欧州文化首都 ~グラーツ

欧州文化首都
~グラーツ~
「真のヨーロッパ統合には、お互いのアイデ
確かに赤屋根は綺麗だが、だから文化首都と
ンティティーとも言うべき、文化の相互理解が
不可欠である」というギリシャ文化大臣メリ
いうのでは説得力が……。世界的な文化遺産と
ナ・メルクーリの提唱により、1985年から EU
か、著名な文化人、あるいは歴史の長いフェス
ティバルなど、分かりやすい答えを期待してい
(欧州連合)の「欧州文化首都」事業が始まっ
た。
「多様な文化の育成」
「文化遺産への共通認
た私はどうも腑に落ちない。
しかし、彼の言葉を噛みしめながら街を歩
識」
「欧州文化への市民の理解」という目的に
沿って EU 加盟国の文化閣僚会議が1都市を選
き、さらに丘の上から眺めるとその真意が見え
てくる(写真)。赤屋根の美しさとは、つまり
び、年間を通して様々な芸術文化行事を催して
いる。
2000年以降は複数の都市や EU 外から指定さ
歴史的な建物や街並みが魅力的に維持されてい
れることもある。当初はアテネ(1985年)や
丘から見えるのは赤屋根だけではない。ひと
きわ異彩を放つのがムアー川沿いのクンストハ
ウスだ(写真)
。文化首都指定に合わせ2003年
に建てられたこの美術館は、丸いフォームとガ
フィレンツェ(1986年)のように、欧州の名だ
たる文化都市が多く指定されたが、観光客誘致
の効果が高いことから、地域活性化の期待を込
め、文化的知名度が比較的低い都市の立候補も
増えている。
オーストリア第2の都市グラーツ(人口25
万)が指定を受けたのは2003年。中心市街地は
歴史地区としてすでに世界遺産登録され(1999
年)
、オーストリア最古の博物館が建つなど文
化の香り高い古都である。ウィーンを差し置い
た同国初の選出だから文化水準は推して知るべ
しだが、特にどういった点が評価されたのか。
市の観光事務所職員に尋ねたところ、返って
きた答えは「古都の綺麗な赤屋根です」
。
丘からの眺め
る証し。下から見ても上から見ても美しいとい
う自負の表れであろう。
ラス張りの外観が巨大な貝を連想させる。
伝統の街並みに前衛的な建物を建てるのは勇
気がいる。歴史とモダンを調和させるのに卓越
したセンスが求められるからだ。挑戦といえば
聞こえはいいが、どれほど周到に計画しても、
成功するかどうか判らない賭けの要素が必ず残
る。それでもグラーツは調和のなかにあえて緊
張感を作る冒険に出た。そして都市の新しい脈
動を生むことに成功している。
参照:EU・ジャパンフェスト日本委員会ウェブサイト
(在独ジャーナリスト 松田 雅央)
クンストハウス(美術館)
日経研月報 2012.2
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