<シンポジウム> 脳幹のアセチルコリン作動性ニューロンとレム睡眠 −脚橋被蓋核で夢を見る?− 福島大学・共生システム理工学類 小山 純正 PPN は、レム睡眠の調節に重要な役割を果たすことが知られている。われわれは、睡眠・ 覚醒を繰り返すネコ、ラットの単一ニューロン活動の解析から、レム睡眠調節における PPN ニューロンの役割について明らかにしてきた。 PPN ニューロンの一群は、レム睡眠に先行して特異的な活動上昇を示すことから REM-on ニューロンと呼ばれる。別の一群は、レム睡眠と覚醒(waking)とレム睡眠に先 行した活動上昇を示すことから、W/REM-on ニューロンと呼ばれる。これらの事実から、 PPN ニューロンは、レム睡眠の発現・維持に関与するといえる。REM-on ニューロンの一 部は下行性に投射してレム睡眠中の筋弛緩を引き起こし、W/REM-on ニューロンは、上行 性に投射してレム睡眠や覚醒時の脳波の脱同期に関与すると考えられる。 このほか、PPN には PGO 波に同期してバースト発火するニューロン(PGO-on ニュー ロン)が存在する。PGO 波とは、レム睡眠中に橋(pons)、外側膝状体(lateral geniculate)、 後頭葉(occipital cortex)に発生する集合電位で、その名称は、これらの部位の頭文字に由 来する。PGO 波によって、視覚刺激なしに視覚経路(外側膝状体―視覚野)が活性化され ることから、PGO 波が夢の発現に関与していると考えられている。 PGO-on ニューロンは、レム睡眠中のヒスタミンやノルアドレナリンの投与によって、持 続的(tonic)な発火頻度の上昇を示す。このとき、PGO 波に同期したバースト発火は見ら れなくなる。覚醒時にアセチルコリンやそのアゴニストのカルバコールによって PGO-on ニューロンの活動を抑制すると、PGO-on ニューロンは、バースト発火しやすくなる。以上 の結果から、PGO 波の発生メカニズムを基に、PPN への臨床的アプローチについて、基礎 科学の立場から考察する。
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