿名性 →状況に応じて
匿名性を解消→関係のあり方を変えていく工
夫
3.音声のみのコミュニケーション →心理的距
離が遠く、相手方が見えないため存在が打ち
消される→適切な距離を確保する努力が必
要
3
紛争過程における相談の位置付け
相 談
あっせん
第三者
第三者
相談者
相談者
Mediation
相談者
第三者
相談者
相談者
Q 実際の紛争はどのように展開していくでしょうか
Q それぞれの
(第三者)の役割はどのように異なるでしょうか
⇒第三者の役割はどのように変化していくでしょうか
4
旧来の「Ask・情報提供・アドバイス型」の限界は?
①当事者の自主性・主体性・納得を尊重した相
談の重視の必要
②紛争の複雑化・価値観の多様化によるニー
ズに応じたきめ細かな相談の必要
③高齢者・DVその他心理的ケアを合わせて必
要とする相談の増加
④当該分野の専門的知識のみによる対応の限
界
5
「聴くこと」を中心とした新しい相談モデル
(1)権威者モデル(Authoritarian Model)
=Ask・情報提供・アドバイス型
(2)相談者中心モデル(Client-Centered Model)
=Active-Listening型
(3)協働判断形成モデル
(Collaborative Decision-Making Model)
=Active-Listeningを中心とした複合モデル
(1)→(2)(3)への転換
6
相談の構造化 とは?
段階1:信頼関係の形成(やあ、どうぞ何からでもお話し
下さい。)
段階2:情報の収集(どんな状況なのかもう少し具体的
にお話し下さい。)
段階3:目標の決定(どうなればいいとお考えですか?)
段階4:可能な選択肢の探求(何ができそうか考えてい
きましょう。)
段階5:協働判断の形成・実践(できることからやってみま
せんか?)
7
相談の具体的プロセスは?
相談の導入
↓
聴く
↓↑
質問
↓
伝える
↓
意思決定
8
なぜ相談の構造化を考えるのでしょうか?
・相談に臨むにあたって見通しを立てる
・「聴く」⇔「問う」→「伝える」のうち前二者と後
者の役割混乱を招かない
・相談者が自ら考える過程に即応(問題を次第
に深めてもらう)
・協働判断の形成のために必要(問題を共に
考える)
9
何故「聴く」という段階だけのスキルを考え
るのでは足りないのでしょうか?
・「プロセスとしての相談」という考え方
・相談は「聴く」だけでは終わらない
・「伝える」「意思決定」がどのように行わ
れるかが相談の質を決定する
10
相談トレーニングの難しさは?
1 Mediationのように対立当事者間の緊張関係がな
いので、相談プロセスが見えにくく、関係が崩れや
すい
2 相談の多様性から、参加者が共通の認識を持ちに
くい
3 参加者がそれぞれの相談スタイルを既に形成して
おり、これとのギャップを感じて反発を招きやすい
4 「プロセスとしての相談」であるため、全体構造を通
して理解してもらう必要がある
11
あっせんの特色
1 同席を前提とせず、電話によるケースが多
いこと
2 直接交渉がうまくいかない場合の代理的あ
るいは介入的役割が期待がされることがある
こと
3 消費者問題の特徴として、当事者間に力の
アンバランスがあることが多いこと
12
電話によるあっせんについて(三者比較)
相談
あっせん
Mediation
二者関係
電話・面接
三者関係
電話が多い
三者関係
面接
聴く+伝える
同席が難しい
聴く+伝える
同席
聴く
相談者の立場 中立性が求め 中立性が求め
に立って
られる
られる
多様性がある 業界団体・消費
者団体・行政が
関与しているこ
とが多い
13
「あっせん」による解決の論点整理
ーADRと相談過程の連鎖のあり方をめぐって
積極面⇒・相談過程とADRの連携強化
・スムーズな移行過程が必要
・両者のスキルを学ぶことで紛争の展
開過程に対応可能
⇒ADRの拡充・活性化へ
14
消極面⇒・相談員とあっせん者の役割混乱への危惧
(「聴く」→「伝える」の自己統制がより難しい)
・電話の特徴による問題拡大への懸念
・別席調停と同様の問題点の存在
(情報のコントロールその他)
この場合のあっせん者のあり方はどう考えたらよいか
15
相 談 の 技 法(1)
ー基本的なかかわり技法ー
2003年12月20日
中 村 芳 彦
1
マイクロカウンセリングの階層表
技法の統合
積極技法
(指示・再構成・自己開示・助言)
( 対
決
)
( 焦点のあて方 )
基本的傾聴の連鎖
(質問・励まし・言い換え・感情の反映・要約)
基本的かかわり行動
(視線・身体言語・声の調子・言語的追跡)
2
基本的傾聴の連鎖と積極技法の関係
クライエントの視点で見る
↓
基本的傾聴の連鎖
多角的な視点で見る
↓
積極技法
⇓
はっきり使い分けることが重要
3
面接の段階と技法の相関関係
段階1 信頼関係の形成
基本的かかわり行動
↓
段階2 情報の収集
↓
基本的傾聴の連鎖
段階3 目標の設定
↓
段階4 可能な選択肢の探求
↓
積極技法
段階5 協同判断の形成・実践
4
マイクロ技法学習の留意点
1.面接全体を通して行うより、面接の各段階ご
とに練習する
2.セッションを構造化しない限り、初期の段階
では、受講者は、段階から段階にでたらめに
動いてしまう
3.面接の基本的技法を身に付けるまで、積極
技法に入るべきではない
5
基本的かかわり行動
視線の合わせ方
身体言語によるかかわり
声の調子
言語的追跡 ・・・話題を変えないこと
6
導入の技法1−面接の場
場所設定=場所・時間・服装・姿勢・位置・
視線・身振り・言葉使い・声
ノンバーバルな部分の重要性
7
導入の技法2
−アイスブレイキング
会話のスタートは笑顔、自己紹
介、ポジティブな承認(=その
人の存在を認める)で相手の
心の緊張を解く
8
導入の技法3−ページング
相手の雰囲気、話すスピード、声の
トーンや大きさ、語尾など、できるだけ
同じように合わせてみる。
安心感と親密度がアップする
→但し、怒鳴りこんできた時は別
9
場についてのセンスを育てる
1.イメージ・リハーサル
2.相談者の椅子に坐ってみること
3.空中に浮かぶ自分の眼球というイメージ
(神田橋條治)
10
傾聴するために必要な前提=ゼロボジョン
①相手のこと、会話の内容について、できるだ
け事前に先入観を持たない。心は真っ白な
キャンパスをイメージする。肩の力を抜くこと
②相手が喋っている間もできるだけ自分の思考
を抑えるようにする(→と言っても無理なので、
自分の心の動きに耳を澄ますこと。これが大
切)。評価しない。自己解釈しない。
→クライエントの話の背後にある心の動きに耳
を澄ます
11
基本的傾聴の連鎖
開かれた質問
最小限の励まし
明確化
いいかえ
要約
感情の反映
12
Active-Listeningの意味
1.相談者に受け入られていること(受容)を実
感させることができる→信頼関係の形成
2.相談者が言いたいことを明らかにしてあげる
(=明確化)→自己治癒力を発揮させること
に対する強力な援助になる
13
それぞれの質問技法の長所・短所は?
開かれた質問→・応答の自由度が高い
・何を話せば良いかわからないことが
ある
・欲しい情報を入手できないことがある
閉じられた質問→・受身的で、尋ねられたことしか答え
られない
・パターナリスティックな関係に陥りや
すい
・イエス・ノーで答えられないアンビバ
レントな領域がある
・欲しい情報が確実に得られる
14
あなたならどうしますか?
−質問技法
クライエント:次の閉じられた質問を開かれた質問に
言い換えてみて下さい。
1.奥さんと離婚する気持はありますか
2.あなた自身の行動を変える必要があるのではあ
りませんか
3.相続放棄をするつもりはありませんか
4.相手方とは、対立状況が続いているのですか
5.請求する損害賠償金は200万円ということでいい
ですか
15
閉じられた質問
閉じられた質問は、面接において有用
なものであるが、次から次へと用いて
はいけない。クライエントがもっと話を
深めていけるような雰囲気の中で、閉
じられた質問を用いることが大切であ
る。
16
答えにくい質問
原因は何ですか?
理由は何ですか?
どうしてですか?
→こうした質問は、しばしば防衛的感
情を引き起こす
17
最小限のはげまし
「それで」「うんうん」「ええ、ええ」「もっと話しをしてみて
下さい」などの言葉を使う。
あるいは、1語や2語のキーワードや最後に言った中
から、いくつかの言葉を取り出して、簡単に繰り返す
最小限のはげましの意味
1 クライエントに話を続けることを促す
2 面接者が焦点をおき、ついていこうとすることを示す
3 最小限のはげましとしての沈黙
4 キーワードを繰り返すことの重要性
※Mediationにおける「繰り返し」はこれに入る
18
いいかえ
相手の話した内容を、違う言葉で、または相
手が表現したがっていると思われる内容を、
より明確にした形で表現して返す技法
※パラフレイジング(Paraphrasing)、リフレイ
ミング(Reframing)との関係
→ここで言う、いいかえは、Mediationにおけ
るパラフレイジングの意味。リフレイミング(=
枠組を揺さぶること)は、基本的傾聴の連鎖
においては使わない。
19
感情の反映
「あなたは・・・と感じているようですね」「あな
たは・・・と感じているように聞こえますが。」と
いうようにクライエントの話すことの情緒的な
側面に焦点をおく。
↓
・クライエントが彼の感情に気づくのを助ける
・クライエントが経験している内的世界を面接
者が理解しているということを示す。
20
スクリプトにおける感情の反映の例
電子レンジ事故スクリプト2
11:火は出ていないけれども、消火器で台所が真白
になって大変な思いをされたということですね。
23:それで、大変な思いをされたということはよく分か
ります。
英会話教室スクリプト2
21:あの、ご自身が疑われたということに、憤られてい
るわけですね。
29:はあ、二重取りを疑われているようで納得できな
いというわけですね。
21
感情の反映の仕方は?
1.現在形を使って、現在の感情を反映する
2.混合した感情を丁寧に反映する
3.クライエントの言葉をそのまま繰り返さない
4.感情の反映の前に、クライエントの感情を正しく
確認する
・感情の反映はどういうときに行うのが効果的か?
→面接の進行を妨げるかもしれない感情をクライエ
ントが持っているときに行う場合
22
みなさんならどう答えますか?
相談者 (3ヶ月前に離婚している女性)はじめて夫が
別れると言ったとき、とても腹がたちました。
でも今では、夫の助けなしに一人で生活して
います。
援助者 a.はじめ、とても腹が立ったのですね。
b.もっと先になれば、これでよかったと思われ
るでしょう。
c.ご自分一人でやっていかれることに誇りを
感じていらっしゃるのですね。
23
感情の反映の練習
次の文章の各々について感情の反映をしてみて下さい。
1.メーカーの対応には、とても腹がたっています。許
せません。
2.私の父にはうんざりします。いつも私に命令します。
3.娘が事故であんな後遺症が残ってしまって・・・。
ショックで何も手につきません。
4.私は、お店であんな長い列に並ぶことはとてもでき
ません
24
要約
要約は、クライエントの考え、感情そして行動を正確に
まとめることである。
要約技法の意味
1.そこで何が起こっているかを明確にする
2.面接の間に滞りなく話題を変えられるようにする。
3.これまでの面接を通して何が起こったかをまとめる
(←話が長く、とりとめがなく、混乱してきたとき)
4.面接に方向付けと一貫性を与える
25
電子レンジ事故
ースクリプト1の検討ー
2003年12月20日
中 村 芳 彦
1
相談員と消費者の視点(意識)のズレ
消費者
心情
電子レンジから煙が出
て大変な思いをさせら
れた
問題意識 メーカーは使い方が悪
いと言って誠実に対応
してくれない
要求
法論理
相談員
精神的苦痛を受けたこ
とによる慰謝料
改善要求
謝罪
?
?
原因は何か
拡大損害かどうか
→あてはめのための情報収集
否定
PL法
2
相談員の意識変化の試み
消費者の視点から見ること −基本的傾聴の連鎖
・直接交渉におけると同様に、否定されることへの恐れや
危惧
消費者にとって何が問題なのかを明らかにしていく
・消費者にとっての気づきを促し、問題を明確化し、相談員
との信頼関係を形成していく
メーカー側との不一致を明らかにする −積極技法
不一致に対して、どのような解決等が考えられるかを一緒に考
えていく
3
資料 5
電子レンジ事故のケース
スクリプト1
1 (相):はい、日本ADRの山田です。どうなさいましたか(開かれた質問)?
2 (消)
:あの、家の電子レンジが火を噴いたんです。前々から普通に使っていて何も悪い
使い方はしていないのに。あの、欠陥品だから、PL 法でメーカーが賠償するの
が当たりまえでしょ?なのに、のらりくらりいいわけばっかり。おたくで何と
かしてもらえません。
3 (相):火が出たわけですね(いいかえ)。あの、そうしますと電子レンジ以外に、燃え
たものが何かありますか(閉ざされた質問)?それと、あと、やけどはなさっ
ていますでしょうか(閉じられた質問)?えーと、ついでにですね、あのメー
カー名と型式の方もですね、教えてください(指示)。
4 (消)
:近くの消費者センターに言って、メーカーと交渉させているんですけど、消費者
センターも頼りないんですよ。店に言ったら、サービスマンが来たけど、ちら
っと見ただけで修理代を要求するんですよね。らちがあかないので店を叱った
ら、メーカーや店長や6人来たんです。やっと責任者が来てくれたと喜んでる
んですけど、ちょっと・・・
5 (相)
:すみません。あの、他にどんな物が燃えたんですか(閉じられた質問)?えーと、
やけどはなかったんですか(閉じられた質問)?
6 (消)
:えーと、煙が出ているのを娘が見たんです。火のないところに煙は立たないとい
うでしょ。えー、責任をとれる人が来たはずなのに、製品には問題がないと責
任逃ればっかりするんです。
7 (相)
:ちょっと待ってください。あの、拡大損害はあるんですか、ないんですか(閉じ
られた質問)?あの、ないとですね、あのPL問題にならないんですよ(情報)。
8 (消)
:えーとですね。拡大損害と言われても、そばにいた娘が消火器で消したから良か
ったんですよ。娘がメーカーを助けたみたいなもんでしょ。でも、消火器の粉
で台所中が真白で、もう食器やらフライパンやら一晩中かかって、みんな洗い
なおしているんです。もう、私なんか体中が痛くなってしまって。それを自分
達は悪くないと言い張ってんですけど・・
9 (相)
:わかりました、わかりました。それであのメーカーが調査に来て、調査の結果な
んと言っているんですか(開かれた質問)?
10(消)
:ゴキブリのせいにするんですよ。ゴキブリがレンジの中にいたからショートした
んだって言って。
11(相):ゴキブリですか(いいかえ)。そうするとゴキブリはどこにいました(閉ざされ
た質問)。何匹くらいでしたか(閉じられた質問)?
12(消):基板というとこがあるんですってね。そこの上に、2 ミリくらいの焦げたゴキブ
リが 1 匹いただけです。
13(相)
:火が出たというのは、そのスパークの煙のことを言っているわけですね(解釈)。
結局火は出ていないということですかね。それだとちょっと補償要求は難しいで
すね・・・(対決)
14(消)
:ちょっと待って下さいよ。おかしいと思いません?どこの家にもゴキブリはいる
でしょう?ゴキブリが入ると煙が出るなら、いっそ入らないように設計すべきじ
ゃないですか。欠陥品ですよ!それじゃあ、私の台所が汚いせいって言うんです
か。まるで私が掃除していないみたいに聞こえるじゃないですか。えーとね、娘
は欠陥品のせいで、必死になって消火器で消したのよ。精神的損害をどうしてく
れるんです。私は食器を洗いなおしたあと、体の調子が悪くて困っていて、もう
消火器の粉を吸ったせいで、私、将来ガンになったらどうしようと心配なんです。
ちょっと!あなた聞いてんです?
15(相)
:ちゃんと聞いていますよ!私も何もあなたが掃除していないって言っているわけ
じゃないですよ。あの、お体の具合が悪いんだったらですね、医師の診断を受け
たんでしょうか?健康被害を訴えようというだったら、そこの辺をちゃんと・・・
(意見/アドバイス)。
16(消):ちょっと、あなたも店長と同じことをいうのね。欠陥品でしょうが!
17(相)
:欠陥品と言えるかどうか、ちょっと難しいですね。電子レンジっていうのは熱が
出るわけですからね、それを放熱する口を作っておかなきゃいけないわけで、実
際出回っているものでゴキブリが入れない設計の製品というのは一つもないんで
す(対決)。
18(消)
:ちょっと、もう本当、何言っているんです。メーカーの人と同じじゃない。あな
たはメーカーの味方なんですか?消費者の味方なんですか?
19(相)
:中立ですよ。公正な立場でやっています。ただですね、製造物責任法に基いて補
償要求ということをするんだったらですね、ちゃんと要件があるわけで、そこの
所を今説明しているわけなんですね(対決)。
20(消):ちょっと、もう本当にそんなこと聞いていませんよ。えらそうに!私だってね、
法律には詳しいんです。さっきから聞いていれば、人のいうこと否定してばっか
りじゃないですか!失礼ですよ!
21(相)
:否定しているわけじゃないですよ。中立な立場でアドバイスするために、そのた
めに・・・(対決)。
22(消)
:何が中立ですよ。おたく、どこの役所の管轄です。役所にいいつけてやるわ、も
う本当に。
23(相)
:私達はどこからも干渉は受けません(対決)!だいたいこの件はですね、あの消
費者センターの方に御相談になっているわけでしょ。二股かけて相談するってい
うのは、そのセンターの方にも失礼になるんじゃないですかね(解釈)。
24(消):もういいです!おたくなんかにもう相談しません。
ガチャン
スクリプト2
1(相):はい、日本ADRの山田です。今日は、どういうご相談でお電話を頂きましたで
しょうか(開かれた質問)。
2(消):家の電子レンジが火を噴いたんですけど。えーと、前々から普通に使っていて何
も悪い使い方はしていなかったんですよね。で、欠陥品だから、PL 法でメーカ
ーが賠償するのがあたりまでしょ?。あの、なのに、のらりくらりいいわけば
っかりで。おたくで何とかしてもらえませんでしょうか。
3(相):うん、家の電子レンジが火を噴いたということですね(いいかえ)。
4(消)えー。
5(相)家の事故の状況をですね、もう少し詳しく教えていただけますか(はげまし)。
6(消)普通に使っていたんです。そうしたら、突然煙があがったんですけど。あの、そば
にいた娘が、見ていて、消火器で消したんです。
7(相)突然、煙が上がったのですね(はげまし)。
8(消)えー。
9(相)煙はどんな具合でしたか(開かれた質問)、火は出たのでしょうか(閉じられた質
問)。
10(消)火は出てません。あの、たまたま、そばにいた娘が消火器で消したから良かった
んです。娘が、消してなかったら、もう火は出ていたと思うんですけど。娘がメ
ーカーを助けたみたいなもんでしょ。でも、消火器の粉で台所中が真白なんです
よ。食器やらフライパンやら、もう一晩中かかって、みんな洗い直しして、もう
私なんか、体中が痛くなってしまって。もう、本当に、自分達は悪くないと言う
んですよね、メーカーの人は・・
11(相)火は出ていないけれども、消火器で台所が真白になって大変な思いをされたとい
うことですね(感情の反映)。
12(消)そうなんです。
13(相)それなのにメーカーは、自分達は悪くないと言い張っているということですね(い
いかえ)。
14(消)えー。
15(相)それでは、メーカーは、調査の結果なんと言っているんでしょうか?(開かれた
質問)。
16(消)ゴキブリのせいにするんですよ。ゴキブリがレンジの中にいたからショートした
って。
17(相)ゴキブリがレンジの中にいたからショートをしたと言っているわけですね(いい
かえ)。
18(消)えー。
19(相)ゴキブリが、どこにいたかは確認していらっしゃいますか?(閉じられた質問)。
20(消)えー、基板とかいうものの上に、2 ミリくらいの焦げたゴキブリが 1 匹いただけす。
21(相)うーん、ゴキブリは確認していらっしゃる。そのスパークの煙をご覧になって消
火をしたということですね(いいかえ)。
22(消)えー、そうです。
23(相)それで、大変な思いをされたということはよく分かります(感情の反映)。
24(消)えー。
25(相)そうすると、どうやら、ゴキブリが原因ということのようですね(対決:消費者
から見ると欠陥品だから煙が出たと言いたいのに対して、メーカー側はゴキブリ
が入ったために煙が出たと言っていることの不一致を指摘している)
。
26(消)えっ、チョッと、待ってください。台所が汚れているって言いたいんです。どこ
だってゴキブリはいるじゃないですか?ゴキブリが入ると煙が出るなら、入らな
いように設計すべきじゃないですか。
27(相)そんな風に聞こえましたでしょうか(閉じられた質問)。メーカーからそのように
言われたんでしょうかね(閉じられた質問)?私が言いたかったのは、ご一緒に
この電子レンジの問題を考えて見ましょうということだったんですね。まず、あ
の、ゴキブリが、電子レンジに入ってしまったということについてはどうでしょ
うか(焦点化)。
28(消)あっ、それは否定しません。でも、あの私は、入らないような形というか、構造
にすべきではないかなって考えているんですけど。
29(相)うーん、消費者側からすれば、たとえ小さなゴキブリでも、入り込んで煙が入っ
てしまったら困ってしまうということですね(いいかえ)
。
30(消)そうなんです。
31(相)そのような設計をして欲しいというとこですよね(いいかえ)。
32(消)そうです。
33(相)ただ、一方で作る側に立ってみると、あの電子レンジというのはですね、必ず熱
が出るもんですから、それを逃がしてやる口を作らなければいけないようで、実
際小さな虫まで入らないようにしてある製品は実際出ていないようなんですよ
(対決:消費者の要望とメーカーの設計上の要件が一致しないことを指摘してい
る。)
34(消)えー、でも、実際に煙が出てびっくりすることだってあるじゃないですか。それ
に、気がつかないで、消火せずにそのままにしていたら、もっと大きな火災にな
っていたかもしれないじゃないですか。そういう場合はどうなるんです?
35(相)うーん、あの、こういう事故の場合はですね。あの、製造物責任法の方はですね、
あの商品に設計上の欠陥があって、その商品以外の財産とか身体にですね、損害
が発生しまして、それが証明されたときに、あの発生した損害の賠償請求ができ
る、そういう仕組みになっているんですね(情報)。で、本件の場合ですと、設計
上の欠陥があったのか、あの製造物責任の損害にあたるのかというところが、ど
うやら争いになりそうですね(意見)。で、具体的にどのような被害が生じたわけ
なんでしょうか?(開かれた質問)
36(消)まあ、電子レンジはですね、掃除して使っているんです、今でも。洗い直したり、
体が痛くなったほかは特にはないんですけど。でも、納得がいかないんですよね。
あの、煙が出たわけですから。メーカーに、そちらから話しをして、使い方が悪
いなんていったことを謝らせて欲しいんです。あの、それから、欠陥についても
メーカーとしての、まあ、考え方というか見解を聞きたいんですよね。
37(相)うーん、使い方が悪いと、メーカーに言われたことが心外であるということ(感
情の反映)と、欠陥についてのメーカーの意見を聞きたいと、こういういうこと
ですかね(いいかえ)。
38(消)そうです。別に大きな被害が生じたわけじゃありませんし、私たちも別に、あの
事を荒立てたいわけじゃないんですけど、気持というか何か釈然としてないんで
すよね。少なくともですね、私の使い方のせいではないということだけは認めて
欲しいと思っています。
39(相)わかりました。その点は、あのメーカーに確認して、必ずご連絡をするようにい
たします。では、ですね、お名前とご連絡先、メーカーの担当者の名前を聞かせ
ていただけますか(閉じられた質問)。
40(消)えーと、メーカーはですね、X 社のお客様相談センターの稲村さんという人に相
談しています。よろしくお願いします。
資料 6
幼児英会話の教室ケース
《相談内容》
家庭で受けられる幼児英会話教室の体験レッスン(1000 円)の勧誘を受け、週末のレッ
スンを申込み、その場で代金 1000 円を払った。その際、キャンセルしたときの対応を訊ね
たところ、「前日に予約確認の電話を入れる。キャンセルの場合は返金する」との回答だっ
た。レッスン前日から確認の電話が入り、子供会の行事と重なったのでキャンセルを申出
て受けてもらった。代金は郵便為替で返金すると言われた。しかし、その後一向に郵便物
は届かず、たかが 1000 円のことでも電話代はばかにならないとは思いつつ、英会話教室に
電話をしたが、女性担当者は、「既に1週間前に母親の名前で小為替を送った。小為替の発
行番号も控えてある。そちらで家族の誰かが受け取っているのではないか」と、まるで家
族が盗ったといわんばかりの返答をされた。家族は夫と自分と子供しかいないので自分宛
の郵便物が間違われることはないと説明したが「うちはもう為替を送り返金は済んでいる」
と、とりつくしまのない回答を繰り返すのみであった。どうしたものか失礼な話だ。小切
手番号の控えがあるなら、換金の有無を調べて、未換金ならその番号をキャンセルし改め
て為替を送りなおすとか、それが面倒なら、改めてレッスンの予定を組み直す提案をする
とか、客の立場にたった対応が出来ないのか。そもそも為替の送付がイコール返金という
体魚は腹が立つ。客から問合せがなければ何の説明もないというのでは、会社の姿勢に問
題あり。このぐらいの金額でバタバタしているのは大人気ないのかもしれないが、このま
までは、二重取りを疑われているようで納得できない。
スクリプト1
1 (相)はい、相談センターです。どうなさいました(開かれた質問)?
2 (消)あっ、もしもし、あの、子供のですね。
3 (相)はい(はげまし)。
4 (消)英会話の教室(の体験レッスン)を、あの申し込んで、キャンセルしたんですけ
ども、お金が戻ってこないんですよ。
5 (相)はあ(はげまし)。
6 (消)で、そちらで交渉して頂けるということを聞いたんで、交渉してもらって、注意
してもらいたいんですけれども。
7
(相)あの、いきなり交渉してくれって言われてもですね(対決)。あの、いくらお金
は払ったんですか(閉じられた質問)。
8 (消)1000 円です。
9 (相)1000、1000 円ですか(はげまし)。あの、どんな体験レッスンですか(開かれた
質問)?
10 (消)あの幼稚園の子供なんですけれども。
11 (相)はい(はげまし)。
12 (消)あの、体験レッスンでね。で、その場で 1000 円を払って、申し込むものなんで
すよ。
13
(相) ほう(はげまし)。
14 (消)で、申し込むときに、あのキャンセルのときはどうすればいいんですかって、聞
いたんですよ。
15 (相)えー、えー(はげまし)。
16 (消)そしたら係りの人が、前日に、あの、予約の確認の電話してくれるので。
17 (相)うーん(はげまし)。
18 (消)そのときに、あのキャンセルしてくれてもいいと。で、そのキャンセルしたとき
には。
19
(相) えー(はげまし)。
20 (消)えーとお金を、ですね。郵便為替で、あの戻してくれるっていう話だったもので
すから、あの確かに、あの前日にお電話がかかって来たときにね。あの、チョッ
と、子ども会の用事と重なってしまったので、キャンセルをしたんですけど、も
う全然為替が送られてこないんですよ。
21 (相)うーん、あっ、そうですか(はげまし)。あの御自分で直接交渉はされたんです
か(閉じられた質問)?
22 (消)えー、もちろんです。で、あの、それでも埒が明かないんでね。で、あの、そち
らにお電話したら、あの注意して頂いたり、あの交渉して頂けるという話を聞い
たので、お電話したんですけど。で、あの私も、向こうに、相手の女性にね。あ
の、電話をしたら、1 週間前に、あの私宛に送ったって言うんですよ。で、あの誰
かね、うちの家族の者が、それとっちゃって、換金したんじゃないかってね。も
う、ひどい言い方されちゃって、で、もう、もう頭にきてしまって、でそんな対
応はないんじゃないかと思って、そちらにお電話をしたんですけど。
23 (相)はあ。まあ、そういうことでしたら、あれですね。こちらで言っても、結局送っ
たとか、送らないとかいう水掛け論になってしまいますよね(対決)
。
24 (消)ああ、でも、水掛け論てね。あの、向こうもね、それで、あの商売としてやって
る訳だから、で、為替の番号も向こうは控えているって言っていて、で、番号が
あるんだったらね、こちらが換金してないんであれば、それだって、向こうだっ
て番号でチェックできて、為替を1回キャンセルして、再送付するっていうこと
もできるだろうし、あるいはね、その商売としてやっているんだったら、向こう
から、もう一回申込のアレンジしましょうか位ね、提案してもいいと思うんです
よ。それがなくて、あの如何にもね、うちの家族や私が盗んだって、言わんばか
りのね、こと言われて。こっちは被害者なんですよね。
25 (相)ただ、それは分かりますけど。あの、まあ、例えばですね。相手に、まあ内容
証明を送ったりとかですね。あと、法律的に訴訟を起こすといっても、小額訴訟
っていうのはできましたけども、これただって言うわけにはいかないですし、も
う 1000 円以上かかる話しなんで、かえって費用倒れになっちゃうんじゃないで
すか(対決)
。
26 (消)ああ、じゃあ、もう費用倒れだから、こっちには、泣き寝入りしろって言うこ
となんですね。じゃあ、もういいです。私は、そちらはね。あの、消費者の味方
だっていうんで、電話しているんで、じゃあ、他の、じゃあ、もう相談センター
に行きますから、結構です。ありがとうございます。ガチャン。
スクリプト2
1
(相)はい、相談センターです。あの今日、お電話を頂いたのは、どういうご相談で
しょうか(開かれた質問)。
2 (消)ああ、あの子供がね、あの英会話の体験レッスンを申し込んだんですけれども
3 (相)はい。(はげまし)」
4
(消)そのお金を払って、キャンセルしたんですけれども、お金が戻ってこないんで
すよ。で、そちらで注意して頂きたいんですけど。腹が立つことばかりで。
5
(相)ああ、そうですか。もう少し詳しく状況をお話ししていただけませんか(はげ
まし)?
6 (消)あの、家庭で受けられる幼児の英会話教室の体験レッスンなんですれども。
7 (相)ええ(はげまし)。
8 (消)あのその場で、お金を申し込んでお払いして、1000 円お払いしたんですけれど
も。
9 (相)1000 円を支払ったのですね(はげまし)。
10
(消)そうです。そのときにですね。私も、子供なんで、何かあったら困ると思って、
キャンセルする場合は、どうしたらいいんですかっていうふうに、お伺いしたん
です。
11 (相)ええ(はげまし)。
12 (消)そうしたら、あの前日に予約の確認の電話をさせて頂くので、そのときにキャ
ンセルをして頂ければ、後でお金は返金しますっていうふうに言われたので、申
し込んで、確かに、前日にお電話があったので、丁度子ども会の用事が重なって
しまったんでね、そのときにキャンセルを申し出て、で、向こうの方は、ああい
いですよって、言ってくださったんですけれども。
13 (相)あー、キャンセルを了解してもらったということですね(いいかえ)。
14
(消) えー、えー。
15 (相)お金はどうすることになったんですか(開かれた質問)?
16 (消)そのときにですね、代金は郵便為替で返金するっていうふうに言われたんです
よ。でも、一向に、あの、そういった郵便物が届いた気配というのはないんです
けれども。
17
(相)お金は戻っていないというわけですね(いいかえ)。
18
(消)そうです。
19
(相)そのことを申し出ました(閉じられた質問)?
20
(消)ええ。あの英会話教室に直接お電話したときにですね。女性の方が出られて、
そうしたら、そこでね、1 週間前に私宛に送ったっていうんですよ。で、向こう
は、為替の番号も控えてあると言って、こちらの家族が盗ったんじゃないかとい
うことまで言われてしまって。
21 (相)あの、ご自身が疑われたということに、憤られているわけですね(感情の反映)。
22 (消)そうなんです。うちは、私と夫と子供しかいないので、あのその他の郵便物が
盗られるっていうことはないだろうし、誰かが間違えてね、盗ったっていうこと
も、うちの家からするとありえないと思うんですよね。そのことを向こうの方に
再三言っても、もう為替はね、送ったからということばかり言われてね、こっち
の話なんて、全然聞いてくれないって感じなんですよね。
23 (相)そうすると、先方は、返金はすんでいると主張しているわけですね(いいかえ)。
1000 円の返金についてはどういうふうにお考えでしょうか(焦点化―金銭)。例
えば、1000 円が戻ったかどうかという争いということですと、まあ、費用対効果
を考えますとね、なかなか、まあ法的手続は取りにくいというケースだと思うん
ですけれども(対決)?
24
(消)といいますと?どういう意味ですか。ごめんなさい。
25 (相)例えばですね、内容証明郵便とかを出すにしてもですね、1000円以上かか
ってしまいますし、小額訴訟という手続を使っても、まあ、お金もかかりますし、
こういうようなケースの場合、あまり実際的ではないと思うんですよね(対決)。
26 (消)ああ、なるほど、そういったことは、おっしゃっている意味は良くわかるんで
すけれども。ただ、向こうはね、為替の控えがあるんだったら、こちらが換金し
ているかどうかっていうの調べて、換金していないんであればね、再発行すると
いうこともできると思うし、向こうも御商売としてやっているんだったら、改め
てレッスンの予約をね、受け付けるとか、そういう提案をして下さるとか、もっ
と、そのなんて言うの、業者としての対応があるんじゃないかと思うんですよ。
で、たかが 1000 円のことって思われるかもしれませんけれども、まあ、その、
いかにも、為替を送付したから返金したという態度がね、私にはこう何か気に入
らないんですけれども。
27 (相)はあ、お金のことよりも、相手方の態度の方が問題だということでしょうかね
(意味の反映)。
28
(消)そうですね。で、このままだと、私かあるいは私の家族が疑われたままだし、
何かこう、二重取りをね、あの、するような形で疑われているっていうような感
じがして納得がいかないですよね。
29 (相)はあ、二重取りを疑われているようで納得できないというわけですね(感情の
反映)。この問題の解決については、まあ、先ほども言われておりましたように、
まあ、例えば、その改めてレッスンの予約を入れなおすというというような方法
も考えられるんですか(閉じられた質問)?
30 (消)そうですね。で、相手の対応の仕方によっては、あのもともと子供に英会話を
習わせたいと思って、こちらから申し込んだもので、たまたま、その子ども会の
用事が重なってキャンセルしてしまったというのは、うちの原因ですから。
31
(相)お金の点は、どうでしょうか(焦点化)。先方は、返金したと繰り返すといっ
ただけといった場合は、解決策は、何か考えられますか(開かれた質問)?
32
(消)そうですね。で、確かに 1000 円ってね、こんなことを長くやっていたくない
という気持もありますので。ただ、ああいう態度だとね、こう水掛け論みたいな
ことになってしまって、お金が返ってくるっていうのは難しいのかなあという感
じはしているんですよ。返しているって言う以上、向こうも謝るということもな
いと思って。私としても、どうしたらいいのかっていうのが全く分からないので
すよね。
33
(相)返したことを証明するのは、先方の責任だと思いますので(意見)。
34
(消)ああ、そうなんですか。
35 (相)先ほど言われた、まあ、他の可能性の話もされた上でね、書留で送ったとか返
したことのね、証明ができない以上は、もう一度あの先方と交渉されてはいかが
でしょうかね(示唆)。
36
(消)ああ、なるほど、そういう点で交渉するっていうことですね。
37 (相)それでも、埒があかない場合にはですね、まあ悪質な業者というふうに思われ
るでしょうから、まあ我々のセンターが中に入って斡旋するということも考えら
れます(意見)。
38 (消)ああ、なるほど、そういうことをすると、斡旋もして下さるということですね。
わかりました。先方の、あのどういう方法で送ったのかと言う点を確認して、も
うちょっと自分で話してみます。それでも埒が明かない場合は、また、お電話さ
せて頂くと思いますので、どうぞ、よろしくお願いします。
39 (相)はい、わかりました。
プログラム5
プログラム5・振り返り
ロールプレイを行う
解雇予告手当事件
共通のFact
Tさん(19歳男性
独身)は,アルバイトとしてK運送株式会社に約10ヶ月間勤務していた
が,1ヶ月前に突然解雇された。K運送の労務担当S係長は,物流が減ったので配達員があまっ
ていることを解雇の理由として説明した。Tさんとしては,まじめに勤務してきたつもりで,こ
の仕事が気に入っていたので,突然の解雇に納得がいかず,S係長に抗議をしたが,らちがあか
ない。なお,解雇に際して,K運送からは事前の解雇予告はなく,また解雇予告手当の支払いも
なかった。
1班
2班
3班
チューター(稲葉)
チューター(稲村)
チューター(田中)
調停人が中立でいることが困 講座とやってみるのとは、大き 当事者によっては、もっと感情
難
な違いがある
的な人もいるのでは
法的に明らかと思われた場合 最後の条件提示は、調停人は避 当事者から名刺を出された場
の処理の仕方に苦労をする
けるべきだ
合の扱いは
当事者が決めるという実感を 話しが感情的になったとき、事 どうしても弱者に偏りがちに
どのように抱かせるか
実に戻るのか気持ちに戻るの なる
双方の申出を十分に確認した か
方がいい
途中歩みよりが見えたところ
ターニングポイントはどこに で、それをどのように進めるの
法的判断と法的事項の確認と あったのか
はどのように違うのか
かが難しい
調停人は二人の間になかなか 平行性になったときに、どうす
Tさんが10月一生懸命働いた 入れない
るのか
ことをSさんが認めたことを、 一方に肩入れしようと思う気 当事者と当事者間の会話では
もう少し掘り下げるべきでは 持ちが強いと、態度が不自然に く、当事者と調停人との会話し
ないか
なる
かなかった
(当事者役)説得される難しさ 落としどころをどうしても考 (当事者役)相手を見ることが
を感じた
えてしまう
難しい。
(当事者役)法的に詳しい人な 労働問題のように、パワーバラ (調停人役)もっと提案したか
ら法的な弱点をついてくるの ンスが違う場合は、調停人はど った。
ではないか
のように関わるのか
注:Fact-Sheetに注意書きが必
(調停人役)イントロの後どう
要(感情を付加していい、権限
すればいいのかが迷った
の有無、事実の追加等)
話しを深められずに、法的な面
に入ってしまった
1
相 談 の 技 法(2)
ー積極技法ー
2003年12月20日
中 村 芳 彦
1
積極技法の分類
①伝える内容⇒助言・指示・情報提供
など
積極技法
②伝える際の前提⇒焦点化⇒対決
再構成
⇒技法としては②が重要
2
伝えることの意義
客観的情報(法その他)
意見・アドバイス
↓
聴いている姿勢で(相談者の主体性の尊重)
相談者に現実との直面化を求める
↓
一緒に問題を考えていく
3
相談者の言葉から
「やさしいコトバは私を救ってくれ
ない。
やさしい人は私を救ってくれる。
私を正面から見つめ助けようと
tryされればされるほど、私は意
地悪くなる。「私は私でしかない。
固有の存在」ということが、露わ
になるから。」
4
聴くことを深める1ー焦点化
あいまいな細部を明確化し、方向付けする質問
〈今、現在はどういう状況なのですか(時間にスポット
を当てる)〉
〈まず、相続関係がどのようになっているかから整理
してみましょう(一つの問題にスポットを当てる)〉
〈今、何が一番不安ですか?(クライエントの気持ち
にスポットを当てる)〉
5
焦点化の目的
焦点化というと、相談員側が焦点を絞る
というイメージが強いが、そうではなく、ク
ライエントが多角的視点から見ることを援
助することに目的がある。→早すぎる段
階での焦点化は、聴いたことにならない。
6
焦点化の意味
クライエントの視点
クライエントのニーズ
基本的傾聴の連鎖
明確化
現実検討 多角的な視点
積極技法
焦点化→対決
7
スクリプトにおける焦点化の例
電子レンジ事故スクリプト2
27:まず、あのゴキブリが電子レンジに入って
しまったということについてはどうでしょうか。
英会話教室のスクリプト2
23:1000円の返金については、どういうふうに
お考えでしょうか
31:お金の点は、どうでしょうか
8
相談と心理療法の違い
相 談
外的視点
(法規範など)
心理療法
内的視点
(時間・感情・問題・関係者など)
個
人
個
人
9
「聴く」「伝える」の重み
相談では、外部から法規範など異質なもの
がクライエントにもたらされるので、心理療法
以上に傾聴を丁寧にして信頼関係を築くこと
が必要、また積極技法の使用には、より慎重
な配慮が求められる。
10
焦点化への抵抗
相談では、クライエントが重要と考え焦
点化して欲しいと強く望む部分と、相談
員が重要と考える部分(例えば、法的判
断のために重要と考える情報)との間に
ギャップが生じやすい
11
焦点化に求められる姿勢
1.クライエントのニーズから常に出発すること
2.気づきを促す聴き方(=分野を絞った開か
れた質問)をすること
3.段階をおって焦点化していくこと
4.共に考えるという姿勢が重要
12
聴くことを深める2−対決
対決は、クライエントが自分自身と自分の生
活の中にある矛盾や不一致とみつめることを、
穏やかに、敬意を持って援助することである。
「あなたはあなたの奥さんを愛してるといい続
けていますが、いつも些細なことで言い争い、
口論していますね。」
→「一方では・・・、でももう一方では、・・・」に書
き分けられる。
13
スクリプトにおける対決の例
29:(相)う∼ん、消費者側からすれば、たとえ小さなゴ
キブリでも、入り込んで煙が入ってしまったら困ってし
まうということです(いいかえ)。
30:(消)そうなんです。
31:(相)そのような設計をして欲しいということでしすね
(いいかえ)。
32:(消)そうです。
33:(相)ただ、一方で作る側に立ってみると、あの電子
レンジというのはですね、必ず熱が出るもんですから、
それを逃がしてやる口を作られなければいけないよ
うで、実際小さな虫まで入らないようにしてある製品
は実際出ていないようなんですよ(対決:消費者の要
望とメーカーの設計上の要件が一致しないことを指
14
摘している)。
対 決 体 験
カウンセラー
クライエント
クライエントの傷つきを共に
するということを決意してい
る
ともに問題に向き合ってい
る(一人で放り出されてい
ない。一緒に取り組んでく
れている)という感覚
クライエントを批判・否定して
いない
主体的・自主的に取り組む
こと(依存せず、自分の意
志で考え、決めること)を促
される感覚
クライエントへの配慮を伴う
配慮されている(ありのまま
の自分を見守られている)、
評価されていない感覚
15
相談場面での対決の特徴
クライエントの語る事実関係の下では、クライ
エントの希望は法的には実現が難しいなど、
クライエント内部の思いと外界の規範との相
克という現れ方を一旦して、内部化されていく
というプロセスをたどることが多い。
↓
抵抗が強い場合がある
16
対決に求められる姿勢
1.人と人の対決にならないようにすることが重要
→人と問題を分離する(問題の外在化)
→問題について考える姿勢を保つ
2.相談員の言葉の中に、非難、審判、問題解決を含ま
せないこと
3.婉曲的に行うこと(焦点化→対決→助言といった展開
を含め)
4.専門用語を使わず、わかりやすい言葉で
5.疑問の表出や反論の機会を与えて、十分に傾聴する
こと
6.最後は無理をせず、解決にこだわらない姿勢が重要
17
皆さんならどのように考えますか?
クライエント
昨日、家を見てきました。万一家が手に
入ったら、子供達も落ち着くでしょう。
(クライエントは、限られた収入で生活して
おり、借金もある)
18
援助者
a.あなたにとっては、子どもたちに家という安定
したものを与えることが大切なのですね。
b.それは、よい考えだとは思えませんね。あな
た自身がもっと落ち着いて借金をこれ以上つ
くらないようにする方が、子どもさんたちも結
局安定するように思いますよ。
c.持家があなたにとって大切なのはよくわかり
ますが、あなたの経済状況で家を買うという
のは現実的なことでしょうか。
19
聴くことを深める3−再構成
クライエントが彼らの人生のストーリーを、より肯定
的な方法で話したり、再構成したりするのを助ける
↓
専門家とクライエントが共同で「問題」に取り組むと
いう「関係」
↓
どのようなやりとりを可能にする関係であるかが重
要(=対等性を崩さないこと)
↓
いま、自分が相手とどのような「関係」を作っている
のかに常に注意を払い続けること
20
スクリプトにおける再構成の例
電子レンジ事故のケース、スクリプト2
(再構成の結果としては)
38:少なくともですね。私の使い方のせいではないと
いうことだけは認めて欲しいと思っています。
幼児英会話教室・スクリプト2
(再構成を試みる)
29:例えば、改めてレッスンの予約を入れなおすという
ような方法も考えられるんですか。
21
選択肢の開発
1
2
3
4
5
法律的選択肢の分析確認
問題解決選択肢の分析確認
クライエント援助選択肢の分析確認
必要な補強情報の確認
総合による選択肢の開発
(示談、訴訟を含め)
22
一緒に問題を考えるとはどういうことでしょうか?
1 クライエントに意思決定の機会を与える
2 選択肢とその結果についてクライエントに自
覚させる
3 選択肢とその結果について比較検討する機
会を与える
4 結果を見極める
−法律的結果・非法律的結果を予測させる
23
収束場面
1
2
3
4
5
相談者の話しの最終要約
法的なアドバイスのまとめ
質問・意見の機会提供
次回の説明(←継続の場合)
関係強化メッセージ(支持・共感で)
24